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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)219号 判決 1998年11月12日

原告

税金を監視する会

右代表者代表世話人

石田千秋

右訴訟代理人弁護士

中島信一郎

井上曉

被告

東京都水道局長

赤川正和

右指定代理人

小林紀歳

外一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告が原告に対し平成九年六月六日付けでした各公文書非開示決定を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、東京都(以下「都」という。)の区域内に事務所を有する団体である原告が、東京都公文書の開示等に関する条例(昭和五九年東京都条例第一〇九号。以下「本件条例」という。)に基づき、被告に対し、「東京都水道局が、水道メーター疑惑について、水道局職員六名を公務員の服務規律に違反したとして、懲戒処分した内容を示す文書」の開示を請求したところ、被告が、本件条例九条二号及び八号に定める非開示事由に該当することを理由として、右請求に係る各公文書を開示しない旨の二件の公文書非開示決定をしたため、原告が、これを不服として右各非開示決定の取消しを求めている事案である。

一  本件条例の定め

1  公文書の非開示事由

本件条例九条は、公文書の開示の実施機関(以下、単に「実施機関」ということがある。)は、開示の請求に係る公文書に同条各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができる旨規定しており、同条二号及び八号は、それぞれ次の(一)及び(二)記載のとおり非開示とすることができる情報を定めている。

(一) 二号

個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

(1) 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報(同号ただし書イ)

(2) 実施機関が作成し、又は取得した情報で公表を目的としているもの(同号ただし書ロ)

(3) 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報で、開示することが公益上必要であると認められるもの(同号ただし書ハ)

(二) 八号

監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、大学の教育若しくは研究の自由が損なわれるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの

2  公文書の一部開示

本件条例一〇条によれば、実施機関は、開示の請求に係る公文書に本件条例九条各号のいずれかに該当することにより開示しないことができる情報とそれ以外の情報とが併せて記録されている場合において、開示しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離により開示の請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは、開示しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書を開示するものとされている。

二  前提となる事実

(以下の事実のうち、証拠等を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)

1  当事者

(一) 原告は、税金の公平な負担と公正な配分を監視する目的をもって設立され、東京都葛飾区立石七丁目一二番八号にその事務所を有する権利能力なき社団であり、本件条例五条二号により本件条例に基づく公文書の開示を請求する資格を有するものである。

(二) 被告は、本件条例に基づく公文書の開示の実施機関である。

2  水道メーターの入札に関する職員の非違行為等

(一) 公正取引委員会は、都が発注した平成六年度ないし平成八年度の水道メーターの競争入札について、入札に参加した二五の業者が各社の受注比率を維持し、価格低落を防止するため、営業実務責任者の会合を開くなどして、あらかじめ受注予定者と受注予定価格を協議・合意したとして、平成九年三月一九日付けで、右の二五の業者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律三条違反により勧告を行い、その後、右勧告を受けた全業者がこれを応諾したため、右勧告と同趣旨の審決を行った(以下、この談合事件を「本件談合事件」という。)。

(二) 都水道局(以下「水道局」という。)は、公正取引委員会から、本件談合事件に関し、水道局職員が水道メーターの発注数量等について関係業者に情報提供をしていたとの指摘を受けたことから、事実関係等を調査し、その調査結果に基づき、平成九年四月二五日付けで、右の情報提供をしていた職員五名及びこれらの職員の上司である管理職員一名の合計六名の職員(以下「本件各職員」という。)が処分されるに至った。

なお、本件各職員のうち、地方公務員法二九条一項に基づく懲戒処分を受けた者は、水道メーターの発注数量等について関係業者に情報提供をしていた職員一名のみであり、その余の五名の職員に対しては、任命権者の指揮監督権に基づく事実上の行政的措置としての処分が行われ、また、右の事実上の行政的措置としての処分が行われた五名の職員のうち一名は、右処分が行われた時点において水道局から知事部局に転出していたことから、同人に対しては都知事によってその処分が行われた(乙二、弁論の全趣旨)。

3  公文書開示請求等

(一) 原告は、平成九年五月二一日付けの都知事あての公文書開示請求書(以下「本件開示請求書」という。)を郵送により提出し、本件条例六条に基づき「東京都水道局が、水道メーター疑惑について、水道局職員六名を公務員の服務規定に違反したとして、懲戒処分した内容を示す文書」の開示を請求した(以下、この開示請求を「本件開示請求」という。)。

(二) 被告は、平成九年五月二三日、本件開示請求書のあて名が都知事となっていたため、原告の同意を得て、これを被告あてと訂正した上で、本件開示請求を受理した。

4  本件開示請求に係る公文書の記載内容等

(一) 被告は、被告開示請求を受け、右請求に係る公文書は、①九水総総秘第一号「水道メータ発注数量等に関し業者に情報提供を行った職員に係る管理職員の措置について」(以下「本件文書①」という。)、②九水労職秘第一〇号「水道メータ発注数量等に関し業者に情報提供を行った職員に対する措置について」(以下「本件文書②」という。)、③九水労職秘第一三号「水道メータ発注数量等に関し業者に情報提供を行った職員に対する措置について」(以下「本件文書③」という。)及び④九水労職秘第一一号「元水道局職員の処分等の依頼について」(以下「本件文書④」という。)の四件の文書(以下「本件各文書」という。)であると特定した。

