東京地方裁判所 平成9年(ワ)3958号 判決 1999年2月26日
原告
A
右訴訟代理人弁護士
阿部哲二
(他八名)
被告
成和化成株式会社
右代表者代表取締役
島靖高
右訴訟代理人弁護士
小松初男
同
中所克博
同
古里健治
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、三六〇〇万円及び平成九年三月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告会社が原告の夫を被保険者とし、被告会社を受取人として締結した保険契約に基づき、保険会社から夫についての死亡保険金を受領したものにつき、原告が、夫と被告との間で死亡保険金と同額の弔慰金を原告に支払う旨の黙示の弔慰金契約が締結されていた等と主張して、被告に対し、右同額の金員の支払等を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 被告は、各種医薬品・化学製品の研究開発、研究資料の提供及び特許権の譲渡並びに各種医薬品・化学工業薬品・食品添加物等の製造加工及び原材料の販売等を目的として、昭和四七年三月一〇日設立された株式会社である。
2 平成八年七月一六日病気で死亡した深澤立太郎(以下「立太郎」という)は、原告の夫である。
3 立太郎は、被告会社の設立時から平成八年四月三〇日までその取締役の地位にあり、同日の取締役退任後は死亡時までその非常勤技術顧問の地位にあった。
4 被告会社は、立太郎を被保険者、被告会社を受取人として、(1) 千代田生命保険相互会社(以下「千代田生命」という)との間で、次の<1>の生命保険契約(以下、「本件個人保険契約」という)を、(2) 第一生命保険相互会社(以下「第一生命」という)との間で、次の<2>の団体定期保険契約(以下「本件団体保険契約」という)を締結したが、立太郎の死亡により、それぞれの死亡保険金、合計三六〇〇万円を受領した。なお、本件団体定期保険契約は、保険期間を契約日から一年とするものであるが、立太郎の死亡日を含む保険期間まで、引き続き契約の更新がされていた。
<1> 保険会社 千代田生命
保険の種類 普通終身保険
死亡保険金(特約保険金を含む) 三〇〇〇万円
契約日 平成元年三月一日
<2> 保険会社 第一生命
保険の種類 団体定期保険
死亡保険金 六〇〇万円
契約日 昭和五八年六月一日
5 被告会社には、平成三年二月二七日から実施されている、別紙記載の慶弔見舞金規程(以下「本件慶弔見舞金規程」という)がある。
二 主な争点
1 原告の主張の骨子
(一) 本件慶弔見舞金規程は、被告会社の単なる就業規則ではなく、従業員以外の被告会社の構成員(役員、技術顧問等)にも適用されるべき性格を持つ一般的な社内規定である。よって、本件慶弔見舞金規程は、立太郎に対しても適用がある。
(二) したがって、遅くとも本件慶弔見舞金規程が成立した平成三年三月ころには、立太郎と被告会社との間において、本件慶弔見舞金規程の特則ないし上乗せ規定として、立太郎の病気死亡時には原告に対し合計三六〇〇万円の弔慰金を支払う旨の黙示の弔慰金契約が成立していた。右黙示の弔慰金契約の成立を示す根拠ないし事情は、次のとおりである。
(1) 昭和五六年に被告会社の若手研究者であった伊賀けい子が死亡したが、これをきっかけとして、遺族補償制度を確立すべきとの機運が生まれ、同年の全体会議における被告会社の当時の代表者である島善次(以下「善次」という)の提案に対し、被告会社の構成員が同意する形で、被告会社が構成員を被保険者とする生命保険契約を締結すること及び被告会社が生命保険金を構成員の遺族に弔慰金として支払うことを内容とする黙示の契約が締結された。そして、同年以降、右黙示の契約に基づいて、立太郎を含む被告会社の構成員を被保険者とする生命保険契約が実際に締結された。
