大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京地方裁判所 平成9年(特わ)3910号 判決 1998年7月21日

主文

被告人を懲役四年六月及び罰金七〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中二〇〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  山口県吉敷郡小郡町大字下郷<番地略>に居住する分離前の相被告人Aが、平成五年に自己所有の土地を売却譲渡したことに関し、A、分離前の相被告人B及びCと共謀の上、Aの同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地譲渡について、架空の取得費を計上する方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が一億八四三一万五一三五円であった(別紙1―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成六年三月一五日、横浜市青葉区市ヶ尾町二一九六番地所在の緑税務署において、緑税務署長に対し、平成五年分の分離課税による長期譲渡所得金額が七五〇万六八〇〇円で、これに対する所得税額が二一四万六八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成一〇年押第四六九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五五一三万六七〇〇円と右申告税額との差額五二九八万九九〇〇円(別紙1―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  神奈川県三浦郡葉山町下山口<番地略>○○に居住し、平成五年に自己所有の土地建物等を売却譲渡したDと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地建物等の譲渡について、同人の姉及び右土地建物等の所有者であったかのように装い、右姉妹名義で右土地建物等の譲渡に係る所得税の確定申告を行うなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の総所得金額が三六五万四三九二円で、分離課税による長期譲渡所得金額が八〇五万七七五四円であった(別紙2―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成六年三月一五日、同県藤沢市朝日町一番地の一一所在の藤沢税務署において、藤沢税務署長に対し、平成五年分の分離課税による長期譲渡所得について申告せず、同年分の総所得税額が三六五万四三九二円で、これに対する所得税額が六万六二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成一〇年押第五七四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二五三万三三〇〇円と右申告税額との差額二四六万七一〇〇円(別紙2―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  東京都練馬区旭町<番地略>に居住するFの代理人として平成六年に同人所有の土地の売却譲渡及びこれに伴う所得税確定申告手続に関与した同人の長男Eと共謀の上、Fの同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地譲渡について、架空の取得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の総所得金額が二〇三万九四八六円で、分離課税による長期譲渡所得金額が七八一九万五〇九四円であった(別紙3―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成七年三月一四日、同区栄町二三番七号所在の所轄練馬東税務署において、練馬東税務署長に対し、平成六年分の分離課税による長期譲渡所得について申告せず、同年分の総所得金額が二〇三万九四八六円で、これに対する所得税額が一六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の6)を提出し、同日、前記緑税務署において、緑税務署長に対し、同年分の分離課税による長期譲渡所得がなく、同年分の分離課税による短期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の7)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二一五五万一五〇〇円と右申告税額との差額二一五四万九九〇〇円(別紙3―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第四  東京都大田区上池台<番地略>に居住し、平成六年に自己所有の土地建物を売却譲渡したGと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地建物の譲渡について、架空の取得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が二七五九万二三三四円であった(別紙4―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成七年三月一四日、前記緑税務署において、緑税務署長に対し、平成六年分の分離課税による長期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の9)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六二二万一七〇〇円(別紙4―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第五  東京都大田区石川町<番地略>に居住し、平成六年に自己所有の土地を売却譲渡したHと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地譲渡について、架空の取得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が四〇五五万四一二八円であった(別紙5―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成七年三月一四日、前記緑税務署において、緑税務署長に対し、平成六年分の分離課税による長期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の11)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額八九三万五〇〇円(別紙5―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第六  東京都江東区平野<番地略>××ビルに居住し、平成六年に自己所有のマンションを売却譲渡したJ及び右売却譲渡に伴う所得税確定申告手続に関与した同人の夫Iと共謀の上、Jの同年分の所得税を免れようと企て、同人の右マンションの譲渡について、取得費を水増し計上する方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が六八二万三〇四八円であった(別紙6―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成七年三月一四日、前記緑税務署において、緑税務署長に対し、平成六年分の分離課税による長期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の13)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一五四万一五〇〇円(別紙6―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第七  