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東京地方裁判所 平成9年(ワ)22857号 判決 1998年10月07日

原告

八代邦雄

被告

関川徹

主文

一  被告は、原告に対し、金一六八万七〇八〇円及びこれに対する平成九年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、三分の一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金四九八万三五五五円及びこれに対する平成九年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、路上に駐車中の外国製ステーションワゴンに普通乗用自動車が追突した交通事故について、ステーションワゴンの所有者が、追突してきた普通乗用自動車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき(原告は、責任原因を明確にしていないが、民法七〇九条によるものと理解することができる。)、車両損害や代車料等の物損について賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実等

1  交通事故の発生(争いがない)

(一) 発生日時 平成九年一月八日午後九時五三分ころ

(二) 発生場所 東京都豊島区雑司が谷三丁目九番先路上

(三) 加害車両 被告が運転する普通乗用自動車(練馬五三る六〇九九)

(四) 被害車両 原告が所有する普通乗用自動車(練馬三三ね五六三二)

(五) 事故態様 片側二車線の中央車線寄りを走行していた加害車両が、前方を走行する車両を追い越すために外側車線に進路を変更したが、時速一〇〇キロメートル近い速度で進行したため、前方に被害車両が駐車していたにもかかわらず停止することができず、被害車両に追突した。

2  責任原因(民法七〇九条)

1(五)の事実によれば、被告は、加害車両を運転するに際し、制限速度を遵守し、かつ、前方の安全を確認して走行する注意義務があるのに、これを怠り、高速で前方の安全を十分確認することなく走行した過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告の後記損害を賠償する義務がある。

3  被害車両の概要

被害車両は、平成元年九月に登録されたマーキュリーコロニーパーク(ステーションワゴン)であり、オートマチック車で、かつ、シートは革張りであって、本件事故当時、走行距離は九万三六一五キロメートルであった(甲三、六、原告本人)。

4  被害車両の修理費用

原告は、被害車両の本件事故による破損につき、近鉄モータース株式会社(以下「近鉄モータース」という。)に対し、修理の見積りを依頼したところ、見積総額は四六〇万五九〇二円であった(甲六、原告本人)。

二  争点

車両損害及び代車料を中心とした被害車両の物損全般

第三  争点に対する判断

一  車両損害(請求額二四五万円) 一二〇万円

1  交通事故により車両が破損し、その修理費が、本件事故当時の被害車両の客観的交換価値、即ち、時価額を超えるときは、いわゆる経済的全損として、当該車両の時価額に相当する金額を賠償すれば足りるというべきである。

被害車両は、修理に四六〇万五九〇二円を要するところ、原告は、車両損害に関し、被害車両と同種・同型式の中古車を購入する代金として二四五万円を請求するのに対し、被告は、本件事故当時の被害車両の時価は一一六万円であるから、車両損害はその限度で認められるべきであると主張しており、被害車両が経済的全損であることは、当事者間に争いはない。

そこで、被害車両の本件事故当時の時価額について検討するに、これは、被害車両と同一の車種・年式・型・走行距離を含めた同程度の使用状態の自動車を中古車市場において取得するのに必要な価格をもって定めるのが相当であるところ、一般に、相当程度の台数が販売されている自動車について、個別的に認定することには限界があるというべきであるから、ある程度類型化されたオートガイド自動車価格月報(レッドブック)による中古車の平均販売価格に従って定めるのが合理的というべきである。そして、走行距離が七年四か月間で約九万三〇〇〇キロメートルであることからすると、おおむね通常の使用状態であったといえることに加え、本件事故発生日に近接した平成八年一二月一日から同年一二月三一日までの間の平均販売価格を掲載したレッドブックによれば、平成元年式マーキュリーコロニーパークワゴンの平均販売価格は一二〇万円であること(甲七の46、乙一の1・3)を併せて考えると、本件事故当時の被害車両の時価額は、一二〇万円と認めるのが相当である。

