東京地方裁判所 平成9年(ワ)16670号 判決
原告 株式会社アレフ
右代表者代表取締役 助永隆雄
右訴訟代理人弁護士 梅澤幸二郎
右同 鈴木一徳
被告 国
右代表者法務大臣 臼井日出男
右指定代理人 加藤裕
右同 宮崎芳久
被告 愛知県
右代表者知事 神田真秋
右訴訟代理人弁護士 葛西栄二
右指定代理人 山田政夫
右同 山内直人
右同 三ツ井健幸
右同 近藤康克
右同 大倉一省
右同 生田二三夫
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金二〇〇万円及び内金一〇〇万円に対する平成八年六月二七日から、内金一〇〇万円に対する平成九年五月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告愛知県(以下「被告県」という。)の公権力の行使に当たる警察官らが、被告国の公権力の行使に当たる二名の裁判官の発付した各捜索差押許可状に基づき、原告の占有にかかる建物及び建物部分に対して捜索差押えを行ったことが、違法な捜索差押えであり、これによりプライバシー侵害等の非財産的損害を被ったと主張して、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求として、被告らに対し、各捜索差押え手続につき一〇〇万円(合計二〇〇万円)及び不法行為日である各捜索差押えの行われた日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者
原告は、平成六年九月二八日、株式会社ドゥブニールミリオネールという商号で設立され、平成七年七月二九日付けで株式会社神聖真理発展社(以下「神聖真理発展社」という。)に、平成八年一一月二七日付けで現在の商号に商号変更したものであり、平成七年六月三〇日、宗教法人オウム真理教(以下「教団」という。)に対する宗教法人解散命令の申立てがされたことを受けて、平成七年七月二九日、右のとおり、商号を変更するとともに、役員及び会社の目的を変更し、原告内部において教団とは別個にオウム真理教信者らが宗教活動を行っていた(争いのない事実)。
2 平成八年六月二七日に名古屋市中区栄五丁目八番一四号所在の万国ビル三階において実施された捜索差押え(以下「本件第一捜索差押え」という。)の事実経過
(一) 愛知県一宮警察署(以下「一宮署」という。)司法警察員警視岩村忠雄(以下「岩村」という。)は、平成八年六月二七日、一宮簡易裁判所に対し、鵜飼邦宏(以下「邦宏」という。)が、同月二〇日、同人の実弟である鵜飼孝幸(以下「孝幸」という。)に傷害を負わせたという傷害被疑事件(以下「本件第一被疑事件」という。)につき、捜索すべき場所を「名古屋市中区栄五丁目八番地一四号万国ビル三階オウム真理教名古屋支部使用にかかる」三〇号ないし三三号の四室、差し押さえるべき物を別紙一記載のとおりとする四通の各捜索差押許可状を請求した(以下「本件第一令状請求」という。)(争いのない事実、乙一の1ないし4、一一、一二、一四、証人岩村、証人香田)。
(二) 一宮簡易裁判所下澤悦夫裁判官(以下「本件第一裁判官」という。)は、同月二七日、本件第一令状請求に基づき、右請求どおりの各捜索差押許可状四通(以下「本件第一令状」という。)を発付した(争いのない事実、乙一の1ないし4、一一、一二、証人岩村、証人香田)。
(三) 一宮署警部補香田和雄(以下「香田」という。)以下六名の司法警察職員は、同日、本件第一令状に基づいて、万国ビル三階の三〇号室ないし三三号室を捜索し、別紙二記載の各物件を差し押さえた(争いのない事実、乙一二、証人香田)。
3 平成九年五月一六日に名古屋市西区則武新町一丁目三番五号所在の野村本社ビルにおいて実施された捜索差押え(以下「本件第二捜索差押え」という。)の事実経過
(一) 愛知県緑警察署(以下「緑署」という。)司法警察員警視犬塚拓治(以下「犬塚」という。)は、平成九年五月一二日、名古屋地方裁判所に対し、氏名不詳の二名の被疑者が、同年四月七日、鈴木一成(以下「鈴木」という。)の父親(以下「被害者」という。)を脅迫したという脅迫被疑事件(以下「本件第二被疑事件」という。)につき、捜索すべき場所を「名古屋市西区則武新町一丁目三番五号野村本社ビル内株式会社アレフ」、差し押さえるべき物を別紙三記載のとおりとする捜索差押許可状を請求した(以下「本件第二令状請求」という。)(争いのない事実、乙二、一三、証人水野)。
(二) 名古屋地方裁判所山本哲一裁判官(以下「本件第二裁判官」という。)は、同年五月一二日、本件第二令状請求に基づき、右請求どおりの捜索差押許可状(以下「本件第二令状」という。)を発付した(争いのない事実、乙二、四、一三、証人水野)。
(三) 緑署警部水野健二(以下「水野」という。)以下三三名の司法警察職員は、同月一六日、本件第二令状に基づいて、原告が占有使用していた野村本社ビルを捜索し、別紙四記載の各物件を差し押さえた(争いのない事実、乙一三、証人水野)。
二 争点
本件の中心的争点は、次の各点にあるが、そのほか、判断を必要としなかった争点として、原告が本件第一及び第二捜索差押えにより損害を被ったかどうか、その額はいくらかという点、本件第二令状請求又は本件第二捜索差押えの実施に違法な点があったとして、被告県が損害賠償責任を負うか(被告県は、本件第二被疑事件は捜査継続中であるところ、捜査継続中の時点で捜査機関の判断の違法性を民事訴訟において審理することは、密行性が要求される今後の捜査に重大な支障を来すことが明らかであるから許されないと主張する。)という点がある。
1 本件第一捜索差押えについて
(一) 原告は、万国ビル三階の三〇号室ないし三三号室(以下特に個別に部屋番号を特定する必要がない場合は、「万国ビル三階」という。)を占有使用していたか。
(二) 本件第一令状請求は違法であったか。
(三) 本件第一令状の発付は違法であったか。
(四) 本件第一捜索差押えにおける押収品と本件第一被疑事件との関連性
2 本件第二捜索差押えについて
(一) 本件第二令状請求は違法であったか。
(二) 本件第二令状の発付は違法であったか。
(三) 本件第二捜索差押えにおける押収品と本件第二被疑事件との関連性
三 争点に関する当事者の主張
(本件第一捜索差押えについて)
1 争点1(一)について
(一) 原告の主張
原告は、平成七年一一月ころ、それまで万国ビル三階を占有使用していた株式会社オウムから同ビル三階の転貸を受け、本件第一捜索差押え当時、同ビル三階を占有使用していた。
(二) 被告県の主張
本件第一捜索差押え当時、万国ビル三階を占有使用していたのは、株式会社オウム及び同社が同ビル三階の占有使用をさせていた教団であり、原告は、同ビル三階を占有使用していなかったので、本件第一捜索差押えとは無関係であって右捜索差押えの違法を主張できない。
2 争点1(二)について
(一) 原告の主張
(1) 岩村は、<1>及び<2>の各事実を認識し又は重大な過失により看過して、本件第一令状請求をしたのであるから、右令状請求は違法である。
<1> 本件第一被疑事件と万国ビル三階との関連性の欠如
本件第一被疑事件は、邦宏と孝幸との間の兄弟げんかによって発生したものであり、教団ないしオウム真理教との関係は、右両名がオウム真理教の在家信者であったというものにすぎない。
したがって、右事件の被疑者である邦宏とは別個の法人格である原告が占有する万国ビル三階には、本件第一被疑事件に関連する事項を記載した物件は存在するとは到底考えられず、同ビル三階を捜索するための要件である「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」は存在しない。
<2> 本件第一被疑事件と差し押さえるべき物との関連性の欠如
岩村は、本件第一令状請求に際し、差し押さえるべき物を別紙一記載のとおりとして請求しているが、その二項ないし五項は、本件第一被疑事件との関連性がない。
(2) いわゆる別件捜索差押えないし目的外流用のための請求
<1> 邦宏が本件第一被疑事件により逮捕された平成八年六月二一日から同人が不起訴(起訴猶予)処分とされた同年七月一一日までの間、被害者である孝幸の取調べは行われなかった。また、被告県は、本件第一被疑事実がオウム真理教による組織的犯罪の疑いがあったと主張しているが、オウム真理教(教団とは異なり、オウム真理教信者が法人格のない状態で集まって宗教活動を行っていたものであり、以下「信徒集団」ともいう。)名古屋支部の支部長であると被告県が主張する石塚勝俊(以下「石塚」という。)に対する取調べも行われていない。
<2> 孝幸は、本件第一被疑事件において、ごく軽微な負傷しかしておらず、右事件につき、本件第一令状請求をする必要性はなかった。
<3> 香田らは、本件第一捜索差押えにおいて、万国ビル三階に存在していた信徒名簿、住所録はすべて差し押さえた。
<4> 一宮署の警察官らは、岩村の指示により、本件第一捜索差押えにより差し押さえた別紙二記載の各物件の内容を記録した。
前記(1) <1>及び<2>並びに右<1>ないし<4>の事実にかんがみると、本件第一令状請求は、本件第一被疑事件に名を借りて、原告及びその関係者に対する情報収集及び弾圧のために行われた別件捜索差押えないし押収品の目的外流用を意図した違法なものである。
(二) 被告県の主張
(1) 本件第一被疑事件とオウム真理教及び信徒集団並びに万国ビル三階との関連性
<1> 邦宏は、本件第一被疑事件により勾留中の平成八年六月二三日の取調べにおいて、同月二〇日、孝幸を説諭する際に殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせた事実を認める供述をしたほか、邦宏及び孝幸が、いずれもオウム真理教の信者であること、名古屋市中区所在万国ビル三階のオウム真理教名古屋支部に通い修行していたこと、孝幸の生活態度が悪いため、同支部の支部長石塚に相談をしていたこと、石塚は、孝幸に対し、同人がオウム真理教批判をするので徳を積み懺悔して、オウム真理教の音楽を聞くように指導し、邦宏に対しては、孝幸がオウム真理教においては魔境にあり悪業の報いが来ているから説諭するようにと指導したこと、オウム真理教名古屋支部支部長は、オウム真理教の教義に沿って信徒に指導助言をするために教祖から任命された立場にあり、信徒が師と仰ぐ存在であること、邦宏は、本件第一被疑事件の犯行直前直後にオウム真理教名古屋支部に立ち寄り、犯行直後に立ち寄った際には、石塚に対し、孝幸を負傷させた旨話したことなどを供述した。
<2> 本件第一被疑事件当時、教団ないし信徒集団が教義を実践するため必要があれば信者を殺害することも正当な行為と説き、殺人行為を容認していたこと、また、オウム真理教信者らが他の信者にリンチを加えて殺害したという事件が発覚していた。
<3> 平成八年六月二〇日、邦宏が意識の混濁した状態の孝幸を連れて万国ビルに出入りしたのを、愛知県中警察署(以下「中署」という。)警察官二名が現認し、同人らが、邦宏及び孝幸に対し、職務質問したところ、邦宏は、孝幸の体調が悪いので名古屋支部に相談に来たと弁明した。
<4> 株式会社オウムは、平成元年二月二〇日、万国ビルの所有者との間で、同ビル三階の賃貸借契約を締結し、同社は、その後、教団に同ビル三階を転貸し、教団において名古屋支部として使用していた。以後、本件第一捜索差押え時に至るまで、教団ないし信徒集団の名古屋支部として使用され、同ビル三階には、オウム真理教の信者と思料される多数の者が出入りしていた。
以上の事実関係にかんがみると、本件第一被疑事件は、オウム真理教の教義に基づき行われ、また、オウム真理教名古屋支部長ら信徒集団の関係者が組織的に関与していた疑いが認められるとともに、万国ビル三階がオウム真理教の信者ら信徒集団によって占有使用されていたと認められるから、同所に本件第一被疑事件について押収すべき物の存在を認めるに足りる状況があったとした判断に違法な点はない。
(2) 本件第一捜索差押えの必要性
本件第一被疑事件が、前記(1) のとおり、オウム真理教の教義に基づいたものであり、また、信徒集団関係者が関与していた疑いがあると認められたことからすると、本件第一被疑事件の動機、犯行に至る経緯、信徒集団の関与の有無ないし状況等同事件の全容を十分に解明するには、右各事実に関係する客観的資料を入手する必要があった。
しかるに、かかる客観的資料が存在すると思料される万国ビル三階に出入りするオウム真理教信者らから、これらの客観的資料の任意提出を求めることは困難であり、かえって、捜査を察知して証拠隠滅が行われるおそれも認められた。
したがって、万国ビル三階において、本件第一捜索差押えを行う必要性があったとした判断に違法な点はない。
(3) 本件第一被疑事件と別紙一記載の差し押さえるべき物との関連性
前記(1) 、(2) のとおり、本件第一被疑事件が、オウム真理教の教義に基づいたものであり、また、オウム真理教関係者が関与していた疑いがあると認められることからすれば、本件第一被疑事件の全容解明のためには、犯行の動機、犯行に至る経緯、信徒集団及びその内部における邦宏の活動実態、信徒集団の組織としての関与の有無ないし状況を解明する必要があり、そのための客観的資料は、本件第一被疑事実と関連性を有するというべきである。別紙一記載の各物件は、右客観的資料を特定したものにほかならないから、本件第一被疑事件との関連性を有するものである。
