大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京地方裁判所 平成9年(ワ)17114号 判決 1998年10月21日

原告 武蔵野たばこ自動販売機共済会

右代表者清算人 A

右訴訟代理人弁護士 片村光雄

右訴訟復代理人弁護士 菅重夫

原告補助参加人 武蔵野たばこ商業協同組合

右代表者代表理事 A

被告 株式会社富士銀行

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 海老原元彦

同 広田寿徳

同 竹内洋

同 馬瀬隆之

同 谷健太郎

被告 Y1

右訴訟代理人弁護士 田中和

同 西山鈴子

主文

一  被告株式会社富士銀行は、原告に対し、金五〇一万三二八八円を支払え。

二  被告Y1は、原告に対し、被告株式会社富士銀行三鷹支店発行の原告名義の預金通帳(通帳番号<省略>)及び原告名義の印鑑で、右預金通帳に関する届出印を返還せよ。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決は、第一及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文第一ないし第三項と同旨

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が被告株式会社富士銀行(以下「被告銀行」という。)に対しては、預金契約に基づき、預金残金五〇一万三二八八円の支払を求め、被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対しては、所有権に基づき、主文第二項記載の預金通帳(以下「本件通帳」という。)と届出印(以下「本件印鑑」という。)の返還を求めている事案である。なお、被告Y1は、本件につき、原告には当事者能力がないとする本案前の抗弁も主張している。

二  争いがない事実

1  預金契約の存在

被告銀行三鷹支店には、「武蔵野たばこ自動販売機共済会 会長 A」名義の普通預金口座(口座番号<省略>)が存在し、平成九年四月二八日現在の残高は、五〇一万三二八八円である(以下「本件預金」という。)。

2  預金払戻請求

原告は、平成九年五月一〇日以降、被告銀行に対し、本件預金の払戻しの請求をした。

3  本件通帳と本件印鑑の占有

被告Y1は、本件預金にかかる本件通帳と本件印鑑を占有している。

三  争点

【争点1】(本案前の抗弁の成否)原告は、いわゆる権利能力なき社団と認められるか

(原告の主張)

原告は、補助参加人の組合員のうち、一定地区内に、たばこ自動販売機を設置しようとする者をもって会員とし、たばこ自動販売機について相互扶助の精神に基づく共済事業を行うことを目的として、昭和五六年九月一日設立されたものである。原告の運営は、運営委員会の決議により行い、補助参加人理事長が原告会長を兼務し、A(以下「A」という。)が会長の職にあったものであり、その会計は、補助参加人の会計と分離して処理するものとしている。したがって、原告は、権利能力なき社団であり、当事者能力を有する。

(被告の反論)

原告は、補助参加人が委嘱した運営委員によって、その運営が行われる補助参加人傘下の一部門であり、対外的には、補助参加人として活動しているものであって、原告として社会経済活動を行っているものではないから、権利能力なき社団ではない。

【争点2】本件預金の預金者は、原告と認められるか。また、本件預金通帳及び本件印鑑の所有権は、原告に帰属するものと認められるか。

(原告の主張)

本件預金の預金者は、原告であり、原告は、本件預金通帳及び本件印鑑を所有する。

(被告Y1の反論)

本件預金通帳及び本件印鑑は、被告Y1個人が所有するものである。

【争点3】被告Y1が補助参加人から原告の運営を請け負い、その業務責任者としての正当な権原により本件通帳及び本件印鑑を占有しているものと認められるか。

(被告Y1の主張)

被告Y1は、平成三年一〇月一八日、補助参加人(当時のC理事長)から、被告の報酬は、掛け金収入の範囲内で被告自身が決めるとの合意のもとで、運営委員の名目で原告の運営を請け負った(以下「本件請負契約」という。)。

本件請負契約自体は、平成八年九月二一日の補助参加人の理事会において、原告の事業の終期が平成九年三月三一日と決定された際、同日終了することになったが、被告Y1は、現在、無事故者に対する報奨金の支払等、本件請負契約に基づく原告の業務責任者としての残業務及び清算業務を執行中であり、右権原に基づき、本件通帳及び本件印鑑を正当に占有しているものである。

(原告の反論)

