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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)255号 判決

原告

久保勉(X)

被告(東京都報道部報道課長)

平井健一(Y1)

被告(東京都報道部総務課長)

中島建夫(Y2)

右両名訴訟代理人弁護士

山下一雄

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  争点1(被告平井に対する本件訴えが監査請求を経たものといえるか否か)について

1  被告平井は、本件監査請求は鈴木俊一前東京都知事及び報道部総務課長の職にあった者に本件各会議に係る経費を返還させる措置をとるよう求めるものであるところ、被告平井は報道部総務課長の職にあったことはないから、被告平井に対する本件訴えは、監査請求を経ることなく提起された不適法な訴えである旨主張する。

2  しかしながら、被告平井の右主張は採用することができない。その理由は次のとおりである。

(一)  住民訴訟につき、監査請求の前置を要することを定めている法二四二条の二第一項は、住民訴訟は監査請求の対象とした法二四二条一項所定の財務会計上の行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものと定めているが、同頂には、住民が、監査請求において求めた具体的措置の相手方と同一の者を相手方として同一の請求内容による住民訴訟を提起しなければならないとする規定は存在しない。また、住民は、監査請求をする際、監査の対象である財務会計上の行為又は怠る事実を特定して必要な措置を講ずべきことを請求すれば足り、措置の内容及び相手方を具体的に明示することは必須ではなく、仮に、執るべき措置内容等が具体的に明示されている場合でも、監査委員は、監査請求に理由があると認めるときは、明示された措置内容に拘束されずに必要な措置を講ずることができるものと解されるから、監査請求前置の要件を判断するために監査請求書に記載された具体的な措置内容及び相手方を吟味する必要はないといわなければならない。そうであるとすると、住民訴訟においては、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認められる限り、監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として右措置の内容と異なる請求をすることも、許されると解すべきである(最高裁平成六年(行ツ)第五三号同一〇年七月三日第二小法廷判決・裁判所時法一二二三号一五九頁参照)。

(二)  これを本件についてみると、本件監査請求は、本件各会議に係る経費の支出が違法、不当な公金の支出に当たるとして監査請求をしたものであり、さらに、甲一によれば、本件監査請求の請求書には、監査請求期間経過後に監査請求をする正当な理由として「会議の件名が公開され、……支出負担行為の違法性を知ることができた。」との記載がされていることが認められ、これによれば、本件監査請求においては、右経費の支出に関する財務会計上の行為のうち、本件各会議に係る支出負担行為を特に問題とする趣旨であると解することができるものである。そして、被告平井に対する本件訴えは、本件各会議のうち本件会議<1>及び<2>に係る支出負担行為が違法であるとして、東京都に代位して、右支出負担行為を行った同被告に対し損害賠償を求めるものである。

右によれば、被告平井に対する本件訴えにおいて対象とされている財務会計上の行為は、本件監査請求において対象とされた財務会計上の行為に含まれているものということができるから、同被告に対する本件訴えについては、その対象とする財務会計上の行為について監査請求を経たものというべきである。

二  争点2(本件訴えが適法な監査請求を経たものといえるか否か、具体的には、原告が監査請求期間経過後に監査請求をしたことについて正当な理由があるか否か)について

1  普通地方公共団体の住民が適法に住民訴訟を提起するためには、当該住民訴訟の対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ているだけではなく、その監査請求が適法なものであることをも要するところ、原告が本訴において違法な財務会計上の行為として問題としている本件各会議に係る支出負担行為は、いずれも平成四年度中にされたものであり、他方、本件監査請求は平成九年九月一日にされたものであるので、本件監査請求が法二四二条二項本文の定める監査請求期間経過後にされたものであることは明らかである。したがって、本件訴えが適法な監査請求を経たものといえるか否かについては、原告が監査請求期間経過後に監査請求をしたことについて「正当な理由」(同項ただし書)があるか否かによって決せられることになる。

2  この点につき、原告は、東京都が本件各会議の件名や経費の支出先である債権者名を非公開にしていた以上、原告は被告らの不正・違法行為を知ることができなかったものであり、原告は、右の情報が公開された平成九年五月二四日から四か月以内という相当な期間内に本件監査請求を行っているのであるから、本件各会議に係る支出負担行為については、監査請求期間経過後に監査請求をすることにつき正当な理由がある旨主張する。

3  しかしながら、原告の右主張は採用することができない。その理由は次のとおりである。

(一)  法二四二条二項本文は、監査請求について、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは、これをすることができないと規定しているところ、法が監査請求についてこのような期間制限を設けたのは、普通地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計上の行為がたとえ違法・不当な場合であっても、いつまでもこれを監査請求ないしは住民訴訟の対象となり得るものとしておくことは、法的安定性を損ない好ましくないとの理由によるものである。しかし、普通地方公共団体の執行機関又は職員により当該行為の存在自体が秘匿され、あるいは当該行為自体は公然とされたものであってもその内容を偽るなど当該行為について仮装、隠ぺい行為が行われ、右仮装、隠ぺい行為の存在が当該行為があった日又は終わった日から一年を経過した後に初めて明らかになった場合などにおいても、右の趣旨を貫くことは相当でないことから、法二四二条二項ただし書は、「正当な理由」があるときは、例外として、当該行為があった日又は終わった日から一年を経過した後であっても、住民において監査請求をすることができるものとしたのである。