(4) 別件捜索差押えないし目的外流用のための請求ではないこと
前記(1) ないし(3) のとおり、本件第一令状請求は、本件第一被疑事件を解明するために必要な捜査として行われたものであり、別件捜索差押えないし目的外流用の意図をもって、請求したものではない。
3 争点1(三)について
(一) 原告の主張
本件第一裁判官は、前記2(一)のとおり、被告県の本件第一令状請求が違法であることを認識し又は重大な過失により看過して、右請求どおりの四通の各捜索差押許可状を発付しているから、かかる本件第一令状の発付は違法である。
(二) 被告国の主張
(1) 本件第一捜索差押許可状の発付には、次のとおり、何らの瑕疵も存在しない。
<1> 前記2(二)の被告県の主張のとおり、本件第一被疑事件は、単なる兄弟げんかの事案ではなく、特定のオウム真理教関係者による共謀や教唆等の関与がある可能性、信徒集団の組織的な指示等の関与の可能性及び邦宏が信仰するオウム真理教の主義主張や活動方針等が邦宏の犯行動機の形成に関わっている可能性等が認められた事案である。したがって、本件第一被疑事件の捜査を行うに際し、右のような各可能性の有無について捜査をして、事件の全容を解明する必要があるところ、本件第一裁判官においても、同様の観点から、本件第一捜索差押えの必要性を認めて、本件第一令状を発付したものである。
<2> 右のとおり、本件第一被疑事件についてのオウム真理教関係者の関与の有無及び態様を解明するためには、オウム真理教の組織及び主義主張、方針等が直接的には表現されていない文書等をも含めて、オウム真理教の実態の把握に必要な資料を幅広く収集した上、それらを総合的に分析検討することが必要であること、オウム真理教信者の私生活が教団ないし信徒集団の活動と一体化している状況からして、教団ないし信徒集団が占有使用していた万国ビル三階に存在するビラ、パンフレット、日記、名刺、手帳、ノート、メモの類などもオウム真理教の組織実態を把握するのに資する資料に当たると考えられることからすると、本件第一令状において、別紙一記載の差し押さえるべき物第四、第五項において、特段の限定を付することなく、差し押さえるべき物を定めていることも違法とはいえない。
(2) また、裁判官の職務行為について国家賠償法一条一項にいう違法な職務行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、裁判官がした行為に上訴等の訴訟法上の救助方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別な事情があることを必要とする(最高裁判所昭和五七年三月一二日第二小法廷判決・民集三六巻二号三二九頁)のであり、この理は典型的な争訟に関する職務行為に限らず、捜索差押許可状の発付にも妥当するところ、本件においては、右特別な事情は存在しないから、原告の損害賠償請求には理由がない。
4 争点1(四)について
(一) 原告の主張
香田ら一宮署司法警察職員らは、別紙二記載の各物件を本件第一被疑事実との間に関連性が欠けることを認識し又は重大な過失により看過して、押収しているので、本件第一捜索差押えは違法である。
(二) 被告県の主張
別紙二1ないし3及び12記載の各物件は、いずれもオウム真理教信徒の活動状況又はオウム真理教の指令、方針、指示事項等が記載されており、別紙一記載の本件第一令状における差し押さえるべき物の第二項又は第三項に該当したことから押収したものである。
また、別紙二4ないし11、13及び14記載の各物件は、いずれもオウム真理教信徒又はその関係者の住所氏名等が記載されており、別紙二記載の本件第一令状における差し押さえるべき物の第五項に該当したことから押収したものである。
前記2(二)(3) 記載のとおり、別紙一記載の差し押さえるべき物は、本件第一被疑事件との間に関連性を有する物件を記載したものであるから、別紙二記載の各物件が右差し押さえるべき物に該当する以上、右各物件は、本件第一被疑事件との間に関連性を有しており、何ら違法な点はないというべきである。
(本件第二捜索差押えについて)
1 争点2(一)について
(一) 原告の主張
(1) 犬塚は、<1>ないし<3>の各事実を認識し又は重大な過失により看過して本件第二令状請求をしており、右令状請求は違法である。
<1> 本件第二被疑事件の不存在
野村本社ビルにおいて活動していたオウム真理教の出家信者である田渕智子(以下「田渕」という。)及び西川典子(以下「西川」という。)は、オウム真理教の在家信者であった鈴木がオウム真理教の活動に姿を見せなくなったことから、平成九年四月五日から一〇日の間ころの午後九時ころ、西川運転の乗用車で鈴木の自宅に行き、自宅前で同人の帰宅を待っていたところ、同人の母親である被害者の妻から退去を求められ、鈴木の自宅南側付近に移動したところ、被害者が乗用車の前部ドアを開けて西川を乗用車を引きずり出そうとするなどして、西川及び田渕を鈴木宅近くから退去させようとした。この際、西川及び田渕は、被害者に対して、脅迫的言辞を申し向けたりしたことはなく、そもそも本件第二被疑事件の被疑事実は存在しない。
<2> 本件第二被疑事件と原告及び野村本社ビル並びに差し押さえるべき物との関連性の欠如
被告県が主張する本件第二被疑事件は、オウム真理教信者と思われる氏名不詳の被疑者二名に対し、被害者が自宅周辺からの退去を求めたところ、右被疑者らが、被害者に対し、「会えるまで何度も来てやる。邪魔する奴はどうなっても知らないからな。覚悟しておけよ。」と申し向けたものであるところ、被疑者らの右言辞は、突発的、偶発的な行動であり、オウム真理教の教義に基づく動機や信徒集団の組織的背景があるとは考えられない。
したがって、本件第二被疑事件と原告ないし野村本社ビルとの関連性は存在せず、野村本社ビルに、本件第二被疑事件につき押収すべき物の存在を認めるに足りる状況は存在しない。また、別紙三第二項記載の「犯行の組織性を立証するため本件に関係のあるオウム真理教の組織、主義、主張、方針並びにこれを明らかにした機関紙(誌)」等といった差し押さえるべき物は、本件第二被疑事実とは何ら関連性が存在しない。
<3> 本件第二捜索差押えの必要性の欠如
緑署司法警察職員が、本件第二被疑事件について、原告に問い合わせれば、原告関係者のうち本件第二被疑事件発生当日ころに鈴木方周辺に赴いたのが、西川及び田渕のみであることを伝えた。また、警察から出頭要請があれば、同人らは出頭する意思があった。
したがって、本件第二被疑事件については、任意捜査が可能であったというべきであり、本件第二捜索差押えの必要はなかった。
また、本件第二被疑事件当時、野村本社ビルで活動していた出家信者は、女性四名、男性五名のわずか九名にすぎず、同事件の被疑者を特定するのに本件捜索差押えが必要であったとは到底考えられない。
(2) 別件捜索ないし目的外流用のための請求
<1> 本件第二被疑事件について、本件捜索差押え以外に強制捜査は行われておらず、西川及び田渕を含む原告関係者に対する取調べも行われていない。また、被疑者らを特定するためには、同人らと面識のある鈴木を取り調べることが必要であると考えられるにもかかわらず、同人の取調べも行われていない。
<2> 原告は運送業を営んでおらず、車両の管理、運行等に関するデータ等をコンピューターに入力しているとは考え難いにもかかわらず、別紙三記載の本件第二令状において差し押さえるべき物には、「車両の管理・運行等に関するデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物」を掲げており、本件第二被疑事件を名目としてコンピューターを差し押さえようとしていることは明らかである。
<3> 後記のとおり、本件第二捜索差押えにおいて、愛知県緑警察署司法警察職員が野村本社ビルから差し押さえた各物件は、本件第二被疑事件とは関連性がなく、単にオウム真理教の情報収集を目的とした捜索差押えとしか考えられない。
<4> 原告は、平成九年三月ころ、野村本社ビルに移転しており、愛知県警察としては、右移転後の原告及びオウム真理教の情報収集をする必要があった。そのため、同年四月七日に起こったとされる本件第二被疑事件について、事件発生から一箇月以上経過した同年五月一二日になって、本件第二令状請求をした。
前記(1) <1>ないし<3>の各事実及び右<1>ないし<4>の各事実にかんがみると、本件第二令状請求は、本件第二被疑事件に名を借りて、原告及びその関係者に対する情報収集及び弾圧のために行われた別件捜索差押えないし目的外流用を意図して行った違法な捜索差押許可状の請求である。
(二) 被告県の主張
(1) 本件第二被疑事件の存在
<1> 平成九年四月七日、被害者の妻から緑署に対し、一一〇番通報があったことから、同署司法警察職員において、翌八日以降数度にわたり被害者及びその妻から事情聴取を行った。
被害者は、右各事情聴取において、息子である鈴木はオウム真理教の信者であったが、平成九年ころ、オウム真理教の信者をやめた旨言っていたこと、同年四月七日午後一〇時四〇分ころ、妻からオウム真理教の信者らが鈴木に会いに来ている旨告げられ、妻と共に右信者らが乗車していた自動車のところへ行き、妻は、警察に電話をするために自宅に戻ったこと、車内には運転席と助手席にいずれも二〇歳くらいの女性が乗っていたこと、運転席の女性と話をしたところ、同女らが、鈴木をオウム真理教に連れ戻しに来たという態度であったので、警察に連絡する旨告げると、同女は突然エンジンを掛け、助手席の女性が「馬鹿野郎」と、運転席の女性が「会えるまで何度でも来てやる。邪魔する奴は、どうなっても知らないからな。覚悟しておけよ。」と言って立ち去ったことなどを供述した。
他方、被害者の妻は、右各事情聴取において、同日午後九時五〇分ころ、自宅に女性が長男である鈴木を訪ねてきたこと、鈴木が不在である旨を告げると、一旦立ち去った様子であったが、自宅前に自動車が止まっており、一向に立ち去る気配がなかったこと、鈴木は、平成九年ころ、オウム真理教の信者をやめた旨言っていたが、オウム真理教の信者から再三電話が掛かってきていたこと、自動車のところに行くと、運転席と助手席に若い女性が、後部座席に男性らしい者が乗車していたこと、車内に向かって、鈴木の帰宅が遅い旨告げたが、帰る気配がなく、同人がオウム真理教の信者をやめた旨を言うと、運転席の女性が、「そんなことは聞いていない。本人に直接聞きます。」と言ったこと、その後、自動車は自宅前から自宅南の道路に停車場所を移動したこと、このままでは、鈴木が再びオウム真理教に誘われてしまうと思い、被害者に事情を話して一緒に自動車のところに行ったが、不安になったので、自宅に戻り、愛知県緑警察署に通報したことなどを供述した。
<2> 被害者らの右各供述は、数度にわたる事情聴取において一貫したものであったので、緑署司法警察職員らは、同日、オウム真理教信者と思われる氏名不詳の女性二人が、被害者に対し、前記脅迫的言辞を申し向けたという本件第二被疑事件が発生したと判断した。
したがって、緑署司法警察職員の本件第二被疑事件が存在したとの判断に、何ら違法な点は存在しない。
(2) 本件第二捜索差押えの必要性及び野村本社ビル捜索の要件具備
<1> 前記(1) <1>の被害者及びその妻の各供述から、本件第二被疑事件の被疑者二名がいずれもオウム真理教信者であることが窺われた。
また、平成九年一月三一日にオウム真理教に対する破壊活動防止法に基づく処分請求が棄却された後、オウム真理教信者が、脱会した元信者に対する呼び戻し工作等の活動を活発に行っていることを、愛知県警察において把握していた。
右各事実にかんがみると、緑署司法警察職員らにおいて、本件第二被疑事件は、オウム真理教関係者が、その組織活動として被害者方を訪れた際に行ったものであり、信徒集団が組織として関与している疑いが強いと判断した。
<2> 野村本社ビルは、平成九年三月一六日、原告が賃借していたが、オウム真理教名古屋支部は、その活動拠点を転々としており、同月中旬以降において野村本社ビルを活動拠点にしており、野村本社ビルには多数のオウム真理教信者が出入りし、教義に従った修行等の行事を開催していた。
<3> 本件第二被疑事件の被疑者がオウム真理教信者であり信徒集団の関係者であると認められるから、その被疑者を特定し、その所在を明らかにする必要があるとともに、右事件の全容解明のためには信徒集団の組織及び活動実態、組織としての関与の有無ないし状況等に対する十分な解明が必要であり、そのための客観的資料は、オウム真理教名古屋支部の活動拠点であり、原告の占有使用にかかる野村本社ビルに存在すると考えられるところ、右資料を原告ないし信徒集団の関係者から任意に提出を受けることは困難であり、同人らが捜査を察知して証拠隠滅をするおそれがあると判断した。
したがって、野村本社ビルに対する本件第二捜索差押えが必要であり、また、同所に差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況が存在すると判断した点に違法は存在しない。
(3) 本件第二被疑事件と差し押さえるべき物との関連性