本件請負契約締結の事実は、否認する。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1<証拠省略>、原告代表者・被告Y1各本人(一部))によれば、補助参加人は、昭和五六年度の理事会において、たばこ自動販売機(以下単に「自販機」という。)の保守共済事業を実施することにし、同年九月に原告を発足させたこと、原告の目的は、補助参加人の会員が購入した自販機の保守につき相互扶助の精神に基づき共済事業を行うことであり、その会員は、補助参加人組合員のうち、自販機を購入所有する者であり、原告が定める会費(=掛金)を納入する義務を課せられており、また、原告の管理運営は、補助参加人理事長が原告会長に就任して行うが、会長は、右管理運営のため運営委員会を組織し、運営委員には補助参加人理事を充て、管理運営上の問題が生じた場合には運営委員会で決定しており、さらに、原告の収支会計は、補助参加人の会計と分離し、別会計としていたこと、以上のような原告の目的、会員の資格や権利・義務、運営、会計等について、原告は、同月、別紙一のとおりの規約(以下「原始規約」という。)を制定し、その後、平成三年一〇月一八日には、別紙二のとおりの規約(以下「改正規約」といい、原始規約と併せて「本件規約」という。)に改正された(主な改正点は、「準会員」を置いたことのほか、運営委員につき、補助参加人理事会の承認を得て、会長が委嘱するものとしたことである。)こと、本件規約のとおり、補助参加人と原告の代表者は同一人物であり、原告の運営委員も、ほとんど補助参加人の理事であるが、実際には、原告の運営委員会と補助参加人の理事会は、別個の会として峻別して、それぞれが開催されていた(最後の解散決議も含む。)こと、また、原告の会計(財産)も、本件規約のとおり、補助参加人の会計(財産)と峻別されており、原告の発足以来、補助参加人とは別個の普通預金通帳、定期預金通帳等や原告独自の金銭出納帳、銀行勘定帳を有し、原告だけの収入(=会員により支払われた掛け金)、支出を記帳していたこと、ただ、原告は、毎年の収支決算書自体は作成していなかったものの、補助参加人の顧問の公認会計士の助言に従い、毎年補助参加人の財産目録の資産(流動資産)の部に、現金(保守共済口)、普通(定期)預金や郵便振替(保守共済口座)の金額を掲げると同時に、負債(流動負債)の部に、右各保守共済口の資産の合計金額と同額の金額を「保守共済口預り金」として掲記していたこと、原告は、自販機の保険契約の締結自体は、法人である原告名義で行っていたものの、保険会社から原告名義で請求した保険金は、原告名義の預金口座に振込まれて、原告に帰属し、原告から各会員に支払われており、自販機保守の費用(修理代等)も、原告がこれを支出していたこと、被告自身も、原告の運営に必要な費用については、原告の会計から支出し、原告宛の領収書を発行していたこと、なお、原告は、平成八年九月一二日、運営委員会において、平成九年三月三一日をもって解散する旨の決議を行い、以後は、当時会長であったAを代表者清算人として、清算の目的の範囲内で存続していること、以上のとおり認められ、<証拠省略>中、右認定に反する部分は採用しない。

2 右1で認定したように、原告は、団体としての規約を有し、右規約により、代表の方法、会の運営、財産の管理に加え、会員の権利・義務、会員資格の得喪等、団体としての主要な点を確定し、構成員の変更にかかわらず存続し、右規約のとおり運営活動しており、団体としての組織を備えた任意団体と認められる。そして、確かに、前記1で認定したように、補助参加人の会員が購入した自販機の保守につき共済事業を行うという原告の設立目的ないし存在意義が、補助参加人の一部組合員のための相互扶助というもので、補助参加人の利益と密接に結び付いていて、幹部の人的構成においては相当部分が共通していることや、対外的な信用の点において補助参加人の方が優っていること等から、行為主体につき、補助参加人名義で取引したり(乙三五、三六、三八、三九)、補助参加人理事長名義で内部文書を発行する(乙七、一一)など、関係者において、両者の名称の使い分けについては、些か大雑把で徹底していないところが見受けられるけれども、実際の運営では、補助参加人の理事会と原告の運営委員会は区別して開催され、財産も両者が峻別されていることに加えて、原告の会員は、補助参加人の組合員のうち、自販機を購入したもので、かつ、掛け金を納入しているものに限られており、補助参加人の組合員が当然に原告の会員になるものではなく、全体の人的構成は異なること等に鑑みると、原告は、本件訴訟で原告となって訴訟を提起する資格(当事者能力)を認められるべき、いわゆる権利能力なき社団と認めるのが相当である。

