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東京地方裁判所 平成9年(ワ)18992号 判決

原告 阿比留博之

右訴訟代理人弁護士 國生一彦

同 西坂信

同 山本昌彦

同 渡部朋広

同 桝田裕之

被告 三井生命保険相互会社

右代表者代表取締役 三宅明

右訴訟代理人弁護士 泉弘之

同 山崎善久

被告 三井信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 西田敬宇

右訴訟代理人支配人 小鹿賢規

右訴訟代理人弁護士 樋口俊二

同 高野康彦

同 五百田俊治

主文

一  原告の予備的請求のうち、原告と被告三井信託銀行株式会社との間において、原告と同被告間の昭和六三年九月二六日付け二六万四〇〇〇米ドルの金銭消費貸借契約に基づく右同額(三二二七万四〇〇〇円)の債務が存在しないことの確認請求を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  (主位的請求)

被告らは、連帯して、原告に対し、金一億五五五八万九三六一円を支払え。

二  (予備的請求)

1  被告三井生命保険相互会社(以下「被告三井生命保険」という。)は、原告に対し、金一八二万六九五二円を支払え。

2  原告と被告三井信託銀行株式会社(以下「被告三井信託銀行」という。)との間において、原告と同被告間の昭和六三年九月二〇日付け九二〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく右同額の債務、同月二六日付け二〇〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく右同額の債務及び同日付け二六万四〇〇〇米ドルの金銭消費貸借契約(以下「米ドル建金銭消費貸借契約」という。)に基づく右同額(三二二七万四〇〇〇円)の債務がいずれも存在しないことを確認する。

3  被告三井信託銀行は、原告に対し、別紙物件目録一記載の土地及び二記載の建物について、東京法務局渋谷出張所昭和六三年九月二〇日受付第二七四四六号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

第二事案の概要

本件は、借入をしたうえ、不動産の共有持分権を購入し、また変額保険に加入した原告が、被告三井生命保険及び被告三井信託銀行の担当者が不動産の共有持分権及び変額保険について投資商品としての危険性等を十分に説明せず、また原告に錯誤があったなどと主張し、主位的に、被告らに対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を請求し、予備的に、被告三井生命保険に対し、不当利得返還請求権に基づき、利得の返還を請求し、被告三井信託銀行に対し、各金銭消費貸借契約に基づく債務が存在しないことの確認及び根抵当権設定登記の抹消登記手続を請求した事案である。

一  争いのない事実等(末尾に証拠等を掲記するもの以外は争いがない。)

1  当事者及び関係者

(一) 原告

原告は、東京都港区南青山において胃腸科及び内科の診療所を経営する医師である。

(二) 被告三井生命保険の担当者

小黒敬(以下「小黒」という。)は、昭和六三年九月当時、被告三井生命保険藤沢支社第三営業所長であった(乙九)。

北川保代(以下「北川」という。)は、右の当時、同営業所の営業員であり、昭和六二年三月に変額保険販売有資格者として登録された(甲二の3、乙九)。

(三) 被告三井信託銀行の担当者

瀬尾直信(以下「瀬尾」という。)は、昭和六三年九月当時、被告三井信託銀行本店個人融資部営業室課長であった(甲二の4、丙一八)。

猪俣寿久(以下「猪俣」という。)は、右の当時、被告三井信託銀行本店不動産営業部分譲営業室・企画開発課長であった(甲二の1)。

2  原告に対する不動産購入等の勧誘

株式会社長谷工コーポレーション(旧商号・株式会社長谷川工務店。以下「長谷工コーポレーション」という。)及び株式会社長谷工アーベスト(以下「長谷工アーベスト」といい、両社を合わせて「長谷工ら」ということがある。)は、昭和六三年七月ころから後記3の各物件の販売活動を開始し、資産運用に関する講演を公認会計士小林俊一(以下「小林会計士」という。)に依頼して数回の講演を行ったのち、同年八月二九日、原告に対し、その講演録音テープを送付して右各物件の購入等を勧誘した。その録音テープの内容は、借金をして、不動産を購入すれば、所得税や相続税の節税効果があり、その値上がり利益も期待できるうえ、変額保険に加入すれば相続税の負担を緩和する効果があるというものであった(右各事実につき、甲一の1ないし3、三七の1、2、弁論の全趣旨)。

3  原告と長谷工らとの間の不動産売買契約の締結

原告は、長谷工コーポレーション及びロサンジェルス・ワールド・トレード・センター・パートナーシップの販売(復)代理人である長谷工アーベストとの間において、昭和六三年九月、次のとおり売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(約定につき及び被告三井生命保険との関係で、甲二三、二四)。

(一) 物件名 RIS都立大(東京都目黒区平町二丁目一〇三番二所在の土地及び建物)の共有持分権五〇分の一(以下「日本物件」という。)

売買代金 二五〇〇万円

関係当事者 売主 長谷工コーポレーション

売主代理人 長谷工アーベスト

買主 原告

(二) 物件名 ロサンジェルス・ワールド・トレード・センター(米国カルフォルニア州ロサンジェルス市サウスフィゲロア通り三五〇番地所在の建物及び土地利用権)の(準)共有持分権二〇五分の一(以下「米国物件」といい、日本物件と米国物件とを合わせて「本件各物件」又は「本件商品」という。)

売買代金 五一万四〇〇〇米ドル

関係当事者 売主 ロサンジェルス・ワールド・トレード・センター・パートナーシップ

売主代理人 長谷工コーポレーション

売主復代理人 長谷工アーベスト

買主 原告

なお、右売買契約の対象物件である本件各物件は、不動産の(準)共有持分権であり、実際に居住することを目的とするものではなく、運用益(賃貸収入)及び値上がり益の獲得を目的とする不動産投資物件である。また、右売買の対象たる本件各物件は、日本物件と米国物件の組合せであり、別々に購入することはできない(右各事実につき、甲二三ないし二五、四四、弁論の全趣旨)。

4  原告と被告三井生命保険との間の変額保険契約の締結

原告は、昭和六三年九月、被告三井生命保険との間において、次の内容の変額保険に加入する旨の保険契約(以下「本件変額保険契約」といい、右契約に係る保険を「本件変額保険」という。)を締結した(契約内容につき、甲四二、乙一、二、弁論の全趣旨)。

