東京地方裁判所 平成9年(ワ)4143号 判決 1998年9月25日
原告 株式会社ジェーシービー
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 小沢征行
同 秋山泰夫
同 香月裕爾
同 香川明久
同 露木琢磨
同 宮本正行
同 吉岡浩一
同 北村康央
右小沢訴訟復代理人弁護士 小野孝明
同 安部智也
被告 Y
右訴訟代理人弁護士 藤森茂一
同 小林哲也
主文
一 被告は、原告に対し、金二二〇万〇六八〇円及びうち金一八〇万一七四〇円に対する平成八年一一月一二日から、うち金二九万八九四〇円に対する同年一二月一一日から、うち金一〇万円に対する平成九年一月一一日から、各支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、原告と被告との間のクレジットカードの会員契約に基づき、原告が各加盟店から譲り受けた、平成八年九月一九日、同年一〇月五日及び同月六日における合計八〇個のクレジットカードの利用代金債権の請求として、利用代金合計二一〇万〇六八〇円及びうち一七〇万一七四〇円に対する弁済期の翌日である同年一一月一二日から、うち二九万八九四〇円に対する弁済期の翌日である同年一二月一一日から、うち一〇万円に対する弁済期の翌日である平成九年一月一一日から、各支払済みまで約定の年三〇パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告と被告との間の極度貸付契約に基づき、原告が被告に対し平成八年八月三日及び同年一〇月二九日に二回にわたって貸し付けた貸金債権の請求として、残元金合計一〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である同年一一月一二日から支払済みまで約定の年三〇パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告と被告は、平成三年六月四日、被告を会員として、次のような内容のクレジットカードの会員契約を締結し、原告は、被告に対し、番号<省略>のJCBカード(以下「本件カード」という。)を発行、貸与した(争いのない事実)。
(一) 原告は、会員に対して、クレジットカードを発行、貸与し、会員は、原告の加盟店において、クレジットカードを使用して、飲食、物品の購入及びサービスの受領等をすることができ、その代金債権は、原告が加盟店から譲り受ける。会員は、右代金債権の譲渡について、あらかじめ異議なく承諾する。
(二) 右譲渡に係る代金債権の支払については、会員は、原告に対し、原告が毎月一五日に締め切ったものにつき、翌月一〇日に支払う。遅延損害金は、代金債権額に対して、年三〇パーセント(一年を三六五日とする日割計算)とする。
(三)(1) クレジットカードの紛失又は盗難があった場合であっても、そのカードの使用代金は、会員が支払うものとする。
(2) ただし、会員が、クレジットカードの紛失又は盗難の事実を所轄の警察署に対して届け出、かつ、所定の紛失又は盗難届を原告に対して提出した場合には、原告が受理した日の六〇日前以降に発生したものについては、原告は、会員に対し、その支払を免除する。
(3) ただし、右(2)の定めにかかわらず、紛失又は盗難が会員の故意又は重過失によって生じた場合、会員規約に違反している状況において紛失又は盗難が生じた場合等には、原告は、会員に対し、クレジットカードの使用代金の支払を免除しない。
(四) 会員は、善良な管理者の注意をもってクレジットカードを使用し、管理しなければならない。
(五) 本件カードの利用限度額は、物品の購入等の限度額が四〇万円であり、原告からの借入れ(いわゆるキャッシング)の限度額の一〇万円と併せて、合計で五〇万円である。
2(一) 被告は、別紙クレジットカード明細表(以下「明細表」という。)のとおり、本件カードを使用して、平成八年九月一九日、明細表に記載の加盟店において、物品を購入し、二万五七五〇円の代金債務を負担した<証拠省略>。
(二) その後、被告以外の第三者(以下「第三者」という。)が、明細表のとおり、本件カードを使用して、平成八年一〇月五日及び同月六日、明細表に記載の各加盟店において、物品の購入をするなどして、右各加盟店に対し、合計二〇七万四九三〇円の代金債務を負担した<証拠省略>。
(三) 右(一)及び(二)の各代金債権は、右各加盟店から、原告に対し、明細表記載の譲受日に、それぞれ譲渡された。また、右譲渡に係る代金債権の弁済期は、同表記載のとおり、一七〇万一七四〇円については同年一一月一一日、二九万八九四〇円については同年一二月一〇日、一〇万円については平成九年一月一一日である<証拠省略>。
3(一) 右2(二)のとおり、第三者が本件カードを使用するについては、前記1(三)(1)の約定にいう「クレジットカードの紛失又は盗難」があったものである<証拠省略>。
