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東京地方裁判所 平成9年(ワ)27028号 判決

原告 学校法人高宮学園

右代表者理事 高宮行男

右訴訟代理人弁護士 坂本政三

被告 株式会社アストラ

右代表者代表取締役 L

被告 L

被告 M

被告 C

右被告ら訴訟代理人弁護士 松井繁明

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三〇万円及びこれに対する平成一〇年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、被告株式会社アストラ発行の雑誌「記録」に別紙目録記載の謝罪広告を一回掲載せよ。

二  被告らは、原告に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、大学進学予備校等を設置している学校法人である原告が、月刊誌に掲載された記事により社会的評価(その経済的側面である信用を含む。以下同じ。)を低下させられて名誉を毀損されたとして、右月刊誌を発行した出版社、その発行人、編集人及び原稿を執筆した記者である被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償金として金三〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一〇年一月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を各自支払うことを求めるとともに、同法七二三条所定の名誉回復処分として右月刊誌上に謝罪文を掲載することを求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  当事者

(一) 原告は、私立学校法に基づいて設立された学校法人であり、全国各地において「代々木ゼミナール」の名称を付した大学進学予備校等を設置している。

(二) 被告株式会社アストラ(以下「被告会社」という。)は、編集・出版業等を営む株式会社であり、月刊誌「記録」を発行している。

(三) 被告L(以下「被告L」という。)は、被告会社の代表取締役であり、かつ、月刊誌「記録」の発行人の地位にある。

(四) 被告M(以下「被告M」という。)は、被告会社の代表取締役であり、かつ、月刊誌「記録」の編集人の地位にある。

(五) 被告C(以下「被告C」という。)は、被告会社の従業員であり、月刊誌「記録」に掲載する記事の取材及びその原稿の執筆等の職務に従事している。

2  被告会社は、平成九年七月二八日発行の月刊誌「記録」八月号(以下「本件雑誌」という。)の四ないし七頁に「特集1 隠された代々木ゼミナールの素顔」との表題の下に次の(一)ないし(六)の記事(以下「本件記事(一)」ないし「本件記事(六)」という。)を、その裏表紙の「編集後記」の欄に次の(七)の記事(以下「本件記事(七)」といい、本件記事(一)ないし(六)と併せて「本件各記事」という。)を掲載した。

(一) 見出し・・・丸イスに座るのが仕事

代ゼミ職員には、通常では考えられない処遇が日常茶飯事に起こっているのである。

五年ほど前、美術大学受験のための予備校・代々木ゼミナール造形学校にあるタイムレコーダーの前で、一人の中年男性が数日間座り続けていた。彼が仕事もせずに貧相な丸イスに一日中腰をかけているという話は、代ゼミ職員の間でもかなり話題になったという。しかもその男性は造形学校を統括する局長として、前日まで第一線で働いていたのである。

彼が丸イスに座らされた理由は、ただ一つだった。自分の統括している予備校から東京芸術大学へ何人合格したのかを、部局長会議で答えられなかったのだ。答えに詰まった途端、くだんの男性はネクタイを捕まれ、床を引きずり回されたのである。そして会議の翌日には、局長からヒラ社員に降格。代ゼミ造形学校の職員が必ず通らなければならないタイムレコーダーの前に、見せしめとして座らされたのだった。しかし彼への仕打ちは、これでは終わらなかった。彼が在日朝鮮人である事実が、この日を境に会社中に知れ渡ったのだ。何十年と勤務していた会社で職員のほとんどが知らなかった事実が、いきなり明らかになったことを考えると、どこが噂の出所か勘ぐるなというほうが無理だ。

リストラ対象者をいじめ抜く会社が最近よく話題になるが、これほどひどい話を聞いたことがあるだろうか? 人権への配慮などかけらも感じられない。

(二) 見出し・・・前記(一)に同じ

代ゼミの関連会社・日本入試センターに勤めていた男性も、たった一つのミスが命取りとなった例として代ゼミ職員の伝説となっている。彼のミスは、代ゼミの理事長である高宮行男氏の名前を、「行夫」と自社出版物に掲載してしまったことだった。もちろん発行翌日には、課長からヒラ社員への降格が発表された。

(三) 見出し・・・失踪後にファクスで辞表

オーナー一族への極端な優遇処置や人権を無視した労働条件。これだけ悪条件が重なれば、離職率が高くなるのも当然だろう。代ゼミは財務から職員数に至るまで公式に発表していないため、退職者の詳細な数は計りかねるが、ここ二~三年に起こった職員の激減は多くの職員の証言から確かめることができる。

例えば一昨年二〇人ほど在籍していた代ゼミ本部の進学情報指導部は、一年間に八~九人の職員が辞めて部屋がガラ空きになったという。また、昨年二〇人の職員を二課に分けていた本部の教務課は、人数が半減してしまい、課を一つにまとめざる得なくなってしまった。代ゼミ本部だけでもこの有様なのだから、全国規模でどれだけ職員が辞めているのかは想像に難くない。

すごいのは退職者数ばかりではない。耐えに耐えた末の決断のせいか、辞め方も通常では考えられない方法がまかり通っている。

情報進学指導部の課長は、昼休みに突如失踪。数日連絡がないまま過ぎ、いきなりファクスで辞表が送られてきた。普通の会社であればこんな行動をとる課長などいないが、代ゼミでは非常に珍しい例ではない。というのも郵送で辞表を提出し、次の日から会社に来なくなる職員が少なくないからだ。

