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東京地方裁判所 平成9年(ワ)23933号 判決 1999年1月29日

大阪市中央区東心斎橋一丁目九番二三号

原告

株式会社永光

右代表者代表取締役

小山良

大阪府箕面市箕面八丁目四番二二号

原告

小山良

原告ら訴訟代理人弁護士

前田春樹

東京都台東区駒形二丁目五番四号

被告

株式会社バンダイ

右代表者代表取締役

茂木隆

右訴訟代理人弁護士

伊藤真

小林幸夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告株式会社永光(以下「原告永光」という。)に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告小山良(以下「原告小山」という。)に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告永光は、ゲーム機器である「たまごっち」を輸入販売しており、原告小山は、原告永光の代表者である。

被告は、ゲーム機器である「たまごつち」を販売している。

2  被告従業員柴田郁夫(以下「柴田」という。)は、角谷繁男こと角谷茂代(以下「角谷」という。)らと共謀の上、平成九年五月一四日と一五日の二回にわたり、あさひ銀行心斎橋支店、第一勧業銀行南船場支店、大和銀行梅田支店及び阪神銀行大阪支店に対して、ファックスで書面を送ったが、それには、次のような原告永光の信用を害する虚偽の事実が記載されていた。

(一) 原告永光は、被告の「たまごつち」のニセ物を販売し、暴力団関係者へも商品を流している。

(二) 大阪府警生活安全課では、原告小山の逮捕に向っての証拠固めが最終段階に至っており、逮捕は本年六月後半ころになる。

(三) 原告小山は、今年始め、たまごっちが超人気だとの情報を得るなり海外でコピーを作らせて輸入しようと計画し、計画実行のためにダミー会社を設立した。

(四) 原告小山がニセ物と承知の上で輸入販売しているとして、大阪府警も現在六名体制で捜査中である。

(五) 原告小山が逮捕検挙されると拘留期間は数箇月に及ぶと思われる。

(六) 原告永光のような会社に対して、手形割引や融資を行うことは銀行としての公的な立場を考えると、あってはならない。

(七) 良識のある取引先は、直ちに原告永光との取引は中止するのであろう。

(八) 原告永光は原告小山のワンマン経営であり、原告小山が逮捕されると営業は全く機能しなくなることが容易に推察でき、貸付をすると貸付不良債権が生じることは間違いない。

(九) ある地銀の一行は様子を見るという理由で、取引は休止中であると聞き及んでいる。

3  被告従業員柴田は、角谷らと共謀の上、平成九年三月末から四月初旬にかけて、大阪府警の淀川警察署と南警察署に対し、「バンダイ社 たまごっちニセ物業者情報」という見出しの書面をファックスで送ったが、それには、次のような原告永光の信用を害する虚偽の事実が記載されていた。

(一) 原告永光は、被告のたまごっちのニセ物を五〇万個輸入しようとしている。

(二) 原告永光は、既に売り先の数社より三五〇〇万円程を受け取っている。

(三) 万一、警察の手が伸びてくれば、いつでも販売用に設定した新会杜を整理して逃げる段取りで準備している。

(四) 原告永光は、一年半前にも別の件で伊藤忠商事から訴えられ、いわばコピー、ニセ物の悪徳業者である。

4  被告従業員柴田は、角谷らと共謀の上、平成九年五月半ばに、郵便によって大阪国税局あてに書面を送ったが、それには、次のような原告永光の信用を害する虚偽の事実が記載されていた。

(一) 原告永光は、昨年五月の税務署立入検査の際に、一七〇〇万円の追徴税で済ましているが、この時ですら約五〇〇〇万円の納税を免れている。

(二) 原告永光は、九六年一一月期の売上げの一五%しか申告していない。

(三) 原告永光は、今回のたまごっち騒ぎの中で売上伝票も領収書も発行せずに商売している。

5  以上の2ないし4の被告従業員の行為は、不正競争防止法二条一項一一号に該当する不正競争行為であるとともに、民法の不法行為に当たり、それによって原告永光が被った損害の額は一〇〇〇万円である。

