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東京地方裁判所 平成9年(ワ)18976号 判決 1998年3月27日

原告

被告

山一證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

田中慎介

久野盈夫

今井壯太

安部隆

田原彩子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二六二万円及びこれに対する平成九年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、有価証券の売買等を業とする会社であって、訴外B(以下、「B」という。)は、被告海老名支店の従業員であった。

2  原告は、被告から、平成二年一月五日、株式投資信託「スリーポイント90―01(株式型)」(以下、「本件商品」という。)を三〇〇万円で買い付けた(以下、「本件取引」という。)。

3  本件取引開始に際し、原告が、「絶対に元本割れがなく銀行預金よりも有利な商品を紹介して欲しい」と申し出たのに対し、本件取引の被告担当者であったBは、「万が一にも損害を与えることはない」と、強く勧誘し、原告を安心させた上で本件取引を行わせた。

4  ところが、その後、原告は、本件商品が大幅な元本割れとなっているのに気づき、Bに問い合わせをしたところ、Bは、「満期まで待っていれば、絶対に損害を与えることはありませんから、安心してください。」と言うだけで、納得できる説明をしなかった。さらにその後も、本件商品の元本割れが大きくなるので、原告は、何度も被告海老名支店に赴いたが、相手にされなかったため、やむをえず、平成九年六月四日、本件商品を一八八万円で売却した。

5  証券取引法は、取引の勧誘に当たり断定的判断を提供したり、重要な事項について虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をすることを禁じているところ、Bの前記勧誘及び説明は、右禁止行為に該当する。

そして、Bの右不法行為は、被告会社の事業の執行につきなされたものであるから、被告は、民法七一五条に基づく不法行為責任がある。

6  原告は、Bの前記不法行為により、以下のような合計二六二万円の損害を被った。

(一) 本件商品の代金三〇〇万円から前記売却代金一八八万円を差し引いた残額一一二万円

(二) 精神的苦痛による損害一五〇万円

7  よって、原告は、被告に対し、民法七一五条に基づき、二六二万円及びこれに対する不法行為の後である平成九年二五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3のうち、本件取引の被告担当者がBであったことは認め、その余の事実は否認する。

3  同4のうち、本件取引商品が大幅な元本割れになり、原告がBに問い合わせたこと、本件商品が平成九年に売却されたことは認め、その余の事実は否認する。

4  同5及び6のうち、証券取引法が原告主張の行為を禁じていることは認め、その余は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

また、同3のうち、本件取引の被告担当者がBであったこと、同4のうち、本件取引後本件商品が大幅な元本割れになり、原告がBに問い合わせをしたこと、本件商品が平成九年に売却されたこと、同5のうち、証券取引法が原告主張の行為を禁じていること、以上の事実も、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件取引に当たりBが証券取引法において禁止された右行為をしたと主張し、原告本人尋問の結果中には、これに符合する供述部分があるが、右供述部分は成立に争いのない≪証拠省略≫及び証人Bの証言に照らして採用することはできず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

かえって、≪証拠省略≫、証人Bの証言及び同証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫によれば、本件取引開始に際し、Bは、原告に対し、本件商品の内容が記載され、かつ、元本保証のないことが明示された説明書を交付した上、確定利回りで元本が保証されており、リスクは低いが、利回りも低いものとして金貯蓄を、利回りは高いが、リスクも大きいものとして本件商品をそれぞれ紹介し、原告は、本件商品と金貯蓄にそれぞれ三〇〇万円を支出したこと、原告は、本件取引前において、株式がリスクを伴うものであるという知識を持っていたこと、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、Bの説明により、原告は、本件商品が利回りが高い反面元本割れの可能性のあるリスクも高いものであることを認識した上で、本件取引をしたものと推認するのが相当である。

三  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は、理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯田敏彦)

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