原告が本件開示請求により開示を求めた文書は右の各文書である。

(二) 本件各文書の記載内容等は、次のとおりである(乙二、弁論の全趣旨)。

(1) 本件文書①は、水道メーターの発注数量等について業者に情報提供を行った職員の上司である管理職員一名に対し、被告が任命権者の指揮監督権に基づき事実上の行政的措置として文書による処分を行うことを決定した起案文書であり、同文書には、事実関係等に関する調査結果、東京都水道局職員懲戒分限審査委員会規程(以下「懲戒分限審査委員会規程」という。)二条に基づく被告の諮問により開催された東京都水道局職員懲戒分限審査委員会(以下「懲戒分限審査委員会」という。)の当該職員に対する措置についての答申、右答申に基づき被告が当該職員に対してした措置の内容等が記載されている。

(2) 本件文書②は、水道メーターの発注数量等について業者に情報提供を行った職員一名に対し、被告が地方公務員法二九条一項に基づき懲戒処分を行うことを決定した起案文書であり、同文書には、事実関係等に関する調査結果、懲戒分限審査委員会規程二条に基づく被告の諮問により開催された懲戒分限審査委員会の当該職員に対する措置についての答申、右答申に基づき被告がした当該職員に対する懲戒処分の内容等が記載されている。

(3) 本件文書③は、水道メーターの発注数量等について業者に情報提供を行った職員三名に対し、被告が任命権者の指揮監督権に基づき事実上の行政的措置として文書による処分を行うことを決定した起案文書であり、同文書には、事実関係等に関する調査結果の要旨、右調査結果に基づき被告が当該職員らに対して行った措置の内容等が記載されている。

(4) 本件文書④は、被告が都知事に対し、水道メーターの発注数量等について業者に情報提供を行い、その後知事部局に転出した元水道局職員一名に対し処分等を行うよう依頼することを決定した起案文書であり、同文書には、事実関係等に関する調査結果の要旨等が記載されており、また、都知事が当該職員に対し任命権者の指揮監督権に基づき事実上の行政的措置として処分を行った旨を通知する都総務局長からの通知文が添付されている。

(5) 本件各文書に記載された事実関係等の調査結果又はその要旨は、公正取引委員会からの通知(情報提供)を端緒として、水道局において本件各職員及び関係者から事情聴取をしたことにより得られた情報に基づくものであり、懲戒処分等の理由となった非違行為の時期、場所、態様、相手方、背景事情、当該職員の反省、弁明、当該職員の行為に対する評価等が記載されている。また、本件各文書には、これらの事項のほか、各対象職員の所属、職層、職種、氏名、生年月日、住所、都に採用後の職歴及び処分歴等が記載されている。

5  非開示決定

被告は、平成九年六月六日付けで、本件各文書には、いずれにも、懲戒処分等の対象となった職員及び関係者の氏名等、特定の個人が識別され得る情報が記載されていること、また、同文書には、当該職員の処分等に関する評価、判断その他身分取扱いに関する情報が記載されており、開示することにより、将来の同種の処分関係事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、さらに、同文書には、当該職員の処分等に際して、秘密を前提に関係者から提供を受けた情報が記載されており、開示することにより、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められることを理由に、本件条例九条二号及び八号に該当するものとして、本件各文書をいずれも開示しない旨の決定をした。

なお、本件文書①については水道局総務部総務課が、その余の本件各文書については同局労働部職員課が、それぞれ、その非開示決定の事務を担当し、右事務担当課ごとに二つの非開示決定通知書が作成され、これらにより原告に対する非開示決定の通知がされたものである(以下、この二件の非開示決定を併せて「本件各非開示決定」という。甲四の1、2)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  本件各文書が本件条例九条二号の非開示事由に該当するか否か(争点1)

(被告の主張)

(一) 本件条例九条二号本文は、個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものが記録されている公文書は、これを非開示とすることを定めたものである。そして、右の「個人に関する情報」とは、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他一切の個人に関する情報を指し、また、右の「特定の個人が識別され得る」とは、特定の個人であると明らかに識別され、又は識別され得る可能性がある場合をいい、氏名等の特定の個人が直接識別できるような情報及び他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され得る情報も本号本文に該当する情報と解すべきである。

これを本件各文書についてみるに、本件各文書には、懲戒処分等を受けた職員の職、氏名、職歴、水道メーターの発注数量等について情報提供がされた相手方の氏名等、個人に関する情報で特定の個人が識別され得る情報及び他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報が記載されているものであり、本件各文書は、本件条例九条二号の非開示事由に該当するものというべきである。

(二) 原告は、本件条例九条各号の非開示事由は、憲法二一条の「知る権利」の保障の趣旨を踏まえ、限定的に解釈すべきであるから、同条二号本文により非開示とすることができる公文書は、公開すると「プライバシーの権利」を侵害する種類の情報が記載されているものに限るべきであるとし、公務員としての服務規律に違反して懲戒処分を受けたこと、また、その受けた処分の内容が記載された本件各文書は本件条例九条二号にいう「個人に関する情報」に該当しない旨主張する。