(2) 被告会社においては、役員と従業員とを区別せず、会社の構成員として同等に取り扱って、これらの者の経営参加及び福利厚生を図るとの経営理念が古くから確立されていた。他方、被告代表者は、少なくとも、従業員を被保険者とする生命保険契約については、本件慶弔見舞金規程の制定前の段階でも、その趣旨、目的が遺族補償にあったことを認めているのであるから(当法廷における供述)、役員を被保険者とする生命保険契約についても、その趣旨、目的が遺族補償にあったことは明白である。
(3) 立太郎は、生前、昭和五六年ころから、原告を含む家族に対し、自分に万一のことがあれば、被告会社が締結している生命保険契約があるから心配しなくてよい旨の発言を繰り返し行っており、特に平成八年八月には、具体的な保険金額を「一億ぐらい」と明言している。
(4) 善次と立太郎とは、被告会社の設立時からのいわば戦友ともいえる深い友情で結ばれた間柄であり、被告会社の経営者としての善次が、従業員の遺族補償には会社として配慮しながら、役員であった立太郎の遺族には会社として何の配慮もしなかったことなど、到底考えられない。
(5) 本件個人保険契約のような生命保険契約は、いわゆる事業保険として被保険者の遺族補償を中心とする被保険者の利益をその主たる目的として締結されるものであり、会社にとってのメリット(保険料の損金計上、退職金準備、積立配当金の運転資金への活用等)は、被保険者に対する経済的利益の還元を前提とする副次的なものに過ぎない。
また、本件団体保険契約は、被告会社がその契約申込みの趣旨を「弔慰金制度」にあるとしており、保険会社に対する保険金支払請求書においても、被告会社は「契約締結の趣旨に沿って活用します」との文言と共に「遺族への支払(予定)金額」にも「二〇〇万円」と明記しているところであり、その趣旨、目的が遺族補償にあることを示している。
(三) 仮に、黙示の弔慰金契約の成立が認められない場合でも、立太郎は死亡時において被告会社の非常勤技術顧問であったから、一般的社内規定としての本件慶弔見舞金規程六条に基づき、原告は、被告会社に対し、合計二一〇〇万円の弔慰金の支払を求める権利を有する。
(四) 仮に、本件慶弔見舞金規程が従業員のみに適用される場合であっても、遅くとも本件慶弔見舞金規程が成立した平成三年三月ころには、立太郎と被告会社との間において、本件慶弔見舞金規程とは独立の合意として、病気死亡時には合計三六〇〇万円の弔慰金を原告に支払う旨の黙示の弔慰金契約が成立していた。
右独立の黙示の弔慰金契約の成立を示す根拠ないし事情としては、前記(二)の(1)ないし(5)の根拠ないし事情を、ここでも挙げることができるが、このほか、本件慶弔見舞金規程の存在自体をも付け加えることができる。それは、被告会社における「構成員平等」の経営理念からすれば、同様に生命保険契約に加入しているにもかかわらず、従業員の死亡時にのみ弔慰金を支払い、役員、技術顧問等の場合にはこれを支払わないとする取扱いをするのは、全く不自然だからである。なお、右独立の黙示の弔慰金契約においても、本件慶弔見舞金規程六条と同一内容の合意がふくまれていたと解するのが自然である。
(五) 仮に、以上の(二)ないし(四)のいずれも認められないとすれば、本件団体保険契約に関しては、保険金受取人を被告会社に指定した受取人指定行為が公序良俗に反して無効であるから、受取人の指定がされなかったことになり、団体定期保険普通保険約款三五条により、受取人が被保険者の配偶者すなわち原告に指定されたものとみなされるので、原告は六〇〇万円の保険金を取得すべき法的地位に立ち、被告会社は正当な法的権利なくして原告が受け取るべき同額の保険金を保有しているから、原告は被告会社に対して六〇〇万円の不当利得返還請求権を有する。
2 被告の主張の骨子
(一) 本件慶弔見舞金規程は、従業員代表と会社代表との労使協議会を経て、従業員の福利厚生を図る目的のために作成され、遺族の範囲及び支給順位については、労働基準法施行規則を準用する体裁を採っているもので、このような制定経緯及び文言の両面から見ても、就業規則として、その適用対象を従業員である「社員」に限っていることが明らかである。
