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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)12号 判決 1999年1月22日

東京都新宿区新宿二丁目六番一〇号

原告

中山浩夫

右訴訟代理人弁護士

宮崎好廣

東京都新宿区三栄町二四番地

被告

四谷税務署長 赤羽修

右指定代理人

小原一人

松原行宏

佐々木喜一

佐藤謙一

古瀬英則

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、平成七年二月二八日付でした、次の各処分を取り消す。

1  原告の平成元年分の所得税の更正処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)

2  原告の平成二年分ないし平成五年分の所得税の各更正処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)及び各重加算税賦課決定処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)

第二事案の概要

本件は、原告が平成元年分ないし平成五年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税についてした申告には、貸付金の利息及び損害金(以下「利息等」という。)にかかる雑所得が計上されていないことなどを理由として、被告が本件係争各年分の所得税の各更正処分及び各重加算税賦課決定処分をしたのに対し、原告が右各処分のうち、審査裁決により全部取り消された平成元年分の所得税の重加算税賦課決定処分を除くその余の各処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を不服として、その取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実(当事者間に争いがない。)

1  原告は、肩書地に所在する建物(以下「本件建物」という。)を松井紀(以下「松井」という。)から賃借し、同建物において質屋業を営む青色申告者であった。

2  本件建物の各部屋の配置等は別紙「本件見取図」記載のとおりであり、右各部屋のうちの一部の床面積及び用途は次のとおりである。

(一) 一階の玄関の床面積は四・三〇平方メートルであり、ショーウインドーが設置されている。

(二) 一階の土間の床面積は三・七四平方メートルであり、カウンターがある。

(三) 一階の四畳半の間(本件見取図A)の床面積は六・三八平方メートルであり、事務机及び質屋業に係る書類等がおかれ、右(二)の土間のカウンターを挟んで客と応対できるようになっており、質屋業に係る仕事は専らこの部屋で行われている。

(四) 二階の六畳間(本件見取図D)の床面積は九・七二平方メートルであり、原告が寝室として使用している。

(五) 二階の八畳間(本件見取図E)の床面積は一三・六八平方メートルであり、貴家サトエ(以下「貴家」という。)が使用している。右Eの部屋にはクーラー一台(以下「本件クーラー」という。)が取り付けられている(甲八、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨)。

(六) 一階及び二階の倉庫の床面積は各一八・四八平方メートルであり、質物を保管している。

(七) 一階には、廊下、便所及び浴室等がある。

3  原告は、平成元年から平成五年(以下「本件係争各年」という。)まで、松井に対し、本件建物の賃料(以下「本件賃料」という。)を次のとおり支払った。

(一) 平成元年 一六六万八〇〇〇円

(二) 平成二年 一七九万三一〇〇円

(三) 平成三年 一八三万四八〇〇円

(四) 平成四年 一八三万四八〇〇円

(五) 平成五年 一八三万四八〇〇円

4  原告は、植原貢及び有限会社ミツギエンタープライズ(以下「ミツギエンタープライズ」といい、植原貢と併せて「植原貢ら」という。)に対し金銭の貸付け(以下「本件貸付け」という。)を行ったが、本件貸付けの経過は次のとおりである。

(一) 平成元年六月二六日

原告は、同日、植原貢らに対し六六〇〇万円を貸し渡し(以下、この貸金を「本件当初貸金」という。)、植原貢の妻植原恭は、借用元金として六六〇〇万円を受領した旨の領収書を作成し、原告に交付した。

(二) 平成元年六月二七日

原告は、植原貢らとの間で、同日、同人ら所有の不動産に、極度額七〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、同年一二月五日付で根抵当権設定登記を経由した。

(三) 平成元年九月一一日

原告は、同日、植原貢らとの間で、本件当初貸金について、次の内容の「抵當付債務辨濟契約公正証書」を作成した。

(1) 債権者・原告、債務者・植原貢ら、連帯保証人・植原恭

(2) 借入年月日 平成元年六月二六日

(3) 借入金額 六六〇〇万円

(4) 弁済期限 平成元年九月二六日

(5) 利息 利率・一割五分、支払期日・元金弁済と同時

(6) 損害金 利率・日歩八銭二厘、起算日・弁済期限の翌日

(四) 平成元年一二月二六日

植原貢らは、弁済期限が到来しても、本件当初貸金及び利息などを全く支払わなかった。植原貢らは、原告との話合いにより、同日、同人らが同日現在八五八〇万円を借用していることを確認し、平成二年三月二六日までに右借入金を返済する旨を記載した「借用証並に念書」を作成し、これを原告に差し入れた。

(五) 平成二年三月二六日

植原貢らは、原告との話合いにより、同日、同人らが同日現在九八八〇万円を借用していることを確認し、同年五月二六日までに右借入金を返済する旨、及び弁済期日までに返済しなかったときには、弁済期日以降の損害金とともに同年三月二六日以降の損害金も支払う旨を記載した「借用証並に念書」を作成し、これを原告に差し入れた。

(六) 平成二年一一月二六日

植原貢らは、原告との話合いにより、同日、同人らが一億三九〇〇万円を借用していることを確認し、右借入金について植原貢ら所有の不動産に対し抵当権を設定し、平成三年三月二六日までに右借入金を返済する旨を記載した「金圓借用抵當權設定契約證書」を作成するとともに、次の契約事項について公正証書作成嘱託に関する一切の権限を委任する旨記載した委任状を作成し、これらを原告に差し入れた(乙一七、一八)。

(1) 委任者・植原貢ら、代理人・植原恭、債権者・原告、債務者・植原貢、連帯保証人・ミツギエンタープライズ及び植原恭

(2) 貸借金 一億三九〇〇万円

(3) 貸借年月日・平成二年一一月二六日

(4) 弁済期限 平成三年三月二六日

(5) 利息 利率・年一割五分、支払期日 元金弁済と同時

(6) 損害金 利率・日歩八銭二厘、起算日・弁済期限後

(7) 植原貢ら所有の不動産に右債務のため抵当権を設定すること等に関し原告と協定すること

(七) 平成三年六月二七日

原告は、植原貢らとの間で、同日、次の内容の「抵當付債務辨濟契約公正証書」を作成した。

(1) 債権者・原告 債務者 植原貢ら連帯保証人 植原恭

(2) 借入金額一億八三〇〇万円

(3) 借入年月日 平成三年五月二七日

(4) 弁済期限 平成三年八月二七日

(5) 利息 利率・年一割五分、弁済期日・毎月二七日

(6) 損害金 利率・日歩八銭二厘、起算日・弁済期限の翌日

(八) 平成三年一二月九日

(1) 植原貢らは、原告との話合いにより、同日、右(七)の借入金について、同人らが、同年一一月二七日現在二億〇九二〇万円の債務を負担していることを承認し、これを元本として同月二八日以降完済まで年三割の割合による損害金を付加して支払う旨を記載した「債務確認並びに弁済証書」を作成し、これを原告に差し入れた。

(2) 植原貢らは、借用元金として二億〇九二〇万円を受領した旨の平成三年一二月九日付けの領収書を作成し、原告に交付した。

(九) 平成四年二月二六日

原告は、植原貢ら所有の不動産について、右(八)の債務承認契約の同日設定を原因として、次の内容の抵当権設定登記を経由した。

(1) 抵当権者・原告、連帯債務者・植原貢ら

(2) 債権額 二億〇九二〇万円

(3) 利息 年一五パーセント

(4) 損害金 年三〇パーセント

(一〇) 平成四年二月二七日

植原貢らは、原告との話合いにより、同日、同日現在二億二四八九万円の債務を負担していることを確認し、右元本を同年五月二七日までに返済する旨、完済まで年三割の損害金を付加して支払う旨、及び同年二月二七日以前に約束記載したことはすべて有効であることを了承確認する旨を記載した「債務確認並びに弁済証書」を作成し、これを原告に差し入れた。

(一一) 平成四年三月三日

(1) 植原貢らは、原告から借用した二億三〇〇〇万円を返済するため、高崎市民生活共同組合に対し、借入れの申込みをしたところ、植原貢ら所有の不動産に前記(二)で述べた七〇〇〇万円の根抵当権設定登記がなされていることを同組合から指摘された(乙三、一三、星憲雄)。そこで、同人らは、同日、原告に対し、右登記の抹消を依頼し、その際、右登記の抹消を依頼しに来た旨、及び同月二三日までに同組合から七〇〇〇万円を借りて、原告に返済する旨を記載した念書を原告に差し入れた。

(2) 原告は、右念書に基づき同月四日、右七〇〇〇万円の根抵当権の抹消登記手続を行ったが、植原貢らは七〇〇〇万円を返済しなかった。

(一二) 平成五年六月一日

原告は、植原貢らとの間で、次の内容の「抵当付債務弁済契約公正証書」を作成した。

(1) 債権者・原告、債務者・植原貢ら、連帯保証人・植原恭

(2) 借入金額 二億六九〇〇万円

(3) 借入年月日 平成五年三月三日

(4) 弁済期限 平成五年八月三日

(5) 利息 利率・年一割五分、弁済期日・毎月三日

(6) 損害金 利率・日歩八銭二厘、起算日・弁済期限の翌日

(一三) 平成五年六月七日

原告は、同日、群馬銀行本店において、植原恭から三〇〇〇万円の返済を受け、これを植原貢らに対する同日現在の貸金元本に充当した。

5(一)  原告は、本件各係争各年分の所得税について、別表一ないし同5の各確定申告欄記載のとおり申告をした。

(二)  原告は、平成二年において、八万五〇〇〇円で本件クーラーを五年間の分割払いで購入し、平成二年分ないし平成五年分の事業所得の金額の計算上各一万七〇〇〇円を必要経費に算入している。

(三)  原告は、貴家に対し、給料として、平成二年に六〇万円、平成三年に七二万円、平成四年に八八万円、平成五年に八四万円を支払ったとし、これらを右各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入している。

(四)  原告は、本件係争各年に支払った前記3記載の本件賃料の一部(九〇パーセント相当額)を、本件係争各年分の事業所得の計算上必要経費に算入している。

6  被告は、原告が毎年損失申告書を提出していること、原告が質屋業を営む傍ら、第三者に対する金銭の貸付けを業として行っている疑いがある旨の情報があるにもかかわらず、原告の本件係争各年分にかかる所得税の確定申告書に貸金利息に関する記載がないことから、右申告が適正であるかどうかを調査する必要があると認め、被告所部の職員(以下「担当職員」という。)に調査を命じた(乙六ないし一〇、二三、証人星憲雄)。

担当職員は、平成六年五月一二日から同年一二月一三日まで、原告方店舗に臨場するなどして調査を行った。右調査結果の概要は、次のとおりである(甲九、乙一ないし五、二三、二四、証人星憲雄)。

(一) 原告は、質屋開業のころから、質屋営業の傍ら第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っていた事実があること、昭和四〇年ないし昭和四五年ころには、約二億円の貸付残高があったことなどが確認された。

