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東京地方裁判所 平成9年(刑わ)496号 判決 2000年3月23日

主文

被告人甲野太郎を懲役一〇年に、被告人甲野花子を懲役五年に処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中各七五〇日を、それぞれその刑に算入する。

訴訟費用は別紙のとおり各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人甲野太郎は、年金会オレンジ共済(平成七年一〇月ころからは年金会オレンジ共済組合と名称変更。以下、「年金会オレンジ共済」とも総称する。)の名称で、客から預り金を受け入れるなどの事業を主宰していたものであり、被告人甲野花子は被告人甲野太郎の妻で同事業を共同して営んでいたものであるが、被告人両名は、次男である分離前相被告人甲野次郎のほか、分離前相被告人乙川一郎及び分離前相被告人丙山二郎と共謀の上、オレンジスーパー定期ないしはオレンジスーパーファインドの元本名下に、客から金銭を詐取しようと企て、別表記載のとおり、別表番号一の平成六年五月一八日ころから別表番号一一の平成八年九月二四日ころまでの間、前後五八回にわたり、別表番号一の東京都大田区北馬込<番地略>所在のa方など三二か所において、被告人甲野太郎が自ら若しくは右丙山二郎が自ら、あるいは年金会オレンジ共済茨城中央支部長丁山五郎ら一九名を介して、右aら三五名に対し、客から受け入れた預り金を確実な運用先で有利に運用する意思も運用している事実もなく、受入れ後は預り金を直ちに被告人甲野太郎らの負債の返済やその遊興費及び年金会オレンジ共済事業のための経費等に充てる意図であるのにこれを秘し、かつ、約定の利息を付した上確実に期日に返還する意思も能力もないのにこれあるかのように装い、「利息は一年定期で6.74パーセント、三年定期で7.02パーセントであり、銀行や郵便局より有利だ。元本は確実に保証する。預かった資金は確実な運用先で高利で運用しているので、期日に間違いなく高い利息を付けて返還できる。」旨うそを言い、右aら三五名をしてその旨誤信させ、よって、別表番号一及び五の詐取分においては右a方において現金合計五五〇〇万円を直接交付させたほか、別表番号五三の平成八年一一月五日の詐取分においては東京都中央区日本橋浜町<番地略>花岡ビル所在の年金会オレンジ共済組合事務所において現金三〇〇万円を丁川四郎を介して直接交付させるとともに、その余の詐取分においては東京都中央区日本橋人形町<番地略>株式会社三菱銀行人形町支店(平成八年四月一日以降同区日本橋人形町<番地略>株式会社東京三菱銀行人形町支店)オレンジ共済会長甲野花子名義の普通預金口座又は同都台東区蔵前<番地略>東京貯金事務センターオレンジ共済代表者甲野花子名義の郵便振替口座に送金させて交付させ、現金合計六億六五五四万九五二〇円をだまし取り又は欺いて交付させたものである。

(証拠の標目)<省略>

(事実認定の補足説明)

第一  被告人太郎の弁護人の主張について

一  被告人太郎の弁護人は、被告人太郎は、オレンジスーパー定期ないしはオレンジスーパーファンドの預り金事業における預り金の返還や利息の支払は生命共済事業であるオレンジ共済の掛け捨ての掛金を流用することによって可能であり、支払不能ということは起こり得ないと思っていたのであり、また、オレンジスーパー定期ないしはオレンジスーパーファンドの預り金を運用していないのに、運用しているかのような説明を客や代理店に対して行ったという、セールストークによる欺罔は、分離前相被告人乙川一郎(以下、単に「乙川」ともいう。)が発案し、分離前相被告人丙山二郎(以下、単に「丙山」ともいう。)とともに行ったものであって、被告人太郎の知らないところで行われており、共謀はなかったのであるから、結局、被告人太郎は無罪である旨主張し、被告人太郎も公判廷において、右主張に沿う供述をするので、補足的に説明する。

二  被告人太郎の検察官調書(乙一〇ないし一三)、被告人花子の検察官調書(乙三一ないし三五、三八、四〇、四八)、証人桑島隆晃、同丙山、同乙川の各証言などの関係各証拠によれば、次の事実が認められる。