前記(2) のとおり、本件第二被疑事件に信徒集団の組織的関与が疑われることからすると、同事件の被疑者を特定するとともに、信徒集団の組織、活動実態、組織的関与の有無及び状況を解明するための資料が必要となる。また、本件第二被疑事件には、自動車が使用されているので、自動車の運行状況を管理した記録は、被疑者特定の資料として重要である。
したがって、別紙三記載の差し押さえるべき物は、本件第二被疑事件と関連性を有するものであるといえる。
(4) 別件捜索差押えないし目的外流用のための請求でないこと
前記(2) のとおり、本件第二被疑事件において、本件第二捜索差押えをする必要があると認められる以上、本件第二令状請求は、別件捜索差押えないし目的外流用のための請求とは考えられない。
2 争点2(二)について
(一) 原告の主張
本件第二裁判官は、前記1(一)のとおり被告県の本件第二令状請求が違法であることを認識し又は重大な過失により看過して、右請求と同旨の捜索差押許可状を発付しており、かかる本件第二令状の発付は違法である。
また、別紙三記載の本件第二捜索差押えにおいて差し押さえるべき物は、「被疑者を特定するために本件に関係のある」、「犯行の組織性を立証するために本件に関連のある」との記載がされているところ、本件第二令状には、被疑事実の記載がされておらず、差し押さえるべき物の特定性に欠けるから、本件第二令状は、刑事訴訟法二一九条一項及び憲法三五条一項に違反する。
(二) 被告国の主張
(1) 本件第二捜索差押許可状の発付には、何らの瑕疵も存在しない。
(2) また、前記争点1(三)に関する主張(二)(2) のとおり、仮に本件第二捜索差押許可状の発付に上訴等により是正されるべき瑕疵が存在したとしても、原告の損害賠償請求には理由がない。
3 争点2(三)について
(一) 原告の主張
水野ら緑署司法警察職員らは、別紙四記載の各物件を、本件第二被疑事実とは何ら関連性を有しないことを認識し又は重大な過失によりこれを看過して押収したから、本件第二捜索差押えは違法である。
特に、別紙四3記載の「ヘラクレストレーニング」と題する小冊子及び同58記載の逮捕勾留マニュアル等が入った書類入れは、本件第二被疑事件の被疑者特定にも、同事件の犯行の組織性の立証にも役立つものでないことは明らかである。
(二) 被告県の主張
(1) 水野ら緑署司法警察職員は、別紙四1、2、5、6、23、32、34、40、49、60ないし62、66記載の各物件を別紙三記載第一項に該当するものとして、別紙四3、4、7、14ないし16、18、25ないし29、31、37、41ないし、43、45、51、53ないし59、64、67、68記載の各物件を別紙三記載第二項に該当するものとして、別紙四8ないし13、17、19ないし22、24、30、33、35、36、38、39、44、52、65記載の各物件を別紙三記載第一項及び第二項に該当するものとして、差し押さえた。
前記1(二)(3) のとおり、本件第二被疑事件と別紙三記載の各物件との間に関連性が認められる以上、別紙三記載第一項又は第二項に該当するとして差し押さえられた前記各物件は、本件第二被疑事実との間に関連性を有するものである。
(2) <1> 別紙四46記載のハードディスク、47記載のフロッピーディスクは、同48記載のパソコンと共に使用されていたものであり、本件第二捜索差押え当時、右ハードディスクを右パソコンに取り付ける鍵を見つけることができなかった。
<2> 同50記載のフロッピーディスクは、ワードプロセッサ用のフロッピーディスクであるところ、その枚数が一六〇枚と多数にわたる上、本件第二捜索差押え開始時に野村本社ビル内にいた者が右フロッピーディスクを隠匿する行動があった。
<3> 同63記載のパソコンは、本件第二捜索差押え時点で、起動及び操作の方法が不明であった。
以上のとおり、右各物件は、本件第二捜索差押えの現場において、その内容を確認することができなかったものであり、これらの中に本件第二被疑事件に関連する情報が記録されていると認められ、かつ、別紙三記載第一項又は第二項に該当することから、差し押さえたものであり、その判断に違法な点は存在しない。
第三当裁判所の判断
一 本件第一捜索差押えについて
1 争点1について
証拠(甲一、二、二一、証人西川)によれば、原告(当時の商号は神聖真理発展社)が、株式会社オウムとの間で、平成七年一一月三〇日、期間を同年一二月から平成八年一一月まで、万国ビル三階を含む株式会社オウム賃借に係る各建物を転借する旨合意し、平成七年一二月ころ以後本件第一捜索差押え当時に至るまで、同ビル三階を占有使用していたことが認められる。
一方、証拠(乙三、六ないし九)によれば、名古屋地方裁判所執行官は、万国ビル三階について、平成七年五月一五日、債務者であった株式会社オウム及びオウム真理教の占有を解き執行官保管とするとともに、債務者らに使用を許す旨の仮処分の執行を行い、同年一二月一四日、点検執行を行い債務者らが使用していることを確認し、平成八年七月二二日、債務者らの占有を解いて債権者に万国ビル三階を引き渡す執行を行ったことが認められ、また、証拠(甲四、証人邦宏、証人西川)によれば、本件第一捜索差押え当時、万国ビルは、オウム真理教名古屋支部又は株式会社オウムの名前で、オウム真理教信者に占有使用されていたことが認められる。
さらに、争いのない事実及び証拠(甲三、乙三、六ないし九、証人西川)によれば、平成七年六月三〇日、教団に対する宗教法人解散命令の申立てがされたことを受けて、原告が、商号、役員及び会社の目的を変更して、オウム真理教信者らが原告名義において信徒集団を構成し宗教活動を行うようになったこと、同年一〇月三〇日に右解散命令が下されたこと、同年一一月三〇日、原告と株式会社オウムとの間で、前記転貸借の合意がされたこと、その後、教団に対する解散命令が平成八年一月三〇日に確定した後も、平成八年七月二二日まで、万国ビルは、オウム真理教の信者によって使用されていたことが認められる。
以上の事実関係にかんがみると、オウム真理教の信徒集団は、教団に対する宗教法人解散命令が下されるに当たり、原告の法人格を用いて、宗教活動を始め、万国ビル等の株式会社オウムが教団の支部として使用するために賃借していた各不動産を、同社から転借し、信徒集団の支部として、教団が使用していた時と同様に、使用していたことが認められる。
そうすると、万国ビル三階の利用状況はオウム真理教の信徒集団が占有使用していたという点で変更がないとしても、原告においても株式会社オウムから転借を受けて同ビル三階を占有していたことが認められるから、原告は、本件第一捜索差押えの違法を主張できるというべきである。
2 争点2について
(一) 本件第一令状請求に至るまでの事実経過
争いのない事実、証拠(甲三、四、二二、乙一の1ないし4、六ないし一二、一四、証人邦宏、証人岩村、証人香田、証人西川)及び弁論の全趣旨によれば、本件第一被疑事件の発生から本件第一令状請求に至るまでの事実経過は、次のとおり認められる。
(1) 邦宏は、平成八年六月二〇日午前二時三〇分ころ、愛知県犬山市字押出四二番の一所在の五条川第一橋上において、同人の実弟である孝幸に対し、同人の顔、胸、腹、背中等を殴る蹴るなどの暴行を加えたため、同人は、橋から転落し、全身擦過傷、右眼球結膜下出血、頭部挫創等の傷害を負った(本件第一被疑事件)。
(2) 邦宏は、同日午前四時ころ、万国ビル三階に孝幸を連れて行き、同所の責任者である石塚らに、孝幸の状態等を相談した。
(3) 中署警察官らは、邦宏が孝幸を抱きかかえるように連れて万国ビルから出て、同人を病院へ連れて行こうとしたところを現認し、邦宏に対し職務質問をしたところ、同人は、孝幸がけがをしているから病院へ連れて行く旨述べた。
(4) 邦宏は、孝幸を木村クリニックへ連れて行き、中署警察官らはこれに同行した。孝幸は、医師に後頭部を三ないし四針縫ってもらい、邦宏に連れられて自宅に戻った。孝幸の治療後、右警察官らは、医師から、孝幸の負傷の状況を聞いた。
(5) 同日午後三時四五分ころ、中署警察官が、名古屋市中区新栄一丁目四八番一九号所在の公団老松住宅五三四号の孝幸方に、同人の面接捜査に訪れたところ、同人が、傷だらけで唸り声をあげて横になっているのを発見した。孝幸は、右警察官の問いに対し、邦宏にやられた旨答えた。その後、孝幸は、問いに対して反応を示さなくなり、これ以上の事情聴取をすることは不可能となった。
(6) 同日午後六時一七分ころ、中署警察官が、一一九番通報し、孝幸は、吉田病院に搬送され入院した。入院時の孝幸の症状は、意識混濁、血圧一三六/八四、心拍数一分間に八〇回、全身に擦過傷あり、右眼球結膜下出血が認められ、頭部L線、顔面L線、頭部CT、胸部L線、腹部CT、腹部エコー、心電図等はいずれも異常がなく、血液検査にてGOT、LDHが高値を認めたというものであった。
(7) また、中署警察官は、邦宏の居住する勤務先の寮に、孝幸が瀕死の状態なので連絡をするようにとのメモを置いた。
(8) 一宮署司法警察職員らは、同月二一日、中署警察官からの通報により、本件第一被疑事件を認知し、同日午後八時三八分、邦宏を通常逮捕した。邦宏は、その後、勾留され、同年七月一一日、起訴猶予処分となった。
(9) 同年六月二三日、邦宏は、一宮署司法警察員警部補山岡正良(以下「山岡」という。)に対し、次のとおり供述し、右山岡は、それを供述調書(乙一四)に録取し、右調書を邦宏に読み聞かせ、同人の署名指印を得た。
<1> 邦宏及び孝幸は、オウム真理教の信者である。
<2> 邦宏は、平成八年三月ころ、久しぶりにオウム真理教名古屋支部に顔を出すと、以前から知っていた石塚が支部長をしていたので、再度名古屋支部に出入りし、修行をするようになった。
<3> 邦宏は、同年四月ころ、両親から、孝幸が働かないし外に出ようともしないなど様子がおかしいと相談を受けた。孝幸は、仕事もせず、問いかけにも答えようともしないばかりか、自宅ドアの鍵を開けようとしない状態であった。
<4> 邦宏が石塚に相談したところ、石塚は、孝幸がオウムを探るスパイが名古屋支部にいるという悪口ないしオウム批判をするので、同人に対し徳を積み懺悔してオウムの音楽を聞くように指導していたと言い、孝幸はオウムにおいては魔境にあるといえる、善業を積まず悪業をしているからその報いが来たのではないか、孝幸を説諭するように、と指導を受けた。
<5> 支部長という役職は、一般信徒に対してオウム真理教の教義に沿って指導助言するために教祖から任命された人であり、一般信徒がみな認める存在であった。しかし、孝幸は、支部長である石塚の助言によっても、傲慢な態度を改めることはなかった。
<6> 邦宏は、孝幸が魔境にあると思い、同人に何度も注意したが、態度が改まることはなく、かえって悪化し、二、三週間前からは呼びかけに返事もせず、食事もとらず、体を動かそうとしないばかりか、便を垂れ流す状態であった。邦宏は、次第に不満がたまり、両親の依頼、石塚からの指導も重なり、ストレスがたまった。
<7> 邦宏は、同年六月一九日午後九時ころ、オウム真理教名古屋支部に行き、約一時間修行をした後、孝幸の様子を見に行ったが、同人は、座ったままで放心状態だった。同人を公衆浴場に連れ出したが、同人が入浴をどうしてもいやがった。その後、車内で話しかけても何の返事もせず無視しているように見えたので、厳しく注意しなければならないと思った。話ができる場所を探して自動車で走り回っていると、入鹿池に向かう途中の橋を渡ったところに空き地があったので、自動車を止めて、同人に対し説諭を開始した。この際、同人を殴る蹴るなどしたため、同人が橋から転落して、けがをさせた。当初大けがをしているとは思わずに、心配して具合を見ると、同人の頭部から血が流れていたことが分かった。
(10) 一宮署司法警察職員らは、中署警察官から、前記(3) の事実の報告を受けた。また、香田が、同月二一日、吉田病院に電話で孝幸の症状を確認した。
(11) 平成七年春以降本件第一令状請求時に至るまで、教団ないし信徒集団が、オウム真理教の教義を実践するために必要があれば、殺人行為も容認していたと一般的に疑われており、また、信徒に対するリンチ殺害事件等オウム真理教信者による凶悪事件が複数発覚していた。
(12) 岩村は、右各事実関係にかんがみ、本件第一被疑事件がオウム真理教の教義に基づいて行われたものである疑い及びオウム真理教が組織的に関与していたと疑いを持ち、同月二七日、本件第一被疑事件につき、捜索すべき場所を万国ビル三階の三〇号ないし三三号の四室、差し押さえるべき物を別紙一記載のとおりとする四通の各捜索差押許可状を、邦宏の供述調書、孝幸の診断書、捜査報告書等を疎明資料として請求した(本件第一令状請求)。
これに対し、原告は、乙一四に記載のある「説諭」という言葉はオウム真理教においては使用されず、邦宏の供述として録取されたものではないと主張し、証拠(証人邦宏、証人西川)にもこの主張に沿う証言がある。また、邦宏は、証人尋問において、前記(8) の取調べの際、石塚が支部長をしていたから名古屋支部に再び出入りするようになったこと及び同人において孝幸がオウム批判をしているから指導していた旨を述べていたことを供述しなかったにもかかわらず、供述調書(乙一四)に記載されたと証言する。
