東京地方裁判所 平成9年(行ウ)162号 判決
原告
日本コムシス株式会社(X)
右代表者代表取締役
岩﨑昇三
右訴訟代理人弁護士
山田二郎
被告
東京都江戸川都税事務所長(Y) 林銑太郎
右指定代理人
江原勲
同
若栗征宏
同
矢野照雄
事実及び理由
第二 事案の概要等
三 争いのない事実等
1 本件土地に関する本件基準日前後の事実経過(〔証拠略〕)
(二) 平成五年中における本件建物の建築に関する原告の行為経過を項目として列記すれば、次のとおりとなる。なお、本件基準日当時、隣接地及び本件土地はいずれも更地であった。
(1) 一月二五日から二月一八日まで、大成基礎設計株式会社による地質調査
(2) 四月二一日、本件建物の建築計画の標識設置、東京都江戸川区長(以下「区長」という。)に対する緑化計画書の事前相談
(3) 四月二八日、区長に対する東京都江戸川区住宅等整備指導要綱に基づく協議の申入書の提出
(4) 五月七日、株式会社エヌ・ティ・ティファシリティーズとの間に設計・工事監理業務委託契約
(5) 五月一一日、東京都下水道局長に対する開発行為に係わる同意、協議申請書の提出
(6) 五月一二日、近隣説明会の実施
(7) 五月一八日、東京消防庁江戸川消防署長に対する協議申請書の提出、区長に対する同意申請書の提出
(8) 五月二一日、東京都知事(以下「都知事」という。)に対する同意申請書の提出
(9) 六月一日、施工業者(大豊建設株式会社)の決定、区長に対する地区計画区域内の建築届出
(10) 六月二日、区長に対する開発行為許可申請書の提出
(11) 六月四日ころ、建築確認申請書の提出(七月一日受理)
(12) 六月一一日、都知事に対する廃棄物保管場所等設置届の提出
(13) 六月二五日、区長に対する指定作業場設置届書及び工事完了公告前の建築承認申請書の提出
(14) 七月一四日、大豊建設株式会社との間の本件建物の工事請負契約の締結、地鎮祭挙行
(15) 八月一二日、本件建物につき、主要用途を「事務所、寄宿舎、倉庫」とする建築確認通知の取得
(16) 一二月、土木工事、杭打工事の完了
第三 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、第一に、審議会において本件土地についての特別土地保有税納税義務免除の認定が審議されたか否か、第二に、本件土地が本件基準日において特別土地保有税納税義務免除の要件を充足していたか否かにあるが、この点に関する当事者の主張は次のとおりである。
一 原告
1 審議会の議を経るこどが求められているのは、審議会に特別土地保有税納税義務免除の要件を個別的、具体的に判断させることが目的であるが、本件については、個別的、具体的な審理がされていないから、本件処分は、法六〇三条の二第四項に違反する違法なものである。
2 基準日における土地利用の現況は、当時の一時的な現況ではなく、基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきであり、その結果、基準日において既に工事の進捗状況からみて恒久的な建物に供されることが確実であると認められる土地は、免除対象となるのである。また、恒久的な建物に供されることが確実であるか否かは、画一的に根切り工事が終わっているかどうかとか、建築確認を受けて躯体工事等に着手しているかどうかだけではなく、初期の建築行為である地質調査、標識の設置、近隣説明等々の諸建築行為をも包含して個別的に判断すべきものである。
ところで、本件建物は一号恒久性基準を充足するものであり、本件建物は隣接地に存在した建物を改築するものとして、隣接地と本件土地を一体の敷地として建築されたものであるところ、原告は、本件土地を取得した直後から、地質調査に着手し、建築計画の標識の設置から開発許可申請、農地転用届、建築確認申請までの工事までの建築行為に六か月を要したが、都市計画に従った農地の転用を必要とする規模の大きな恒久的建物を建築するには、当然に、相応の期間を要するのであるから、本件土地を取得した経過及び本件建物の建築行為の経過に照らせば、本件土地は、本件基準日において一号免除土地に該当していたものである。
二 被告
1 前記第二、三、2(三)記載の経過に照らせば、審議会が個別的、具体的に審理を行ったことは明らかである。
2 一号免除土地の要件を充足するためには、基準日において恒久的建物が完成している必要はないとしても、その敷地に供されることが確実であることを要するのであり、ここでいう確実であるとは、土地保有税の納税義務免除要件の性質に照らして、少なくとも基準日において恒久的建物の建築に外形的、客観的に着手していることを要するのであり、ここでいう着手とは建物の建築工事に着手することであり、その前提としてされる諸手続及び諸行為は、建物の建築工事に含まれない。
そして、本件土地及び隣接地は、本件基準日当時、更地であったから免除要件のいずれにも該当しない。
第四 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第五 当裁判所の判断
一 既に摘示した事実関係によれば、本件申請書及び原告が提出した平成五年九月二七日付けの「特別土地保有税の免除申請について」と題する書面に記載された本件建物の建築経過は、被告の現地確認の結果と矛盾するものではなく、原告主張の事実経過について被告が疑問を生ずるような事情はなかったのであるから、被告が、右事実関係を前提として本件土地を調査したことに違法はない。そして、〔証拠略〕によれば、被告は、右事実関係に基づいて、本件建物が事務所、倉庫、寄宿舎として申請されたものであること、本件基準日における本件土地の状況が更地であること及び調査日においては工事中であること並びに本件土地が本件基準日において一号免除土地及び二号免除土地に該当しない旨の意見を記した特別土地保有税免除認定調査票を提出して、審議会への付議を依頼し、これに応じて、審議会が答申をしたことが認められる。
