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東京地方裁判所 平成9年(ワ)25174号 判決 1998年11月30日

東京都武蔵野市境南町二丁目六番一九号

ザ・ヒルズ武蔵境八〇四

原告

中山雲水こと

鈴木敏文

右訴訟代理人弁護士

池末彰郎

東京都新宿区新宿二丁目六番三号

藤和新宿コープ九〇四号

被告

マギーこと

清水みどり

東京都文京区目白台三丁目一番九号

被告

株式会社飛天出版

右代表者代表取締役

佐藤薫

右両名訴訟代理人弁護士

安田まり子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告マギーこと清水みどり(以下「被告清水」という。)は原告に対し、金一六五万円及びこれに対する平成一〇年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社飛天出版(以下「被告会社」という。)は原告に対し、金四一二万五〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、別紙書籍目録記載の書籍の印刷、製本、発売又は頒布をしてはならない。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、別紙原告著作物目録記載1ないし10の書籍及び雑誌(以下「原告著作物1」などといい、まとめて「原告著作物」という。)の著作者である(甲二の一ないし五、甲三ないし五、六の一ないし三、甲七の一、二、甲八の一、二、甲九の一ないし三、甲一〇の一、二、甲一一の一、二、甲一九、弁論の全趣旨)。

2  被告清水は、平成九年三月に別紙書籍目録記載の「九星パチンコ術で大連チャン」という本(以下「被告書籍」という。)を著作し、被告会社は被告書籍を出版した。

3  原告著作物には、別紙対比表の原告著作物欄のとおりの記述があり、被告書籍には同対比表の被告書籍欄記載のとおりの記述がある。

二  本件は、原告が「被告書籍は原告著作物を複製又は翻案したものであるから、被告らによる被告書籍の出版は原告が原告著作物について有する複製権又は翻案権を侵害する」と主張して、複製権又は翻案権に基づく被告書籍の印刷等の差止めと不法行為に基づく損害賠償を求める事案であり、争点は、被告書籍が原告著作物の複製又は翻案であるかどうかである。

第三  争点に関する当事者の主張

一  原告の主張

1  被告書籍は、被告清水が原告著作物に依拠して著作したものである。

2(一)  被告書籍のうちの別紙対比表記載1ないし7の記述は、これに対応する同対比表記載1ないし7の原告著作物の記述の明らかな模倣である。

(二)  対比表1の部分については、原告著作物と被告書籍は、パチンコの機種の攻略法として九星を持ち出し、機種名の画数から九星を応用しているという最も基本となる特徴が全く同一である。

対比表2の部分は、「黄門ちゃま」という名前に九星を応用して運気を求めている点が、対比表3の部分は画数の求め方の点が、対比表4の部分は、パチンコ台の台番号に着目し、台番号に九星を応用して運気を求めている点が、対比表5の部分は、「ギンギラパラダイス」が海を連想させるとして、一白水星に結びつけている点が、対比表6の部分は、パチンコ台に記載されたアルファベットに着目している点が、対比表7の部分は、パチンコ攻略法として九星だけでなく五行も使っている点が、原告著作物と被告書籍では全く同一である。

二  被告らの主張

1  被告清水は、被告書籍を著作する以前に原告著作物を見たことはなく、被告書籍は、被告清水が原告著作物に依拠して著作したものではない。

2  被告書籍のうちの別紙対比表記載1ないし7の記述は、同対比表記載1ないし7の原告著作物の記述とは、全く類似していない。

第四  当裁判所の判断

一  被告書籍が原告著作物を複製又は翻案したものかどうかについて判断する。

1  被告書籍が原告著作物を複製したものということができるためには、被告清水が、原告著作物に依拠して被告書籍を著作し、かつ、被告書籍が、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであることが必要であり、また、被告書籍が原告著作物を翻案したものということができるためには、被告清水が、原告著作物に依拠して被告書籍を著作し、かつ、原告著作物の表現形式上の本質的特徴を被告書籍から直接感得することができることが必要である。