(二) 被告は、所轄の警察署である本田警察署に対し、平成八年一〇月五日、本件カードが盗難にあったという事実を届け出、かつ、原告に対し、同月一八日ころ、所定の盗難届を提出した<証拠省略>。
(三) 原告は、被告に対し、平成八年一〇月二九日までには、番号<省略>の新しいJCBカード(以下「本件第二カード」という。)を発行、貸与した<証拠省略>。
4(一) 原告は、会員である被告との間で、平成八年八月三日、次の約定で極度額を一〇万円とする極度貸付契約を締結した<証拠省略>。
(1) 返済開始日
毎月一日から一五日までの借入れについては翌月一〇日とし、毎月一六日から末日までの借入れについては、翌々月一〇日とする。
(2) 返済額
元本として一万円及び利息として借入れ額に対する前月一一日から当月一〇日までの年利一五パーセント(月利一・二五パーセント)の割合による金額を毎月返済する(ただし、第一回返済日までの利息は貸付日の翌日から返済日まで年三六五日の日割計算とする。)。
(3) 期限の利益の喪失
被告が原告に対する債務の一つでも弁済期に支払わなかったときは、被告は期限の利益を喪失し、残債務全額を直ちに支払う。
(4) 遅延損害金
年三〇パーセントとする。
(二) 原告は、被告に対し、右(一)の契約に基づき、別紙極度貸付利用明細のとおり、平成八年八月三日及び同年一〇月二九日の二回にわたり、合計一二万円を貸し付けた(争いのない事実)。
(三) 被告は、平成八年一一月一一日に支払うべき返済金の支払を怠った。右同日時点における、右(二)の貸金の残元金は、同年八月三日の貸付け分が八万円、同年一〇月二九日の貸付け分が二万円であった。(争いのない事実)
5 以上のとおり、原告の被告に対する請求のうち、原告が加盟店から譲渡を受けた、平成八年九月一九日の本件カードの利用代金二万五七五〇円及びこれに対する弁済期の翌日である同年一一月一二日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による遅延損害金の請求及び貸金合計一〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である同年一一月一二日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による遅延損害金の請求は理由がある。
二 争点
本件の争点は、前記一2(二)のとおり、第三者が本件カードを使用して負担した代金債務について、被告が原告に対して支払義務を負うかということであり、具体的には次のとおりである。
1 前記一2(二)のとおり、第三者が本件カードを使用するについて、前記一3(一)のとおり、あったと認められる本件カードの「盗難又は紛失」が、被告の故意又は重過失によって生じたといえるかどうか。
この点、原告は、第三者が本件カードを使用したのは、被告において第三者に対して故意に本件カードを使用させたことによるものであり、右使用についてあったと認められる本件カードの「盗難又は紛失」は、被告の故意又は重過失によるものであるから、前記一(三)(1)から(3)までの約定により、被告は、原告に対し、第三者が本件カードを使用して負担し、原告に対して譲渡された代金債務を支払う義務を負うと主張するのに対し、被告は、原告の右主張を否認し、被告は、平成八年一〇月四日の深夜、実際に、本件カードの入ったセカンドバッグについて通常の意味での盗難にあったものであり、第三者が本件カードを使用するについては、被告は何ら関与していないから、前記一(三)(1)及び(2)の約定により、原告は、被告に対し、右代金債務の支払を免除したことになると主張する。
2 仮に、右1の点を認めることができない場合、前記一2(二)のとおり、第三者が本件カードを使用するについて、前記一3(一)のとおり、あったと認められる本件カードの「盗難又は紛失」が、前記一1(四)のとおり、被告が原告に対して負う、本件カードについての善良な管理者としての注意義務に違反した状況で生じたものといえるかどうか。
3 被告が原告に対し本件カードの使用について負担すべき債務の金額が、前記一1(五)の利用限度額の範囲内に限定されているといえるか。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 まず、証拠等によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
(一)(1) 第三者は、明細表記載のとおり、平成八年一〇月六日、本件カードを使用して、横浜そごうにおいて、二万九九七三円の代金で物品等を購入しているが、その際、店員から、本人確認のために、本件カードの支払金融機関を質問され、正確に回答した<証拠省略>。