(一) 被保険者 原告

(二) 保険金受取人 阿比留満里子

(三) 基本保険金額 一億円

(四) 一時払保険料 五一八八万八〇〇〇円

(五) 保険期間 始期 同年一〇月一日

終期 終身

5  原告と被告三井信託銀行との間の金銭消費貸借契約等の締結

(一) 原告は、昭和六三年九月、同月二〇日付けで、被告三井信託銀行から、九二〇〇万円を、次の約定により借り受けた(以下「本件消費貸借契約一」という。約定につき及び被告三井生命保険との関係で、甲九)。

(1)  元金返済日 昭和七八年九月末日

(2)  利息 年五・七パーセント

(3)  元金の返済 元金返済日に一括して返済する。

(4)  利息の返済 毎年一月、四月、七月、一〇月の各末日及び元金返済日に後払いする。

(二) 原告は、昭和六三年九月二六日、被告三井信託銀行から、二〇〇〇万円を、次の約定により借り受けた(以下「本件消費貸借契約二」といい、本件消費貸借契約一、二を合わせて「本件各消費貸借契約」という。約定につき及び被告三井生命保険との関係で、甲一〇)。

(1)  元金返済日 昭和七八年九月末日

(2)  利息 年六・七パーセント

(3)  元金の返済 元金返済日に一括して返済する。

(4)  利息の返済 毎年一月、四月、七月、一〇月の各末日及び元金返済日に後払いする。

(三) 原告は、昭和六三年九月二六日、被告三井信託銀行との間において、次の内容の当座貸越契約を締結した(以下「本件当座貸越契約」という。約定につき及び被告三井生命保険との関係で、甲一一)。

(1)  貸越極度額 三〇〇〇万円

(2)  取引期限 定めない

(3)  利息 年五・七パーセント

6  原告と被告三井信託銀行との間の根抵当権設定契約の締結

原告は、昭和六三年九月二〇日、被告三井信託銀行との間において、別紙物件目録一記載の土地及び二記載の建物(以下「本件土地建物」という。)について、次の内容の根抵当権を設定する旨の契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)を締結し、右契約に基づき東京法務局渋谷出張所同日受付第二七四四六号根抵当権設定登記手続をした(被告三井生命保険との関係で、甲八、二〇の1、2)。

(一) 極度額 三億円

(二) 被担保債権の範囲 銀行取引による一切の債権、手形上及び小切手上の債権

(三) 確定日 定めない

(四) 債務者 原告

7  原告の本件変額保険契約の解約

原告は、平成二年八月一四日、本件変額保険契約を解約し、被告三井生命保険から、解約返戻金として五〇〇六万一〇四八円の支払を受けた(解約の日につき及び被告三井信託銀行との関係で、甲一九)。

二  争点

1  主位的請求について

(一) 本件変額保険契約締結の際の被告三井生命保険の担当者の説明は、説明義務を尽くさない違法なものであり、不法行為ないし債務不履行に当たるか。

(二) 被告三井信託銀行の担当者に、本件各消費貸借契約の締結に際し、原告が本件各物件及び本件変額保険につき正しく認識し、原告が不当な損害を被らないようにすべき説明義務があったか。右担当者が右説明義務を尽くさなかったことは、不法行為ないし債務不履行に当たるか。

(三) 被告らの不法行為ないし債務不履行が認められる場合の原告の損害の範囲

(四) 原告の被告三井生命保険に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の完成の有無

2  予備的請求について

(一) 原告の本件変額保険契約、本件各消費貸借契約及び本件根抵当権設定契約の締結は、原告の錯誤によるものか。

(二) 原告と被告三井信託銀行との間の米ドル建金銭消費貸借契約に基づく債務が存在しないことの確認請求の確認の利益の有無

三  争点に関する当事者の主張

(原告)

1 各契約の一体性について

本件売買契約、本件変額保険契約、本件各消費貸借契約及び本件根抵当権設定契約(以下まとめて「本件各契約」ということがある。)は、それぞれが独立したものではなく、相互に関連し合い、融資一体型の投資商品(以下「本件セット商品」ということがある。)を構成しているものである。被告ら及び長谷工らは、右投資商品の販売に関し、その勧誘から本件各契約の締結に至るまで共同して行動し、本件各契約を一体として成立させた。

2 主位的請求について

(一) 被告三井生命保険の不法行為ないし債務不履行

生命保険会社の募集人は、変額保険の募集、勧誘に当たり、信義則上、顧客に対し、変額保険の概要及び仕組みを説明することはもとより、そのリスクについても、顧客の年齢、社会的地位、経済知識、投資経験、資力、理解程度及び学歴等の属性に応じて具体的に説明する義務を負うものである。また、変額保険の保険料を銀行からの融資で調達し、一時に払い込んで相続税対策とするいわゆる融資一体型変額保険の場合には、融資額も多額にのぼり、変額保険の運用実績如何、金融市場の変動金利動向によっては、銀行からの借入金利が運用実績を上回り、利息債務が累積して、解約返戻金では融資元利金を支払いきれない事態も生じ得るのであるから、単にパンフレット等を交付したり、抽象的一般的な説明をするだけでは足りず、資料等に基づき顧客が変額保険の危険性について具体的に理解するまで説明することが必要であり、さらに、変額保険を相続税対策として募集、勧誘するときには、右に加えて、どのような場合に相続税対策になるかという相続税対策の有効性についても説明義務を負うものというべきである。

被告三井生命保険の担当者である北川及び小黒は、本件変額保険の募集、勧誘に当たり、原告に対し、変額保険の概要及び仕組み等につき何ら説明しなかったし、仮に変額保険につき一般的説明をしたとしても、そのリスクについて投資経験を有しない原告の属性に応じて理解可能な具体的説明をしなかった。また、北川及び小黒は、本件変額保険の募集、勧誘に際し、本件変額保険が相続税対策であることを認識していたにもかかわらず、相続税対策の有効性についてなんら説明しなかった。

そのため、原告は、本件変額保険が相続税対策として有効であり、何らのリスクもないものと考えて、被告三井信託銀行から多額の借入をして、本件変額保険に加入した。

したがって、北川及び小黒は、変額保険の募集時に要請される説明義務を尽くしていないのであり、被告三井生命保険は、民法七一五条に基づく責任及び債務不履行責任を負う。

(二) 被告三井信託銀行の不法行為ないし債務不履行

(1)  銀行は、融資一体型の投資商品の販売について融資する場合、投資商品につき専門的知識、情報量を有しており、それは顧客の知識、情報量を遥かに上回っているのであるから、融資契約上の付随義務としての保護義務、配慮義務を負い、顧客に対し、その属性に応じ、投資商品のメリット、デメリット、特に危険性について説明する義務を負うものである。

