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東京地方裁判所 平成9年(ワ)27536号 判決 1998年11月25日

甲事件=原告

株式会社エム・ワイ・アンドカンパニー

被告

淵上祐之

ほか一名

乙事件=原告

第三コンドルタクシー株式会社

被告

靏田悦子

主文

一  被告祐之及び原告第三コンドルタクシーは、原告エム・ワイ・アンドカンパニーに対し、各自金二一万八四〇〇円及び被告祐之においては、これに対する平成一〇年一月七日から、原告第三コンドルタクシーにおいては、これに対する平成九年一二月二八日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告悦子は、原告第三コンドルタクシーに対し、金二四万七六〇三円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告エム・ワイ・アンドカンパニー及び原告第三コンドルタクシーのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じて、一〇分の一を被告祐之及び原告第三コンドルタクシーの負担とし、その余を原告エム・ワイ・アンドカンパニー及び被告悦子の負担とする。

五  この判決は、原告エム・ワイ・アンドカンパニー及び原告第三コンドルタクシーの勝訴部分について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告祐之及び原告第三コンドルタクシーは、原告エム・ワイ・アンドカンパニーに対し、各自金二七五万円及び被告祐之においては、これに対する平成一〇年一月七日から、原告第三コンドルタクシーにおいては、これに対する平成九年一二月二八日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告悦子は、原告第三コンドルタクシーに対し、金三〇万円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機が設置されている住宅街の交差点において、ポルシェとタクシーが出会頭に衝突した交通事故について、それぞれの車両の所有者が、いずれも、自車の方が青信号で進入したと主張して、運転者、あるいは、運転者と車両所有者に対し、民法七〇九条、あるいは、民法七〇九条、七一五条に基づき、車両損害等の損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 発生日時 平成九年八月一四日午後六時三五分ころ

(二) 事故現場 東京都杉並区浜田山四丁目先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 事故車両 被告祐之が運転していた普通乗用自動車(練馬五六あ五四一四、以下「祐之車両」という。)及び被告悦子が運転していた普通乗用自動車(練馬三四は八六一八、以下「悦子車両」という。)

(四) 事故態様 本件交差点を東から西へ直進しようとした悦子車両と、南から北へ直進しようとした祐之車両が出会頭に衝突した。

2  被告祐之と原告第三コンドルタクシーの関係

原告第三コンドルタクシーは、被告祐之の使用者であり、本件事故は、その業務中に発生した。

二  争点

1  責任原因

被告祐之及び原告第三コンドルタクシーは、祐之車両は、対面信号の青色に従って本件交差点に進入したのに対し、悦子車両は、対面信号が赤色であったにもかかわらず、信号を無視して本件交差点に進入したのであるから、被告祐之に過失はないと主張するのに対し、原告エム・ワイ・アンドカンパニー及び被告悦子は、対面信号の色はその逆であり、悦子車両の対面信号は青色で、祐之車両の対面信号が赤色であったのであるから、被告悦子には過失はないと主張し、両車両が本件交差点に進入した際の対面信号の色が争点となっている。

2  悦子車両の車両損害

3  祐之車両の修理代及び第三コンドルタクシー休車損害

第三争点に対する判断

一  被告悦子及び被告祐之の責任原因(争点1)

1  争いのない事実及び証拠(甲三、四、七の1~8、乙一、四、五、八、被告悦子本人、被告祐之本人)によれば、まず、次の事実が認められる。

(一) 事故現場である本件交差点は、井の頭通り方面(南方向)から五日市街道方面(北方向)に南北に走る平坦な舗装道路(以下「南北道路」という。)と、方南通り方面(東方向)から人見街道方面(西方向)に走る平坦な舗装道路(以下「東西道路」という。)が交わっており、信号機による交通整理が行われている。その約五〇メートルほど南側には、南北道路と井の頭通りが交わる交差点(以下「浜田山交差点」という。)がある。

