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東京地方裁判所 平成9年(ワ)13111号 判決 1998年10月15日

原告 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 田口和幸

村上寛

被告 Y1

被告 Y2

右訴訟代理人弁護士 佐藤孝一

被告 Y3

右訴訟代理人弁護士 田淵智久

右訴訟復代理人弁護士 河本茂行

主文

一  被告Y1は、原告に対し、金一億七三三八万五二〇六円及び内金九七六五万一九九〇円に対する平成七年九月二三日から支払済みまで年一四パーセント(年三六五日の日割り計算)の割合による金員を支払え。

二  被告Y2は、原告に対し、金八八四〇万三一六二円及び内金五〇五三万六五五五円に対する平成七年九月二三日から支払済みまで年一四パーセント(年三六五日の日割り計算)の割合による金員を支払え。

三  被告Y3は、原告に対し、金八八四一万五二二二円及び内金五〇五四万八六一五円に対する平成七年九月二三日から支払済みまで年一四パーセント(年三六五日の日割り計算)の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、被告らの負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告ら

請求棄却

二  事案の概要

1  本件は、原告が銀行取引約定書に基づき日本液晶株式会社に融資したとする貸金の連帯保証人(同社の代表者)の相続人である被告らに対し、連帯保証債務の履行を求めた事件である。被告らは、同社代表者の当時の病状に照らし貸金債務の成立に疑問を呈するとともに、被告らに対する請求は権利の濫用である、消滅時効が成立するなどと主張している。

本件における主要な争点は、最後の点、具体的には、複数の債権額の合計額が根抵当権の極度額を超える場合において、請求債権・被担保債権の表示として、債権全部を記載した上、極度額の範囲で根抵当権実行の申立てがされたときに、右極度額を超える部分についても消滅時効が中断すると解すべきか、という問題である。

2  基本的事実関係(証拠の摘示のない事実は争いのない事実である。)

(一)  原告は、昭和六二年二月二日、日本液晶株式会社(代表者・B)との間で銀行取引約定書(その内容は、概要次のとおりである。なお、甲二号証の保証約定書により連帯保証人にも適用される。)を交わし、Bは、同日、原告との間で、日本液晶が右約定書に基いて現在及び将来負担する一切の債務について連帯保証をした(甲一、二号証、弁論の全趣旨)。

(1) 〔適用範囲〕手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾、外国為替その他一切の取引に関して生じた債務の履行

(2) 〔手形と借入金債務〕手形によって貸付けを受けた場合は、手形又は貸付債権のいずれによっても請求できる。

(3) 〔利息・損害金等〕利息、割引料、保証料、手数料、これらの戻し割合、支払の時期、方法の約定は、金融情勢の変化その他相当の事由のある場合には、一般に行われる程度のものに変更される。

(4) 〔差引計算〕期限の到来、期限の利益の喪失、買戻債務の発生その他の事由によって原告に対する債務を履行しなければならない場合には、その債務と日本液晶の預金その他の債権とを、その債権の期限の如何にかかわらず、原告はいつでも相殺することができる。この場合、原告は、事前の通知及び所定の手続を省略し、債務者に代わり預け金の払戻を受け、債務の弁済に充当できる。また、債権債務の利息、割引料、損害金等の計算については、その計算を差引計算実行の日までとし、利率、料率については原告の計算実行時の相場を適用する。

(5) 〔弁済の充当〕弁済又は差引計算の場合、日本液晶の債務全体を消滅するに足りないときは、原告が適当と認める順序方法により充当することができる。

(二)  原告は、日本液晶に対して次のとおり金員を貸し付けた(甲三号証ないし七号証、一七号証、弁論の全趣旨。この認定の根拠については後述する。)。

(1) 昭和六三年一〇月二九日 五〇〇〇万円(以下「貸付1」という。)

a 利息 年六・四パーセント(年三六五日の日割計算、平成元年七月三日以降年六・七パーセント、同年一一月一日以降年六・九パーセント、同年一二月一日以降年七・二パーセント)

b 損害金 年一四パーセント(年三六五日の日割り計算)