1 被告人太郎の生活状況、年金党、年金会等について

被告人太郎は、大学を卒業後、数年間、生命保険会社に勤務したが、そこを退社後は、会社を何度か設立しては金融業などを自営していた。しかし、いずれの会社経営もうまく行かず、昭和五一年ころ、倒産し、その時の負債総額は、約一億九〇〇〇万円にも及び、資産を処分したが、全ての負債を返済することはできず、債権者からの取立てもあり、しばらくは、住居を転々とする生活をしていた。被告人太郎は、その後は、職に就くことはなく、生活費は、妻の被告人花子の家政婦などのパートでの収入と長男のアルバイト収入で賄っていたが、生活は苦しく、知人や消費者金融会社等から借入れをして凌いでいた。昭和五四年ころには、倒産後の自己の身に照らし合わせ、高度成長を支えてきた中高年が肩身の狭い思いをしなければならないことに対して憤りを感じて、政治活動に興味を持つようになり、新聞に「中高年よ団結しよう」と投書したところ、反響があり、中高年一一〇番という年金相談などの相談電話を始めることになった。昭和五六年には「年金で損をしない知恵集」という本を出版するなどし、このころから、年金問題を中心に中高年を支持者とする政党を結成して、国会議員に立候補しようと決意し、昭和五八年一一月には、自らを代表として年金党を設立して政治団体として自治省に届け出て、同年一二月に行われた衆議院議員総選挙に初めて立候補した。しかし、選挙資金は乏しく、選挙の供託金も友人などから借りて捻出する状況で、自転車に乗って選挙活動をしたが、落選して供託金は没収され、借金は五〇〇万円位増えた。その後、被告人太郎は、衆議院比例代表選出議員の選挙に立候補した方が当選の可能性が高いと考え、昭和六一年五月には、年金会という政治団体を設立して、年金党の後援組織とし、被告人花子をその代表として届出をした。そして、同年七月の衆議院議員選挙に年金党から立候補したが、この時も、候補者一〇名の供託金は他の候補者に負担させたり借金をしたりしてやりくりしたが、一人も当選せず、また借金を増やすこととなり、選挙のために借りたレンタカーを次男である分離前相被告人甲野次郎(以下、「次郎」という。)が事故で壊したことによる損害賠償金一〇〇万円余りも支払うことができない経済状態であった。

被告人太郎は、資金捻出手段についてあれこれ思いをめぐらすうち、生命保険会社に勤務していたこともあって、生命共済事業を思いつき、年金党で生命共済をやれば、会員も増やせるし、少なくとも年金党に選挙で投票してくれた支持者をつなぎ止めておくことにも役立つし、掛金も入ってくる上、掛け捨てなので、支出が少なければ、かなりの収入になり、一石二鳥だと考えた。しかし、年金党の他の役員は、選挙資金捻出のために生命共済事業を始めようとしている被告人太郎に対して、生命共済事業の会計は年金党のそれとは別会計にし、選挙資金への流用は許されない、年金党には資産がなく、給付金の支払のための準備金がないのに集金したら、詐欺的行為と言われかねないなどの理由で反対した。実際、年金党の収入はわずかな金額しかなく、被告人太郎は、役員個人から借金をするなどしてやりくりしており、当時、被告人太郎が居住しており、年金会の事務所が置かれていた東京都中央区日本橋の××三〇三号室の水道、ガス、電気料金を滞納する状態であった。しかし、被告人太郎はこれを強行しようとして、他の役員と対立し、他の役員らは年金党を離党して行った。

2 生命共済事業のオレンジ共済について

被告人太郎は、昭和六三年一一月ころから、資金捻出の手段とするために、年金会オレンジ共済の事業として「オレンジ共済」の名称で生命共済事業を始めた。その内容は、掛金を月一七〇〇円にし、死亡時の補償額は、交通事故や病気の場合で一〇〇〇万円などと定め、被告人太郎は、勧誘、申込みの受付と手続、掛金の管理、死亡時の調査など、業務全般を行っており、被告人花子は、パート勤務をする傍ら、被告人太郎の指示で、入出金を帳簿に付けたり、加入者台帳を作成して手伝うなど、被告人両名の二人で始めた。被告人太郎は、オレンジ共済の掛金を政治活動資金などに流用して費消してしまっており、被告人花子も、被告人太郎がオレンジ共済の掛金から使途を明らかにせず金を持ち出すことが度々あったので、掛金が被告人太郎の政治活動資金に流用されていることに気づいていた。

被告人太郎は、平成元年に実施された参議院比例代表選出議員の選挙にも年金党から三度目の立候補をしたが、全員落選し、供託金も没収されてしまった。この時、丁野八郎をいう男から一五〇〇万円を借り、選挙資金として費消したが、その返済を迫られても金がないので、年金会代表甲野花子名義で当座預金口座を開設して、年金会振出の手形小切手を返済に代えて丁野に白地で渡すようになり、その後、丁野に渡した手形小切手の決済に苦慮するようになった。被告人太郎は、選挙で借金を重ねて、多額の手形小切手の債務にも追われるようになり、また、オレンジ共済の掛金も費消してしまい、もし、交通事故などで加入者が死亡したときは、補償金が支払えなくなって騒ぎになると不安に感じ、まとまった金を集める必要を感じるようになって、平成二年ころ、「オレンジ年金」という預り金事業を考えついた。それは、オレンジ共済のように低額の掛金を多くの人から集めるのではなく、利殖の積立であり、高金利を約束して、一〇万円以上のまとまった金を不特定多数の客から集めるという違法な事業であった。

