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東京地方裁判所 平成9年(ワ)12557号 判決 2000年3月17日

原告

有限会社クリーン・パック

右代表者取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

佐藤泰正

阿部泰典

飯田丘

鈴木正勇

右補佐人弁理士

【B】

被告

総合商社ヒラヤ株式会社

右代表者代表取締役

【C】

被告

株式会社シティーボーイ

右代表者代表取締役

【D】

被告

【D】

右三名訴訟代理人弁護士

横山弘

右補佐人弁理士

【E】

主文

一  被告株式会社シティーボーイは、別紙目録(一)記載の方法を使用してはならない。

二  被告株式会社シティーボーイ及び被告【D】は、原告に対し、各自、金一三七万二六七七円及び別紙遅延損害金目録記載の各金額に対する別紙遅延損害金目録記載の各年月日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の六分の一と被告株式会社シティーボーイに生じた費用の二分の一を被告株式会社シティーボーイの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告株式会社シティーボーイに生じた費用の二分の一並びに被告総合商社ヒラヤ株式会社及び被告【D】に生じた費用の全部を原告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、別紙目録(一)記載の方法を使用してはならない。

二  被告らは、別紙目録(二)記載の物件を製造し、販売してはならない。

三  被告らは、原告に対し、各自、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年八月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、衣類又は寝具の真空パック方法についての特許権を有する原告が、被告らの行う真空パック方法が右特許権を侵害し、右方法に使用する物件は右特許権の実施にのみ使用するものであるなどと主張して、被告らに対し、右方法及び右物件の製造販売の差止め並びに損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その請求項1の発明を「本件発明」という。)を有している(甲一の二、弁論の全趣旨)。

発明の名称 衣類又は寝具の真空パック方法及び真空パック用収納袋

特許番号 第二一二〇八一三号

出願日 平成元年四月二八日

公告日 平成八年三月一三日

登録日 平成八年一二月二〇日

特許請求の範囲の請求項1

本判決の末尾に添付した特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおり

2  本件発明の構成要件は次のように分説することができる(甲一の二。以下「構成要件A」などという。)。

A 開口2及び排気口を備えた仮袋1内に前記開口2より衣類又は寝具を収納し

B この開口2を封止し

C その後、前記排気口より前記仮袋1内部の空気を排気減圧し

D 前記仮袋全体を開口・及び排気口を備えた保管袋・内に前記開口・より収納し

E 前記開口・を封止し

F 前記保管袋の排気口より排気減圧する

G 右AないしFの工程からなることを特徴とする衣類又は寝具の真空パック方法

3  被告株式会社シティーボーイ(以下「被告シティーボーイ」という。)は、平成二年ころから、別紙目録(一)記載の方法(以下「イ号方法」という。)を使用して、自ら、衣類、寝具等の真空パックを行ってきた。また、被告シティーボーイは、同被告と契約した加盟店又はサービス店に対して、衣類、寝具等の真空パックを実施するのに必要な別紙目録(二)記載の物件(以下「ロ号物件」という。)を含む物品を販売し、加盟店又はサービス店は、イ号方法を使用して、衣類、寝具等の真空パックを行ってきた(甲二、三、五、六、甲七の一ないし三、甲八、甲九の一ないし四、甲一〇の一、二、甲一一の一、二、甲一二の一、二、検甲一、乙七の一、二、乙一九、乙二五の一、二、弁論の全趣旨)。

4  イ号方法の構成は次のように分説することができる(以下「構成a」などという。)。

a 開口の一部が排気口を兼ねる開口を備えた仮袋内に前記開口より衣類又は寝具を収納し

b この開口のうち排気口として使用する部分を残し、封止し

c その後、前記排気口より前記仮袋内部の空気を排気減圧し、

d 前記仮袋全体を開口の一部が排気口を兼ねる開口を備えた保管袋内に前記開口より収納し

e 前記開口のうち排気口として使用する部分を残し、封止し

f 前記保管袋の排気口より排気減圧する

g 右aないしfの工程からなることを特徴とする衣類又は寝具の真空パック方法

5  原告は、本件特許を実施して、衣類、寝具等の真空パックを行う事業を行ってきた(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  イ号方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうか

(原告の主張)

(一) イ号方法の構成aと本件発明の構成要件A

構成aでは、仮袋の開口の一部が排気口を兼ねるのに対して、構成要件Aにはそのような記載がないが、その他の点は同じである。

構成要件Aで仮袋に排気口を備えることが要件になっているのは、仮袋に衣類等を収納し、開口を封止した後、仮袋内の空気を排気減圧するためであって、仮袋の一部に空気を排気することができる口があればよい。

