大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)28196号 判決 1998年11月30日

東京都品川区東品川二丁目四番一一号

原告

日本航空株式会社

右代表者代表取締役

近藤晃

右訴訟代理人弁護士

畠山保雄

松本伸也

松井秀樹

大庭浩一郎

埼玉県大里郡岡部町大字本郷二二四三番地

被告

ジャル合資会社

右代表者代表社員

内田浩

主文

一  被告は、埼玉県深谷市上柴町東五丁目五番二〇号所在の店舗の営業活動及び営業施設について、「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示を使用してはならない。

二  被告は、浦和地方法務局深谷出張所平成八年二月一五日受付をもってした被告の設立登記のうち、「ジャル合資会社」の商号の抹消登記手続をせよ。

三  被告は、電話帳広告における「JAL保険」の表示並びに第一項記載の店舗に設置している看板、営業用車両、右店舗近くに設置している宣伝用立て看板及び電話帳広告における「ジャル」の各表示をそれぞれ抹消せよ。

四  被告は、原告に対し、金五五万二一五二円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

七  この判決の第一項、第三項及び第四項は、仮に執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一  主文第一項と同旨

二  主文第二項と同旨

三  被告は、その所有に係る営業用車両、看板、案内板、広告、チラシ、パンフレットその他一切の営業用物件から、別紙被告標章目録(一)ないし(三)記載の各標章並びに「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示を抹消せよ。

四  被告は、原告に対し、金一四〇万五〇一九円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  不正競争防止法二条一項二号に基づく請求

(一) 原告の著名な営業表示

(1) 原告は、昭和二六年に創立された「定期航空運送事業及び不定期航空運送事業、航空機整備事業並びにこれに付帯又は関連する事業」を業とする株式会社であり、その事業規模は、今日では売上高で年間一兆円を超え、また、国内はもとより世界各地に支店・営業所を設けて営業活動を行っている。

(2) 原告は、その創立当初から、社名の英語表示の略称である「JAL」をその営業表示として使用しているところ、右「JAL」の表示は、原告の営業表示として全国的に著名である。

(二) 被告の不正競争行為

(1) 被告は、平成八年二月一五日、「ジャル合資会社」の商号により設立登記がなされた合資会社であり、埼玉県深谷市上柴町東五丁目五番二〇号所在の店舗(以下「被告店舗」という。)において、保険代理業を行っている。

(2) 被告は、自己の保険代理業に関する営業表示として、次のとおり、「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに別紙被告標章目録(一)ないし(三)記載の各標章(以下「被告標章(一)ないし(三)」という。)を使用している。

<1> 被告店舗に設置している看板に、被告標章(一)及び「ジャル」の表示を付している。

<2> 営業用車両に、被告標章(二)及び「ジャル」の表示を付している。

<3> 被告店舗の近くに設置している立て看板に、被告標章(三)及び「ジャル」の表示を付している。

<4> 広告チラシに「JAL(ジャル)保険」の表示を付している。

<5> 日本電信電話株式会社発行の電話帳に掲載した広告に、「JAL保険」及び「ジャル」の表示を付している。

<6> 「ジャル合資会社」の商号で設立登記をし、右商号を使用している。

(3) 被告がその営業表示として使用する「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに被告標章(一)ないし(三)の各標章はいずれも、原告の著名な営業表示である「JAL」と明らかに類似する。

(4) したがって、被告の前記(2)記載の行為は、不正競争防止法二条一項二号の不正競争に当たる。

(三) 差止請求及び侵害の停止又は予防に必要な行為の請求

被告の右不正競争により、原告の営業表示の標識力がただ乗り、希釈化され、ひいては原告が長年の営業上の努力により培ってきた高い信用・名声・評判が害されることになり、原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある。

よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法三条一項、二条一項二号に基づき、「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示の使用差止めを、不正競争防止法三条二項、二条一項二号に基づき、「ジャル合資会社」の商号の抹消登記手続並びに営業用物件からの被告標章(一)ないし(三)並びに「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示の抹消を求める。

