東京地方裁判所 平成9年(ワ)27623号 判決 1998年6月24日
原告
国
被告
山本賢二
主文
一 被告は、原告に対し、金六八二九万五四六五円及びこれに対する平成六年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故(本件事故)の発生
(一) 発生日時 平成四年一月一一日午前四時五五分ころ
(二) 発生場所 山梨県南都留郡河口湖町河口二四七六番地の二先路上
(三) 加害車両 牧武史が所有し、被告が運転していた小型四輪乗用自動車(多摩五八ろ二八八五)
(四) 被害車両 下山健二が運転していた小型四輪乗用自動車
(五) 事故態様 被告は、カーブを曲がりきれずに加害車両を対向車線上に進出させ、対向車線を進行してきた被害車両に加害車両前部を衝突させた。
(六) 結果
(1) 被害車両に同乗していた近藤知康、加害車両に同乗していた小野勇次及び三澤明成は、本件事故によりいずれも死亡した。
(2) 加害車両に同乗していた柳川雅伸は、本件事故により、頭部・顔面外傷、左足挫創、頸椎捻挫及び両肩打撲等の傷害を受けた。
(3) 加害車両に同乗していた大藏哲は、本件事故により、右腓骨骨折、頭部打撲兼切傷及び右足関節骨折等の傷害を受けた。
(4) 加害車両に同乗していた浅井俊久は、本件事故により顔面挫創及び右足打撲の傷害を受けた。
(5) 加害車両に同乗していた小出和弘は、右足挫創、右肘打撲及び頸椎捻挫等の傷害を受けた。
2 責任原因(自動車損害賠償保障法三条)
被告は、本件事故発生の一か月以上前に中学生時代の先輩である牧武史が所有する加害車両を二時間の約束で無償で借り受け、本件事故当時も自己のために運行の用に供していた。
したがって、被告は、自動車損害賠償保障法(自賠法)三条に基づき、本件事故により近藤友康らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 損害
(一) 近藤友康(遺族固有の分を含む)は、本件事故により、少なくとも、次のとおり二九四七万八六七六円(左記(2)ないし(4)の合計金額四九一〇万七四七八円のうち、自賠法上の法定限度額三〇〇〇万円から、健康保険組合からの給付額四四万円及び被告からの支払額一一万円を控除した残額である二九四五万円に左記(1)を加えた額)を下らない損害を被った。
(1) 死体検案料等 合計二万八六七六円
死体検案料 一万八五四〇円
遺体処置料 六八四〇円
材料費 三二九六円
(2) 葬儀費 二五万円
社会通念上必要かつ相当と認められる八〇万円から健康保険組合からの給付額四四万円及び被告からの支払額一一万円を控除した金額
(3) 逸失利益 四〇三五万七四七八円
近藤知康は、死亡当時三二歳であり、被扶養者はいない。本件事故の前年である平成三年の年収四〇五万二五六六円を基礎とし、生活費控除五〇パーセントとして、新ホフマン方式(係数一九・九一七)により年五分の割合による中間利息を控除すると、四〇三五万七四七八円(一円未満切捨)となる。
(4) 慰謝料 八五〇万円
近藤友康分 三〇〇万円
遺族二名分 五五〇万円
(二) 柳川雅伸は、本件事故により、少なくとも、次のとおり二万八二一九円を下回らない損害を被った。
(1) 治療費 五万九一四四円
山梨赤十字病院及び町田病院における治療費合計一六万円から、国民健康保険より給付を受けるべき額を控除した額
(2) 文書料 一万〇九五〇円
診断書二通八〇九〇円(山梨赤十字病院及び町田病院各一通)、明細書一通二〇六〇円、交通事故証明書一通六〇〇円及び損害てん補請求に要する印鑑証明書料二〇〇円の合計額
(3) 雑費(入院五日分) 三五〇〇円
(4) 休業損害 四万三〇〇〇円
一日あたり四三〇〇円で、一〇日分(実治療日数)
(5) 慰謝料(治療期間一一日分) 四〇七〇〇円
(6) 好意同乗減額 五〇パーセント
柳川雅伸の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、(1)ないし(5)の合計金額一五万七二九四円から、総損害額二五万八一五〇円の五〇パーセントに相当する一二万九〇七五円を控除すると、柳川雅伸の損害額は少なくとも二万八二一九円となる。
(三) 小野勇次、その妻である小野朋子、子である小野弥玲及び父である小野正義は、本件事故により、少なくとも、次のとおり合計二一四三万四六〇二円の損害を被った。
