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東京地方裁判所 平成9年(ワ)2484号 判決

原告 原芳恵

右訴訟代理人弁護士 長塚安幸

被告 A

右訴訟代理人弁護士 芳邨一弘

被告 B

右訴訟代理人弁護士 小林茂和

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求

一  被告らは原告に対し、連帯して一五〇〇万円及び内金一〇〇〇万円に対する平成九年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告に対し、連帯して、被告らが原告から昭和五八年に受任した会社倒産整理等事件に関する精算書を交付せよ。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五八年一〇月頃、大阪の弁護士である被告A(以下「被告A」という。)に対し、原告や冨田親弘(以下「冨田」という。)が経営していた株式会社テーシーデー(以下「テーシーデー」という。)の倒産の整理及び原告が代表取締役となって新たに設立した未登記の株式会社新匠(以下「新匠」という。)を右倒産の影響を受けずに法人化させその経営を健全化させることを委任し、同被告はこれを承諾した。

2  被告Aは、その受任事務処理の履行補助者として東京に在住していた被告B(以下「被告B」という。)を選んだので、原告は同被告を介して被告Aに着手金五〇万円を支払い、以後、被告Bが被告Aの指示を受ける形で右委任事務を処理するようになった。

3  被告Bは、右委任事務処理の過程で、<1>冨田が八〇万円で購入し、新匠の資金繰りのため質に入れていたゴルフセットを昭和五八年一一月頃受け出して横領し同額の損害を与えるとともに、昭和五九年二月頃には新匠を倒産状態に至らせ、<2>原告らの行う新匠の資金捻出のため若林武が提供してくれた土地・建物を担保にして五〇〇万円を取得しながらこれを新匠のために使用せず、その結果、昭和五九年二月には新匠を倒産状態に至らせ、<3>原告と冨田が共同で購入した花入れ三点、壺五点及び鉢一点を、昭和五八年一一月初め頃持ち去って処分し二五〇万円の損害を与え、<4>昭和五八年一〇月頃、冨田の父親が所有していた借地権付き建物を新匠の資金捻出の目的で売却したが、その売買代金を横領し、原告に価額相当額五六〇〇万円と礼金相当額二二万五〇〇〇円の損害を与え、<5>昭和五九年六月頃、原告と冨田が栃木県那須郡に所有していた土地、建物についてのローンを原告らに代わって支払ってやると約束しながら、これに反して支払いをしなかったため、原告をして昭和六二年八月一七日に任意売却するのやむなきに至らせ、二九八六万九六三〇円の損害を与え、<6>昭和五八年一二月頃、原告が新匠の資金作りを依頼した乙幡五郎の東京都目黒区の借地権付き建物の売却に関与し、その売却代金一〇〇〇万円を密かに取得して横領し、原告に同額の損害を与え、<7>昭和五八年一一月中旬頃、原告が新匠の資金繰りを懇願した桑原治雄に五〇〇万円を捻出させてこれを横領し、原告に同額の損害を与えた。

4  右のような損害は、被告両名の委任契約上の債務不履行による損害もしくは共同不法行為による損害といえるから、被告両名は原告に対し連帯して損害賠償の義務を負う。

5  よって、原告は被告らに対し、右損害額内金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金並びに慰謝料五〇〇万円の支払いと、委任契約に基づく会社倒産整理等事件に関する精算書の交付を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告A)

請求原因1、2を否認し、同3は不知。同4を争う。

(被告B)

請求原因1ないし4を争う。

三  抗弁(被告B)

仮に、被告Bが原告に対し、債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償義務を負うとしても、原告は遅くとも昭和五九年二月一〇日頃までには損害賠償を請求しうることを認識していたから、これから一〇年もしくは三年の経過により消滅時効が完成した。被告Bはこれを援用する。

四  抗弁に対する認否、反論

抗弁を争う。

被告Bが、委任事務処理の経過報告及び金銭出納関係を明示しないでおきながら、消滅時効を主張するのは信義則に反し、権利の濫用である。

理由

第一被告Aに対する請求について

一  証拠(甲一ないし一〇、一三の1、2、一四、一五の1、2、四一、四二の1、2、四七、五四、五五、五六の1、2、五九、乙一の1、2、二の1、2、乙三ないし七、原告本人、被告A本人、被告B本人)によれば、次の事実が認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する供述部分は、右各証拠に照らして採用できない。

(1)  原告や冨田が経営していたテーシーデーは、東京都千代田区に本店を置き、印刷、デザイン制作、陶器製品の販売等を行う会社であったが、昭和五八年一〇月一七日頃、多額の負債を抱えて倒産し、原告や冨田は債権者に返済を迫られる状態となった。

(2)  原告は、同月二〇日頃、知人に紹介された大阪の弁護士である被告Aに電話して、右倒産の件について相談したが、被告Aは急を要する東京の会社の倒産事件の処理を受任することはできないとしてことわり、東京の弁護士会へ行って東京の弁護士を紹介してもらい依頼するように助言した。これに対し、原告は、債権者に追い回されているので、東京の弁護士を依頼するまでの数日の間何とかするため、東京在住の人物を紹介してほしいと懇願した。そこで、被告Aは、やむなく、かつて被告Bが経営する会社が倒産して和議の申請を受任したことがあり、債権者との当座の対応の経験がある被告Bが当時東京にいたことから、同被告に相談してみるように述べて紹介した。そして、被告Aは、被告Bに対しても、原告の話を聞いてやってほしいとの電話をした。

