東京地方裁判所 平成9年(ワ)21170号 判決 1998年12月08日
原告 株式会社住宅金融債権管理機構
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 比佐守男
同 永田泰之
被告 ビィー・ビィーアンドイー株式会社
右代表者代表取締役 B
右訴訟代理人弁護士 川尻治雄
主文
一 訴外Cと訴外Bとの間の別紙契約目録記載の金銭消費貸借契約を取り消す。
二 被告は、原告に対し、一億円及びこれに対する平成八年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は、第二項及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨
第二事案の概要
一 事案の要旨
本件は、原告が、被告に対し、C(以下「C」という。)からB(以下「B」という。)に対する一億円の貸付が、原告のCに対する貸金債権との関係で詐害行為に当たるとして詐害行為取消権に基づき、右貸付契約の取消しを求めるとともに、右一億円がBからさらに同日に被告に貸付けられた際、被告は右詐害行為につき悪意であったとして被告に対して、一億円及びこれに対する平成八年二月二九日(被告が貸付を受けた日)から支払済みまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求めるという事案である。
二 争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実
次の事実は、当事者間に争いのない事実か、又は証拠上容易に認められる事実(この場合には採用証拠を< >内に掲げた。)である。
1 当事者
(一) 原告は、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法に基づいて設立された法人である。
(二) Cは、いわゆる旧住専の一社である株式会社住総(以下「住総」という。)の大口融資先の一つである太陽エステート株式会社(以下「太陽エステート」という。)及び右太陽エステートの子会社数社の代表者である。
(三) Bは、Cの長男であり、太陽エステート及びその子会社数社の取締役を務めていたが、平成八年一月二五日から同年二月一五日にかけて、太陽エステート及び子会社数社の取締役を相次いで辞任し、同年二月二日の被告の設立と同時に被告の代表取締役に就任した。
(四) 被告は、同年二月二日、Bが発行済株式六〇〇株全てを保有する株式会社として設立され、太陽エステートの子会社の一つである太陽商事株式会社の経営していた飲食店の営業を引き継ぎ、これを主たる業務としている会社である。
2 本件貸付と被告会社に対する貸付
(一) Cは、Bとの間で、平成八年二月二九日、別紙契約目録記載の金銭消費貸借契約を締結し、Bに対し、一億円を交付した(以下「本件貸付一」という。)。<甲二>
(二) Bは、本件貸付一と同時に、被告との間で、本件貸付一と同一内容の金銭消費貸借契約を締結し、右一億円をそのまま被告に交付した(以下「本件貸付二」という。)。<甲三>
三 争点
1 被保全債権の存否
(原告の主張)
(一) 住総エステートサービス株式会社(以下「住総エステート」という。)は、Cに対し、次のとおり金員を貸し付けた(以下「被保全債権」という。)。
貸付日 平成元年六月二六日
貸付金額 五六億九八〇〇万円
弁済期 平成二年六月二五日(その後平成四年九月三〇日に変更)
利息 年六・七パーセント
損害金 年一四・六パーセント
住総エステートは、平成三年六月二六日、住総に吸収合併された。
Cは、住総に対し、右貸金元金の内一五〇万円を弁済したのみでその余の弁済をしない。
住総は、原告に対し、平成八年一〇月一日、前記の貸金返還請求権を譲渡した。
(二) Cは、原告に対し、右債権譲渡に先立つ平成八年九月一三日、右債権譲渡について異議を留めない承諾をした。
なお、ここでいう承諾の法律的性質は観念の表示であり、意思表示ではなく、錯誤の規定の適用はない。仮に、錯誤の規定が問題になるにしても、本件は動機の錯誤である。