(四) 見出し・・・最悪の労働条件を持つ学校法人

産前産後休暇・育児時間短縮制度を利用した女性職員に、ボーナスが支払われなかった事件では、会社側が提訴を取り下げさせるために、原告の女性をどのように脅したのかが裁判で明らかになった。代ゼミの校舎建設で関係の深い大成建設に女性職員の父親が勤めていることを経営陣は知り、代ゼミの校舎に父親を呼びだして脅迫したというのだ。この事件以前にも、組合に参加を表明した職員の妻や家族に電話をかけて、組合を辞めるように圧力をかけた事実が明らかになっていることから、このような脅しは代ゼミの常套手段といえる。

(五) 見出し・・・前記(四)に同じ

もちろん組合員本人への圧力もけっして忘れない。

北海道大学の大学院を卒業し、化学の専門家として教科書の編集・執筆の専門家として雇われた男性は、組合に加入した途端、生物学の教科書を担当するように辞令が下った。同じように、千葉大学の大学院を卒業して世界史の教科書を担当していた男性も、組合加入と同時に学生課に回され答案処理をする毎日となったのである。

(六) 見出し・・・前記(四)に同じ

今年六月に、「多様な学習活動を支える面で無視できない存在」と予備校などの学習塾を文部省が初めて認知したが、これだけ反社会的な行為をしている予備校の実態を文部省は知っているのだろうか。代ゼミが最悪の労働条件を持つ学校法人として「無視できない存在」であることは確かだが、教育現場として適しているのかには大いに疑問が残るところだ。

(七) 編集後記

神戸市須磨区の男児殺害事件がマスコミをにぎわしているなか、代々木ゼミナールの残酷物語を追った。

土師君を殺害した犯人もかなり残虐だが、代ゼミ経営陣も負けず劣らず残忍だ。たった一つのミスを理由に、丸イスに座らせていじめ抜く代ゼミ経営陣の態度は、遺体を損壊する以上に猟奇的だといえなくもない。

身の置き場もなく、ひたすらイスに座って辱めに耐えている職員を冷笑を浮かべながら見つめている経営者の顔が、私には浮かんでくる。そしてその顔は、土師君の生首の位置を何度も直した犯人とダブってしまうのである。

どうして代ゼミ経営陣は、無抵抗な職員を何日も丸イスなどに座らせたのだろう。ただの見せしめだろうか? 私はどうも違うような気がする。弱者をいたぶる快楽におぼれている姿を、私はその行為の裏に感じてしまうのだ。

このような経営者が学校法人の甘い汁を吸い、受験産業の大物として君臨し続けるのは問題だ。小誌は「隠された代ゼミの素顔」を徹底的に追及し、次号以降も検証していく。

できれば代ゼミが持つ素顔の向こう側に、受験戦争の持つ虚構性をみたいと思っている。

3  本件各事実は、被告Cが取材して、その原稿を執筆し、被告Mが編集人として記事の内容につき検討を加えた上で、その掲載を決定し、被告Lにおいて、発行人として右記事が掲載されていることを知りながら本件雑誌を被告会社の刊行物として発行した。

二  争点及び当事者の主張

1  原告に対する社会的評価の低下の有無

(一) 原告

本件各記事は、原告の学校法人としての社会的評価に係る事実を摘示し、また、右摘示事実を前提として意見を述べるものであり、見出しと相まって全体として読者に対し、原告が職員の人権に配慮しておらず、労働組合員に対して不利益な取扱いをして陰湿な組合潰しを行うなどし、異常な犯罪組織であるかのような印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させた。

(二) 被告ら

本件各記事は、原告の設置・経営する大学進学予備校における人権侵害を指摘し、社会的批判を喚起しようとするものであり、原告に対する社会的評価に係るものであることは争わないが、その余は否認し、争う。

2  違法性及び故意・過失の存否

(一) 被告ら

本件各記事は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的をもって本件雑誌に掲載したものであり、本件各記事のうち事実摘示部分は、重要部分が真実であるか、仮にそうでないとしても、被告らが右部分を真実であると信ずるについて相当な理由があるから、違法性又は故意若しくは過失を欠くものというべきである。

また、本件各記事のうち意見表明部分は、摘示事実に対する評価を掲載したもので、独立の意義を有するものではないから、その前提となる事実摘示について真実であることが証明されるか、真実であると信ずるについて相当な理由があれば、名誉毀損による不法行為を構成しない。

(1) 公共の利害に関する事実であること

基本的人権の侵害に関する事実は当然に公共性を有し、学校法人である原告及びその理事長は公人というべき存在であるから、原告の設置する代々木ゼミナールの労働者らに対する人権侵害、迫害の実態を内容とする本件各記事は、公共の利害に関するものである。

(2) 公益を図る目的の存否

被告らが本件各記事を掲載したのは、右代々木ゼミナールの実態を明らかにし、社会的批判を喚起するとともに、それに関わる疑惑を解明するためであるから、公益を図る目的があった。