右1のとおり、本件各契約は一体であり、融資一体型の投資商品(本件セット商品)を構成している。しかも、被告三井信託銀行は、本件セット商品の販売に主導的な役割を果たしているのであって、長谷工らが原告に送付した小林会計士の講演テープ及び昭和六三年九月三日開催の小林会計士の講演は、実質的には、被告三井信託銀行が原告にもたらした資料、情報と同視できるところ、右講演の内容は、本件各物件に関するメリットが主であり、変額保険にリスクはないと述べるなど、デメリット、危険性について不正確、誤った内容になっている箇所があり、原告のような投資経験を有しない顧客にとって、本件各契約の仕組みや危険性等を具体的に理解できるようなものではなかった。したがって、被告三井信託銀行の担当者には、本件各消費貸借契約等の締結に際し、原告に対し、原告がこれらの資料、情報に接することによって持った不正確又は誤った認識を取り除き、原告に不当な損害を与えないようにする説明義務があったものである。

しかるに、被告三井信託銀行の担当者である猪俣及び瀬尾は、本件セット商品の内容、殊にそれらが一体型として結合したことのメリット、デメリット等について何ら説明したことはなく、原告の投資経験等について質問もしなかった。

そのため、原告は、本件変額保険が相続税対策として有効であり、何らのリスクもないものであり、また、本件各物件が利益をあげるものであって、リスクがないものと考えて、被告三井信託銀行から多額の借入をして、本件変額保険に加入し、また本件各物件を購入した。

(2)  瀬尾は、昭和六三年九月二〇日、本件消費貸借契約一につき契約書を作成していないのに、原告に対し、本件消費貸借契約一に係る融資を実行した。また、瀬尾は、同日、被告三井信託銀行本店において、原告が銀行取引約定書、根抵当権設定契約証書等を作成した際、原告からその取引印を預かり、原告に背を向けて何枚かの書類に右取引印を押印したり、新規に設けた原告名義の普通預金口座の通帳を原告に示し、右通帳の九二〇〇万円の入金と五一八八万八〇〇〇円の出金の記載(その時には本件売買契約に係る三七五〇万円の出金の記載はなかった。)を確認した後、預かり証を発行することもなく、右通帳を預かり、その後、原告に無断で、本件売買契約の内金として三七五〇万円を長谷工らの銀行預金口座に振込送金した。そして、瀬尾は、同月二六日、原告に対し、本件各消費貸借契約の契約書に署名押印を求め、原告は右契約書に署名押印した。なお、原告は、本件売買契約の契約書等についても、同日、署名押印したのである。

右のとおり、瀬尾は、本件消費貸借契約一に係る融資に関し、到底適正とはいえない手続を行い、原告の信頼を裏切った。

(3)  したがって、猪俣及び瀬尾は、融資契約上の付随義務としての保護義務、配慮義務及び説明義務を怠り、さらに、瀬尾は、信義に反する行為を行ったのであり、被告三井信託銀行は、民法七一五条に基づく責任及び債務不履行責任を負う。

(三) 被告らの共同

右のように、本件各契約は一体であり、融資一体型の投資商品を形成しており、その一連の契約手続は被告三井生命保険の担当者の北川及び小黒と被告三井信託銀行の担当者猪俣及び瀬尾の協力的、協調的連携の下にされたものであるから、被告らは共同不法行為の責任を負い、債務不履行につき共同の責任を負うものである。

(四) 原告の損害

原告は、被告らの不法行為及び債務不履行により、次の損害を被った。

(1)  積極損害   二億二〇六八万四八八五円

ア 本件消費貸借契約一に基づく債務の元金 九二〇〇万円

イ 本件消費貸借契約二に基づく債務の元金 二〇〇〇万円

ウ 米ドル建の金銭消費貸借契約に基づく債務の元金 三二二七万四〇〇〇円

(本件訴え提起の前日である平成九年九月八日の株式会社東京三菱銀行の店頭対顧客電信為替売相場一米ドルにつき一二二円二五銭により換算した額)

エ 本件各消費貸借契約に基づいて、契約の日から本件訴え提起の前日である平成九年九月八日までに支払った利息金 四八一〇万三二九五円

オ 本件各消費貸借契約に基づいて、本件訴え提起後平成一一年一二月末日までに支払った利息金 一三〇万〇八三四円

カ 右ウの金銭消費貸借契約に基づいて、平成一〇年度末までに支払った利息金 二七〇〇万六七五六円

(2)  損益相殺の額 六五〇九万五五二四円

ア 原告が現在保有している日本物件の価格 四八二万円

イ 原告が現在保有している米国物件の価格 一〇二一万四四七六円

(八万三五五四米ドルにつき前記(1) のウの為替相場により換算した額)

ウ 本件変額保険契約の解約返戻金 五〇〇六万一〇四八円

(3)  右(1) から右(2) を差し引いた残額 一億五五五八万九三六一円

(五) 被告三井生命保険の消滅時効の主張は争う。

3 予備的請求について

(一) 原告の錯誤

原告は、真実は、相続税対策は必要でなく、変額保険に加入したとしても必ずしも相続税対策として有効ではなく、保険料を借入により賄いかつ利息も借入により賄うという方式の下では、契約者が全く関係しないマーケットの変動により、知らない間に元利金の額が増大し、満期保険金額や解約返戻金の額を遙かに上回り、また、本件各物件からの利益が借入利息にすら不足するにもかかわらず、自己にとって相続税対策が必要であり、変額保険に加入すれば相続税対策として有効であり、本件各物件からの利益が借入利息に不足することはないものと信じて、本件変額保険契約、本件各消費貸借契約及び本件根抵当権設定契約を締結したものであり、右各締結の際に、このことを北川、小黒、猪俣及び瀬尾に表示していたから、原告の右各契約の意思表示はその要素に錯誤があり、無効である。

(二) 被告三井生命保険の不当利得

被告三井生命保険は、法律上の原因なく原告の損失の下に、一時払保険料と解約返戻金との差額一八二万六九五二円を利得した。

(被告三井生命保険)

1(一) 本件各契約が一体であり、融資一体型の投資商品を構成していることは否認する。被告三井生命保険は、変額保険を他企業と組んでセットで販売したことはない。また、北川、小黒ら被告三井生命保険の関係者は、本件変額保険契約の保険料が被告三井信託銀行の融資により調達されることを予測していたが、融資の詳細は被告三井信託銀行の関係者から聞いていない。