6  右3の被告従業員柴田が角谷らと共謀の上送った書面には、次のような原告小山の信用を害する虚偽の事実が記載されていた。

(一) 原告小山は、日本で最初にローレックス時計のニセ物を台湾より輸入したとして業界では良く知られている。

(二) 原告小山の妻の弟が、右(一)の件で台湾当局に逮捕されている。

7  右4の被告従業員柴田が角谷らと共謀の上送った書面には、原告小山はニセ物のニューたまごウォッチの売上げによって得た利益を会社の売上げとして計上せず、すべて原告小山の儲けとして私腹を肥やしているという内容の原告小山の信用を害する虚偽の事実が記載されていた。

8  以上の6、7の被告従業員の行為は、不正競争防止法二条一項一一号に該当する不正競争行為であるとともに、民法の不法行為に当たり、それによって原告小山が被った損害の額は三〇〇万円である。

9  よって、原告永光は、被告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、原告小山は、被告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告小山が原告永光の代表者であること、被告がゲーム機器である「たまごっち」を販売していることは認め、その余の事実は否認する。

2  請求原因2ないし4、6、7の各事実は否認する。

3  請求原因5、8、9は争う。

第三  当裁判所の判断

一  証拠(甲五、六、乙一、三、四、証人角谷茂代、同柴田郁夫)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  被告は、平成八年一一月に、ゲーム機器である「たまごっち」の販売を開始した。「たまごっち」は、人気を呼び、購入希望が殺到したが、被告では、それに対応することができず、平成九年三月ないし五月ころには、品不足の状態が続いていた。

被告は、「たまごっち」の類似品が販売されるという情報を得ていたが、その取扱業者までは特定できなかった。

2  角谷が会長であった株式会社マルシェの従業員前川敬博(以下「前川」という。)は、角谷の指示により、平成九年三月二二日、被告に対して、「バンダイ社 たまごっち ニセ物業者情報 第2段」という見出しの書面をファックスで送った。それには、原告永光が資金提供者となって「たまごっち」のニセ物を輸入、販売しようとしていること、第一回目の輸入は三月三一日又は四月一日に関西新空港に到着し、数量は六〇〇〇個くらいであること、その後四月一〇日前後から大量に輸入されるであろうことが記載されていた。右書面には、発信人が記載されていなかったので、被告には、誰が発信人かは分からなかった。

3  角谷は、平成九年四月二日、被告に電話をかけ、翌日被告従業員柴田と会う約束をした。なお、角谷と柴田は、それより前に面識はなかった。

4  角谷は、前川とともに、平成九年四月三日、柴田と会い、柴田に対して、原告永光が「たまごっち」のニセ物を四〇万個輸入、販売しようとしていること、原告永光の代表者である原告小山は、過去北ナイキの偽物を作っていたこと、表面上原告永光の名前は出ないことなどを話した。柴田は、裁判などのために「たまごっち」の類似品の取扱業者を特定する資料が欲しかったので、現物、領収書、納品書等が入手できれば欲しい旨話した。なお、前川と柴田は、それより前に面識はなかった。

5  被告は、平成九年四月一一日、東京地方裁判所に、原告永光を債務者とする、「ニュータマゴウォッチ」差止めの仮処分申請を行い、同月二八日には、同裁判所に、原告永光を被告とする、「ニュータマゴウォッチ」等に関する差止め及び損害賠償請求の訴訟を提起した。

前川は、平成九年四月二二日以降、柴田に何度か電話をして、原告永光に関する情報を伝えた。前川は、平成九年五月六日、柴田に対して、電話で、原告永光の商品を買い付ける資金を被告が提供することを求めたが、柴田は断った。

6  角谷は、前川とともに、平成九年五月八日、柴田ら被告の従業員四名と会い、原告永光の商品を買い付ける現場に被告の社員を立ち会わせて、証拠写真を撮ることを求めた。柴田らは、即答せずに帰り、その日のうちに、これを電話で断った。

被告は、同日、右会合後、大阪府警に対し、原告永光を被告訴人とする告訴状を提出した。

7  角谷は、前川とともに、平成九年五月一五日、柴田ら被告の従業員二名と会い、再び原告永光の商品を買い付ける資金を被告が提供することを求めたが、柴田らは断った。また、角谷らは、柴田らに対して、被告の「たまごっち」を二〇〇〇個売ることを求めたが、柴田らは、これも断った。