(3) 摘示事実の真実性の証明及びこれに基づく意見表明の当否

ア 本件記事(一)について

原告の設置する専修学校代々木ゼミナール造形学校(以下「造形学校」という。)を統括する局長が会議において東京芸術大学への合格者数を尋ねられた際に即答できなかったことを唯一の理由として不利益な取扱い、迫害及び人権蹂躙を受けたことを内容とする部分は、当該職員が局長か次長かの違いがあったにせよ、原告が右のような理由で役付職員を平職員に降格させたことは明らかであり、また、その持病の悪化が影響しているとしても、右の会議での叱責がその原因になったのであるから、その内容の重要部分は真実である。

なお、代ゼミ職員に対する通常では考えられない処遇、リストラ対象者をいじめ抜く会社との対比、人権への配慮が感じられないとの指摘は、右事実を前提とした正当な意見である。

イ 本件記事(二)について

出向職員が原告理事長の氏名を誤記したことにより課長から平職員に降格された事実を摘示し、その不当性を告発したものであるが、誤記したのが氏と名との違いがあったとしても、結局は、原告がその関連会社である株式会社日本入試センター(以下「入試センター」という。)の課長を理事長の氏名の誤記により降格したことに違いはなく、仮に右職員に職務怠慢があったとしても、直接的な降格の理由は右のとおりであるから、その内容の重要部分は真実である。

ウ 本件記事(三)について

原告においては、人権無視の労働条件を原因として退職者が続出している上、退職の手続が社会常識を逸脱している実態にあることを摘示したものであるところ、退職者の続出により職員を補充しても減員が避けられず、二年間で五名が退職したという代々木ゼミナール本部(以下「本部」という。)の進学情報指導部においては、新たな職員の補充があったことを考慮すると、退職者の数は五名を大きく上回るものであって、従来二課体制であった教務課の人員も、一課体制への移行により二三名から一五名と約三分の二に減員しているのであり、また、上司に叱責されただけで職場を放棄し、翌日も出勤しないまま退職届を提出した職員がいたということは、社会的常識を逸脱した異常な退職の仕方があったことに変わりないから、右記事の内容の重要部分は真実である。

なお、オーナー一族への極端な優遇措置や人権を無視した労働条件が重なれば離職率が高くなるのも当然であるとの指摘は、右事実を前提とした正当な意見である。

エ 本件記事(四)について

原告は、大成建設株式会社との間で校舎建設請負契約を締結していることを利用して、同社を退職した父親を介して原告職員に対し、その労働組合活動に圧力をかけたりしたというのであるから、原告関係者が、同職員の父親に会っていなくとも、本件記事(四)の内容の重要な部分は真実である。

なお、最悪の労働条件を持つ学校法人との見出し、このような脅しは代ゼミの常套手段といえるとの記載部分は、右事実並びに本件記事(一)及び(二)記載の各事実を前提とした正当な意見である。

オ 本件記事(五)について

原告は、教科編集部の化学担当の職員に対し、労働組合からの脱退を促し、同部の世界史担当の職員がこれを阻止したことから、右両名を一般部署に異動させたが、教材編集部は高度な専門的能力を必要とされ、講師に登用される可能性もある部署であり、この配置換えについて原告は納得し得る説明をしていないのであるから、右異動は、組合活動を理由とする報復的人事又は懲罰的人事にほかならず、本件記事(五)の内容の重要な部分は真実である。

なお、組合員本人への圧力も決して忘れないとの記載は、右事実を前提とした正当な意見である。

カ 本件記事(六)及び(七)について

本件記事(六)は、本件記事(一)ないし(五)を前提とした正当な意見であり、本件記事(七)は、主として本件記事(一)を前提として原告の基本的人権に対する侵害を糾弾したものであり、原告が殺人を行ったとの誤解を生じさせるものではないから、いかに辛辣な意見を述べようとも不法行為は成立しない。

(4) 摘示事実が真実であると信ずるについての相当性

被告Cは、原告職員の賃金が低額であることに興味を抱き、平成九年七月一四日、代々木ゼミナールに勤務する職員(以下「職員A」という。)に面会を求めたところ、これと同じく代々木ゼミナールに勤務する他の職員(以下「職員B」という。)を同行したので、右両名から事情を聴いて取材をしたが、本件雑誌に掲載する記事の締切りが同月一九日と迫っており、すべての情報について事実を確認することができなかったので、右両名がいずれも知っている事実で、内容からみてその他の原告職員が知り得る事実のみを記事にするという基準を設け、これにより情報を取捨選択して作成した原稿を被告Mに提出し、同被告が右基準を了解して訂正加筆した上、本件各記事を完成させ、これを本件雑誌に掲載することにした。

被告らは、右のように正当な手法による取材及び編集をしている上、本件記事(一)ないし(五)に記載されているようなことが原告において行われていると信ずる職員がいたとしても何ら不自然ではないと考えられる事情が存するばかりでなく、定期刊行性を要求される雑誌の場合には事実関係の確認に社会通念上の限界があることをも併せ考慮すると、本件各記事を真実であると信ずるについて相当の理由があり、被告らは故意又は過失を欠くというべきである。

(5) 公正な論評の法理による免責

公共の利害に関する事項又は一般公衆の関心事であるような事柄については、何人といえども論評の自由を有し、論評の基礎となる事実が真実であるか、論評を行った者が右事実を真実であると信ずるについて相当の理由がある場合には、それが公的活動とは無関係な私生活の暴露や人身攻撃にわたらず、かつ、論評が公正である限りは、いかにその用語や表現が激烈、辛辣であろうとも、また、その結果として被論評者が社会から受ける評価が低下することがあっても、論評者は名誉毀損の責任を問われることがないというべきである。