そこで、まず、被告書籍のうち、原告が著作権侵害を主張する別紙対比表記載1ないし7の部分が、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるか、又は原告著作物の表現形式上の本質的特徴を直接感得させるといえるかどうかについて判断する。

(一) 別紙対比表の原告著作物の記述と被告書籍の記述とを対比すると、次のようにいうことができる。

(1) 別紙対比表1の部分について

被告書籍と原告著作物1とは、「機種」、「機種名の画数」という同一の語句があるほかは、同一又は実質的に同一の表現はない。また、両者は、パチンコの機種名の画数に着目して機種の「星」を求めるということを述べる点で共通するが、それはそのような占いの方法が共通であるにすぎず、表現としては大きく異なっていて、表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

被告書籍と原告著作物2とは、「画数」という同一の語があるほかは同一又は実質的に同一の表現はなく、また、名前の画数について述べている点は共通するが、共通する点はそのことのみであり、その表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

(2) 別紙対比表2の部分について

被告書籍と原告著作物1、3、4とは、「黄門ちゃま」という同一の語があり、「五黄土星」(原告著作物1、4、被告書籍)、「五黄」(原告著作物3)という語が同一又は実質的に同一であるほかは、同一又は実質的に同一の表現はない。また、両者は、「黄門ちゃま」という名前の機種と五黄土星とを関連づけるという点で共通するが、それはそのような占いに関するアイディアが共通するだけであり、表現としては大きく異なっていて、表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

(3) 別紙対比表3の部分について

被告書籍と原告著作物5とは、「ヤジキタ」、「四緑木星」という語が同一であり、「一足す三で四」(被告書籍)と「1+3=4」(原告著作物5)の部分が実質的に同一であるほかは、同一又は実質的に同一の表現はない。

また、両者は、「ヤジキタ」という機種名の画数から「1+3=4」と計算をして四緑木星と関連づけるという点で共通する。ところで、証拠(乙九の一、二、乙一五)と弁論の全趣旨によると、姓名学では、名前の画数の一の位と十の位を合計したものを占いに用いることが一般に行われているものと認められるから、右の機種名の画数の計算方法は特に目新しいものではなく、証拠(甲六の一、二)によると、原告著作物5は、「CRヤジキタ」という機種の強運日が四緑木星日である旨を、右画数と九星を関連づけて「間接暗示もあり」という表現で述べたものであると認められる。これに対し、被告書籍は、右画数と九星を関連づけるという占いに関するアイディアにおいては、原告著作物5と共通するものの、証拠(甲一の一、四、乙五)によると、被告書籍は、「この機種の象徴星は四緑木星だといえる」と述べた後に、そのことの妥当性について検討し、実は右機種の象徴星は別に存するという結論に至ることが認められるから、両者の表現形式上の特徴に類似性があるとまでいうことはできない。

(4) 別紙対比表4の部分について

被告書籍と原告著作物6、7とは、「二黒士星」という語(原告著作物7、被告書籍)、「五黄土星」、「八白土星」という語(原告著作物6、7、被告書籍)が同一であり、「二」、「五」、「八」(以上、被告書籍)と「2」、「5」、「8」(以上、原告著作物6、7)の部分が実質的に同一であるほかは、同一又は実質的に同一の表現はない。

また、両者は、土星の部分が共通する二黒土星、五黄土星、八白土星の二、五、八という数と台番号とを関連づけるという点で共通する。しかし、証拠(甲一の一、六、甲七の一、二、甲八の一、二、乙五)によると、原告著作物6、7では、「二黒土星日の傾向と対策」という表題の下に右部分が述べられているのに対し、被告書籍では、「アラビアンハーレムEX1」という機種の攻略法として述べられており、具体的な表現も異なっているから、占いに関するアイディアが共通するものの、表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