しかしながら、公文書の開示請求権は、憲法の規定に基づいて直接発生するものではなく、本件条例の各規定によって初めて具体的な権利として認められるものであるから、実施機関に対する開示請求に係る公文書の開示が認められるか否かは、本件条例の解釈、運用の在り方について定めた本件条例三条の趣旨に従い、開示、非開示の要件を定めた本件条例の各条項の文言を合理的に解釈することによって判断されるべきである。

本件条例三条は「個人に関する情報」を保護されるべきものとして規定し、本件条例九条二号も「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの」が記録されている公文書は、非開示とすることができる旨規定しているところ、右各条項に規定されている「個人に関する情報」について、プライバシーの権利を侵害する種類の情報であるとか、あるいは私生活上のものであるとかいうように限定して解釈すべき根拠はない。そもそも、プライバシーの範囲については、確立した判断基準が必ずしも存在しておらず、当該情報の内容、当該個人の置かれた状況、開示の状況等によって異なり、一律には決し難いものであり、本件条例九条二号は、個人に関する情報がプライバシーに関するものであると明らかに判別することができる場合はもとより、右プライバシーに関するものと推認できる場合を含めて、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況のみならず、個人の活動に関する情報その他一切の個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものを非開示情報としたものである。

本件各文書は、水道局職員の身分取扱いに関する情報を内容とするものであって、服務規律違反により処分を受けた当該職員個人の職、氏名、処分の内容及びその評価、処分等に際して考慮された当該職員の勤務状況等が詳細に記録されているものであって、当該職員のみをその対象として作成された当該職員固有の情報というべきものであるから、本件各文書は、本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報」に該当するというべきである。

(三) さらに、原告は、本件各文書に記載された情報が本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報」に該当するとしても、右情報は、同号ただし書ハに該当するので、実施機関が開示しないことができる情報には該当しない旨主張する。

しかしながら、本件条例九条二号ただし書ハは、当該個人が許可、免許、届出等に係る申請等の主体となっている場合を規定するものであるところ、これを本件各文書についてみれば、本件各文書は、服務規律違反により処分を受けた当該職員個人が届出等をしたことにより、被告が作成又は取得したものではないから、原告の右主張は、その前提において失当というべきである。

(原告の主張)

(一) 本件条例は、「都民の公文書の開示を求める権利を明らかにする」とともに、併せて「情報公開の総合的な推進に関して必要な事項を定め、もって、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的と」したものである(本件条例一条)。そして、右の「都民の公文書の開示を求める権利」は、憲法二一条及び国際人権規約B規約一九条二項によって保障された基本的人権である「知る権利」を情報開示請求権として具体化したものである。したがって、本件条例によって具体化された情報開示請求権は、憲法及び国際人権規約上の保障を受け、その趣旨に従って解釈されなければならず、情報開示請求権を制限する本件条例九条各号の非開示事由を解釈するに当たっては、非開示となる情報が必要最小限となるよう厳格に解釈されなければならない。

(二) 本件条例九条二号は、「個人に関する情報で特定の個人が識別され得るもの」が記録された公文書を開示しないことができる旨定められているところ、同号の趣旨はプライバシーを保護することにあり、同号は、「個人に関する情報」はプライバシーに当たるものと一応推認してこれを非開示とすることとしたものである。

ところで、一般に、プライバシーの権利の侵害が法的救済の対象となるといえるためには、公開された内容が、①私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること、②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること、③一般の人々には未だ知られていない事柄であることという三要件が必要と解されており、本件各文書記載の情報が本件条例九条二号の「個人に関する情報」に該当するか否かは、当該情報が右の種類の情報に当たるか否かという観点から限定的に解釈されるべきである。

しかして、本件各文書は、公務員がその公務に関し、公務員としての服務規律に違反して、業者らの談合行為に加担したことにより処分を受けたこと、また、その受けた内容が記載された文書であって、本件各文書に記載された情報は、私生活上の事実と全く関係がなく、また、私人の立場に立って公開を欲するか否かを論ずべきものでもなく、さらに、本件談合事件及びこれに関与した水道局職員が処分を受けた事実自体は広く報道され、一般にも知られた事柄であるので、これを開示することにより、プライバシーの権利が侵害されるということは全くない。

したがって、本件各文書は、いずれも「個人に関する情報」を記載したものではなく、本件条例九条二号の非開示事由には該当しないものというべきである。

(三) 仮に本件各文書に記載された情報が、本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報で特定の個人が識別され得るもの」に該当するものとしても、右情報は、同号ただし書ハに該当するので、実施機関が開示をしないことができる情報には該当しない。

すなわち、本件条例九条二号ただし書は、同号本文に該当する情報であっても、「法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報で、開示することが公益上必要であると認められるもの」については、非開示とすることができない旨を定めているところ、その規定の文言から明らかなように、右の「許可、免許、届出」というのは単なる例示にすぎないものであり、同号ただし書ハの対象となる情報には、個人に係る行政上の手続において、実施機関が作成した情報、実施機関が取得した情報、実施機関に任意に提出された情報を広く含むものと解すべきである。