そのような排気口は開口と別個に備えなければならないものではないから、構成aの仮袋の開口の一部が排気口を兼ねるものも、構成要件Aの排気口から除外する理由はない。

したがって、構成aは構成要件Aを充足する。

(二) イ号方法の構成bと本件発明の構成要件B

構成bは開口の一部を封止していないのに対して、構成要件Bでは開口すべてを封止している点で異なっているが、イ号方法は開口の一部が排気口を兼ねるものであり、構成bで封止しなかった部分は排気口であるから、衣類等を収納するための開口については、すべて封止したということができる。

したがって、構成bは構成要件Bを充足する。

(三) イ号方法の構成cと本件発明の構成要件C

構成cと構成要件Cは同じである。

(四) イ号方法の構成dと本件発明の構成要件D

構成dでは保管袋の開口の一部が排気口を兼ねるのに対して、構成要件Dではその旨の記載がない点が異なっているが、その他の点は同じである。

仮袋において前述したのと同様に、構成要件Dの保管袋の排気口は、開口と兼ねるものを排除するものではないから、構成dの保管袋の開口の一部を排気口とする場合も含まれる。

したがって、構成dは構成要件Dを充足する。

(五) イ号方法の構成eと本件発明の構成要件E

構成eでは、開口の一部を封止していないのに対して、構成要件Eでは開口すべてを封止している点で異なっているが、仮袋において前述したように、イ号方法は開口の一部が排気口を兼ねるものであり、構成eで封止しなかった部分は排気口であるから、衣類等を収納するための開口についてはすべて封止したということができる。

したがって、構成eは構成要件Eを充足する。

(六) イ号方法の構成fと本件発明の構成要件F

構成fと構成要件Fは同じである。

(七) イ号方法の構成gと本件発明の構成要件G

構成gと構成要件Gは同じである。

(八) 以上のように、イ号方法は、本件発明の構成要件すべてを充足するから、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属するということができる。

(被告らの主張)

二重パックを実施すること自体は、本件特許権の出願当時、既に公知であり(実開昭五一─三五四二〇、特公平七─一一五六八八、実開昭五九─一六八三八七)、本件発明の構成要件A及び同Dの仮袋及び保管袋は、開口部とは別にチューブ状の排気口を備えたものに限定される。

しかるところ、イ号方法は、右のような仮袋や保管袋を使用せず、開口の一部が排気口を兼ねている袋を使用するパック方法であり、開口と別に排気口を備えたものではないから、イ号方法は本件発明の構成要件A、同C、同D及び同Fを充足しない。

したがって、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属するものではない。

2  ロ号物件を販売する行為は、本件特許権を侵害するものとみなされるかどうか

(原告の主張)

ロ号物件は、商業的、経済的に実用性がある用途として、イ号方法以外の用途に使用することは考えられないから、ロ号物件を販売する行為は、本件特許権を侵害するものとみなされる。

(被告らの主張)

ロ号物件は、一重パックにも使用できるので、二重パックである本件発明の実施にのみ使用するものとはいえない。

3  原告の損害

(原告の主張)

(一) 被告らによる実施行為

(1) 本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間におけるイ号方法の実施による被告らの売上げは、一二〇〇万円を下ることはなく、利益率は七〇パーセントを下らないから、イ号方法の実施によって被告らが得た利益額は、少なくとも八四〇万円であり、これが、被告ら自身によるイ号方法の実施によって、原告が被った損害額である。

仮に右利益額が損害額と認められないとしても、本件特許権の実施料相当額は売上金額の三〇パーセントを下回ることはないから、原告は、少なくとも実施料相当額である三六〇万円の損害を被った。

(2) 右(1)とは別に、被告らは、本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間に、イ号方法を使用して、少なくとも四万セットの真空パックセットを製作、販売している。右セットの売上単価は二〇〇〇円であり、利益率は七〇パーセントを下らないから、利益総額は(二〇〇〇円×○・七×四万セット=)五六〇〇万円となり、これが右セットの製作において被告らがイ号方法を使用したことにより原告が被った損害額である。

仮に右利益額が損害額と認められなかったとしても、本件特許権の実施料相当額は売上金額の三〇パーセントを下回ることはないから、原告は、少なくとも実施料相当額である二四〇〇万円の損害を被った。