3 預り金事業のオレンジ年金について

被告人太郎は、オレンジ年金の具体的な内容を、一〇万円を下限として、一年期限で、金利を年12.04パーセントに設定した。金利の設定は、当時の郵便貯金の金利が年六パーセント程度であったので、その二倍に設定して客を引き寄せ、小数点以下の端数「.04」は、もっともらしく見せるために適当に考えて入れた。被告人太郎は、これを被告人花子に説明したところ、被告人花子は、「そんな銀行みたいにお金を集めていいの。そんな高い利子を払えるんですか。返せないのにお金を預かるわけにはいかないでしょう。」などと言って一度は反対したが、被告人太郎は、「心配はいらない。お前は余計なことは考えるな。任せておけ。」などと言って反対を押し切って、平成三年二月ころ、預り金事業を開始し、被告人花子もこれを手伝うようになった。当時、オレンジ共済やオレンジ年金の年金会オレンジ共済の事業に従事していた者は、被告人両名、次郎の甲野一家と他に雇用した女性一人の計四名であった。被告人太郎は、金銭の管理、手形小切手等の振出し、口座からの引き落としの管理などもしており、被告人花子は、被告人太郎の計算に従って利息の支払のためにオレンジ共済代表甲野花子名義の口座が開設された三菱銀行人形町支店に行ったり、入出金の帳簿付けを行っていた。次郎は、ワープロでの文書作成の事務などを行っていた。その後、被告人花子は客からの入金の確認も行うようになり、元本額、元本入金日、利息支払日、利息額なども帳簿に付けて把握するようになった。受け入れたオレンジ年金の預り金については、受け入れるや被告人太郎の債務の支払や生活費、経費などに費消してしまい、預り金の運用は全くしていなかった。しかし、多くの客が集まったわけではなく、細々としたものであり、依然として、資金繰りは厳しい状態が続いていた。

4 オレンジ年金の代理店制度の導入について

乙川は、貸金業を営んでいたものであり、丁野から持ち込まれる年金会振出の手形小切手を割り引いていたが、平成三年後半から平成四年前半にかけて、その枚数が増えて行き、そして、当座預金の預金残高が不足して、依頼返却が頻発するようになった。平成四年三月下旬ころ、丁野が行方をくらましていなくなり、平成四年四月一日、ついに年金会の小切手が不渡りになった。そこで、乙川は、同月二日ころ、年金会の小切手の支払を求めるため、被告人太郎の住居を訪れた。被告人花子と次郎も在宅の場で対応した被告人太郎は、乙川に対し、「丁野のために預金も全部はたいて使い果たした。客から預った金までつぎ込んだ。丁野から取ってくれ。」、「借金が一億くらいある。」などと言って、乙川に支払う金のないことを説明し、金ができるのはオレンジ共済やオレンジ年金での入金しかないと話して、オレンジ共済やオレンジ年金の仕組みを説明した。後日、乙川は、年金会の手形小切手の金を回収しなければならないと考えるうち、年金会オレンジ共済の事業に代理店制度を導入し、被告人太郎に借金を返済させるとともに、自分は代理店加入者が年金会オレンジ共済に支払う契約金の一部を報酬として得ようと考え、被告人太郎らに、代理店制度を導入して勧誘すれば、借金の返済資金が容易に得られる旨提案した。被告人太郎は、当時、借金返済のための金策に苦しんでおり、その返済資金や、平成四年七月の参議院議員選挙に立候補するための選挙資金が容易に得られると考え、代理店制度導入の提案に賛成し、次郎も、「代理店開拓と言っても、全く金がない。一〇〇万円も権利金を出して、代理店になってくれる人がいるのか。」と懐疑的ではあったが、乙川が、経費は自分の方で負担するので年金会オレンジ共済側に損はない旨説明すると、賛成することになり、被告人花子もその場にいたが、反対することもなく、代理店制度の導入が決まった。

代理店制度導入の話し合いの結果、乙川は、年金会オレンジ共済からの委託を受けて代理店を募集し、代理店との契約期間を三年とし、契約時に代理店が契約金として一〇〇万円(後には一五〇万円に引き上げ)を年金会オレンジ共済に支払い、半額の五〇万円(後には七五万円)は年金会オレンジ共済が預かって解約時に代理店に返還するが、残りの半額五〇万円(後には七五万円)は加盟金として返還せず、乙川が年金会オレンジ共済から報酬として受け取ることになった。そして、オレンジ共済については、毎月の掛金が一七〇〇円であったものを二〇〇〇円に引き上げ、掛金の五〇パーセントを代理店の獲得手数料とすることにした。補償額も、平成四年秋ころに、病気死亡時五〇〇万円、交通事故死亡時一二五〇万円に変更した。オレンジ年金については、乙川が、代理店の手数料と客への利息を、それぞれ6.02パーセントにすることを提案したが、被告人太郎は、代理店の手数料が少なすぎると言って、代理店への手数料として一〇パーセントを支払うことに決め、客へ支払う利息については、年利6.02パーセントでは、他の金融機関で六パーセント台の金利のものがあると言って、一パーセント上乗せすることを提案し、7.02パーセントに決めた。そして、平成四年六月一日ころ、被告人両名、次郎、乙川の合意の内容を踏まえて、乙川に年金会オレンジ共済の代理店の勧誘を委託する旨の契約書が交わされた。平成四年九月には、九州の代理店から、オレンジ年金という名称では保険のようで勧誘しづらいとの申し入れがあり、被告人太郎は、乙川らと相談して、オレンジ年金からオレンジスーパー定期(なお、平成七年一〇月には「オレンジスーパーファンド」と更に名称が変更されたが、以下、総称して「オレンジスーパー定期」ともいう。)という預金のような名称に変更した。さらに、同年一〇月下旬ころには、東京都中央区日本橋の花岡ビルに年金会オレンジ共済の事務所を移し(以下、「本件事務所」ともいう。)、被告人花子もパート勤務を辞め、年金会オレンジ共済の業務に専従するようになった。そして、年金会オレンジ共済と契約を締結した代理店の数は増加して行った。

