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東京地方裁判所 平成9年(ワ)24635号 判決 1998年9月24日

原告 株式会社内外

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 小林行雄

被告 有限会社エヌビー企画

右代表者代表取締役 B

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金一三四六万七〇〇〇円及びこれに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が、原告所有の動産につき、被告の訴外株式会社清光(以下「訴外会社」という。)に対する債権を担保するために譲渡担保権を有していたところ、右動産が火災により消失したため被告が保険会社から受領した火災保険金について、原告から被告に対し、清算金の支払いを請求した事案である。

一  争いのない事実等(争いがあるものについては、括弧書きで証拠を示す。)

1  原告は、平成八年七月三一日ころ以降、訴外会社に対し、原告所有の別紙物件目録<省略>の動産(以下「本件動産」という。)時価合計金一三四六万七〇〇〇円相当を寄託し、訴外会社は、千葉県松戸市<省略>所在の同社工場(以下「本件工場」という。)において本件動産を保管していた(甲一)。

2(一)  被告は、平成七年七月六日ころ、訴外会社との間で、被告と訴外会社との間の取引によって生じた現在及び将来の一切の債権を担保するため、本件工場及び本件動産を含む訴外会社の資産一切につき譲渡担保権を設定する旨の譲渡担保設定契約を締結した(以下「本件譲渡担保契約」という。乙一、弁論の全趣旨)。

(二)  被告は、本件譲渡担保契約設定当時、本件動産が原告の所有に属することにつき善意無過失であった。したがって、被告は、同日、本件動産につき譲渡担保権を善意取得した。

3  被告は、同年九月一九日、訴外千代田火災海上保険株式会社(以下「訴外保険会社」という。)との間で、本件工場並びに本件動産を含む本件工場内の什器商品等を目的として、以下の内容の火災保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。乙四)。

被保険者 被告

保険種類 店舗総合保険

保険期間 平成七年九月一九日から平成八年九月一九日まで

保険金額 金五〇〇〇万円

内訳 本件工場 金三〇〇〇万円

商品、製品等 金一〇〇〇万円

什器等 金一〇〇〇万円

保険料 金二万七三八〇万円

4  本件工場は、平成八年八月一七日、火災により全焼し、本件動産も焼失した(甲二)。

5  被告は、そのころ、訴外保険会社から、本件保険契約に基づき、火災保険金として金四七四七万六四八〇円を受領した(以下「本件保険金」という。乙三)。

二  争点

被告が訴外会社に対して本件保険金の清算義務を負うか否か

(原告の主張)

被告は、譲渡担保権者として本件保険契約を締結したものであるところ、譲渡担保において目的物が焼失した場合には火災保険金が物上代位の対象となる。したがって、譲渡担保権者である被告は、その受領した火災保険金から被告の有する債権額及び被告が支払った保険料を控除した残額について訴外会社ないし(本件動産に対応する部分については)原告に対して清算義務を負うところ、被告の訴外会社に対する債権の額は金二〇〇万円である(甲三)から、右金額と保険料金二万七三八〇円の合計金二〇二万七三八〇円を控除した残額金四五四四万九一〇〇円のうち本件動産の価格に相当する金一三四六万七〇〇〇円につき、原告は、被告に対し、清算金請求権を有する。

第三争点に対する判断

一  原告は、譲渡担保の目的物を対象として締結された火災保険契約に基づく火災保険金は物上代位の対象となり、保険金を受領した担保権者には清算義務があると主張するので、この点について検討する。

一般に、目的物の焼失による損害につき被保険者に支払われる火災保険金は、本来既に払い込んだ保険料の対価としての性質を有するものであって、当然に目的物の代物ないし変形物となるものではないというべきである。もっとも、目的物所有者を被保険者とする保険契約が締結された結果、目的物の焼失により所有者が火災保険金を取得した場合には、民法三七二条及び三〇四条の規定により、当該保険金が、目的物の滅失により所有者が受くべき金銭に該当するものとして物上代位の対象となると解することは、文理上も困難とはいえず、また、所有者(担保権設定者)は担保権者に対して目的物の価値を保存すべき義務を負っていることに照らしてみても、十分に根拠があるということができる。しかしながら、本件のように、担保権者が保険契約者兼被保険者となって保険契約を締結した上で自ら保険料を支払い、その結果、保険事故の発生により担保権者が火災保険金を取得した場合には、文理上も前掲各条の規定する物上代位に該当しないことはもとより、担保権者は所有者に対する関係で目的物の保存につき何らの義務を負担するものではなく、他方、所有者は、自ら火災保険契約を締結して目的物の焼失による危険に備える機会があったにもかかわらずそれをしなかったということができるのであって、担保権者が自らの判断と負担により保険契約を締結していたことにより所有者が自ら保険契約を締結していたのと同様の利益を受けることを主張できるとすることは、例えば実質的には保険料を所有者が負担していたなど、担保権者と所有者との間で当該保険契約に基づく保険金をもって目的物に代えることを暗黙のうちに前提としていたというような事情が存する場合であれば格別、そうでない限り、当事者間の衡平にもとるというべきである。そして、本件においては、右のような事情が存在することを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件保険金は、譲渡担保権者である被告が自ら保険契約者兼被保険者となって本件保険契約を締結し、被告において支払った保険料の対価として受領したというのであるから、仮に、被告の受領した保険金額が被告の訴外会社に対する債権額を超過していたとしても、それは、被告が超過部分について被保険利益を有していたか否かという観点から、保険会社との間で問題となる余地があるにとどまり、原告主張のように、被告が本件保険金につき所有者である原告ないし訴外会社に対して清算義務を負うことの根拠とするわけにはいかない。

二  したがって、原告の本訴請求は、理由がない。

(裁判官 増森珠美)

<以下省略>

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