(二) 立太郎は、被告会社の設立時から被告会社の常務取締役に就任し、その後昭和六〇年専務取締役、昭和六三年取締役副社長に就任しているが、この間、善次の共同経営者として、被告会社の業務執行を遂行する取締役の地位にあったものであって、従業員を兼務する立場にはなかったものである。立太郎は、平成三年九月二一日胃の大部分の摘出手術を受けて後の平成七年七月取締役技術顧問に就任し(降格)、次いで、平成八年四月三〇日取締役を辞任し、同年六月非常勤技術顧問に就任したが、同年七月一六日の死亡時まで被告会社の従業員の地位に就いたことはない。
このように、立太郎は被告会社の従業員であったことはないから、従業員のみを適用対象とする就業規則である本件慶弔見舞金規程の適用を受けることはない。
(三) 以上のとおり、本件慶弔見舞金規程は従業員のみを適用対象とする就業規則であって、立太郎には適用されないから、立太郎への適用を前提とする、「立太郎と被告会社との間において、本件慶弔見舞金規程の特則ないし上乗せ規定として、立太郎の病気死亡時には原告に対し合計三六〇〇万円の弔慰金を支払う旨の黙示の弔慰金契約が成立していた」旨の原告の主張は、右黙示の弔慰金契約なるものの成否を検討するまでもなく、失当である。
(四) また、原告は、「本件慶弔見舞金規程が従業員のみに適用される場合であっても、本件慶弔見舞金規程とは独立の合意として、病気死亡時には合計三六〇〇万円の弔慰金を原告に支払う旨の黙示の弔慰金契約が成立していた」旨主張するが、右黙示の弔慰金契約の存在を裏付けるに足りる事実は存在せず、右主張も失当である。
(五) さらに、原告は、保険金受取人を被告会社に指定した本件団体保険契約の受取人指定行為が公序良俗に反して無効である旨主張するが、従業員を兼務しない取締役として被告会社の共同経営者の地位にある立太郎が死亡すると、被告会社に致命的な損失を与えるものであることから、銀行及び取引先への信用の維持を確保して被告会社が被る損失を最小限にとどめるため、立太郎の承諾を得て右指定を行ったものであり、何ら、公序良俗に反するものではない。
第三当裁判所の判断
一 立太郎の被告会社における地位
前記第二の一の争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、昭和四七年三月一〇日、善次(被告代表者の父)を代表取締役、立太郎を常務取締役として設立されたが、善次と立太郎は、当初から、善次が財務・営業部門の責任者、立太郎が研究開発部門の責任者という役割分担の下における共同経営者として被告会社を運営し、その間に上下の指揮命令関係はなかったこと、立太郎は、昭和六〇年専務取締役に、昭和六三年取締役副社長に就任したが、善次と立太郎のこのような関係は、平成七年七月善次が代表取締役を辞任して現代表者と交替し、同時に立太郎も平成七年七月取締役副社長を辞任して取締役技術顧問に就任し、共に第一線を退くまで変わらなかったこと、その後、立太郎は、平成八年四月三〇日取締役をも辞任して同年六月非常勤技術顧問に就任し、同年七月一六日の死亡時まで右地位にあったが、被告会社が立太郎を取締役技術顧問、さらに非常勤技術顧問という、いずれも報酬の支給を伴う地位に就けたのは、長年にわたり研究開発部門の責任者として被告会社の共同経営に当たってきた立太郎の功績に報いるための処遇という意味があり、この間、立太郎が被告会社における指揮命令の下で従業員としての業務に従事するということはなかったこと、以上の事実が認められる。
以上の事実によれば、立太郎は、被告会社の設立から平成七年七月までは、被告会社のいわゆる業務執行取締役の地位にあったものの、この間従業員としての地位を兼務することはなく、その後も死亡時に至るまで、被告会社の従業員として地位を有したことはなかったことが認められる。
二 本件慶弔見舞金規程の性格