この間、被告人太郎は、平成四年七月に実施された参議院比例代表選出議員の選挙にも年金党から四度目の立候補をしたが、代理店制度を始めたばかりで年金会に金はなく、供託金等の選挙関係資金は借金で賄う状況であったが、その時も全員が落選し、供託金は没収されて、また、借金が増加することになった。

5 代理店制度による勧誘システムについて

代理店による勧誘システムというのは、乙川が、オレンジ年金企画の名称で代理店募集の広告を出し、代理店開設の希望者に資料を送るなどした上、代理店契約締結の際、あるいは、代理店開設希望者等を集めた研修会の席上で、オレンジ年金やその後のオレンジスーパー定期は、元本保証で高利率であり、それが可能であるのは外債や国内の消費者金融会社に高利で貸し付けて運用しているからであると虚偽の説明をして、代理店を欺き、代理店に対し、客にオレンジ年金やオレンジスーパー定期に金を預けさせるための方法を教え、代理店は、研修会で配布された契約申込書や説明資料を使い、研修会で教示されたとおりの勧誘文言で客を勧誘するというものであった。

代理店や客に対し行う虚偽の資金運用等の説明内容については、当初、被告人太郎が乙川に「マニラの国債で運用している」という説明をしようとしたのに対し、被告人乙川は、国債なのに都市名ではおかしいと指摘したため、次郎もそのとおりと賛成し、被告人太郎も納得して、代理店や客から聞かれたときはフィリピンの国債での運用を言うことになり、その場にいた被告人花子もそのやりとりを了知していた。しかし、後日、乙川が日経新聞を見て、フィリピン国債が掲載されていなかったことから、その旨を被告人太郎に指摘して、利率が高いところとして掲載されていた韓国、オーストラリア、スペインの外債で運用しているという虚偽の説明をすることとし、また、その後、乙川は、預り金の運用先として、外債での運用では為替の変動があるので、国内の消費者金融会社も加えることを提案し、被告人太郎も次郎もこれを了承した。平成五年六月ころ、乙川は、代理店から、客を勧誘する際に使うセールスマニュアルが欲しいという要望を受け、次郎に相談した上で、セールスマニュアルを作成することになったが、その際、乙川は、従前の外債や消費者金融会社での資金運用以外に、優良貸しビル業者へ資金を貸し付けているという資金運用話も付け加えた。

代理店の数も増加してきて、全国各地の代理店への指導を徹底し、その営業を促進するため、代理店を集めてセールスポイントなどについて指導する研修会が行われるようになった。平成六年二月ころからは年金会オレンジ共済の本部事務所八階の会議室で開かれる研修会の受講が代理店としての営業開始の条件となり、毎月第三水曜日に定例研修会が開かれるようになった。その研修会において、乙川は、平成四年一一月ころから年金会オレンジ共済で働くようになり、年金会オレンジ共済の総務課長になっていた丙山とともに出席して、セールストークを行い、年金会オレンジ共済の組織や業務内容、オレンジ共済の内容、加入の仕方、オレンジスーパー定期の内容、各種書類の書き方、代理店の役割と各種手数料額などについて説明したほか、オレンジスーパー定期について「元本は、間違いなく保証する。受け入れた金は確実に運用している。」などと代理店となる者に対し、資金運用について虚偽の説明をして、客の勧誘方法を教示していた。平成六年の終わりころ、外債や外国預金の利率が下がってきたことやその利率などを正確に把握して行くことが困難であったことなどから、乙川の提案もあって、「国内で、貸しビルのオーナーやサラ金などに年利一七から二〇パーセントくらいで運用している。帝国データーバンクで綿密な調査をしている。」などという説明に変更して行き、平成七年七月に太郎が参議院議員選挙に当選した後は、「年金会オレンジ共済は、新進党の国会議員である甲野太郎の後ろ盾があり、甲野議員の奥さんや息子が役員をしています。客にこの点を強調し、より多くの方から預金をしてもらってください。」などと、被告人太郎が国会議員であることも積極的に利用するようになった。しかし、実際には、セールストークにあるような預り金の運用は一切行われておらず、預り金は、年金会オレンジ共済の運営の経費、人件費、被告人太郎の選挙活動の資金、借金の返済などに費消されてしまっており、利息の支払や満期時の元本の返還は、他の客から新たに受け入れた預り金でなされており、いわゆる自転車操業を行っていた。