東西道路及び南北道路は、いずれも最高速度が時速三〇キロメートルに制限されており、交通は頻繁である。東西道路には中央線が引かれており、本件交差点東側部分は、車道の幅員が五・六メートルで、その両側には、幅員一・九五メートルの歩道が存在する。南北道路にも中央線が引かれており、本件交差点南側部分は、東側に幅員〇・六メートル、西側に幅員〇・八メートルの路側帯が存在し、それを含めた幅員が六・〇メートルである。また、本件交差点の各角には、いずれも建物が存在し、東西道路を東方向から、南北道路を南方向からそれぞれ進行してきた場合のいずれにおいても、前方の見通しは良好であるが、左右の見通しは悪い。

(二) 被告悦子は、平成九年八月一四日、本件交差点の約二〇〇メートル西側に存在するハイマート浜田山(現在はエスカマーレ浜田山)へ買物に行くため、悦子車両を運転して自宅を出た。悦子車両は、まもなく本件交差点の約一〇〇メートルほど東側の東西道路上に出て、時速約四〇キロメートルで西方向へ進行し、本件交差点に差し掛かった。

他方、被告祐之は、祐之車両を運転し、客として小園東雄を左後部座席に乗車させ、南北道路を北へ進行した。そして、浜田山交差点を青信号に従って通過し、時速約四〇キロメートルで五日市街道方面へ直進しようと本件交差点に差し掛かった。

(三) 悦子車両は、そのまま本件交差点に進入し、その前部が、本件交差点に進入した祐之車両の右タイヤから右ドア前部付近に衝突した。両車両は、本件交差点の中央で停止した。被告祐之は、衝突直後、被告悦子に対し、東西道路が赤信号で南北道路が青信号であったことを指摘して強い口調でいきなり非難した。その後、到着した警察官に対し、被告悦子は、「どうもすいません。」と述べた。被告悦子は、外出してくるときにハンドバッグを忘れてきており、警察官から、何か考えごとをしていたのかとか、ハンドバッグを忘れてあわてていたのかなどと質問を受けた。被告悦子は、免許証や車検証を携帯していなかったため、これをいったん取りに戻り、再び事故現場に戻ったところ、警察官から、東西道路の信号が赤色であったのではないかなどと言われた。なお、小園東雄は、別の車両に乗車していったため、被告祐之は、被告悦子に対し、事故現場までの小園東雄の乗車代金一五四〇円を請求し、被告悦子は、五〇〇〇円を支払った。

被告悦子は、翌一五日、高井戸警察署の事故係に対し、自分が青信号で進入したので、実況見分を行ってほしい旨を申し出た。

(四) 南北道路と東西道路の信号のサイクルは一二〇秒である。南北道路の信号は、二七秒間は青色になり、その後、三秒間の黄色を経て赤色になる。赤色になって二秒間は東西道路も赤色であり(いわゆる全赤)、その後、東西道路は青色になる。南北道路の赤色は全赤の二秒間を含めて九〇秒間であり、東西道路の青色は八三秒間で、三秒間の黄色を経て三四秒間の赤色になる。

本件交差点の信号は、一サイクルを一二〇秒とする浜田山交差点の信号を親として連動しており、南北道路の浜田山交差点の信号は青色から三秒間の黄色を経て赤色になるが、赤色になると同時に南北道路の本件交差点の信号は黄色になる。もっとも、双方の信号の連動の有無は、切り換えスイッチによるものであり、本件事故当時、連動する状態になっていたか否かは定かでない。

2(一)  被告祐之及び被告悦子は、互いに青信号で本件交差点に進入したと供述し、いずれの陳述書(甲三、乙一)にも同趣旨の記載がある。

しかし、被告祐之が、事故直後、被告悦子に対し、赤信号で進入した旨の非難をしているのに対し、被告悦子は、警察官に対し、「すいません。」と述べたり、小園東雄の乗車代を被告祐之に支払ったりするなど、青信号に従って進行したとすれば、不自然な対応をしていることは否定できない。

もっとも、被告悦子本人は、事故直後、被告祐之に対し、赤信号で進入したのは被告祐之であるとの反論をしたし、到着した警察官に対しても、被告祐之が赤信号で進入したと訴えたと供述する。しかし、被告悦子作成の陳述書(甲三)には、到着した警察官とのやり取りの記載はあるものの、被告祐之が赤信号で進入したと訴えたことの記載はない。そうすると、被告悦子本人の右供述のうち、到着した警察官に対し、赤信号で進入したのは被告祐之であると訴えた部分については信用できず、そうとすれば、被告祐之に対して反論をしたとの部分の信用性についても疑問が残る。