なお、担当職員が貸付金の資金源について質問したところ、原告は金主がいる趣旨のことを述べたが、その氏名は明らかにできないとして回答を拒絶した。

(二) 担当職員が、原告に対し、右貸金に関する帳簿、書類の提示を求めたところ、原告からは、昭和四二年ないし昭和四八年ころに金銭を貸し付けていたことを示すメモ、朝日生命が平成六年五月三〇日付けで発行した阿部についての死亡保険金支払証明書(原告は、朝日生命から、平成四年一二月八日付けで阿部の死亡保険金一九二五万〇六八二円を受け取っている。)、原告とサスキチ味噌の代表者である小口英夫との間において成立した、原告の同人に対する金銭消費貸借契約に基づく約六一三三万円の貸金債権が存在することを確認し、同人がこれを支払う旨の内容の昭和五九年一二月二六日付けの和解に係る調書等のほか、本件貸付けに関する各資料、すなわち、植原恭が原告あてに発行した平成元年六月二六日付けの借用元金六六〇〇万円の領収書、原告を根抵当権者とし、植原貢らを債務者兼根抵当権設定者とする同月二七日付けの根抵当権設定契約証書、連帯債務者である植原貢が原告に差し出した平成四年三月三日付けの念書、原告を債権者とし、植原貢らを連帯債務者とする平成五年六月一日付けの「抵当付債務弁済契約公正証書」の各書類が提示された。しかし、原告からは、それ以外の資料の提示はなく、原告は、貸金に関する明細等の記録・保存はない旨申し立てた。なお、原告の依頼を受けた小西税理士は、平成六年六月二九日、被告に対し、「年月日」、「借用証等」、「追貸金」、「利息」及び「計算根基」の各欄に金額等の記載がある「参考」と題する書面を提出し、右書面は、本件貸付けにかかる資料から、右税理士において作成したものである旨を担当職員に説明したが、その基礎となる資料は提示されなかった。

(三) 原告は、本件貸付けに係る元金は六六〇〇万円であること、植原貢らに対する追加融資はないこと、同人らから平成五年中に三〇〇〇万円の返済を受けたことを説明した。担当職員は、平成六年六月九日、原告に電話を架け、本件貸付けに関して、本件当初貸金の貸付日が平成元年六月二六日であり、貸付元金が六六〇〇万円、利息が年一五パーセント及び損害金が年三〇パーセントであったことに相違ないか否かを確認したところ、原告はこれを肯定した。

なお、本件当初貸金六六〇〇万円を利息の利率年一五パーセント、損害金の利率日歩年二九・九三パーセント(日歩八銭二厘)として複利計算すると、本件当初貸金の元金と利息等の金額の合計額は右公正証書記載の債権額とほぼ同額になる。

(四) 担当職員が、平成六年一二月六日、原告方店舗に臨場し、原告に対し、本件係争各年分の事業所得に係る帳簿書類等の提示を求めたところ、原告は、質物台帳、人名簿及び古物台帳の作成並びに必要経費の領収書の保存はしているが、現金出納帳、売上帳及び経費帳は作成していない旨申し立てた。

7  担当職員は、平成六年一二月一三日、今まで原告から提示を受けた資料に基づいて本件貸付けに係る所得金額を算定せざる得ない旨説明し、右金額による修正申告のしょうようを行ったが、原告は、修正申告には応じられない旨回答した。

そこで、被告は、原告に対し、平成七年二月二八日付けで、所得税法(以下「ほう」という。)一五〇条一項一号に基づき、原告の平成元年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消すとともに、事業所得については、本件賃料の一部及び医療費を否認し、また、本件貸付けに係る利息等のうち利息制限法所定の制限内の部分を本件係争各年分の雑所得として課税の対象とすることとし、本件各係争年分の原告の所得税について、別表1ないし同5の「更正・賦課決定」欄記載のとおり各更正処分及び各重加算税賦課決定処分を行った。

8  原告は、右各更正処分及び重加算税賦課決定処分を不服として、平成七年四月二八日、被告に対し異議申立てをしたが、被告は、同年八月四日付けで右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

原告は、右決定を経た後の右各処分になお不服があるとして、同年九月八日に国税不服審判所長に対し審査請求をした。同所長は、平成八年一〇月二一日付けで次のとおりの裁決をした(以下、本件係争各年分の所得税に係る更正処分のうち、右裁決により一部取り消された後のものを「本件各更正処分」といい、本件係争各年分のうち平成元年分を除くその余の各年分の所得税に係る各重加算税賦課決定処分のうち、右裁決により一部取り消された後の各重加算税賦課決定処分を「本件各決定処分」といい、本件各更正処分と本件各決定処分とを併せて「本件各更正処分等」という。)。

(一) 平成元年分の所得税に係る重加算税賦課決定処分を取り消す。

(二) 本件係争各年分の所得税に係る各更正処分のうち、別表1ないし同5の審査裁決の欄記載の各総所得金額及び納付すべき税額を超える部分、及び平成元年分を除くその余の各年分の所得税に係る各重加算税賦課決定処分のうち、別表2ないし同5の審査裁決の欄記載の各重加算税額を超える部分を取り消す。

二  本件各更正処分の適法性に関する被告の主張

被告が主張する原告の本件係争各年分の総所得金額及び納付すべき税額並びにその計算根拠は、以下の1ないし5に記載したとおりであり(かっこ内に「争いがない。」と表記したものは、その金額等について当事者間に争いがないものである。)、また、本件各更正処分が適法であることは、以下の6に記載したとおりである。

1  平成元年分

平成元年分の総所得金額及び所得税額等の算出根拠は、後記(一)ないし(五)に記載するとおりである。

(△は、損失の額を示す。以下同じ。)

(一)事業所得の金額 △二一三万八七二八円

右金額は、次の(1)の総収入金額から(2)の本件賃料の額及び(3)のその他の必要経費を控除して算出した金額である。

(1) 総収入金額 六〇万六三四一円

右金額は、原告が平成元年分の確定申告書の「営業所得の収入金額」欄に記載した金額と同額である。

(争いがない。)

(2) 本件賃料の一部 七二万〇二四二円

右金額は、原告が支払った平成元年分の本件賃料一六六万八〇〇〇円に、本件建物のうち事業の遂行上必要と明らかに区分される部分の面積が総面積に占める割合(以下「事業専用割合」という。)四三・一八パーセントを乗じて算出した金額である。

右事業専用割合の認定根拠は、後記四1(被告の主張)に記載のとおりである。

(3) その他の必要経費 二〇二万四八二七円

右金額は、原告が確定申告書に添付した「平成元年度山形質庫経費明細表」の経費合計(三五七万六〇八〇円)から本件賃料の一部(一五〇万一二〇〇円)及び医療費(五万五三円)を控除した金額である。

(争いがない。)

(二) 雑所得の金額 七五七万四二三四円

本件貸付けに係る利息等のうち、利息制限法一条一項及び四条一項の規定する制限内の金額(以下「本件貸金利息等」という。)を計算すると、別表6のとおりとなるところ、平成元年分の本件貸金利息等の合計額は七五七万四二三四円であり、右貸金利息等の収入に係る必要経費はないと認められるので、右金額が雑所得の金額となるものである。

なお、本件貸金利息等に係る所得が原告の雑所得の金額となることについては、後記第四4(被告の主張)に記載のとおりである。

(三) 純損失の繰越控除の金額 五四三万五五〇六円

右金額は、法七〇条一項及び法施行令二〇一条一号の規定に基づき、平成元年分の総所得金額の計算上、繰り越すことができる原告の昭和六一年分の純損失の金額三〇〇万円及び昭和六二年分の純損失の金額二八四万四九二五円の一部二四三万五五〇六円の合計額である。

(争いがない。)

(四) 総所得金額 〇円

右金額は、右(一)の事業所得の金額に右(二)の雑所得の金額を加算し、右(三)の純損失の繰越控除の金額を控除して算出した金額である。

(五) 所得税額(納付すべき税額) 〇円

右(四)のとおり、原告の平成元年分の総所得金額は零円であり、原告には法一二〇条一項四号及び五号に規定する外国税額及び源泉所得税額がないので、原告が平成元年分において納付すべき税額は零円となる。

(争いがない。)

2  平成二年分

平成二年分の総所得金額及び所得税額等の算出根拠は、後記(一)ないし(七)に記載するとおりである。

(一) 事業所得の金額 △一七一万〇六四三円

右金額は、次の(1)の総収入金額から(2)の本件賃料の額及び(3)のその他の必要経費を控除して算出した金額である。

(1) 総収入金額 六九万三四三八円

右金額は、原告が平成二年分の確定申告書の「営業所得の収入金額」欄に記載した金額と同額である。

(争いがない。)

(2) 本件賃料の一部 七七万四二六〇円

右金額は、前記1の(一)(2)と同様に、原告が支払った平成二年分の本件賃料一七九万三一〇〇円に、事業専用割合四三・一八パーセントを乗じて算出した金額である。

(3) その他の必要経費 一六二万九八二一円

右金額は、原告が確定申告書に添付した「平成二年度山形質庫経費明細表」の経費合計(三八六万〇六一一円)から本件賃料の一部(一六一万三七九〇円)、雇人費(六〇万円)及び備品代(一万七〇〇〇円)を控除した金額である。

(右経費合計から本件賃料の一部、雇人費及び備品代を控除した場合、右の金額となることは争いがない。)

(4) 雇人費 〇円

貴家に対し支払われたとする給料六〇万円は、事業所得の金額の計算上必要経費とは認められない。その理由は、後記四2(被告の主張)に記載のとおりである。

(5) 備品代 〇円

原告は、平成二年において、八万五〇〇〇円のクーラーを五年間の分割払いで購入し、一万七〇〇〇円を同年分の必要経費に算入しているが、右クーラーの購入費は、事業の遂行上必要なものということはできないものである。その理由は、後記四3(被告の主張)に記載とおりである。

(二) 雑所得の金額 一五八九万三四九七円

本件貸付けに係る利息等のうち、本件貸金利息等の金額を計算すると、別表6のとおりとなるところ、平成二年分の本件貸金利息等の合計額は一五八九万三四九七円であり、右貸金利息等の収入に係る必要経費はないと認められるので、前記1(二)と同様、右金額が雑所得の金額となるものである。

(三) 純損失の繰越控除の金額 三一七万〇八三四円

右金額は、前記1の(三)と同様に、法七〇条一項及び同法二〇一条一号の規定に基づき、平成二年分の総所得金額の計算上繰り越すことができる原告の昭和六二年分の純損失の金額二八四万四九二五円の残額四〇万九四一九円及び昭和六三年分の純損失の金額二七六万一四一五円の合計額である。

(四) 総所得金額 一一〇一万二〇二〇円

右金額は、右(一)の事業所得の金額に右(二)の雑所得の金額を加算し、右(三)の純損失の繰越控除の金額を控除して算出した金額である。

(五) 所得控除の合計額 三五万四三二〇円

右金額は、次の(1)の社会保険料の額と(2)の基礎控除の額の合計額である。

(争いがない。)