また、債権譲渡における異議なき承諾とは、債務者の異議を留めない承諾という事実に公信力を与えて譲受人を保護する規定であるところ、本件において債権譲渡の取引の安全を犠牲にしてまで、特に債務者であるCを保護すべき理由もない。
(三) よって、原告は、Cに対し、貸金元金五六億九六五〇万円及びこれに対する変更後の弁済期の翌日である平成四年一〇月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払請求権を有している。
(被告の主張)
(一) 原告のCに対する五六億九六五〇万円の「貸金債権」及びこれを含む太陽エステートに対する総額四二四億三四〇〇万円の「債権」の実質は、住総エステートが不動産事業を行うため拠出した不動産購入資金及び「利息」(住総エステートへの事業精算前渡金)並びに住総が上場するということで、平成三年二月二八日から同年三月二七日にわたって右事業用不動産を住総へ売却した際の事業精算金が「貸借残」の名目で残ったものであり、右事業のうち、現在残っている銀座a丁目ビル外三物件が売却処分できれば、諸経費を除いたその売得金を返済することで、住総エステートを吸収合併した住総と太陽エステート両者間の「貸借」の精算は結了することとなり、両者間に「債権債務関係」は残存しないこととなる。
(二) 原告主張の被保全債権は、住総エステートの太陽エステートに対するプロジェクト資金であって、Cは売主の都合から単に名義を貸したにすぎず、そのことについて住総エステートは熟知しており、住総エステートとCとの間の金銭消費貸借は、通謀虚偽表示に該当し無効である。
すなわち、昭和六一年ころ、太陽エステートが西麻布b丁目物件(以下「西麻布物件」という。)をオフィスビル建築のために購入しようと計画したところ、仲介業者である三菱地所住宅販売株式会社により、買い手が法人であると土地転がしのおそれがあるので、買い手が個人でなければ右物件を売却しないと売主が断言していると聞いたので、Cは、太陽エステートのために個人名義を貸したにすぎない。そして、太陽エステートが住総エステートに対し西麻布物件の購入資金の融資を申し込むに際し、売主の都合で消費貸借上の借主がC個人となってしまうが、それでも融資が可能かと尋ねたところ、住総エステートの担当者がそれでもかまわないといういうことで融資を承諾したという経緯からも、住総エステートは真実の借主が太陽エステートであってC個人ではないということは熟知していた。そして、昭和六一年一〇月二四日には、Cは住総エステートから西麻布物件の購入資金等として手形貸付として四五億五〇〇〇万円を借り入れ、その後の利息支払についても住総エステートからCの返済用の個人口座に利息相当金が手形貸付の形態で振込まれ、右口座から利息が支払われていたが、平成元年六月二六日に、それまでの残元金及び利息を貸付の形式に一本化したのが原告主張の被保全債権である。
(三) 住総と原告との債権譲渡の実質は、住総の契約上の地位を原告が承継するというものであり、原告主張のC及び太陽エステートの承諾は、このことをCや太陽エステートは承諾するというものであって、単なる債権譲渡に係わる異議なき承諾ではなく、契約上の地位の移転契約にすぎない。
(四) 仮に、「債権譲渡に係る承諾書」(以下「本件書面」という。)により抗弁切断の法律効果が発生するとするならば、Cは、本件書面作成時、本件書面が抗弁切断の法律効果が発生することを知らず、単に契約上の地位の移転契約にすぎず抗弁切断の効果は発生しないものと誤信していた。右誤信は、抗弁の切断の有無という点において重要であり、Cにその点についての誤信がなければそのような意思表示をしなかったし、そのような意思表示をしないことが社会通念上一般的であるといえ、右承諾は、錯誤により無効である。
2 詐害行為の存否
(原告の主張)
(一) 被保全債権のために担保権が設定されていたC所有の不動産は、本件貸付一当時、時価約七億二四〇〇万円にすぎず、被保全債権は四九億円以上が無担保の債権となっていた。