(5) 別紙対比表5の部分について

被告書籍と原告著作物5、8とは、「ギンギラパラダイス」、「海」、「一白水星」という語が同一であるほかは、同一又は実質的に同一の表現はない。また、両者は、「ギンギラパラダイス」という機種のテーマ(被告書籍)又はイメージ(原告著作物5、8)が海であるとして海と一白水星とを関連づけるという点で共通するが、それはそのような占いに関するアイディアが共通するだけであり、表現としては大きく異なっていて、表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

(6) 別紙対比表6の部分について

被告書籍と原告著作物6とは、「アルファベット」、「相性」という語が同一であるほかは、同一又は実質的に同一の表現はない。

また、両者は、アルファベットに着目して相性の良い台を見つけるという点で共通する。しかし、証拠(甲一の一、七、甲九の一ないし三、乙五)によると、原告著作物6では、アルファベットに現れている製造年と生まれ年との相性のみを問題としているのに対し、被告書籍では、アルファベットと生まれ年から直接相性を占っていることが認められるのであり、具体的な表現も大きく異なっているから、占いに関するアイディアが共通であるにすぎず、表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

(7) 別紙対比表7の部分について

被告書籍と原告著作物10とは、同一又は実質的に同一の表現はない。また、両者は、五行説(被告書籍)と「水」「土」「木」「金」「火」という五つの元素(原告著作物10)とが内容として関連するにすぎず、表現は大きく異なっていて、表現形式上の特徴に類似性があるということはできない。

(二) 以上によると、別紙対比表1ないし7記載の被告書籍の記述は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものとは認められないし、原告著作物の表現形式上の本質的な特徴を直接感得させるものであるとも認められない。

(三) 原告は、(1)原告著作物も被告書籍も原則として機種名の画数に九星占術を応用して勝てる年や日、相性の強い人を明らかにするものであり、その点が全く同一である、(2)そもそも九星占術には名前の画数に着目する考え方は全くないところ、原告は九星占術と姓名学を融合し、九星占術に画数を取り入れる独自の理論を編み出したのであり、これをパチンコに応用したのが原告著作物であるが、被告書籍はパチンコの機種の運気を画数と九星占術によって求める点で原告著作物と全く同一であり、被告は原告の右独自理論をそのまま模倣した、と主張するので、これについて判断する。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法二条一項一号)であり、著作権法によって保護されるのは、著作物としての思想又は感情の創作的な表現であって、その内容であるアイディアは著作権法によって保護されるものではないところ、パチンコの機種名の画数に九星術を応用して勝てる年や日、相性の強い人を明らかにすること(右主張(1))や九星占術と姓名学を融合して九星占術に画数を取り入れ、これをパチンコに応用すること(右主張(2))はいずれもアイディアそのものであるから、アイディアにおいて原告著作物と被告書籍とが同一又は類似であったとしても、原告著作物の著作権を侵害することにはならないし、また、両者の表現形式が同一又は類似であると認められないことは前示のとおりである。

したがって、原告の右主張はいずれも採用できない。

2  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告書籍の別紙対比表1ないし7記載の部分は原告著作物の複製又は翻案であるとは認められない。

二  よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

(別紙)

書籍目録

題号 九星パチンコ術で大連チャン

筆者 清水みどり

発行者 佐藤薫

発行所 株式会社飛天出版

初版発行日 平成九年三月五日

(別紙)

原告著作物目録

1 書籍「パチンコ出玉王 最新版」

2 雑誌「ギャンブル大帝」一九九四年六月号

3 雑誌「ギャンブル大帝」一九九五年二月号

4 雑誌「ギャンブル大帝」一九九四年一二月号

5 雑誌「ギャンブル大帝」一九九六年四月号

6 書籍「パチンコ出玉王 ファン感謝版」

7 書籍「パチンコ出玉王 最新機種運勢図鑑」

8 雑誌「ギャンブル大帝」一九九六年四月号増刊号

9 雑誌「ギャンブル大帝」一九九四年一〇月号

10 書籍「風水パチンコ出玉王」

(別紙)