(1) 社会保険料の額 四三二〇円

右金額は、原告が新宿区役所に対し、平成二年中に支払った国民健康保険料の額である。

(2) 基礎控除の額 三五万円

右金額は、法八六条の規定に基づく基礎控除の額である。

(六) 課税総所得金額 一〇六五万七〇〇〇円

右金額は、右(四)の総所得金額から右(五)の所得控除の合計額を差し引いた額である。

(七) 所得税額(納付すべき税額) 二三六万二八〇〇円

右金額は、右(六)の課税総所得金額に対し、法八九条一項の規定を適用して算出した所得税額であり、前記1の(五)と同様、原告には外国税額及び源泉所得税額がないので、原告が平成二年分において納付すべき税額は右金額となる。

3  平成三年分

平成三年分の総所得金額及び所得税額等の算出根拠は、後記(一)ないし(六)に記載するとおりである。

(一) 事業所得の金額 △一三〇万五九七二円

右金額は、次の(1)の総収入額から(2)の本件賃料の額及び(3)のその他の必要経費を控除して算出した金額である。

(1) 総収入金額 一三六万八四〇九円

右金額は、原告が平成三年分の確定申告書の「営業所得の収入金額」欄に記載した金額と同額である。

(争いがない。)

(2) 本件賃料の一部 七九万二二六六円

右金額は、前記1の(一)(2)と同様に、原告が支払った平成三年分の本件賃料一八三万四八〇〇円に、事業専用割合四三・一八パーセントを乗じて算出した金額である。

(3) その他の必要経費 一八八万二一一五円

右金額は、原告が確定申告書に添付した「平成三年度山形質庫成績表」の経費合計(四二七万四三五円)から本件賃料の一部(一六五万一四二〇円)、雇人費(七二万円)及び備品代(五万六〇〇〇円のうちの一万七〇〇〇円)を控除した金額であり、雇人費及び備品代が必要経費にならないことは、平成二年分と同様である。

(右経費合計から本件賃料の一部、雇人費及び備品代を控除した場合、右金額となることは争いがない。)

(二) 雑所得の金額 二二〇三万八七六六円

本件貸付けに係る利息等のうち、本件貸金利息等の金額を計算すると、別表6のとおりとなるところ、平成三年分の本件貸金利息等の合計額は二二〇三万八七六六円であり、右貸金利息等の収入に係る必要経費はないと認められるので、前記1(二)と同様、右金額が雑所得の金額となるものである。

(三) 総所得金額 二〇七三万二七九四円

右金額は、右(一)の事業所得の金額に右(二)の雑所得の金額を加算した金額である。

(四) 所得控除の合計額 三五万五〇四〇円

右金額は、次の(1)の社会保険料の額と(2)の基礎控除の額の合計額である。

(争いがない。)

(1) 社会保険料の額 五〇四〇円

右金額は、原告が新宿区役所に対し、平成三年中に支払った国民健康保険料の額である。

(2) 基礎控除の額 三五万円

右金額は、法八六条の規定に基づく基礎控除の額である。

(五) 課税総所得金額 二〇三七万七〇〇〇円

右金額は、右(三)の総所得金額から右(四)の所得控除の合計額を差し引いた額である。

(六) 所得税額(納付すべき税額) 六二八万八五〇〇円

右金額は、右(五)の課税総所得金額に対し、法八九条一項の規定を適用して算出した所得税額であり、前記1の(五)と同様、原告には外国税額及び源泉所得税額がないので、原告が平成三年分において納付すべき税額は右金額となる。

4  平成四年分

平成四年分の総所得金額及び所得税額等の算出根拠は、後記(一)ないし(六)に記載するとおりである。

(一) 事業所得の金額 △一八三万三一五八円

右金額は、次の(1)の総収入額から(2)の本件賃料の一部及び(3)のその他の必要経費を控除して算出した金額である。

(1) 総収入金額 六四万〇七〇五円

右金額は、原告が平成四年分の確定申告書の「営業所得の収入金額」欄に記載した金額と同額である。

(争いがない。)

(2) 本件賃料の一部 七九万二二六六円

右金額は、前記1の(一)(2)と同様に、原告が支払った平成四年分の本件賃料一八三万四八〇〇円に、事業専用割合四三・一八パーセントを乗じて算出した金額である。

(3) その他の必要経費 二五七万八五九七円

右金額は、原告が確定申告書に添付した「平成四年度山形質庫経費明細表」の経費合計(四二二万九九一七円)から本件賃料の一部(一六五万一三二〇円)、雇人費(八八万円)及び備品代(一万七〇〇〇円)を控除した金額であり、雇人費及び備品代が必要経費にならないことは、平成二年分と同様である。

(右経費合計から本件賃料の一部、雇人費及び備品代を控除した場合、右金額となることは争いがない。)

(二) 雑所得の金額 二七二二万一三八八円

本件貸付けに係る利息等のうち、本件貸金利息等の金額を計算すると、別表6のとおりとなるところ、平成四年分の本件貸金利息等の合計額は二七二二万一三八八円であり、右貸金利息等の収入に係る必要経費はないと認められるので、前記1(二)と同様、右金額が雑所得の金額となるものである。

(三) 総所得金額 二五三八万八二三〇円

右金額は、右(一)の事業所得の金額に右(二)の雑所得の金額を加算した金額である。

(四) 所得控除の合計額 三五万五〇四〇円

右金額は、次の(1)の社会保険料の額と(2)の基礎控除の額の合計額である。

(争いがない。)

(1) 社会保険料の額 五〇四〇円

右金額は、原告が新宿区役所に対し、平成四年中に支払った国民健康保険料の額である

(2) 基礎控除の額 三五万円

右金額は、法八六条の規定に基づく基礎控除の額である。

(五) 課税総所得金額 二五〇三万三〇〇〇円

右金額は、右(三)の総所得金額から右(四)の所得控除の合計額を差し引いた額である。

(六) 所得税額(納付すべき税額) 八六一万六五〇〇円

右金額は、右(五)の課税総所得金額に対し、法八九条一項の規定を適用して算出した所得税額であり、前記1の(五)と同様、原告には外国税額及び源泉所得税額がないので、原告が平成四年分において納付すべき税額は右金額となる。

5  平成五年分

平成五年分の総所得金額及び所得税額等の算出根拠は、後記(一)ないし(六)に記載したとおりである。

(一) 事業所得の金額 △二二六万九四二六円

右金額は、次の(1)の総収入額から(2)の本件賃料の一部及び(3)のその他の必要経費を控除して算出した金額である。

(1) 総収入金額 五四万〇四二一円

右金額は、原告が平成五年分の確定申告書の「営業所得の収入金額」欄に記載した金額と同額である。

(争いがない。)

(2) 本件賃料の一部 七九万二二六六円

右金額は、前記1の(一)(2)と同様に、原告が支払った平成五年分の本件賃料一八三万四八〇〇円に、事業専用割合四三・一八パーセントを乗じて算出した金額である。

(3) その他の必要経費 二〇一万七五八一円

右金額は、原告が確定申告書に添付した「平成五年度山形質庫経費明細表」の経費合計(四三七万六五三一円)から本件賃料の一部(一六五万一三二〇円)、雇人費(八四万円)及び備品代(三万六〇〇〇円のうち一万七〇〇〇円)を控除した金額であり、雇人費及び備品代が必要経費にならないことは、平成二年分と同様である。

(右経費合計から本件賃料の一部、雇人費及び備品代を控除した場合、右金額となることは争いがない。)

(二) 雑所得の金額 二八二三万六〇九〇円

本件貸付けに係る利息等のうち、本件貸金利息等の金額を計算すると、別表6のとおりとなるところ、平成五年分の本件貸金利息等の合計額は二二八二三万六〇九〇円であり、右貸金利息等の収入に係る必要経費はないと認められるので、前記1(二)と同様、右金額が雑所得の金額となるものである。

(三) 総所得金額 二五九六万六六六四円

右金額は、右(一)の事業所得の金額に右(二)の雑所得の金額を加算した金額である。

(四) 所得控除の合計額 三五万四七七〇円

右金額は、次の(1)の社会保険料の額と(2)の基礎控除の額の合計額である。

(争いがない。)

(1) 社会保険料の額 四七七〇円

右金額は、原告が新宿区役所に対し、平成五年中に支払った国民健康保険料の額である

(2) 基礎控除の額 三五万円

右金額は、法八六条の規定に基づく基礎控除の額である。

(五) 課税総所得金額 二五六一万一〇〇〇円

右金額は、右(三)の総所得金額から右(四)の所得控除の合計額を差し引いた額である。

(六) 所得税額(納付すべき税額) 八九〇万五五〇〇円

右金額は、右(五)の課税総所得金額に対し、法八九条一項の規定を適用して算出した所得税額であり、前記1の(五)と同様、原告には外国税額及び源泉所得税額がないので、原告が平成五年分において納付すべき税額は右金額となる。

6  以上によれば、本件係争各年分の総所得金額及び納付すべき税額は、次のとおりになるところ、平成元年分に係る本件更正処分(なお、審査裁決においては、繰越控除の金額を八六〇万六三四〇円とし、同年分の総所得金額をマイナス三一七万〇八四三円としているが、同年分の繰越控除の金額は五四三万五五〇六円であるから、総所得金額は〇円とするのが正しい。)において確定された納付すべき税額は右金額と同額であり、また、本件係争各年分のうち平成元年分を除くその余の各年分に係る本件各更正処分において確定された総所得金額及び納付すべき税額はそれぞれ右各金額を上回るものではないから、本件各更正処分はいずれも適法である。

年分 総所得金額(円) 納付すべき税額(円)

(一) 平成元年分 〇 〇

(二) 平成二年分 一一〇一万二〇二〇 二三六万二八〇〇

(三) 平成三年分 二〇七三万二七九四 六二八万八五〇〇

(四) 平成四年分 二五三八万八二三〇 八六一万六五〇〇

(五) 平成五年分 二五九六万六六六四 八九〇万五五〇〇

三  本件各決定処分の適法性に関する被告の主張

1  仮装、隠ぺい行為

原告は、二〇数年にわたり質屋業以外に第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行い、利息制限法などの貸金に係る知識も十分有し、金銭の貸付けによる利息等の収入が所得となることについての知識もある上、本件貸付けにについては、利息等が未収であったとしても、公正証書等の作成の都度、それまでの利息及び損害金を計算して元本に組入れたところで抵当権を設定するなど積極的に回収の方策を講じ、事実上収受したと同様に取り扱い、本件貸付けに係る公正証書等の資料も原告自ら保存していたにもかかわらず、原告は、本件係争各年分の所得税の申告において、課税標準等又は税額の基礎となる事実であることが明らかである本件貸付けの事実等を隠ぺいし、本件貸金利息等に係る所得を全く記載せず、所得の金額を殊更に過少にして申告した内容虚偽の申告書を提出した。また、調査の段階においても、原告は、担当職員に対して、原告が有する右資料の一部しか提示せず、あまつさえ本件貸付けに係る取引実体を最もよく知っている納税者として前記公正証書記載の金額の算定等について積極的に担当職員に説明すべきところを、そのような説明を一切せず逆に虚偽答弁をすることに終始したものである。

したがって、原告は、真実の所得を隠ぺいし、課税の対象となることを回避するための客観的な隠ぺい行為を行ったものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)六八条一項の要件に該当するものとして、被告は、本件各更正処分(平成元年分の所得税に係る本件更正処分を除く。)に伴い原告が新たに納付すべき所得税額を基礎として重加算税を賦課したものである。

