東京地方裁判所 平成9年(ワ)6328号 判決 1998年10月05日
原告
新明和オートエンジニアリング株式会社
右代表者代表取締役
田邊忠夫
右訴訟代理人弁護士
半場秀外三名
被告
宝居商事株式会社
右代表者代表取締役
宝居すみ子
右訴訟代理人弁護士
木村利栄
主文
一 被告は、原告に対し、金二四八万四〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、車両の修理等を目的とする株式会社である。
原告は、平成八年三月四日、被告から、工場建設を目的として、代金一億七二二六万一五〇〇円で、次の土地(以下「本件土地」という。)を買い受けた(以下「本件売買契約」という。)。
所在 東京都足立区谷中四丁目
地番 <省略>
地目 雑種地
地積 四六三平方メートル
2 原告は、三月二三日から二五日にかけて、ボーリング調査を行った(甲一〇)が、地中障害物などは発見されなかったので、杭工事に着手したところ、同年六月四日、本件土地の地中に多量のコンクリート塊等の産業廃棄物が埋まっているのを発見した。右産業廃棄物を除去する以外、いかなる工法によっても工場建設が不可能であったため、原告は、これらを搬出・処分した。
原告は、六月一〇日以降、根伐工事(建物の基礎を作るために地面に穴を開けること)を開始したところ、コンクリート塊等の産業廃棄物、ガラ残土(通常土の中にコンクリート、瓦礫、ブロック等が混入しているもの)が出土したため、これらを搬出・処分した。
原告は、同年八月、地下タンク部分建設のため、掘削工事をしたところ、さらにガラ残土、産業廃棄物が発見されたため、これらも搬出・処分した。
原告は、右産業廃棄物等の搬出・処分のため、同年一〇月二一日、別紙のとおり、金二四八万四〇〇〇円を支出し、同額の損害を被った。
3 よって、原告は、被告に対し、瑕疵担保に基づく損害賠償請求として、金二四八万四〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年四月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2は否認する。
三 被告の主張
1 被告は、平成八年九月一九日、本件売買契約の仲介業者である新明和商事株式会社(以下「新明和商事」という。)から、本件土地の地中に大きなコンクリート塊等が埋まっているので、現地を検分してもらいたい旨連絡を受け、被告の代表取締役宝居一美(以下「一美」という。)及び取締役宝居治和(以下「治和」という。)が現場に急行したところ、L字型で一辺の長さが約一メートル以下の小さなコンクリート塊や樹脂製パイプが埋まっているのは発見されたが、原告主張の巨大なコンクリート塊等は存在しなかった。このような小さなコンクリート塊等は、通常、東京都内の宅地に埋蔵されていることが多いので、瑕疵とはいえない。
2 また、この程度のコンクリート塊等の除去は、諸経費等の名目であらかじめ工事代金に含まれており、請負業者が処理し、注文主には請求しないのが土木建築業界の慣習であるから、原告の支出金額について被告が責任を負う理由はない。
仮に、本件土地中に産業廃棄物等が埋まっていたとしても、これを除去・廃棄するための費用は、通常の土砂等の除去・廃棄に要する費用と同じであり、原告に損害はない。
3 仮に、本件売買契約に瑕疵があったとしても、
(一) 原告の悪意
原告は、本件売買契約締結前、原告の系列会社である新明和商事に本件土地に対する調査をさせた結果、本件土地の地中に産業廃棄物が埋まっていることを知っていた。だからこそ、原告は、被告に対し、本件土地の売買代金の値引きの交渉をしたのである。
(二) 瑕疵通知義務(商法五二六条)
本件売買契約は商人間の売買であるところ、原告は、平成八円三月四日、本件土地の引渡しを受けた後、六か月内に被告に対して瑕疵を通知しなかった。
四 被告の主張に対する認否反論
1 被告の主張3(一)は否認する。
2 同(二)のうち、本件売買契約が商人間の売買であることは認めるが、その余は否認する。