2  これに対し、原告は、<1>レッドブックには、すでに販売中止されている車両について、新車価格に( )をつけるとされているが、マーキュリーコロニーパークワゴンは、平成三年度に販売が中止されているにもかかわらず、その表示がなされていないこと、<2>レッドブックを発行している有限会社オートガイドの担当者によれば、掲載月ごとに、ディーラーに中古車価格を問い合わせた上で、中古車両の平均販売価格を掲載しているとのことであるが、マーキュリーコロニーパークワゴンのディーラーである近鉄モータースは、中古布場を管理運営していないこと、<3>本件事故が発生した平成九年一月の平均販売価格を掲載したレッドブックには、マーキュリーコロニーパークワゴンの販売価格は掲載されていないことを指摘して、レッドブックに掲載されたマーキュリーコロニーパークワゴンの価格は信用できないかのように主張する。

しかし、<1>について、たしかに、マーキュリーコロニーパークワゴンは平成三年に販売中止になったようであるが(甲一六)、レッドブックの説明は、新車価格に( )がついているものは、すでに販売が中止されているものの最終価格を参考に掲載してあるというにすぎず(甲七の1)、販売中止になったものの新車価格について、必ず( )をつけると説明しているわけではない。また、<2>については、近鉄モータースは、日本全体で八二台販売されたマーキュリーコロニーパークワゴンのうち一八台を販売したディーラーであるが、中古車は扱っていないようではある(甲一六)。しかし、レッドブック上の中古車両の平均販売価格の調査方法は、本件全証拠によっても明らかではないが、仮に、有限会社オートガイドが、掲載月ごとに、ディーラーに対して中古車価格を問い合わせた上で中古車両の平均販売価格を掲載しているとすれば、中古車価格について回答することができるディーラー(中古車ディーラー)に問い合わせて調査していると考えるのが自然であるから(少なくとも、そのような調査すらしていないと疑わせる反証はない。)、ディーラーのひとつである近鉄モータースが中古車を扱っていないからといって、有限会社オートガイドの調査方法やその内容に疑義があるとはいえない。さらに、<3>については、たしかに、平成九年一月一日から同年一月三一日までの中古車平均販売価格を掲載したレッドブックには、マーキュリーコロニーパークワゴンの販売価格は掲載されていないが(甲七の47)、このことが、それまでにレッドブックに掲載された価格に疑いを生じさせるとは到底いえないし、その前月には販売価格が掲載されており、わずか一か月で価格が大きく変動することは考えにくいから、前月に掲載された価格を参考にすることが不適切であるともいえない。

また、原告は、被害車両の本件事故当時の時価額を証明する書証として、アメリカ車を専門に扱っている雑誌「A CARS」平成九年一月号から平成一〇年二月号までの抜粋(甲八の1~23)を提出し、そこに掲載された中古車販売会社の広告によれば、平成元年式マーキュリーコロニーパークワゴンの価格は、一六〇万円から二二五万円となっている。しかしながら、掲載された中古車販売会社は三社にとどまっている上(その中でも愛知県に所在する一社の広告が大半を占めている。)、レッドブックとの価格差に照らすと、これらの店舗において、通常、この広告記載の価格で車両が現実に販売されているのか否か必ずしも明らかでなく(広告掲載の価格は、中古車販売会社の希望価格とみる余地がある。)、仮に、広告記載の価格で販売されているとしても、このようにごく限定された販売会社の広告により、被害車両の時価を認定するのは適切であるとはいえない。

したがって、原告の主張はいずれも採用できず、その他、本件事故当時の被害車両の時価がレッドブック記載の一二〇万円を超えると認めるに足りる証拠はない。

なお、被告は、被害車両の時価は一一六万円であると主張するが、平成九年一月一日から同年一月三一日までの価格を記載したレッドブックには、平成元年式マーキュリーコロニーパークワゴンの中古車平均価格は記載されておらず、平成八年一二月からわずか一か月の間に四万円低下したと認めるに足りる証拠はないから、被告の主張は採用できない。

二  代車料(請求額一九五万円) 四五万円

1  原告に、少なくとも一四日間は代車の必要性があり、その間、少なくとも一日あたり九〇〇〇円の合計一二万六〇〇〇円の代車料について、それが、本件事故と相当因果関係がある損害であることは当事者間に争いがない。

2  原告は、本件事故当日である平成九年一月九日から同年五月一八日までの一三〇日間にわたり、一日あたり一万五〇〇〇円の合計一九五万円の代車料が本件事故と相当因果関係のある損害であると主張する。