2  重加算税の額

(一) 原告が本件各更正処分(平成元年分の所得税に係る本件更正処分を除く。)に伴い新たに納付すべき所得税額は、次のとおりである。

平成二年分 二一一万六〇〇〇円

平成三年分 五九五万六〇〇〇円

平成四年分 八一六万八〇〇〇円

平成五年分 八四七万七〇〇〇円

(二) 右(一)の新たに納付すべき各所得税額を基礎として(ただし、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の金額を切り捨てた後のもの。)通則法六八条一項の規定により重加算税額を計算すると、次のとおりとなる。

平成二年分 七三万八五〇〇円

平成三年分 二〇八万二五〇〇円

平成四年分 二八五万六〇〇〇円

平成五年分 二九六万四五〇〇円

(三) 本件各決定処分による重加算税額は、いずれも右各金額と同額であるから、本件各決定処分はいずれも適法である。

四  本件の争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、(一) 本件係争各年に支払われた本件賃料のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入される額がいくらとなるか、(二) 原告が貴家に対して給与を支払った事実があるか否か、支払ったとしてそれが事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用といえるか否か、(三) 本件建物に備えられたクーラーの購入代金が事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用といえるか否か、(四) 本件貸金利息等が雑所得として課税の対象になるか否か、課税の対象となるとした場合、その金額はいくらとなるか、(五) 本件貸金利息等に係る所得を申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件が存在するか否かであり、これらの点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

1  本件係争各年に支払われた本件賃料のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入される額がいくらとなるかについて

(被告の主張)

(一) 原告は、本件建物のうち少なくともその九〇パーセントを事業の用に供しているとして、本件係争各年分の事業所得の金額の計算上、松井に対する支払家賃の九〇パーセントを必要経費として計上しているが、次に述べるとおり、本件建物の事業専用割合は四三・一八パーセントである。

(二) まず、法三七条及び四五条一項一号は、家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるものについては、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定し、これを受けて法施行令九六条一号は、右にいう家事上の経費に関連する経費(家事関連費)で政令に定めるものとは、「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が……事業所得……を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」以外の経費とする旨規定している。そして、課税実務上は、右の「主たる部分」といえるどうかの判断は、「業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定するものとされ(所得税基本通達(以下「通達」という。)四五―一)、また、「主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、原則として「その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が五〇パーセントを超えるかどうかにより判定」し、「当該必要な部分の金額が五〇パーセント以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入」する(通達四五―二)取扱いをしているところである。

したがって、家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、主として事業の遂行上必要なもので、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないのである。

(三) そこで、本件において、本件賃料が右要件に該当するか否かを検討すると、原告は本件建物の一画において質屋業を営んでいるので、本件賃料の一部分は事業の遂行上必要なものということができる。

他方、原告と松井との間で昭和六三年四月一日付けで締結された本件建物に係る建物賃貸借契約書の物件の欄には、「木造瓦葺弐階建壱棟店舗住宅倉庫付 一一九平方米 但し造作一式・電話三四一―四八三四番一本 付」との記載があり、賃借料の欄には「壱ケ月 金壱拾参万九仟円也」との記載があるものの、事業用部分と住宅用部分の各面積及び賃借料の区分がなされていないのであるから、本件賃料については、前記要件の一つである「必要な部分の金額が客観的に明らかである」ということはできないとも考えられる。

しかしながら、そうすると、本件建物の一部を事業の用に供しているにもかかわらず、それに相当する賃料を必要経費に計上することができなくなってしまうので、合理的な方法により右賃料を按分することが必要と考えられるが、その場合、事業の遂行上必要な部分を明らかに区分できるか否かにより判定し、事業の遂行上必要と明らかに区分される部分の面積が総面積に占める割合、すなわち、事業専用割合によって、本件賃料を按分する方法が合理性を有するということができる。

(四) しかるところ、本件建物の各部屋の床面積及び用途は次のとおりである。

(1) 一階の玄関の床面積は四・三〇平方メートルであり、ショーウインドーが設置されている。

(2) 一階の土間の床面積は三・七四平方メートルであり、カウンターがある。

(3) 一階の四畳半の間(別紙「本件見取図」A)の床面積は六・三八平方メートルであり、事務机及び質屋業に係る書類等が置かれ、右(2)の土間のカウンターを挟んで客と応対できるようになっており、質屋業に係る仕事は専らこの部屋で行われている。

(4) 一階の四畳半の間(別紙「本件見取図」B)の床面積は五・二〇平方メートルであり、テーブルが置かれていて次の(5)の二畳間(別紙「本件見取図」C)とともに食事及び休憩用に使用されており、質屋業に係る書類等は置かれていない。

(5) 一階の二畳間(別紙「本件見取図」C)の床面積は二・九七平方メートルであり、テレビが置かれていて食事及び休憩用に使用されており、質屋業に係る書類は置かれていない。

(6) 二階の六畳間(別紙「本件見取図」D)の床面積は九・七二平方メートルであり、原告が寝室として使用している。

(7) 二階の八畳間(別紙「本件見取図」E)の床面積は一三・六八平方メートルであり、貴家が使用している。

(8) 一階及び二階の倉庫の床面積は各一八・四八平方メートルであり、質物を保管している。

(9) 一階には、廊下、便所及び浴室等がある。

(五) したがって、本件建物のうち原告の事業の遂行上明らかに必要な部分は、右(1)ないし(3)及び(8)の部分ということになり、これらの部分の床面積の合計は五一・三八平方メートルである。これを総床面積一一九・〇〇平方メートルで除すと、四三・一八パーセント(小数点三位以下四捨五入)となるから、本件建物の事業専用割合は右四三・一八パーセントであるというべきである。

(六) 原告は本件賃料のうち、二階の六畳間(別紙「本件見取図」C)の原告の居住スペースに対応する賃料が家事関連費として除かれるだけで、その余はすべて事業用スペースに対応するものであり、右家事関連費として除かれる部分の割合が本件賃料全体の一割を上回ることはないと主張するにとどまり、何ゆえに原告が主張する事業専用割合が九〇パーセントとなるかについての計算根拠を明らかにしていない。

本件建物のように、原告の事業に使用される部分と家事に関係する部分の両面を有している場合、右家事に関係する部分の経費すなわち家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、それが事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、主として事業の遂行上必要なもので、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないことは、前記(二)で述べたとおりである。

(原告の主張)

(一) 本件建物はその全体が質屋営業の設備であって、本件賃料は、原則的に質屋営業の収入を得るために直接必要な経費であって、いわゆる家事関連費ではない。

本件建物は、もともと、質屋営業用の店舗として建築されたものであり、宿泊・休憩設備の併設された二階建ての店舗と質物保管用の蔵より構成されており、右店舗及び蔵部分は、面積及び評価額から判断して、本件建物の主要な構成部分となっていることは明らかである。原告は、もともと二四時間営業の質屋店舗として宿泊設備のある本件建物を賃借してきたものであり、本件建物全体が営業店舗としての性質を有しており、二階部分の居室も、営業のための設備にほかならず、実際にも蔵及び一階部分が質屋営業に常時使われていることはもちろん、被告が居住用と認定した二階部分も、その大部分は事業用の設備として使用されているものである。

本件賃料は、かような営業設備の使用の対価であり、契約上も「店舗兼住宅倉庫付、造作一式、電話一本付」の賃料とされているのであるから、居室の一室を店舗にしている場合とは全く異なり、賃料全体が事業上の必要経費と認められるべきである。

(二) 仮に、本件賃料が家事関連費であるとしても、被告の認定する本件建物の使用状況は必ずしも正確ではない。

本件建物の一階の玄関、土間、四畳半(別紙「本件見取図」A)が質屋営業のために使われていることは被告も認めるところであるが、さらに、一階の四畳半の間(別紙「本件見取図」B)及び二畳の間(別紙「本件見取図」C)も、先の四畳半と続きで一体として利用されているものであり、実際にも営業時間内の食事や休憩に使用しているだけでなく、質屋営業関係の書籍も置いてあり、全体を業務のために使用している。また、二階の八畳間は、貴家が使用している部屋であるが、原告一人の前記のような営業形態の質屋業を補佐するためには、住込みによることが必要かつ便利であり、本件建物自体が宿泊施設のある質店として造られ利用されている点も考えれば、この部屋も事業の遂行上必要な部分というべきである。

したがって、本件賃料から家事関連費として控除すべきものは、二階の六畳間(別紙「本件見取図」D)の原告の居住スペースに対応する賃料と考えるべきであるから、その割合は、本件賃料全体の一割を上回ることはあり得ない。

2  原告が貴家に対して給与を支払った事実があるか否か、支払ったとしてそれが事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用といえるか否かについて

(被告の主張)

(一) 原告は、平成二年分から貴家に対し給料六〇万円を支払っているとし、これを事業所得の金額の計算上必要経費に計上しているが、次に述べるとおり、同人が原告の事業に全般的に従事しているものとはいえず、また、同人に対する給料のうち事業の遂行上必要な部分を明らかに区分することができないので、同人に対する給料を必要経費と認めることはできない。

(1) 原告は、「平成二年度山形質庫経費明細表」において、店を留守にしておくと客に迷惑をかけるので、いつでも対応できるように、「総合助手(家事手傳)を雇うことにした。」旨記載しているが、雇人とされる貴家は昭和六二年から原告宅に住み込んでいたにもかかわらず、原告の「平成元年度山形質庫経費明細表」には雇人費の計上がないことからして、平成二年から同人を雇人としたのは不自然である。

(2) 貴家の仕事の内容は、留守番、電話の対応、掃除、食事の支度、使い走り(水道光熱費等の振込等)であるが、質屋の仕事と家事手伝いのどちらの割合が多いか分からない。

(3) 原告の留守中に、利息を支払いに客が来た場合は、利息を計算した紙を持ってくるので、同女は利息を受け取るのみであるが、質屋の値踏みが必要な場合は、同女がそれをできないので客には帰ってもらわなくてはならない。

(4) 深夜に客が来ても、同女は対応には出ない。

(5) 同女が、質屋業に係る帳簿等を付けることはない。

(二) 原告は、昭和六二年ころから母親の世話及び店番等のために住込み従業員として貴家を雇い入れ、相当の手当を支払ってきたところ、その仕事の内容が平成元年までは母親の介護等が中心であったため右手当を事業上の必要経費としてこなかったが、平成元年一〇月母が死亡した後、貴家は、店番、客の対応、利息の収受等、質屋に関連した仕事を中心に行うようになったのであり、原告が営む質屋の営業時間からして雇人として同人の存在は不可欠であり、その給料が事業遂行に必要なものであることは明らかである旨主張する。

しかし、そもそも、原告は、貴家に対して、本件係争各年に、右家事手伝いとしての分と従業員としての分と合わせていくら支払ったかということ、自体、これを客観的に明らかにする資料はなく、原告もそのことを認めている。また、雇用主と従業員という関係にある場合、雇用期間、給料の支払方法及び支払額等について取決めがあってしかるべきであるのに、原告は、同人との間でそのような取決めをしておらず、給料の支払を証する書類も存在しない。右のことからすると、原告がその主張するとおり同人に対し従業員としての給料を支払っているかどうかすら疑わしいといわざるを得ない。