6 年金会オレンジ共済の運営、預り金、掛金の金銭等の管理について

被告人太郎は、年金会オレンジ共済が行う生命共済事業であるオレンジ共済や預り金事業であるオレンジスーパー定期の主宰者として行動しており、人事権、金銭出納の決裁権を握っていた。被告人花子は、年金会オレンジ共済の代表者であり、受け入れた預り金や掛金の入金の確認、利息の支払等各種の支払を担当し、資金の管理をしていた。平成五年一月には、被告人両名、次郎、乙川、丙山で話し合い、オレンジスーパー定期の三年ものの金利は7.02パーセントのままにして、一年ものについては利率を引き下げることにし、当初、被告人太郎が6.78パーセントにしようと言ってきたが、次郎が6.78では、数字が続いて語呂が良すぎるということで、一番下の桁の八を半分にして四にしようということで、6.74パーセントに決めた。また、代理店の手数料は、一年ものが六パーセントに、三年ものが九パーセントに変更された。被告人太郎は、平成五年四月ころに、次郎を年金会オレンジ共済の総括本部長に、丙山を総務課長に決め、次郎は、年金会オレンジ共済の事業内容全てについての総括と各従業員に対する仕事の割当て、代理店や乙川との打合せをやるようになり、丙山は、次郎から命令されたものを事務的に整備する役割で、オレンジ共済の管理や各代理店との連絡などを行い、研修会に出席しては、オレンジスーパー定期の内容説明やセールストークの教示を行っていた。

受入れ口座に振込入金された預り金について、その確認は、銀行口座については、平成七年四月ころまで、被告人花子がやっており、それ以後は、主に次郎がやるようになったが、被告人花子がすることもあった。郵便局口座については、郵便局から配達される払込通知票でなされていた。通帳に記帳し、銀行口座等への入金を確認すると、初めのうちは被告人花子が、平成七年ころからは次郎が、事務所で通帳をコピーして、残高部分や引出金額、引出日を消した上で、従業員らに渡し、それを元にして、従業員らがオレンジスーパー定期証書を作成したり、コンピューターに入金日等を登録していた。そして、客へは、オレンジスーパー定期証書と一回目の利息支払の期日とその金額を書いた書面が郵送されていた。利息の支払は、年金会オレンジ共済本部事務所にコンピューターが導入されるまでは、主に、被告人花子が自ら集計し、平成六年七月ころのコンピューター導入後は、コンピューターの情報を元に従業員が計算して被告人花子に報告し、いずれも被告人花子が振込に行っていた。満期解約や中途解約による預り金元本の返還は、コンピューター導入前は丙山が、コンピューター導入後はコンピューターを使って従業員が計算して被告人花子に報告し、代理店手数料は、従業員が計算して被告人花子に報告していた。支払は、いずれも被告人花子が行っており、途中からは、銀行関係については従業員が被告人花子に報告して同女が支払い、郵便局関係については従業員が次郎に報告して次郎が支払うようになり、やがて、平成七年ころからは次郎に全て報告するようになった。

この間、平成五年八月ころには、従前本部事務所として花岡ビル七階を借りていたが、八階を借り増しして、被告人両名の個室や会議室を作り、同年暮れころから、被告人太郎の提案で、被告人両名、次郎、乙川、丙山が参加して役員会と呼ばれる会議が開かれるようになり、役員会では、被告人花子が議事進行をすることもあり、各事業についての報告や代理店手数料の見直し、新商品の開発などの事柄が話し合われていた。平成六年一月二五日の役員会では、被告人太郎が、スーパー定期の契約高について、一〇億円を目標にするようにと気勢を上げていた。

7 平成七年の参議院議員選挙の前後の状況について

被告人太郎は、平成六年九月ころ、平成七年に実施される参議院議員選挙は新進党から立候補する方針を決め、このころから、被告人太郎や次郎が、選挙関係で金が必要と言って、被告人花子に、その管理に係る年金会オレンジ共済の金を要求し、大金が出て行くようになった。平成六年一二月ころ、平成七年の選挙費用を集めるため、オレンジスーパー定期に関して強化月間の名称で勧誘の強化が図られた。そして、被告人太郎は、平成七年七月二三日の参議院選挙に新進党から比例代表一三位の名簿登載順位で立候補し、五度目の立候補で初めて当選して国会議員の地位を得た。

被告人太郎は、当選してからも、本部事務所に顔を出し、その際には、オレンジスーパー定期は国会議員がやっている事業だから信用が高まった、その点を宣伝するようにと丙山に指示したほか、丙山からオレンジスーパー定期の加入状況等について報告を受けていた。そして、丙山は被告人太郎に指示されたことから被告人太郎が国会議員であることを代理店に対して宣伝するようになった。また、選挙後、代理店などにオレンジスーパー定期の預り金は政界の方に使われており、運用なんかしていないからやめた方がいいという内容の電話がかかるようになり、丙山が、これを被告人両名に報告すると、被告人太郎、次郎は、預り金を運用していないにもかかわらず、代理店には、運用をきちんとしているし、利息をしっかり払っているのだから心配するなということで押し通せと丙山に指示していた。

