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東京地方裁判所 平成9年(ワ)27788号 判決 1998年6月12日

原告 X

右訴訟代理人弁護士 酒井正利

被告 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 濱田広道

主文

一  被告は原告に対し、金一九一万〇六九五円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は各自の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告は原告に対し、金八三四万一九四四円及びこれに対する平成九年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  請求原因

別紙「請求の原因」記載のとおり

二  請求原因に対する認否

1  請求原因一及び二記載の事実は認める。

2  同三のうち、1の事実は認める。2のうち、BがC(以下「C」という)の相続人であり、その法定相続分が六分の一であることは知らない。Cの死亡の事実は認める。同人が死亡の時点で五〇〇五万一六六五円の預金債権を有していたとの事実は否認する。被告が本件差押命令の送達を受けた時である平成九年一一月二七日午前一〇時三五分現在のC名義の預金残高は、一一四六万四一七三円である。被告は、Cの遺言の不存在の事実及び同人の相続人及び相続分が明らかになった場合には、右預金残高のうち、Bの相続分について支払をする考えである。

三  被告の主張

1  被告が平成九年九月一七日に発行したC名義の預金についての同年四月八日現在の残高証明書によれば、Cが死亡した同日現在の同人の被告銀行における預金残高は五〇〇五万一六六五円であるとされているが、右残高証明書は、事務手続の過誤により、誤った金額の記載となっている。平成九年四月八日現在の正しい預金残高は、後記2の払戻し等により、三一〇四万三九九〇円となっている。

2  平成九年四月八日、C名義の貯蓄預金口座から三〇〇〇万円が引き出され、これが普通預金口座に入金されている。また、同日、同人名義の貯蓄預金口座から二〇〇〇万円が引き出され、預金小切手に振り替えられている。この手続をしたのはDであり、被告は、預金通帳と届出印の確認により支払をしているから、この時点でCが死亡していたとしても、被告は、同月一〇日以後に同人死亡の事実を知ったのであり、右払渡しは、債権の準占有者への弁済として有効である。

3  平成九年四月一八日、C名義の普通預金口座から所得税一九五九万二八〇〇円が引き落とされている。被告は、この時点ではCの死亡を認識していたが、右自動振替の委任契約は、平成九年三月一七日にCが平塚税務署経由で口座振替依頼書を提出し、同月二六日に被告が口座確認を行った時点で成立している。右委託契約は、指定の日に口座振替を行うというものであり、右委託契約に基づく税金の引き落としは、同人の死亡後であっても有効である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張1の事実は知らない。

2  同2の事実は否認する。原告は、DがCに代わって銀行に赴くことはなかったものと聞き及んでいる。しかも、平成九年四月八日の払戻金額は五〇〇〇万円と多額であり、被告はCからの要請があったことの確認もしていないのであるから、被告には弁済における過失がある。

3  同3の主張は争う。被告主張の委任契約は、Cの死亡により終了しており、被告は、平成九年四月一〇日には右死亡の事実を認識している。

第三当裁判所の判断

一  弁論の全趣旨によれば、Cの死亡の日である平成九年四月八日現在の同人名義の被告銀行の預金残高は、同日に行われた二〇〇〇万円の預金小切手への振替を考慮に入れない場合には、五一〇四万三九九〇円であると認められる。

乙第一号証の二、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、平成九年四月八日に行われた右二〇〇〇万円の預金小切手への振替のための貯蓄預金口座からの払戻請求を受けた際に、被告は、預金通帳と届出印の確認により支払をしていることが認められる。したがって、被告の右払渡しは、債権の準占有者への弁済として有効である。

二  <証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、Cは、平成九年三月一七日、平塚税務署経由で被告に対して口座振替依頼書を提出し、同月二六日に被告が口座確認を行ったことにより、Cと被告の間に、税金の支払に関する自動振替の委任契約が成立し、この契約に基づき、平成九年四月一八日、C名義の普通預金口座から所得税一九五九万二八〇〇円が引き落とされたことが認められる。右引落としは、委任者であるCの死亡後に行われたものであるが、委任者と銀行との間の自動振替の委任契約に基づく裁量の余地のない実行行為であるから、委任者の死亡後は引落としをしない旨の特約があるなどの特別の事情のない限り、委任者の死亡後にも事務管理として行い得る行為であり、右特別の事情の認められない本件においては、右引落としは有効なものであるといえる。

三  右一及び二の認定判断及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件差押命令の送達を受けた時である平成九年一一月二七日午前一〇時三五分現在のC名義の預金残高は、一一四六万四一七三円であるものと認められる。

そして、甲第五号証及び弁論の全趣旨によれば、Cの遺産についてのBの相続分は六分の一であると認められるから、被告は原告に対し、右一一四六万四一七三円の六分の一である一九一万〇六九五円を支払う義務がある。

なお、被告の右金員支払義務は、Cの相続人及び相続分が被告に対して明らかにされた場合に遅滞に陥るものであるから、原告の付帯請求は理由がない(原告がこの判決後右金員の支払を請求したにもかかわらず被告が相当期間内に支払をしない場合には遅滞に陥る)。

四  よって、原告の請求は、主文第一項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 園尾隆司)

<以下省略>

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