これを本件各文書についてみれば、本件各文書に記載された情報は、水道メーターの発注数量等に関し業者に情報提供を行った水道局職員、元水道局職員及びこれらの上司にあった管理職員という個人に対し、地方公務員法に基づく懲戒処分又は事実上の行政的措置としての文書による処分という行政上の手続を行うに当たり、被告が取得した情報、被告に任意に提出された情報であり、本件条例九条二号ただし書ハの対象となり得る情報である。

そして、本件各文書に記載された情報は、水道メーターの発注をめぐる大がかりな本件談合事件に関し、水道局の職員がどのように関与していたのかを明らかにする証拠となるものである。談合の結果として、都民個人個人の財産というべき税金が浪費されたことは間違いのない事実であって、都民としては、なぜかかる事実が生じたのか原因を正しく理解するとともに、関与した職員に対し、然るべき責任追求を行う権利があるというべきである。また、今後二度とこのような不正行為が行われないように都民一人一人が再発防止に向けた対策を考える必要があるといえる。そのためには、だれがいかなる行為を行い、本件談合事件にどのように関与したのかという事実関係を正しく理解することが最低限必要であり、かかる事実が記載されている本件各文書の開示は、必要不可欠なのである。したがって、本件各文書に記載された情報は、都民の財産である税金の浪費を防ぐため、公にすることが公益上必要と認められる情報に該当するものというべきである。

2  本件各文書が本件条例九条八号の非開示事由に該当するか否か(争点2)

(被告の主張)

本件各文書は、本件談合事件に関係した水道局職員らに対し地方公務員法等に基づいて行われた処分に関して作成されたものであって、本件各文書には当該職員の身分取扱いに関する情報が記載されているところ、以下のとおり、本件各文書に記載された情報を開示することは、将来の同種の処分関係事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、また、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるから、本件各文書が、本件条例九条八号の非開示事由に該当することは明らかである。

(一) 本件各文書には、関係者以外に開示しないことを前提に関係職員等から事情聴取した事実及び聴取した内容が記載されているところ、その内容が第三者に開示されることになれば、懲戒権者は、公正な処分等を行うために必要な情報を十分に得ることができなくなって、将来における職員の非違行為に対する懲戒処分等の公正又は円滑な執行に支障が生ずることになる。

すなわち、職員の非違行為に係る調査においては、懲戒権者に犯罪捜査機関のような強制捜査権限が与えられていないため、関係職員等から任意に情報の提供を受けることが重要な手続となっている。また、調査事実の客観性を保つために、被処分者はもとより、非違行為の態様によりその他の関係職員、警察官、検察官、被害者等から具体的な事実関係を聴取する必要がある。仮にこれらにより得た情報が開示されることになると、聴取した内容が公開されることを前提として、事情聴取を行わなければならないことになり、その結果、懲戒処分に当たり必要とされる具体的、客観的な情報が十分に得られなくなるおそれがある。また、被処分者が供述内容が公開されることを憂慮し、結果として十分な弁明を行うことができなくなる事態も予想される。さらに、懲戒権者が具体的な懲戒処分を行うに当たっては、関係者等からの事情聴取等による事実調査を行い、判明した事実から処分対象となる事実を抽出し、非違行為の背景、すなわち、当該行為の原因、動機、態様、結果、被処分者の当該行為前後の態度、過去の処分歴、社会的な影響等を総合して、その裁量権に基づき処分等を決定するものであるから、懲戒処分等を行うための各種文書には、処分を行うに当たって考慮すべき情報を具体的に記載する必要があるところ、これらの文書が一般に公開されることを前提とするならば、的確な記載をすることが困難になって、懲戒権者は、適切な裁量判断を行うために必要な情報が得られなくなってしまうのである。

(二) 本件各文書には、第三者に明らかにしないとの前提で被告が公正取引委員会から提供を受けた情報(違反事実の調査の過程で公正取引委員会が取得した水道局職員と本件談合事件との関連を示す各種の情報)及び被告が関係職員等から事情聴取した内容等が記載されており、これらの情報を開示するとなると、今後は類似の案件について任意の協力を得ることが困難となるばかりでなく、関係当事者間で従来形成されてきた信頼関係が大きく失われることになる。

(原告の主張)

(一) 情報開示請求権を制限する本件条例九条各号の非開示事由を解釈するに当たっては、非開示となる情報が必要最小限となるよう厳格に解釈されなければならないことは、前記1(原告の主張)(一)で述べたとおりであり、本件条例九条八号の非開示事由に該当するか否かを判断するに当たっても、客観的にみて、「将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」か否か、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められる」か否かを厳格に解釈しなければならない。

(二) しかるに、被告は、単に行政の主観により、「将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められる」といっているにすぎず、被告の主張する事実によっては、本件各文書が本件条例九条八号の非開示事由に該当するものと認めることはできない。

「将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」との点についていえば、公務員の非違行為の内容とこれに対する処分結果を開示することは、むしろ、処分関係事務の公正を担保するために必要であるといっても過言ではないのであり、かかる情報を開示することにより、将来の処分関係事務の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれなどあり得ないことである。