(二) サービス店を通じての実施行為

被告らは、サービス店と一体となってイ号方法を実施しているところ、サービス店の数は二〇店を下らない。

本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの、サービス店一店当たりのイ号方法実施による売上金額は、四〇〇万円を下ることはない。売上総額は(四○○万円×二〇店=)八〇〇〇万円であり、その利益率は七〇パーセントであるから、利益額は(五六〇〇万円×○・七=)五六〇〇万円である。したがって、右金額がサービス店を通じての被告らによるイ号方法の実施によって、原告が被った損害額である。

仮に右利益額が損害額と認められなかったとしても、本件特許権の実施料相当額は売上金額の三〇パーセントを下回ることはないから、原告は、少なくとも実施料相当額である二四〇〇万円の損害を被った。

(三) 原告は、本件特許権侵害訴訟に関して弁護士に訴訟を委任したものであるが、日本弁護士連合会報酬基準による弁護士報酬額は五〇〇万円を下ることはない。右弁護士報酬額は被告らによるイ号方法の実施行為と相当因果関係にある原告の損害である。

(四) 原告は右(一)ないし(三)の損害賠償請求の内金として金五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年八月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告らの主張)

原告の主張は、いずれも否認する。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲一の二)によると、本件公報には、発明の詳細な説明として、次のような記載があることが認められる(括弧内には本件公報中の位置を示した。)。

(一) 発明が解決しようとする課題

「本発明の目的は・・・、衣類又は寝具について経済的にこれらの保管スペースを小さくし、且つ虫、湿気、かび等による損傷の恐れを除いた保管収納方法を提供し、更には運搬等にあたってその簡便な取扱い方法を提供することにある。」(二頁左欄三一行目から三五行目)

(二) 課題を解決するための手段及び作用

「衣類又は寝具を収納するための開口2及び前記開口2を封止後内部の空気を排気減圧するための排気口を備え、衣類又は寝具を収納するに足りる寸法の・・・仮袋1と、

衣類又は寝具を収納し、排気減圧した前記仮袋1を収納可能な寸法の袋であり、前記仮袋1を収納するための開口・及び前記開口・を封止後内部の空気を排気減圧するための排気口を備えた・・・保管袋・からなる衣類又は寝具の真空パック用収納袋。」(二頁左欄最終行から同右欄八行目)

(三) 実施例

「図面を参照しながら本発明に係る真空パック方法の実施例について説明する。

第1図は本発明に使用する仮袋である熱可塑性樹脂(ポリエチレン)製の補助大袋1及び保管袋である保管小袋・の構造を示す略図である。補助大袋は厚み0.05~0.1㎜の単層のポリエチレン袋から成る本体を有し一辺には開口2が設けられ、他の辺に続く隅部にはやはりポリエチレン製のチューブの短管から成る排気口3が、加熱接着により袋本体に設けられている。」(二頁右欄四〇行目から四八行目)

(四) 発明の効果

「本発明の方法において、衣類や寝具の保管に際し、一旦安価な仮袋に収納し、これを真空引きし、縮小後全体を長期保管に適する保管袋に収納し、更にこれを真空引きした後排気口を閉止するとした構成により、衣類や寝具のサイズの縮小のみならず、虫、湿気、かび等による損傷のおそれのない真空保管が可能となり、その上高価な長期保管用の保管袋或いは運搬用の袋のサイズを極めて小さくすることができたので、衣類又は寝具の、経済的で損傷の心配のない長期又は短期の保管及び簡便な取扱いが可能となった。」(三頁右欄二九行目から三八行目)

2  前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)1によると、本件特許権の特許請求の範囲において、開口及び排気口の位置、大きさ、形状、構造などについて特定する記載は存在しない。

3  右1及び前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)2によると、本件発明の構成要件AないしCにいう仮袋の「開口」とは、衣類又は寝具を収納するために仮袋に設けられた口であり、構成要件DないしFにいう保管袋の「開口」とは、衣類又は寝具を収納し排気減圧した仮袋を収納するために保管袋に設けられた口であり、構成要件A、C、D及びFにいう「排気口」とは、開口封止後に仮袋又は保管袋内部の空気を排気減圧するための口であると認められる。

このことに右2の事実を総合すると、本件発明の構成要件における「開口」及び「排気口」は、右のような各目的を達成するために仮袋又は保管袋に設けられた口であるということができるが、その具体的な構造は何ら限定されていないということができる。