しかし、証拠(乙一四、証人邦宏)によれば、邦宏は、取調終了の際、乙一四の供述調書の内容を読み聞かされた(邦宏は、乙一四を閲覧させてもらった旨供述するが、乙一四末尾の記載及び邦宏自身が主尋問において調書を読み聞かされた旨供述していることから、右供述は採用できない。)上、その内容に誤りがないとして署名指印したこと、邦宏自身、乙一四について、大筋では間違いはなく、細かい文章の表現で間違っている点はあったものの、その程度ならいいと思って署名した旨供述していることにかんがみると、邦宏及び西川の右証言並びに原告の主張は採用できない。
(二) 本件第一被疑事件とオウム真理教ないし万国ビル三階との関連性
岩村ら一宮署司法警察職員らは、本件第一令状請求に至るまでに、前記(一)のとおり、(1) 中署警察官からの通報、邦宏に対する取調べ及び吉田病院への照会により、邦宏が、平成八年六月二〇日午前二時三〇分ころ、孝幸に殴る蹴るなどの暴行を加え同人を橋から転落させて、同人に頭部挫創、全身擦過傷、右眼球結膜下出血の全治一週間ないし一〇日の傷害を負わせた(本件第一被疑事件)こと、(2) 中署警察官からの報告により、邦宏が、本件第一被疑事件発生直後の同日午前四時ころ、万国ビル三階に孝幸を連れて来たこと、(3) 邦宏の前記(一)(9) 記載の供述内容、(4) 万国ビル三階を本件第一被疑事件当時、信徒集団がオウム真理教名古屋支部として使用していたこと、の各事実を通常の捜査により認識していたことが認められ、加えて、前記(一)(11)の事実にかんがみると、岩村が、本件第一令状請求の段階において、本件第一被疑事件についてオウム真理教の教義がその動機となっている疑いがあると判断し、また、オウム真理教関係者ないし信徒集団が関与している疑いがあると判断したこと、さらには、オウム真理教名古屋支部として使用されていた万国ビル三階に本件第一被疑事件の動機、背景、組織性等を解明するのに必要な各種資料がある蓋然性が高いと判断したことは、合理的かつ相当であったといえる。
これに対し、原告は、本件第一被疑事件は、邦宏と孝幸のいわば兄弟げんかにすぎず、オウム真理教の教義とは関係がなく、信徒集団の組織的関与は存在しないと主張し、右主張に沿う証拠(甲四、証人邦宏)も存在する。また、邦宏の供述調書(乙一四)にも、邦宏が本件第一被疑事件前に、両親から孝幸の様子がおかしいという相談を受けた旨の供述が記載されている。
しかし、前記のとおり、本件第一令状請求当時、本件第一被疑事件につき単なる兄弟げんかによるものではなく、オウム真理教の教義がその動機となっている疑い及び信徒集団による組織的犯行である疑いがあると判断するに足りる客観的状況が存在していた以上、岩村の右判断に違法な点があったということはできない。
また、原告は、邦宏の山岡に対する供述のうち、「魔境」、「悪業」という言葉の具体的な意味内容は明らかではないから、邦宏の右供述をもって、本件第一被疑事件とオウム真理教の教義、信徒集団との関連性及び万国ビル三階との関連性を判断することはできないと主張する。
しかし、乙一四によれば、石塚が孝幸を指導していたこと、石塚が邦宏に対して孝幸を説諭するように指導したことが認められ、加えて、前記説示のとおり、本件第一被疑事件発生直前の平成八年六月一九日午後九時ころ、邦宏が万国ビル三階においてオウム真理教の修行をしていたこと及び本件第一被疑事件発生後の同月二〇日午前四時ないし五時ころ、邦宏が負傷した孝幸を連れて万国ビル三階を訪れたことを併せ考えると、原告の前記主張は、本件第一被疑事件とオウム真理教及び信徒集団並びに万国ビル三階との間に関連性があると判断したことの合理性に影響を与えるものではない。
(三) 本件第一被疑事件と別紙一記載の差し押さえるべき物との関連性
(1) 証拠(乙一の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、岩村が、本件第一令状請求に当たり、差し押さえるべき物として記載したのは、本件第一令状における差し押さえるべき物と同様別紙一記載のとおりであったと認められる。以下、別紙一各項記載の差し押さえるべき物と本件第一被疑事件との関連性を検討する。
(2) 第一項(本件犯行事案に関連する事項を記載した日記、日誌、メモ類、フロッピーディスクの類)について
右記載に該当する物件が、本件第一被疑事件と関連性を有することは明らかである。
(3) 第二項(オウム真理教の組織及び主義主張、方針等を現す文書、バッジ、図画、写真、録音テープ、ビデオテープ、メモの類)について
前記(二)認定のとおり、本件第一被疑事件にオウム真理教の教義が動機となっていた疑い及び信徒集団の組織的関与の疑いがあったことにかんがみると、同事件の解明のためには、信徒集団の組織構成、主義主張及び方針等を示す資料の収集が必要であったといえるから、右記載に該当する物件は、本件第一被疑事件と関連性を有するものと認められる。
(4) 第三項(組織活動の計画、指令、連絡、調査、結果報告等の文書及びこれらの原稿、会議録、議事録、地図、図表の類)について
前記(二)のとおり、本件第一被疑事件に信徒集団が組織的に関与していた疑いがあり、その関与の有無を解明するためには、信徒集団の組織活動に関する資料を収集する必要があったといえるから、右記載に該当する物件は、本件第一被疑事件と関連性を有するものと認められる。
(5) 第四項(ビラ、パンフレット、日記、名刺、手帳、ノート、メモの類)について
前記(二)のとおり、本件第一被疑事件にオウム真理教の教義が動機となっている疑い及び同事件に信徒集団が組織的に関与している疑いがあったことにかんがみると、同事件解明のためにはオウム真理教の教義及び信徒集団の組織構成、主義主張、活動方針等を明らかにする必要が存在したといえるところ、そのためには、オウム真理教の教義、信徒集団の組織構成、主義主張等を直接記載した第二ないし第三項に記載された各物件の外、かかる記載が直接的にはされていない文書をも収集・分析することにより右各事実関係を明らかにする必要があるといえるから、ビラやパンフレットを一般的に差し押さえることも本件第一被疑事件と関連性を有するものといえる。さらに、オウム真理教信者は教団施設に泊まり込んで修行を行うなど、その私生活が教団ないし信徒集団の活動と一体化している状況がある(当裁判所に顕著な事実である。)から、「本件犯行事案に関連する事項を記載した」との限定のある日記及び「メモ」類並びに「オウム真理教の組織及び主義主張、方針等を現す」との限定のあるメモ類のみならず、一般的に、日記、名刺、手帳、ノート、メモの類を差し押さえて、本件第一被疑事件に関わる事実関係を明らかにする必要があったと認められる。
(6) 第五項(信徒名簿、住所録、電話帳、往復文書、葉書、手紙の類)について
前記(二)のとおり、本件第一被疑事件に信徒集団が関与していた疑いがあったことにかんがみると、同事件に具体的に誰が関与していたかを明らかにするための前提として、右記載に該当する物件により、万国ビル三階に出入りしている信徒集団の氏名や住所を把握する必要があったといえるから、右記載に該当する物件は、同事件と関連性を有するものといえる。
(四) 別件捜索差押えないし目的外流用に該当するか。
(1) 原告は、<1>一宮署司法警察職員が孝幸及び石塚の取調べを行っていないこと、<2>孝幸の負傷はごく軽微なものであり、本件第一令状請求の必要性がなかったこと、<3>香田ら本件第一捜索差押えを実施した一宮署司法警察職員らが、万国ビル三階に存在していた信徒名簿、住所録をすべて差し押さえたこと、<4>一宮署警察官らは、岩村の指示により、本件第一捜索差押えにより押収した各物件の内容を記録したことは、本件第一令状請求が、別件捜索差押えないし目的外流用を企図した違法なものであることの証左である旨主張する。そこで、以下、右各事実関係について検討の上、本件第一令状請求が別件捜索差押えないし目的外流用として違法になるかどうかを検討する。
(2) 孝幸及び石塚の取調べを実施したかどうかについて
<1> 邦宏逮捕後同人が起訴猶予処分となるまで、孝幸の取調べが行われなかったことは当事者間に争いがない。
しかし、証拠(甲四、二二、証人邦宏、証人岩村)によれば、孝幸は、本件第一被疑事件の後、精神状態が不安定となり、平成八年七月一日、精神分裂病で愛治病院精神科に転院したこと、同人の精神状態が不安定だったため、中署警察官及び一宮署司法警察職員は、同人の取調べを行うことができなかったことが認められる。
以上の事実関係にかんがみると、孝幸の取調べをすることができなかったことには合理的理由があるといえるから、一宮署司法警察職員が、同人の取調べをしなかったことを理由として、本件第一令状請求が、別件捜索差押えないし目的外流用を企図したものであるということはできない。
<2> 証拠(証人岩村)によれば、一宮署司法警察職員は、平成八年七月ころ、本件第一被疑事件について、石塚の取調べを行っていることが認められるから、石塚の取調べとしていないとする原告の主張は失当である。
(3) 孝幸の負傷の程度及び本件第一捜索差押えの必要性について
前記(一)(1) 認定のとおり、孝幸は、本件第一被疑事件により、頭部挫創、全身擦過傷、右眼球結膜下出血の傷害を負っており、同人の受傷状況は、決して軽微なものとは評価できないし、前記(二)説示のとおり、同事件は信徒集団の組織的関与が疑われている事案であることにかんがみると、本件第一被疑事件が、捜査、処罰の必要のない軽微な事件であると判断することは困難である。
加えて、前記(一)の事実関係によれば、万国ビル三階に出入りする原告ないし信徒集団の関係者から任意の証拠提出を求めることは期待できず、かえって証拠隠滅のおそれがあるといえるし、また、証拠(乙三、八、九、一一)によれば、本件第一令状請求当時、信徒集団が万国ビル三階を同ビルの貸主に明け渡す可能性が高かったこと、一宮署司法警察職員においてもその事実を把握していたことが認められる。
以上の事実関係にかんがみると、本件第一捜索差押えには、その必要性に欠けるということは到底できない。
(4) 一宮署司法警察職員らが、本件第一捜索差押えにおいて、信徒名簿、住所録をすべて差し押さえた事実について
証拠(証人香田)によれば、本件第一捜索差押えにおいて、香田ら一宮署司法警察職員らは、万国ビル三階から発見した信徒名簿、住所録をすべて差し押さえたことが認められる。
しかし、前記(二)及び(三)のとおり、本件第一被疑事件には、信徒集団の組織的関与の疑いがあり、具体的な関与者の氏名を特定する前提として、信徒名簿及び住所録を差し押さえる必要があったといえるから、これらの物をすべて押収したことをもって、本件第一捜索差押えが別件捜索差押えないし目的外流用であり、さらに、本件第一令状請求が別件捜索差押えないし目的外流用を企図した違法な請求であったということはできない。
(5) 一宮署司法警察職員らは本件第一捜索差押えの押収品を記録したか。
一宮署司法警察職員らが、押収品の分析に際し、その内容を記録したとしても、それが別件捜索差押えないし目的外流用を根拠づけるものではない。
(6) 右(1) ないし(5) の検討の外、前記(二)及び(三)の検討にかんがみると、本件第一令状請求が、別件捜索差押えないし目的外流用を企図したものとは認められない。
(五) 小括
以上より、本件第一令状請求時までに通常要求される捜査によって収集した証拠に基づき、犯罪の嫌疑、捜索差押えの必要性、万国ビル三階に差し押さえるべき物の存在する蓋然性がいずれもあるとした岩村の判断は、合理的かつ相当であると評価できる。したがって、本件第一令状請求を違法であるということはできない。
3 争点3について
前記2で検討したところによれば、本件第一令状四通を発付するに当たっては、捜索差押えの要件が満たされていたものと認められるから、本件第一裁判官による右令状の各発付が違法であるということはできない。
4 争点4について
(一) 別紙二番号1について
証拠(乙一二、証人香田)及び弁論の全趣旨によれば、別紙二番号1記載のノートは、在家信徒が万国ビル三階の道場に来た際、どのような修行をするかの決意を記載していたものであり、氏名、出入りの時間、修行内容といった在家信徒の活動状況が記載されていたものと認められる。
右記載内容にかんがみると、右ノートは、特定の在家信徒の万国ビル三階への出入り状況及び活動状況を把握するための資料として、オウム真理教の組織及び主義主張、方針等を現わす文書等(別紙一記載の差し押さえるべき物第二項)又は組織活動の計画、指令、連絡、調査、結果報告等の文書等(同第三項)に該当するものとみることができる。したがって、右ノートを、差し押さえるべき物第二項ないし第三項に該当し、本件第一被疑事件と関連性があるとして押収した香田ら本件捜索差押えを実施した一宮署司法警察職員(以下「香田ら」という。)の判断は、合理的かつ相当であるといえる。
(二) 同番号2について
証拠(乙一二、証人香田)及び弁論の全趣旨によれば、同番号2記載のノートは、在家信徒が、オウム真理教の主義主張、活動方針等が録画されたビデオテープを借りる際の貸出ノートであり、氏名、ビデオテープの番号及び題名が記載されていたものと認められる。
右記載内容にかんがみると、右ノートを見れば在家信徒がどのビデオテープを見たのかが把握でき、その意味で、右ノートは在家信徒の活動状況が把握できる資料であるということができるから、右ノートを、差し押さえるべき物第二項又は第三項に該当し、本件第一被疑事件と関連性があるとして押収した香田らの判断を違法ということはできない。
(三) 同番号3について