また、被告は、本件各文書を開示すると、関係当事者間の信頼関係を損なうことになると主張するが、原告が開示を求めている情報は、被告が公正取引委員会から提供を受けた情報や関係職員などから事情聴取した内容そのものではなく、懲戒の対象となった公務員の非違行為の内容とそれに対する処分結果なのであり、これらを開示しても、関係当事者間の信頼関係が損なわれることはないのである。

3  本件各文書について本件条例一〇条に基づき一部開示を行うべきであるか否か(争点3)

(被告の主張)

本件各文書は、以下のとおり、本件条例一〇条の定める公文書の一部開示の要件に該当しないものである。

(一) 本件各文書に記載されている情報は、水道局内部の通知等を除き、本件条例九条二号及び八号の非開示とすることができる情報に該当し、また、非開示とすることができる情報とその余の情報は、分離困難な態様の記載がされていることから、本件各文書は、本件条例一〇条の定める「開示しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分を容易に分離することができ」る公文書に該当しないものである。

(二) 仮に、本件各文書のうちから非開示とすることができる情報を分離して、その余の情報を開示したとしても、開示の対象となり得るものは水道局内部の通知等に限られるところ、これらの単なる断片的な情報のみを開示することによっては、原告の開示請求の趣旨に沿うことはできないのであるから、本件各文書は、本件条例一〇条の定める「当該分離により開示の請求の趣旨が損なわれることがないと認めるとき」という要件に該当しないものである。

(原告の主張)

原告が本件開示請求により開示を求めた情報は、①いかなる職務にある、②いかなる公務員が、③本件談合事件にどのように関与し(どのような非違行為をし)、④その結果どのような処分を受けたかということに尽きるものである。そして、かかる情報が本件条例九条二号及び八号により開示しないことができる情報に該当しないことは、前記1及び2の(原告の主張)記載のとおりである。

したがって、本件各文書の一部に本件条例九条二号及び八号により開示しないことができる情報が記載されていたとしても、本件各文書のすべてを非開示とした本件各非開示決定は、本件条例一〇条に違反するものであり、取消しを免れない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(本件各文書が本件条例九条二号の非開示事由に該当するか否か)について

1(一)  前記第二の一1記載のとおり、本件条例九条二号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの」(以下「個人情報」という。)を公文書の非開示事由の一つとして規定しているところ、右規定の趣旨が、個人情報がみだりに公開されることを防ぎ、個人のプライバシーを保護することにあることは明らかである。

すなわち、本件条例は、三条において、実施機関は、本件条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならないと定め、九条二号において、個人情報が記録された公文書を、同号ただし書に該当する場合を除き、公文書の開示の対象から除外しているが、本件条例の目的は、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することにあり(本件条例一条)、実施機関は、本件条例の解釈及び運用に当たっては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重すべきものとされているのである(本件条例三条)。このことに加え、本件条例が、個人情報であっても、法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報(本件条例九条二号ただし書イ)、実施機関が作成し、又は取得した情報で公表を目的としているもの(同号ただし書ロ)のように、およそ個人のプライバシーが問題とならないものについては公開の対象としており、また、事業を営む個人の当該事業に関する情報については、本件条例九条三号に定める非開示事由に該当しない限り、公開するものとしていることに照らせば、本件条例が個人情報が記録されている公文書を本件条例に基づく公文書の開示の対象から除外したのは、情報の公開を原則としつつ、個人のプライバシーを保護するために、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産など、個人のプライバシーに関する情報を中核として、それを取り巻き、その性質上公開に親しまないような一定の情報については、これを非公開とすることとしたものと解される。

(二)  右に述べた本件条例九条二号本文の趣旨に照らせば、個人に関する情報であっても、およそプライバシーの保護が問題とならないものについては、同二号本文にいう「個人に関する情報」には該当しないものというべきであるが、個人のプライバシーの保護に関しては、一般私人のみならず、公務員も個人として保護されるべきプライバシーを有することに留意しなければならない。

すなわち、公務員の心身の状況、病歴、学歴、親族関係など、当該公務員の公務と直接関係のない情報については、公務員の個人に関する情報としてみだりに公開されるべきでないことはいうまでもないが、公務員の公務に関連した情報であっても、公務員の勤務態度、勤務成績、処分歴等、個人の資質、名誉にかかわる当該公務員固有の情報であって、本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み、そう望むことが正当であると認められるものについては、公務員の個人に関する情報としてみだりに公開されるべきではないのであって、かかる公務員の個人に関する情報が本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報」に含まれることは、その規定の文言に照らしても明らかというべきである。