(四) 損害賠償請求

(1) 被告は、故意又は過失により、前記不正競争を行うことによって、原告の営業上の利益を侵害しているから、右侵害によって原告が受けた損害を賠償する義務がある。

(2) 被告の保険手数料の売上高は、平成八年四月一日から同九年三月三一日までの事業年度が二〇一二万一二八九円、平成九年四月一日から同一〇年三月三一日までの事業年度が七九七万九一一〇円であるから、平成八年三月一三日から同一〇年三月三一日までの被告の保険手数料の売上高は、二八一〇万〇三九九円を下回らない。

(3) 原告の「JAL」の営業表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額は、被告の保険手数料の売上高の五パーセントが相当であるから、被告の平成八年三月一三日から同一〇年三月三一日までの間の前記不正競争によって原告が受けた損害の額は、不正競争防止法五条二項一号により、一四〇万五〇一九円である。

(4) よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法四条、二条一項二号に基づく損害賠償として、一四〇万五〇一九円及びこれに対する不正競争行為の後である平成一〇年四月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  商標権に基づく請求

(一) 原告の商標権

原告は、次の(1)ないし(3)記載の商標権(以下「原告商標権(1)ないし(3)」といい、それぞれの商標権に係る登録商標を「原告商標(1)ないし(3)」という。)を有している。

(1) 登録番号 第三二六七四一〇号

登録商標 別紙登録商標目録(一)記載のとおり

指定役務の区分 第三六類

指定役務 生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理など

出願年月日 平成四年九月二五日(商願平四-二二五六三四号)

出願公告年月日 平成八年六月二〇日(商公平八-七一五六二号)

登録年月日 平成九年三月一二日

(2) 登録番号 第三二六七四〇九号

登録商標 別紙登録商標目録(二)記載のとおり

指定役務の区分 第三六類

指定役務 生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理など

出願年月日 平成四年九月二五日(商願平四-二二五六二六号)

出願公告年月日 平成八年六月二〇日(商公平八-七一五六一号)

登録年月日 平成九年三月一二日

(3) 登録番号 第三二六七四〇八号

登録商標 別紙登録商標目録(三)記載のとおり

指定役務の区分 第三六類

指定役務 生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理など

出願年月日 平成四年九月二五日(商願平四-二二五六一八号)

出願公告年月日 平成人年六月二〇日(商公平八-七一五六〇号)

登録年月日 平成九年三月一二日

(二) 被告の商標権侵害行為

(1) 被告は、平成八年二月一五日、「ジャル合資会社」の商号により設立登記がなされた合資会社であり、被告店舗において、保険代理業を行っている。

(2) 被告は、自己の保険代理業に関する営業表示として、次のとおり、「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに被告標章(一)ないし(三)を使用している。

<1> 被告店舗に設置している看板に、被告標章(一)及び「ジャル」の表示を付している。

<2> 営業用車両に、被告標章(二)及び「ジャル」の表示を付している。

<3> 被告店舗の近くに設置している立て看板に、被告標章(三)及び「ジャル」の表示を付している。

<4> 広告チラシに「JAL(ジャル)保険」の表示を付している。

<5> 日本電信電話株式会社発行の電話帳に掲載した広告に、「JAL保険」及び「ジャル」の表示を付している。

<6> 「ジャル合資会社」の商号で設立登記をし、右商号を使用している。

(3) 被告が行う保険代理業は、原告商標権(1)ないし(3)の各指定役務である「生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理」に含まれる。

(4) 被告がその営業表示として使用する「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに被告標章(一)ないし(三)の各標章は、いずれも原告商標(1)ないし(3)と明らかに類似する。

(5) したがって、被告の前記(2)記載の行為は、原告商標権(1)ないし(3)を侵害する。

(三) 差止請求及び侵害の予防に必要な行為の請求

原告は、被告に対し、商標法三六条一項に基づき、「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示の使用差止めを、商標法三六条二項に基づき、「ジャル合資会社」の商号の抹消登記手続並びに営業用物件からの被告標章(一)ないし(三)、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示の抹消を求める。