(1) 小野勇次の妻小野朋子の損害 一〇四三万五七五一円
ア 葬儀費 六四万九四〇〇円
社会通念上必要かつ妥当と認められる八〇万円から、国民健康保険から給付を受けるべき額である四万円及び被告からの支払額一一万〇六〇〇円を控除した額
イ 逸失利益 一六四九万七七〇二円
小野勇次は死亡当時二〇歳であり、有職者で被扶養者がいた。年齢別平均給与月額一七万七五〇〇円の一二か月分を基礎とし、生活費控除三五パーセントとして、新ホフマン方式(係数二三・八三二)により年五分の割合による中間利息を控除して算出した額三二九九万五四〇四円の二分の一の法定相続分。
ウ 慰謝料 三八七万五〇〇〇円
小野勇次の慰謝料四五〇万円の法定相続分である二分の一と小野朋子固有の一六二万五〇〇〇円を加えた額
エ 好意同乗減額 五〇パーセント
小野勇次の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、アないしウの合計金額二一〇二万二一〇二円から、総損害額二一一七万二七〇二円の五〇パーセントに相当する一〇五八万六三五一円を控除すると、損害額は少なくとも一〇四三万五七五一円となる。
(2) 小野勇次の子小野弥玲の損害 一〇一八万六三五一円
ア 逸失利益 一六四九万七七〇二円
右(2)イに同じ。
イ 慰謝料 三八七万五〇〇〇円
右(2)ウに同じ。
ウ 好意同乗減額 五〇パーセント
小野勇次の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、ア及びイの合計金額二〇三七万二七〇二円から、その五〇パーセントに相当する一〇一八万六三五一円を控除すると、損害額は少なくとも一〇一八万六三五一円となる。
(3) 小野勇次の父小野正義の損害 八一万二五〇〇円
ア 固有の慰謝料 一六二万五〇〇〇円
イ 好意同乗減額 五〇パーセント
小野勇次の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、アの一六二万五〇〇〇円から、その五〇パーセントに相当する八一万二五〇〇円を控除すると、損害額は少なくとも八一万二五〇〇円となる。
(四) 三澤明成は、本件事故により、少なくとも、次のとおり一七二一万〇一五〇円の損害を被った。
(1) 三澤明成の死亡に至るまでの傷害による損害 一万九六一〇円
ア 治療費等 三万五六一九円
死体検案料一万八五四〇円、遺体処置料一万三六八〇円及び材料費三三九九円の合計額
イ 文書料 三六〇〇円
死体検案書一通二〇〇〇円、交通事故証明書一通六〇〇円及び損害てん補請求に要する印鑑証明書等一〇〇〇円の合計額
ウ 好意同乗減額 五〇パーセント
三澤明成の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、ア及びイの合計金額三万九二一九円から、その五〇パーセントに相当する一万九六一〇円を控除すると、損害額は少なくとも一万九六一〇円となる。
(2) 三澤明成の死亡による損害 一七一九万〇五四〇円
ア 葬儀費 六五万円
社会通念上必要かつ妥当と認められる八〇万円から、国民健康保険から給付を受けるべき額である四万円及び被告からの支払額一一万円を控除した額
イ 逸失利益 二五三八万一〇八〇円
三澤明成は死亡当時二〇歳であり、有職者で被扶養者はいなかった。年齢別平均給与月額一七万七五〇〇円の一二か月分を基礎とし、生活費控除五〇パーセントとして、新ホフマン方式(係数二三・八三二)により年五分の割合による中間利息を控除して算出した額二五三八万一〇八〇円
ウ 慰謝料 八五〇万円
三澤明成の慰謝料三〇〇万円と遺族二名の固有の慰謝料五五〇万円を加えた額
エ 好意同乗減額 五〇パーセント
三澤明成の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、アないしウの合計金額三四五三万一〇八〇円から、総損害額三四六八万一〇八〇円の五〇パーセントに相当する一七三四万〇五四〇円を控除すると、損害額は少なくとも一七一九万〇五四〇円となる。
(五) 大藏哲は、本件事故により、少なくとも、次のとおり九万九九一九円の損害を被った。
(1) 治療費 五万九五五九円
山梨赤十字病院及び町田病院における治療費合計一三万五五三〇円から、国民健康保険より給付を受けるべき額を控除した額