さらに、Cは、本件貸付一当時、被保全債権の他にも、太陽エステートの住総に対する総額四二四億三四〇〇万円(元金)の借入金債務の全てについて、太陽エステートのために連帯保証をしていた。
そして、住総が太陽エステート及びCの所有不動産に設定していた担保権による回収見込額は多くとも総額四六億六七〇〇万円にすぎず、債権額合計三七七億円以上が無担保の債権となっていた。
しかも、Cも太陽エステートも平成四年九月三〇日以降債務不履行の状態にあり、平成八年二月の本件貸付一当時、すでにCも太陽エステートも履行遅滞に陥っていた。
したがって、本件貸付一当時、Cは明らかな債務超過状態にあり、被保全債権を満足させるに足りる財産を有してはいなかった。
(二) 右のように事実上破綻状態にあるCが、特段の合理的理由もないのに息子Bに対し、一億円を①無利息、②元本の返済すら一〇年据え置き、③一一年目から一五年間(一八〇回)もの長期の分割返済との条件で貸し付ける本件貸付一は、金銭消費貸借の形態を取ってはいるが、その実質は贈与であり、債務者の一般財産を減少させる行為とみなし得る。
(三) そして、Cは、本件貸付一当時、本件貸付一が債権者を害する行為であることは知っていた。
また、Bは、三菱銀行の銀行員であったが、太陽エステートやCの窮状を十分に認識して、それを手伝うために銀行を退社したのであるから、Cや太陽エステートの資産状態及び本件貸付一が債権者を害することを知っていた。
そして、被告は、本件貸付一によってCから貸し付けられた一億円を、被告の代表取締役であるBを介してそっくりそのまま受領したのであり、悪意の転得者である。
また、本件貸付一と本件貸付二の二段階の金銭消費貸借を全体としてみれば、Cから一億円を借り受けたのは被告自身であって、被告は悪意の受益者とも評しうる。
(被告の主張)
本件貸付一は詐害行為に該当しない。
(一) 原告の太陽エステートに対する総額四二四億三四〇〇万円の「債権」は、前記のように、銀座a丁目ビル外三物件の売却処分により精算される筋合いのものであり、貸金ではない。
(二) 本件ではCの一億円の預金債権がBに対する貸金債権に変わっただけであり、Cの一般財産が減少したわけではないし、当事者間で返済を確約している以上、法律上贈与に該当するわけではない。
また、一般的に債権者の債権回収について貸金債権の返済条件そのものが債権回収を困難にするということはあり得ない。
また、預金債権であっても、債権者が差し押さえたからといって、金融機関が反対債権を有していたり、他に質権設定等してあれば、必ずしも直ちに取立が可能というわけではなく、金融機関ですら倒産することもあり得る昨今、預金債権が貸金債権に変わったことをもって、一般財産が減少したとみなせるものではない。
(三) 加えて、預金金利が低迷している今日、定期預金金利は、〇・三パーセント程度であって、仮に預金債権の場合であれば差し押さえたうえ直ちに取立が可能であったとしても、本件貸借の返済条件に照らせば、二五年間で概算五〇〇万円程度(年平均二〇万円程度)その価値が減少するにすぎず、元々は親子間の貸借であることをも勘案すれば、この返済条件をもって、CとB間の一億円の貸借そのものが詐害行為であるとはいえない。
本件貸付一は、Cが被告ではなくBに貸し、本件貸付二はBが被告へ貸すことで成立したものであるが、その理由は、Cとしては老後の生活資金であったから、生涯親子であり続けるBへ貸すこととしたものであったからにほかならない。
(四) 本件貸付一について、CにもBにも被告にも、詐害の意思はない。
住総と太陽エステートないしCとの金銭消費貸借は通謀虚偽表示であるから、Cにはそもそも債務者であるとの認識はない。
Bは、金融実務の経験から、融資についてはケースバイケースで必ずしも書類通りの処理が行われないことがあること、ケースによっては、融資金の返還請求も個人保証の追及も行われないことを知っており、また、太陽エステートの事業は、全て住総エステートの指示で行われており、不動産購入資金や会社の運営資金も全て住総エステートが負担し、「借入」はすべて、不動産を売却したときに売却代金で精算して両社の関係は終了する、個人保証は形だけで追及されることはない、旨のCの説明を聞き安心していたのであって、本件貸付一が債権者としての住総を害するなどは、全く念頭になかった。