(四) 損害賠償請求

(1) 被告は、故意又は過失により、原告商標権(1)ないし(3)を侵害しているから、右侵害によって原告が受けた損害を賠償する義務がある。

(2) 被告の平成九年四月一日から同一〇年三月三一日までの事業年度における保険手数料の売上高は、七九七万九一一〇円であるから、原告商標権(1)ないし(3)の登録日の翌日である平成九年三月一三日から同一〇年三月三一日までの被告の保険手数料の売上高は、七九七万九一一〇円を下回らない。

(3) 原告商標(1)ないし(3)の使用に対し通常受けるべき金銭の額は、被告の保険手数料の売上高の五パーセントが相当であるから、被告の平成九年三月一三日から同一〇年三月三一日までの間の前記商標権侵害によって原告が受けた損害の額は、商標法三八条二項により、三九万八九五五円である。

(4) よって、原告は、被告に対し、商標権侵害に基づく損害賠償として、三九万八九五五円及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年四月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

3  まとめ

よって、原告は、被告に対し、以下のとおりの請求をする。

(一) 不正競争防止法三条一項、二条一項二号又は商標法三六条一項(選択的併合)に基づく、「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示の使用差止請求

(二) 不正競争防止法三条二項、二条一項二号又は商標法三六条二項(選択的併合)に基づく、「ジャル合資会社」の商号の抹消登記手続並びに営業用物件からの被告標章(一)ないし(三)、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示の抹消の請求

(三)(1) 主位的に、不正競争防止法四条、二条一項二号に基づく損害賠償として、一四〇万五〇一九円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求

(2) 予備的に、商標権侵害に基づく損害賠償として、三九万八九五五円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1(一)(1) 請求原因1(一)(1)の事実は不知

(2) 同1(一)(2)の事実は認める。

(二)(1) 同1(二)(1)の事実は認める。

(2) 同1(二)(2)の事実について

<1>  <1>の事実のうち、被告が、被告店舗に設置している看板に、「ジャル」の表示を付していることは認め、その余は否認する。

<2>  <2>の事実のうち、被告が、営業用車両に、「ジャル」の表示を付していること及び平成一〇年一月二七日まで被告標章(二)を付していたことは認め、その余は否認する。

<3>  <3>の事実のうち、被告が、被告店舗の近くに設置している立て看板に、「ジャル」の表示を付していること及び平成一〇年一月二七日まで被告標章(三)を付していたことは認め、その余は否認する。

<4>  <4>の事実のうち、被告が、広告チラシに、平成一〇年一月二七日まで「JAL(ジャル)保険」の表示を付していたことは認め、その余は否認する。

<5>  <5>及び<6>の事実は認める。

(3) 同1(二)(3)及び(4)争う。

(三) 同1(三)は争う。

(四) 同1(四)は争う。

被告の平成八年四月一日から同九年三月三一日までの保険手数料収入は、保険料収入二〇一二万一二八九円から支払保険料一七〇五万七三四一円を差し引いた三〇六万三九四八円である。

また、被告が平成八年四月一日から平成九年一二月一二日までの間に、「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに被告標章(一)ないし(三)を使用することによって得た保険手数料収入は、被告が会社組織になって右商号等を使用して営業していた際の保険手数料収入から、被告が会社組織になる以前に個人で右商号等使用せずに営業していた際の保険手数料収入を差し引いた差額である六七万六〇五八円である。

2(一) 請求原因2(一)の事実は認める。

(二)(1) 同2(二)(1)及び(2)の事実に対する認否は、前記1(二)(1)及び(2)と同じ

(2) 同2(二)(3)の事実は認める。

(3) 同2(二)(4)及び(5)は争う。

(三) 同2(三)は争う。

(四) 同2(四)は争う。

被告が平成八年四月一日から平成九年一二月一二日までの間に、「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに被告標章(一)ないし(三)を使用することによって得た保険手数料収入は、被告が会社組織になって右商号等を使用して営業していた際の保険手数料収入から、被告が会社組織になる以前に個人で右商号等を使用せずに営業していた際の保険手数料収入を差し引いた差額である六七万六〇五八円である。

理由

第一  請求原因1(不正競争防止法二条一項二号に基づく請求)について

一  請求原因1(一)(原告の著名な営業表示)について

1  甲第一六号証、第一七号証の一及び二、第一八号証の一ないし四、第一九号証の一ないし三一並びに弁論の全趣旨によると、請求原因1(一)(1)の事実が認められる。

2  請求原因1(一)(2)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因1(二)(被告の不正競争行為)について