平成七年一〇月ころ、年金会オレンジ共済は年金会オレンジ共済組合として、組合組織になり、被告人花子が理事長に就任し、次郎が専務理事に、丙山が常務理事に、乙川が理事にそれぞれ就任した。そして、オレンジスーパー定期の名称からオレンジスーパーファンドに変更したが、その実質は、オレンジスーパー定期と同じであり、客から受け入れた預り金は運用されることなく、被告人太郎の借金返済、事業の経費、政治資金、生活費等に費消されており、利息や解約金は、新しく受け入れた預り金などから支払われていた。

8 被告人太郎の供述経過

被告人太郎は、逮捕当初は、半生をかけてつかんだ参議院議員の職にありながら詐欺で警察に捕まった屈辱感から、だますつもりはなかったとか、平成六年一一月からはオレンジ共済の業務には関与していなかったとか犯行を否認していたが、その後は、詐欺の事実を認め、客に対して高利で運用するなどとうそをついて預り金を受け入れ、それを運用するようなことはほとんどせずに、預り金のほとんどを負債返済や経費、選挙資金などに使っていたが、そのことを客には話していないという趣旨の供述をして(乙一〇)、年金会オレンジ共済を主宰して預り金事業で多数の客から金員を詐取した事実を認めていたが、公判廷において、再度否認し、預り金の返還や利息の支払は、オレンジ共済の掛け捨ての掛金を流用することによって可能であり、だますつもりはなかったという趣旨のことを供述している。

三  以上認定の事実によれば、被告人太郎は、多額の負債を負い、その負債の返済や選挙資金等を捻出するために、預り金事業について、代理店制度の導入、代理店の手数料、オレンジスーパー定期の利率、虚偽の運用話のセールストークの内容などの決定に深く関わり、その妻である被告人花子、その息子次郎、乙川、丙山と共謀して、オレンジスーパー定期の元本名下に預り金を受け入れるに当たり、元本保証や高利率の利息の約束をし、虚偽の預り金運用話をして代理店をだまし、更に代理店に被害者をだまさせ、被害者から集めた預り金を運用もせずに、預り金を受け入れるや、被告人太郎の借金の返済、選挙資金、生活費等への流用、年金会オレンジ共済事業における利息、人件費等経費への支払で費消していたものであって、詐欺罪が成立するのは明らかであると言わなければならない。

弁護人は、オレンジスーパー定期の預り金の返還や利息の支払は、オレンジ共済の掛け捨ての掛金を流用することによって可能であり、だますつもりはなかった旨、また、オレンジスーパー定期の預り金を運用していないのに、運用しているかのような虚偽の説明については、被告人太郎の知らないところで行われたのであり、共謀はなかった旨主張し、被告人太郎も、公判供述において、右主張に沿う供述をするが、被告人太郎は、検察官調書(乙一〇)において、「共済の掛金は掛け捨てですので、浮いた分をオレンジスーパー定期の金利や返済に充てられますが、そんなことを表から勧誘文句にすれば、客が安心して大金を預けるとは思いませんでした。ですから、国内、海外の金利の高い融資に運用して金利を支払える仕組みであるなどと虚偽の勧誘をしたのです。しかし、この嘘は、いわゆるセールストークであり、要は利息と元本を支払えば客には嘘がばれないと思いました。」旨、そして、「代理店研修の際に使用した、嘘の運用先の内容が記載されているセールスマニュアル添付書類も見ていました。」旨供述しており、これら供述と関係各証拠を対比検討すれば、この点の被告人の公判供述は信用できず、被告人太郎はセールストークのうその内容について知悉していたことが認められるのであり、また、被告人太郎はありもしない預り金の運用の話で客をだまして預り金を交付させているのであるから、弁護人のオレンジ共済の掛金流用についての主張自体本件詐欺罪の成立を妨げる事由ではない上、オレンジスーパー定期の預り金はオレンジ共済の掛金と比べて巨額であって流用によって穴埋めできるような金額でなく、被告人太郎は、オレンジ共済の掛金そのものも、これを受け入れるや、自己の借金の返済、選挙資金、生活費等へ流用して、使い果たしてしまっていたのであって、預り金の返還や利息の支払のため流用する予定であったと主張する掛金自体も費消されていたのであるから、弁護人の右主張は失当である。

第二  被告人花子の弁護人の主張について

被告人花子の弁護人は、被告人花子は、判示認定にあるような、「預り金を確実な運用先で有利に運用する意思も運用している事実もなく、受入れ後は預り金を直ちに被告人甲野太郎らの負債の返済やその遊興費及び年金会オレンジ共済事業のための経費等に充てる意図であるのにこれを秘し、かつ、約定の利息を付した上確実に期日に返還する意思も能力もないのにこれあるかのように装い」、金員の交付を受けた事実はない、すなわち、被告人花子は、年金会の会長の職にはあったが、これは名ばかりのものであり、年金会オレンジ共済の組織運営の根幹に関わるようなことは男の人たちで決めたのであって、被告人花子は何ら参画しておらず、被告人太郎の指示するままに、利息の計算や元利金の振込、解約の処理をしていただけであり、また、被告人花子は、掛け捨てのオレンジ共済事業の儲けがあることの認識があり、預り金事業が破綻することを意識したことはないから、被告人花子には、本件詐欺につき、他の共犯者との共謀や故意はないのであって、無罪である旨主張し、被告人花子も公判廷において、右主張に沿う供述もするので、補足的に説明をする。