(2) 文書料 一万〇三五〇円
診断書二通八〇九〇円(山梨赤十字病院及び町田病院各一通)、明細書一通二〇六〇円及び損害てん補請求に要する印鑑証明書料二〇〇円の合計額
(3) 雑費(入院三日分) 二一〇〇円
(4) 通院費 六二〇〇円
大藏哲は、本件事故により三日間入院し、六日間通院した。入退院と通院一日分については一日あたり一二〇〇円、その余の通院五日分については一日あたり七八〇円。
(5) 休業損害 一二万七三〇〇円一日あたり六七〇〇円で一九日分(治療期間)
(6) 慰謝料(治療期間一九日分) 七万〇三〇〇円
(7) 好意同乗減額 五〇パーセント
大藏哲の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、(1)ないし(6)の合計金額二七万五八〇九円から、総損害額三五万一七八〇円の五〇パーセントに相当する一七万五八九〇円を控除すると、大藏哲の損害額は少なくとも九万九九一九円となる。
(六) 浅井俊久は、本件事故により、少なくとも、次のとおり一万一六五八円の損害を被った。
(1) 治療費 九二四三円
治療費一万四二二〇円から、国民健康保険から給付を受けるべき四九七七円を控除した額)。
(2) 文書料 五三五〇円
診断書一通三〇九〇円、明細書一通二〇六〇円及び損害てん補請求に要する印鑑証明書料二〇〇円の合計額
(3) 通院費 三一〇〇円 山梨赤十字病院から帰宅した分
(4) 休業損害(治療一日分) 六九〇〇円
(5) 慰謝料(治療一日分) 三七〇〇円
(6) 好意同乗減額 五〇パーセント
浅井俊久の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、(1)ないし(5)の合計金額二万八二九三円から、総損害額三万三二七〇円の五〇パーセントに相当する一万六六三五円を控除すると、浅井俊久の損害額は少なくとも一万一六五八円となる。
(七) 小出和弘は、本件事故により、少なくとも、次のとおり三万二二四一円の損害を被った。
(1) 治療費 六万〇五六五円
山梨赤十字病院及び町田病院における治療費合計一六万一二六〇円から、国民健康保険より給付を受けるべき額を控除した額
(2) 文書料 一万〇三五〇円
診断書二通八〇九〇円(山梨赤十字病院及び町田病院各一通)、明細書一通二〇六〇円及び損害てん補請求に要する印鑑証明書料二〇〇円の合計額
(3) 雑費(入院五日分) 三五〇〇円
(4) 休業損害 六万四八六二円
一日あたり九二六六円で七日分(実治療日数分)
(5) 慰謝料(治療日数七日分) 二万五九〇〇円
(6) 好意同乗減額 五〇パーセント
小出和弘の加害車両への同乗は好意同乗といえるから、(1)ないし(5)の合計金額一六万五一七七円から、総損害額二六万五八七二円の五〇パーセントに相当する一三万二九三六円を控除すると、小出和弘の損害額は少なくとも三万二二四一円となる。
4 自賠法七二条一項に基づく損害のてん補
被告は、自賠法所定の責任保険の被保険者及び責任共済者以外の者であったので、原告は、同法七二条一項に基づき、被害者である近藤知康らまたはその遺族らの請求により、同人らに対し、次のとおり損害のてん補金合計六八二九万五四六五円を給付した。
(1) 平成六年一二月一二日 近藤知康の遺族らに対し、二九四七万八六七六円
(2) 平成六年一二月二二日 柳川雅伸に対し、二万八二一九円
(3) 右同日 小野勇次の遺族らに対し、二一四三万四六〇二円
(4) 右同日 三澤明成の遺族に対し、一七二一万〇一五〇円
(5) 右同日 大藏哲に対し、九万九九一九円
(6) 右同日 浅井俊久に対し、一万一六五八円
(7) 右同日 小出和弘に対し、三万二二四一円
5 原告は、この給付の結果、自賠法七六条一項に基づき、この給付額を限度として、右各被害者またはその遺族らが被告に対して有する損害賠償請求権を取得した。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は争う。本件事故は不可抗力により発生したものである。
3 同3の事実は知らない。
4 同4の事実のうち、原告が、被害者またはその遺族らの請求により、これらの者に対して、同4(1)ないし(7)のとおり損害をてん補したことは認める。その余の事実は争う。