本件各記事による論評の基礎となる事実は真実であり、仮にそうでないとしても、被告らにおいて真実であると信ずるについて相当な理由があることは、前記(3)(4)のとおりである。

また、本件各記事による論評は、原告による学校運営を対象とするものであって、公共の利害に関する事項又は一般公衆の関心事であるような事柄に属し、かつ、基本的人権の侵害に対する社会的批判の提起という正当な目的に出たもので、何らの私利私欲や私怨に基づかない公正なものであるから、、被告らは公正な論評の法理に基づき損害賠償責任を負わないというべきである。

(二) 原告

本件各記事のうち事実摘示部分は、公益を図る目的がないのに掲載したものであり、その内容は真実でなく、被告らが真実であると信ずるについて相当な理由もなく、意見表明ないし論評の部分については、人身攻撃に終始しており、公正な限度を逸脱しないものとはいえないから、違法性又は故意若しくは過失を欠くものではない。

(1) 公益を図る目的の存否

被告らの目的は、主観や推測を交え、著名な犯罪事件に擬して、最大限の侮辱的表現で原告を誹謗中傷し、原告を極悪人風に描き出すことによって、世間の耳目を引きつけ、雑誌「記録」の売上げの維持、拡大により私益を図るところにあったものであり、公益を図る目的はなかった。

(2) 摘示事実の真実性及びこれに基づく意見表明の当否

ア 本件記事(一)について

造形学校事務局次長(局長ではない。)であった原告職員は、昭和六三年六月下旬ころ、職員研修会において美術系コースの説明を行った後、原告副理事長から同年度の東京芸術大学の合格者数について質問を受けた際、即答することができず、かえって右副理事長に向かって質問を制するような言動をしたことから、右副理事長が研修会終了後に同職員に対して詰問した上、注意したにすぎない。原告が同職員に対して暴力を振るったり、見せしめのために他の職員が往来するタイムレコーダーの前の丸椅子に座らせたことはない。

その後、同職員は、本部に異動し、昭和六三年七月二一日、総務部次長となったが、持病が悪化し、その職務を全うできない状態となったため、部長付きとして職責の軽減を図り、同年九月二四日、入試センター業務部に出向することとなった。

したがって、本件記事(一)は真実に反する。

イ 本件記事(二)について

本件記事(二)に記載された職員は、平成元年五月、入試センターに出向し、課長として月刊誌「大学受験アルファ」の編集をするようになったが、事務に習熟せず、業務上の過誤が多く、職場の人間関係も悪く、部下とのトラブルを起こすなどし、その職務怠慢及び独断的行動が顕著となり、数回にわたり始末書を提出していたところ、平成五年一月一日発行の同誌一月号特別企画において、軽率にも理事長の氏である「高宮」を「高村」と誤記し、頒布前に貼紙により修正することになったため、入試センターは、同人の度重なる過誤と職務怠慢を放置できなくなり、原告と協議の上、一般職として原告に復帰させた。

このように、同職員は、ただ一度の理事長の氏名の誤記が原因で降格させられたものではないから、本件記事(二)は真実に反する。

ウ 本件記事(三)について

本部の進学情報指導部には、平成七年五月当時において二六名、平成八年五月及び平成九年九月当時において二一名が在籍していたのであり、退職した者は数名にすぎず、部屋ががら空きになったこともない。

また、本部の教務第一課及び同第二課には、平成八年五月当時においてそれぞれ一七名及び六名(合計二三名)、平成九年五月当時においてそれぞれ一四名及び四名(合計一八名)が在籍していたところ、原告は、平成九年九月、教務課を一課体制にし、在籍者を合計一五名としたのであり、退職により半減したのではなく、一般的少子化傾向による生徒数の減少に伴い、教務関係の合理化及び効率化を図るために人員削減及び課の統合をしたのである。

さらに、本部進学情報指導部の第一課長代理であった職員は、平成七年一月一四日、業務上のことで上司に叱責され、同日の昼休みから無断で職場を離脱して帰宅したが、翌日、代々木ゼミナール総務本部長が同職員の自宅に赴いたところ、退職届が出されたものであり、ファクシミリで退職届が出されたことはなく、郵送で辞表を提出し、その翌日から出勤しなくなったという職員もいない。

したがって、本件記事(三)は真実に反する。

エ 本件記事(四)について

原告は、本件記事(四)記載の女性職員の父親を呼び出したことはなく、どのような事情で父親が来校したのか知らないし、会ってもいないから、同記事は真実に反する。

オ 本件記事(五)について

原告は、平成七年八月一六日、理科編集部の職員の退職に伴い、物理担当者五名、化学担当者五名、生物担当者一名となり、人数構成の上で不均衡を生じたため、同部に所属して従前化学の教科書を担当していた職員が生物学にも精通しており、これを得意科目として申告していたことから、同職員を生物担当にし、また、社会編集部に所属して世界史の教科書の編修及び模擬試験の作成に携わっていた職員に業務上の過誤が多く、編集業務に適していなかったため、同職員を学生部に異動させたものであり、組合員本人への圧力を目的として人事異動を行ったことはない。