二  証人角谷茂代は、平成九年四月一五日ころ、柴田に会った旨証言するが、この証言は、これに反する証拠(証人柴田郁夫、乙五号証)に照らすと、信用できない。

三1  証拠(甲二の一、二、証人角谷茂代)によると、角谷は、大阪府警の淀川警察署と南警察署に対し、「バンダイ社 たまごっち ニセ物業者情報」という見出しの書面をファックスで送ったが、それには、原告永光について次の(一)ないし(四)のような事実が、原告小山について次の(五)、(六)のような事実がそれぞれ記載されていたことが認められる。

(一) 原告永光は、被告のたまごっちのニセ物を五〇万個輸入しようとしている。

(二) 原告永光は、既に売り先の数社より三五〇〇万円程を受け取っている。

(三) 万一、警察の手が伸びてくれば、いつでも販売用に設定した新会社を整理して逃げる段取りで準備している。

(四) 原告永光は、一年半前にも別の件で伊藤忠商事から訴えられ、いわばコピー、ニセ物の悪徳業者である。

(五) 原告小山は、日本で最初にローレックス時計のニセ物を台湾より輸入したとして業界では良く知られている。

(六) 原告小山の妻の弟が、右(五)の件で台湾当局に逮捕されている。

2  証拠(甲二の一、二)によると、右1の書面には、「初入荷は三月末-四月初めに二〇万個が入荷予定、この為の準備として小山良は二月二七日にフィリピンマニラに入り、三月三日にマニラより香港経由で中国のコピー製造会社へ・・・・大内恵一を同行している」との記載があることが認められ、同書面のこのような内容や見出しを、右一2認定の「バンダイ社 たまごっち ニセ物業者情報 第2段」という書面の内容や見出しと対比すると、右1の書面は、右一2認定の書面より前に出された右一2認定の書面の第1段であると推認することができる。そうすると、右1の書面が平成九年三月二二日より前に出されたことは明らかであり、そのときには柴田と角谷は面識がないから、柴田が角谷と共謀して右書面を送ったと認めることができないことは明らかである。

証人角谷茂代の証言中には、右1の書面を柴田らに見せて、警察署へ送ると話した上で送った旨の証言部分が存するが、この証言は、右に述べたところに照らすと信用することができない。

四1  証拠(甲一、六、証人角谷茂代)と弁論の全趣旨によると、角谷は、平成九年五月一四日と一五日の二回にわたり、あさひ銀行心斎橋支店、第一勧業銀行南船場支店、大和銀行梅田支店及び阪神銀行大阪支店に対して、ファックスで書面を送ったが、それには、原告永光について、次のような事実が記載されていたことが認められる。

(一) 原告永光は、被告の「たまごっち」のニセ物を販売し、暴力団関係者へも商品を流している。

(二) 大阪府警生活安全課では、原告小山の逮捕に向っての証拠固めが最終段階に至っており、逮捕は本年六月後半ころになる。

(三) 原告小山は、今年始め、たまごっちが超人気だとの情報を得るなり海外でコピーを作らせて輸入しようと計画し、計画実行のためにダミー会社を設立した。

(四) 原告小山がニセ物と承知の上で輸入販売しているとして、大阪府警も現在六名体制で捜査中である。

(五) 原告小山が逮捕検挙されると拘留期間は数箇月に及ぶと思われる。

(六) 原告永光のような会社に対して、手形割引や融資を行うことは銀行としての公的な立場を考えると、あってはならない。

(七) 良識のある取引先は、直ちに原告永光との取引は中止するのであろう。

(八) 原告永光は原告小山のワンマン経営であり、原告小山が逮捕されると営業は全く機能しなくなることが容易に推察でき、貸付をすると貸付不良債権が生じることは間違いない。

(九) ある地銀の一行は様子を見るという理由で、取引は休止中であると聞き及んでいる。

2  証拠(甲三、証人角谷茂代)と弁論の全趣旨によると、角谷は、平成九年五月に、大阪国税局あてに、郵便によって書面を送ったが、それには、原告永光に関して次の(一)ないし(三)の事実が、原告小山に関して次の(四)の事実が記載されていたことが認められる。

