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東京地方裁判所 平成9年(ワ)8847号 判決 1999年2月05日

原告

大東京火災海上保険株式会社

被告

平林俊一

主文

一  被告は、原告に対し、金一一三八万三八九三円及びこれに対する平成九年五月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用はこれを一二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金一二八〇万六八八〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年五月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記の交通事故に関して、訴外黄淑(以下、「訴外人」という。)運転の普通乗用車(足立三三ゆ・・三五、以下、「被害車両」という。)に掛けられていた自動車保険契約(原告と訴外興進建設株式会社(以下、「訴外会社」という。)との間で契約されていたもの。)に基づき、後記のとおり、原告が保険金を支払って、被告に対する損害賠償請求権を保険代位により取得したとして、前記のとおりの金額を請求している事案である。

一  争いのない事実及び証拠上明らかな事実

1  交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成八年九月一四日 午後四時一八分ころ

(二) 場所 東京都杉並区和田三丁目五四番一一号先青梅街道上

(三) 加害車両 被告の運転していた普通特殊自動車(所沢八八す一五四五、以下、「加害車両」という。)

(四) 被害車両 前記のとおり

(五) 態様 片側三車線の青梅街道の中央線寄りを新宿方面から八王子方面に向かって走行中の被害車両に、左方交差道路から青梅街道に進入してきた加害車両が衝突し、そのために被害車両が訴外株式会社バクテリアスポーツ(以下、「訴外スポーツ」という。)経営の店舗に衝突し、同店舗内の商品、什器、備品に損害を与えたほか、建物所有者にも建物の一部損壊という損害を与えた。(ただし、事故態様は当事者間に争いあり。)

2  損害(総額金一四四七万九八六七円)

本件事故により生じた損害は以下のとおりである。

(一) 被害車両修理費 金一八四万〇一六七円

(甲第三号証の一ないし六、第四号証)

(二) 訴外スポーツの損害 金一〇二一万九二〇〇円

訴外スポーツ店舗内の商品、什器、備品の損害額の合計である(甲第五号証の一ないし一六、第六号証の一ないし五、第七号証、第八号証の一ないし七、第一〇号証)。

(三) 建物損壊分の損害 金二四二万〇五〇〇円

訴外スポーツが店舗を出していた建物の所有者(原告の主張上は訴外東札自動車株式会社となっているが、証拠上は日本ビルディングセンター株式会社(以下、「訴外センター」という。)である。)に対して、右建物の修理費(フロントサッシ、フロントガラスの取替等の修理工事代)として、右金額の損害を与えた(甲第九号証一ないし六、第一〇号証)。

3  保険金の支払い

原告と訴外会社との自動車保険契約(対物保険金額二〇〇〇万円、車両保険金額二一五万円)に基づき、原告は、訴外会社に対し、平成八年一二月四日、金一八四万〇一六七円を、訴外スポーツに対して、同年九月二七日に金三〇〇万円、同年一〇月二九日に金七二一万九二〇〇円を、訴外センターに対し右同日金二四二万〇五〇〇円を、それぞれ支払った(甲第一一ないし第一三号証、弁論の全趣旨)。

4  損害の一部回復

訴外スポーツは、本件事故により損害を受けた商品を訴外甘糟商事株式会社に対して平成八年一〇月一五日に金二五万円で売却し、原告は、訴外スポーツから金二五万円を受領した。

5  原告の請求額

原告は、保険代位によって取得した被告に対する合計一四四七万九八六七円の金銭債権から右4で支払いを受けた金二五万円を控除した金一四二二万九八六七円の九割相当額金一二八〇万六八八〇円及びこれに対する遅延損害金を求めている。

二  争点

本件の争点は、被告に責任があるか否か、あるとした場合原告に過失相殺事由があるか否か、さらにその場合の過失割合はどうかという点にあり、これらは、いずれも本件事故の態様に関する争いである。

第三当裁判所の判断

一  原告は、被告が、青梅街道に進入する際に安全確認義務違反等により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき義務があると主張している。

これに対して、被告は、青梅街道に交差する道路から青梅街道に進入し、中央線寄りの車線に進入しようとしたところ、右側から相当高速で走行してくる被害車両を認め、衝突を回避するために中央寄り車線の走行の障害にならないように道路幅を残して停止していたところ、被害車両が減速もせず接近してきて加害車両に接触したものであるから、被告には何らの責任はないか、仮にあるとしても大幅な過失相殺がなされるべきであるとしている。

二  証拠(訴外人、甲第一八号証の一ないし一八、第二〇号証、第二一号証、乙第一号証等)によれば、加害車両の本件事故による損傷は右前角のバンパー部分にあり、被害車両の加害車両との直接の接触による損傷は左側面特に後部ドアー付近に見られ、被害車両は、加害車両との接触後急激に左に旋回し、直線距離にして約二〇メートル進行する間に、三車線ある最も中央寄りの車線から、二つの車線と歩道(合計すると約一〇メートルもある)を越えて路外の店舗に突っ込んだものと認められる。両車両の損傷部位及び被害車両の走行経路からすれば、直進してきた被害車両の左前部ドアーから後部ドアーにかけて加害車両の右前角が衝突し、その衝撃で被害車両が操縦の自由を失って左に方向を変えて訴外スポーツの店舗に突入したものと推認される。

右によれば、被告が主張する、加害車両が停止していたところに被害車両が接触してきたということは考えられない。なぜなら、被害車両の前部は加害車両との接触なしに衝突地点を通過しているのに、側面を加害車両と接触していることからすれば、加害車両が停止していたとは考えにくく、考えられる場合としては、被害車両が加害車両との衝突を回避するためにハンドルを右に切って前部の衝突は免れたが左側面の接触は避け得なかった場合ぐらいであろうが、その場合は当然被害車両は右に進行するはずであり、極端に左に進路を変えている本件には当てはまらないからである。

したがって、本件は、三車線ある中央寄りの車線を直進してきた被害車両左側面に、交差道路から車線を二つ越えて中央寄りの車線に入ろうとして走行してきた加害車両の右前角が衝突したものと認められ、被告に車線に進入する際の安全確認義務違反があることは明らかであり、被告が、民法七〇九条により、本件事故により生じた損害につき賠償責任を負うことは当然である。

三  次に、被害車両の側に過失がなかったかを検討する。

訴外人は、本件事故当時の状況につき、被害車両の走行していた中央寄りの車線には先行車両はおらず、真ん中の車線及び歩道寄りの車線はのろのろ運転の状態で、被害車両の事故当時の速度は時速約四〇キロメートルで、信号は青を確認して進行していたところ、突然加害車両と衝突したもので、衝突前に加害車両を認識していなかったと説明している(訴外人、甲第二〇号証)。

真ん中の車線及び歩道寄りの車線はのろのろ運転の状態であり、現に加害車両が交差道路からこの二車線を横切って進行してきたことからすれば、右折のために中央寄りの車線に車線変更する車両のいることは予見できたものと認められ、これに特に注意することなく走行した訴外人にも、本件事故について過失があるものと言わざるを得ない。

しかし、交差する狭路から幹線道路である青梅街道に進入し、しかも、そのまま車線を二つ越えて中央寄りの車線に進入しようとしていた被告の過失と比較すると、本件事故における訴外人の過失割合は二〇パーセントと評価するのが相当である。

四  以上により、被告には、本件事故による損害額の八割を賠償すべき義務があり、その額は一一三八万三八九三円となる。

原告の本訴請求は、右の限度で理由がある。

(裁判官 村山浩昭)

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