2(一)  右1で説示した見地に立って、本件各文書に本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報」が記載されているか否かについてみるに、前記第二の二4(二)記載のとおり、本件各文書は、水道メーターの発注数量等について業者に情報提供を行った水道局職員(元同局職員を含む。)及びその職員の上司である管理職員に対し被告が懲戒処分等の身分取扱い上の措置を決定し、又は都知事に対しその措置をとるよう依頼するために作成された文書であり、そこに記載された情報内容が公務員の公務に関連する情報という面を持つことは否定できない。しかしながら、本件各文書に記載されているような懲戒処分等の職員の身分取扱い上の処遇に関する情報は、公務に関連する情報ではあるが、個人の資質、名誉にかかわる当該職員固有の情報というべきものであって、本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み、そう望むことが正当であると認められるものである。したがって、本件各文書に記載された、各対象職員の所属、職層、職種、氏名、生年月日、住所、都に採用後の職歴及び処分歴、懲戒処分等の理由となった非違行為の内容、当該職員の反省、弁明、処分の内容等の当該職員固有の情報と認められるものは、本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報」に該当するものというべきである。

この点に関し、原告は、プライバシーの保護が問題となるのは私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄に限られるとの考え方を前提として、本件各文書は、公務員がその公務に関し、公務員としての服務規律に違反して、業者らの談合行為に加担したことにより処分を受けたこと、また、その受けた処分の内容が記載された文書であって、本件各文書に記載された情報は、私生活上の事実と全く関係がないことなどを理由として、本件各文書はいずれも「個人に関する情報」を記載したものではない旨主張するが、前記1(二)で説示したとおり、個人のプライバシーの保護に関しては、一般私人のみならず、公務員も個人として保護されるべきプライバシーを有するものであり、個人のプライバシーの保護が問題となるのは、必ずしも私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄に限られるわけではないのであるから、原告の右主張は、その前提を誤るものとして失当というべきである。

(二)  次に、本件各文書に記載された本件各職員の個人に関する情報が「特定の個人が識別され得るもの」に該当するかについてみるに、本件各文書に記載された各対象職員の氏名、住所が「特定の個人が識別され得るもの」に該当することはいうまでもないが、本件各文書に記載されたその余の個人に関する情報についても、その氏名、住所とともにそれが開示されるならば、その情報が特定の個人にかかわるものであると認識することが可能となるものであるから、少なくともその限りにおいては、これらの情報についても、「特定の個人が識別され得るもの」に該当するものというべきである(なお、本件各文書に記載された各対象職員の氏名、住所を抹消することにより本件各文書の一部を開示することができるか否かについては、後記三において検討する。)。

しがたって、本件各文書には、本件条例九条二号本文の定める個人情報が記載されているものと認められる。

3(一)  原告は、前記第二の三1(原告の主張)(三)記載のとおり、仮に本件各文書に記載された情報が本件条例九条二号本文の定める個人情報に該当するとしても、右情報は、同号ただし書ハに該当するので、実施機関が開示をしないことができる情報には該当しない旨主張する。

(二)  しかしながら、原告の右主張は採用することができない。その理由は次のとおりである。

(1) 本件条例九条二号ただし書ハによれば、同号本文の定める個人情報に当たる場合であっても、「法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報で、開示することが公益上必要であると認められるもの」については、当該情報が記録された公文書を開示することができるところ、個人情報の非開示について右の例外規定が設けられた趣旨は、許可、免許等の行政処分及び法令等の規定に基づく届出、通知、申請その他の個人に係る行政上の手続において、実施機関が作成し、若しくは取得した個人情報又は任意に提出された個人情報の中には、個人の生命、身体、財産の保護その他公共の安全の確保のため、個人のプライバシーの保護を犠牲にしても、公にすることが公益上必要と認められる情報があり得るため、これらの情報が記録された公文書は、これを開示することができることとしたものである。したがって、本件条例九条二号本文の定める個人情報が同号ただし書ハに該当するか否かについては、個人のプライバシーの保護の必要性と当該情報が記録された公文書を開示する公益上の必要性を比較衡量することによって、これを決すべきものである。

(2) これを本件各文書についてみるに、本件各文書に記載された情報は、非違行為を理由として行われた懲戒処分等に関するものであり、その情報内容は当該職員にとって不名誉、不体裁なものであって、その情報内容をみだりに公開しないことにより当該職員のプライバシーを保護する必要性は相対的にみて高いものということができる。他方、本件各文書を開示する公益上の必要性というのは、原告の主張によれば、本件談合事件に関与した職員に対し、然るべき責任追求を行い、また、今後二度とこのような不正行為が行われないよう再発防止に向けた対策を考えるためには、だれがいかなる行為を行い、本件談合事件にどのように関与したのかという事実関係を正しく理解することが最低限必要であり、そのために、本件各文書を開示する必要性があるということにとどまるものであり、本件各文書について、個人の生命、身体、財産の保護その他公共の安全の確保のためにこれを開示する必要性があるという事情は認められない。もとより、本件談合事件に水道局職員がどのように関与したかについて、都民としてその情報の開示を求めることは、それ自体としては正当な要求というべきであるが、右の情報の開示は、できる限り個人のプライバシーを侵害しない形で行われるべきであり、本件各文書について、個人のプライバシーの保護を犠牲にしてまでも、これを開示する公益上の必要性があるものと認めることはできない。