(一) 原告永光は、昨年五月の税務署立入検査の際に、一七〇〇万円の追徴税で済ましているが、この時ですら約五〇〇〇万円の納税を免れている。

(二) 原告永光は、九六年一一月期の売上げの一五%しか申告していない。

(三) 原告永光は、今回のたまごっち騒ぎの中で売上伝票も領収書も発行せずに商売している。

(四) 原告小山はニセ物のニューたまごウォッチの売上げによって得た利益を会社の売上げとして計上せず、すべて原告小山の儲けとして私腹を肥やしている。

3  証人角谷茂代は、右一6認定の会合の際に、右1の書面の原稿を柴田らに見せてそれを銀行へ送ると話し、右2の書面を柴田らに見せてそれを国税局へ送ると話し、その上でこれらの書面を送った旨証言する。しかし、証人柴田郁夫は、この事実を否定する証言をしていること、他方、証人角谷茂代は、右三1の書面の警察署への送付に関する柴田らの関与について、右三2認定のとおり証拠に照らして信用できない証言をしていることのほか、右三認定のとおり、角谷は、警察署へは、予め柴田に相談することなく、自分の判断で、右三1の書面を送っていること、証人角谷茂代の証言によると、角谷は、原告小山と商売上のいさかいがあって、原告小山に恨みを抱いていたことが認められるから、銀行や国税局に対しても、警察署に対するのと同様に、予め柴田に相談することなく、自分の判断で、原告らにとって不利益な事実を記載した書面を送ったとしても不自然ではないこと、右一認定の事実によると、角谷らと柴田らとの交渉は、角谷らが原告永光についての情報を被告に提供して、資金提供や「たまごっち」の供給を受けようとしたが、柴田らに断られたというものであって、第三者への情報提供が話題になる必然性はないことを総合すると、証人角谷茂代の右証言を直ちに信用することはできない。そして、他に、角谷が、柴田に対して、右1の書面や右2の書面を見せてそれを送る旨話したことを認めるに足りる証拠はない。

4  また、仮に、角谷が、右一6認定の会合の際に、右1の書面の原稿を柴田らに見せてそれを銀行へ送ると話し、右2の書面を柴田らに見せてそれを国税局へ送ると話し、その上でこれらの書面を送ったとしても、次のとおり、柴田と角谷が共謀して、これらの書面を送ったものとまで認めることばできない。すなわち、

(一) 証拠(甲一、三、証人角谷茂代)と弁論の全趣旨によると、右1の書面は、銀行に対して原告永光との取引中止を求めるものであり、右2の書面は、国税局に対して原告永光を脱税で摘発することを求めるものであって、しかも、そこに記載されている事実には、いかなる根拠に基づくものであるかはっきりしないものが少なからず含まれているものと認められるから、そのような書面を出せば法的責任を追求されることがあり得ることは当然予想することができたものと認められ、右一6認定の会合の時点で、既に仮処分申請や訴えの提起をしており、刑事告訴も行う直前であった被告が、あえて、右のような各書面を角谷に依頼して発送しなければならない理由があったとは認められない。

また、右1、2の各書面の内容や送付先について、柴田が意見を述べるなどして、角谷と柴田との間で検討したことを窺わせる証拠はない(証拠(乙四、証人柴田郁夫)によると、原告永光は阪神銀行とともに三和銀行がメインバンクであること、柴田はその事実を知っていたこと、以上の事実が認められるところ、右1の書面が三和銀行に対して送られていないことは、その送付先について角谷と柴田との間で検討されたことがないことを推認させる。)。

(二) そうすると、柴田が右の各書面を発送前に見たとしても、単に角谷から示されて見たにとどまり、柴田が角谷に対してその発送を依頼するなど、柴田と角谷が共謀して、これらの書面を送ったとまで認めることはできず、柴田から依頼されて右の各書面を送った旨の証人角谷茂代の証言は信用できない。

五  他に請求原因2ないし4、6、7の各事実を認めるに足りる証拠はない。

六  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 大西勝滋)

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