(二) 被告三井生命保険が、変額保険の募集に当たり、顧客に対し、変額保険の仕組み及び特殊性を説明する必要があることは認めるが、変額保険の保険料を銀行からの融資で調達した場合に、借入金と解約返戻金の関係等を説明する義務があることは否認する。北川及び小黒が、本件変額保険の募集に当たり、原告に対し、変額保険の概要及び仕組み等につき何ら説明しなかったことは否認する。

北川は、昭和六三年九月一二日、猪俣の案内で、原告宅に赴き、原告及びその妻満里子と面談した。北川は、原告に対し、持参した定額終身保険及び変額保険の各パンフレット及び各保険設計書を交付し、それぞれについて説明した。北川は、変額保険について、右保険設計書の「変額保険の仕組」の欄を示し、変額保険は保険料が他の保険の保険料とは別個に株式、債券等で運用され、そのため、運用が悪いと解約返戻金も下がるが、死亡時の基本保険金は最低保証されているなどと変額保険の仕組みを説明した。また、北川は、右保険設計書の「特別勘定の資産の運用実績例表」の欄を示し、運用実績が年九パーセント、年四・五パーセント、年〇パーセントの各場合について、死亡・高度障害保険金及び解約返戻金の推移を示し、運用実績が年四・五パーセントの場合は解約返戻金が一時払保険料とほぼ同じ額で推移し、運用実績が年〇パーセントになると解約返戻金が一時払保険料を下回り、結果的に保険者が損をすることになるなどと変額保険の特殊性を説明した。その際、原告から北川に対し、運用実績が年〇パーセントになることがあるかと質問がされたが、北川は、将来のことなのでわからない旨を述べ、参考にして欲しい旨を述べて、「昭和六三年六月末変額保険(特別勘定)の現況」と題する書面の写しを交付した。原告は、しばらくこれらの資料を検討し、北川らに対し質問をしたうえ、変額保険に加入する旨を述べた。そこで、北川は、持参した保険申込書の所定欄に原告の自署、押印を受け、契約のしおり(定款・約款)を交付した。右のとおり、北川は、本件変額保険契約の締結に際し、原告に対し、変額保険の仕組み及び特殊性を説明している。

(三) 被告三井生命保険が、本件変額保険契約の募集につき、民法七一五条に基づく責任及び債務不履行責任を負うこと、及び原告の本件変額保険契約締結の意思表示に錯誤があり、無効であることはいずれも否認する。

2(一)不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、損害が確定した本件変額保険契約の解約時の平成四年八月一四日から進行するところ、本訴提起の平成九年九月九日まで既に三年が経過した。

(二) 被告三井生命保険は、本訴において右時効を援用する。

(被告三井信託銀行)

1 本件各契約が一体であり、融資一体型の投資商品を構成していることは否認する。被告三井信託銀行は、変額保険の勧誘、募集について、被告三井生命保険と提携関係にあったことはない。また、被告三井信託銀行は、原告に対し、変額保険の加入を勧誘したことはなく、かえって、原告が変額保険への加入を希望していたのである。

2 瀬尾が本件消費貸借契約一に係る融資に関し原告主張のような手続を行ったことは否認する。

3 被告三井信託銀行が、本件各消費貸借契約の締結につき、民法七一五条に基づく責任及び債務不履行責任を負うこと、及び原告の本件各消費貸借契約等締結の意思表示に錯誤があり、無効であることはいずれも否認する。

被告三井信託銀行は、原告との間において米ドル建金銭消費貸借契約を締結したことはなく、原告に対し右契約に基づく債権を有すると主張したこともない。

第三当裁判所の判断

一  本件の事実経過について

前記第二の一の事実に証拠(甲一の1ないし3、二の1ないし4、三、四、六の1、2、七ないし一一、一九、二〇の1、2、二一、二三ないし二五、二七、三〇、三二の1ないし7、三七の1、2、三八、三九、四一ないし四五、乙一ないし九、丙一の1、2、二ないし一一、一四、一五、一六の1ないし6、一七の1、2、一八ないし二一、二二の1、2、証人北川、同瀬尾、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和二年一〇月八日生まれの男性であり、昭和二九年に医師国家試験に合格し、勤務医として稼働した後、昭和四〇年に東京都港区南青山において胃腸科及び内科の診療所を開設し、それ以降、右診療所を経営している。原告は、実父(昭和六一年一〇月九日死亡)の相続により自宅の土地及び建物(本件土地建物)を取得したが、その際に多額の相続税(甲三七の2(原告の本人調書)によれば、一五〇〇万円程度)を支払ったことから、自己の死亡の際の相続税対策の必要性を感じていた。

2  長谷工らは、昭和六二年ころから不動産価格が著しく高騰するようになったことを背景として、富裕な個人投資家向けに不動産投資商品(いわゆる不動産小口化商品)の一つとして、本件商品(本件各物件。通称[RIS(03)](ロイヤル・インベストメント・システム(03))といわれていた。)を開発したうえ、昭和六三年七月ころから本件商品の販売活動を開始し、資産運用に関する講演を小林会計士に依頼して数回の講演を行った後、同年八月二九日、原告に対し、その講演の一部の録音テープを送付して本件商品の購入を勧誘した。

録音テープの内容は、小林会計士の個人的な体験談や資産運用についての考え方、価値観、特に、節税対策の必要性を述べたものであり、当時の経済状況下における資産運用に関し、一般論として、借金をして、不動産を購入すれば、相続税や所得税の節税効果が大きいし、その値上がり利益も期待できるうえ、変額保険に加入すれは相続税の負担を緩和する効果があるなどとして、本件商品の購入や変額保険への加入を推奨するものであった。

3  原告は、昭和六三年九月三日、妻とともに、長谷工アーベストの本社において開催された本件各物件についての販売説明会に参加した。販売説明会では、参加者全員に対し、本件各物件の販売パンフレット(甲四四)、本件各物件の特徴、その管理、運営の概要、任意組合についての概要等を記載した説明書及び本件各物件購入者の収支予想を記載した説明書(甲二七。甲三はその一部)が配布され、小林会計士の講演、ビデオテープによる説明、参加者のうちの希望者と長谷工アーベストの担当者との個別相談がその順で行われ、小林会計士が、概ね、前記録音テープと同じ内容の講演を行った。被告三井信託銀行本店不動産営業部分譲営業室・企画開発課長の猪俣は、右販売説明会に出席していた。