4 以上のとおりであるから、本件各文書は、個人情報が記録された公文書として、本件条例九条二号の非開示事由に該当するものと認められる。

二  争点2(本件各文書が本件条例九条八号の非開示事由に該当するか否か)について

1  前記第二の二4(二)記載のとおり、本件各文書は、水道メーターの発注数量等について業者に情報提供を行った水道局職員(元同局職員を含む。)及びその職員の上司である管理職員に対し被告が懲戒処分等の身分取扱い上の措置を決定し、又は都知事に対しその措置をとるよう依頼するために作成された文書であり、本件各文書には、公正取引委員会からの通知(情報提供)を端緒として、当該職員及び関係者から事情を聴取したことにより得られた事実関係等の調査結果ないしはその要旨が記載されているところ、被告は、本件各文書に記載された情報を開示することは、将来の同種の処分関係事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、また、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるから、本件各文書は、本件条例九条八号の非開示事由に該当する旨主張する。

2  そこで、検討するに、前記第二の二の事実に乙二及び弁論の全趣旨を併せれば、次の各事実が認められる。

(一) 水道局においては、同局の職員に非違行為の疑いがある場合には、職員の服務及び業務の監察指導等を所管する同局職員部(平成一〇年三月三一日以前は労働部。同年四月一日付けの組織改正により名称を変更。)監察指導課(以下「監察指導課」という。)において、事実関係のほか、当該行為の社会的影響、当該職員本人の心情、反省、処分歴等について調査を行うこと。

(二) 監察指導課の調査は、本人に対する事情聴取のほか、上司、同僚等の関係者に対する事情聴取、関係書類等の収集・分析等により行うが、本人及び関係者からの事情聴取については、調査のために強制捜査権限が与えられていないため、情報を得る手段として非常に重要なものとなっており、同課においては、任意に事実、心情等を述べてもらうために、聴取に際しては、被聴取者に対して聴取を行ったこと及び聴取した内容について、処分等に必要な範囲のほかは一切公表しない旨を告げ、事実をありのままに話すよう求めていること。

(三) 右(二)のようにして得た情報に基づき、職員の処分等の決定及び発令を所管する課(管理職員については水道局総務部総務課、一般職員については同局職員部人事課)において、処分の内容等を決定する起案文書を作成するところ、右書面には、通常、本人の所属、氏名、職層、職種、生年月日、住所、都に採用後の職歴及び処分歴、処分等の対象となる事実の経過(非違行為の原因、結果、動機等を含む。)、刑事処分の状況、報道等の社会的影響、行為前後の心情、反省、上司の意見、当該行為に対する評価、情状、処分の程度等が記載されていること(なお、本件各文書のうち本件文書④を除くその余の文書は、本件各職員について作成された右の起案文書である。)。

また、元水道局職員でその後知事部局に転出した職員については、所管課において、右(二)のようにして得た情報に基づき、事実関係等に関する調査結果の要旨等を記載し、当該職員に対し処分等を行うよう依頼する起案文書を作成すること。

(四) 懲戒権者である被告は、右の処分内容等を決定する起案文書に基づいて、最終的に処分の内容等を決定し(なお、地方公務員法に基づく懲戒処分を相当とする案件及び当該案件について管理責任を問うものについては、処分の内容等を決定する前に、懲戒分限審査委員会へ諮問することになっている。)、その決定したところに従って、本人に対して所属部長等が発令通知書及び処分説明書の交付又は指揮監督権に基づく措置(訓告又は口頭注意)を行うこと。

また、被告は、右の元水道局職員については、右の処分等を依頼する起案文書に基づき、知事部局の懲戒権者である都知事に対し、処分等の依頼をし、都知事が右依頼に基づき当該職員に対し処分等を行った場合には、所管局である都総務局の局長から被告に対し書面により右処分等を行った旨の通知を行い、右通知の書面は、右起案文書に添付されること(なお、本件文書④は、本件各職員のうち知事部局に転出した職員について作成された右の起案文書である。)。

(五) 本件各職員の非違行為に関する調査は、公正取引委員会からの通知(情報提供)を端緒として、前記(一)、(二)記載の水道局における一般的な調査方法に従って行われたものであり、本人及び関係者からの事情聴取は、その聴取内容等を秘密にすることを前提として行ったものであること。

3(一)  右認定事実及び前記第二の二4(二)記載の事実によれば、本件各文書に記載された事実関係等に関する調査結果又はその要旨は、その聴取内容等を秘密にすることを前提として行った本人及び関係者からの事情聴取を中心とする調査によって得られた情報に基づいて構成されているものと認めることができるから、仮に本件条例に基づく公文書の開示の請求に対してこれを開示することになれば、その聴取内容等が秘密にされるとの前提で任意に事情聴取に応じた関係当事者との信頼関係を損なうことになることは否定できない。

この点に関し、原告は、原告が開示を求めている情報は、関係者などから事情聴取した内容そのものではなく、懲戒の対象となった公務員の非違行為の内容とそれに対する処分結果であり、これらを開示しても、関係当事者間の信頼関係が損なわれることはない旨主張するが、前記認定のとおり、本件各文書に記載された事実関係等に関する調査結果ないしその要旨は、本人及び関係者からの事情聴取を中心とする調査によって得られた情報に基づいて構成されているものであって、かかる調査結果ないしその要旨を開示すれば、たとえ、だれがいかなる供述をしたかを明らかにしなくとも、その聴取内容等が秘密にされるとの前提で事情聴取に応じた本人及び関係者の信頼を裏切ることになるといわざるを得ず、原告の右主張は採用することができない。

