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東京地方裁判所 平成9年(ワ)722号 判決 1998年7月30日

原告

甲山A子

右法定代理人後見人

甲山B夫

右訴訟代理人弁護士

西坂信

山本昌彦

田中昭人

渡部朋広

被告

株式会社あさひ銀行

右代表者代表取締役

乙川C雄

右訴訟代理人弁護士

山本晃夫

高井章吾

杉野翔子

藤林律夫

尾﨑達夫

鎌田智

伊藤浩一

金子稔

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載の土地について、浦和地方法務局大宮支局平成四年一〇月一日受付第三三四四〇号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

一  原告の請求

主文同旨

二  事案の概要及び争点

別紙物件目録記載の土地(本件土地という。)には主文記載の根抵当権設定登記(本件登記という。)がなされているところ、原告は、本件登記の設定契約(本件根抵当権設定契約という。)がなされた当時、高齢で脳に重大な病変があり意思能力がなかったとして、本件登記の抹消登記手続を求めた事案であり、右意思能力の有無が争点である。

三  争点に対する判断

1  証拠[≪証拠省略≫(≪証拠省略≫によれば原告が署名したことが認められる。)、≪証拠省略≫]及び弁論の全趣旨によれば、本件根抵当権設定契約は平成四年九月三〇日に原告宅において原告、被告担当者丙谷D郎及び甲山E介(E介という。)が会して締結され、原告は契約書等に署名したが、その他の住所等の記載はE介が代筆したこと、原告は挨拶程度の日常会話はでき、署名に多少時間がかかっていたが、右丙谷としては説明を理解してもらったと受けとったことが認められる。

2  しかしながら証拠[≪証拠省略≫]及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告は、平成四年三月六日、自宅から一〇〇メートルほど離れたところで転倒、おう吐していたところを救急車で西大宮病院に搬送された。原告は意識清明であったが、右病院の医師の問診には、自宅の住所及び電話番号や自分の生年月日を正確に答えることができず、一〇〇引く七という計算もできなかった。また、頭部CT検査により脳溝の著名な拡大と脳室周辺に低吸収域が認められた。原告は七日間ほど入院した。

原告はE介と二人暮らしであったが、物忘れが酷くなり、無気力でほとんどボーッとしている状態になり、平成四年八月八日、その様子を心配した原告の次男夫婦に連れられて指扇病院を受診した。右病院の医師の問診には、氏名と年齢については答えることができたが、生年月日や大東亜戦争の終戦の日などを答えることができず、一〇〇引く七という計算もできなかった。そのため、同月一三日に頭部CT検査が実施され、脳室及び大脳皮質の脳溝の著名な拡大、脳室周辺及び大脳白質を含む広範囲の多発性脳梗塞、脳萎縮が認められ、明瞭な麻痺や言語障害はない無症候性の多発性脳梗塞に伴う脳萎縮と診断され、老人性痴呆と思われるので専門病院において経過観察を受けるように勧められた。

原告は平成五年一月七日、歩行困難になって指扇病院を受診し、多発性脳梗塞後遺症、右不完全片麻痺と診断されて入院した。同月一一日、頭部CT検査が実施され、新たに左被殻にも梗塞部位が認められ、その後、同年七月六日、同年一〇月二九日に、頭部CT検査が実施され、脳室及び脳溝の拡大、脳萎縮の進行が認められた。

3  鑑定の結果によれば、鑑定人丁沢F作は、原告の平成四年九月三〇日当時の意思能力について、原告の病歴、診察結果及び考察に基き、多発性脳梗塞の結果、かなり高度の痴呆症状があり、財産管理処分能力はなかったものと推測されると鑑定したこと、及び、右鑑定意見には簡単な日常会話の中では痴呆症状に気づかれなかった可能性も考えられると付記されたことが認められる。

4  以上によれば、原告は、本件根抵当権設定契約締結当時、意思能力を欠いていたものというのが相当である。

(裁判官 田中寿生)

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