4  被告らは、公知技術(実開昭五一─三五四二〇、特公平七─一一五六八八、実開昭五九─一六八三八七)を考慮すると、本件発明の仮袋及び保管袋は、開口部とは別にチューブ状の排気口を備えたもの(右1(三)記載のようなもの)に限定される旨主張するが、証拠(乙一五、乙二二の一、二、乙二三)によると、次のとおり、被告らの主張は採用できない。

(一) 乙一五について

同号証(本判決末尾に添付の実開昭五一─三五四二〇参照。)の考案は、種類の異なる複数枚の合成樹脂シートを積層して一枚の収納袋を形成したことを特徴とするものであり、二重に真空パックすることについては何ら開示されていないから、同号証によって、本件特許の出願当時、二重に真空パックすることが公知であったとはいえない。

(二) 乙二二の一及び二について

同号証の発明の公開日は、本件特許の出願日よりも後の平成三年九月二日であるから、被告らの主張は前提を欠き、失当である。

(三) 乙二三について

同号証(本判決末尾に添付の実開昭五九─一六八三八七参照。)の考案は、「温風供給装置からの温風の圧力によりふくらむと共に、温風が適度に通過するように形成された開閉自在の外袋と、該外袋よりも通気性が大きく、座布団等を入れて外袋内に収納される開閉自在の内袋を具備し、前記外袋と内袋との間に温風の通路となる空間部を形成したことを特徴とする座布団等の収納袋」についてのものであり、内袋も外袋も温風が通過できるものであることが明らかであるから、右考案の収納袋によって真空パックを行うことは不可能である。

したがって、右考案の存在によって、本件特許の出願当時において、二重に真空パックすることが公知であったとはいえない。

(四) 以上のとおり、本件発明が本件特許の出願当時公知であったとは認められないから、本件発明を被告が主張するように限定して解釈する理由はない。

5  以上述べたところを前提としてイ号方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうかを判断する。

(一) イ号方法の構成aと本件発明の構成要件A

構成aの仮袋の開口は、衣類又は寝具を収納するために仮袋に設けられた口であるから、構成要件Aにいう仮袋の「開口」に当たる。また、構成aの仮袋は、開口の一部が、後記(二)の開口封止後に仮袋内部の空気を排気減圧するための口を兼ねているから、構成要件Aにいう仮袋の「排気口」を備えている。

構成aのその余の点は、構成要件Aと同じであるから、構成aは構成要件Aを充足する。

(二) イ号方法の構成bと本件発明の構成要件B

構成bにおいては、開口のうち排気口として使用する部分を除いた部分が封止されるが、封止された後の状態で、仮袋内に衣類又は寝具を収納することはできないのであるから、衣類又は寝具を収納するための「開口」は封止されたということができる。

したがって、構成bは構成要件Bを充足する。

(三) イ号方法の構成cと本件発明の構成要件C

構成cと構成要件Cは同一である。

(四) イ号方法の構成dと本件発明の構成要件D

構成dにいう保管袋の開口は、衣類又は寝具を収納し排気減圧した仮袋を収納するために保管袋に設けられた口であるから、構成要件Dにいう保管袋の開口に当たる。また、構成dの保管袋は、開口の一部が、後記(五)の開口封止後に保管袋内部の空気を排気減圧するための口を兼ねているから、構成要件Dにいう保管袋の「排気口」を備えている。

構成dのその余の点は、構成要件Dと同じであるから、構成dは構成要件Dを充足する。

(五) イ号方法の構成eと本件発明の構成要件E

構成eにおいては、開口のうち排気口として使用する部分を除いた部分が封止されるが、封止された後の状態で、保管袋内に衣類又は寝具を収納し排気減圧した仮袋を収納することはできないのであるから、この仮袋を収納するための「開口」は封止されたということができる。

したがって、構成eは構成要件Eを充足する。

(六) イ号方法の構成fと本件発明の構成要件F

構成fと構成要件Fは同一である。

(七) イ号方法の構成gと本件発明の構成要件G

右(一)ないし(六)によると、構成aないしfはそれぞれ構成要件AないしGを充足し、イ号方法も本件発明も衣類又は寝具の真空パック方法であるから、構成gは構成要件Gを充足する。

(八) 以上のとおり、イ号方法の構成は本件発明の構成要件をいずれも充足するから、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属する。

