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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)279号 判決

原告

セイブ・パイプ株式会社

右代表者清算人

西尾嘉三

被告

東京都足立都税事務所長 山道雅彦

右訴訟代理人弁護士

半田良樹

右指定代理人

洗川文雄

事実及び理由

第二 事案の概要

本件は、被告において、原告が高愛株式会社(以下「高愛」という。)から別紙物件目録記載の各土地及び建物の所有権を取得したとして、原告に対し、平成八年二月七日付けで右各土地(以下「本件各土地」という。)及び建物(以下「本件建物」といい、本件各土地と併せて「本件不動産」という。)についてそれぞれ不動産取得税賦課決定処分をしたところ、原告が、高愛から本件不動産の所有権を取得した事実はないなどと主張し、右各不動産取得税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外の事実は当事者間に争いがない。)

1  本件不動産の譲渡契約の締結、その合意解除等の経緯

(一)  原告(旧商号西武鋼材株式会社。平成五年三月二六日に現商号に商号を変更)と高愛は、鋼材類を継続的に売買する取引関係にあったところ、原告は、昭和五二年一月二四日、右取引に関して生ずる高愛に対する債務を担保するため、高愛との間で、本件不動産に極度額を四〇〇〇万円とする根抵当権を設定する旨の契約を締結し、その旨の登記を経由した(〔証拠略〕)。

(二)  原告は、昭和五四年六月一日、高愛との間で、本件不動産を原告が高愛に対して負担する鋼管の買掛金債務のため、売渡担保として代金額を三〇〇〇万円と定めて売り渡し、高愛がこれを買い受ける旨の契約(以下「本件売渡担保契約」という。)を締結し、その旨の所有権移転登記を経由した(〔証拠略〕)。同契約においては、<1>本件不動産に賦課される公租公課は原告の負担とする、<2>本件不動産の使用料は一か月当たり一〇万円として、原告が当月分を毎月末日までに高愛に支払う、<3>原告は被告に対し昭和五八年三月三一日までに前記三〇〇〇万円を支払った場合には本件不動産を買い戻すことができる、<4>原告が、右<1>、<2>の支払を一回でも怠った場合、又は右<3>の期限までに本件債務の弁済ができなかった場合は、本件不動産の所有権は内外ともに完全に高愛に移転する旨の約定がされた(〔証拠略〕)。

(三)  原告と高愛は、本件売渡担保契約で本件不動産の買戻期限とされた昭和五八年三月三一日以降も、原告が買掛金債務を支払えば本件不動産を買い戻すことができるものとして右契約を存続させるものとし、鋼材類の売買取引を継続して行った(弁論の全趣旨)。

(四)  高愛と伊澤克夫を訴訟当事者とする当庁平成六年(ワ)第一九六一三号事件(以下「別件訴訟」という。)において、平成七年二月二四日の期日に、右両当事者及び利害関係人である原告、伊澤ミチ及び伊澤智賀夫の間に次の内容の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した(〔証拠略〕)。

(1) 高愛と原告とは、本件売渡担保契約を、本日、合意解除する。

(2) 高愛は原告に対し、平成七年三月三一日限り、原告から次の(3)の金員の支払を受けるのと引換えに、本件不動産についてされた所有権移転登記及び根抵当権設定登記の各抹消登記手続をする。

(3) 原告は高愛に対し、平成七年三月三一日限り、高愛から右(2)の抹消登記手続を受けるのと引換えに、原告が高愛に対して負担する買掛金等債務金のうち七五〇〇万円を支払う。

(4) 原告は、伊澤克夫、伊澤ミチ及び伊澤智賀夫(以下「伊澤ら三名」という。)に対し、本件不動産等を、本日、売買代金七五〇〇万円で売り渡し、伊澤ら三名はこれを買い受けた。

(5) 原告及び高愛は、伊澤ら三名に対し、本件不動産等を占有改定の方法により現状有姿のまま引渡しを了したことを確認する。

(6) 伊澤ら三名は原告に対し、連帯して、平成七年三月三一日限り、原告から次の(7)の所有権移転登記手続を受けるのと引き換えに売買代金七五〇〇万円を支払う。

(7) 原告は伊澤ら三名に対し、平成七年三月三一日限り、伊澤ら三名から右(6)の売買代金の支払を受けるのと引き換えに本件不動産につき所有権移転登記手続をする。

(五)  原告と伊澤ら三名及び伊澤真智子(以下「伊澤ら四名」という。)は、平成七年三月三一日、次のとおりの合意をした(〔証拠略〕)。

(1) 前記(四)記載の本件和解条項(4)につき、本件不動産の買主を伊澤ら三名から伊澤ら四名に変更する。

(2) 前記(四)記載の本件和解条項中、本件不動産の売主とその買主である伊澤ら三名の権利義務を定めた条項は、新たな買主である伊澤ら四名の権利義務に関する条項に変更する。

(六)  本件不動産についてされた前記(一)記載の根抵当権設定登記は、平成七年四月五日に昭和五四年六月一日混同を原因として抹消され、また、前記(二)記載の高愛に対する所有権移転登記は、平成七年四月七日に錯誤を原因として抹消され、その所有名義は原告に復帰した。そして、原告は、前記(四)記載の本件和解条項及び右(五)記載の合意に基づき、同日、本件不動産について、伊澤ら四名に対し所有権移転登記手続を行った(〔証拠略〕)。