3 本件瑕疵は直ちに発見することができない性質のものであったところ、原告は、本件土地の引渡しを受けた日から六か月内である平成八年六月四日に瑕疵を発見し、その翌日である五日、新明和商事の高見三次(以下「高見」という。)を通じて、地中にコンクリート塊等の産業廃棄物が発見されたので見に来てほしい旨を被告に通知した。
五 原告の反論に対する認否反論
1 高見から通知を受けたことは認めるが、その余は否認する。
2 右通知を受けたのは平成八年九月一九日である上、本件土地において状況を説明したのは現場作業員のみであったので、原告の被告に対する通知とはいえない。原告が、被告に対し、瑕疵を通知したのは、本件土地の引渡後六か月経過後の平成八年一〇月二三日付け申入書(乙二の一の二)によってであって、直ちに売主に対して瑕疵の通知をしたとはいえない。
第三 証拠
<本件記録中の証拠関係目録の記載を引用する。>
理由
一 原告と被告との間で本件売買契約が締結されたこと、本件売買契約が商人間の売買であることは、当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実と証拠(甲一ないし九号証の一、一〇ないし一二号証、乙二号証の一の二ないし二号証の七、七号証の一部、証人牛山秀明、同宝居治和の一部、なお、甲四の写真のうち、番号⑤ないし、ないし、ないし、、につては、証人牛山秀明の証言により本件土地の現場の写真であると認められる。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定に反する乙七号証の記載及び証人宝居治和の証言は、前掲各証拠に照らし、たやすく信用できないし、他に右認定を左右する証拠はない。
1 原告は、本件売買契約締結に際し、被告に対し、当初、買付証明書(乙一)にて、売買代金一億七五〇六万円(坪単価一二五万円)を提案した。しかし、その後、原告は、右提案値段が高すぎたので、新明和商事の高見を通じ、被告に対し、一坪当たり五万円の値下げを交渉した結果、平成八年三月四日、被告との間で、代金一億七二二六万一五〇〇円で本件土地を買い受ける本件売買契約(甲一)を締結し、同日、右代金を完済して、本件土地の引渡しを受けた。
原告が、本件売買契約を締結したのは、自動車修理工場(以下「本件建物」という。)を建設する目的のためであり、被告も、右目的を了知していた。
原告は、株式会社明和工務店(以下「明和工務店」という。)に対し、本件建物の建築工事を請け負わせ、明和工務店は、株式会社伊東兄弟建設(以下「伊東兄弟建設」という。)に対し、本件建物の建築工事の下請けをさせた。
2 伊東兄弟建設は、本件建物の設計が完成した後、同月二三日から二五日にかけて、杭を打つ場所においてボーリング調査を行った(甲一〇)が、地中に障害物は発見されなかった。
そこで、伊東兄弟建設は、同年六月初旬、本件建物の建築工事に着工し、同月四日、杭打ち機をリース業者から借り入れて杭工事を開始したところ、地中にガスボンベ二本、タイヤ一本、巨大なコンクリート塊(その大きさは甲四の写真のとおり)、ビニール片、電気コード、切りくず等が大量に埋まっていて杭工事を続行することができなかった。そこで、同社は、杭工事を一旦中止して杭打ち機を返還し、同日午後、ユンボ(ミニショベル)を一台借り入れて、杭工事をするのに必要最小限の範囲で、杭を打つ場所におけるコンクリート塊等の除去を行い、その後、杭工事を行った(甲九の一)。ユンボは、杭工事には必要のない機械である。右除去作業のため、別紙記載の機械損料(一旦返還した杭打ち機一日分のリース料)及び障害物除去作業のための費用(ユンボの搬入・搬出費用、ユンボ二日分の使用料等、コンクリート塊搬出処分費用)がかかった。
3 原告は、六月五日、新明和商事の高見を通じ、被告に対し、本件土地の地中から産業廃棄物が発見されたので、現場を検分するように連絡した。一美及び治和は、本件土地を検分したが、大量のコンクリート塊は既に搬出された後であった。