6  前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3の事実に、証拠(甲六、一三、一四、甲一五の一ないし六)と弁論の全趣旨を総合すると、被告シティーボーイは、自ら、イ号方法を用いて衣類及び寝具を真空パックするほか、「防災セット」と称する防災用品の真空パックセット(以下「防災セット」という。)を製作販売していること、防災セットは、寝袋、タオル、軍手、下着、ウェットティッシュ、カイロ、三角きん、携帯バケツ等を、イ号方法によって真空パックし、救急セットとともにリュックに収納したものであること、以上の事実が認められる。

なお、防災セットには、内容物に寝具又は衣類以外のものが含まれているが、内容物に寝具及び衣類が含まれている以上、その真空パックの方法は、イ号方法に該当し、本件発明の技術的範囲に属するということができる。

二  争点2について

1  ロ号物件は、真空パック用の仮袋、保管袋及び真空パック装置からなるところ、証拠(甲三、乙八ないし一〇、一二、乙三五、乙三六の一、二、乙三七、三八、検乙一ないし四)と弁論の全趣旨によると、これらの物件のうち、保管袋と真空パック装置を使用して一重の真空パックが行われることがあること、これらの物件すべてを使用して、書類について二重の真空パックが行われることがあること、以上の事実が認められる。

2  右1の各証拠と弁論の全趣旨によると、一重の真空パックであっても、保管条件等によっては、全く支障がないものと認められる。また、証拠(乙八、九、一二)によると、書類は、真空パックすることによって体積が小さくなるものと認められるから、書類を二重の真空パックにすることにより、大きな保管袋を必要としないという効果を奏するものと認められる。

3  したがって、ロ号物件には、一重の真空パック、書類の二重の真空パックといった他の実用的な用途が存するものと認められるから、ロ号物件は、本件発明の実施以外に実用的な用途が存するものということができる。

よって、ロ号物件は本件発明の実施のみに使用されるものとは認められないから、原告の間接侵害の主張は理由がない。

三  争点3について

1(一)  証拠(乙二六の一ないし八、乙二七の一ないし四、乙二八の一ないし四、乙二九の一ないし五)と弁論の全趣旨によると、被告シティーボーイが、自ら衣類又は寝具の真空パックを行ったことによる、平成八年八月から同一一年四月までの間における、防災用品を入れた真空パックセットを除く売上げは、別紙被告売上計算表(1)記載のとおりであり、右期間における防災用品を入れた真空パックセットの売上げは、別紙被告売上計算表(2)記載のとおり(単価は、平成八年九月二五日のものが八五〇〇円、平成一〇年九月二一日のものが一〇九〇〇円)であると認められる。

なお、被告らは、乙二九の一ないし五は、サービス店が行った真空パックに関するものである旨主張するが、いずれも被告シティーボーイ名義の納品書の控えである上、乙二九の二は、被告らが被告シティーボーイが自ら実施した真空パックに関する証拠として提出した乙二六の八と同じ納品書の控えであるから、被告らの右主張は信用できない。

(二)  右(一)の各証拠には、一重の真空パックであるか、二重の真空パックであるかの記載がないが、右(一)認定の事実に証拠(甲二、三、八)と弁論の全趣旨を総合すると、被告シティーボーイは、同被告が行っている真空パックは二重の真空パックである旨の宣伝広告を行っていたこと、被告売上計算表(1)記載の対象物件の多くは、布団や毛布など、真空パックをすることによって体積が大きく変化するもので、二重の真空パックを行うのに適するものであること、以上の事実が認められるから、被告売上計算表(1)記載のものは、反証がない限り、二重の真空パックを行ったものと推認されるところ、反証は存しない。そして、以上述べたところに、前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3の事実を総合すると、被告売上計算表(1)記載のものは、被告シティーボーイが自らイ号方法を実施したものと認められる。

本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間において、被告シティーボーイが、右認定のもの以外に、自らイ号方法を実施した事実(防災用品を入れた真空パックセットを除く。)を認めるに足りる証拠はない。

(三)  証拠(甲六、一三、一四)と弁論の全趣旨によると、平成一〇年八月二七日の新聞には、被告シティーボーイは、防災用品を入れた二重の真空パックセットを製作、販売している旨の記載があること、防災用品を入れた真空パックセットに入れられるものは、寝袋を初めとして、二重の真空パックに適するものが多くあること、以上の事実が認められるから、被告売上計算表(2)記載のものは、いずれも、反証がない限り、二重の真空パックを行ったものと推認されるところ、反証は存しない。そして、以上述べたところに、前記一6の事実を総合すると、被告売上計算表(2)記載のものは、被告シティーボーイがイ号方法を実施して製作、販売したもの(前記一6の防災セット)であると認められる。