東京都大田区石川町<番地略>に居住し、平成七年に自己所有の土地を売却譲渡した分離前の相被告人Kと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地譲渡について、架空の必要経費を計上する方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が九八四五万三〇七二円であった(別紙7―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成八年三月四日、東京都世田谷区玉川二丁目一番七号所在の玉川税務署において、玉川税務署長に対し、平成七年分の分離課税による長期譲渡所得がなく、同年分の短期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の15)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一四三九万六三〇〇円(別紙7―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第八  束京都大田区田園調布<番地略>□□に居住し、平成七年に自己所有の土地建物を売却譲渡したLと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地建物の譲渡について、架空の所得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が三五五八万五六四八円であった(別紙8―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成八年三月四日、前記玉川税務署において、玉川税務署長に対し、平成七年分の分離課税による長期譲渡所得がなく、同年分の分離課税による短期譲渡所得金額が一七六七万八七五〇円の損失で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の20)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、同年分の正規の所得税額八五八万三五〇〇円(別紙8―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第九  東京都大田区田園調布<番地略>に居住し、平成七年に自己が所有する土地及び共有持分を有する土地を売却譲渡した分離前の相被告人Mと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地譲渡について、架空の必要経費を計上する方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の総所得金額が二一一八万一二二四円で、分離課税による長期譲渡所得金額が一億七八四七万二〇九二円であった(別紙9―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成八年三月一五日、同区雪谷大塚町四番一二号所在の所轄雪谷税務署において、雪谷税務署長に対し、平成七年分の分離課税による長期譲渡所得について申告せず、同年分の総所得金額が二一一八万一二二四円で、これに対する所得税額が三〇〇万八七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の16)を提出し、同日、前記玉川税務署において、玉川税務署長に対し、同年分の分離課税による長期譲渡所得がなく、同年分の分離課税による短期譲渡所得が零であり、これに対する納付すべき税額がない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の18)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五四五五万三〇〇円と右申告税額との差額五一五四万一六〇〇円(別紙9―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第一〇  愛知県豊田市平山町<番地略>△△に居住するNの代理人として、平成七年に同人の共有持分を有する土地の売却譲渡及びこれに伴う所得税確定申告手続に関与した同人の父前記Mと共謀の上、Nの同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地譲渡について、架空の必要経費を計上する方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が一億二九一〇万四七四三円(別紙10―1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成八年三月一五日、前記玉川税務署において、玉川税務署長に対し、平成七年分の分離課税による長期譲渡所得がなく、同年分の分離課税による短期譲渡所得が零であり、これに対する納付すべき税額がない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の19)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三六四三万六七〇〇円(別紙10―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第一一  東京都大田区南雪谷<番地略>○×に居住するOの代理人として平成八年に同人所有の土地建物の売却譲渡及びこれに伴う所得税確定申告手続に関与した同人の夫Pと共謀の上、Oの同年分の所得税を免れようと企て、同人の右土地建物の譲渡について、架空の取得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が五五七二万六四四四円であった(別紙11―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成九年三月五日、前記練馬東税務署において、練馬東税務署長に対し、平成八年分の分離課税による長期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の22)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五四八万四六〇〇円(別紙11―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第一二  東京都大田区田園調布<番地略>に居住し、平成八年に自己所有のマンションを売却譲渡したQと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右マンションの譲渡について、架空の取得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が四〇一六万五一一五円であった(別紙12―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成九年三月五日、前記練馬東税務署において、練馬東税務署長に対し、平成八年分の分離課税による長期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の24)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七六九万六八〇〇円(別紙12―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第一三  横浜市神奈川区片倉町<番地略>に居住し、平成八年に自己所有のマンションを売却譲渡したRと共謀の上、同人の同年分の所得税を免れようと企て、同人の右マンションの譲渡について、架空の取得費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、実際は、同年分の分離課税による長期譲渡所得金額が一七五六万二三一一円であった(別紙13―1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成九年三月五日、前記練馬東税務署において、練馬東税務署長に対し、平成八年分の分離課税による長期譲渡所得金額が零で、これに対する納付すべき所得税はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の26)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三二五万五二〇〇円(別紙13―2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第一四  平成七年三月一四日ころ、前記緑税務署において、同税務署個人課税第五部門の統括国税調査官として譲渡所得に係る所得税の賦課及び減免並びにその課税標準の調査を含む資産税事務の総括及び調整等の職務に従事していたSに対し、J、F、G及びHの平成六年分の譲渡所得に係る所得税の確定申告につき、いずれも架空経費等の計上により譲渡所得を過少に申告した事実を黙認し、調査の実施を回避又は妨害するなどしてその発覚を未然に防止してもらいたい旨請託し、その謝礼として、その場でSに対し、現金五〇〇万円を供与し、もって同人の前記職務に関し賄賂を供与し