証拠(乙一二、証人香田)及び弁論の全趣旨によれば、同番号3記載のノートは、万国ビルで開催されたセミナーに関し、信徒の活動方法に関する指示事項が記載されたものであると認められる。
右記載内容にかんがみると、右ノートは、セミナーにおいて信徒の活動に関してどのような指示をしたかを把握するための資料であるから、別紙一記載の差し押さえるべき物第二項又は第三項に該当するものといえる。したがって、本件第一被疑事件と関連性があるとして押収した香田らの判断は、合理的かつ相当である。
これに対し、原告は、右ノートには、セミナーに参加した在家信徒の氏名しか記載されていない旨主張する。しかし、右ノートは、原告に還付されており(当事者間に争いがない。)、原告において書証として提出することが可能であったにもかかわらず、原告は、右主張を裏付ける右ノートを書証として提出していないから、右主張はにわかに採用できない。
(四) 同番号4ないし11、13、14について
証拠(甲七、八、乙一二、証人香田)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 同番号4記載の葉書六二枚及び同番号14記載の葉書五七枚は、いずれもオウム出版発行の書籍の愛読者カードであり、差出人の住所、氏名、性別、職業等が記載されていたこと、(2) 同番号5記載の名簿一二枚は、万国ビル三階を訪れた信徒の住所、氏名を記載したものであること、(3) 同番号6記載の名簿一枚は、教団ないし信徒集団主催のセミナーに参加した信徒の氏名が記載されたものであること、(4) 同番号7及び10記載の名簿一二枚は、いずれも万国ビル三階で行われた教団ないし信徒集団主催のセミナーに参加した信徒の氏名が記載されたものであること、(5) 同番号8記載の来道者リスト一枚は、オウム真理教名古屋支部に出入りした信徒の氏名等が記載されたものであること、(6) 同番号9記載の入会申込書(灰色ファイルセットに綴られたもの)は、入信希望者の記載する申込書であり、いずれも氏名、住所、性別、出家か在家のいずれを希望するか等が記載されていたものであること、(7) 同番号11記載のアンケート二一通は、オウム真理教(教団ないし信徒集団)主催のセミナーに参加した者がアンケートに回答したものであり、信徒番号、氏名、感想が記載されているものであること、(8) 同番号13記載のアンケート三二通は、万国ビル三階で行われたオウム真理教の説法会の参加者がアンケートに回答したものであり、信徒番号、氏名、感想が記載された者であることが認められる。
右各記載内容及び右各物件がいずれも万国ビル三階から発見されたことにかんがみると、右各物件は、同ビル三階すなわちオウム真理教名古屋支部と関連の深いオウム真理教の信者又は同教の教義に関心を有する者の氏名等が記載されたものであるとみることができるから、本件第一被疑事件に具体的に関与した信徒集団関係者を特定する前提として、その氏名を特定するために必要な資料であるということができる。したがって、右各葉書等を、差し押さえるべき物第五項に該当し、本件第一被疑事件と関連性があるとして押収した香田らの判断は、合理的かつ相当である。
(五) 同番号12について
証拠(乙一二、証人香田)及び弁論の全趣旨によれば、同番号12記載の指導書二二通は、オウム真理教(教団ないし信徒集団)幹部と思われる者から各信徒に対する指示事項が記載されたものであると認められる。
右記載内容にかんがみると、右各指導書は、オウム真理教の活動方針又は組織活動に関する計画、指令が記載されたものであり、教団ないし進路集団の活動方針、組織活動の計画を把握するための資料として、差し押さえるべき物第二項又は第三項に該当するものといえる。したがって、本件第一被疑事件と関連性があるとして押収した香田らの判断は、合理的かつ相当である。
(六) 小括
以上のとおり、本件第一捜索差押えにおいて、押収された各物件につき、別紙一記載の差し押さえるべき物に該当し、かつ、本件第一被疑事件と関連性があるとした香田らの判断に違法な点はないというべきである。
二 本件第二捜索差押えについて
1 争点1について
(一) 本件第二令状請求に至るまでの捜査経過
争いのない事実、証拠(乙二、一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、本件第二被疑事件の発生から本件第二令状請求に至るまでの捜査経過は、次のとおり認められる。
(1) 緑署の当直警察官は、平成九年四月七日午後一〇時四五分ころ、被害者の妻から、「オウム真理教の人たちが家に来て怖くて困っている。今、夫(被害者)が一人で話をしにいっているので、心配している」旨の電話を受けた。右電話の途中で、被害者が帰宅したので、警察官は出向かなかった。
(2) 当時緑署警備課長だった水野は、同月八日出勤した際、右当直警察官から、右電話連絡のあった旨の報告を受けた。そこで、水野は、同署警備課員に、被害者及びその妻から事情聴取するよう指示した。
(3) 被害者は、数度にわたる緑署警察官による事情聴取において、一貫して、次のとおり供述した。
<1> 長男である鈴木は、昭和六二年ころ、オウム真理教に入ったが、平成九年になって、オウム真理教から脱会したと言っていた。
<2> 平成九年四月七日午後一〇時四〇分ころ、妻が、「オウム真理教の人が長男に会いたいと言って来ている。長男がいないと言っても帰らない。」と言った。
<3> 妻に案内されて二人でオウム真理教の者が乗っている自動車のところに行った。妻は、警察に助けを求める電話をするため、自宅に戻った。
<4> 車内には、運転席と助手席にいずれも二〇歳くらいの女性が乗っていた。後部座席はカーテンが閉められており分からなかった。
<5> 運転席の女性に何をしに来たか尋ねると、鈴木のオウム真理教信者仲間の呼び名を言って、「以前金山に道場があった時は来ていたのに、最近全然来てくれない。」と返答した。鈴木がオウム真理教をやめると言っている旨を告げると、「何も聞いていない。脱会届も出ていない。原因があるならそれを聞きたい。」などと答えた。
<6> 被害者が、オウム真理教の信者が鈴木を何が何でも連れ戻しに来たと感じて、自動車に乗っていた女性に対し、警察に連絡する旨言うと、運転席の女性は、突然自動車のエンジンを掛け、助手席の女性が「馬鹿野郎」と、運転席の女性が「会えるまで何度でも来てやる。邪魔する奴は、どうなっても知らないからな。覚悟しておけよ。」と言って、立ち去った。
(4) 他方、被害者の妻は、数度にわたる緑署警察官による事情聴取において、一貫して、次のとおり供述した。
<1> 鈴木は、長い間オウム真理教の信者だったが、平成九年になって脱会したと言っていた。
<2> しかし、オウム真理教の信者から、鈴木に対して、再三電話が掛かってきていた。
<3> 平成九年四月七日午後九時五〇分ころ、自宅に女性が鈴木を訪ねてきたので、不在である旨告げると、一旦立ち去った様子であったが、外の様子を見ると、自宅前に自動車が停まっており、立ち去る気配はなかった。
<4> 自動車のところに行くと、運転席と助手席の後ろに若い女性が、最後部の座席に男性と思われる者が乗っていた。車内の者らに対し、鈴木の帰りが遅くなる旨を告げても、帰る気配はなかった。
<5> 鈴木がオウム真理教を脱会したと言っている旨を告げると、運転席の女性が、「そんなことは聞いたことがない。本人に直接聞きます。」と言った。
<6> その後、自動車は自宅前から自宅を一本南に入った道路に移動した。
<7> そこで、被害者に事情を話して、一緒に自動車のところに行ったが、不安になったので、自宅に戻り、緑署に電話を掛け、「オウムの人たちが来て困っている。」などと話していると、被害者が戻ってきた。
(5) また、被害者は、自動車に乗っていた女性の特徴を、比較的長い感じの髪型で、いずれも白っぽい服装をしていた、自動車のナンバーは分からないが、黒っぽいワゴン車であったと供述した。
(6) 信徒集団ないし原告が金山に所在していた道場を拠点としていたころ、同道場に出入りしていた者の中で、被害者が供述する被疑者らの特徴に該当する者は見当たらなかった。
(7) 水野は、右事実関係から、オウム真理教信者である氏名不詳の者二名が、被害者を脅迫したという本件第二被疑事件が発生し、同事件には、オウム真理教の組織的関与の疑いがあると判断し、同年五月一二日、犬塚において、本件第二被疑事件につき、信徒集団が原告の名で活動していると従前から把握していた野村本社ビルを捜索場所として、差し押さえるべき物を別紙三のとおりとする捜索差押許可状を、被害者及び同人の妻の供述調書、捜査報告書等を疎明資料として請求した(本件第二令状請求)。
(二) 本件第二被疑事件の嫌疑の存否
本件第二令状請求をした司法警察員である犬塚及び捜査主任官である水野は、本件第二令状請求に至るまでに、前記(一)認定のとおり、(1) 被害者が、一貫して、オウム真理教の信者と思われる二〇歳位の女性から、「会えるまで何度でも来てやる。邪魔する奴は、どうなっても知らないからな。覚悟しておけよ。」と申し向けられた旨供述していること、(2) 被害者の妻が、当日、一一〇番通報をしていること、(3) 被害者と被害者の妻の供述が、鈴木方に訪れた被疑者の人数、乗車位置、犯行に至る経緯等において、大筋で合致していたことの各事実を認識していたことが認められる。右各事実にかんがみると、本件第二被疑事件が発生したとする犬塚及び水野の判断は相当かつ合理的であったといえる。
これに対し、原告は、平成九年四月七日ころに鈴木方に行き、被害者及び同人の妻と話をしたのは、西川及び田渕のみであるところ、同人らは、被害者に対し、前記認定のような脅迫的言辞を申し向けたことはないから、本件第二被疑事実の嫌疑は存在しないと主張する。そして、右主張に沿う証拠(甲五、六、証人西川)も存在する。
しかし、犬塚及び水野ら緑署司法警察職員が、本件第二令状請求当時、原告主張に係る事実を認識していたという証拠はまったくない。もっとも、これに対しては、原告は、緑署司法警察職員が、被疑者を特定するために鈴木の取調べをすべきであったにもかかわらず右取調べを行っていないし、また、原告に対する照会をすれば西川及び田渕が鈴木方に赴いたことは容易に知ることができたし、同人らを取り調べれば、本件第二被疑事件が存在しなかったことは容易に判明したのに、これらの捜査も行っていないと主張する。しかし、証拠(証人水野)によれば、水野は、被害者から、信徒集団から脱会しようとしていた鈴木を動揺させたくないから鈴木に対する取調べをしないように要請されていたので、同人の取調べをしなかったことが認められる。かかる事情が存在した以上、水野ら緑署司法警察職員が、鈴木を取り調べなかったとしても、通常の捜査から逸脱した不当な捜査方法とはいえないというべきである。また、後記(三)認定のとおり、本件第二被疑事件には、オウム真理教の組織的関与が疑われ、水野ら緑署司法警察職員においても右疑いを有していたことが認められるところ、かかる事実関係の下で、原告に対し、本件第二被疑事件につき照会することを要求することは、被疑者らに罪証隠滅の機会を提供するおそれがあり、およそ、通常の捜査手法から逸脱するものといわざるを得ない。
よって、原告の右主張は理由がなく、水野ら緑署司法警察職員は、通常の捜査手法によって得られた情報により、本件第二被疑事件が発生したとする判断に到達したものというべきであり、本件第二令状請求当時における犬塚及び水野の判断を違法と評価することはできない。
(三) 本件第二被疑事件と原告及び野村本社ビルとの関連性
(1) 前記(一)及び(二)認定のとおり、被害者及び同人の妻が、<1>息子である鈴木がオウム真理教から平成九年になって脱会したと言っていたこと、<2>被疑者らがオウム真理教の信者であることを窺わせる発言をしていたこと、<3>被疑者らが、鈴木に直接会って脱会理由をただそうとする言動をしていたこと、<4>被害者が被疑者らの退去を求めたところ、同人らは被害者に対して脅迫的言辞を申し向けたことをそれぞれ供述しており、右各供述には信用性が認められることに加えて、証拠(乙一三)によれば、平成九年一月三一日にオウム真理教に対する破壊活動防止法に基づく処分請求が棄却された後、オウム真理教信者が、脱会した元信者に対する呼び戻し工作等の活動を活発に活動していたことを愛知県警察において把握していたことが認められるし、前記一2(一)(11)認定のとおり、平成七年春以降、教団ないし信徒集団が、オウム真理教の教義を実践するために必要があれば、殺人行為も容認していたと一般的に疑われており、また、信徒に対するリンチ殺害事件等オウム真理教信者による凶悪事件が複数発覚していたことにかんがみると、犬塚及び水野が、本件第二被疑事件につき、犯行動機がオウム真理教の教義に基づくものである疑い及び信徒集団が組織的に関与している疑いがあると判断したことは合理的かつ相当であったといえる。
(2) そして、証拠(乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、緑署司法警察職員は、本件第二令状請求当時、野村本社ビルにおいて信徒集団が原告の名において宗教活動をしていたことを認識していたことが認められ、この事実に前記(1) の事実関係を併せると、野村本社ビルに、本件第二被疑事件の動機、背景、組織性を解明するのに必要な差し押さえるべき物が野村本社ビルに存在する蓋然性が高いとした犬塚及び水野の判断は、合理的かつ相当であったといえる。