1  請求原因1(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因1(二)(2)について

(一) 被告が、「ジャル合資会社」の商号を登記し、使用していることは当事者間に争いがない。

(二) 被告が、「JAL保険」の表示を電話帳の広告に表示して使用していること及び「JAL(ジャル)保険」の表示を平成一〇年一月二七日まで広告チラシに表示して使用していたことは当事者間に争いがない。

被告が、平成一〇年一月二八日以降において、「JAL(ジャル)保険」の表示を広告チラシに表示して使用していることは、これを認めるに足りる証拠がない。

(三) 被告が、「ジャル」の表示を、被告店舗に設置している看板、営業用車両、被告店舗近くに設置している宣伝用の立て看板及び電話帳の広告に表示して使用していることは当事者間に争いがない。

(四) 甲第一〇号証及び第一三号証によれば、被告は、被告標章(一)を、被告店舗に設置されていた看板に表示して使用していたが、遅くとも平成一〇年四月九日以降は、被告標章(一)を右看板に表示していないことが認められる。

(五) 被告が、被告標章(二)を平成一〇年一月二七日まで営業用車両に表示して使用していたこと及び被告標章(三)を平成一〇年一月二七日まで被告店舗近くに設置している宣伝用立て看板に表示して使用していたことは当事者間に争いがない。

被告が、平成一〇年一月二八日以降において、被告標章(二)を営業用車両に表示して使用していること及び被告標章(三)を被告店舗近くに設置している宣伝用立て看板に表示して使用していることは、これを認めるに足りる証拠がない。

(六) 以上によると、被告は自己の保険代理業に関する営業表示として、「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」及び「ジャル」の表示を使用していること、「JAL(ジャル)保険」の表示及び被告標章(一)ないし(三)を使用していたことが認められる。

3  請求原因1(二)(3)について

「ジャル合資会社」の商号、「JAL保険」、「ジャル保険」及び「ジャル」の各表示並びに被告標章(一)ないし(三)の各標章が、いずれも原告の著名な営業表示である「JAL」と類似することは明らかである。

4  したがって、前記2で認定した被告の行為は、不正競争防止法二条一項二号の不正競争に当たる。

三  差止請求(請求の趣旨第1項)について

1  前記二で認定したとおり、被告は、原告の著名な営業表示である「JAL」と類似する「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」及び「ジャル」の各表示を現に自己の営業表示として使用しており、この行為によって、原告は、自己の営業表示である「JAL」について、右営業表示と原告との結び付きが薄められるなどの営業上の利益の侵害を受けているものと認められるから、原告は、被告に対して、不正競争防止法三条一項、二条一項二号に基づいて、「ジャル合資会社」の商号並びに「JAL保険」及び「ジャル」の各表示の使用差止めを求めることができるというべきである。

2  前記二で認定した事実に照らすと、被告は、原告の著名な営業表示である「JAL」と類似する「ジャル保険」の表示を自己の営業表示として使用するおそれがあるということができ、被告によってその行為がされると、原告の営業上の利益が侵害されるものと認められるから、原告は、被告に対して、不正競争防止法三条一項、二条一項二号に基づいて、「ジャル保険」の表示の使用差止めを求めることができるというべきである。

四  侵害の停止又は予防に必要な行為の請求について

1  請求の趣旨第2項について

被告に対する「ジャル合資会社」の商号の使用差止請求を実効あらしめるためには、被告の設立登記中、右商号の抹消登記をすることが必要というべきであるから、被告に対し、不正競争防止法三条二項、二条一項二号に基づいて、「ジャル合資会社」の商号の抹消登記手続を求める原告の請求は理由がある。

2  請求の趣旨第3項について

(一) 前記二で認定したとおり、被告は、「JAL保険」の表示を電話帳広告に表示し、「ジャル」の表示を、被告店舗に設置している看板、営業用車両、被告店舗近くに設置している宣伝用立て看板及び電話帳広告に表示しているところ、被告に対する右各表示の使用差止請求を実効あらしめるためには、右各物件における右各表示を抹消することが必要というべきである。

