大判例

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東京地方裁判所 平成9年(特わ)633号 判決 1997年7月14日

本店所在地

東京都新宿区四谷四丁目二八番二〇―七〇二号

株式会社

(右代表者代表取締役 十河美代子)

本籍

東京都中央区銀座七丁目一番地七

住居

東京都千代田区一番町二二番地七一番町ロイアルハイツ四〇三号

プロデューサー兼演出家(元会社役員)

石井ふくこ

大正一五年九月一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介、弁護人矢田次男(主任)、同柴田敏之各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社邑を罰金三八〇〇万円に、

被告人石井ふくこを懲役一年六月に処する。

被告人石井ふくこに対し、この裁判が確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社邑(平成七年一一月二三日以前の商号は、株式会社ストーンウェル。以下「被告会社」という)は、東京都新宿区四谷四丁目二八番二〇―七〇二号(平成七年一一月二九日以前は東京都豊島区池袋二丁目五一番一四号、同月六日以前は東京都港区赤坂九丁目一番七号、平成四年二月二一日以前は東京都千代田区一番町二二番七号)に本店を置き、テレビ、ラジオの番組、舞台の企画及び製作等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成七年三月二九日以前は四〇〇万円、平成四年四月二日以前は一〇〇万円)の株式会社であり、被告人石井ふくこ(以下「被告人」という)は、平成七年一一月三〇日まで被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の給与手当を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四一七三万八八八七円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、あらかじめ所轄税務署長が延長した確定申告書の提出期限内である平成四年三月三一日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九五〇万八四三六円で、これに対する法人税額が二八〇万五五〇〇円であり、控除税額を差し引くと納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一〇七六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二六〇八万二九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億六九四八万九二〇五円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、前同様に延長された確定申告書の提出期限内である平成六年三月三一日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四四六八万六三四八円で、これに対する法人税額が一五九九万七二五〇円であり、控除税額を差し引くと納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億〇〇三〇万四二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三一一四万六六九〇円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、前同様に延長された確定申告書の提出期限内である平成七年三月三一日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四一五五万〇二九〇円で、これに対する法人税額が一四八二万一二五〇円であり、控除税額を差し引くと納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三〇三九万一六〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

※ 括弧内の乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通(乙二ないし八)

一  北野智子及び豊田美代子の検察官に対する各供述調書

一  検察官、弁護人、被告人及び被告会社代表者共同作成の合意書面

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の登記簿及び閉鎖登記簿(二通)の各謄本並びに閉鎖事項全部証明書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第一〇七六号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  柿崎志伸の検察官に対する供述調書

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の2)

判示第三の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の3)

(法令の適用)

※ 以下の「刑法」は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前のものである。

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとし、さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せらるべきところ、情状によりそれぞれ同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告会社を罰金三八〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、テレビドラマや舞台演劇の企画・製作等を業とする被告会社の代表取締役であった被告人が、架空経費や水増しした経費を計上する方法で被告会社の所得を秘匿し、三事業年度にわたり、合計一億五〇〇〇万円余の法人税を脱税したという事案である。脱税額は右のとおり高額である上、脱税率は各期とも一〇〇パーセントである。犯行の態様は、被告人が、経理担当者に指示して他人名義の架空の給与や水増しした給与を計上したり、知人に依頼して虚偽の請求書・領収証を入手し、あるいは、自ら架空の領収証を作成して、テレビドラマや舞台演劇の架空の製作費を計上するなどして所得を秘匿した上、各事業年度とも納付すべき法人税額を零とする虚偽過少申告をしたというものであり、計画的で悪質である。本件犯行の動機をみても、被告人が俳優やスタッフなどに対する祝儀金等に充てる資金を捻出するとともに、ゆとりある老後の生活のための資金を貯蓄することなどであったというのであって、格別斟酌すべき点を見出すことはできない。これらの事情を考え併せると、被告人及び被告会社の刑事責任は重いと言うべきである。

しかしながら、被告人は、調査階段から本件各犯行を認め、事実関係を率直に供述するなど、反省の態度を示しており、被告会社は、修正申告の上、本件各事業年度の本税、附帯税等を完納し、また、経理処理を刷新するため、テレビドラマや舞台演劇の企画・製作のための契約の態様を変更し、新たな税理士を顧問とし、その細かい指導に従うこととしている。さらに、被告人は、多くの業績を有する著名なプロデューサーであるところ、自らの社会的責任を自覚し、すでに被告会社の代表取締役及び取締役を退任し、テレビドラマの仕事を降板しているほか、本件がマスコミに大きく取り上げられ、世論の批判にさらされるなど、ある程度の社会的制裁を受けていること等、被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき諸事情も認められる。

そこで、当裁判所は、以上のほか審理に現れた一切の事情を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑―被告会社に対し罰金五〇〇〇万円・被告人に対し懲役一年六月)

(裁判長裁判官 安廣文夫 裁判官 山口雅高 裁判官 高橋彩)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

株式会社 邑

<省略>

株式会社 邑

<省略>

株式会社 邑

<省略>

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