なお、右両名が原告の労働組合に加入したことは、既に平成五年末から六年初めころには広く知られていたのであって、両名の異動と労働組合の加入は関係がない。

したがって、本件記事(五)は真実に反する。

カ 本件記事(六)について

本件記事(一)ないし(五)の各事実を前提にし、さらに原告が反社会的な行為をしている予備校であって、最悪の労働条件を持つ学校法人であると指摘した上で、教育現場として適しているのかは大いに疑問が残ると結論付けているが、これらの事実摘示は真実に反し、論評ないし意見の表明としても公正さを欠く。

キ 本件記事(七)について

主に本件記事(一)を前提とした上で、原告の経営者は、残忍かつ猟奇的であり、学校法人の甘い汁を吸い、受験産業の大物として君臨し続けていると摘示する部分は、真実に反し、論評としても、侮辱的な表現を用いており、公正さを欠く。

(3) 真実であると信ずることについての相当性

本件各記事を執筆するに先立つ事実調査は、その程度が極めて低く、杜撰なものであって、相当性の要件を満たさない。

すなわち、本件各記事の根拠となる資料は、それ自体において客観的に確実性及び信頼性が高いと推測され、入手経路や情報源が信頼を措くに足りるものでなければならないにもかかわらず、被告Cが取材の対象とした職員A及びBは、記事の内容となる事実関係についての目撃者でなく、詳細な知識を持っておらず、伝聞情報又は噂に基づく推測の域を出ない情報を提供したにすぎないにもかかわらず、被告らは、原告側に取材することなく、情報が不確実であることを認識しながら、そのまま記事にした。

したがって、本件各記事のようなことが原告において行われていると信じたとしても、その誤信が相当であるということはできず、故意又は過失を欠くものではない。

なお、報道の迅速性が要求される新聞の場合と異なり、雑誌の場合には、課せられる注意義務に社会通念上の限界はない。

(4) 公正な論評の法理による免責

本件各記事の中に論評にわたる部分が含まれているとしても、公正な論評の法理により免責されるためには、その前提となる事実摘示が真実であること、人身攻撃に及ぶものでなく、論評の方法が公正であることが必要であるところ、本件においては、前記のとおり摘示事実の真実性が証明されていないばかりでなく、侮辱的な表現を用い、人身攻撃に及んでおり、論評の方法が公正とはいえないから、被告らは、右の法理によって免責されるものではない。

3  損害額

(一) 原告

本件雑誌の発行部数は、約二八〇〇部であり、その一〇倍に当たる二万八〇〇〇人以上の大学受験生(全国の約一〇〇万人の受験生の約二・八パーセント)が直接又はその家族等を通じるなどして本件記事の内容を認識したため、右受験生の半分が代々木ゼミナールに応募しなかったと推測されるところ、平成一〇年度の大学受験本科生数の減少員数(前年比)が約二九〇〇人であり、そのうち一・四パーセントに当たる約四〇名が本件記事の影響による減少であると考えられるから、これに大学受験生本科生の学費(約六七万円)を乗ずると、原告の逸失利益は約二六八〇万円となる。

さらに、原告は、本件各記事により名誉を毀損され、甚大な無形の損害を被ったから、その評価額を加えると、損害額は合計三〇〇〇万円を下らない。

(二) 被告

本件雑誌の実販売数は五〇〇ないし六〇〇部にすぎず、その購読層は大学受験生やこれを子弟に持つ年代層ではないから、本件記事が大学受験生に与える影響はほとんどない。

また、本件雑誌発刊の翌年における原告の本科生の減少率は、当該年度の浪人生全体の減少率を下回っており、本件記事による影響を認めることはできない。

さらに、本件記事が原告の生徒数の減少に影響を与えたとしても、被告は、雑誌記録誌上において原告に関する国税当局の査察を報じ、他の雑誌も、原告に対する批判的記事を掲載しているから、本件記事のみによるものではない。

第三当裁判所の判断

一  本件雑誌発行に至る経過について

前判示第二の一の各事実のほか、証拠(甲第五号証、乙第一、第二号証、第四号証の一、二、第五ないし第八号証、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし五、第一四号証の一、二、証人北垣毅の証言(以下「北垣証言」という。)、被告L及び被告C各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

1  被告会社は、昭和五四年に創刊され平成四年一〇月に休刊となっていた月刊誌「記録」を平成六年七月に引き継いで再刊することとし、以後、主として一般の情報媒体が取り上げない生活に密着した事件を社会的観点から取り上げ、記事にして掲載してきた。

2  被告Cは、本件雑誌の発行に先立ち、平成九年六月ころから、原告の労働条件、労働組合に対する態度等について関心を持って取材を始め、被告Mに報告しながら、教育機関としての原告が内部に抱える問題をテーマに取材を進め、一方では学校設置認可を巡る問題について検討するとともに、他方では労働条件を巡る問題について取材メモを作成するなどして準備をし、原告を対象として取り上げた特集企画の第一回として本件雑誌に掲載するために本件各記事の原稿を執筆し、編集人である被告Mに提出し、同被告において加筆訂正した上、これを本件雑誌に掲載するに至った。

なお、右の過程において、被告Cらが、原告に対し直接に本件各記事に関する取材をすることはなかった。

3  本件雑誌は、多くとも八〇〇部程度が印刷され、そのうち約五〇〇ないし六〇〇部が年間購読料を支払った購読者への郵送や東京都内の約一〇軒の書店における店頭販売により配布された。