(3) これに対し、原告は、本件第二被疑事件は、突発的、偶発的な行動であるから、同事件の動機がオウム真理教の教義に基づくものであったり、同事件に信徒集団などオウム真理教関係者が組織的に関与していることはあり得ないと主張する。
しかし、前記(二)、(三)(1) 認定の各事実にかんがみると、本件第二被疑事件は、オウム真理教信者らが脱会した信者を連れ戻そうとする過程において発生したものであり、同事件が第三者からの妨害に対する組織的対応である疑いがあり、その全容解明のためには、オウム真理教の教義や同事件に対する信徒集団の組織的関与の有無を捜査する必要があると認められるから、原告の右主張は理由がない。
(四) 捜索差押えの必要性
前記(一)認定のとおり、本件第二令状請求当時、本件第二事件の被疑者が特定されていなかったこと、前記(三)説示のとおり、本件第二被疑事件につき、動機がオウム真理教の教義に基づくものである疑いがあること及び信徒集団の組織的関与の疑いがあることにかんがみると、同事件の被疑者を特定すること及び同事件の全容を解明するためには、野村本社ビル内にある資料により、同事件の被疑者を特定する前提となる信徒集団の氏名等を特定することやオウム真理教の教義、信徒集団の組織構成、主義主張、方針等を把握することが必要であったと認められる。したがって、本件第二捜索差押えをする必要性があると判断した犬塚及び水野の判断は、合理的かつ相当であった。
これに対し、原告は、同事件につき、原告に問い合わせがあれば、同事件発生日時ころに鈴木方に赴いたのが西川及び田渕のみであったことを伝え、同人らに任意出頭させる意図であったし、同人らも任意出頭する意思があったから、本件第二捜索差押えをする必要はなかったと主張する。
しかし、前記(二)判示のとおり、本件第二被疑事件につき原告に照会することは通常の捜査手法とは言い難く、かえって被疑者らに証拠隠滅の機会を与えるおそれがあると考えられることからすれば、原告の右主張をもって、本件第二捜索差押えの必要がなかったということはできない。
また、原告は、本件第二被疑事件当時、野村本社ビルで活動していたオウム真理教出家信者は女性四名、男性五名のわずか九名にすぎず、同事件の被疑者である女性二名を特定するのは、本件第二捜索差押えによらずとも可能だったと主張する。
しかし、証拠(甲四、五、六、乙一一、一三、一四、証人邦宏、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、オウム真理教には出家信者のほか在家信者も多数存在しており、右在家信者も信徒集団の支部所在地に出入りしていることが認められるから、本件第二被疑事件の被疑者を野村本社ビルで活動する出家信者に限定することはできない。よって、原告の主張は理由がない。
(五) 本件第二被疑事件と別紙三記載の差し押さえるべき物との関連性
前記(三)、(四)説示のとおり、本件第二捜索差押えにより、本件第二被疑事件の被疑者の特定をする必要及び同事件の全容解明のためにオウム真理教の教義、信徒集団の組織構成を把握する必要があったことにかんがみると、本件第二捜索差押えにつき、差し押さえるべき物として記載された、被疑者を特定するための資料(別紙三の第一項)及び犯行の組織性立証のための資料である組織、主義、主張、方針並びにこれらを明らかにした書類等(同第二項)は、いずれも、本件第二被疑事件と関連性があったといえる。
これに対し、原告は、本件第二被疑事件は、突発的、偶発的な行動であるから、同二項記載の書類等は、同事件と関連性がないと主張する。
しかし、前記(三)(3) 説示のとおり、右主張は理由がない。
(六) 別件捜索差押えないし目的外流用に該当するか。
(1) 原告は、<1>西川及び田渕を含む原告関係者ら及び鈴木の取調べがされていないこと、<2>原告が運送業を営んでおらず、車両の管理、運行に関するデータ等をコンピューターに入力しているとは考え難いにもかかわらず、本件第二令状請求に際し「車両の管理・運行等に関するデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物」を掲げていること、<3>原告が平成九年三月ころに野村本社ビルに移転した約一箇月後に発生した本件第二被疑事件からさらに一箇月以上経過して本件第二令状請求をしたことの各事実は、本件第二令状請求が、別件捜索差押えないし目的外流用を企図した違法な令状請求であることの証左であると主張する。そこで、以下、右各事実関係について検討の上、本件第二令状請求が別件捜索差押えないし目的外流用を企図したものといえるかについて検討する。
(2) 原告関係者及び鈴木の取調べがされていない点について
<1> 本件第二被疑事件につき、西川及び田渕を含む原告関係者らに対する取調べがされていないことは当事者間に争いがない。
しかし、捜査において誰をどの段階で取り調べるかは捜査機関の裁量に委ねられている事項であるから、右取調べがされていないことをもって、本件第二令状請求を別件捜索差押えないし目的外流用を企図したものということはできない。特に、本件第二令状請求時に、緑署司法警察職員において本件第二被疑事件の被疑者が誰であるか判明していなかった(乙一三、証人水野)のであるから、西川及び田渕の取調べを行うことはできなかったし、被疑者不特定のまま原告関係者を取り調べることは、右取調べを察知した被疑者らに証拠隠滅の機会を与えるおそれがあり、通常の捜査手法とは言い難いというべきである。
<2> また、本件第二被疑事件につき、鈴木の取調べがされていないことも当事者間に争いがないが、この点については、前記(二)認定のとおり、鈴木の実父である被害者から鈴木を動揺させないために同人を取り調べないよう申入れがされているという合理的な理由が存在するので、これをもって、本件第二令状請求を別件捜索差押えないし目的外流用を企図したものということはできない。
(3) 車両管理・運行に関する電磁的記録等を差し押さえるべき物に記載している点について
原告は、運送業を営んでいないことを前提に車両管理・運行に関する電磁的記録が原告に存在するとは考え難いと主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、原告は、会社の目的として陸上運送業を掲げていることが認められる。これに、前記(一)、(二)認定のとおり、本件第二事件の被疑者らが黒っぽいワゴン車を使用していた事実を併せ考えると、犬塚及び水野が、本件第二捜索差押えに当たり差し押さえるべき物として、第一項(3) に「車両の運行・管理に関するデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機」等を掲げたことは、合理的かつ相当であるということができる。
(4) 本件捜索差押えの時期と原告の野村本社ビルへの移転時期、本件第二被疑事件の発生時期の関係について
証拠(甲二〇、証人水野)によれば、原告が野村本社ビルを賃借して入居したのは、平成九年三月一五日であると認められる。そして、前記(一)のとおり、本件第二被疑事件が発生したのは同年四月七日であり、本件第二令状請求がされたのは同年五月一二日である。
しかし、右事実関係をもって犬塚及び水野が、別件捜索差押えないし目的外流用を意図して本件第二令状請求を右同日に行ったということはできない。
(5) 以上の検討及び後記認定のとおり本件第二捜索差押えに係る押収品が、いずれも本件第二被疑事件と関連性を有すると判断されることにかんがみると、本件第二令状請求が別件捜索差押えないし目的外流用を企図して行われたものとみることはできない。
(七) 小括
以上より、本件第二令状請求時までに通常要求される捜査によって収集した資料に基づき、犯罪の嫌疑、捜索差押えの必要性、野村本社ビルに差押え対象物が存在する蓋然性がいずれもあるとした犬塚及び水野の判断は、合理的かつ相当であると評価できる。したがって、本件第二令状請求を違法であるということはできない。
2 争点2について
(一) 前記1で検討したところによれば、本件第二令状を発付するに当たっては、捜索差押えの要件が満たされていたものと認められるから、本件第二裁判官による右令状の発付が違法であるということはできない。
(二) なお、原告は、本件第二令状の差し押さえるべき物が、別紙三のとおり、「被疑者を特定するために本件に関係のある」及び「犯行の組織性を立証するために本件に関連のある」と記載されているところ、被疑事実の記載がされていない本件第二令状では、右差し押さえるべき物の特定が不十分となるから、刑事訴訟法二一九条一項及び憲法三五条一項に違反すると主張する。
しかし、本件第二令状における差し押さえるべき物が別紙三記載のとおり、第一項に「被疑者を特定するために本件に関連のある」との記載に引き続いて、「(1) 計画・指令・通達・連絡・調査・報告類の文書及びこれらの原稿・メモの類並びにこれらのデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物、(2) 金銭出納帳(簿)、預金通帳、CDカード、伝票類及び日誌、手帳、ノート、領収書及びその他これに類する物、(3) 車両管理帳(簿)、車両運行帳(簿)並びに車両の管理・運行等に関するデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物」との記載が、第二項に「犯行の組織性を立証するため本件に関連のある」との記載に引き続いて、「(1) オウム真理教の組織、主義、主張、方針並びにこれらを明らかにした機関紙(誌)、ビラ、パンフレット類の文書、原稿、原版、録音テープ、メモの類並びにこれらのデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物、(2) 会議録、議事録、出席者名簿、住所録、電話帳並びにこれらのデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他これに類する物」との記載があることは当事者間に争いがないところ、右各記載が類型化された文書等を相当具体的に記載していることにかんがみると、本件第二令状において、被疑事実の記載がなくても、差し押さえるべき物は十分に特定されているというべきである。
なお、捜索差押え許可状に被疑事実を記載することは、憲法三五条一項及び刑事訴訟法二一九条一項の文理上要求されていないから、被疑事実の記載を欠くこと自体によって本件捜索差押え許可状が右各条に違反するとはいえない。
3 争点3について
(一) 別紙四番号1、2、5、6、23、32、34、40、49、60、61、62、66について
証拠(甲一〇、一八、乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 同番号1記載の各銀行預金通帳一二通は、原告従業員で、オウム真理教出家信者名義の銀行預金通帳であること、(2) 同番号2記載の各国民健康保険料納入通知書八通は、野村本社ビルに居住していた出家信者に対する国民健康保険料納入通知書であり、右出家信者の氏名が記載されていたこと、(3) 同番号5記載の領収書は、原告ないし信徒集団が野村本社ビルに移転する前に道場として使用していたマンションを賃借した際に支払った家賃、敷金、礼金等の領収書であり、信徒の氏名等が記載されていること、(4) 同番号6記載の仮払金申請書と記載された各領収書類の紙片七通は、原告又は出家者の会の名称が入った出家信者申請にかかる必要経費の仮払い申請書であり、氏名、仮払金、仮払い目的等が記載されていたこと、(5) 同番号23記載の陳述書と記載された各紙片七通は、信徒の住所氏名及びオウム真理教に対する破壊活動防止法適用に関する右信徒の意見が記載されたものであること、(6) 同番号32記載のノートは、連絡ノートと記載のあるもので、出家信者間の連絡帳として使用されていたものであり、出家信者に電話がありその者が不在だった場合に電話の内容を記載していたものであること、(7) 同番号34記載のホルダーは、その中に信徒の住所、氏名が記載された信徒あての領収書、請求書、明細書が入っていたこと、(8) 同番号40記載の各紙片七通は、信徒集団各支部において連絡用に使用されているものであり、信徒集団から各信徒に対する指示事項が記載された文書であること、(9) 同番号49記載の茶色封筒は、オウム真理教名古屋支部からオウム真理教あての記載があり、その中に信徒の氏名、信徒番号、活動状況が記載されたアンケ-卜様の文書が入っていたこと、(10)同番号60記載の写真は、信徒集団名古屋支部の信徒の集合写真であること、(11)同番号61記載の説法士認定試験解答用紙は、教団ないし信徒集団内で行われていた試験の解答用紙であり、信徒の氏名、解答が記載されていたこと、(12)同番号62記載のメモ用紙は、信徒の氏名等が手書きで記載されたものであること、(13)同番号66記載のアンケート用紙綴りは、信徒の住所、氏名、活動状況等が記載されたアンケート様の用紙が綴られたものであることが、それぞれ認められる。