(2) また、第三者は、右(一)の物品等の購入の際に、店員から、被告の自宅の電話番号を質問され、正確に回答したほか、明細表のとおり、右同日、横浜三越において、三〇九〇円の物品等を購入しているが、その際にも、被告の自宅の電話番号を質問され、正確に回答した<証拠省略>。
(二)(1) 前記第二の一3(二)のとおり、被告は、本田警察署に対し、平成八年一〇月五日、本件カードが盗難にあったという事実を届け出ているが、その時刻は、右同日午前零時三〇分ころであり、その際の届出の内容は、盗難被害年月日を同月四日午後六時から同月五日午前零時までとし、盗難被害場所を「東京都葛飾区○○a丁目b番c店一階東駐車場」とし、盗難被害金品を「現金二〇万円、セカンドバッグ一個、名刺入れ一個、名刺、キャッシュカード一枚(d銀行発行)、契約書、国民健康保険証、クレジットカード(JCB)」などとするものであった(甲四、乙一)。
(2) 原告は、平成八年一〇月七日、本件カードの利用状況に不審な点があると考え、原告の従業員であったBは、被告の自宅に電話をした後、被告の携帯電話に電話をし、留守番電話に連絡をするよう依頼したところ、被告は、原告に対し、右同日、電話をし、都内で鞄ごと盗難にあった旨を申告した。その後、被告は、原告に対し、平成八年一〇月九日にも電話をし、原告の従業員であったCに対し、「同月四日の午後一〇時三〇分から同一一時三〇分までの間、e亀戸店の駐車場において、車上盗にあった。助手席側の鍵を閉め忘れ、座席の上に置いていたダンヒルのセカンドバックごと盗まれた。中の財布に現金約二〇万円、JCBカード、アイフルカード、名刺、連絡先を書いたカード、仕事の契約書、名刺入れ、健康保険証等も入っていた。警察に届け出た際に盗まれたものがはっきりしないと言ったところ、月曜日にはっきりしてから再度来るように言われ、原告にも連絡が遅れた。」との申告をした。<証拠省略>。
(3) 前記第二の一3(二)のとおり、被告は、原告に対し、平成八年一〇月一八日ころ、本件カードについて、所定の盗難届を提出しているが、その際の届出の内容は、盗難の時期を「平成八年一〇月五日午後一一時半ころ」とし、盗難の状況を「東京都内ファミリーレストラン『e』に車を駐車中、車両の後部座席に置いたセカンドバックが盗難にあったもの 中に現金書類JCBカードが在中」とするものであった(甲四)。
(三) 被告は、石岡市から、平成八年四月一日及び平成九年四月一日に国民健康保険証の発行を受けたものであるところ、平成八年一〇月以降、被告が石岡市に対して国民健康保険証の再発行の申請をしたこともなければ、石岡市が被告に対し国民健康保険証を再発行したこともなかった。一方、平成八年一〇月五日から平成九年三月までの間、被告の妻及び二人の子は、合計で一〇回にわたり、被告に対して交付された国民健康保険証を使用して、病院等において初診の診察を受けた。(甲一七から甲一九まで)
2 以上の事実を前提に判断する。
(一) まず、右1(三)で認定した事実によれば、被告は、平成八年一〇月五日以降も、被告に対して発行された国民健康保険証を所持していたことは動かし難い事実であるというべきである。
そうすると、右1(二)(1)から(3)までで認定した、被告の本田警察署及び原告に対する届出又は申告に係る盗難被害の事実のうち、国民健康保険証が盗難にあったとの事実は、明らかに虚偽であるといわざるを得ない。また、被告は、本訴においても同様の事実を主張するが、これも採用することはできない。
(二) 一方、被告の本田警察署及び原告に対する届出又は申告に係る盗難被害の事実のうちのその余の部分及びこれらの点についての被告の本訴における主張等について見ても、まず、被告が本件カードの入ったセカンドバッグが盗難にあったという場所については、被告は、右1(二)(1)から(3)までで認定したとおり、一旦は本田警察署に対してc店一階駐車場であると届け出た後、原告に対してはe亀戸店であるなどと申告し、その内容が食い違っていたものであるところ、本訴においては、当初は、東京都葛飾区内の蔵前橋通りにあるレストランeであると主張していたのに対し、その後、右主張は誤記であるとして、レストランcであると主張を訂正し、乙三においては、再度c店一階駐車場であると記載していたにもかかわらず、被告本人尋問では、レストランeであると陳述しており、この点についての被告の届出、申告、主張又は陳述の内容は、二転三転している。