5 同5の事実は争う。加害車両を所有していた牧武史は、自賠法三条の運行供用者であり、自賠法所定の責任保険の被保険者であったのであるから、原告は、被害者またはその遺族らに対して損害のてん補をすべきではない。したがって、被害者またはその遺族らが有する損害賠償請求権を取得しない(被告の主張は必ずしも明らかではないが、右のとおり理解することができる。)。
第三証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因一の事実は当事者間に争いがない。
二 責任原因について
1 被告は、平成三年一二月ころ、中学生時代の先輩である牧武史から、同人が所有していた加害車両を借り、本件事故発生当時もこれを運転していた(甲二八)。
したがって、被告は、本件事故当時、加害車両に対する直接的な支配を及ぼしていたというべきであり、自賠法三条本文の運行供用者にあたるということができる。
2 被告は、本件事故は不可抗力により発生したものであると主張するが、それを基礎づける事情について主張もしないし、本件全証拠によっても、本件事故が不可抗力によって発生したとは認めるに足りない。
三 損害について
1 近藤友康の損害(遺族固有の損害を含む)
(一) 証拠(甲三〇の1・2、三一、三二、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
近藤友康の相続人である近藤俊信及び近藤つやは、近藤友康から相続した被告に対する損害賠償請求権及び相続人ら固有の損害賠償請求権の履行を求め、被告に対し、本件事故に基づく損害賠償請求訴訟を静岡地方裁判所沼津支部に提起した。その結果、葬儀費として一〇〇万円、逸失利益として四〇三五万七四七八円、慰謝料として二〇〇〇万円(近藤友康からの相続分も含む趣旨と理解することができる。)及び弁護士費用として四〇〇万円の総額六五三五万七四七八円(いずれも相続人らの合計)を認める旨の判決がなされ、その控訴審である東京高等裁判所においてもそれは維持されて判決は確定した。
この認定事実によれば、近藤友康の損害(遺族固有の損害を含む)は、原告が主張する二九四七万八六七六円を下らないことは明らかである。
(二) 仮に、右判決が確定していないとしても、争いのない事実及び証拠(甲一〇の1~3)によれば、死体検案料等、葬儀費及び慰謝料については、少なくとも請求原因3(一)(1)、(2)及び(4)の金額(死体検案料等二万八六七六円、葬儀費二五万円、慰謝料八五〇万円)を下らないものと認めることができる。
また、証拠(甲三、一〇の1・5・6)によれば、近藤友康は死亡当時三二歳で三島農業協同組合に勤務し、平成三年には年間四〇五万二五六六円の収入を得ていたこと、近藤友康には被扶養者はいなかったことが認められる。
この認定事実によれば、近藤友康は、本件事故に遭わなければ六七歳まで少なくとも年間四〇五万二五六六円を下らない収入を得ることができたということができる。そして、その間の生活費として五〇パーセントを控除するのが相当であるから、ライプニッツ方式(係数一六・三七四)により年五分の割合による中間利息を控除し、近藤友康の死亡当時における逸失利益の現価を算出すると、三三一七万八三五七円(一円未満切捨)となる。
4,052,566×(1-0.5)×16.374=33,178,357
したがって、いずれにしても、近藤友康の損害(遺族固有の分を含む)は、少なくとも原告主張の下限である二九四七万八六七六円を上回るものと認めることができる。
2 柳川雅伸の損害
(1) 証拠(甲四の1・2、一一の1~5)によれば、治療費、文書料、雑費、休業損害及び慰謝料はいずれも、少なくとも請求原因3(二)(1)ないし(5)の各金額(治療費五万九一四四円、文書料一万〇九五〇円、雑費三五〇〇円、休業損害四万三〇〇〇円、慰謝料四万〇七〇〇円)を下らないものと認めることができる。
(2) 証拠(甲一、二八)によれば、次の事実が認められる。
被告は、本件事故の前日である平成四年一月一〇日午後九時ころから、中学生のころからの遊び仲間であった小野勇次及び三澤明成と東京都町田市内の居酒屋で飲酒し、被告だけでビール三本ほど飲酒した。その後、被告は、小野勇次と三澤明成を同乗させて加害車両を運転し、途中、中学の後輩や知人である柳川雅伸、大藏哲、浅井俊久、横山英介及び小出和弘と出会ってこれらの者らも加害車両に同乗させた。その後、被告は、同乗者の一部に反対されたにもかかわらず、被告は、右の者らを同乗させて山中湖方面へドライブへ出かけ、道に迷ったりしながら本件事故現場にさしかかり、本件事故を発生させた。この間、途中、缶ビールを飲んだこともあった。