したがって、普通地方公共団体の執行機関又は職員が行った財務会計上の行為について、前示のような仮装、隠ぺい行為が行われた場合には、法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」があるかどうかは、特段の事情がない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて隠ぺいされた当該行為を知ることができ、又は当該行為について仮装行為が行われたことを疑うべき相当な事情があることを知ることができたかどうか、また、当該行為の存在を知ることができ、又は右仮装行為が行われたことを疑うべき相当な事情があることを知ることができたと認められる時から相当な期間内に監査請求がされたかどうかによって判断すべきものというべきである。

他方、普通地方公共団体の執行機関又は職員が行う財務会計上の行為には、内部的にされるものが多くあり、このような行為については、当該普通地方公共団体の住民がその存在及び内容を知らないことが通常であり、これらのすべてについて単に住民が当該行為の存在及び内容を知り得なかったということのみで、監査請求期間経過後に監査請求をすることにつき「正当な理由」があるとすることは、法が監査請求について期間制限を設けた趣旨を没却することになるのであって、法が監査請求について期間制限を設けた趣旨や監査請求期間の始期を「当該行為のあった日又は終わった日」とし、これを住民が当該行為のあったことを知ったか否か又は知ることができたか否かにかからしめていないことに照らしてみれば、普通地方公共団体の執行機関又は職員が行った財務会計上の行為について前示のような仮装、隠ぺい行為が行われていない場合において、監査請求期間経過後に監査請求をすることにつき「正当な理由」があるというためには、単に当該普通地方公共団体の住民が当該行為の存在及び内容を知り得なかったということのみでは足りず、天災地変等による交通途絶のため監査請求期間を経過したなど、他に監査請求期間経過後においても監査請求を認めることを相当とする特別の事情が存することを要するものと解するのが相当である。

(二)  そこで、右(一)の観点から本件各会議に係る支出負担行為について検討する。

(1) 本件会議<6>の除く本件各会議に係る支出負担行為について

本件各会議のうち原告が架空会議であると主張する本件会議<6>を除くその余の各会議に係る支出負担行為については、原告は、これらの支出負担行為は予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量権の範囲を逸脱してされた違法なものであると主張するのみであり、これらの支出負担行為について仮装、隠ぺい行為が行われたとの具体的な主張・立証はない。

そして、他に本件会議<6>を除く本件各会議に係る支出負担行為について監査請求期間経過後においても監査請求を認めることを相当とする特別の事情が存するものとは認められないから、これらの支出負担行為については、法二四二条二項ただし書にいう、監査請求期間経過後に監査請求をすることについての「正当な理由」があるものと認めることはできない。

(2) 本件会議<6>に係る支出負担行為について

原告は、本件会議<6>は架空会議である旨主張しているところ、証拠(〔証拠略〕)及び弁論の全趣旨によれば、被告中島は、報道部総務課長として、都庁記者クラブの一つである鍛冶橋クラブとの懇談会(本件会議<6>)を平成五年一月一一日午後六時三〇分から芝浦企業が経営する牡丹という宴会場において開催することを決定し、同社との間で右懇談会における料理等の提供に係る契約を締結したこと、平成五年二月一二日、芝浦企業からの請求に基づき、本件会議<6>に係る料理等の代金として同社に対し五六万八三〇八円を口座振込の方法により支払う旨の本件支出命今書が発出され、これに従い同月二四日に口座振込の手続がとられ、同月二六日に同社の当座預金口座に右振込による入金があったこと、本件支出命令書に添付された芝浦企業作成名義の本件請求書には、酒類の単価として、ビール八〇〇円、酒九〇〇円、ウイスキー一万円との記載があり、また、サービス料として、料理等の代金の一〇パーセントに当たる四万八七四〇円を請求する旨の記載があること、平成九年一月の時点での牡丹における料理等の料金やサービス内容等を記載した「牡丹の御案内」には、酒類の単価として、ビール(大瓶)三三〇円、酒(銚子一本)三一〇円、ウイスキー(ボトル一本)四五〇〇円又は五〇〇〇円と記載されており、また、牡丹においては、客四、五名に対し一名の割合で接待係がサービスをし、サービス料は、接待係一名につき一五分間八二五円(一時間三三〇〇円)で計算する旨記載されていること、東京都は、東京都が行う「飲食を件う随時の会議」(個々の事業の円滑な推進を図るために、必要に応じ、各局の判断で様々な関係者と随時に懇談を行い飲食を提供するものであり、本件各会議もこれに分類されるものである。)に係る支出に関し、不正支出があるのではないかとの疑惑が持たれてきたことから、都監査委員に対し平成七年度の「飲食を伴う随時の会議」に係る支出について調査を依頼したところ、平成八年一一月八日、都監査委員から、「飲食を伴う随時の会議」に係る契約・会計事務について重大な不適正処理の事例が多数があるとの監査結果が報告されたこと、そのため、東京都においては、平成五年度及び平成六年度の「飲食を伴う随時の会議」に係る支出についてもその実態を調査し、再発防止策と支出された会議費のうち不適正の度合が重大であるものの返還方法等について検討するため、同日、総務局を所管する副知事を長とする改善検討委員会を設置したこと、改善検討委員会は、同月二〇日、委員会報告書を発表したところ、同報告書によれば、同委員会の調査において、平成五年度から平成七年度までの「飲食を伴う随時の会議」に係る契約・会計事務について、契約金額でみて全体の約七割に「つけ払い」(委員会報告書に記載された「つけ払い」の概要は、別紙記載のとおりである。)などの重大な不適正処理があったことが確認されていることが認められる。