c 弁済期及び弁済方法 平成元年三月二八日を第一回弁済期とし、以後平成三年八月まで毎月二八日に一〇〇万円、同年九月二八日に二〇〇〇万円を支払う。

d 利息の支払時期 借入日にその日から翌月二八日までの利息を支払い、以後毎月二八日に一か月分の利息を前払いする。

(2) 平成元年二月二三日 三〇〇〇万円(以下「貸付2」という。)

a 利息、損害金、利息の支払時期 貸付1に同じ

b 弁済期及び弁済方法 平成元年六月二八日を第一回弁済期とし、以後平成三年一月まで毎月二八日に一五〇万円を支払う。

(3) 平成元年二月二三日 一五〇〇万円(以下「貸付3」という。)

a 利息、損害金、利息の支払時期 貸付1に同じ

b 弁済期及び弁済方法 平成元年六月二八日を第一回弁済期とし、以後平成三年一一月まで毎月二八日に五〇万円を支払う。

(4) 平成二年一月一〇日 一億二五〇〇万円(以下「貸付4」という。)

弁済期 平成二年四月一〇日(日本液晶は、貸付日を振出日、弁済期を満期日とする約束手形を振り出し、原告に交付した。)

(5) 平成二年一月三一日 一〇〇〇万円(以下「貸付5」という。)

弁済期 平成二年四月一〇日(日本液晶は、貸付日を振出日、弁済期を満期日とする約束手形を振り出し、原告に交付した。)

(三)  Bは、平成二年二月一四日に死亡し、同人の妻である被告Y1、同人の子である被告Y2及び同Y3が、相続により、それぞれ法定相続分に応じて、Bの負担していた貸付1ないし5に関する連帯保証債務を承継した。

(四)  原告は、平成五年二月五日、同日を計算実行の日として、日本液晶の原告に対する預金返還請求権八〇万一三七三円と貸付5に基づく貸金返還請求債権の元本債権とを対当額で相殺することとした。

また、原告は、平成七年九月二二日、同日を計算実行の日として、被告らが原告に対して有する次の各預金返還請求権と原告が各被告に対して有する連帯保証債務履行請求権(相殺部分は、貸付5に基づく貸金返還請求権の元本に相当する部分に充当した。)とを対当額で相殺することとした。

被告Y1 三四四万七三二三円

同 Y2 一万三一〇一円

同 Y3 一〇四一円

(右各相殺の結果、平成七年九月二二日の時点で被告らが原告に対して負担する連帯保証債務の金額は、原告の計算によると、別表6の3のとおり、被告Y1について一億七三三八万五二〇六円〔主債務の元本部分九七六五万一九九〇円利息部分二二九万四一二三円、同日までの確定遅延損害金部分七三四三万九〇九三円〕、同Y2については八八四〇万三一六二円〔主債務の元本部分五〇五三万六五五五円、利息部分一一四万七〇六一円、同日までの確定遅延損害金部分三六七一万九五四六円〕、同Y3については八八四一万五二二二円〔主債務の元本部分五〇五四万八六一五円、利息部分一一四万七〇六一円、同日までの確定遅延損害金部分三六七一万九五四六円〕となる。なお、被告らが相続したとされる各連帯保証債務の内容は、別表1ないし5記載のとおりである。)。(甲一七号証、弁論の全趣旨)

(五)  Bは、昭和六二年二月二日、その所有に係る別紙物件目録<省略>の土地(共有持分)及び区分所有建物(以下「本件不動産」という。)について、原告を権利者とし、日本液晶を債務者とする根抵当権(極度額五〇〇〇万円、債権の範囲・銀行取引、手形債権、小切手債権、以下「本件根抵当権」という。)を設定し、その登記をしていたところ、Bの死亡に伴い、被告Y1及び同Y2が相続により本件不動産の所有権(土地については各七三六分の一四、建物については各二分の一の共有持分)を取得した。(乙一号証の一、二)