前記1(被告の主張)(二)で述べたように、家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、主として事業の遂行上必要なもので、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないが、右(一)で述べたように、貴家に対する給料は事業に係る分と家事関連分の支払額の区分すら明らかにできないという内容のものであるから、右に述べた必要経費算入の要件を欠くことは明らかである。しかも、貴家が行っている仕事の内容は、食事の買物からその準備、さらには、掃除、洗濯というものであるから、家事手伝いとしての分(家事関連分)が大半を占める状況にあることは明らかである。

したがって、原告の右主張は失当である。

(原告の主張)

(一) 原告は、従前より一人で質屋営業を営み、これにより生計を立てていたが、昭和六二年ころから、高齢な母中山フミノの世話等に時間をとられることが多くなり、母親の世話及び店番等のために住込み従業員として貴家を雇い入れ、相当の手当を支払ってきた。しかしながら、平成元年までは、同人の仕事は主に老人である母親の介護が中心であり、また同人自身大病を患って、入・通院を繰り返していたという事情があり、原告は、その手当を質屋営業の必要経費に計上してこなかった。

平成元年一〇月母が死亡し、貴家も健康を回復して、同人の仕事は、店番、客の対応、利息の収受等、質屋に関連するものが中心となったので、原告は、平成二年から同人に対する支払手当の一部を雇人費として計上することにしたものである。

(二) 貴家の仕事の内容は、質屋営業に関するものと家事に関するものとの双方があるが、たった一人でもって年中無休で朝一〇時ころから深夜二時ころまで店を開けておく質屋業のためには、雇人としての同人の存在は不可欠であり、その給料は事業遂行に必要なものというべきである。しかも、月額五万円ないし七万円の給料はその金額からも明らかなとおり、同人の仕事のうち質屋営業に対する報酬分であり、家事関係労働に対する対価は含まれていない。原告は同人に対して家事関係の労働に対する手当を別途負担しており、別に支払われている右の雇人費が質屋営業上の必要経費であることは明らかである。

3  本件建物に備えられた本件クーラーの購入代金が事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用といえるか否かについて

(被告の主張)

(一) 原告は、平成二年において、八万五〇〇〇円の本件クーラーを五年間の分割払いで購入し、一万七〇〇〇円を同年分の必要経費に算入しているが、右クーラーの購入目的は「病人の為」というのであるから、事業の遂行上必要なものということはできない。

(二) 原告は、備品としてのクーラーは、雇人である貴家の健康管理のために購入したものであり、原告が営む質屋店舗のための備品となっているのであるから、右購入代金は事業上の必要経費である旨主張するが、クーラーを取り付けたとする二階の八畳間(別紙図面のEの部屋)は、前記1(被告の主張)で述べたように業務の遂行上必要である部屋ということができないから、その部屋に取り付けたクーラーも家事上のものというべきであり、その購入代金を事業上の必要経費(備品費)に算入することはできない。

(原告の主張)

備品としてのクーラーは、雇人である貴家が大病を患い、術後の健康管理に万全を期する必要があったために購入したものであり、同人が平成二年以後、原告の質屋業の補助をするに当たり、仕事上使用しているものであって、質屋店舗のための備品となっているから、その購入代金は業務上の必要経費である。

4  本件貸金利息等を雑所得として課税の対象となるか否か、課税の対象となるとした場合、その金額はいくらとなるかについて

(被告の主張)

(一) 収入すべき金額の意義

法は、一歴年を単位として各年分ごとに課税所得を計算し、課税を行うことを定め、法三六条一項は、「その年分の各種所得金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」旨規定しているところ、同項は、収入の原因となる権利が確定し、所得の実現があったとみることのできる状態が生じたときには、その収入をその権利の確定した時期の属する年分の収入金額に計上して課税所得を計算するという立場(いわゆる権利確定主義)を採用しているのである。すなわち、課税に当たって常に現実の収入のときまで課税することができないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いので、徴税政策上の技術的見地から、収入の原因となる権利の確定した時期をとらえて課税することとしたのである。

したがって、本件のように、金銭消費貸借契約に定められた利息の弁済期が到来して履行の請求が可能ということになれば、それだけで収入すべき権利が確定したということができ、また、損害金は、借入金債務の不履行に起因して元本の弁済がされるまで、弁済期限以降日々発生すると同時に収入すべき金額が確定するのであって、いずれも現実には未収の状態であってもその年分の所得として課税されるのである。

(二) 利息制限法で定める利率を超える利息等が未収の場合の課税について

利息制限法は、金銭消費貸借上の利息の約定につき、元本が一〇〇万円以上の場合、その利息が年一割五分の利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分につき無効とする旨規定し(同法一条一項)、また、金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が同法一条一項に規定する利率の二倍を超えるときは、その超過部分につき無効とする旨規定している(同法四条一項)。

一方、前記(一)で述べたとおり、金銭消費貸借上の利息等については、その弁済期が到来すれば、現実には未収の状態にあるとしても、課税の対象となるべき所得を構成するものと解されるのであるが、それは、特段の事情がない限り、法律に裏付けられた権利として収入実現の可能性が高度であると認められることによるものである。これに対し、利息制限法で定める利率を超える利息等は、その基礎となる約定自体が無効とされるのであるから、貸主は法的に履行を強制するための手段を有せず、ただ、借主が法律の保護を求めることなく、任意の支払を行うかもしれないことを事実上期待しうるにとどまるのであって、収入実現の蓋然性があるということはできない。

したがって、約定の履行期の属する年度内に利息及び損害金の支払がない場合は、利息制限法に定める制限利率内の部分のみが課税の対象となる収入金額とされるのであり、右制限利率を超えた部分は課税の対象とはならないのである。

(三) 本件貸金利息等に対する課税について

(1) 前記一4記載の本件貸付けに関する経緯からすれば、原告は、<1>植原貢らに対し、平成元年六月二六日に前記一4(三)の約定で六六〇〇万円を貸し渡し、<2>その後、植原貢らとの間で、次のとおり、「契約年月日」欄記載の各日に、それまでの元本に利息及び損害金を加えた額を新たな元本とする準消費貸借契約(民法五八八条)を締結し、<3>平成五年六月七日に植原貢らから元本充当分として三〇〇〇万円を受け取った以外に、その余の元本、利息及び損害金を全く受領していなかったということになる。その経緯をまとめると、次のとおりである(この点は、当事者間に争いがない。)。

契約年月日 返済期限 利息の利率 損害金の利率

平成元年一二月二六日 平成二年三月二六日

平成二年三月二六日 平成二年五月二六日

平成二年一一月二六日 平成三年三月二六日 年一割五分 日歩八銭二厘

平成三年五月二七日 平成三年八月二七日 年一割五分 日歩八銭二厘

平成三年一二月九日 年一割五分 年三割

平成四年二月二七日 平成四年五月二七日 年三割

平成五年三月三日 平成五年八月三日 年一割五分 日歩八銭二厘

なお、右各準消費貸借契約に係る契約書等の書面には、利息等の利率が記載されていないものがあるが、当初の金銭消費貸借契約における利息の利率が年一割五分、損害金の利率が日歩八銭二厘であり、これを基にして順次準消費貸借契約が締結されていること、及び前記第二の一5のとおり原告も担当職員に対しこの事実を認めていることに鑑みれば、右書面に利息等の利率の記載がない右各準消費貸借契約においても、当事者間には、右当初の金銭消費貸借における利率を継続的して適用するとの合意があったものということができる。

(2) そうすると、前記(一)及び(二)で述べたとおり、本件貸付けに係る利息等のうち、利息制限法に定める利息及び損害金の利率の範囲内の部分、すなわち、本件貸金利息等については、本件係争各年分において、原告の収入とすべき権利が確定したものであるから、これを原告の本件係争各年分の雑所得として課税の対象とすることは適法である。

(3) 原告は、本件貸金利息等を現実に収得していないだけでなく、これは将来的にも、収入実現の可能性が極めて乏しい不確実な債権にすぎないから、雑所得は発生していない、本件貸付金について、計算上発生しているにすぎない未収利息・損害金について収入があったとして課税することは実体にそぐわない不当な処分である、右のほか、原告が零細な質屋として現金主義による経理処理しかしてこなかったこと及び本件貸付けは業としてなされたものではなく個人的関係に基づき好意的になされたことに端を発していること等の事情を考慮すれば、計算上の結果にすぎない本件貸金利息等について、現実に収受されたものと同一に評価し課税することは納税者に過大な負担を強いるもので、不当であるなどと主張する。

しかし、たとえ本件貸金利息等が未収であっても、原告の雑所得の金額の計算上、収入金額とされることについては、既に、述べたとおりである。すなわち、法三六条一項に規定する「収入すべき金額」とは、現実の収入がなくとも、その収入の原因となる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、右権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているところ、金銭消費貸借上の利息・損害金債権についても、右権利確定主義に基づき、右各債権は、その履行期が到来すれば、現実にはなお未収の状態にあるとしても、「収入すべき金額」に当たるものとして、課税の対象となるべき所得を構成するのである。そして、本件おいて、原告は、前記第二の一4記載のとおり、平成元年六月二六日、植原貢らに対し、利息年一割五分、損害金日歩八銭二厘、弁済期限平成元年九月二六日の約定で本件当初貸金六六〇〇万円を貸し渡し、その後元本に利息及び損害金を加えた額を新たな元本とする準消費貸借契約の締結を繰り返していたのであり、本件貸金利息等は、その収入の原因となる権利が本件係争各年に確定的に発生していたのであるから、原告の本件係争各年分の雑所得として課税の対象となるのである。

(4) 本件貸付けに係る利息等のうち、利息制限法一条一項及び四条一項の規定する制限内の金額、すなわち本件貸金利息等の金額を計算すると、別表6のとおり、平成元年分が七五七万四二三四円、平成二年分が一五八九万三四九七円、平成三年分が二二〇三万八七六六円、平成四年分が二七二二万一三八八円、平成五年分が二八二三万六〇九〇円となるところ、右貸金利息等の収入に係る必要経費はないと認められるので、右各金額が雑所得の金額となるものである。

(原告の主張)

(一) 被告は、権利確定主義ないし発生主義の立場に立ち、本件貸金利息等はそれが未収であっても、雑所得として課税の対象となる旨主張するが、この権利確定主義は法上の一応の原則ではあるものの、その例外を許さないものではない。すなわち、衡平の見地から所得の実態に即応してその適用をゆるめ、さらには現実収入主義による方が妥当であると考えられる場合もあるから、そのような場合には例外的に右権利確定主義の適用を排除すべきものと考えるべきである。

(二) 本件貸金利息等については、以下のような事情から、権利確定主義によることは相当でない場合に当たるというべきである。

(1) 原告は、平成元年六月二六日、ミツギエンタープライズ等に対し、本件当初貸金六六〇〇万円を貸し渡し、その後右債務者から借用証等を徴求しているものの、実際には一部元金の返済を受けただけで、計算上の利息・損害金はもとより、元金の大部分の返済も受けていない。こうした本件当初貸金について、計算上発生しているにすぎない未収の利息等について収入があったとして課税することは実体にそぐわない不当な処分である。