第一五  平成八年三月一五日ころ、前記玉川税務署において、同税務署資産課税第一部門の統括国税調査官として前同様の職務に従事していた前記Sに対し、M、N、K及びLの平成七年分の譲渡所得に係る所得税の確定申告につき、いずれも架空経費等の計上により譲渡所得を過少に申告した事実を黙認し、調査の実施を回避又は妨害するなどしてその発覚を未然に防止してもらいたい旨請託し、その謝礼として、その場でSに対し、現金八〇〇万円を供与し、もって同人の前記職務に関し賄賂を供与し

たものである。

(法令の適用)

一  罰条

第一ないし第六の各所為

平成七年法律第九一号による改正前の刑法六五条一項、六〇条、平成一〇年法律第二四号による改正前の所得税法二三八条一項(第一、第三ないし第五の各所為については更に情状により所得税法二三八条二項、第三の所為については更に同法二四四条一項)

第七ないし第一三の各所為

刑法六五条一項、六〇条、平成一〇年法律第二四号による改正前の所得税法二三八条一項(第七ないし第一二の各所為については更に情状により所得税法二三八条二項、第一〇及び第一一の各所為については更に同法二四四条一項)

第一四の所為

平成七年法律第九一号による改正前の刑法一九八条

第一五の所為

刑法一九八条

二  刑種の選択

第一ないし第一三の各罪 懲役刑及び罰金刑

第一四、第一五の各罪 懲役刑

三  併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑 刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の懲役刑に法定の加重)

罰金刑 刑法四八条二項

四  未決勾留日数の算入 刑法二一条

五  労役場留置 刑法一八条

六  訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

本件は、税理士であった被告人が、納税義務者の不動産譲渡所得に係る所得税の確定申告に際し、多数回にわたり納税義務者らと共謀の上、架空の必要経費を計上するなどの方法により多額の所得税をほ脱し、これに関連する確定申告について、統括国税調査官に対して、過少申告の事実を黙認し、あるいは調査の実施を回避又は妨害するなどしてもらいたい旨請託して、合計一三〇〇万円を贈賄したという事案である。

判示所得税法違反の犯行については、被告人は、一三名という多数の納税義務者の脱税に関与し、そのほ脱税額の合計は二億二一〇九万円余にのぼり、ほ脱率も九八パーセントを越える高率である上、被告人は、多くの事案において、当初は確たる脱税の意思を有していなかった納税義務者らに対し、税金を安くできるなどといって脱税の決意をさせて脱税を請け負い、脱税の方法、申告税額を決めた上で申告行為をするなど各犯行において主導的役割を果たしている。また、脱税の報酬及び納税に充てる実費の合計という名目で、納税義務者らから合計一億三〇〇〇万円余の高額の現金を受け取りながら、わずか五〇〇万円余を右納税義務者らの納税に充てたのみで、ほとんどの事案については申告税額がない旨の確定申告をし、大半を自己の報酬として利得しているのであって、その犯情は非常に悪質である。

判示贈賄の犯行については、被告人は納税義務者らから脱税を請け負って得た報酬の一部を賄賂に充てたもので、贈賄額は合計一三〇〇万円と多額である上、被告人は、かねてから脱税協力をしてもらっていた他の国税調査官の協力が得られなくなったことから、国税調査官出身の税理士という自己の立場を利用するなどして、統括国税調査官であったSに積極的に近づき、同人を巧妙に取り込んで脱税協力を行わせたものであり、大胆で悪質な犯行である。

以上のとおり、被告人は、税理士として、申告納税制度の理念に従い、法令に基づいた適正な税務申告に協力すべき立場にありながら、その使命を放棄し、その専門知識や人脈を悪用して、常習的な脱税請負人として本件各犯行に及んだもので、被告人の刑事責任は誠に重大であるというほかはない。

他方、被告人は、公判廷において、本件各犯行を認めて反省の態度を示していること、二人の納税義務者らに対し、受け取った報酬のうち合計一三〇〇万円を返還していること、本件発覚後、税理士会を脱会して廃業していること、被告人には前科前歴がないこと、高齢であること、旧友が被告人の社会復帰後の更生に助力すると約束していることなど被告人のために有利な事情も認められる。

そこで、これらの諸情状を総合勘案して、主文のとおり量刑した次第である。

(裁判長裁判官池田耕平 裁判官成川洋司 裁判官髙橋彩)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例