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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)178号 判決

原告

平田昭広(X)

被告

東京都渋谷区長(Y) 小倉基

右指定代理人

内山忠明

岩田実

廣地毅

藤森一昭

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  争点1(総務部の文書中の本件出席者人数等部分及び福祉部の文書中の本件保護司会会長名部分が本件条例六条二号に定める非公開事由に該当するか)について

1(一)  本件条例六条二号は、「個人に関する情報で、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」については、非公開とすることができる旨定めているところ、右規定が「個人に関する情報」がみだりに公開されないようにし、これにより個人のプライバシーを保護しようとする趣旨のものであることは明らかである。すなわち、本件条例は、実施機関は、同条例を解釈、運用するに当たっては、個人に関する情報がみだりに公開されることのないように最大限の配慮をしなければならない(同三条)として、一定の情報を非公開事由として列挙している(同六条)が、本件条例の本来の目的は、区民の知る権利を保障し、公正で開かれた区政を推進するというところにあり、同条例は、右の目的を実現すべく、実施機関は、情報公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用しなければならない(同三条)と定めていること、個人に関する情報であっても、法令の規定により、何人でも閲覧することができるとされている情報(同六条二号ただし書ア)や、実施機関が公表することを目的として作成し、又は取得した情報(同六条二号ただし書イ)など、およそ個人のプライバシーが問題とならないものについては、公開するものとされていること、事業を営む個人の当該事業に関する情報については、本件条例六条三号に定める非公開事由に該当しない限り、公開するものとされていることに本件手引きを併せ考慮すれば、本件条例が「個人に関する情報」を非公開としたのは、情報の公開を原則としつつ、個人のプライバシーを保護するために、戸籍的事項に関する情報、経歴に関する情報、心身に関する情報、財産状況に関する情報、思想・信条に関する情報など、個人のプライバシーに関する情報を中核として、それを取り巻き、その性質上公開に親しまないような一定の情報について非公開とすることができる旨を定めたものと解される。

しかして、右の規定の趣旨及び内容に照らせば、個人が公務員等の公人の立場で公務その他の公的な活動に従事した場合に関する情報のように、およそプライバシーと関係のない公的事項に属することが明らかな情報はこれに含まれないものと解するのが相当である。

(二)  これに対し、被告は、本件条例六条二号は、個人に関する情報で、広く特定の個人が識別され、又は識別され得る一切の情報をただし書に定める場合を除き非公開とする趣旨のものと解すべきであり、当該情報が私事に関するか否か、あるいはそれが区とどのような関係にある者の情報であるか否かという基準によって公開するか否かを決すべきものではない旨主張するが、右規定の趣旨が個人のプライバシーの保護にある以上、また、公務ないし公的活動と個人のプライバシーに関する事項とは截然と区別をすることが可能であることからすれば、「個人に関する情報」の意味を被告主張のように広く解するのは、右規定の趣旨を逸脱するものといわざるを得ない。

2  総務部の文書中の本件出席者人数等部分について

(一)  総務部の文書中の本件出席者人数等部分は、区議会議員との懇談会等における「出席者の総人数」、「区議会議員の人数」、懇談会の経費の内訳である「人数及び一人当たりの単価」などであるが、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 本件で問題となっている区議会議員との懇談会は、それに先立つ意見交換会とともに、区長が一定の区議会議員を招いて区政全般について意見を交換し、区行政の円滑な推進を図ることを目的として行われたものである。

(2) 右意見交換は、区役所の応接室で行われた。

(3) 右意見交換会及び懇談会の出席者は、区長や区の職員のほかは、すべて区議会議員で、それ以外に民間人等の出席者はいなかった。

(4) 右懇談会に係る費用は、(款)総務費、(項)総務管理費、(目)一般管理費、(節)需用費、(細節)食料費の中から支出され、その支出原議における件名、領収証書における摘要等には、「区議会議員との意見交換及び懇談会」等と記載されていた。

(二)  右事実によれば、右区議会議員は、単なる私人の立場ではなく、区議会議員という区政に関わる者として、区長と意見交換等をするために右懇談会等に出席したものであり、右の出席は、区議会議員の職務の一部をなすもの、あるいは職務と密接に関連し公務に準ずるものであること、総務部の文書(番号四四、四六、四八の「事業原議兼支出原議」、番号四五、四七及び五五の「清算書及び領収書」)に記載された本件出席者人数等部分は、公務又は公務に準ずる意見交換の場である右懇談会等への出席者の役職、人数等を明示することにより右懇談会等の費用の支出の根拠、支出の内訳を明らかにするため記載されているにすぎないことが認められ、右の本件出席者人数等部分がそれ以上に公務員の地位にある者の個人としての行動ないし生活に関する記録という意味合いを含むものということはできないから、右の情報についてはプライバシーの保護の要請が働く余地はないものといわなければならない。