(六)  原告は、本件根抵当権に基づいて、東京地方裁判所に対し、本件不動産の不動産競売の申立てをし(平成六年(ケ)第一〇一一号)、平成六年三月二二日、競売開始決定を得て、これが送達され、差押登記を経由した(以下「本件差押え」という。)。右競売開始決定には、「担保権」として、本件根抵当権(極度額五〇〇〇万円)、被担保債権および請求債権」として、「下記債権のうち極度額五〇〇〇万円の範囲」とした上、貸付1ないし5の債権の残元本、利息及び損害金の明細が記載されている。(甲九号証、乙一号証の一、二)

(七)  原告は、平成九年六月二六日、被告らに対し本件訴えを提起した。

3  争点に関する当事者の主張

(一)  原告

(本件請求について)

(1) 原告は、貸付1ないし5の債務の連帯保証人Bの相続人である各被告らに対し、前記各金員(被告Y1について、一億七三三八万五二〇六円〔残元本九七六五万一九九〇円〕、同Y2について、八八四〇万三一六二円〔残元本五〇五三万六五五五円〕、同Y3について、八八四一万五二二二円〔残元本五〇五四万八六一五円〕)及び内金である各残元本部分に対する平成七年九月二三日から各支払済みまで約定の年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張について)

(2) 貸付1ないし5は、日本液晶の代表者であるB本人が記名捺印した証書ないし約束手形によってされたものであり(貸付4、5当時もBは日本液晶の代表者として執務していた。)、いずれも有効に成立している。

なお、前記の銀行取引約定書の差引計算の規定により、原告が相殺する場合、債権債務の利息、損害金等の計算については、その期間を差引計算実行の日までとする旨が特約されているから、原告のした相殺の計算に誤りはない。

(3) 仮に、債権に対する保全が十分でなく、その回収が不能となる可能性があったとしても、そのことは、その支払請求の可否には何ら影響しない事情であって、その故に原告の被告らに対する請求が権利の濫用になることはありえない。また、当時、日本液晶は多数の特許権を保有しており、その引き合いも多かったため、原告は、その売却によって、債権の回収ができるものと判断していた。

(4) 原告は、本訴に至るまで、被告らと履行の交渉をし、また、担保不動産の競売申立ても行っており、本件の処理を放置していたことはないから、被告らに対する遅延損害金の請求が権利の濫用となる余地はない。

(5) 原告が、被告らに対し、本件各貸付に係る債権について本件不動産の競売手続により回収できない部分は請求しない旨合意したことはない。

(6) 原告は、本件不動産について、本件各貸付に係る債権全部を請求債権として不動産競売の申立てをしており、右債権の一部につき競売申立てをしたことはない。このことは、本件競売開始決定の請求債権として、本件各貸付に係る債権全部が記載されていることから明らかというべきである。右請求債権の「下記債権のうち極度額五〇〇〇万円の範囲」との記載は、請求債権のうち原告が優先弁済を受けることのできる範囲を示すものに過ぎず、請求債権を五〇〇〇万円に限定する一部請求を意味するものでないことはいうまでもない。したがって、本件各貸付に係る請求債権全額について消滅時効は中断しているものというべきであるから、五〇〇〇万円を超える部分についての消滅時効完成に関する被告らの主張は失当である。

(二)  被告ら

(1) 貸付4及び5の当時、Bはがんの末期症状のため危篤に近い状態であったのであるから、これが有効に成立したものかは疑わしい。

また、原告は、その主張の相殺時まで相殺前の元本に対する遅延損害金の計算をしているが、相殺の効果は相殺適状の発生時に遡及するので、相殺適状の発生時以後は、相殺後の元本残額に対して遅延損害金を計算すべきである。

(2) 日本液晶は、赤字を続けていた会社であり、特に、貸付4及び5の貸付が行われた当時、代表者であるBは、前記のとおり危篤に近い状態にあったのであるから、これらの貸金債権が回収不能となる可能性は極めて大きかったものである。しかるに、原告は、このような事実を認識しながら、格別の保全措置を講ずることなく、漫然と本件各貸付に及んだものであるから、これらが回収不能になったことについては重大な責任があり、その支払を相続人である被告らに請求することは、著しく信義に反し、権利の濫用として許されない。