右パンフレットには、RIS(03)は所得税、住民税の軽減をお考えの方等々におすすめします、わずかな自己資金で大きな節税ができ、長谷工グループと信託銀行がパートナーとなって不動産の管理運営を行うことなどがRIS(03)のメリットです、購入いただいた皆様と長谷川工務店が共同オーナーとなって、任意組合を結成します、などと記載されており、また、右概要等説明書には、R1S(03)の特徴、商品システムの概要(組合運営の開始、賃料収入、賃貸運営、運営期間、物件の売却、運営収入等の配分、途中での脱退)、任意組合についての概要等が記載されている。さらに、右収支予想を記載した書面には、配偶者と子供二人がいる個人が本件各物件を購入して一〇年半これを運用した場合を前提として、購入者の年収毎に、所得税節税額の収支予想金額が具体的に記載されている。

原告は、ビデオテープによる説明の後、個別相談を希望し、長谷工アーベストの担当者中崇(以下「中」という。)と個別に面談した。

中は、右個別面談において、原告夫妻に対し、右パンフレット(甲四四)、右概要等説明書及び右収支予想を記載した説明書(甲二七)に基づいて、本件各物件の概要等を説明し、本件各物件は不動産投資商品であること、本件各物件は米国物件が約七割の比重を占めており、主として所得税軽減の効果が大きいことなどを強調した。

原告は、中に対し、その場で、本件各物件を購入したいとの意思を表明し、その購入申込書(甲四)に自己の住所、氏名を記載して、これを提出した。そして、原告は、中に対し、本件各物件の購入代金全額を借入金で賄いたいとして、長谷工らの斡旋する被告三井信託銀行からの提携ローン及び別担保ローンの利用を申し出るとともに、変額保険にも加入したいとして、生命保険会社の紹介を依頼した。なお、原告は、右の当時、株式等有価証券投資の経験はなかったが、既にオーストラリアにおいて居住用の不動産を所有していた。

4  被告三井信託銀行本店不動産営業部分譲営業室・企画開発課の鈴木篤は、中から連絡を受け、昭和六三年九月五日ころ、中とともに、原告宅を訪問し、その土地及び建物(本件土地建物)の担保価値を評価した。

また、猪俣は、中から、相続税対策のための生命保険の加入を検討中の顧客として原告を紹介され、同被告藤沢支店に出入りしていた関係から面識のあった被告三井生命保険藤沢支社第三営業所の北川にその旨を伝え、死亡保障が約一億円の生命保険につき保険料の算出を依頼した。北川は、猪俣から、原告の氏名、生年月日を聞いて、死亡保険金額が一億円の定額終身保険の保険設計書(乙四と同内容のもの)、基本保険金額が一億円の変額保険「スプリング」の保険設計書(乙五と同内容のもの)を作成し、猪俣に対し、その内容を伝えた。

5  猪俣は、同月一二日ころ、中及び北川とともに、原告の自宅を訪れ、被告三井生命保険の担当者として北川を紹介した。

北川は、原告に対し、「スプリング」と題する被告三井生命保険の変額保険のパンフレット(甲四三及び乙六と同内容のもの)及び右変額保険の保険設計書(乙五と同内容のもの。被保険者を原告、基本保険金額を一億円として具体的数値等が記入されたもの)を交付した。

右パンフレットには、「変額保険とは…特別勘定の資産の運用実績に基づいて保険金額が変動する生命保険です。運用如何により、高い収益を期待できますが、一方投資リスクを負うことになります。」との記載があり、「変額保険に係る資産の管理・運用について」、「変額保険の仕組」及び「特別勘定の資産の運用実績例表」の欄に右保険設計書の後記記載と同様の記載がある。右保険設計書には、「変額保険の仕組」の欄に、「この保険は運用実績に基づいて保険金額が変動します。したがって、下図(例1)(例2)のように保険金額は増減し一定ではありません。」と注記のうえ、基本保険金額、変動保険金額及び死亡・高度障害保険金の動きを表した波形図が掲載され、「特別勘定の資産の運用実績例表」の欄に、原告が加入する変額保険につき、運用実績が年九パーセント、年四・五パーセント、年〇パーセントの各場合について、三年後(六四歳時)、五年後(六六歳時)、一〇年後(七一歳時)、一四年後(七五歳時)、一九年後(八〇歳時)の死亡・高度障害保険金及び解約返戻金の推移を示す数値が記載されており(なお、運用実績が年〇パーセントの場合、解約返戻金の額が徐々に減少し、その額が支払保険料を下回り、いわゆる元本割れとなることが示されている。)、同表の上には、「変額保険は保険金額・解約返戻金額が変動する仕組の保険ですが、保険の内容、特質をご理解いただくために下記例表を掲載しています。この例表の数値は、…運用実績および配当実績により変動(増減)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」との記載があり、同例表の右には、「例示の運用実績(九%、四・五%、〇%)は、特別勘定に係るものであり、保険料全体に対するものではありません。」と注記され(注3)、また、「変額保険に係る資産の管理・運用について」の欄に、「特別勘定とは…変額保険に係る資産の管理・運用を行うもので、他の保険種類に係る資産とは区分し、独立して管理・運用を行います。」、「運用対象 上場株式、公社債等の有価証券を主体とした運用を行うこととし、具体的投資対象は国内外の経済・金融情勢、株式・公社債市場の動向等を勘案して決定します。※ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」との記載がある。

北川は、原告に対し、右保険設計書の「変額保険の仕組」の欄を示しながら、変額保険はその保険料が他の保険の保険料とは区分され、株式、債券等で運用され、運用実績が良ければ保険金額も解約返戻金額も上がり、運用実績が悪ければ解約返戻金額は下がるが、保険金額は基本保険金の最低保証があることを説明し、「特別勘定の資産の運用実績例表」の欄を示しながら、右例表記載の年九パーセント、年四・五パーセント、年〇パーセントの各場合の保険金額及び解約返戻金額を挙げ、特別勘定資産の運用実績の変動により基本保険金を除く保険金額及び解約返戻金額が変動することを説明し、運用実績が年〇パーセントの場合は解約返戻金額が支払保険料を下回り、契約者に損失が生じるなどと説明した。北川は、そのうえで、原告に対し、「昭和六三年六月末変額保険(特別勘定)の現況」と題する書面の写し(乙三)を交付した。