右各押収品の内容、特に同番号60を除く右各押収品にはオウム真理教信者の氏名が記載されており、同番号60は信徒の集合写真であると認められることにかんがみると、右各押収品は、野村本社ビルに出入りする原告従業員たる出家信者ないし在家信徒等信徒集団の関係者を把握し、もって、本件第二被疑事件の実行行為者及び同事件に具体的に関与した者を特定する前提となる資料といえる。したがって、右各押収品を、差し押さえるべき物第一項に該当し、本件第二被疑事件と関連性があるとして押収した水野の判断は合理的かつ相当であるといえる。
(二) 同番号4、7、14ないし16、18、25ないし29、31、37、41ないし43、45、51、53ないし57、59、64、67、68について
証拠(甲一、一一、一二の1、2、一三、一五、一六、一九、二〇、乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 同番号4記載のビラは、野村本社ビルの道場開きの行事に参加を求める案内のビラであり、住所、地図、日時等が記載されていたこと、(2) 同番号7記載の紙片は、信徒の活動方法についての指示事項が記載されていたこと、(3) 同番号14記載の入門オウム真理教と記載された小冊子は、オウム真理教の主義主張及びその解説が記載されたものであること、(4) 同番号15記載の修行の手引き(会員版)と記載された小冊子は、九八頁にわたるものであり、修行の目的、修行のベースとなる功徳、具体的な修行法の意味合い・メリット・方法、日常生活におけるポイント、煩悩及び障害への対処法、修行を進めるヒント等について詳細な説明が記載されたものであること、(5) 同番号16記載の戦いか破滅かと記載された小冊子は、オウム真理教の主義、主張及び活動方針が記載されたものであること、(6) 同18記載の重要事項説明書は、原告ないし信徒集団が、野村本社ビルに移転する前に道場として使用していた建物部分の賃貸借契約における重要事項説明書であること、(7) 同25記載の各念書二通は、いずれも原告が野村本社ビルの賃貸人にあてた念書であり、<1>原告が、その都合により野村本社ビルに防音措置等の工事をすること及び解約時には原状に回復すること、<2>教団服の使用をしない、マントラの唱和を原則として行わず、行うときは付近住民に不安を生じさせないようにすること等を約した旨が記載されていること、(8) 同番号26記載の売買契約書は、原告(当時の商号は神聖真理発展社)が活動を始めるために、株式会社オウムから物品を購入した旨の契約書であること、(9) 同番号27記載の法人設立報告書は、原告(当時の商号は神聖真理発展社)が、平成七年一二月一日に、万国ビルに事務所を設置した旨を愛知県東新県税事務所長あてに提出した報告書であること、(10)同番号28記載の適用事業報告と題する紙片は、原告(当時の商号は神聖真理発展社)が、労働基準監督署あてに提出したものであり、事業の種類、名称、事務所所在地の外、労働者数、性別が記載されていたこと、(11)同番号29記載の紙片は、オウム真理教の主義主張が記載されたものであること、(12)同番号31のノート四冊は、教学ノ-トと記載されたもので、オウム真理教の主義主張及びその解説が記載されたものであること、(13)同番号37記載の「誤解を生じやすい教義、用語の公式解釈」と題する文書一〇通は、教団が、平成七年七月二九日、「タントラヴァジラヤーナ」、「ハルマゲドン」、「戦う」、「イニシエーション」、「ポワ」、「死」といったオウム真理教で一般に使用される用語や、説法等で引用される教典の内容、独房修行・集中修行の意義について記載したものであること、(14)同番号41記載のクリアケースは、その中にオウム真理教の主義主張及びその解説が記載された文書が存在したこと、(15)同番号42記載のクリアケースは、その中に教団ないし信徒集団から各支部に対する指示事項が記載された文書が存在したこと、(16)同番号43記載のノートは、説法ノート(メモ編)と記載されたもので、西川が個人的にオウム真理教の教義に関する説法をメモしたものであること、(17)同番号45記載の紙片は二八枚綴りのもので、受刑者である元出家信者から西川にあてられた手紙であり、その中にオウム真理教の主義主張ないしその説明が記載されたものであること、(18)同番号51記載のカセットテープは、教祖松本智津雄(以下「松本」という。)がマントラ(真言)を吹き込んだものであること、(19)同番号53記載の教本は、教団ないし信徒集団の支部活動のマニュアル的なものであり、オウム真理教の主義主張、教団ないし信徒集団内部の規則、活動方法等が記載されたものであること、(20)同番号54記載の書類入れフォルダーは、その中にグルヨーガという瞑想法の方法が記載された教本や信徒の活動状況が記載された文書が存在したこと、(21)同番号55記載の書類入れフォルダーは、その中に「許すな宗教弾圧」と記載されたビラ等オウム真理教の主義主張が記載されたビラやオウム真理教の主義主張、活動方法が記載された文書が存在したこと、(22)同番号56記載の書類入れフォルダーは、その中に「金剛菩薩フォーラム」と題する松本の説法等が記載された機関紙様の文書やオウム真理教の主義主張の記載されたノート類が存在したこと、(23)同番号57記載の書類入れフォルダーは、その中に教団ないし信徒集団の活動拠点が記された東京拘置所付近及び岐阜県内の地図が存在したこと、(24)同番号59記載のノートは、オウム真理教の主義主張、信徒への指示事項及び信徒の氏名、連絡方法等が記載されたものであること、(25)同番号64記載の「セミナープラグラム」と題する書面は、原告名古屋支店ないし信徒集団名古屋支部において行われていた行事の開始・終了時間及び担当者の氏名等が記載されたものであったこと、(26)同番号67記載の小冊子は、教団作成に係る教団運営要綱であり、<1>教団組織、<2>出家制度、布施、集中修行、化学部門の廃止及び医療面の当面の活動方針、関連施設、関連企業の設立・運営といった重要運営方針、<3>「タントラ・ヴァジラヤーナ」、「ハルマゲドン」、「イニシエーション」といった誤解を受けやすい教義の公式解釈、<4>指名手配者の出頭説得等の捜査協力や解決を公判に委ねるようにという一連の事件への対応方法について記載されたものであること、(27)同番号68記載の賃貸借契約書は、原告が平成九年三月一三日に、有限会社南山から野村本社ビルを期間を同月一五日から平成一一年三月一四日まで、賃料を月額四〇万円として賃借した旨の契約書であること、の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右各事実にかんがみると、右各押収物は、本件第二捜索差押え当時において、教団、信徒集団ないし原告の本件第二捜索差押えに至るまでの活動状況や信者に対する指示事項、オウム真理教の教義ないしその解説を把握し、ひいては、本件第二被疑事件に信徒集団の組織的関与が認められるか、同事件の動機がオウム真理教の教義に基づくものであるか否かといった同事件の全容を解明するのに必要な資料として、差し押さえるべき物第二項に該当するということができる。したがって、右各押収物を、差し押さえるべき物第二項に該当し、本件第二被疑事件に関連性があるとして押収した水野の判断は、合理的かつ相当であったといえる。
(三) 同番号8ないし13、17、19ないし22、24、30、33、35、36、38、39、44、52、65について
証拠(甲一四、乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 同番号8記載の紙片は、野村本社ビルにいた出家信者の氏名、信徒集団内での地位、ホーリーネームと呼ばれる信徒集団内での呼称等が記載されたものであること、(2) 同番号9記載の領収書は、野村本社ビルにおける電話使用料の領収書であり、信徒の氏名の記載もされていること、(3) 同番号10記載の「登録書」と題する紙片は、信徒の住所、氏名等の身上関係が記載されたものであること、(4) 同番号11記載のビニールホルダーは、その中に信徒の氏名及び信徒から教団ないし信徒集団に対する金銭の入金状況が記載された紙片八枚が存在したこと、(5) 同番号12記載の簿冊は、西川名義の原告会員(在家信徒)名簿であり、在家信徒らの氏名、住所、血液型、会費の支払状況等が記載されたものであること、(6) 同番号13記載の名簿類の紙片九通は、信徒の住所、氏名等身上関係が記載されたものであること、(7) 同番号17記載の覚書九通は、在家信徒が教団ないし信徒集団に布施として金銭を給付する際に作成したものであり、信徒の住所、氏名等が記載されていたこと、(8) 同番号19記載のポケットベル契約申込書三通は、出家信者のポケットベル申込書の控えであり、氏名及びポケットベル利用契約に関する事項が記載されたものであること、(9) 同番号20記載の「ご注文内容のお知らせ」と題する紙片は、原告が野村本社ビルに移転する前に信徒集団の名古屋支部として利用されていた場所に設置された電話の契約に関する事項が記載された書面であり、信徒の氏名等の記載もあったこと、(10)同番号21記載の「利用休止のお知らせ」と題する書面七通は、教団、株式会社オウム及び信徒が設置した電話の利用休止に関する事項を記載した書面であり、信徒の氏名等の記載もあったこと、(11)同番号22記載の領収書七通は、出家信者が住居として賃借していたアパートの賃料の領収書であり、当該信徒の住所、氏名等の記載もあったこと、(12)同番号24記載の紙片九通は、原告から従業員である出家信者らに対して支給されていた賃金の台帳であり、右出家信者らの氏名、支払額等が記載されていたこと、(13)同番号30記載のルーズリーフノートは、教団ないし信徒集団内部の連絡方法に関する指示及び信徒の氏名等が記載されたものであること、(14)同番号33記載の紙片は、信徒の氏名、電話番号等が記載されたものであること、(15)同番号35記載の会員証一七通は、原告が発行した会員証であり、会員である信徒の氏名等が記載されていたこと、(16)同番号36記載の紙片三通は、信徒の氏名、電話番号等が記載された名簿様のものであること、(17)同番号38記載の紙片三通は、返済金リストと題するもので、信徒の氏名及び信徒から教団ないし信徒集団に対する行事参加代金等の金銭の支払状況が記載されたものであること、(18)同番号39記載のノートは、教団ないし信徒集団名古屋支部の収入及び支出の状況が記載された出納帳と思われる内容であること、(19)同番号44記載の紙片は、信徒の氏名等が記載された名簿様のものであること、(20)同番号52記載のメモ帳は、オウム真理教の主義主張及び信徒に対する指示事項が記載されたものであること、(21)同番号65記載の名簿は、信徒八名の氏名、電話番号等が記載された名簿様のものであること、がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
右各事実にかんがみると、右各押収物のうち同番号39記載のものを除く各物件は、信徒等オウム真理教関係者の氏名等を把握し、もって、本件第二被疑事件の被疑者特定の前提資料となる点で、差し押さえるべき物第一項に該当するものということができる。また、右各押収物のうち同番号10、13、33、35、36、44、65を除く各物件は、オウム真理教の主義主張、活動方針や教団ないし信徒集団の電話・ポケットベルの使用状況、金銭の流れ、信徒等信徒集団の関係者の信徒集団内での地位といった事項を把握し、もって、同事件の動機がオウム真理教の教義に基づくものであるか否か、同事件に信徒集団の組織的関与が存在するか否かといった同事件の全容解明に資する資料として、差し押さえるべき物第二項に該当するものということができる。したがって、右各押収物を、差し押さえるべき物第一項及び第二項に該当し、本件第二被疑事件と関連性があるとして押収した水野の判断に違法な点はない。
(四) 同番号3について
証拠(甲九、乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、同番号3記載の小冊子は、ヘラクレストレーニングと表題のある一七頁の運動機器の取扱説明書であり、そのはしがきに相当する部分(一頁及び二頁)には、「わたしたちは今、サリンやイペリットという毒ガスの攻撃を受けている。したがって、これらの毒ガス攻撃によってわたしたちの筋肉が痛んでいることは、初めに注意しておく必要がある。」及び「今はまさにヴァジラヤーナの時代である。1人のサマナが力をつけることにより、2人分、3人分の肉体的パワーを発する。それだけではなく、プーラカのクンバカが1分、2分と伸びることによって集中力が増すことにより、同じだけの人数のサマナの、この現象界における救済活動は飛躍的に発展するはずである。」との記載があること、三頁以下には、器具の使用方法ないしトレーニング方法を写真入りで紹介していること、水野は、右小冊子を、内容的には修行の方法が書いてあり、いろいろな片仮名文字が入っていたので、何らかのものが含まれていないかと判断し、差し押さえるべき物第二項に該当するとして、押収したことの各事実が認められる。
この点につき、原告は、右小冊子は、市販の運動器具の説明書と内容において異なるものではないから、本件第二被疑事件との間に関連性は存在しないと主張する。