(二) 他方、右(一)のほかには、被告が請求の趣旨第3項記載の標章及び表示を同項記載の物件に現に表示して使用していることを認めることはできない。

(三) したがって、原告の不正競争防止法三条二項、二条一項二号に基づく請求の趣旨第3項の請求のうち、電話帳広告における「JAL保険」の表示並びに被告店舗に設置している看板、営業用車両、被告店舗近くに設置している宣伝用立て看板及び電話帳広告における「ジャル」の各表示の抹消を求める部分は理由があるが、その余の請求は理由がない(なお、その余の請求に理由がないことは、商標法三六条二項に基づく請求についても同様である。)。

五  損害賠償請求

(一)  被告は、前記二記載の不正競争を行うことによって、原告の営業上の利益を侵害しているところ、原告の営業表示である「JAL」が全国的に著名であることに照らすと、被告には、右不正競争を行うにつき、故意又は過失があったものと認められるから、被告は右侵害によって原告が受けた損害を賠償する義務がある。

(二)  被告の侵害に係る原告の営業表示「JAL」の使用に対して原告が通常受けるべき金銭の額については、右「JAL」が全国的に著名であること、被告の不正競争行為の態様その他本件に現われた一切の事情を考慮すると、被告が前記二記載の不正競争を行っている間に得た後記保険手数料収入の五パーセントに当たる金額が相当というべきである。

(三)  弁論の全趣旨によると、被告は、その営業を開始して以来、前記二記載の不正競争を行って保険代理業を行っていることが認められるところ、平成八年四月一日から同一〇年三月三一日までの間に、以下のとおりの保険手数料収入を得たことが認められる。

(1) 平成八年四月一日から同九年三月三一日まで

甲第二〇号証の一及び弁論の全趣旨によると、被告は、平成八年四月一日から同九年三月三一日までの間において、顧客から合計二〇一二万一二八九円の保険料を徴収し、そのうち合計一七〇五万七三四一円を保険会社に支払ったことが認められるから、右期間に被告が得た保険手数料収入は、右徴収保険料から支払保険料を差し引いた差額である三〇六万三九四八円であるというべきである。

この点について、原告は、右期間における被告の保険手数料の売上高は、甲第二〇号証の一の損益計算書において、保険料収入として記載されている二〇一二万一二八九円である旨主張するが、甲第二〇号証の一の損益計算書と甲第二〇号証の二の損益計算書とを対比すれば、甲第二〇号証の一の損益計算書における保険料収入の記載金額が、保険会社に支払う保険料を差し引く前の顧客から徴収した保険料の全額であることは明らかであるから、右期間における被告の保険手数料収入は、前記のとおりであると認められ、原告の右主張は採用できない。

(2) 平成九年四月一日から同一〇年三月三一日まで

甲第二〇号証の二によると、被告が平成九年四月一日から同一〇年三月三一日までの間に得た保険手数料収入は、七九七万九一一〇円であることが認められる。

(四)  以上によると、被告の前記不正競争によって原告が受けた損害の額は、不正競争防止法五条二項一号により、五五万二一五二円である。

なお、被告は、被告が得た保険手数料収入のうち、前記不正競争によって得た保険手数料収入は、被告が会社組織になって前記不正競争を行うようになってから得た保険手数料収入から、会社組織にする以前に個人で前記不正競争を行うことなく営業をしていた当時に得ていた保険手数料収入を差し引いた金額となるはずであるから、使用料相当額の損害の算定においても、右金額を基準とすべきである旨主張するが、前記認定の被告の不正競争の態様に照らすと、被告が右不正競争を行っていた期間に得た保険手数料収入は、すべて右不正競争と関係がないとはいえないから、右保険手数料収入全額を使用料相当額算定の基準とするのが相当であって、被告の右主張は採用できない。

(五)  よって、原告の不正競争防止法四条、二条一項二号に基づく損害賠償の請求は、五五万二一五二円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

第二  結論

よって、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、主文第一項ないし第四項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 大西勝滋)

被告標章目録

<省略>

登録商標目録

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例