6  北川は、同月一三日ころ、担当医師とともに、原告宅を訪れ、原告は、変額保険加入のための健康診査を受けた。

北川は、同月一四日、原告の健康診査の結果が判明したため、被告三井生命保険藤沢支社第三営業所長小黒とともに、原告の診療所を訪れ、原告に対し、医師健康診査の結果を記載した書面(甲六の1、2)を交付した。原告は、その後、北川、小黒とともに、お茶を飲みに出掛けたが、小黒は、原告から変額保険の説明を求められ、原告に対し、「スプリング」と題する被告三井生命保険の変額保険のパンフレット(甲四三)及び右変額保険の保険設計書(甲四二)を交付し、これらを示しながら、北川の右説明と同様な説明をして、変額保険の特徴、基本的な仕組み及び危険性について説明した。

原告は、同日、本件変額保険に加入する意思で、生命保険契約申込書(乙二。ただし、右申込書は後記10のとおり定額終身保険の申込書であった。)に署名押印し、ご契約のしおり(定款・約款)(乙七と同内容のもの)を受領した。

7  原告は、同月一四日、長谷工コーポレーションの販売代理人であって、ロサンジェルス・ワールド・トレード・センタ-・パートナーシップの販売復代理人である長谷工アーベストとの間において、本件売買契約を締結し、同日付け各売買契約書(甲二三、二四)に署名押印をした。右各売買契約書には、売買代金については、手付金を売買契約成立時に、内金(日本物件につき四五〇万円、米国物件につき三二二〇万円)を同月二〇日に、残金を物件引渡時に支払うものとされ、また、提携口-ンによる融資が成立しない場合には売主又は買主は契約を解除することができる旨のいわゆるローン条項が記載されている。同時に、原告は、長谷工アーバン株式会社等との間において、本件各物件の管理、運営のために民法上の組合を成立させ、これに本件各物件(共有持分)を出資し、同会社を理事長とする右組合にその財産を管理、運営させることなどを内容とする組合契約を締結し、同日付け組合契約書に署名押印をした。

その際、原告は、中らから、「R1S都立大」重要事項説明書(甲二五)、ロサンジェルス・ワールド・トレード・センター物件概要説明書及び組合契約書並びにこれらの各付属書類を受領した。

また、原告は、同日、長谷工アーベストに対し、本件売買契約の約定に基づき、日本物件の売買手付金五〇万円及び同契約書貼付の印紙代二万円、米国物件の売買手付金五〇万円及び同契約書貼付の印紙代六万円を支払い、長谷工アーベストから、金額五二万円と金額五六万円の同日付け領収証二通(丙一六の2、3)を受領した。

8  原告は、同月二〇日、被告三井信託銀行本店において、同被告との間において、本件消費貸借契約一(右3の別担保ローンに該当する。)を締結するとともに、本件根抵当権設定契約を締結し、同日、本件根抵当権設定登記を経由し、右融資の実行を受けた。 そして、原告は、同日、長谷工アーベストに対し、日本物件の売買代金内金として四五〇万円、米国物件の売買代金内金として三二二〇万円、所有権移転登記費用等として八〇万円、合計三七五〇万円を長谷工アーベストの銀行預金口座に振り込んで支払い、長谷工アーベストから、金額四五〇万円、金額三二二〇万円、金額八〇万円の同日付け領収証三通(丙一六の4ないし6)を受領した。また、原告は、同日、小黒に対し、本件変額保険契約に基づく一時払保険料の支払のため、金額五一八八万八〇〇〇円の被告三井信託銀行本店振出の自己宛小切手を交付した。

9  原告は、同年九月二六日、被告三井信託銀行との間において、本件消費貸借契約二(右3の提携ローンに該当する。)を締結し、右貸金債務を担保するため、原告が購入した日本物件につき抵当権を設定する旨の契約を締結し、同日、長谷工コーポレーションから持分移転登記を受けるとともに、右抵当権設定登記を経由し、右融資の実行を受けた。そして、原告は、同日、長谷工アーベストに対し、日本物件の売買残代金として二〇〇〇万円を支払った。

10  北川は、同月二九日ころ、被告三井生命保険本社から、本件変額保険につき、右生命保険契約申込書(乙二)は定額終身保険の申込書であるとの指摘を受けた。そのため、北川は、同月三〇日、小黒とともに、原告の診療所に赴き、本件変額保険の生命保険契約申込書(乙一)に原告の署名押印を得た。右生命保険契約申込書は、同年一〇月五日に被告三井生命保険本社に提出されたが、被告三井生命保険は本件変額保険契約が同月一日から開始したものと取り扱った。

11  原告は、平成四年八月一四日、本件変額保険契約を途中解約した。原告は、平成三年六月ころ、自ら、また、平成四年八月ころ、衆議院議員を介して、本件各物件の管理運営を行っている任意組合の理事長である長谷工アーバン株式会社や長谷工らに対し、組合から脱退したい旨の申し入れをしたが、組合契約上の規約により中途脱退ができなかった。さらに、原告は、平成六年六月ころも、代理人弁護士を介し、組合からの脱退を要望したが、長谷工アーバン株式会社らから、任意脱退は認められていないとしてこれを拒否された。