被告は、利息等の元本への組入れをもって、収入が実現したものとして課税しているが、利息等の元本組み入れは単なる書類上の計算にすぎないだけでなく、本件の未収の利息等は収入実現の可能性が極めて少ない不確実な債権であって、この場合に利息等が収受された場合と同様に課税することは明らかに不当である。

(2) 本件においては、債務者は書類の作成には簡単に応じるものの、実際には利息等はもとより、元金の大部分を一向に支払おうとしないばかりか、一部借受け自体を否認して長期間にわたり抗争しており、原告において計算上の利息等を現実に収受できる可能性は極めて少ない。

ただ一回でも利息等が支払われていればまだしも、実際には利息等についての金銭授受が一回もない本件のような場合に、書類上の利息等の計算だけで収入があったとして課税されることは、原告としては、その負担に耐えられないものであって、明らかに不当である。

(3) 被告は、公正証書等の作成の事実をとらえて、回収の手当を積極的に講じているとし、未収の利息等を雑所得と認定している。

しかしながら、実際は全く逆であり、原告がこれまで再三再四貸金の返済を請求するも、ミツギエンタープライズ等は頑としてその支払を履行せず、原告はほとほと困り果ててやむなく抵当権の設定や公正証書の作成といった書類上のことだけで処理せざるを得なかったのである。そして、奇妙なことに、ミツギエンタープライズの植原貢は、実際上の支払はいっこうにしそうにないにもかかわらず、書類上の形式的なことについては、異議をとどめることなく簡単にサインしてきた。しかしながら、こうした書類の存在にかかわらず、ミツギエンタープライズの植原貢に借入金額についての明確な認識及びその支払意思があるかといえば、否といわざるを得ないことは担当職員が直接面接して熟知しているところであり、抵当権や公正証書の存在は、本件の場合には債権の確実な存在及び回収を保証するものではない。

(4) 以上のような本件の具体的な事情に加えて、原告はこれまで零細な質屋としての現金主義による経理処理しかしてこなかったこと及び本件貸付けは業としてされたものではなく、個人的な関係に基づき好意的にされたことに端を発していることなどを考え併せれば、計算上の結果にすぎない本件貸金利息等について、現実に収受されたものと同一に評価し課税することは、納税者に過大な税負担を強いるものであり、不当である。

5  本件貸金利息等を雑所得として課税することが適法とした場合、本件貸金利息等に係る所得を申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件が存在するか否かについて

(被告の主張)

(一) 通則法六八条が規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条所定の各種の加算税を課すべき納税義務違反行為が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法六八条一項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでも必要とするものではないと解される。

(二) 前記三記載のとおり、原告は、故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて本件係争各年分の申告をし、そのため過少申告の結果が発生したものであり、右は通則法六八条一項の要件に該当する。したがって、原告に対しては、本件各更正処分に伴い原告が新たに納付すべき所得税額を基礎として計算される重加算税を課すべきである。

(三) 原告は、本件貸金利息等について、一円の利息・損害金も収受していないから、この分について所得が発生しているとの認識はなかったこと、及び本件当初貸金も個人的な知り合いだった植原貢らにやむなく好意的に融通したもので、原告は貸金を業として行ってきた事実はなく、そのような知識も認識も備わっていない旨主張する。

しかしながら、原告が営む質屋業にあっては、一般に未収利息・損害金等の計算が不可避であることからすれば、原告は、利息制限法などの貸金に係る知識も十分有していたと認められ、したがって、本件貸付けに関して「所得が発生しているとの認識はなかった」とする原告の主張はにわかに信じ難いといわなければならない。原告は、本来の事業である質屋業を行いながら、開業当初から裏で第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っており、貸付残高も、昭和四〇年ないし同四五年ころには約二億円にも達していたのであるから、貸金を継続反復して行ってきた事実はないとする原告の主張は事実に反する。

(原告の主張)

(一) 原告が本件貸金利息等について確定申告をしなかったのは、本件訴訟において問題になっているとおり、本件貸付けに関して現実に何らの利益も得ていないので、税務申告の必要ありとは全く考えていなかったことに尽きるのであり、ことさらに事実関係を隠ぺいしようとする意図はなく、重加算税の賦課要件は存在しない。

(二) 被告は本件の税務調査の際の原告の対応を論難するが、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為とは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものというべきであり、事後的な税務調査時の納税者の態度が直接問題になるわけではなく、これを強調する被告の決め付けは不当である。

原告が本件貸付金利息等について確定申告をしなかったのは、前記(一)で述べたとおり、本件貸付けについて税務上の問題が発生するとは全く考えていなかったからであり、その基本的認識は現在も変わらず、所得を隠ぺいしようとする意図に基づいたものではないことは明らかであり、それ以外にも原告は何ら仮装・隠ぺい行為を行っていない。

(三) もとより、本件の税務調査時においても、原告は担当職員からの要求に基づいて本件貸付けに関する公正証書等の重要書類を提出しており、ことさらに本件貸付けに関する事実関係を隠そうとした事実はない。

原告と担当職員との間で、本件の税務調査時に主に問題となったことは、「利息・損害金がいくら発生しているのか」ということであり、この点について原告が利息と損害金の区分もつかないまま書き替えられた公正証書等の数字について明確な説明ができなかったことは事実であるが、これは利息・損害金としては一円の回収もしていないということ以外は、原告自身が法的関係を十分に理解していなかったことによるものであり、これを事実関係の隠ぺい行為と評価することは間違いである。

第三当裁判所の判断

一  本件係争各年において支払われた本件賃料のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき額がいくらとなるかについて

1  法三七条一項は、その年分の事業所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費用以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定し、法四五条一号は、居住者が支出する家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるものの額は、その者の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入しない旨定めている。

法四五条一号の規定を受けて、法施行令九六条は、法四五条一号に規定する政令で定める経費は、「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」(一号)及び「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分に相当する経費」(二号)以外の経費とする旨定めている。

そして、右の点に関し、通達四五―一は、法施行令九六条一号に規定する「主たる部分」又は同条二号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定するものとする旨定め、また、通達四五―二は、法施行令九六条一号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、原則として、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が五〇パーセントを超えるかどうかにより判定するものとし、当該必要な部分の金額が五〇パーセント以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない旨定めている。

衣食住費、教養費、養育費、趣味娯楽費等の家事上の経費は、事業所得等に係る収入を得るために直接必要な費用ではなく、所得の処分とみるべきものであるから、事業所得等の金額の計算上必要経費への算入を認めないものとされているところ、右通達の定めは、店舗兼居宅に係る支払家賃のように事業の経費のほかに家事上の経費を含むいわゆる家事関連費については、客観的にみて業務の遂行上必要なことが明らかな部分に限り必要経費への算入を認める取扱いをすることを定めたものであり、法四五条一号及び法施行令九六条の趣旨に沿うものとして合理性を有するものというべきである。

以上のとおり、家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、当該費用が事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、右の意味において、それが事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないというべきである。

2  そこで、本件賃料についてこれをみると、次のとおりである。

(一) 原告と松井との間で昭和六三年四月一日付けで締結された本件建物に係る建物賃貸借契約書(乙一二)の物件の欄には、「木造瓦葺弐階建壱棟店舗住宅倉庫付 一一九平方米 但し造作一式・電話三四一―四八三四番一本付」との記載があり、賃借料の欄には「壱ケ月 金壱拾参万九仟円也」との記載があるが、右契約上は、事業用部分と住宅用部分の各面積及び賃借料の区分がなされていない。

(二) 本件建物の各部屋の配置等が別紙「本件見取図」のとおりであること、右各部屋うちの一部の床面積及び用途が次のとおりであることは、前記第二の一2記載のとおりである。

(1) 一階の玄関の床面積は四・三〇平方メートルであり、ショーウィンドーが設置されている。

(2) 一階の土間の床面積は三・七四平方メートルであり、カウンターがある。

(3) 一階の四畳半の間(別紙「本件見取図」A)の床面積は六・三八平方メートルであり、事務机及び質屋業に係る書類等が置かれ、右(2)の土間のカウンターを挟んで客と応対できるようになっており、質屋業に係る仕事は専らこの部屋で行われている。

(4) 一階及び二階の倉庫の床面積は各一八・四八平方メートル(合計三六・九六平方メートル)であり、質物を保管している。

(5) 一階には、廊下、便所及び浴室等がある。

(三) 前記第二の一2の事実に証拠(甲一、八、乙二三、証人星憲雄)及び弁論の全趣旨を併せれば、<1> 本件建物の一階の四畳半の間(別紙「本件見取図」B)の床面積は五・二〇平方メートルであり、そこには座卓が一つ置かれており、担当職員である星統括官が原告方に臨場したときには、座卓の上にポットや茶碗が置いてあったこと、その隣の二畳間(別紙「本件見取図」C)の床面積は二・九七平方メートルであり、質流れのテレビが一台置かれていること、これらの二つの部屋には、質屋業関係の書類等は置かれておらず、右各部屋は、原告及び貴家が主として食事及び休憩の場として利用していること、<2> 二階の六畳間(別紙「本件見取図」D)の床面積は九・七二平方メートルであり、原告が主として寝室として使用していること、<3> 二階の八畳間(別紙「本件見取図」E)の床面積は一三・六八平方メートルであり、入って左側奥に仏壇があり、左側手前には座卓が置かれており、右側にはタンスが置かれていて、隣のDの部屋へ出入りできる空間があること、右Eの部屋は、以前、反物・着物等の質草を見分ける場所として使用されていたことがあるが、現在はそのような場所としては使用されておらず、貴家が主に居住、寝室用として使用していることが認められる。

(四) 右(一)ないし(三)に認定した事実によれば、本件賃料のうち、原告の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかなものは、右(二)の(1)ないし(4)の各部屋に対応する部分だけであると認めるのが相当である。そして、右各部屋の床面積の合計は五一・三八平方メートルであり、これを本件建物の総床面積一一九・〇〇平方メートルで除すと、四三・一八パーセント(小数点三位以下四捨五入)となるから、本件建物の事業専用割合は右四三・一八パーセントとすべきである。

3  原告は、本件建物は、全体が営業店舗としての性質を有しており、二階部分の居室も、営業のための設備にほかならず、実際にも蔵及び一階部分が質屋営業に常時使われていることはもちろん、被告が居住用と認定した二階部分も、その大部分は事業用の設備として使用されており、したがって、本件賃料は、かかる営業設備の対価として、その全体が事業上の必要経費と認められるべきである旨、仮に、本件賃料が家事関連費であるとしても、本件賃料から家事関連費として控除すべきものは、二階の六畳間の原告の居住スペースに対応する賃料のみと考えるべきであるから、その割合は、本件賃料全体の一割を上回ることはあり得ない旨主張する。

しかしながら、本件建物の一部が事業用として、他が住宅用すなわち家事用として使用されていることは、前記2で認定したとおりである。原告は、その質屋営業が二四時間営業であることからすれば、原告が寝室として使用している二階の六畳間(別紙「本件見取図」D)も業務遂行上必要なものと認められるべきである旨主張するが、右のような考え方は到底採用することができない。なお、原告は、本人尋問において、本件建物の二階は、呉服とか反物の質草を検分する見聞する場所として使用しているかのように供述しているが、前記2(三)掲記の各証拠に照らしてたやすく信用することができない。