したがって、Bが代表取締役である被告会社についても、右同様本件貸付一が債権者である住総を害する等の意思はなかった。
四 争点に対する判断
1 被担保債権の存否
<証拠省略>、弁論の全趣旨によれば、平成元年六月二六日に住総エステートが、Cに対し、五六億九八〇〇万円を、弁済期平成二年六月二五日、利息年六・七パーセント、損害金年一四・六パーセントの約定で貸し付けたこと、平成三年六月二六日、住総エステートが住総に吸収合併されたこと、平成四年六月三〇日に弁済期が同年九月三〇日に変更されたこと、Cは、住総に対し、右貸金元金のうち一五〇万円を弁済したが、その余の弁済をしないこと、住総が原告に対し、平成八年一〇月一日、右貸金債権を譲渡したこと、これに先立つ同年九月一三日Cは右債権譲渡につき異議を留めず承諾をしたことが認められ、以上認定の事実によれば、原告がCに対して貸金元金五六億九六五〇万円及びこれに対する変更後の弁済期の翌日である平成四年一〇月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払請求権を有しているということができる。
この点、被告は、右貸金債権の実質は、太陽エステートが西麻布物件を購入するに際しての住総エステートの太陽エステートに対するプロジェクト資金であり、Cは名義を貸したにすぎず、原告とCとの間の消費貸借契約は通謀虚偽表示によるものであって無効であると主張する。しかし、まず、甲二三、二四によれば、太陽エステートないしその関連会社と住総エステートとの間の共同事業においては協定書が作成され、その協定書において役割分担、利益分配等が定められていること、西麻布物件については何ら協定書が作成されておらず、西麻布物件に関しては住総ないし住総エステートと太陽エステートとの間で右の意味での共同事業はされなかったということができる。そして、甲二三、二四、乙三ないし四(信用できる部分)によれば、右のような共同事業において、住総エステートが事業資金の供給を分担し、その履行として太陽エステート等に対し金員を貸し付けたことは認められるが、消費貸借契約を締結する目的が右のようにプロジェクト資金の調達にあるからといって、直ちに右消費貸借が形だけのものであるということはできないのはもちろんであり、交付された資金が返済の必要のない投資金であり、弁済期の延期がされることなく期限が到来した場合であっても債務者が弁済の義務を負わないと認めるに足りる証拠はない。
特に本件については、甲一の一及び二、一七ないし一九、乙三(信用できる部分)によれば、昭和六一年一〇月二四日にCが西麻布物件を取得したこと、その資金が住総エステートからの借入金によったこと、右借入金につき住総エステートの利息の追貸分も含めて平成元年六月二六日に証書貸付に書き換えた貸金債権が被保全債権であること、被保全債権の債務者名がCであること、Cが作成したと供述する西麻布物件の所有者が太陽エステートであると確認する旨の公正証書の作成日付である平成三年一二月二五日よりも後の日付である平成四年六月三〇日に締結された被保全債権の弁済期の変更契約の債務者名が依然Cであることが認められ、以上認定の事実によれば、被保全債権の債務者はCであるというべきである。
そして、他に被保全債権が通謀虚偽表示であると認めるに足りる証拠は認められないので、原告主張の被保全債権の存在は肯認される。
2 詐害行為の存否
(一) 甲一三、弁論の全趣旨によれば、被保全債権のために担保権が設定されていたC所有の不動産は、本件貸付一当時、時価約七億円にすぎず、被保全債権は四九億円以上が無担保の債権となっていたこと、さらに、Cは、本件貸付一当時、被保全債権の他にも、太陽エステートの住総に対する総額四二四億三四〇〇万円(元金)の借入金債務の全てについて、太陽エステートのために連帯保証をしていたこと、そして、住総が太陽エステート及びCの所有不動産に設定していた担保権による回収見込額は多くとも総額四六億六七〇〇万円にすぎず、債権額合計三七七億円以上が無担保の債権となっていたこと、Cも太陽エステートも平成四年九月三〇日以降債務不履行の状態にあり、平成八年二月の本件貸付一当時、すでにCも太陽エステートも履行遅滞に陥っていたことが認められ、以上認定の事実によれば、本件貸付一当時、Cは明らかな債務超過状態にあり、被保全債権を満足させるに足りる財産を有していなかったということができる。