二  事実経過に関する原告の主張について

1  原告は、本件売買契約は昭和六三年九月二六日に締結されたものであり、同月一四日はもとより、同月二〇日の段階においても、本件売買契約は締結されておらず、本件売買契約書(甲二三、二四)の日付は長谷工アーベストらにおいて虚偽の契約日を記入したものである旨主張し、原告本人尋問において、はぼ同旨の供述をし、甲第三七号証の二(別件における原告の本人調書)、甲第三八号証(原告作成の陳述書)にも同旨の供述記載がある。しかし、前記一掲記の証拠関係によれば、原告は、昭和六三年九月三日に本件各物件についての購入申込書(甲四)を作成して、長谷工アーベストの担当者の中に提出したこと、同月五日ころには被告三井信託銀行の担当者の鈴木篤が中とともに原告の自宅を訪れ、担保物件となる原告の自宅の土地及び建物(本件土地建物)の担保価値を調査しているところ、これは本件売買契約の提携ローンの枠外である別担保口-ン利用のための調査であったこと、本件売買契約の手付金及び印紙費用の領収書二通(丙一六の2、3)は原告が所持しているところ、右領収書の各日付は昭和六三年九月一四日となっているが、右日付について原告において異議を述べたり、誤りを指摘したことを認めるに足りる証拠はないこと、原告は本件物件購入後組合を結成することを確認する旨の印刷がされた返信用はがきに住所氏名を記載、押印のうえ、同月一六日投函し、翌一七日には右はがきが長谷工アーバンに到達していること(丙一七の1、2及び弁論の全趣旨。右はがきの投函等に関する原告の主張如何にかかわらず、原告は遅くとも同月一六日には右はがきに住所氏名を記載、押印していることが明らかである。)、原告は、本件売買契約の内金支払日とされていた昭和六三年九月二〇日に被告三井信託銀行本店から本件消費貸借契約一に係る融資の実行を受けており、これは本件変額保険契約の一時払保険料として支払われた五一八八万八〇〇〇円を大幅に超過するものであるが、原告はこの点についても何らの疑問や異議を述べていないこと(なお、本件消費貸借契約一の契約書(甲九)には、借入金使途としてRIS(03)購入資金との記載がある。)が認められるのである。原告の右供述及び甲第三七号証の二、第三八号証の右供述記載は、右各事実に照らして、また、証拠(甲三七の1)に照らして、容易に信用できない。

2  原告は、瀬尾が、昭和六三年九月二〇日、本件消費貸借契約一につき契約書を作成していないのに、原告に対し、本件消費貸借契約一に係る融資を実行したと主張し、原告本人尋問において、ほぼ同旨の供述をし、甲第三七号証の二、第三八号証にも同旨の供述記載がある。しかし、銀行が多額の融資につき契約書を作成しないでこれを実行すれば、融資金の回収に困難を来すことは明らかであるから、銀行の担当者が右融資につき契約書を作成しないうちに融資を実行することはあり得ないと考えられる。原告の右供述及び甲三七号証の二、第三八号証の右供述記載は、右の点に照らし、また、証拠(丙一の1、2、三、一八、二一、証人瀬尾)に照らして、容易に信用できない。

また、原告は、瀬尾が、原告において銀行取引約定書、根抵当権設定契約証書等を作成した際、原告からその取引印を預かり、原告に背を向けて何枚かの書類に右取引印を押印したり、新規に設けた原告名義の普通預金口座の通帳を原告に示し、右通帳の九二〇〇万円の入金と五一八八万八〇〇〇円の出金の記載(その時には本件商品に係る三七五〇万円の出金の記載はなかった。)を確認した後、預かり証を発行することもなく、右通帳を預かり、その後、原告に無断で、本件売買契約の内金として三七五〇万円を長谷工らの銀行預金口座に振込送金したなどとも主張し、原告本人尋問において、ほぼ同旨の供述をし、甲第三七号証の二、第三八号証にも同旨の供述記載がある。しかし、本件売買契約は同月一四日に締結されたものであり、その内金支払日は同月二〇日とされていたのであるから(本件売買契約締結の時期に関する原告の供述等が容易に信用できないことは右1のとおりである。)、瀬尾が右のような操作をする必要はなかったものと考えられる。原告の右供述及び甲第三七号証の二、第三八号証の右供述記載は、右の点に照らし、また、証拠(丙一八、証人瀬尾)に照らして、容易に信用できない。

三  不法行為ないし債務不履行について

1  被告三井生命保険について

(一) 原告は、生命保険会社の募集人は、変額保険の募集、勧誘に当たり、信義則上、顧客に対し、変額保険の概要及び仕組みを説明することはもとより、そのリスクについても、顧客の属性に応じて具体的に説明する義務を負うところ、北川及び小黒は、本件変額保険の募集、勧誘に当たり、原告に対し、変額保険の概要及び仕組み等につき何ら説明しなかったし、そうでないとしても、そのリスクについて投資経験を有しない原告の属性に応じて理解可能な具体的説明をしなかったなどと主張する。

しかし、右一の事実によれば、北川及び小黒は、本件変額保険契約の募集の際、原告に対し、変額保険の仕組み等が記載されたパンフレット及び保険設計書を交付したうえ、これらの書面を用いて、変額保険の特徴、基本的仕組み及び危険性について、特別勘定資産が株式等で運用され、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動することなどを口頭で説明しているものであり、原告の年齢、学歴及び職業等からすれば、原告は、これらの書面の記載内容及び口頭の説明によって、特別勘定資産が株式等で運用され、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動し、運用対象である株式等の相場の変動により右保険金等が変動して支払保険料を下回る、いわゆる元本割れの生じる可能性のあることを理解し得たものというべきである。

そうすると、北川及び小黒が、原告に対し、変額保険の危険性を告げなかったとはいえないのであり、北川及び小黒に右の点の説明義務違反があるということはできない。

(二) また、原告は、変額保険の保険料を銀行からの融資で調達し、一時に払い込んで相続税対策とする融資一体型変額保険の場合には、単にパンフレット等を交付したり、抽象的一般的な説明をするだけでは足りず、資料等に基づき顧客が変額保険の危険性について具体的に理解するまで説明することが必要であり、変額保険を相続税対策として募集、勧誘するときには、相続税対策の有効性についても説明義務を負うところ、北川及び小黒は、本件変額保険の募集、勧誘に際し、本件変額保険が相続税対策であることを認識していたにもかかわらず、相続税対策の有効性についてなんら説明していないなどと主張する。

しかし、右一の事実によれば、北川は、猪俣から、相続税対策のための生命保険の加入を検討中の顧客として原告を紹介され、さらに、北川及び小黒は、本件変額保険の保険料が被告三井信託銀行からの借入金により調達されるものと予測していたものであるが、北川及び小黒は、原告に対し、変額保険が相続税対策に有効であることを強調したり、積極的に被告三井信託銀行から保険料の借入れを受けることを勧めたりはしていないのである。また、北川及び小黒が、本件変額保険契約の募集の際、原告に対し、変額保険の仕組み等が記載されたパンフレット及び保険設計書を交付したうえ、これらの書面を用いて、変額保険の特徴、基本的仕組み及び危険性について、特別勘定資産が株式等で運用され、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動することなどを口頭で説明しているものであり、借入金により保険料を支払って変額保険を締結する場合には、右借入金に利息が発生することは当然のことであって、原告の年齢、学歴及び職業等からすれば、特別勘定資産の運用実績によっては、相続発生時に保険金等と借入残高の多寡によって元本割れの可能性が生じ、有効な相続税対策とならないことがあることは容易に理解し得るものというべきである。