また、右セカンドバッグが盗難にあったという時期についても、被告の本田警察署及び原告に対する届出又は申告の内容は、前記1(二)(1)から(3)までで認定したとおりであり、その内容自体、相互に少なからず食い違っている上、本訴においては、この点及び盗難被害の事実を本田警察署に対して届け出た時期について、当初は、平成八年一〇月四日午後一時ころに盗難に気付き、同日午後一一時過ぎに本田警察署に対して被害届を提出したと主張していたのに対し、その後は、盗難にあったのは平成八年一〇月四日の午後一一時過ぎであり、本田警察署に対して盗難被害の事実を届け出たのは午後一一時三〇分を過ぎていたと主張し、その内容が前後で食い違っているほか、本田警察署に対する届出の時期についての右主張は、いずれにしても、前記1(二)(3)で認定した事実に反するものである。
さらに、本件カードが盗難にあったことに気付いたという時期についても、被告は、本訴において、当初は、平成八年一〇月四日に警察署に対して被害届を提出した時点においては、セカンドバッグの中に何が入っていたか明確な記憶がなく、担当の警察官から、翌月曜日である同月七日に再度来るように言われ、右同日、警察署に赴いて、セカンドバッグの中に、d銀行のキャッシュカードや本件カードが入っていたのを思い出したと主張し、これは、前記1(二)(2)で認定した、原告に対する申告の内容に沿うものであるが、その後、本田警察署に対して平成八年一〇月四日に被害届を提出した時点において、本件カードを含め、被害品を届け出たが、担当警察官から、それで間違いがないか確認され、はっきりしなかったので、翌月曜日である同月七日に再度来るように言われ、右同日、警察署に赴いて、被害届の内容が間違いない旨述べたと主張し、その内容が前後で食い違っている。また、被告は、前記1(二)(2)のとおり、原告に対しては、財布も盗難にあったと申告していながら、本訴においては、財布は盗難にはあっていないと主張し、その内容が食い違っている。
(三) その他、盗難被害にあったという場所についてはともかく、被告がそこまで赴いた理由についても、被告は、乙三には、原告が金銭を貸していたDの債権者と名乗る者から呼出しを受けたと記載していたのに対し、被告本人尋問においては、右Dから呼出しを受けたと陳述するなど、この点についても、その内容が食い違っている。
(四) 以上のとおり、前記(一)で認定したように、被告が、本田警察署及び原告に対し、盗難被害の事実の一部について虚偽の届出又は申告をしていること、また、前記(二)及び(三)までで認定説示したように、被告が、本件カードの盗難被害に関連する様々な事実について、本田警察署及び原告に対する届出及び申告、本訴における主張、乙三における記載並びに本人尋問における陳述において、合理的な理由もないままに、その内容を変遷させていることを考慮すると、被告が主張するように、あるいは、被告が本田警察署及び原告に対して届出又は申告をしたように、被告が本件カードについて通常の意味での盗難にあったとの事実は、到底これを認めることができない。
のみならず、右の判断に、前記第二の一2(二)のとおり、現実に第三者が本件カードを使用していること、前記1(一)のとおり、第三者は、本件カードを使用するに際して、店員に対し、本件カードの支払金融機関及び被告の自宅の電話番号を正確に回答していること、前記(一)のとおり、被告が被害品として虚偽の届出又は申告をしたものが国民健康保険証であったことを総合すれば、被告は、第三者に対し、少なくとも本件カードの支払金融機関についての情報を提供した上で、意図的に本件カードを交付したものと推認するほかはなく、この認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、前記第二の一3(一)のとおり、本件カードの使用について、あったと認められる本件カードの「盗難又は紛失」は、被告の故意又は重過失によるものと評価せざるを得ない。
なお、この点、被告は、前記第二の一3(三)のとおり、原告は、被告に対し、本件第二カードを発行、貸与しているが、その際には、十分な審査をして、被告が原告の会員として適格性を有すると判断したものであると主張するところ、その主張の趣旨は必ずしも明らかではないものの、仮に、原告が、被告に対し、本件第二カードを発行、貸与したことをもって、原告が、第三者による本件カードの使用についても、被告による故意又は重過失によるものではないと認めていたものであるという主張であると解するとしても、原告が被告に対して本件第二カードを発行、貸与したことをもって、直ちに被告の右主張のように評価することはできないし、他に右のように評価するに足りる証拠もない。
二 争点2について
右一で判示したとおり、争点1が肯定されるから、争点2については判断をする必要はない。
三 争点3について
本件全証拠によっても、被告が原告に対し本件カードの使用について負担すべき債務の金額が、前記第一の一1(五)の利用限度額の範囲内に限定されていることを認めるに足りる証拠はないし、右のように認めるべき根拠も見出し難い。
四 結論
よって、原告の請求には理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 長野勝也)