右認定のとおり、東京都における平成五年度から平成七年度までの「飲食を伴う随時の会議」に係る契約・会計事務については、契約全額でみて全体の約七割に「つけ払い」などの重大な不適正処理があったことが確認されているところであり、本件会議<6>は平成四年度に開催されたとされるものであるが、平成四年度と平成五年度ないし平成七年度において、「飲食を伴う随時の会議」に係る契約・会計事務の処理状況に大きな変化があったことをうかがわせる事情は認められないから、本件会議<6>についても、何らかの不適正な処理が行われた可能性を否定できないのみならず、本件請求書に記載された酒類の単価等と「牡丹の御案内」に記載された酒類の単価等を比較すると、両者の間には食い違うところがあるのであって、このことは、本件会議<6>に係る支出負担行為において、その内容を偽るなどの仮装行為が行われたのではないかという疑いを抱かせるものである(なお、前記認定のとおり、「牡丹の御案内」に記載された料理等の料金やサービス料の計算方法は、平成九年一月時点のものであり、本件会議<6>が開催されたとされる平成五年一月当時の牡丹における料理等の料金やサービス料の計算方法が、右の「牡丹の御案内」に記載されたとおりの内容であるとの立証はないが、酒類の単価についていえば、平成九年一月においてビール(大瓶)三三〇円とされているのに、本件会議<6>が開催されたとされる平成五年一月におけるビールの単価が八〇〇円であったとは通常考え難いところである。)。

しかしながら、仮に本件会議<6>に係る支出負担行為にその内容を偽るなどの仮装行為が行われたものとしても、平成八年一一月二〇日に委員会報告書が発表され、平成五年度から平成七年度までの「飲食を伴う随時の会議」に係る契約・会計事務について、契約金額でみて全体の約七割に「つけ払い」などの重大な不適正処理があったことが明らかになっていたのであるから、平成四年度に開催されたとされる本件会議<6>についても何らかの不適正な処理が行われたのではないかと疑われる状況にあった上、原告の主張によれば、平成九年五月二四日には、公文書公開条例により、本件会議<6>の件名及び経費の支出先である債権者名が開示されたというのであるから、これを前提とすれば、少なくとも、原告としては、本件会議<6>の件名及び経費の支出先である債権者名が開示された平成九年五月二四日の時点において、本件請求書に記載された酒類の単価等と本件会議<6>が開催されたとされる平成五年一月当時の牡丹における酒類の単価等を比較することにより、本件会議<6>に係る支出負担行為について仮装行為が行われたことを相当の根拠をもって疑うことができたものということができる。したがって、少なくとも、原告としては、本件会議<6>に係る支出負担行為について監査請求をする場合には、本件会議<6>の件名及び経費の支出先である債権者名が開示された平成九年五月二四日の時点から相当な期間内に監査請求をする必要があるところ、本件請求書に記載された酒類の単価等と本件会議<6>が開催されたとされる平成五年一月当時の牡丹における酒類の単価等が異なるか否かということは比較的容易に調査することができることであり、本件会議<6>に係る支出負担行為について監査請求をするためにさほど準備期間を要するとは思われないこと、本件会議<6>の件名及び経費の支出先である債権者名が開示された時点において、本件会議<6>に係る支出負担行為が行われたとされる時から既に四年三か月以上が経過しており、法的安定性の確保という観点からすれば、右支出負担行為に対する監査請求は可及的速やかにされるべきものであることなどを考慮すると、本件会議<6>の件名及び経費の支出先である債権者名が開示された時点から三か月以上経過した後にされた本件監査請求は、仮装行為が行われたことを疑うべき相当な事情があることを知ることができたと認められる時から相当な期間内にされたものと認めることはできない。

そして、他に本件会議<6>に係る支出負担行為について右の相当期間経過後においても監査請求を認めることを相当とする特別の事情が存するものとは認められないから、右支出負担行為については、法二四二条二項ただし書にいう、監査請求期間経過後に監査請求をすることについての「正当な理由」があるものと認めることはできない。

4  そうすると、本件監査請求は、本件各会議に係る支出負担行為のいずれとの関係でも、法二四二条二項の定める監査請求期間を徒過した不適法なものというべきであるから、本件訴えは、適法な監査請求を経ていない不適法な訴えというべきである。

第四 結論

よって、本件訴えは、不適法な訴えであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)

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