そうすると、北川及び小黒が原告に対し相続税対策の有効性について具体的に説明するまでの義務を負うものと解することはできず、北川及び小黒に右の点の義務違反があったとはいえない。

(三) したがって、被告三井生命保険について、不法行為及び債務不履行の責任があるとはいえない。

2  被告三井信託銀行について

(一) 銀行から融資を受けることを前提として、投資用不動産の購入契約や変額保険契約が締結される場合には、投資用不動産の購入契約と融資契約、変額保険契約と融資契約とは、事実上密接な関係にあることは否定し得ないが、元来、投資用不動産の購入契約と融資契約、変額保険契約と融資契約は、それぞれ契約当事者を異にし、契約の目的及び内容も異なるものであり、融資契約において、銀行は融資金の使途が顧客にとって有益であることや融資金の運用につき責任を負う立場になく、融資金の返済は借主の責任であることなどに鑑みると、銀行が自ら主導的、積極的に、投資用不動産の購入や、変額保険への加入及びこれを利用した相続税対策の採用を提案、勧誘したといった特段の事情のない限り、銀行の担当者は、たとえ融資金の使途が投資用不動産の購入代金や変額保険の保険料の支払であることを認識していたとしても、融資契約の内容について説明をすれば足り、それ以上に投資用不動産や変額保険について、その特徴、仕組み及び危険性等につき具体的な説明をするまでの義務を負うものではないというべきである。

前記一の事実によれば、被告三井信託銀行の担当者の猪俣は、長谷工アーベストの担当者の中を介して原告から変額保険を取り扱っている保険会社の紹介を依頼され、被告三井生命保険の北川を紹介したにすぎないのであり、猪俣自らが、北川と共同して、あるいは、主導的、積極的に変額保険の勧誘をしたものと認めることはできない。そうすると、猪俣は、被告三井信託銀行の担当者として、変額保険への加入及びこれを利用した相続税対策について具体的な説明をするまでの義務を負うものではないというべきである。

また、前記一の事実によれば、被告三井信託銀行は、長谷工らが販売する本件各物件について、その斡旋により提携ローン及び別担保ローンの融資をしたにすぎないのであり、猪俣らが、自ら、中と共同して、あるいは、主導的、積極的に本件各物件の購入を勧誘したものと認めることはできない。原告は、被告三井信託銀行が、本件セット商品の販売に主導的な役割を果たしたとか、長谷工らが原告に送付した小林会計士の講演テープ及び昭和六三年九月三日開催の小林会計士の講演は、実質的には、被告三井信託銀行が原告にもたらした資料、情報と同視できると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、猪俣は、被告三井信託銀行の担当者として、本件各物件について具体的な説明をするまでの義務を負うものではないというべきである。

(二) 原告は、瀬尾が本件消費貸借契約一に係る融資に関し、到底適正とはいえない手続を行ったなどと主張するが、右主張が理由のないことは前記二判示のとおりである。

(三) したがって、被告三井信託銀行について、不法行為及び債務不履行の責任があるとはいえない。

四  錯誤による無効について

原告は、真実は、相続税対策は必要でなく、変額保険に加入したとしても必ずしも相続税対策として有効ではないし、本件各物件からの利益が借入利息にすら不足するにもかかわらず、自己にとって相続税対策が必要であり、変額保険に加入すれば相続税対策として有効であり、また、本件各物件からの利益が借入利息に不足することはないものと信じており、このことを北川、小黒、猪俣及び瀬尾に表示していたものであるから、原告の本件各消費貸借契約、本件変額保険契約及び本件根抵当権設定契約の意思表示はその要素に錯誤があり、無効であると主張する。

右一の事実によれば、原告は、昭和六一年の実父の死亡による相続の際に一五〇〇万円程度の相続税を支払ったことから、自己の死亡の際の相続税対策の必要性を感していたというのである。証拠(甲一八)によれば、昭和六三年当時の路線価により、原告宅の土地について原告の死亡の際の相続税を試算すると、一二五六万円余になることが認められ、右相続税は原告が支払った相続税と比較して格段の差異があるとは認め難いものである。そうすると、原告の受け止め方からすれば、昭和六三年当時、原告に相続税対策が必要でなかったとはいい難い。

次に、右一の事実によれば、原告は、本件変額保険契約の募集の際、北川及び小黒から、変額保険の特徴、基本的仕組みや危険性について説明を受け、これらが記載されたパンフレット及び保険設計書を受領して閲読していたのであり、原告の年齢、学歴及び職業等からすれば、原告は、これらの書面の記載内容並びに北川及び小黒の口頭の説明によって、特別勘定資産の運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動し、運用対象である株式等の相場の変動により右保険金等が変動して支払保険料を下回る、いわゆる元本割れの生じる可能性のあること、ひいては、有効な相続税対策とならない可能性のあることを理解していたものというべきである。そうすると、原告が本件変額保険が有効な相続税対策となるものと誤信していたということはできない。

また、証拠(甲三、二七)によれば、本件各物件の収支予想を記載した書面には、本件各物件を購入して一〇年半これを運用した場合、営業利益の額は提携ロ-ン金利の額を下回ると予想されていたことが認められるから、原告が本件各物件からの利益が借入利息に不足することはないものと誤信したとも認め難い。

したがって、原告の錯誤の主張は理由がない。

五  米ドル建金銭消費貸借契約に基づく債務が存在しないことの確認請求の訴えの利益の有無について

原告は、右金銭消費貸借契約に基づく債務が存在しないと主張するところ、被告三井信託銀行も原告の右債務が存在しないことを争わないから、原告の右債務が存在しないことの確認請求の訴えは確認の利益を欠くものといわざるを得ない。

第四結論

よって、原告の予備的請求のうち、原告と被告三井信託銀行株式会社との間において米ドル建金銭消費貸借契約に基づく二六万四〇〇〇米ドル(三二二七万四〇〇〇円)の債務が存在しないことの確認請求は確認の利益を欠くから不適法として却下し、原告のその余の請求はいずれも理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 丸山昌一 裁判官 草野真人 裁判官清原博は転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 丸山昌一)

物件目録

一 東京都渋谷区東一丁目一三八番一

宅地 一三七・三五平方メートル

二 同所一三八番地一

家屋番号 一三八番一-一

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 七六・〇三平方メートル

二階 四五・四五平方メートル

(以上)

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