二  争点1について

前判示第二の一1及び2のとおり、原告は、「代々木ゼミナール」の名称で日本全国に多数の大学進学予備校を設置している学校法人であるところ、本件各記事は、原告がその職員に対して不合理な処遇、人事配置等をしていることを具体例を挙げることによって摘示した上、基本的人権への配慮を欠き、教育に携わる機関として適切でない旨の意見を表明するものであり、しかも、その表現方法は直接的かつ辛辣であり、「最悪の労働条件を持つ学校法人」というような端的な見出しと相まって、本件各記事を読んだ者をして強い印象を与えるものと認められ、一般の読者の通常の注意と読み方とを基準に考察しても、原告が教育機関としての適性を欠くとの認識を生じさせるものと解される。

したがって、本件雑誌が発行され、前判示一3のとおり配布されることによって不特定又は多数の者に本件各記事の内容が伝播される状態となり、原告が教育機関として社会生活上受けていた客観的評価が低下したとみることができる。

三  争点2について

1  本件各記事は、その内容に照らして考察すれば、主として原告の社会的評価に係る事実を摘示してこれを批判的な表現により記載している部分(本件記事(一)ないし(五))と、専ら右事実摘示を前提とした上での意見ないし論評の表明を主眼としている部分(本件記事(六)及び(七))とに分けられるが、前者については、摘示行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、右行為には違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、故意又は過失が否定され(最高裁昭和四一年六月二三日第一小法廷判決・民集二〇巻五号一一一八頁、同昭和五八年一〇月二〇日第一小法廷判決・裁判集民事一四〇号一七七頁参照)、また、後者については、意見ないし論評の表明が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった上に、その前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性がなく(最高裁昭和六二年四月二四日第二小法廷判決・民集四一巻三号四九〇頁、同平成元年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二五二頁参照)、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失が否定されると解される(最高裁平成九年九月九日第三小法廷判決・民集五一巻八号三八〇四頁参照)。

2  そこで、まず本件各記事の掲載及び発行が公共の利害に関する事実に係るものであるか否かについて検討するに、本件各記事は、前判示第二の一2のとおり、全国的に著名な大学進学予備校を設置する原告における労働条件及び労働組合への対応など、労働環境に関する事柄を前提にした上で、その教育機関としての適性について問題提起することを主要な内容とするから、公共の利害に関するものであると認められる。

3  次に、本件各記事の内容が右のとおりであることに加え、前判示一の月刊誌「記録」の沿革及び本件雑誌の発行に係る経緯にかんがみると、本件各記事の掲載の意図は、原告の職員に対する処遇及びその労働環境を批判的に紹介し、教育機関としての原告の在り方を追及するという点にあり、社会的な観点から公の存在である学校法人の問題を取り上げたものであるとみることができる。

したがって、被告らの本件各記事の掲載及び発行には、専ら公益を図る目的があったと認めることができる。

なお、原告は、本件各記事の掲載の目的が月刊誌「記録」の売上げの拡大による利益を図ることにあった旨主張するけれども、発行部数の拡大を意図することは出版社にとって当然のことであって、ことさらに読者の興味や関心を引き付けて売上げの増大を狙う意図がない限り、これにより直ちに公益目的が否定されるものではない。そして、本件においては被告らが右のような売上げの増大を目的とするとか、その他何らかの自己の利益を図る目的を抱いていたことを窺わせる証拠は見当たらないので、その出版意図は前判示のとおりであったと認定して差し支えないというべきである。

4  進んで、本件各記事において摘示された事実が真実であることの証明があったか否か、真実であると信ずるにつき相当の理由があったか否か、右事実を前提とした意見ないし論評の表明が公正なものであったか否かについて検討する。

(一) 本件記事(一)について

証拠(甲第二号証、北垣証言)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六三年当時、造形学校の事務局次長を務めていた職員は、昭和六三年ころ、研修会において美術系コースの説明をした後、原告副理事長から東京芸術大学の合格者数を尋ねられた際、その質問に答えることができず、同会終了後、右副理事長から叱責され、その半月後、代々木ゼミナール総務部の庶務次長に異動し、さらに、一般職である総務部長付きとなったと認めることができる。

右の異動及び降格の経緯に照らすと、当該職員に対する人事上の処遇の原因が合格者数を答えられなかったことにあると推測するに難くなく、この点では、従前の役職について事務局長と事務局次長との違いがあるものの、降格の理由という主張な点につき真実であることが証明されたということができる。

しかしながら、本件記事(一)の主眼は、降格の理由がささいなものであったという点に尽きるものではなく、それと並んで、職員に対する暴力や見せしめ的な措置があったことを指摘して原告の労使関係における処遇上の問題を批判する点にあったと解されるところ、右職員が会議の席上ネクタイを捕まれて床を引きずり回されるという暴行を受けたこと、見せしめとしてタイムレコーダーの前に座らされたこと及び在日朝鮮人であることを披瀝されたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。そして、右の真実性の証明のない部分は、同記事において原告の労働環境が劣悪であることを示す特徴的なエピソードとして引用されているのであるから、同記事は重要部分において真実であることの証明があったとすることができない。