右新聞には、右の防災用品を入れた二重の真空パックセットが三年間で五万セット以上売れた旨の記載があるが、それを裏付ける証拠は全くないから、右の記載を直ちに信用することはできない。

他に、本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間において、被告シティーボーイが、右認定の二件以外に、イ号方法を実施して、防災用品の真空パックセット(前記一6の防災セット)を製作し、販売した事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  原告は、被告らは、サービス店と一体となってイ号方法を実施しているとして、サービス店がイ号方法を実施したことによる損害について請求している。前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3のとおり、被告シティーボーイと契約した加盟店又はサービス店が存することが認められるが、それらの加盟店又はサービス店がイ号方法を実施した件数やその売上額を認めるに足りる証拠はない。

2 そこで、右1(二)及び(三)のとおり被告シティーボーイがイ号方法を実施して得た利益の額について判断する。

(一)  右1(二)の場合(防災セット以外の場合)について

証拠(甲三、乙一九)によると、被告シティーボーイが出した、加盟店及びサービス店契約の案内には、七割は利益として計上することができるとの記載があること、被告シティーボーイ代表者兼被告【D】の陳述書には、真空パック作業による利益は七割程度であるとの記載があること、以上の事実が認められ、以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告シティーボーイがイ号方法を実施して得る利益の額は、売上額の七〇パーセントを下回らないものと認められる。

被告は、アルバイトに支払った賃金、交通通信費、書類作成費等を、イ号方法を実施するための経費とみるべきである旨主張するが、証拠(甲三、乙一九)と弁論の全趣旨によると、右の七〇パーセントの利益は、これらの経費を考慮した後における利益であると認められるから、売上額の七〇パーセントから、更にこれらの経費を控除する必要があるとは認められない。

また、被告は、ロ号物件の開発費や特許取得費もイ号方法を実施するための経費とみるべきである旨主張するが、同種の事業を営んでいる原告において、自ら行った実施に加えて、右1(二)で認定した実施を行うために、これらの経費が必要であるとは認められないから、これらの経費についても控除する必要があるとは認められない。

そうすると、被告シティーボーイが右1(二)のとおりイ号方法を実施して得た利益の額は、右1(二)認定の売上額一一〇万二三一二円に〇・七を乗じた七七万一六一八円であると認められる。

(二)  右1(三)の場合(防災セットの場合)について

証拠(乙六の一、二)によると、被告シティーボーイが、布団一組について二重の真空パックを行う際の標準的な価格は一セット当たり四〇〇〇円であると認められ、この事実に、前記一6認定に係る防災セットの構成及び右1(一)認定の単価を総合すると、防災セットの売上げのうち、少なくとも五〇パーセントは、イ号方法の実施によるものであると認められる。

イ号方法の実施による利益の額は、右(一)認定のとおり七〇パーセントを下回らないと認められるから、被告が右1(三)のとおりイ号方法を実施して得た利益の額は、右1(三)認定の売上額二八万八七四〇円に〇・五と〇・七を乗じた一〇万一〇五九円であると認められる。

(三)  以上の利益の額の合計は、八七万二六七七円となり、これは、原告が本件特許権の侵害によって被った損害であると推定される。

3 被告シティーボーイは、原告が本件特許権の侵害によって被った右損害を賠償すべき責任がある。

被告【D】が個人としてイ号方法を実施していたことを認めるに足りる証拠はないが、同被告は、被告シティーボーイの代表者としてイ号方法を実施していたのであるから、被告シティーボーイとともに、原告が本件特許権の侵害によって被った損害を賠償すべき責任がある。

被告総合商社ヒラヤ株式会社がイ号方法を実施したことを認めるに足りる証拠はない。

4 弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟を提起するに当たり弁護士に訴訟追行を委任したものと認められるところ、本件の事案の内容、訴訟の経緯等の事情を考慮すると、本件特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用として、五〇万円を認めるのが相当である。

四  まとめ

以上の次第で、本件請求は、被告株式会社シティーボーイに対する別紙目録(一)記載の方法の使用の差止め、被告株式会社シティーボーイ及び被告【D】に対する金一三七万二六七七円及び別紙遅延損害金目録記載の各金額に対する別紙遅延損害金目録記載の各年月日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、認容し、その余の請求は、いずれも理由がないので棄却することとする。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)

<以下省略>

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