前記第一の二で認定した事実のほか、前記各証拠によれば、次の事実が認められる。

被告人花子は、被告人太郎が昭和六一年五月に年金会という政治団体を設立して、年金等の後援組織としたとき、年金会の代表となった。その後、被告人太郎が年金会オレンジ共済として生命共済事業のオレンジ共済、預り金事業のオレンジ年金、オレンジスーパー定期を主宰するについても、その事業を手伝い、平成四年四月に乙川が不渡りとなった年金会の手形小切手の支払を求めに来た後、被告人太郎らと年金会オレンジ共済について代理店制度を導入する話し合いの際にも、その場にいたが、反対することもなく、同年六月の乙川との代理店に関する契約を締結するに際しても、年金会代表として契約書に署名しており、平成四年一〇月に年金会オレンジ共済の事務所が花岡ビルに移ってからは、被告人太郎の指示で、年金会オレンジ共済事業に専従し、預り金や帳簿の管理をするようになった。また、平成五年一月ころから、毎月代理店を集めて研修会を開催するようになり、被告人花子は、その研修会で最初に挨拶をし、その後、乙川、丙山らが代理店にセースルトークを教えていたが、被告人花子も嘘の運用先などの内容が記載されているセールスマニュアルを見て知っていた。そして、被告人花子は、検察官調書(乙三一)において、「私は、集まってきた預り金の全てを把握しており、その支出の管理をしていましたので、高利子が払える根拠となる有利な運用などしていなかったのは、分かっており、預り金を経費などに使うばかりか、太郎の選挙資金などに大金を使っていたのも分かっていましたので、まさに客をだまして大金を取っているのが分かっていました。しかし、自分が日々、人をだましているなどとは思いたくなく、国会議員を目指す太郎がいつか何とかしてくれる、つまり何か運用方法を考慮してくれるという希望を持ちながら手伝っていたのです。」と供述しており、預り金を何の運用もしないで、日々、ただ費消して行くだけであり、いずれは破綻する仕組みであることを知悉していた。平成七年七月の参議院議員選挙以後は、次郎が選挙の後始末だなどと言って連日にように金を持ち出すので、出金先不知となり、帳簿上出金の摘要欄が書けない空白のままの帳簿になって行き、通帳も次郎に預けるようになった。

右事実によれば、被告人花子は、乙川、丙山らが元本保証や高利率の利息の約束をし、虚偽の資金運用話をして代理店をだまし、更に代理店に被害者をだまさせ、被害者から集めた預り金や掛金を、主宰者である被告人太郎が何の運用することもなく、ただ費消して行くだけの実態であることを知悉しながら、年金会の代表として振る舞い、被告人両名、次郎、乙川、丙山で、預り金事業の事柄が話し合われる年金会オレンジ共済の役員会にも出席し、被告人太郎、次郎とともに甲野一家で預り金の金銭管理という中枢事務を取り仕切っており、また、本件犯行について自白していることなどにかんがみると、年金会オレンジ共済の組織運営に何ら参画しておらず、また、預り金事業が破綻することを意識したことはないなどと述べる被告人花子の公判供述は信用できず、被告人花子には、本件詐欺につき、他の共犯者との共謀や故意を認めるのが相当であって、弁護人の主張は失当である。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為のうち、別表番号六及び一二はいずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、二四六条一項に、別表番号一ないし五、七ないし一一及び一三ないし五八はいずれも刑法六〇条、二四六条一項に、それぞれ該当するが、別表番号三六及び三九はいずれも一個の行為が二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により別表番号三六については、一罪として犯情の重いoに対する詐欺罪の刑で処断し、別表番号三九については、一罪として犯情の重いsに対する詐欺罪の刑で処断し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い別表番号一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人甲野太郎を懲役一〇年に、被告人甲野花子を懲役五年に処し、同法二一条を適用して、被告人両名に対し、未決勾留日数中各七五〇日を、それぞれその刑に算入し、訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により別表記載のとおり各被告人に負担されることとする。

(量刑の事情)

本件犯行は、被告人両名が、次男の次郎や乙川、丙山と共謀の上、年金会オレンジ共済の名称のもと、代理店を利用するなどして、元本保証、高金利を約束し、預り金名下に、多数の者から、長期間にわたり、莫大な現金をだまし取ったという大型詐欺事犯である。