(3) 原告は、今日に至るまで本件の処理を放置していたのであるから、被告らに対し、平成二年初めから今日まで年一四パーセントもの高率による遅延損害金の請求をすることは、著しく信義に反し、権利の濫用として許されない。

(4) 原告は、平成六年初め頃、被告らの代理人であった弁護士Cに対し、本件各貸付に係る債権については、本件不動産の競売手続のみによって回収し、これによって回収できない分について被告らには請求しない旨約束したから、原告の請求は失当である。

(5) 原告によって本件不動産に対してされた不動産競売申立てに基づく本件差押えの請求債権の表示は前記のとおりであって、本件各貸付に係る債権全部を表示した上、そのうちの極度額である五〇〇〇万円を請求債権と表示してされた一部請求と解されるから、本件差押えによる時効中断の効力は、この五〇〇〇万円の限度で生じたにとどまり、右金額を超える額については生じないものというべきである(根抵当権の極度額は、第三者に対する優先弁済権の限度であるだけでなく、目的物の責任の限度であり、換価権能の限度でもあるから、極度額を超えて根抵当権の被担保債権が存在する場合でも、極度額を超える競売代金は根抵当権者には配当されず、設定者に交付されるのである。このことは、差押えの効力が極度額の限度でしか生じないことを明白に示している。)。

したがって、本件各貸付に係る債権の消滅時効期間は五年であるから、仮に、各貸付がされたとしても、被告ら三名に対して合計五〇〇〇万円を超える部分(被告Y1につき二五〇〇万円、同Y2及び同Y3については各一二五〇万円を超える部分)については、各弁済期(期限の利益喪失日)の翌日から五年を経過した時点において、各債権は時効により消滅したものというべきである。

被告らは、本訴において右消滅時効を援用する。

三  当裁判所の判断

1  事実関係の補充(本件貸付の成立について)

甲三号証ないし七号証に押捺された日本液晶の会社記名印及び代表者Bの記名印並に会社代表者印が、いずれも真正な日本液晶の会社記名印及び代表者Bの記名印並に会社代表者印によって顕出されたものであることは当事者間に争いがないから、これらの書証は真正に成立したものと推定されることに加え、甲一七号証(原告銀行の担当者D作成の陳述書)の記載内容及び弁論の全趣旨を総合すると、前記のとおり、原告から日本液晶に対する貸付1ないし5がされた事実を認めることができる。

被告らは、貸付4及び5の当時、Bはがんの末期症状のため危篤に近い状態であったとして、その成立に疑問を呈するが、前記甲一七号証に照らすと、Bの病状も、右各貸付の有効な成立を妨げるものでないと判断するのが相当である。乙八号証の一、九号証も右判断を左右するものとはいえない。

そして、その後、Bが死亡し、相続により、被告らが同人の負担していた連帯保証債務を法定相続分に応じて承継し、その間、原告が日本液晶及び被告らの有する預金債権と本件各貸付債権との差引き計算を行ったことは前記のとおりであって、甲一七号証によれば、その結果として、被告らがそれぞれ原告に対し、原告主張のとおりの連帯保証債務(その計算関係は、別表1ないし6<省略>のとおり)を負担していることを認めることができる。

被告らは、原告が、その主張の相殺時まで相殺前の元本に対する遅延損害金の計算をしていることを非難するが、前記の銀行取引約定書の差引計算の規定において、原告が相殺する場合、債権債務の利息、損害金等の計算については、その期間を差引計算実行の日までとする旨が特約されていることは前記のとおりであるから、原告のする相殺の計算に誤りはないものというべきである。

2  以上の事実関係に基いて、その他の被告の主張の当否につき、順次判断する。

(一)  被告らは、日本液晶の赤字経営、当時のBの病状を考慮すると、本件各貸付に係る貸金債権の回収はおぼつかなかったのに、原告は、これを認識しながら、格別の保全措置を講ずることなく、漫然と本件各貸付に及んだものであるとして、これらが回収不能になったことについては原告に重大な責任があり、その支払を被告らに請求することは、著しく信義に反し、権利の濫用として許されない、と主張する。