また、被告悦子の陳述書(甲三)には、警察官に謝ったのは、お盆で人がいない時に申し訳ないとの趣旨であるとの記載があり、被告悦子本人は、被告祐之に対して小園東雄の乗車代を支払ったのは、小園に迷惑をかけたからであると供述するが、いずれも合理的な説明とはいえない。

さらに、被告悦子は、実況見分において、衝突地点から約五〇メートル手前と約二〇メートル手前で、それぞれ東西道路の信号機が青色であることを確認したと指示説明しており(甲四)、被告悦子本人は、東西道路に進入した時点を含めて合計三回東西道路の青信号を確認し、通常、これらの地点で信号を確認するようにしていると供述している。しかし、わずか一〇〇メートルほどの間に三回も確認する地点を決めている理由は、青色で本件交差点に進入した車両と、南北道路を進行して来た車両が衝突したのを何度か目撃したからであるとか(これが理由であるとすれば、青色信号を確認したからといって、そのような事態を防げるものではない。)、単に習慣であるからなどと、あいまいな説明に終始しており、本当に、このように確認したのか疑問もある。

このように、青信号で本件交差点に進入した旨の被告悦子本人の供述及び同趣旨の陳述書の記載については、被告祐之のそれと比較して疑問が多いということができる。

(二)  もっとも、証人安藤五郎は、自宅マンション(本件交差点から約二〇メートルほど東側の東西道路南沿いに所在する。甲四)の一階台所でテレビを見ていたところ、いきなりドーンと音がしたので、三〇センチメートルから四〇センチメートル離れた場所の窓を開けて見たところ、車両が交差点内で衝突しており、東西道路の信号が青色であったと供述する。しかし、衝突音がしてから窓を開けて信号の色を確認していることからすると、その間には、多少の時間差が生じているから、証人安藤五郎が目撃した際の東西道路の信号が青色であったからといって、悦子車両が本件交差点に進入した時点も青色であったとは当然にはいえない(衝突直後に赤色から青色に変わった可能性もある。)。したがって、この証言は、青信号で本件交差点に進入したとの被告悦子本人の供述及び陳述書の記載を当然に裏付けるものとまではいえない。

(三)  以上によれば、被告祐之本人の供述及び同趣旨の陳述書の記載が、大筋としては信用できるというべきである。しかし、証人安藤五郎の目撃内容も無視することはできず、これらを総合すると、本件事故の態様は、祐之車両が、信号が青色から黄色に変わる直前あるいは、変わった直後に本件交差点に進入し、青色に変わる少し前の赤信号で進入した被告悦子車両と出会頭に衝突したものと認めるのが相当である。

もっとも、証人小園東雄は、衝突直後、左後部座席に深く落ち込んだ状態で、東西道路の信号機が赤色であることを目撃したと供述し、小園東雄作成の陳述書(乙二)にも、これと同趣旨の記載がある。しかし、衝突の衝撃で体勢が乱れていたのであるから、目撃した信号がはたして本当に東西道路のものか否か疑問がないではないし、仮に、東西道路のものであるとしても、青信号に変わる寸前を目撃した可能性もあるから、この供述及び陳述書の記載は、右の認定の妨げにならない。

また、井の頭通りを東方向に進行し、浜田山交差点を赤信号で停止していたところ、交差する南北道路を北へ向かって通過する祐之車両を目撃し、ドーンという衝撃音がしてから信号が変わるまで二〇秒ほど待って本件交差点方向へ左折したとの内容のタクシー運転手の陳述書(乙三)がある。この内容と、浜田山交差点と本件交差点の距離がわずか五〇メートルほどであることを併せて考えると、双方の信号が連動している限り、祐之車両が本件交差点に進入した際の信号の色は青色であることになる。しかし、本件事故当時、双方の信号が連動していたか否か定かでないから、この陳述書の内容も、事故態様について、先の認定の妨げにならない。