この点、被告は、Cの連帯保証もまた、プロジェクト資金に関してされたものであり、形だけのものであると主張するが、前記認定のようにプロジェクト資金であるがゆえに返済の不要な出資金と同視することはできず、むしろ消費貸借及びその保証の実質はあったといえるし、Cの個人保証が形式だけであったと認めるに足りる証拠はない。
(二) 本件貸付一の条件をみると、Cとしては、一億円につき、契約後一〇年もの長期間これを運用することができず、この一〇年が経過した後においても返済はその時点から一五年間もの長期の分割返済であり、月々たかだか五五万五〇〇〇円の返済が受けられるにすぎないにかかわらず、合計二五年分の利息については無利息とするというのであり、この条件自体通常の金銭消費貸借とかけ離れている。しかも、Cとしては、最初の一〇年間はまったく返済を請求できないのであるから、最初の一〇年間については実質的に贈与の場合と何ら変わらないのであり、その後も月々五五万五〇〇〇円の返済金からしか満足を得られないことになる以上、本件貸付一の貸付条件のもとでは、本件貸付一は、実質においては、Cの債権者にとっては、Cの一般財産が贈与によって一億円減少する場合と大差ないということができる。そして、前記認定のように本件貸付一当時において、Cが債務超過状態にあったことをも考慮すれば、本件貸付一は債権者を害する行為であるということができる。
この点、被告は、本件貸付一は、Cの老後の生活資金であり、そのためにBに対する貸付を介在させたと主張している。確かに、現にCとBが親子であり、Cが現在五八歳であることからすれば、一般論としては、Cが息子のBと消費貸借契約を締結し、貸金の分割返済を毎月息子から受ける形で老後の生活資金とすること自体あながち不合理とまではいえない。しかし、Cが前記のとおり明らかに債務超過の状態にあることからすれば、債権者に返済せずに、自己の老後の生活資金確保のために息子に金銭を貸与することが、債権者を害する行為であることは明らかである。
甲二、三、証人Bの証言(信用できる部分)によれば、本件貸付一と本件貸付二が同日に同条件でされたのみならず、同一の書式の契約書によりされ、いずれについても契約の当日に確定日付が取られており、しかも、右確定日付の番号が連番であること、Bに貸し付けられた一億円は口座から口座へ移され、そのまま被告に貸し付けられたことが認められ、以上認定の事実によれば、BはC・被告間の貸付に関して、意図的に介在させられたということができる。
(三) そして、右認定事実によれば、Cは、本件貸付一当時、本件貸付一が債権者を害する行為であることは知っていたということができる。
また、前記のとおり、BがCの息子であり、本件貸付一及び二の契約内容や契約書の作成経緯が極めて不自然なことからすれば、Bが本件貸付一が債務者を害する行為であることを知っていたことが認められる。
そして、右認定事実を前提とすれば、Bが代表者である被告については、本件貸付一よってCがBに貸し付けた一億円を、Bを介してそっくりそのまま受領したのであるから、悪意の転得者ということができる。
以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由があり、これを認容することとする。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 白石史子 山田篤)
別紙(契約目録)
1 貸主 C
2 借主 B
3 契約日 平成八年二月二九日
4 貸付金額 金一億円
5 弁済期及び弁済方法 平成八年二月二九日から一〇年間据置き、一一年目から一五年間に亘り、毎月月末限り、五五万五〇〇〇円宛(一八〇回)の分割弁済(最終月は、金六五万五〇〇〇円)
6 利息 無利息