(二)  また、前記認定のとおり、監察指導課が行う調査においては、本人及び関係者からの事情聴取が情報を得る手段として非常に重要なものとなっており、同課において、任意に事実、心情等を述べてもらうために、聴取に際しては、被聴取者に対して聴取を行ったこと及び聴取した内容について、処分等に必要な範囲のほかは一切公表しない旨を告げ、事実をありのままに話すよう求めているところ、仮にこれらにより得た情報が本件条例に基づく公文書の開示の請求に対して開示されることになれば、監察指導課としては、事情聴取の内容等が公開されることを前提として、事情聴取を行わなければならないことになり、そうなると、関係者が自己の供述内容等が開示されることを嫌って事情聴取に応じて事実をありのままに述べることに消極的になるなどして、懲戒処分等の内容を決定するに当たって必要とされる具体的、客観的な情報が十分に得られなくなるおそれがある。また、被処分者が供述内容が公開されることを憂慮し、結果として十分な弁明を行うことができなくなり、公正な処分を行う上で支障が生ずることも予想される。さらに、懲戒処分等を決定し、又はこれを依頼するために作成される起案文書についても、本件条例に基づく公文書の開示の対象となり得るものとすると、その内容が開示された場合に生じ得る種々の影響を考慮するあまり、非違行為にかかわる事実関係や当該行為に対する評価等について的確な記載をすることが困難になって、被告又はその余の懲戒権者が公正かつ妥当な処分を行うために必要な情報が十分に得られなくなる事態も予想される。

これらの点にかんがみれば、本件各文書に記載された事実関係等に関する調査結果又はその要旨を開示した場合には、客観的にみて、将来の同種の処分関係事務の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるものと認められる。これに反する原告の主張は採用することができない。

4 以上のとおり、本件各文書には、職員の身分取扱いに関する情報であって、開示すると将来の同種の処分関係事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、また、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるものが記録されており、本件各文書は、本件条例九条八号の非開示事由に該当するものと認められる。

三  争点3(本件各文書について本件条例一〇条に基づき一部開示を行うべきであるか否か)について

1  前記一及び二で説示したとおり、本件各文書には、本件条例九条二号及び八号により開示しないことができる情報が記録されているところ、原告は、原告が本件開示請求により開示を求めた情報は、①いかなる職務にある、②いかなる公務員が、③本件談合事件にどのように関与し(どのような非違行為をし)、④その結果どのような処分を受けたかということに尽きるものであり、かかる情報は本件条例九条二号及び八号により開示しないことができる情報には当たらないから、本件各文書のすべてを非開示とした本件各非開示決定は、公文書の一部開示について規定した本件条例一〇条に違反する旨主張する。

2(一)  しかしながら、前記一で説示したとおり、本件各文書に記載された情報のうち、各対象職員の所属、職層、職種、氏名、生年月日、住所、都に採用後の職歴及び処分歴、懲戒処分等の理由となった非違行為の内容、当該職員の反省、弁明、処分の内容等の当該職員固有の情報と認められるものは、本件条例九条二号本文にいう「個人に関する情報」に該当するところ、原告が本件開示請求により求めた情報であると主張する、①いかなる職務にある、②いかなる公務員が、③本件談合事件にどのように関与し(どのような非違行為をし)、④その結果どのような処分を受けたかという情報を開示した場合には、たとえ、その職員の氏名、住所等を秘密にしたとしても、開示された情報内容そのものから、あるいは右情報内容と水道局の組織規程や職員録等の他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人が識別される可能性があるのであるから、原告が本件開示請求により求めた情報であると主張する右の情報は、本件条例九条二号本文の定める個人情報に該当するものというべきであり、被告としてはこれを開示しないことができるものである。

(二)  また、前記二で説示したとおり本件各文書に記載された事実関係等に関する調査結果又はその要旨は、職員の身分取扱いに関する情報であって、開示すると将来の同種の処分関係事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、また、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるものであるから、被告としては、本件条例九条八号によりこれを開示しないことができるところ、原告が本件開示請求により求めた情報であると主張する情報のうち、①いかなる職務にある、②いかなる公務員が、③本件談合事件にどのように関与したか(どのような非違行為をしたか)という情報は、事実関係等に関する調査結果又はその要旨の一部にほかならず、かかる情報は、本件条例九条八号により開示の対象とならないものである。

3 そうすると、仮に、本件各文書について、本件条例九条二号及び八号に該当することにより開示しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することが可能であるとしても、開示をできる部分は極めて限定されたものになり、その部分のみを開示することによっては、本件開示請求の趣旨に沿うことができないことは明らかであって、本件各文書は、本件条例一〇条の定める公文書の一部開示の要件に該当しないものというべきである。

四 以上によれば、本件各文書が本件条例九条二号及び八号に定める非開示事由に該当することを理由として、その全部を開示しないこととした本件各非開示決定は、適法というべきである。

第四  結論

よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官青栁馨 裁判官増田稔 裁判官篠田賢治)

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