二  争点2について

<証拠省略>(原告代表者、被告Y1本人)によれば、本件預金は、平成八年五月二九日、それまで、「武蔵野たばこ商業協同組合 保守共済口 理事長C」名義で富士銀行に預金していた、原告の会員からの掛け金収入からなる普通預金及び定期預金をすべて解約して、当時の右各預金残高を合わせた合計一三二二万七七三二円につき、当時原告の運営委員会の副委員長であった被告Y1が、被告銀行三鷹支店において、新規に原告名義の普通預金口座を開設し預け入れたものであり、その際、被告Y1は、本件預金のため、原告の会計の中から費用を支出することにより、原告名義の届出印である本件印鑑を新たに作って、被告銀行に届け出るとともに、本件預金につき本件通帳の発行を受けたことが認められる。右事実によれば、本件預金の預金者は、その出捐者である原告であり、本件預金にかかる本件印鑑及び本件通帳は、原告の所有に属するものと認めるのが相当である。したがって、被告銀行は、正当な預金者たる原告に対し、本件預金の残高を支払うべきである。

三  争点3について

被告Y1は、前記【争点3】の「被告Y1の主張」のとおり主張し、証拠(乙二一ないし二三、四四、四五、被告Y1本人)中には、これに沿う供述部分が存在する。

そして、確かに、<証拠省略>(被告Y1本人)によれば、被告Y1は、平成三年一〇月一八日、「補助参加人理事長C」から自販機運営委員を委嘱され、平成五年六月二一日にも、「補助参加人理事長A」から、再度、自販機運営委員を委嘱されて、原告の保守共済にかかる保険契約締結、自販機業者との折衝、業者から提出された請求書の明細の点検・整理等、自販機の保守の実務については、被告Y1が一任されて行っていたことが認められる。しかしながら、さらに、証拠(乙五の一、二、乙三二、原告代表者)によれば、改正規約においては、原告の運営を行う機関は、特定の個人ではなく、運営委員会であり、右運営委員会の構成員である運営委員は、組合理事会の承認を得て、会長が委嘱することになっているところ、実際、自販機運営委員会は、補助参加人の自販機保守共済事業に関連する諸問題について、組合理事会より事業の実施と企画等につき全権を委任された機関であって、保守共済事業については、運営委員会規則に則り協議決定して、組合理事会に報告するものとされていたこと、平成七年二月二四日現在の原告の自販機運営委員会には、被告Y1のほかに一四名の運営委員が任命されていたことが認められる。以上の事実に加えて、本件預金の性質、即ち、本件預金が、原告の会員が納入した掛け金を預かり運用するものであること(前記二参照)をも併せて考えると、被告Y1が、原告の保守共済事業の実務を一任されていたとしても、原告の運営自体を行うのは、ひとり被告Y1のみではなく、運営委員会の協議によるものである上、本件預金は、実質的には原告会員全員のものであって、被告Y1が主張するように、被告個人のものではなく、その中から、掛け金収入の範囲内で被告Y1自身が自己の報酬を決めて自由にこれを受領することができるようなものではないというべきである。したがって、前記第一段の被告Y1の供述部分は、そのまま採用することはできず、被告Y1が主張するとおりの「請負契約」は認めることはできない。そして、原告が平成九年三月三一日に解散することにより、原告の保守共済の実務を一任されて行うという被告Y1の任務も終了したものというべく、特段の委任がない限り、残った清算手続は、現在、A(原告代表者)を清算人として清算手続を行っている原告にすべて委ねられるべきものと思料される。そうすると、被告Y1は、正当な権原に基づいて本件通帳及び本件印鑑を占有しているものと認めることはできないから、原告に対し、本件通帳と本件印鑑を返還しなければならない。

なお、本件では、以上のように、被告Y1が一旦原告に対し本件通帳と本件印鑑を返還し、原告が本件預金を被告銀行から払い戻した上、その中から、原告の会員のうち、平成六年度ないし平成八年度の三年間無故障者に対し、無事故報奨金を支払った(乙二〇、四七参照)後、残額が出た場合には、原告と被告Y1が協議して、その処置を決めるのが至当であるものと思料する。

四  むすび

よって、原告の本訴請求は、いずれも認容されるべきである。

(裁判官 徳岡由美子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例