原告は、一階の四畳半(別紙「本件見取図」B)及び二畳間(別紙「本件見取図」C)は、事務用机等が置かれている四畳半の間(別紙「本件見取図」A)と続きで一体として利用されているものであり、実際にも営業時間内の食事や休憩に使用しているだけでなく、質屋営業関係の書籍も置いてあり、全体を業務のために使用している旨主張し、本人尋問において、右B及びCの各部屋は、質流れ品の整理のため、質流れ品を出してきて、そこで手入れをしながら帳簿に書き付けるなどの作業をする場所として使用している旨供述している。

しかしながら、原告が右B及びCの各部屋を主として食事及び休憩の場として利用していることは、前記2(二)に認定したとおりであり、仮に、原告において、右各部屋を時々その供述するような用途に使用することがあるとしても、そのことをもって、本件賃料のうち右部屋に対応する部分が、原告の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかなものということはできない。

さらに、原告は、二階の八畳間(別紙「本件見取図」E)は、貴家が使用している部屋であるが、同人は、原告の業務を補佐するため住み込みにより質屋業に従事しているものであり、右の部屋も事業の遂行上必要な部分というべきである旨主張し、本人尋問において、同人は、平成元年一〇月原告の母が死亡した後は、店番、客の対応、利息の収受等、質屋に関連する仕事を中心に行っている旨供述している。

しかしながら、貴家が原告方で行っている仕事のうちでは、食事の材料の買物やその準備、掃除、洗濯など、家事手伝いの性質を有するものが大半を占めていること、同人が質屋に関連する仕事をしているとしても、右質屋に関連する仕事が、全体の仕事のうちで客観的に占める割合がどれだけであるかが客観的に明らかでないことは、後記二に認定するとおりであり、したがって、右Eの部屋を同人が使用していることをもって、本件賃料のうち右Eの部屋に対応する部分が、原告の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかなものということはできない。

結局のところ、本件賃料のうち、原告の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかなものは、前記2(二)の(1)ないし(4)の各部屋に対応する部分だけということになる。原告のこの点に関する主張は、採用することができない。

4  原告が本件係争各年中に支払った本件賃料の額は、前記第二の一3記載のとおりであり、これに前記認定の本件建物の事業専用割合を乗じて、本件賃料の額のうち本件係争各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額を算定すると、平成元年分が七二万〇二四二円、平成二年分が七七万四二六〇円、平成三年分ないし平成五年分が各七九万二二六六円となる。

二  原告が貴家に対して給与を支払った事実があるか否か、支払ったとしてそれが事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきものといえるか否かについて

1  原告が、平成二年分から貴家に対し給料六〇万円を支払ったとし、これを事業所得金額の計算上必要経費に計上していることは、前記第二の一5に記載のとおりである。

2  しかしながら、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告と貴家との間では、雇用期間、給料の支払方法、支払額等についての取決めはなされておらず、同人に対する給料の支払を証する書類もないことが認められ、したがって、原告が同人に対し給料を支払ったことがあるかどうかは疑わしいといわなければならない。

3  のみならず、証拠(甲一、証人星憲雄、原告本人(後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、貴家は、昭和六二年以降、原告方に住み込みで働いていること、同人は、原告方において、食事の材料の買物やその準備、掃除、洗濯など、家事手伝いの性質を有する仕事をするほか、質屋業に関して、留守番、電話の応対、使い走り(水道光熱費等の振込等)をもしているが、同人は、質物を値踏みすることなどはできず、深夜に来る客の対応をすることはなく、質屋業に係る帳簿等を付けることもないこと、平成元年ころから質屋の客は極端に減少してきており、平成七年当時には、一日中客が来ない日が多いという状況になっていたこと、担当職員が本件の税務調査のため原告方に臨場した際、原告方に同人はいたが、同人の服装等は質屋の従業員というよりも、家庭の主婦といった感じのものであったことが認められる。右認定によれば、貴家の原告方における仕事は、家事手伝いの性質を有するものが大半を占める状況にあるものと推認される。

原告は、甲八において、貴家が平成元年一〇月以降質屋に関連する仕事を中心に行っている旨記載しているが、甲八の右記載は右各証拠に照らしてたやすく信用することができない。また、同人が質屋業に関する仕事をしていることは右認定のとおりであるが、その部分が全体の仕事のうちに占める割合がどけだけであるかを客観的に明らかにできる証拠はない。

家事関連費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、事業と何らかの関連があるというだけでは足りず、事業の遂行上必要なものであり、かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないものというべきことは、前記一1に説示したとおりであるところ、貴家に対し原告主張の給料が支払われているとしても、事業の遂行上必要な部分がいくらになるかを明らかに区分することができないから、これを原告の事業所得の計算上必要経費に算入することはできない。

三  本件建物に備えられたクーラーの購入代金が事業所得の金額の計算上の必要経費に算入すべきものといえるか否かについて

1  原告が、平成二年において、八万五〇〇〇円のクーラーを五年間の分割払いで購入したこと、平成二年分ないし平成五年分の事業所得の金額の計算上右各年の支払額一万七〇〇〇円を必要経費に算入していること、右クーラーは本件建物の二階の八畳の部屋(別紙「本件見取図」E)に取り付けられていること、右Eの部屋を貴家が使用していることは、前記第二の一2及び5に記載のとおりである。

右の点に関し、原告は、備品としてのクーラーは、雇人である貴家が大病を患い、術後の健康管理に万全を期する必要があったために購入したものであり、同人が平成二年以降、原告の質屋業の補助をするに当たり、仕事上使用しているものであって、質屋店舗のための備品となっているから、その購入代金は業務上の必要経費である旨主張する。

2  しかしながら、貴家の原告方における仕事の内容は、家事手伝いの性質を有するものが大半を占める状況にあること、同人が質屋に関連する仕事をも行っているとしても、右質屋に関連する仕事が、全体の仕事のうちで客観的に占める割合がどれだけであるかは客観的に明らかでないこと、したがってまた、右Eの部屋を同人が使用していることをもって、右Eの部屋が原告の事業の遂行上必要な部分であることが明らかとはいえないことは、前記一及び二に説示したとおりである。

そうすると、右クーラーは家事上のものか、家事関連費でも事業の遂行上必要な部分が明らかにできないものであり、その購入代金を事業上の必要経費(備品費)として算入することはできないというべきである。

四  本件貸金利息等が雑所得として課税の対象になるか否か、課税の対象となるとした場合、その金額はいくらになるかについて

1  原告が植原貢らに対し本件貸付けを行ったこと、本件貸付けに関する経緯は、前記第二の一4に記載したとおりである。

2  本件貸金利息等が雑所得として課税の対象になるか否かについて争いがあるので、以下検討を加える。

(一) 法は、一歴年を単位として各年分ごとに課税所得を計算し、課税を行うこととしている。そして、法三六条一項は、「その年分の各種所得金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」旨規定していることからすれば、法は、現実に収入がなくても、一定の収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとみて、その収入をその権利の確定した時期の属する年分の収入金額に計上して課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される(最高裁昭和四三年(行ツ)第三一四号同四九年三月八日第二小法廷判決・民集二八巻二号一八六頁)。

したがって、金銭消費貸借契約に基づき発生する利息・損害金債権については、その履行期が到来し請求が可能な状態になれば、現実にはなお未収の状態にあるとしても、法三六条一項にいう「収入すべき金額」に当たるものとして、課税の対象となる所得を構成するものというべきである(最高裁四三年(行ツ)第二五号同四六年一一月九日第三小法廷判決・民集二五巻八号一一二〇頁)。右の場合、利息債権の履行期は契約に定められた弁済期であり、また、損害金債権の場合は、特段の約定がない限り、借入金債務の不履行に起因して元本の弁済がされるまで、弁済期限以降日々履行期が到来するものであることはいうまでもない。

(二) 利息制限法は、金銭消費貸借上の利息の約定につき、元本が一〇〇万円以上の場合、その利息が年一割五分の利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分につき無効とする旨規定し(同法一条一項)、また、金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が同法一条一項に規定する利率の二倍を超えるときは、その超過部分につき無効とする旨規定している(同法四条一項)。

金銭貸借上の利息等の債権について、履行期が到来すれば、現実には未収の状態にあっても、法三六条一項にいう「収入すべき金額」に当たるものとして課税の対象にするのは、特段の事情がない限り、その利息等の債権について法的に収入すべき権利が実現する可能性が高度であると認められるからである。これに対し、利息制限法による制限を超過する利息等の債権は、その基礎となる約定自体が無効とされるのであって、貸主は、右制限超過利息等の債務の履行を法的に強制するための手段を有せず、ただ、借主があえて法律の保護を求めることなく、任意の支払を行うかもしれないことを事実上期待しうるにとどまるのであって、法的に収入すべき権利が実現する可能性が高度であるということはできない。

したがって、制限超過の利息等の債権は、たとえ約定の履行期が到来しても、現実に収受されず未収である限り、法三六条一項にいう「収入すべき金額」には該当しないものというべきである(前掲最高裁昭和四六年一一月九日第三小法廷判決)。

(三)(1) 前記第二の一4記載の本件貸付けに関する経緯からすれば、原告は、<1> 植原貢らに対し、平成元年六月二六日に前記第二の一4(三)の約定で六六〇〇万円を貸し渡し、<2> その後、植原貢らとの間で、次のとおり、「契約年月日」欄記載の各日に、それまでの元本に利息及び損害金を加えた額を新たな元本とする準消費貸借契約(民法五八八条)を締結し、<3> 平成五年六月七日に植原貢らから元本充当分として三〇〇〇万円を受け取ったが、それ以外には、元本、利息及び損害金の支払は受けていないということになる(この点は、当事者間に争いがない。)。

契約年月日 返済期限 利息の利率 損害金の利率

平成元年一二月二六日 平成二年三月二六日

平成二年三月二六日 平成二年五月二六日

平成二年一一月二六日 平成三年三月二六日 年一割五分 日歩八銭二厘

平成三年五月二七日 平成三年八月二七日 年一割五分 日歩八銭二厘

平成三年一二月九日 年一割五分 年三割

平成四年二月二七日 平成四年五月二七日 年三割

平成五年三月三日 平成五年八月三日 年一割五分 日歩八銭二厘

なお、右各準消費貸借契約に係る契約書等の書面には、利息等の利率が記載されていないものがあるが、当初の金銭消費貸借契約における利息の利率が年一割五分、損害金の利率が日歩八銭二厘であり、これを基にして順次準消費貸借契約が締結されていること、及び前記第二の一5のとおり原告も担当職員に対しこの事実を認めていることからすれば、右書面に利息等の利率の記載がない右各準消費貸借契約においても、当事者間には、右当初の金銭消費貸借における利率を継続的して適用するとの合意があったものということができる。