ところで、被告らは、原告においては、職員間で暴力事件があったり、職員が他の者の面前で叱責されるということがあったりしたところ、このような事情の存在は、右摘示事実を真実であると信ずるにつき相当な理由があることの根拠となる旨主張するけれども、会議の席上で事務局次長が叱責された後に暴力を受けたことと職員間で暴力事件があったこと、見せしめにタイムレコーダーの前に座らされたことと他の職員の面前で叱責される者がいたこととは、それぞれ全く異なる事柄であり、後者のようなことがあったからといって前者のようなことが行われると信ずるのがもっともであるということができないのは明らかである。

(二) 本件記事(二)について

証拠(甲第二号証、乙第九号証、北垣証言)及び弁論の全趣旨によれば、原告から関連会社の入試センターに出向し、その業務部編集課長を務めていた職員は、受験情報雑誌の編集を担当していたが、同雑誌において原告の理事長の氏の高宮が高村と誤って記載されているのを見逃した約一か月後、出向を解除され、原告に一般職として復帰したことが認められる。

しかしながら、他方、北垣証言及び同人の陳述書(甲第二号証)によれば、右職員は、そのほかにも職務遂行上の過誤が多い上、部下に対する殴打事件を起こすなど、職場における人間関係がうまくいっておらず、このようなことも降格の理由であったというのであり、この供述を虚偽であるとして否定するだけの証拠もないから、原告の理事長の氏の誤記が降格の唯一の原因であったとまでいえるかどうかについては疑問を挟む余地があるといわざるを得ない。

よって、本件記事(二)における摘示事実の重要部分が真実であると認めることはできない。

(三) 本件記事(三)について

証拠(甲第二号証、乙第九号証、北垣証言、証人高安正明の証言(以下「高安証言」という。))及び弁論の全趣旨によれば、本部の進学情報指導部には、平成七年五月当時、二六名の職員が在籍していたが、毎年、三、四名が退職し、他の部署から補充した結果、平成九年五月当時において二一名が在籍することになったこと、平成八年当時、教務一課及び同二課には、合計二三名が在籍していたが、四名が退職し、一名が他の部署に移った結果、翌平成九年五月当時、合計一八名が在籍し、同年七月に両課が統合されて教務課となり、一五名が在籍することとなったこと、かつて進学情報指導部に課長代理として在籍していた職員は、同部の本部長に叱責された後、突然昼休みに帰宅し、翌日も出勤しなかったので、右本部長が、同職員の自宅を訪れて話合いを持ち、辞表の提出を受けるということがあったことが認められる。

しかしながら、昼休みに突如失踪したままファクシミリで辞表を送信した職員がいたことや、オーナー一族の極端な優遇措置が具体的にあったことを認めるに足りる証拠はない。

ところで、右認定事実によれば、原告の進学情報指導部及び教務課においては、わずか一、二年のうちに職員数が約三分の二に減少したり、突然帰宅した後に職場に復帰することなく退職した職員がいたりしたのであり、右のような退職者の存在及び退職態様の原因が労働条件の劣悪さにある可能性も否定できないけれども、他方では、北垣証言及び同人の陳述書(甲第二号証)にみられるように、少子化による大学受験者の減少に対応するための合理化に起因する可能性も否定できず、また、原告における職員に対する処遇が同業者のそれよりも著しく低いことを認めるに足りる証拠も存しない。

そうすると、本件記事(三)において摘示された事実の重要部分が真実であると認めることはできない。

(四) 本件記事(四)について

証拠(甲第三号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事(四)において取り上げられた職員である相良由樹子は、別件訴訟(東京地方裁判所平成七年(ワ)第三八二二号、同一五八七五号事件)の本人尋問において、原告が同職員の父親の勤務していた建設会社等を通じて労働組合活動に圧力を加られた旨述べていることが認められるが、その働きかけの時期及び具体的態様については必ずしも明らかでない上、同供述によっても、原告がどのように関与したのかは不明である。また、証人高安正明は、原告において労働組合員に対する不利益な取扱いがあった旨証言するが、そのことから直ちに本件記事(四)に記載されているようなことがあったと推認することはできず、他に本件記事(四)の重要部分が真実であると認めるに足りる証拠はない。

(五) 本件記事(五)について

証拠(甲第二号証、第六号証、乙第九号証、北垣証言、高安証言)及び弁論の全趣旨によれば、北海道大学の大学院で薬学及び生化学を研究していた職員は、教科書編集部に配属され、化学の教科書の編集、執筆を担当していたこと、千葉大学を卒業した高安正明は、職員として同部に配属され、世界史の教科書の編集、執筆を担当していたこと、両名とも労働組合に所属していたこと、平成七年四月又は五月ころ、化学担当の右職員が直属の上司に労働組合に脱退するように説得されていたのを高安が聞きつけて、右上司の説得を中止させたところ、その数か月後、右職員は生物の担当となり、高安は学生課に配転されたことが認められ、これによると、右両職員に対する処遇が労働組合員であることと関連するのではないかとの疑いがあり、高安証言もそのことを指摘する。

しかしながら、他方、証拠(甲第六号証の一ないし三、北垣証言)及び弁論の全趣旨によれば、高安には、編集の過誤が多く、職場の人間関係にも問題があったこと、北海道大学の大学院修了の職員は、生化学を研究していたことがあった上、生物学を得意科目として申告していたことが認められ、これらに照らすと、右職員及び高安に対する配転も、それなりに根拠があるというべきであって、労働組合活動のみを理由とする人事上の処遇であったか否かについては疑問が残るところである。