しかし、右認定に係るはしがきに相当する部分の記載内容は、教団ないし信徒集団が毒ガス攻撃を被っていることの注意を喚起し、救済活動の発展を勧める内容のものであり、かかる内容は、教団ないし信徒集団の主義主張、活動方針に当たるものということができるから、右小冊子を、差し押さえるべき物第二項に該当し、同事件に関連性があるとして押収した水野の判断に違法な点はない。
(五) 同番号58について
証拠(甲一七、乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、同番号58記載の書類入れフォルダーは、成沢章嘉と氏名が記載されており、その中に、逮捕勾留マニュアルと題するパンフレットや教団ないし信徒集団から信徒に対する活動方法についての指示事項を記載した文書等が存在したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
この点につき、原告は、右逮捕勾留マニュアルは、本件第二被疑事件と関連性を有しないから、右書類入れフォルダーも同事件と関連性を有しない旨主張する。
しかし、証拠(甲一七)によれば、右逮捕勾留マニュアルは、信徒集団が平成八年九月、信徒集団に対する破壊活動防止法適用の可能性が高まり、「サマナ一人一人に逮捕勾留の可能性がある」ことを受けて、逮捕勾留により「真理の道を見失っ」たり「刑事や検事にうまく騙し込まれ、自分に不利な供述をしてしまった」りしないように、「最低限の法的知識を身につけ、勾留生活がどのようなものか、あらかじめ知っておく必要がある」ことから、「官憲の嘘に流されず、自己を守れるように、真理の道を失わないように」編集したものであり、その内容は、刑事訴訟法の知識を踏まえた捜査機関への対応、特に逮捕勾留された場合の救済手続や取調べへの対応に関するものであることが認められる。かかる記載内容にかんがみると、信徒集団が、本件第二被疑事件を含む信徒による違法な活動に関して、右逮捕勾留マニュアルを利用して組織的に証拠隠滅工作を企図しており、同マニュアルが、信徒集団の本件第二被疑事件に対する組織的関与を窺わせる資料と考えられる。したがって、同マニュアル自体、差し押さえるべき物第二項に該当し、本件第二事件と関連性があると判断できるから、原告の主張は採用できない。
また、右書類入れフォルダー内には、前記認定のとおり、右逮捕勾留マニュアル以外にも、教団ないし信徒集団から信徒に対する活動方法についての指示事項を記載した文書等も存在していたのであり、右文書が前記(二)の各物件同様差し押さえるべき物第二項に該当し本件第二事件と関連性があると評価できることからすると、右書類入れフォルダーが同事件と関連性がないということはできない。
以上、いずれの点から見ても、右書類入れフォルダーを、差し押さえるべき物第二項に該当し、本件第二被疑事件に関連性があるとして押収した水野の判断は、相当かつ合理的であったといえる。
(六) 同番号46ないし48、50、63について
(1) 証拠(乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、水野ら緑署司法警察職員らは、本件第二捜索差押えに当たり、右各押収物についてはその内容を確認することなく押収したこと、他方、野村本社ビルには、右各押収物のほかにもパソコンが一一台存在し、その近くにもフロッピーディスクが置かれていたが、右パソコンが起動中でその内容が本件第二被疑事件と関係のないアニメーション作成や私用に使われていたと判断して、押収されなかったことが認められる。
ところで、右各押収物は、いずれもそこに記載されている内容が直接的には可視性、可読性を有しないものであるところ、このような物件については、被疑事実に関連する記載が含まれていると疑うに足りる合理的理由があり、かつ、捜索差押えの現場では内容を確認するなどして被疑事実との関連性がないものを選別することが容易でないようなときに限り、内容を確認することなく差し押さえることが許されると解される。
以上を前提に、右各押収品について検討する。
(2) 同番号46ないし48について
証拠(乙四、五、一三、証人水野)によれば、<1>同番号46記載のハードディスク、同番号47記載のフロッピーディスク、同番号48記載のパソコン一式は、いずれも野村本社ビル一階の原告が事務室として使用している箇所に存在し、右フロッピーディスクは、右パソコン一式に近接した位置に存在していたこと、<2>右ハードディスクは、右パソコン一式と一体として使用されているものであるが、本件第二捜索差押え当時は取り外され、同ビル一階事務室部分の他の場所に置かれていたこと、<3>緑署司法警察職員が、立会人らに対し、検分のため右ハードディスクを提出するよう求めたが、同人らは「いつもこの状態である」と述べてこれに応じなかったこと、<4>その後、捜索が終了する直前に、右ハードディスクを発見したものの、右パソコン一式と接続するために必要な鍵を発見できなかったこと、<5>緑署司法警察職員が立会人らに対し右鍵の提出を求めたが、同人らは「そのようなものは存在しない」と述べてこれに応じなかったことが認められる。
以上の事実関係及び前記認定のとおり、本件第二捜索差押え当時、野村本社ビルが信徒集団の名古屋支部として使用されていたこと、本件第二被疑事件が信徒集団の組織的関与の疑いのある事案であったことにかんがみると、右各物件は一体として使用されていたと推認されるとともに、同事件の被疑者特定及び同事件の動機、信徒集団の組織的関与の有無に関わる情報が、右各物件の中に記録されていたと疑うに足りる合理的理由があったということができ、また、右認定に係る立会人らの対応等本件第二捜索差押えの状況にかんがみると、右各物件を現場で内容を検分して関連性の有無を判断することはできなかったといえる。
したがって、右各物件を差し押さえるべき事項第一項又は第二項に該当し、本件第二被疑事件との関連性があるとして押収した水野の判断は、合理的かつ相当であったということができる。
(3) 同番号50について
証拠(乙一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、同番号50記載の手提げ袋には、フロッピーディスクが一六〇枚入っていたこと、本件第二捜索差押えを開始するに際して、本件第二令状を呈示するなどしている間に、原告従業員が右手提げ袋を野村本社ビル一階の物置部分に移動させていたところを緑署司法警察職員が現認したこと、原告従業員から右一階物置部分は私物入れとして使用しているから捜索しないよう要請があったことが認められる。
右各事実及び前記(2) 説示の各事実関係にかんがみると、右各フロッピーディスクには、同番号46ないし48の各物件と同様、本件第二被疑事件の被疑者特定及び同事件の動機、信徒集団の組織的関与の有無に関わる情報が、右各物件の中に記録されていたと疑うに足りる合理的理由があったということができ、また、右フロッピーディスクの枚数が一六〇枚と多数にわたること及び右認定に係る原告従業員らの対応が証拠隠匿行為の疑いがあるとみられることからすれば、右各物件を現場で内容を検分して関連性の有無を判断することはできなかったといえる。
したがって、右各フロッピーディスク及びそれを入れた手提げ袋を、差し押さえるべき事項第一項又は第二項に該当し、本件第二被疑事件との関連性があるとして押収した水野の判断は、合理的かつ相当であったということができる。
(4) 同番号63について
証拠(乙四、五、一三、証人水野)及び弁論の全趣旨によれば、<1>同番号63記載のマハポーシャ製パソコン一式は、本件第二捜索差押え当時、野村本社ビル三階の道場として使用されていた部分に設置されており、起動されていなかったこと、<2>緑署司法警察職員が右パソコン一式を起動させようとしたが、ディスプレイを表示するソフトを発見することができず起動させることができなかったこと、<3>同司法警察職員が、立会人であった田渕及び他の原告従業員に対し、右パソコン一式を起動するよう求めたが、同人らは、操作方法が分からない旨述べて、これを起動しなかったことが認められる。右認定に反する田渕智子の陳述書(甲六)は、これを採用しない。
右各事実及び前記(2) 説示の各事実にかんがみると、右パソコン一式には、同番号46ないし48の各物件と同様、本件第二被疑事件の被疑者特定及び同事件の動機、信徒集団の組織的関与の有無に関わる情報が、右各物件の中に記録されていたと疑うに足りる合理的理由があったということができ、また、右認定に係る田渕や原告従業員らの対応等本件第二捜索差押えの状況からすれば、右各物件を現場で内容を検分して関連性の有無を判断することはできなかったといえる。
したがって、右パソコン一式を、差し押さえるべき事項第一項又は第二項に該当し、本件第二被疑事件との関連性があるとして押収した水野の判断は、合理的かつ相当であったということができる。
(七) 小括
以上のとおり、本件第二捜索差押えにおいて押収された各物件について、本件第二被疑事件との間に関連性があるとして、右各物件を押収した水野の判断に違法な点はないというべきである。
三 結語
以上のとおり、本件第一及び第二捜索差押えのいずれにおいても、捜索差押許可状請求及びその発付、捜索差押えの実施に違法な点は認められないから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がないから、これを棄却することとする。
(裁判長裁判官 前田順司 裁判官 成田晋司 裁判官長屋文裕は転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 前田順司)
別紙一
一 本件犯行事案に関連する事項を記載した日記、日誌、メモ類、フロッピーディスクの類
二 オウム真理教の組織及び主義主張、方針等を現わす文書、バッジ、図画、写真、録音テープ、ビデオテープ、メモの類
三 組織活動の計画、指令、連絡、調査、結果報告等の文書及びこれらの原稿、会議録、議事録、地図、図表の類
四 ビラ、パンフレット、日記、名刺、手帳、ノート、メモの類
五 信徒名簿、住所録、電話帳、往復文書、葉書、手紙の類
別紙二
番号 押収品名 数量
1 ノート 1
2 ノート 1
3 ノート 1
4 葉書 62
5 名簿 12
6 名簿 1
7 名簿 11
8 来道者リスト 1
9 灰色ファイルセット 1
10 セミナー説法参加者
(参加者リスト) 1
11 アンケート 21
12 指導書 22
13 アンケート 32
14 葉書 57
別紙三
一 被疑者を特定するため本件に関連のある
(1) 計画・指令・通達・連絡・調査・報告類の文書及びこれらの原稿・メモの類並びにこれらのデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物
(2) 金銭出納帳(簿)、預金通帳、CDカード、伝票類及び日誌、手帳、ノート、領収書及びその他これに類する物
(3) 車両管理帳(簿)、車両運行帳(簿)並びに車両の管理・運行等に関するデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物
二 犯行の組織性を立証するため本件に関連のある
(1) オウム真理教の組織、主義、主張、方針並びにこれを明らかにした機関紙(誌)、ビラ、パンフレット類の文書、原稿、原版、録音テープ、メモの類並びにこれらのデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物
(2) 会議録、議事録、出席者名簿、住所録、電話帳並びにこれらのデータを電磁的記録として記憶していると思料される電子計算機その他の記録媒体及びその他これに類する物
別紙四
番号 押収品名 数量
1 銀行預金通帳 12
2 国民健康保険料納入通知書 8
3 小冊子 1
4 ビラ 1
5 領収書 1
6 領収書類の紙片 7
7 紙片 1
8 紙片 1
9 領収書 1
10 「登録書」と題する紙片 1
11 ビニールホルダー 1
12 簿冊 1
13 名簿類の紙片 9
14 小冊子 1
15 小冊子 1
16 小冊子 1
17 覚書 9
18 重要事項説明書 1
19 ポケットベル契約申込書 3
20 「ご注文内容のお知らせ」と題する紙片 1
21 「利用休止のお知らせ」と題する紙片 7
22 領収書 4
23 紙片 7
24 紙片 9
25 念書 2
26 紙片 1
27 法人設立報告書 1
28 適用事業報告と題する紙片 1
29 紙片 1
30 ルーズリーフノート 1
31 ノート 4
32 ノート 1
33 紙片 1
34 ホルダー 1
35 会員証 17
36 紙片 3
37 資料 10
38 紙片 3
39 ノート 1
40 紙片 7
41 クリアケース 1
42 クリアケース 1
43 ノート 1
44 紙片 1
45 紙片 1
46 ハードディスク 2
47 パソコン用フロッピーディスク 1
48 パソコン一式 1
49 茶色封筒 1
50 手提げ紙袋 1
51 カセットテープ 1
52 メモ帳 1
53 教本 1
54 書類入れフォルダー 1
55 書類入れフォルダー 1
56 書類入れフォルダー 1
57 書類入れフォルダー 1
58 書類入れフォルダー 1
59 ノート 1
60 写真 1
61 説法士認定試験解答用紙 1
62 メモ用紙 1
63 マハポーシャ製パソコン一式 1
64 セミナープログラム 1
65 名簿 1
66 アンケート用紙綴り 1
67 小冊子 1
68 賃貸借契約書 1