右によれば、審議会において、本件土地について個別的な審理が行われたというに妨げなく、これと異なる原告の主張は採用できない。
二 特別土地保有税は、土地の取得及び保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的な取得を抑制するとともに、土地の供給を促進することを目的として創設されたものであるが、投機目的で取得され、保有されている土地であるか否かの判断が困難であることなどから、当初は、当該土地の利用の有無を問わず一律に課税されることとされていた。しかし、その後、既に社会通念上相当程度の水準の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで特別土地保有税を課することは適当でないという考慮から、このような場合には、いったん発生した特別土地保有税の納税義務を免除することとしたが、具体的な個々の土地について、最終的な需要に供されているか、将来の売買を見越しての仮の利用に供されているにすぎないのかの判断は困難であるところから、その具体的な運用における恣意的な認定又は課税の不公平を避けるため、法六〇三条の二第一項は、確実に最終的な需要に供されていると認められるものを納税義務免除の対象とすることとしたのである。したがって、納税義務免除要件のうち土地の利用状況については、基準日において、その土地が、恒久性の要件を充足する建物若しくは構築物の敷地又は特定施設の用に供する土地に該当するか否かを、外観的事実に基づいて客観的に判断すべきものと解するのが相当である。
もっとも、基準日における外観的、客観的事情から、建築中の建物が恒久性の要件を充足するものであること及びその建物が建築されることが確実であることが認定できる場合には、特別土地保有税の納税義務免除の制度趣旨に照らして、一号免除土地に該当すると解すべきものであるから、基準日において、常に当該建物が完成し存在していることを要するものではないというべきである。また、外観的事実に基づく客観的判断とは、特別土地保有税の納税義務免除の制度趣旨に照らして、建築主がどのような意図を有していたか、あるいは建築意図を表明したか否かによるべきものではなく、土地の物理的利用状況あるいは具体的な工事から予想される建物の構造等に照らして行われるべきものである。なお、右に説示したところは、基準日における土地の利用状況を基準日の前後の事情から認定することを妨げるものではない。以上の観点からすれば、前記昭和五三年四月一日自治省固第三八号自治省税務局長通達第二の五の趣旨は相当ということができる。
三 この点を本件について検討するに、既に摘示した事実関係によれば、本件基準日において建築を計画されていた本件建物は一号恒久性基準を充足するであろうことが認められ、また、本件基準日までに、原告が本件土地及び隣接地を一体の土地として本件建物を建築する予定であることが看板によって外部に表明されていたこと、本件土地の取得経過及び本件建物の建築のための諸届出等がされていたことからすれば、原告の右意図は確定的であると評価し得るものであったことが認められるが、反面、本件基準日当時までに本件土地あるいは隣接地について行われたことは地質調査であって、本件基準日当時において本件土地は更地であったことが認められる。そうすると、本件基準日における本件土地の客観的状況としては、本件建物の設計を変更することも、本件建物の建築を延期することも可能な状態にあったというほかなく、原告の主張する事実関係をもってしても、本件基準日における外観的、客観的事情から、本件建物が計画どおり建築されること(本件土地が一号免除土地の要件を充足するであろうこと)が確実であると認定できる状態にあったということはできないというべきである。
四 なお、原告が引用する裁判例(東京高等裁判所平成六年三月一六日判決・行裁集四五巻三号二五一頁)は、特定施設たるパチンコ店と公道を隔てて対面する位置にある付属駐車場につき、それ自体では二号恒久性基準を充足しないとしても、それが建物等を本体とする店舗施設と一体的に利用されているときは、本体部分たる建物等について二号恒久性基準が肯定されれば足りるとした二号免除土地に関するものである。しかし、本件で、原告は、本件基準日当時、隣接地と一体として本件建物の敷地の用に供されるものであったとして、本件土地が一号免除土地に該当することを主張するものであって、二号免除土地に該当すると主張するものではないから、右裁判例は本件と事案を異にするものというべきである。
もっとも、〔証拠略〕によれば、平成五年一月二五日から同年二月一八日までの間に行われた地質調査の対象土地には隣接地のみが掲げられており、〔証拠略〕から窺える本件建物の建築面積(約六三七平方メートル)と敷地面積(二九九七平方メートル)との対比及び甲第二九号証中の建物配置図によれば、本件建物は本件土地及び隣接地からなる一画地の一部に配置され、その余の部分は駐車場等の用途に充てられることが窺える。そうすると、仮に本件土地が右駐車場等の用途に充てられる部分に該当するときは、本件土地、事務所、寄宿舎、倉庫たる本件建物と一体的に利用されている土地により構成される特定施設の用に供する土地として、二号免除土地の該当性が検討されるべきことになる。しかし、この場合でも、完成後の特定施設(事務所、寄宿舎、倉庫からなる施設)の二号恒久性基準の具備あるいは本件土地と本件建物との一体性が問題となるのではなく、本件基準日において、特定施設の用に供する土地と認定できるか否かが問題となるのであって、この点については、一号免除土地の該当性の判断について説示したことが妥当するから、原告の計画において本件土地と隣接地との一体性あるいは本件土地と本件建物との一体性が肯定されるとしても、本件基準日において本件土地が特定施設の用に供する土地であったということはできないのである。
五 結論
以上によれば、本件処分は適法であって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)