4 伊東兄弟建設は、六月一〇日、根伐工事を開始したところ、再び本件土地中にガラ残土及び大量のコンクリート塊等の産業廃棄物を発見した。ガラ残土については、埋め戻し用には使えないものであったので、そのままダンプカーに積み込んで全て搬出処分し、別紙記載の残土処分(ガラ残土)費用がかかった(なお、本件建物建設のために本来必要であった通常土の残土処分費用は差し引かれている。)。コンクリート塊については、大型ダンプカー三台で搬出処分し、別紙コンクリート塊搬出費用がかかった。また、産業廃棄物については、多量の水を含んでいたため、現場に保管して水抜きをした上、同年七月五日に搬出した(乙二の六)。
伊東兄弟建設は、同年八月、地下タンク部分の掘削工事を進めたところ、さらに産業廃棄物を発見したので、直ちに同月二三日に廃棄した(乙二の七)。七月と八月の産業廃棄物の搬出のため、別紙記載の埋設ゴミ搬出処分費用(コンクリート塊以外のものを地中より掘り起こし、仕分けをして種類ごとにダンプに積み込むための費用)がかかった。
さらに、右一連の廃棄物除去作業のため工事期間が延びたこと等により別紙記載の諸経費のとおり管理費(従業員の日当を含む。)が増大した。
5 伊東兄弟建設は、明和工務店に対し、本件建物の建築工事に必要な費用(甲七)とは別にかかった費用として、別紙記載の合計二四八万四〇〇〇円を請求し(乙二の一の三ないし乙二の一の五)、明和工務店は、原告に対し、右と同額の支払を請求した(甲二)。
原告は、同年一〇月二一日、明和工務店に対し、右金額を支払った(甲三)。
二 右事実関係の下で判断する。
1 請求原因について
右認定事実によれば、ことに、原告は、自動車修理工場を建設する目的で本件売買契約を締結し、被告も、右目的を知っていたこと、コンクリート塊等の産業廃棄物は本件土地の地中に埋まっていてボーリング調査でも発見されず、杭工事に着手して初めて発見されたこと、伊東兄弟建設は、着手していた杭工事や根伐工事等を中断して右廃棄物を除去せざるを得なかったことに照らせば、本件土地には隠れた瑕疵があったと認められる。そして、原告は、別紙記載の費用を支出したことにより同額の損害を被ったといえるから、請求原因事実が認められる。
被告は、小さなコンクリート塊等の除去は、請負業者が処理し、注文主には請求しないのが土木建築業界の慣習であると主張するが、本件土地に埋まっていたのは、前記認定のとおり、巨大かつ大量のコンクリート塊等であるから、被告の主張はその前提を欠く。
被告は、さらに、巨大なコンクリート塊が多数埋まっていて、それが全く予知できなかった場合において、請負人が、注文主の了解を得て搬出処分したときは、請負人は、注文主に対し、追加工事代金の支払を請求することができるが、請負人が注文主の了解を得ずに搬出処分したときは、その費用は請負人が負担する、というのが土木建築業界の慣習であるとも主張する。
しかしながら、かかる慣習が存在するとは認められない上、仮に存在したとしても、本件では、請負人である明和工務店の請求に応じて注文主である原告が追加払いをしており、請負人は注文主の事前又は事後の了解を得てコンクリート塊等を搬出処分したといえるから、被告の主張は理由がない。
2 原告の悪意について
前記認定事実によれば、原告が、本件売買契約締結当時、右廃棄物の存在を知っていたとは到底認められない。
3 瑕疵通知義務について
前記認定事実によれば、ことに本件建物建築の下請業者である伊東兄弟建設が、三月二三日から二五日にかけてボーリング調査を行ったが、地中障害物が発見されなかったので、杭工事に着手したところ、六月四日に至り、本件土地の地中に初めて産業廃棄物等を発見したこと、原告は、翌五日には、新明和商事の高見を通じて、被告に対し、産業廃棄物が大量に発見されたので、本件土地を検分してほしい旨通知したことに照らせば、本件土地には直ちに発見することができない瑕疵があったと認められるところ、原告は、目的物を受けとってから六か月内に瑕疵を発見し、直ちに被告に対して通知したといえる。
三 結論
以上によれば、本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官髙柳輝雄 裁判官足立哲 裁判官中田朋子)
別紙<省略>