しかしながら、本件各貸付の事実が認められるものである以上、仮に、被告ら主張の事由があったとしても、債権の回収をはかるため、連帯保証人の相続人に対して支払を請求することが権利の濫用として許されないとは直ちにはいえないことであるのみならず、甲一七号証によると、原告は、当時、日本液晶の保有する特許権の売却によって、債権を回収することが可能であると判断していたことが窺われるのであって、そもそも、被告ら主張の前提事実を肯定することもできないのである。

(二)  次に被告らは、原告が長期間本件の処理を放置していたとし、被告らに対し、今日に至るまで年一四パーセントもの高率による遅延損害金の請求をすることは、権利の濫用として許されないと主張するが、前記事実のほか甲一七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告はBの死亡後、被告らの依頼した弁護士と本件の処理につき長期間交渉を重ね、あるいは担保権を実行する等債権の回収をはかるための行動に出ていることが認められるのであるから、本件の処理放置していたと評価することは相当でないものというべきである。

(三)  原告が被告らの代理人C弁護士に対し、本件各貸付に係る債権は、本件不動産の競売手続のみによって回収し、それで回収できない分を被告らには請求しないと約束したとの被告らの主張については、これを認めるに足りる的確な証拠はない(乙九号証は、未だ右事実を証するものとはいえない。)。

(四)  被告らは、前記のとおり、本件不動産に対する競売開始決定に基く本件差押えによって生じた時効中断の効力は、極度額五〇〇〇万円の限度で生じたにとどまり、右金額を超える額については生じない、として、被告ら三名に対して合計五〇〇〇万円を超える部分(被告Y1につき二五〇〇万円、同Y2及び同Y3については各一二五〇万円を超える部分)については、各弁済期(期限の利益喪失日)の翌日から五年を経過した時点において、本件貸付に係る各債権は時効により消滅した、と主張する。

本件競売開始決定における担保権及び被担保債権及び請求債権の記載内容は前記のとおりであって、極度額五〇〇〇万円である本件根抵当権が明示され、「被担保債権および請求債権」として、「下記債権のうち極度額五〇〇〇万円の範囲」とした上、貸付1ないし5のすべての債権の残元本、利息及び損害金の明細が表示されている。

そして、本件根抵当権は、被担保債権の範囲を「銀行取引、手形債権、小切手債権」とし、極度額を五〇〇〇万円として合意されたものであること、したがって、貸付1ないし5に係る債権は、すべて、本件根抵当権の被担保債権に該当するものであることを前提として、右記載をみると、「下記債権のうち極度額五〇〇〇万円の範囲」との記載は、本件根抵当権の極度額そのものなのであるから、本件根抵当権の実行に関する請求債権として、被担保債権として表示された本件貸付に係る債権の範囲を右金額に限定する機能を有するものではなく、単に当該被担保債権のうち極度額である五〇〇〇万円の範囲で優先弁済を受ける権利があるという本件根抵当権の性質上当然のことを注意的に示したに過ぎないものと解するのが相当というべきである。極度額を超えて根抵当権の被担保債権が存在する場合において、極度額を超える競売代金が根抵当権者には配当されないことは、根抵当権の性質上当然のことであって、そのことの故に、差押えの効力が極度額の限度でしか生じないと解さなければならないものではない。

このように解すると、本件競売開始決定に伴う本件差押えによって、本件各貸付に係る債権全部につき消滅時効を中断する効力を生じたものというべきである。

被告らの主張は、採用できない。

3  そうすると、被告らは、原告に対し、原告主張の各金員(被告Y1について一億七三三八万五二〇六円〔残元本九七六五万一九九〇円〕、同Y2について八八四〇万三一六二円〔残元本五〇五三万六五五五円〕、同Y3について、八八四一万五二二二円〔残元本五〇五四万八六一五円〕)及び内金である各残元本部分に対する平成七年九月二三日から各支払済みまで約定の年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

四  以上の次第で、原告の被告らに対する請求は、理由があるので認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中壯太)

<以下省略>

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