そして、他に本件記事(五)が指摘するような労働組合活動と原告職員の異動との間の因果関係を認めるに足りる証拠はないから、同記事に摘示された事実の重要部分が真実であると認めることはできない。

(六) 本件記事(六)について

本件記事(六)は、本件記事(一)ないし(五)において摘示した事実を前提に、原告が反社会的な活動をし、最悪の労働条件を持ち、教育の現場として適切でないということを主要な内容とするものであるが、前判示のとおり、本件記事(一)ないし(五)の重要部分を真実であると認めることができない以上、右に示された意見についてもその前提を欠くことになる。

(七) 本件記事(七)について

本件記事(七)は、原告がただ一回だけの過誤を犯した職員をタイムレコーダーの前の丸椅子に何日も座らせたという本件記事(一)記載の事実を前提に、原告が遺体を損壊した殺人犯と同様に職員に対して残忍な行為をしており、日本有数の大学受験予備校であり続けることは問題であるという指摘をすることを主要な内容としているところ、前判示のとおり、右事実そのものを認めることができないから、本件記事(七)における意見もその前提を欠くことになる。

(八) 以上のとおり、本件各記事(一)ないし(五)において摘示された事実のうち、一部の事実についてはこれを真実であると認めることができ、本件各記事がすべて虚偽の内容を記述したものであるということはできないものの、その他の部分については真実であると認めることができないので、これを全体としてみた場合、その重要部分が真実であることが証明されたとすることはできない。

5  さらに、被告らにおいて本件各記事の内容である事実関係を真実であると信ずるについて相当な理由が存するか否かについて検討する。

(一) 被告らにおいて、本件各記事の内容を虚偽であると知りながらこれを掲載したことを窺わせる証拠はないから、これを真実であると理解していたこと自体は認めることができる。

(二) ところで、被告らは、代々木ゼミナールに勤務する二名の職員を取材し、両名が知っている事実で、かつ内容からしてその他の原告職員が知り得る事実のみを記事にした旨主張し、これに副う被告C及び被告L各本人尋問の結果並びに同被告らの陳述書(乙第七号証、第一三号証)、被告Mの陳述書(乙第八号証)が存する。

(三) しかしながら、被告らは、取材源秘匿のためであるとの理由により取材の対象としたとする被告職員A及びBの具体的な氏名等を明らかにすることを拒み、被告C本人も、本人尋問において、両名の氏名、原告に在職した時期、期間、その他両名を特定をするに足りる事柄について一切供述しないから、右二名が原告においてどのような存在であるのかが明らかでない。また、被告Cが取材の際に作成したという乙第四号証の一によって直ちに同被告が原告職員二名からその供述するような取材をしたと即断することもまた困難である。

(四) 以上を前提として判断すると、まず、右二名が本件各記事の内容とされている事実関係についての事情をよく知るなど、取材源として適当であったのかどうかは不明であるというほかない。そして、その取材内容もまた不明であるから、両名から聴取した内容が信頼し得る客観性を備えていたということもできない。そして、取材を担当した被告Cにとって右二名の述べるところはいずれも伝聞に属することになるから、その真実性を確認する方策を採る必要があるというべきであるが、他の職員から比較検討の対象となるような事情聴取をした形跡はないし、原告に対して直接取材していないことは前判示のとおりである。そうすると、被告らは、本件各記事については、その信頼性を担保し得ない伝聞供述を中心にして取材し、その真実性について確認の方策を採っていないのであるから、その記載内容について真実であると信じたことは軽率であったといわざるを得ず、相当の理由があるということはできない。

四  損害額及び謝罪広告の要否

原告は、大学受験生本人又はその保護者等が本件各記事を直接又は間接的に聞知することによって、具体的に四〇名の生徒減少があった旨主張し、これに副う北垣証言が存する。確かに、一般には、大学受験生ないしその保護者が大学進学予備校を選択するに当たっては、その予備校の持つイメージが一つの判断要素となることを否定できないと思われるが、それが他の要素と比較してどの程度の重要性を持つか、本件各記事を聞知した大学受験生ないしその保護者がどの程度存在したかについては何ら証拠がないのであり、証人北垣も、本件各記事により生徒が数十人減少したと判断する根拠については直感であると証言するにとどまっているのであって、本件各記事による生徒減少を証明するに資する適切な証拠ということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件各記事より生徒数が減少し、これに基づいて利益が減少したことを認めることはできない。

もっとも、原告が本件各記事により名誉を毀損されたことは前判示一のとおりであり、教育界において受けてきた社会的評価を低下させられ、その結果無形の損害を被ったことはいうまでもないが、本件雑誌の発行部数は五〇〇部程度であって、原告に対する否定的な評価が広く社会に知れわたったとは考え難く、この点は損害額を算定するについて考慮を要するところである。そして、被告らが本件各記事の掲載された本件雑誌を編集し発行するに当たっては公共の利益を図る目的があったこと、本件各記事に摘示された事実については真実であると認められる部分もあったことなどの事情を考慮すると、原告の名誉を回復するには三〇万円をもって相当というべきある。

なお、原告の悪評が伝播するであろう範囲が必ずしも広くないことを考慮すれば、原告の名誉を回復するためには右損害賠償金の支払をもって足りるというべきであり、謝罪広告の掲載を命ずるまでの必要はない。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、損害賠償金三〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一〇年一月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右部分を認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、 六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 内堀宏達 裁判官 小川嘉基)

別紙<省略>

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