(2) 平成元年六月二六日の本件当初貸金に係る消費貸借契約及び右(1)記載の各準消費貸借契約に基づく利息等のうち利息制限法の制限内の金額は、別表6「本件貸金利息等計算表」の「利息及び損害金の計算」欄記載のとおりとなり、したがって、本件係争各年に履行期の到来した本件貸金利息等の金額は、右別表6の各年分に対応する本件貸金利息等の金額欄記載の金額、すなわち、平成元年分は七五七万四二三四円、平成二年分が一五八九万三四九七円、平成三年分は二二〇三万八七六六円、平成四年分は二七二二万一三八八円、平成五年分は二八二三万六〇九〇円となる。

(四) 右(三)記載のとおり、本件係争各年に履行期の到来した本件貸金利息等の金額については、本件係争各年中に原告の収入すべき権利が確定したものであって、課税の対象となる所得を構成するものというべきである。

ところで、前記第二の一6記載のとおり、原告は、質屋営業の傍ら、第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行って利息等の収入を得ていた事実があること、原告は質屋営業を営んでいるものの、被告に対しては本件係争各年分以前より毎年損失申告書を提出していることから、原告は第三者に対する金銭の貸付けによる収入により生計を立てているものと推認するほかなく、原告は、質屋業を営む傍ら、本件係争各年においても継続的に第三者に対する金銭の貸付けを行い、利息等の収入を得ていたものと認めるのが相当である。そして、原告は、本業の傍ら金銭の貸付けを行っているものであり、前記第二の一6記載の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、そのための人的物的設備を有しておらず、貸付けはほとんどが自己資金ないし特定の金主の資金の範囲内で行われていること、右貸付けによる収入を得るため格別に経費を支出した形跡はないことが認められるのであって、右の諸点を考慮すれば、本件貸付けに係る取引は、一般社会通念に照らしいまだ事業とは認められないものというべきであり、本件貸金利息等に係る所得は雑所得に該当するもの解するのが相当である。

(五) 原告は、本件貸金利息等は、現実に収得していないだけでなく、将来的にも、収入すべき権利が実現する可能性が極めて乏しい不確実なものであり、かかる利息等を書類上の計算だけに基づいて課税の対象とすることは明らかに不当である旨、また、右の事情に加え、原告が零細な質屋として現金主義による経理処理しかしてこなかったこと及び本件貸付けは業としてなされたものではなく個人的関係に基づき好意的になされたことに端を発していること等をも考え併せれば、計算上の結果にすぎない本件貸金利息等について、現実に収受されたものと同一に評価し課税することは納税者に過大な負担を強いるもので、不当である旨主張する。

しかし、たとえ本件貸金利息等が未収であっても、原告の雑所得の金額の計算上、収入金額とされることについては、既に述べたとおりである。また、本件当初貸金に係る消費貸借契約及びその後に締結された各準消費貸借契約における利息等の約定及び各準消費貸借契約における利息等の元本組入れに関する約定が当初から当事者間で履行されないことを前提として締結された虚偽のものであることを認めるに足りる証拠はないのであって、債務者である植原貢らにおいてその支払の意思及び能力がどの程度あったかどうかはともかく、右各契約は有効に成立しているものと認められるから、右各契約に基づき発生する利息等は履行期の到来により収入すべき権利が確定するものというべきである。

法六七条の二は、青色申告の承認を受けている者で不動産所得又は事業所得を生ずべき小規模事業者として政令で定める要件に該当するもののその年分の不動産所得又は事業所得の金額の計算上総収入金額及び必要経費に算入すべき金額は、政令で定めるところにより、その業務につきその年において収入した金額及び支出した費用の額とすることができる旨規定している。所得の帰属時期について現金主義をとると、納税者が租税を回避するため、収入の時期を先に延ばし、あるいは人為的にその時期を操作するおそれがあることから、法は、右帰属時期について、原則として権利確定主義を採用することとしているものの、小規模な事業者の場合には現金主義が実情に合致することもあることから、例外的に、青色申告の承認を受けていることを条件に、厳格な要件のもとに現金主義を採用することを認めているのであるが、原告の場合、平成元年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消されており、しかも、本件貸金利息等は雑所得に該当するものであるから、右規定に定める現金主義の選択は認められないものである。

原告は、本件貸付けは業としてなされたものではなく個人的関係に基づき好意的になされたかのようにいうが、原告が、質屋業を営む傍ら第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っているものと認められることは、前記説示のとおりであり、本件貸付けもそのうちの一つと認められるのであって、右原告主張事実に沿う原告本人の供述はたやすく採用することができない。のみならず、仮に、本件当初貸金がたまたま個人的関係に基づき好意的になされたものとしても、そのこと自体は、本件貸金利息等が雑所得として課税の対象となるとする前示の判断を左右するものとはいえない。

他に、本件において権利確定主義を採用し、本件貸金利息等を課税の対象にすることを不当とする特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。

3  本件係争各年分の本件貸金利息等に係る収入金額は、前記2(三)(2)記載のとおりとなるところ、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が右収入金額を得るのに要した経費は特にないと認められるので、右各収入金額が本件係争各年分の雑所得となるというべきである。

五  本件貸金利息等を雑所得として申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件が存在するか否かについて

1  通則法六八条が規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税より重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであるが、右の重加算制度の趣旨からすれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがいうる特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である(最高裁平成六年(行ツ)第二一五号同七年四月二八日第二小法廷判決・民集四九巻四号一一九三頁)。

2  前記四に説示したとおり、本件係争各年分の本件貸金利息等の金額は雑所得として課税の対象となるものであるから、原告は本件係争各年分の所得税の申告に当たり、本件貸金利息等の金額を雑所得として計上して申告すべきものであったところ、原告は、本件貸金利息等に係る所得を計上することなく過少申告をしたものである。

ところで、前記第二の一1及び6記載のとおり、原告は、質屋業を営む傍ら、第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行ってきており、また、自ら本件貸付けに関する資料を保存していたものであり、その経歴、経験及び本件貸付けに関する資料の保存状況及びその内容に照らしてみれば、原告は、金銭の貸付けに関する法律知識を十分に有し、したがってまた、本件当初貸金に係る消費貸借契約及びその後の各準消費貸借契約に基づき本件貸金利息等が発生し、本件貸金利息等について収入すべき権利が確定していることを認識していたものと認められる。しかるに、原告は、殊更に金銭の貸付け関係の記載を一切記載せず、本件貸金利息等に係る所得を除外した虚偽の内容の申告書を作成して、これを被告に提出したものである。また、証拠(甲二三、証人星憲雄)によれば、本件の税務調査に際しても、調査第一日目において、担当職員が金銭の貸付けを業として行っていないか質問したのに対し、原告は、当初はこれを認めようとせず、担当職員の説得により漸く金銭の貸付けに関するメモを提出したが、これには本件貸付けに関する記載はなかったこと、その日に、原告は、本件貸付けの事実の存在を明らかにしなかったこと、調査二日目において、担当職員が植原貢らの氏名をもちだすに及んで、原告は漸く本件貸付けに関する資料の一部を提出したこと、しかし、自ら保有する本件貸付けに関する資料の一部しか提示せず、右提出に係る前記公正証書記載の貸付金額についてもその算定の根拠を担当職員に積極的に説明しようとしなかったこと、その後の調査においても、担当職員が右貸付金額の算定根拠について何度も質問したが、原告はあいまいな回答をするだけで、その算定根拠となる資料の提示もしなかったことが認められる。

右によれば、原告は、当初から所得を過少に申告することを意図したうえ、その意図を外部からもうかがいうる特段の行動をしたものとみるべきであるから、その意図に基づいて原告のした平成元年分を除くその余の各年分の所得税に係る過少申告行為は、通則法六八条一項所定の賦課要件を満たすものというべきである。したがって、原告に対しては、通則法六八条一項に基づき、本件各更正処分に伴い原告が新たに納付すべき所得税額を基礎として計算される重加算税を課すべきである。

原告は、本件貸金利息等について確定申告をしなかったのは、本件訴訟において問題になっているとおり、本件貸付けに関して現実に何らの利益も得ていないので、税務申告の必要ありとは全く考えていなかったことに尽きるのであり、ことさらに事実関係を隠ぺいしようとする意図はなく、重加算税の賦課要件は存在しない旨主張するところ、甲八にはこれに沿う原告の陳述記載があり、原告は本人尋問においても同趣旨の供述をしている。

しかしながら、原告が営む質屋業にあっては、一般に未収の利息等の計算が不可避であり、また、原告は、本来の事業である質屋業を営む傍ら、開業当初から第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っており、貸付残高も、昭和四〇年ないし同四五年ころには約二億円にも達していたことが認められるのであって、このことに、本件貸付けに関する経緯、ことに、利息等を元本に組み入れて各準消費貸借契約を締結し、本件当初貸金及び右各準消費貸借契約に基づく債権を被担保債権として債務者所有の不動産に根抵当権を設定するなど、債権保全の措置を講じていることなどを考慮すれば、前述したとおり、原告は、金銭の貸付けに関する知識を十分有しており、本件当初貸金に係る消費者貸借契約及び右各消費貸借契約に基づき本件貸金利息等の債権が発生し、これが所得を構成するとの認識を有していたものと認めるのが相当である。原告の主張に沿う甲八の記載及び原告本人の供述はたやすく信用することができず、他に右認定を覆す証拠はない。

六  本件各更正処分等の適法性について

1  本件各更正処分について

(一) 本件係争各年において原告が支払った本件賃料のうち本件係争各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額が前記一4記載のとおりとなること、原告が貴家に支払ったとする給与及び本件建物に備えられたクーラーの購入費が事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用とはいえないこと、本件貸金利息等が雑所得として課税の対象となること、本件係争各年分の本件貸金利息等に係る雑所得の金額が前記四3記載のとおりとなることは、前記一ないし四に説示したとおりである。

そこで、これらの点及び被告主張の本件係争各年分の総所得金額及び納付すべき税額の算定根拠のうち争いのない各金額を前提に原告の本件係争各年分の総所得金額及び納付すべき金額を計算すると、前記第二の二6記載のとおりとなる。

(二) 平成元年分に係る本件更正処分による総所得金額、納付すべき税額は、前記第二の二6(一)の金額と同額であり、また、本件係争各年分のうち平成元年分を除くその余の各年分に係る本件各更正処分による総所得金額及び納付すべき金額は、前記第二の三6の(二)ないし(五)の各金額を上回らないから、本件各更正処分は適法である。

2  本件各決定処分について

本件貸金利息等を雑所得として申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件が存在することは、前記五に説示したとおりである。

したがって、原告に対しては、通則法六八条一項に基づき、本件各更正処分(平成元年分に係る本件更正処分を除く。)に伴い原告が新たに納付すべき所得税額(納付すべき税額)を基礎として計算される重加算税を課すべきところ、原告に課すべき重加算税の額を計算すると、前記第二の三2記載のとおりとなる。本件各決定処分による重加算税の額は、いずれも前記第二の三2(二)に記載した金額と同額であるから、本件各決定処分はいずれも適法である。

七  結論

以上の次第で、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 裁判官 篠田賢治)

別紙 本件見取図

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別表1

平成元年分 所得税の更正処分等の経緯

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別表2

平成2年分 所得税の更正処分等の経緯

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別表3

平成3年分 所得税の更正処分等の経緯

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別表4

平成4年分 所得税の更正処分等の経緯

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別表5

平成5年分 所得税の更正処分等の経緯

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別表6

本件貸金利息等の計算表

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