ところで、証拠(甲二、四、五、乙二の1・2、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

原告は、生花小売業を営んでおり、被害車両を配達や仕入れなどの業務に使用していた。原告は、本件事故により破損した被害車両を、本件事故から四か月を経過した平成九年五月九日から同年五月一八日まで修理に出し、破損したうちの一部を修理して、現在もそのまま被害車両を使用している。原告は、本件事故後一週間ほど経過した後、友人からシボレーのキャンピング車を借用し、被害車両の修理が終了する同年五月一八日までそれを使用していた。この友人に対しては、使用料はまだ払っていないが、ある程度のお礼をしたいと考えている。レンタカーにより代車としてワゴン車の提供を受けるときは、その費用として、国産車で一日九〇〇〇円から一万五〇〇〇円ほどかかる。

この認定事実によれば、原告は、現実に代車料を出費していないが、これは、原告の努力で友人から自動車を借りる措置を採ったからである。具体的な費用の約束をしていないとしても、お礼などの名目はともかく、他から代車を借りた場合に支払う程度の使用料を支払うことはやむを得ないというべきであり、その限度で代車料を認めるのが相当である(前記のとおり、一定限度の代車料が本件事故と相当因果関係のある損害であることは、当事者間に争いがない。)。そして、すでに検討したように、被害車両は経済的全損の状態にあるから、代車料は、被害車両と同種・同程度の中古車に買換えるのに相当な期間の限度で認められるところ、被害車両の使用目的、それがそれほど多く中古車市場に出まわっていない外国車両であることに加え、国産ワゴン車の代車料金などを総合考慮し、国産ワゴン車の上級車に相当する一日あたり一万五〇〇〇円で、三〇日間分の四五万円の限度で代車料を認めるのが相当である。

三  回送費(請求額七万四一六〇円) 三万七〇八〇円

証拠(甲一二の1~3、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

被害車両は、本件事故後、ミッションの具合が悪く、単独での自走が困難な状態であったため、原告は、ウエストサイド商会に伴走を依頼し、原告が被害車両を運転し、その後方からウエストサイド商会の車両が追走して被害車両を東京都港区芝浦に所在する近鉄芝浦自動車整備株式会社まで回送した。その後、原告は、被告と契約している任意保険会社と車両損害について交渉したが、一一六万円ほどしか支払わないとの回答であったため、修理も買換えもできないと判断し、保管料がかかることを回避するため、再びウエストサイド商会に伴走を依頼し、被害車両を東京都豊島区上池袋に所在する原告の自宅まで回送した。原告は、ウエストサイド商会に対し、これらの費用として消費税を含めて七万四一六〇円(回送一回につき三万七〇八〇円の二回分)を支払った。

ところで、近鉄芝浦自動車整備株式会社まで回送した費用三万七〇八〇円が本件事故と相当因果関係があることについては、当事者間に争いがない。そこで、近鉄芝浦自動車整備株式会社から原告の自宅への回送費用について判断するに、任意保険会社は、すでに認定した被害車両の時価額におおむね相当する金額の提示をしていたものであるから、原告が、修理も買換えもできないと判断して自宅へ回送したとしても、それは、独自の判断に基づくものというべきであるから、この回送費は、本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

四  見積料(請求額二三万〇二九五円) 認められない

原告は、修理費用の五パーセントに相当する二三万〇二九五円を見積料として損害であると主張する。しかし、原告は、見積りを依頼した近鉄モータースから見積料の請求を受けておらず(原告本人)、したがって、その金額も明かでない。そうすると、原告は、右の金額の支払義務を負っていると認めるには足りず、したがって、これを見積料として損害と認めるには足りないというべきである。

五  諸費用(請求額二七万九一〇〇円) 認められない

原告は、被害車両の買換えのために必要になった費用として、登録費用、車庫証明費用、納車費用、廃車費用、自動車損害賠償保険料、自動車取得税、車両重量税の合計二七万九一〇〇円の損害を被ったと主張する。しかし、すでに認定したように、原告は、被害車両を現在も使用しており、買換えをしていないのであるから、右の諸費用を負担したとは認められない。

第四  以上によれば、原告の請求は、不法行為に基づく損害として、一六八万七〇八〇円と、これに対する平成九年一月八日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 山崎秀尚)

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