これに対し、被告は、相手方である区議会議員は、議会活動の一環として右懇談会等に出席したものでないことはもとより、議員の職責として出席したものでもなく、あくまでも私的な立場で右懇談会等に出席したにすぎない旨主張するが、右懇談会等への出席が区議会議員の職務の一部をなすもの、あるいは職務と密接に関連し公務に準ずるものというべきことは、右に説示したとおりであり、被告の右主張は理由がない。

したがって、右各文書中の本件出席者人数等部分は、本件条例六条二号にいう「個人に関する情報」には当たらないというべきである。

(三)  被告は、右懇談会等に出席対象者とした区議会議員の人数が公開されると、右懇談会等の性格、目的、開催時期、回数その他公開されている情報とを組み合わせることによって、出席した当該議員個人が容易に識別、特定され得る旨主張するが、右懇談会等に出席した区議会議員数と右懇談会等の性格、目的、開催時期とを組み合わせることによって、出席した議員個人が識別、特定されるとは認められず、他に右の本件出席者人数等部分が公開されることにより出席した議員個人が識別、特定されることになるとする事情を認めるに足りる証拠はないから、総務部の文書に記載された本件出席者人数等部分は、本件条例六条二号にいう「特定の個人が識別され得るもの」にも当たらないというほかない。

(四)  したがって、総務部の文書中の本件出席人数等部分は本件条例六条二号に定める非公開事由に該当しないというべきである。

3  福祉部の文書中の本件保護司会会長名部分について

(一)  保護司は、社会奉仕の精神をもって、犯罪をした者の改善及び更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もって地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与することを、その使途とする(保護司法一条)ものであり、人格及び行動について、社会的信望を有することなど、所定の条件を具備する者で、保護観察所の長が推薦した者のうちから、保護司選考会の意見を聞いた上で、法務大臣又は法務大臣の委任を受けた地方更生保護委員会委員長によって委嘱されるものであり(同法三条)、保護司を構成員とする団体である保護司会は、極めて公益性の高い公共的団体であるということができる(後記(二)のとおり、区が一般に公表している区政概要の中で保護司会会長の個人名が記載されているのも、このような公益性によるものと思われる。)。

そして、乙一六によれば、福祉部の文書(番号八の「支出原議」)に記載された本件保護司会会長名部分は、区が行う平成七年度渋谷区保護司会との懇談会の開催を通知する趣旨の渋谷区保護司会に対する案内の起案文書において、その名あて人を表示するために記載されたにすぎないものであることが認められ、区が保護司会という公益性の高い公共的団体との間で行う懇談会の案内において右名あて人として保護司会会長の個人名を表示することが、当該保護司会会長の個人としての行動ないし生活に関する意味合いを含むということはできないから、右の情報についてはプライバシーの保護の要請が働く余地はないものといわなければならない。

したがって、本件保護司会会長名部分は、本件条例六条二号にいう「個人に関する情報」には当たらないというべきである。

(二)  また、仮に、右の本件保護司会会長名部分が本件条例六条二号にいう「個人に関する情報」に当たるとしても、同号ただし書の規定の趣旨に照らし、右部分を非公開とすることはできないものというべきである。

すなわち、本件条例六条二号は、個人に関する情報で、特定の個人が識別され、又は識別され得るものは、公開しないことができる旨定めているものの、そのただし書において、「法令の規定により何人でも閲覧することができる情報」(同号ただし書ア)、「実施機関が公表することを目的として作成し、又は取得した情報」(同号ただし書イ)を非公開事由の例外として規定しているところ、形式的にみれば、福祉部の文書(事業原議に添付された保護司会あて案内の起案文書)の一部をなす本件保護司会会長名部分が右の例外規定に該当すると解するのは困難であるが、右の例外規定が設けられた趣旨は、区においておよそ一般人が通常の手段により知り得る情報、従来から慣行上公表されており、今後公表しても本人から異存がないと認められる情報は、個人に関する情報であっても、これを非公開とする理由がないという点にあると解されるところ、保護司会会長の個人名は、区が一般に公表している区政概要に記載されていて、区民が通常知り得る情報であることは当事者間に争いがなく、また、当該氏名を公表することが本人の意思に反するものとも考えられないから、右福祉部に係る保護司会あての案内の起案文書が公開される以上、その名あて人となっている保護司会会長の個人名の部分を非公開とする合理的な理由はないというべきであり、右例外規定の趣旨に照らし、右の本件保護司会会長名部分を非公開とすることはできないと解するのが相当である。

(三)  以上のとおりであるから、右の本件保護司会会長名部分は、本件条例六条二号に定める非公開事由に該当しないというべきである。

二  争点2(総務部等の各文書等の中の本件債権者名等部分が本件条例六条三号に定める非公開事由に該当するか)について

1  本件条例六条三号にいう「公開することにより当該法人等又は当該事業を営む個人に不利益を与えると認められるもの」とは、本件手引き(乙三)に記載されているとおり、(一) 法人等の保有する生産技術上又は販売上の情報であって、公開することにより当該法人等の事業活動が損なわれると認められるもの、(二) 経営方針又は経理・人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報であって、公開することにより法人等の事業運営が損なわれると認められるもの、(三) その他公開することによって、法人等の社会的評価ないし信用が損なわれるものをいうものと解される。そして、本件条例の目的(本件条例一条)のほか、実施機関は、情報の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用しなければならない(同三条)とされていることを考慮すれば、公開を求められた文書が本件条例六条三号にいう「公開することにより当該法人等又は当該事業を営む個人に不利益を与えると認められるもの」に該当するというためには、当該文書に記載された情報を公開することによって、単に抽象的に右不利益が生ずる可能性があるというだけでは足りず、当該文書の性質、そこに記載されている情報の内容等にかんがみ、当該法人等に右(一)ないし(三)記載のような事業活動上の不利益が生ずる相当の蓋然性が存在しなければならないものと解するのが相当である。