前記第二の一の争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件慶弔見舞金規程は、平成三年二月ないし三月開催された被告会社の労使協議会において、従業員の過半数を代表する者の意見を聴いた上、従業員の福利厚生を図る目的のために作成された、被告会社の就業規則の一部を構成するものであって、従業員以外の者には適用されないものであることが認められる。
三 黙示の弔慰金契約の成立の成否等について
1 原告は、「遅くとも本件慶弔見舞金規程が成立した平成三年三月ころには、立太郎と被告会社との間において、本件慶弔見舞金規程の特則ないし上乗せ規定として、立太郎の病気死亡時には原告に対し合計三六〇〇万円の弔慰金を支払う旨の黙示の弔慰金契約が成立していた」旨、及び「仮に、黙示の弔慰金契約の成立が認められない場合でも、立太郎は死亡時において被告会社の非常勤技術顧問であったから、一般的社内規定としての本件慶弔見舞金規程六条に基づき、原告は、被告会社に対し、合計二一〇〇万円の弔慰金の支払を求める権利を有する」旨主張し、右各主張は、いずれも、本件慶弔見舞金規程が従業員以外の被告会社の構成員(役員、技術顧問等)にも適用されるべき性格を持つ一般的な社内規定であることを前提とするものであることが、その主張自体から明らかであるが、本件慶弔見舞金規程は被告会社の就業規則の一部を構成するものであって、従業員以外の者には適用されないものであることは前記二判示のとおりであるから、原告の右各主張は、その余の点について検討するまでもなく、採用することができない。
2 原告は、「本件慶弔見舞金規程が従業員のみに適用される場合であっても、立太郎と被告会社との間において、遅くとも本件慶弔見舞金規程が成立した平成三年三月ころには、本件慶弔見舞金規程とは独立の合意として、病気死亡時には合計三六〇〇万円の弔慰金を原告に支払う旨の黙示の弔慰金契約が成立していた」旨主張するので、原告が右独立の黙示の弔慰金契約の成立の根拠ないし事情として挙げるもの(前記第二の二1(二)(1)ないし(5)の諸点等)を、以下に検討する。
(一) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五六年、被告会社の若手の従業員である伊賀けい子が盲腸炎で急逝した後に開催された被告会社内の何らかの会議の席上で、善次が、構成員(善次は、従業員と役員を合わせて構成員という呼び方をすることがあった)を被保険者とする生命保険に加入する必要があることを述べた事実を認めることができるが、これより進んで、右会議の進行を通じて原告主張のような内容の黙示の契約が締結されたとの事実(前記第二の二1(二)(1))を認めるに足りる的確な証拠はない。
(二) 証拠(略)によれば、被告会社においては、設立以来、従業員と役員とをできる限り役員と同等に取り扱うこととし、これにより、従業員の経営参加及び福利厚生を図ろうとする経営方針が採られてきたこと、被告会社が従業員を被保険者として締結した生命保険契約の目的が従業員の遺族補償にあったことを認めることができるが、以上のような事実があるからといって、被告会社が役員を被保険者として締結する生命保険契約が従業員と同様に役員の遺族補償を目的としていることを推認させるに足りないことは明らかであって、その他、原告主張(前記第二の二1(二)(2))を認めるに足りる的確な証拠はない。
なお、原告は、独立の弔慰金契約の成立を示す根拠ないし事情としては、本件慶弔見舞金規程の存在自体をも付け加えることができるとし、被告会社における「構成員平等」の経営理念からすれば、同様に生命保険契約に加入しているにもかかわらず、従業員の死亡時にのみ弔慰金を支払い、役員、技術顧問等の場合にはこれを支払わないとする取扱いをするのは、全く不自然だからであると主張するが(前記第二の二1(四))、被告会社において、前記のような、従業員と役員とをできる限り役員と同等に取り扱うこととする経営方針が採られてきたからといって、本件慶弔見舞金規程の存在自体から、原告主張の独立の弔慰金契約の成立の事実を推認するに足りるものでないこともまた、明らかである。