3  2(三)で認定した事故態様によれば、被告悦子には、赤信号を無視あるいは見落として本件交差点に進入した過失がある。他方、被告祐之には、信号が黄色信号に変わった時点で安全に停止できる位置にいなければ、原則として過失を認めることはできない(道路交通法七条、道路交通法施行令二条一項黄色の灯火二号本文参照)。しかし、本件では、黄色に変わった地点を厳密に特定することは困難であるから、この点を考慮すると、被告祐之にも、信号の変わり目であるにもかかわらず、制限速度を超過する速度で漫然と本件交差点に進入した若干の過失があるというべきである。そして、本件事故に寄与した被告祐之と被告悦子の過失割合は、被告祐之が一割、被告悦子が九割とするのが相当である。

二  悦子車両の車両損害(争点2)

1  証拠(甲六の1・2、七の1~8、被告悦子本人)によれば、悦子車両は、原告エム・ワイ・アンドカンパニーが所有する車両であり、本件事故により、エンジンを含めたその前部を中心に、フレームなどにも修理代金として合計三七五万九八二九円を必要とする損傷を受けたことが認められる。

原告エム・ワイ・アンドカンパニーは、悦子車両の時価を二五〇万円と主張しているので、悦子車両が、いわゆる経済的全損であることは明らかである。

2  そこで、悦子車両の本件事故当時の時価について検討する。

原告エム・ワイ・アンドカンパニーの主張に沿う証拠としては、原告エム・ワイ・アンドカンパニーが作成した自動車価格査定書(甲五の1)がある。しかし、これは、第三者が作成したものではない上、原告が証拠として提出するポルシェ専門誌掲載の悦子車両と同種の車両(一九八九年型九四四EX、走行距離一万八二四三キロメートル、甲五の1)の中古車販売広告の価格(平成八年冬で二四八万円、平成九年冬で二二八万円)を上回るものであり(甲五の2~5)、直ちには採用できない。しかし、他方、被告祐之及び原告第三コンドルタクシーは、新車価格五八〇万円の一〇分の一であると主張するのみで、的確な反証はない。

したがって、ポルシェ専門誌掲載の価格を参考にし、これが、販売店の販売希望価格であることも考慮し、本件事故当時の時価は、少なくとも本件事故前である平成八年冬の二四八万円の八〇パーセントである一九八万四〇〇〇円を下らないと判断するのが相当である。

3  この時価額に、過失相殺として九割を控除すると、原告エム・ワイ・アンドカンパニーの車両損害は、一九万八四〇〇円となる。

三  原告エム・ワイ・アンドカンパニーの弁護士費用

原告エム・ワイ・アンドカンパニーは、弁護士費用として二五万円を請求するが、本件認容額、審理の内容及び経過等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二万円を相当と認める。

四  祐之車両の修理代及び原告第三コンドルタクシーの休車損害

1  修理代

祐之車両は、原告第三コンドルタクシーが所有する車両であり、本件事故により、修理代として、二五万二八九三円を要する損傷を受けた(乙六、弁論の全趣旨)。

2  休車損害

原告第三コンドルタクシーは、休車損害として、一日あたり一万円で修理相当期間である二日間分の二万円を主張する。

しかし、原告第三コンドルタクシーは、タクシー会社であるから、代替車両が存在するのが通常と考えられ、本件においては、代替車両の存否を含めて休車損害の発生の根拠について、主張も立証もない。

したがって、休車損害は認められない。

3  祐之車両の修理代に、過失相殺として一割を控除すると、原告第三コンドルタクシーの修理代としての損害は、二二万七六〇三円となる。

五  原告第三コンドルタクシーの弁護士費用

原告エム・ワイ・アンドカンパニーは、弁護士費用として三万円を請求するが、本件認容額、審理の内容及び経過等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二万円を相当と認める。

第四結論

以上によれば、原告エム・ワイ・アンドカンパニーの請求は、二一万八四〇〇円及び被告祐之においては、これに対する平成一〇年一月七日(不法行為の日以降の日)から、原告第三コンドルタクシーにおいては、これに対する平成九年一二月二八日(不法行為の日以降の日)から、いずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告第三コンドルタクシーの請求は、二四万七六〇三円及び平成九年八月一四日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、いずれも理由がある。

(裁判官 山崎秀尚)

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