2  被告は、総務部等の各文書等の中の本件債権者名等部分が本件条例六条三号に定める非公開事由に該当する旨主張するところ、弁論の全趣旨によれば、右部分を公開すると、総務部、厚生部の懇談会の開催場所である会場名等、収入役室の懇談会の相手方名、及びすべての部局の領収書に記載された債権者名等が明らかとなることが認められる。

3(一)  右2の本件債権者名等部分のうち、総務部、厚生部の懇談会の開催場所である会場名等及びすべての部局の領収書に記載された債権者名等は、電話帳、宣伝用パンフレット等で一般に公開されているホテル・飲食店名、その所在地、電話番号等の情報であって、債権者の生産技術上又は販売・営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報や経営方針、経理、人事など事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報が記載されているわけではないと認められる。また、区の総務部などが懇談会等のため右債権者等の店舗を利用したとの事実が公開されたとしても、特に右債権者等の名誉、社会的評価、社会的活動の自由が損なわれるなどの不利益が生ずるとは認め難く、右の本件債権者名等部分の公開により右債権者等の事業活動・事業運営が損なわれたり、社会的評価ないし信用が損なわれると客観的に認めることはできない。

これに対し、被告は、懇談会が行われたホテルや飲食店の具体的な名称、所在地、領収書に記載された債権者名等を公開すると、既に公開されている懇談会等の件名、開催年月日、支出金額、支出内訳等を摘示し、公開請求者が積権者やその従業員等に対して取材を行い、その結果、これらの取材活動による様々な影響が生じることにより、債権者の営業活動が損なわれる可能性があるとして、右の本件債権者各等部分は本件条例六条三号に定める非公開事由に該当する旨主張する。

しかしながら、公開請求者が債権者等に取材活動を行うことにより様々な影響が生じる可能性があるというが、どのような不利益が生じるのか具体的に明らかでなく、むしろ、公開請求者が右取材活動を行うことがあるとしても、債権者等はこれに応答する義務を負うものではないから、右取材活動により、債権者等において若干の迷惑を被ることがあっても、その営業活動が損なわれる相当の蓋然性があるということはできないのであって、被告の主張は採用することができない。

(二)  したがって、右の本件債権者名等部分は本件条例六条三号に定める非公開事由に該当しないというべきである。

4(一)  被告は、収入役室の清算書等において非公開とされた懇談の相手方は、特定の金融機関であり、これを公開すると、当該金融機関が特定され、被告と当該金融機関との間の取引関係について他の金融機関の憶測を招き、その結果、その金融機関の事業活動が損なわれるおそれがある旨主張する。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、右清算書等には懇談会の相手方である金融機関名等が記載されているにすぎず、当該金融機関の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上秘匿を要する情報や経営方針、経理、人事など事業活動を行う上で内部管理に属する事項に関する情報が記載されているわけではないと認められる。もっとも、右の金融機関名等が公開されると、当該金融機関が区と取引関係にあること、あるいは区と取引に関する会合を持ったことが表面化するが、そのことを一般区民あるいは一般国民が知ったとしても、当該金融機関の事業活動に支障が生ずるとは考えられないし、また、銀行等の金融機関の数は限られており、それらの金融機関同士の間においては、一般に特定の地方公共団体とどの金融機関とが取引関係にあるかといった点は既に周知のことであると推認されるし、特定の金融機関と区とが会合を持ったことが、他の金融機関の憶測を招くことがあるとしても、右の会合が公共性を有する当該金融機関の正当な事業活動の一環として行われている以上、そのことにより当該金融機関の事業活動が損なわれる相当の蓋然性があるとは一般に考えられず、他に右事業活動が損なわれる相当の蓋然性があるとする事情が存することを認めるに足りる証拠はない。

(二)  したがって、収入役の文書中の本件債権者名等部分は本件条例六条三号に定める非公開事由に該当しないというべきである。

三  結論

本件各文書が本件条例に定める非公開事由に該当することについては、情報の公開の実施機関である被告に主張立証責任があると解されるところ、本件各文書のうちの非公開部分について、他に本件条例六条に定める非公開事由が存在することの主張、立証はないから(付言するに、本件決定において本件条例六条四号アに定める非公開事由に該当することを理由として非公開とされた部分が当該非公開事由に該当しないことは、その規定の文言に照らして明らかである。)、本件決定は違法として取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)

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