対比表

番号 被告書籍 原告著作物

1 機種のエネルギーは、象徴星に置き換えることができる。象徴星は、機種の性質や特徴を表すもので、機種名の画数から求める。(一六頁) 当然パチンコの機種にだって、それぞれの運命=「九星」は存在するし、その運気を読み取ることも出来るのである。さて、その問題の「機種の九星」だが、これは個々の機種名の画数を合計した数字の、下1ケタ目を見ればいい。(原告著作物1の一二一頁及び一二三頁) 名前を構成する文字に秘められた力を、画数を調べることで説き明かしてゆく。画数の判断は一の位で行う。(原告著作物2の一五頁)

2 この機種では「黄門ちゃま」というキャラクターに注目するわけだ。偉大な黄門ちゃまなので、偉大さに対応する星・五黄土星を象徴星候補にあげるとしよう。(三六頁) 五黄土星日の傾向と対策、「黄」などが機種名に入っているものがあったら、ぜひとも勝負をかけたいところだ。「黄門ちゃま」などが、その一例だ。(原告著作物1の一〇〇頁) CR黄門ちゃま2、機種名にズバリそのものの「黄」!五黄暗示の信頼度は、かなり高レベルと見ていいだろう。(原告著作物3の六一頁) 黄門ちやま2、画数以外には「黄門ちゃま」の「黄」や盤面の黄色にあらわれた、強烈な五黄土星暗示に注目。(原告著作物4の五八頁)

3 「ヤジキタ」の画数は十三画だから、十三をバラバラの数にして足すと、一足す三で四。数字四は、四緑木星を象徴する数なので、この機種の象徴星は四緑木星だといえる。(四〇頁) 「CRヤジキタ」。1+3=4と四緑木星の間接暗示もあり(原告著作物5の六七頁)

4 そこで土性の星として知られている二黒土星、五黄土星、八白土星に注目する。これを台の番号に当てはめるといい。二番台や五八番台や二五八番台などがそうだ。数字の二、五、八を組み合わせた番号台なら、もう取ったも同然。(六六頁) 「土星」を持つ星として、「五黄土星」「八白土星」があり、一の位が「2」で十または百の位に「5」や「8」が含まれていれば要チェック。(原告著作物6の六六頁) 「二黒土星」と同じ「土星」を持つ星に、「五黄土星」「八白土星」があるため、「5」や「8」の数にも注意が必要。一の位が「2」で、十の位や百の位に「5」や「8」が含まれた台番号ならば、勝負する価値は十分にアリ。(原告著作物7の九八頁)

5 “ギンギラパラダイス”の場合は、海が重要なスポットである。画面フレームが潜水艦の窓の形で、画面設定はすべて海中。マリンとは海のことだし、彼女以外に登場するのはすべて海の仲間たち。この機種のテーマが「海」なので、海に対応する星・一白水星もこの機種の象徴星といえるはずだ。(四九頁) CRギンギラパラダイス 全体的に漂う海のイメージとメーカー名に含まれる「洋」から、強い一白水星もオススメ。(原告著作物8の三六頁) CRギンギラパラダイス 海をイメージしている全体のデザインから海=水=一白水星も要注意。(原告著作物5の七四頁)

6 パチンコ台に向かうときは、端に貼ってあるシールに注目する。そこに記載されたアルファベットが、自分と相性のいいアルファベットなら迷わずゲットである。(一六〇頁) 製造番号以外にもデータ満載台の九星から相性もチェック アルファベットの意味も見逃すな!!(原告著作物9の五九頁)

7 パチンコ攻略法の鍵を握るのが、五行説なのである。(一七頁) 九つの地の星の他、「水」「土」「木」「金」「火」という5つの元素の性質も、九星周期法を考える上では絶対に外せない項目だといえる。(原告著作物10の六〇頁)

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