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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)133号 判決 1998年4月28日

神奈川県相模原市横山六丁目四番一号

アスリートタウンKoizumi6F

原告

株式会社タキオテック

右代表者代表取締役

新倉賢一

右訴訟代理人弁護士

菰田優

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 荒井寿光

右指定代理人

清野正彦

廣戸芳彦

笛木秀一

山口貴志

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

別紙特許出願目録記載の各特許出願について特許庁が平成九年二月一〇日に受け付けた出願取下手続が無効であることを確認する。

第二  当事者の主張

本件請求の原因は、別紙記載のとおりであり、その要旨は、原告がした別紙特許出願目録記載の各特許出願(以下「本件各特許出願」という。)について、平成九年二月七日、原告の代表取締役であった河野直が原告の代表者として本件各特許出願の出願取下書を特許庁に郵送し、同月一〇日、特許庁が右取下書を受理したが、右出願取下げは、右河野が代表取締役の権限を濫用し、原告の利益を犠牲に自らの利益を図った無効なものであるとして、被告に対し、本件各特許出願の取下げが無効であることの確認を求めるというものである。

これに対し、被告は、本案前の答弁として、本件は、行政訴訟法三条四項所定の処分の存否の確認を求める訴訟に該当せず、私人の行為についての無効確認を求めている民事訴訟であり、国の機関が当事者能力を有するものではないから、本件訴えは、当事者能力を有しない者を被告とする不適法なものとして、却下されるべきであると主張している。

第三  当裁判所の判断

本件訴えが、国の行政機関である特許庁長官を相手として、原告の特許出願の取下げの無効確認を求める民事訴訟であることは、本件記録上明らかであり、原告の自認するところでもあるところ、行政庁である被告は、私法上の権利義務の主体となり得るものではなく、民事訴訟において当事者能力を有するものではないというべきであるから、本件訴えは、当事者能力を有しない者を被告とするものであり、不適法といわざるを得ない。

原告は、被告を特許庁長官から国に変更する旨の任意的当事者変更の申立てをしているが、このような任意的当事者変更については民事訴訟法にこれを許すべき明文の規定がなく、本件においては、被告が右当事者変更に同意しない旨を明示して、訴えの却下を求めていることに照らしても、これを認めることはできなかというべきである。

以上によれば、本件訴えは、不適法であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 中吉徹郎)

請求の原因

一 当事者

原告は、電子工学用機械及び同部品の製造、販売等を目的とする会社である。

二 特許出願

原告は、特許庁に対し、別紙特許出願目録記載の各特許出願(以下「本件各特許出願」という)をした。出願日は、別紙特許出願目録1ないし3記載の各出願が平成八年八月六日、同目録4記載の出願が同年一〇月一八日、同目録5記載の出願が同年一二月四日である。

本件各特許出願における発明者は、いずれも訴外河野直(以下「訴外河野」という)及び訴外北田淳(以下「訴外北田」という)であるところ、右両名は、右特許出願に係る各発明についての特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という)を原告に譲渡したものである。

右特許出願をした当時、訴外河野は原告の代表取締役であり、訴外北田は原告の取締役であったが、訴外河野は平成九年二月一一日に、訴外北田は同年二月八日にいずれも取締役を辞任した。

三 出願取り下げ

訴外河野は、右取締役辞任に先立つ平成九年二月七日、原告の代表取締役として、本件各特許出願の出願取下書を郵便で発送し、特許庁は、同月一〇日に同書面を受け付けた。

四 出願取り下げの無効

1 しかし、右出願取り下げの手続は、以下の理由により無効である。

2 すなわち、右出願取り下げにより、本件各特許出願は他の出願との関係では、初めから出願がなかったものとみなされるため、再出願が可能となる。その場合、訴外河野は、事実上発明者として出願することが可能となる。しかし、訴外河野は、本件特許を受ける権利を原告に譲渡していたのであるから、本件各特許出願の出願を取り下げることは実質的には、本件特許を受ける権利を改めて原告から訴外河野に譲渡するに等しい行為である。

3 しかるに、本件特許を受ける権利を訴外河野に譲渡することは、取締役と会社間の利益相反取引となるから、取締役会の承認がない限り無効である。

したがって、本来、訴外河野が本件各特許出願の取り下げをするのであれば、その前提として本件特許を受ける権利を原告から訴外河野に譲渡することについて取締役会の承認を経るべきである。ところが、右取り下げは、特許を受ける権利の譲渡について取締役会の決議を経ていないばかりか、訴外河野及び訴外北田以外の取締役には隠密裡に行われたのである。

4 しかも、訴外河野は、右出願取下書を発送した三日後に取締役の辞任届を発送しており、自ら会社との関係を絶つ前に会社に与えていた権利を取り戻そうとするもので、極めて卑劣かつ悪質な行為である。

5 右のとおり自らの利益を図り会社の利益を一方的に奪うことを目的としてなされた行為は、代表取締役の権限を濫用するものであって、無効である。

六 結論

よって、原告は被告に対し、本件各特許出願の取り下げ手続が無効であることを確認することを求める。

以上

特許出願目録

1 出願番号 平成8年 特許願 第207377号

2 出願番号 平成8年 特許願 第207372号

3 出願番号 平成8年 特許願 第207367号

4 出願番号 平成8年 特許願 第276702号

5 出願番号 平成8年 特許願 第355503号

以上

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