(3)  原告や冨田は、その直後頃に被告Bを訪ね、債権者が岡山に嫁いでいる原告の娘のところに取立に行かないようにしてもらいたいと依頼した。そこで、被告Bは、債権者である金融業者らを訪れ、債権額を聞いたり、原告の娘のもとには取立に行かないように依頼したりした。このようにするうち、被告Bは、原告らの依頼を受けて、債権者との間で支払額減額の交渉をしたり、債務の処理に関与するようになった。その過程で、被告Bは、昭和五九年二月までの間に、債権者らへの対抗手段として、原告らが栃木県那須郡西那須野町で新匠の名で行っている陶器制作等の事業のための機械器具や陶器等を被告Bの経営する株式会社ピックが譲渡担保にとっているかのような仮装の公正証書を作成したり、原告らの所有する同所の土地、建物に仮装の所有権移転請求権仮登記をするなどの行為を行った。また、被告Bは、昭和五九年二月頃にかけて、テーシーデーの債務について担保を提供していた若林武、乙幡五郎、桑原治雄らから資金の捻出を受けて債権者に支払い、担保の抹消を受けるなどの処理も行った。そして、被告Bは、この間に、これらの行為に対する費用や報酬として原告や担保提供者らから金銭の支払いも受けた。

(4)  原告は、被告Bが単に右のような債務の処理手続を行うだけでなく、原告らが新匠の名で新たに行っている事業に多額の出資をしたり、他の資産家から資金を導入することを期待していたが、報酬も支払ったのにこれが実現しないことに不満を抱くようになった。また、被告Bは、担保提供者らから資金の捻出を受けて担保を抹消したことなどについて、これらの者の意向であるとして原告に詳細を告げていなかったが、原告は、これらのことを知るに及んで被告Bに対して強い不満や不信感を抱き、更には、原告らに渡すべき金銭や原告らの物品を不当に自己のものとしたとの不満も抱いて抗議するようになった。これに対し、被告Bは、原告が担保提供者や被告Bに身勝手に資金の拠出のみを求めるものと考え、原告に対する憤懣を露わにするようになり、昭和五九年二月頃には原告から依頼された件は全て終了する旨を原告に通告した。

(5)  被告Bは、原告の依頼により右のような債務の処理にかかわる行為をしていることや金銭の支払いを受けたことを被告Aには伝えていなかったが、原告から右のような抗議を受けるようになってから、被告Aに対して、原告がうるさく行って来て迷惑しているとの趣旨を伝えた。これを聞いた被告Aは、事情を聞くため、昭和五九年二月二日に上京し、被告Bの事務所で原告や冨田と顔をあわせ、昼食も一緒にとったが、原告から被告Aに対しては直接何らの苦情も述べられず、被告Bからは原告との関係は終わったとの趣旨のことを述べられ、帰阪した。

(6)  その後、原告は、被告Aに対し、昭和五九年七月、弁護士料五〇万円を支払ったのに弁護士としての仕事をせず、弁護士でもない被告Bに依頼したのは弁護士としてあるまじき行為であるから右弁護士料の返還を求め、弁護士の資格を剥奪するよう申し立てる旨の内容証明郵便を送付したり、平成四年六月に至り、被告Aに宛てて、右と同様の趣旨を述べた上、原告の事業に一億円の資金を出すことを求める手紙を出すなど、間欠的に苦情を述べた後、平成九年に本訴請求に至った。

二  右に見た事実関係に照らすと、被告Aは、原告との間でテーシーデーの倒産の整理などに関する委任契約を締結したり、受任事務処理の履行補助者として被告Bを選んだものとはいえず、ただ、原告の懇願によりやむなく短期間債権者に応対する方法等を相談する相手として被告Bを紹介したことがあるのみで、それ以上の関与はしていないこととなる。したがって、被告Bが、被告Aの知らないうちに、原告の依頼を受けて債務の処理等に関わる事務を行うようになり、その過程で原告主張のような債務不履行や不法行為にあたる行為があったとしても、被告Aがこれについて損害賠償や精算書交付等の責任を負うことはないから、原告の本訴請求は理由がない。

第二被告Bに対する請求について

一  被告Bが、前記第一の一に認定した原告らの債務の処理等を行う過程で、委任契約上の義務に反し、もしくは不法行為によって、原告に損害を与えたとの主張については、原告本人尋問の結果中にはこの主張に沿う供述があるものの、この供述はあいまいで直ちに採用することができず、他に、この点を認めるに足りる証拠はない。

また、被告Bは、原告から委任を受けた個々の事務処理については報告の義務を負ったとしても、原告主張のような精算書の交付義務を負うものとは認められない。

二  なお、仮に、被告Bに原告主張のような債務不履行や不法行為にあたる行為が一部存在し、その結果、原告に損害を及ぼしたとしても、証拠(第一の一の冒頭に挙示のもの、甲六〇、六四、六五、六六の1、2、六七、六八、七〇)によれば、昭和五九年二月頃までには右委任関係やこれに基づく事務処理は終了し、右各損害賠償請求権は履行期が到来し、また、原告は、その損害の発生を知ったものと認められる(原告主張の損害のうち、請求原因3の<5>についてのみは、原告は、被告Bが昭和五九年六月頃の時点でローンを原告らに代わって支払ってやると約束しながら、これに反して支払いをしなかったことにより損害を生じたと主張するが、前記第一の一に見た事実関係に照らし、この時点で右のような約束がなされたことは考えがたく、このような事実を認めるに足りる証拠はない。)から、債務不履行に基づく損害賠償請求権については一〇年、不法行為に基づく損害賠償請求権については三年の経過により消滅時効が完成したものである。

原告は、右時効の援用は信義則違反もしくは権利の濫用にあたると主張するが、第一の一に見た事実関係に照らして、採用できない。

三  以上によれば、原告の被告Bに対する請求も理由がない。

(裁判官 西村則夫)

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