この認定事実によれば、柳川雅伸ら同乗者は、被告が飲酒していることを認識しながらそのまま遠距離を長時間ドライブしていたものということができ、被告に飲酒や運転を止めるように促したりしていないようであるから、柳川雅伸ら同乗者にも、本件事故発生について帰責事由があったというべきである。そして、認定した事情を総合すれば、好意同乗として柳川雅伸ら同乗者の損害から三〇パーセントを減額するのが相当である。
そうすると、柳川雅伸の損害は、右(1)のとおり原告主張のとおり一五万七二九四円を下らないものとなり、この金額から好意同乗として三〇パーセントを減額したとしても、柳川雅伸の損害は、少なくとも原告主張の下限である二万八二一九円を上回ることになる。
3 小野勇次の損害(妻子及び父固有の損害を含む)
(1) 証拠(甲一二の1~4)によれば、葬儀費及び慰謝料は、いずれも、少なくとも請求原因3(三)(1)ア・ウ、同(2)イ、同(3)アの各金額(葬儀費六四万九四〇〇円、妻小野朋子の慰謝料(小野勇次の相続分と固有の分)三八七万五〇〇〇円、子小野弥玲の慰謝料(小野勇次の相続分と固有の分)三八七万五〇〇〇円、父固有の慰謝料一六二万五〇〇〇円)を下らないものと認めることができる。
(2) 証拠(甲五の2、一二の5・6)によれば、小野勇次は死亡当時二〇歳で有限会社柳産業に勤務し、本件事故直前の平成三年一二月には月額三三万〇六四〇円、平成三年中には年間六一万六〇〇〇円の収入を得ていたこと、妻子がいたことが認められる。
この認定事実によれば、小野勇次の学歴及び職歴は定かでないが、本件事故に遭わなければ、控えめにみても、六七歳まで平均して少なくとも平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・中学卒男子労働者の全年齢平均である年間五〇一万四三〇〇円の六割である三〇〇万八五八〇円を下らない収入を得ることができたということができる。そして、その間の生活費とし三〇パーセントを控除するのが相当であるから、ライプニッツ方式(係数一七・九八一)により年五分の割合による中間利息を控除し、小野勇次の死亡当時における逸失利益の現価を算出すると、三七八六万八〇九三円(一円未満切捨)となる。
3,008,580×(1-0.3)×17.981=37,868,093
したがって、小野朋子及び小野弥玲が相続した小野勇次の逸失利益は、原告が主張する三二九九万五四〇四円(小野朋子ら各一六四九万七七〇二円)を上回ることになる。
(3) 以上によれば、小野勇次の損害合計額(小野朋子、小野弥玲及び小野正義固有の分を含む)は、四七八九万二四九三円を下らないものと認められる。小野勇次も好意同乗としてその損害額から一定の減額をすべきであるが、その割合は三〇パーセントであるから、これを減額したとしても、小野勇次の損害額(小野朋子、小野弥玲及び小野正義固有の分を含む)は、少なくとも原告主張の下限である二一四三万四六〇二円を上回ることになる。
4 三澤明成の損害(遺族固有の分を含む)
(一) 証拠(甲六、一三の1~4)によれば、治療費等、文書料、葬儀費及び慰謝料はいずれも、少なくとも請求原因3(四)(1)ア、イ、同(2)ア、ウの各金額(治療費等三万五六一九円、文書料三六〇〇円、葬儀費六五万円、慰謝料八五〇万円)を下らないものと認めることができる。
(二) 証拠(甲六、一三の1・5)によれば、三澤明成は死亡当時二〇歳で有限会社城成建設に勤務していたこと、被扶養者はいなかったことが認められる。
この認定事実によれば、三澤の死亡当時の収入、職歴及び学歴は定かでないが、本件事故に遭わなければ、控えめにみても、六七歳まで平均して少なくとも平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・中学卒男子労働者の全年齢平均である年間五〇一万四三〇〇円の六割である三〇〇万八五八〇円を下らない収入を得ることができたということができる。そして、その間の生活費として五〇パーセントを控除するのが相当であるから、ライプニッツ方式(係数一七・九八一)により年五分の割合による中間利息を控除し、三澤明成の死亡当時における逸失利益の現価を算出すると、二七〇四万八六三八円(一円未満切捨)となる。