(三) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、立太郎は、生前、原告や原告との間の二名の子らと長らく別居し、この間、他の女性との間に婚外子一名をもうけていたものの、時折原告や原告との間の二名の子らと会った際には、自分に万一のことがあれば被告会社が締結している生命保険契約があるから心配しなくてよいなど、ほぼ原告主張のような発言(前記第二の二1(二)(3))をしたことを認めることができるが、このような事実があったからといって、いまだ、原告主張の黙示の弔慰金契約の成立を裏付けるには足りないものといわざるを得ない。
(四) 善次と立太郎とが、被告会社の設立以来の共同経営者という、原告主張(前記第二の二1(二)(4))のような密接な関係にあったことは前記一に認定のとおりであるが、このような事実があるからといって、右事実が、被告会社によって立太郎を被保険者として締結された生命保険契約が立太郎の遺族補償を目的にしていたことを推認させるに足りないことは明らかである。
(五) 本件個人保険契約のような生命保険契約が、原告主張(前記第二の二1(二)(5)前段)のごとく、被保険者の遺族補償を中心とする被保険者の利益をその主たる目的とするものかどうかは、一律に決せられるものではなく、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件個人保険契約及び本件団体保険契約は、研究開発部門の責任者として共同経営者の地位にあった業務執行取締役である立太郎の死亡によって被告会社が被る損失を財政面から補うことにより、銀行や取引先に対する信用の維持を確保することを目的として、立太郎本人の承諾を得て締結されたものであることが認められる。
なお、証拠(略)によれば、本件団体保険契約に係る被告会社の団体定期保険申込書の「申込の趣旨」欄の「弔慰金制度」に丸印が付されていることが認められるが、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、これは、被告会社の担当者が、専ら、団体定期保険契約の加入者の大半を構成する従業員を念頭において記載したものであることが認められる。また、証拠(略)によれば、立太郎の死亡に伴う本件団体保険契約の保険金支払請求書中に「このたび請求する保険金は、契約締結の趣旨に沿って活用します。なお、遺族への支払(予定)金額はつぎのとおりです」と付記された「遺族へのお支払金」欄に「二〇〇万円」との記入がされた事実が認められるが、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、これは、実際の請求手続をした被告会社の関連会社の担当者が、漫然と右関連会社の取扱いによる金額を記入したものであることが認められる。そうすると、団体定期保険申込書及び保険金支払請求書における原告指摘の前記のような記載事実(前記第二の二1(二)(5)後段)は、いずれも、本件団体保険契約が遺族補償を目的とすることを示すものとはいえない。
(六) 以上のとおりであり、その他、原告主張の右独立の黙示の弔慰金契約の成立を認めるに足りる証拠はない。
3 さらに、原告は、本件団体保険契約に関し、保険金受取人を被告会社に指定した受取人指定行為が公序良俗に反して無効である旨主張するが、以上に認定したとおり、本件団体保険契約は、研究開発部門の責任者として共同経営者の地位に立つ業務執行取締役である立場の立太郎の死亡によって被告会社が被る損失を財産面から補う等の目的から、立太郎本人の承諾を得て締結したものであるから、このような事実関係の下では、保険金受取人を被告会社に指定したことを公序良俗に違反するものということはできない。
4 以上の次第であるから、原告の主張は、いずれも採用することができない。
四 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 福岡右武)
別紙(略)