本件犯行は、被告人太郎が年金会オレンジ共済の事業主宰者となり、被告人花子が年金会オレンジ共済の代表者となり、次郎が総括本部長等となって、預り金の管理、利息の支払等の資金管理を甲野一家で行い、丙山が総務課長として経理以外の事務を担当するなどして、年金会オレンジ共済の中枢を構成し、乙川はオレンジ年金企画の代表となり、専ら、年金会オレンジ共済の代理店を勧誘して、被告人らが、代理店に虚偽の説明をさせて客をオレンジスーパー定期に勧誘させ、預り金をオレンジ共済代表者甲野花子名義の口座に振り込ませるという方法などで敢行されたものである。被告人らは、雑誌などに広告を載せ、高額の手数料を約束して、広く代理店を募集し、研修会では代理店をだまし、更に代理店に客をだまさせ、元本保証、高金利をうたい文句にオレンジスーパー定期を勧誘し、そして、高金利に疑問を抱く者に対しては、外債で運用したり、融資先は消費者金融会社であるなどと、資金運用について巧みな欺罔を行い、多数の者から預り金名下に多額の現金をだまし取ったのであって、低金利時代に少しでも高利率の利殖先を求める人々の弱みにつけ込んだ卑劣な犯行である。また、被告人太郎が参議院議員選挙に当選した後は、国会議員であることをオレンジスーパー定期勧誘の宣伝に積極的に利用して犯行を大々的に敢行し、国民の国家議員に対する信頼を悪用し、益々、被害を増大させて行ったのであり、そして、客から受け入れた預り金の資金運用を行うことはなく、預り金が入ると、被告人太郎の借金の返済、選挙資金、生活費等への流用、オレンジスーパー定期の利息の支払、人件費等経費への充当で費消しており、いずれは破綻するのが明白であることなどを知悉しながら、いわゆる自転車操業の発覚を遅らせるために、更に客の勧誘に力を入れ、多数の従業員を雇用し、複数の関連会社を設立し、客ごとに帳簿を作成し、利息の支払日を把握するためにコンピューターを導入するなどして組織を整えて行き、代理店や客をだますために日本橋の貸しビルのワンフロア全部を借りて見栄えの良い事務所を構えるなどして、客から金をだまし取っていたものであり、年金会オレンジ共済はまさに詐欺を行うことを目的とした詐欺組織そのものであると言っても過言ではない。年金会オレンジ共済が多数の客から受け入れた預り金は巨額に上り、本件は大規模に敢行された極めて悪質な組織的犯行であって、厳しく非難されなければならない。そして、本件被害額は総額で六億六五五四万円余りと巨額である上、被害者一人当たりの被害額でも単純平均で約一九〇〇万円余りと多額であり、被害者となった者の中には、本人と両親の有り金全部、工場の営業資金、事業資金、実父、養母、兄、娘、娘婿の貯金、震災で被害を受けた家の修復のための資金、子供の教育資金や老後の生活のために一所懸命に蓄えた貯金、マイホーム購入資金などをだまし取られており、将来の生活設計が狂ってしまった者や将来を思うと途方に暮れる者がいて、被害者らの怒りは非常に大きく、処罰感情には極めて厳しいものがある。

被告人太郎は、多額の負債を負い、その負債の返済や選挙資金等を捻出するために、年金会オレンジ共済での預り金事業を思いつき、それを主宰した本件犯行の首謀者であり、本件犯行によって集めたオレンジスーパー定期の預り金は、甲野一家が管理して自由に支出し、利得したもので、被告人太郎は、専ら自己の負債の返済、選挙資金等に費消し、また、次郎にも自由な費消を許していたのであり、自己が国会議員に当選した後は、国会議員への信頼を悪用して、犯行に利用するようにと自ら共犯者に積極的に指示して被害を拡大させ、公判廷においては、本件犯行により巨額の被害を生じさせたにもかかわらず、不合理な弁解をして罪障感に乏しいことなどにかんがみると、犯情は悪質であり、その刑事責任は共犯者の中で最も重大であると言わなければならない。したがって、これまで前科前歴がなく、その年齢、健康状態など、被告人太郎のために酌むべき諸事情を十分に考慮しても、主文掲記の刑に処するのを相当とする。

また、被告人花子は、被告人太郎らが、元本保証や高利率の利息の約束をし、虚偽の資金運用話をして客をだまして集めた預り金を何の運用することもなく、ただ費消して行くだけの実態であることを知悉しながら、年金会の代表として振る舞い、また、被告人太郎、次郎とともに甲野一家で預り金の金銭管理という中枢事務を取り仕切り、オレンジスーパー定期の預り金事業が詐欺行為であることが発覚しないように、客への利息や解約返戻金の支払事務を確実に励行するなど本件犯行において重要な役割を果たしており、また、預り金の一部を自分自身のためにも費消し、次郎の巨額の支出を黙認していることなどにかんがみると、甲野一家の一員として、犯情はよくなく、その刑事責任を軽く見ることはできない。したがって、夫である被告人太郎に本件犯行に巻き込まれた面があることは否定できず、また、弁解をする点はあるものの、被害者らに対し謝罪の意を述べて反省の情を示しており、これまで前科前歴がないこと、その他、年齢、健康状態など、被告人花子のために酌むべき諸事情を十分に考慮しても、主文掲記の刑に処するのを相当とする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小倉正三 裁判官森本加奈 裁判官宮田祥次)

別紙<省略>

別表

<省略>

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