3,008,580×(1-0.5)×17.981=27,048,638
したがって、三澤明成の逸失利益は原告主張の二五三八万一〇八〇円を上回ることになる。
(三) 以上によれば、三澤明成の損害合計額(遺族固有の分を含む)は少なくとも三六二三万七八五七円を下らないものと認められる。三澤明成も好意同乗としてその損害額から一定の減額をするのが相当であるが、その割合は三〇パーセントであるから、これを減額したとしても、三澤明成の損害額(遺族固有の分を含む)は、少なくとも原告主張の下限である一七一九万〇五四〇円を上回ることになる。
5 大藏哲の損害
(一) 証拠(甲七の1・2、一四の1~7)によれば、治療費、文書料、雑費、通院費、休業損害及び慰謝料はいずれも、少なくとも請求原因3(五)(1)ないし(6)の各金額(治療費五万九五五九円、文書料一万〇三五〇円、雑費二一〇〇円、通院費六二〇〇円、休業損害一二万七三〇〇円、慰謝料七万〇三〇〇円)を下らないものと認めることができる。
(二) これによれば、大藏哲の損害合計額は二七万五八〇九円を下らないことになる。大藏哲も好意同乗としてその損害額から一定の減額をするのが相当であるが、その割合は三〇パーセントであるから、これを減額したとしても、大藏哲の損害額は、少なくとも原告主張の下限である九万九九一九円を上回ることになる。
6 浅井俊久の損害
(一) 証拠(甲八、一五の1~5)によれば、治療費、文書料、通院費、休業損害及び慰謝料はいずれも、少なくとも請求原因3(六)(1)ないし(5)の各金額(治療費九二四三円、文書料五三五〇円、通院費三一〇〇円、休業損害六九〇〇円、慰謝料三七〇〇円)を下らないものと認めることができる。
(二) これによれば、浅井俊久の損害合計額は二万八二九三円を下らないことになる。浅井俊久も好意同乗として一定の減額をするのが相当であるが、その割合は三〇パーセントであるから、これを減額したとしても、浅井俊久の損害額は、少なくとも原告主張の下限である一万一六五八円を上回ることになる。
7 小出和弘の損害
(一) 証拠(甲九の1・2、一六の1~6)によれば、治療費、文書料、雑費、休業損害及び慰謝料はいずれも、少なくとも請求原因3(七)(1)ないし(5)の各金額(治療費六万〇五六五円、文書料一万〇三五〇円、雑費三五〇〇円、休業損害六万四八六二円、慰謝料二万五九〇〇円)を下らないものと認めることができる。
(二) 以上によれば、小出和弘の損害合計額は一六万五一七七円を下らないものと認められる。小出和弘も好意同乗として一定の減額するのが相当であるが、その割合は三〇パーセントであるから、これを減額したとしても、小出和弘の損害額は、少なくとも原告主張の下限である三万二二四一円を上回ることになる。
四 原告による損害のてん補及び損害賠償請求権の取得について
1 被告が、本件事故の被害者またはその遺族らの請求により、これらの者に対し、請求原因4(1)ないし(7)のとおり損害のてん補金を給付したことは当事者間に争いがない。
2 被告は、加害車両の所有者ではなく、自賠法所定の責任保険や責任共済に加入していないのであるから、自賠法七二条一項後段の責任保険の被保険者及び責任共済者以外の者にあたる。したがって、原告は、被害者またはその遺族らに支払った六八二九万五四六五円の限度で、それらの者が有していた被告に対する損害賠償請求権を取得した。
被告は、趣旨は必ずしも明確ではないものの、加害車両を所有していた牧武史が運行供用者で責任保険の被保険者に該当するから、原告は、被害者またはその遺族らに損害のてん補をすべきではなく、したがって、被害者またはその遺族らが被告に対して有する損害賠償請求権を取得しないかのように主張する。
しかしながら、すでに検討したように、原告の損害のてん補は、自賠法七二条一項後段の要件を充足した上でなされたものであるから、同法七六条一項により、右損害賠償請求権を取得するのは明らかであり、それは、牧武史が運行供用者に該当するか否かによっても影響されないというべきである。
したがって、被告の主張は理由がない。
五 以上のとおりであるから、原告の請求は理由がある。
(裁判官 山崎秀尚)