2  本件各処分等の経緯

(一)  被告は、本件売渡担保契約の合意解除により原告が本件不動産を取得したものとして、原告に対し、次のとおり各不動産取得税賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)を行った。

(1) 本件各土地に対する処分

課税標準額 四一九三万二〇〇〇円

税額 一二五万七八〇〇円

納期限 平成八年二月二九日

(2) 本件建物に対する処分

課税標準額 五六万九〇〇〇円

税額 一万七〇〇〇円

納期限 平成八年二月二九日

(二)  原告は、本件各処分を不服として、平成八年四月二日、東京都知事に対して審査請求をした(〔証拠略〕)。東京都知事は、平成九年九月一日、右審査請求を棄却する旨の裁決を行い、同裁決書は、同月二日、原告に送達された(〔証拠略〕)。

二  本件の争点及び争点に対する当事者の主張

本件の争点は、本件売渡担保契約の合意解除に伴い本件不動産の所有名義が原告に復帰したことにより原告が地方税法(以下「法」という。)七三条の二第一項に規定する「不動産の取得」をしたといえるか否かであり、この点に関する当事者の主張は次のとおりである。

(被告の主張)

1  不動産取得税は、不動産の移転に際して、その取得者に課される流通税であって、不動産の取得者が、将来、その不動産を使用・収益・処分することによって得るであろう利益に着目して、そこに担税力を認めて課されるものではなく、不動産を取得する人は、一般に、他にも経済的負担能力を持っているであろうという推定の上に立って担税力を認めているものである。

したがって、法七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かに関係なく、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むものであり、譲渡担保についても、それが所有権移転の形式による以上、譲渡担保権者が当該不動産に対する権利を行使するにつき実質的に制約を受けることがあるとしても、それは右の「不動産の取得」に当たるものと解され、このことは法七三条の二七の三が譲渡担保による不動産の取得も法七三条の二第一項により不動産取得税の課税の対象となることを前提とした上で、例外的に納税義務を免除し、あるいは徴収の猶予をすることがあることを定めていることからも窺知することができるのである。

また、このことは、譲渡担保財産の権利者(以下「譲渡担保権者」という。)から譲渡により担保の目的となっている財産(以下「譲渡担保財産」という。)を譲渡担保財産の設定者に移転(復帰)させる場合も同様であって、法は、原則として不動産の取得に該当するものとして、これに不動産取得税を課することとしているが、法七三条の七第八号は、その例外として、譲渡担保財産により担保される債権の消滅により当該譲渡担保財産の設定の日から二年以内に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者に当該譲渡担保財産を移転する場合における不動産の取得の場合については、これを非課税としている。それは、右の不動産の移転が、債権の消滅により譲渡担保財産を当該譲渡担保財産の設定者に返還するという手段的、形式的なものであるから、前記のような担税力を推定し難いとする趣旨にほかならない。

そして、ここにいう譲渡担保の概念には、売渡担保に分類されるものも含まれると解される。

2  本件についてみると、原告は、昭和五四年六月一日に、本件売渡担保契約により高愛に本件不動産を売り渡し、平成七年三月三一日に原告は高愛との間で本件売渡担保契約を合意解除したことから、一旦原告から高愛に移転した本件不動産の所有権は再び原告に復帰し、原告は本件不動産の所有権を取得したものである。

そして、本件売渡担保契約が締結された日から、それが合意解除された日まで一五年以上が経過しており、右の原告による不動産の取得が、法七三条の七第八号に規定する非課税事由に該当しないことは明らかである。

したがって、原告が本件不動産を取得したものとしてされた本件各処分は適法である。

(原告の主張)

1  本件売渡担保契約の締結とその合意解除等の経緯

(一) 原告は、原告の高愛に対して負担する買掛金債務を担保するため、高愛との間で本件不動産について本件売渡担保契約を締結し、本件不動産を譲渡担保に供した。

(二) 平成六年一〇月に至り、高愛は、譲渡担保財産である本件不動産を処分して原告に対する売掛金債権の回収を図ることとした。高愛は、本件不動産の処分をするに当たって、本件建物を現に使用している有限会社マサル工業に対して立退きを求めたが、任意の明渡しを得られず、同会社の経営関係者である伊澤克夫を被告として別件訴訟を提起するに至り、同訴訟において本件和解が成立した。

(三) 本件和解においては、原告と高愛が本件売渡担保契約を解除し、本件不動産の所有名義を原告に復帰させる旨の合意がされている。しかし、本件不動産の所有名義を原告に戻したのは、本件不動産を伊澤ら四名に売却して、その売却代金を高愛の原告に対する売掛債権の弁済に充てるに当たり、これを実行するための便宜的手段として、本件和解条項に定められたとおり、一旦、本件不動産の所有名義を仮の所有者である高愛から真の所有者である原告に戻して、原告から伊澤ら四名に売却する形式をとることとしたためであり、原告は本件和解条項(前記一1(四)の(1)ないし(7))の一連の行為を同時に履行するために必要な義務的手続の一部として本件合意解除による所有名義の復帰の手続を行ったにすぎず、原告には本件不動産の所有権を取得する意思などなかったものである。

2  右1に述べたとおり、本件売渡担保契約の解除に伴う本件不動産の所有名義の原告への復帰は、債権者である高愛が譲渡担保財産である本件不動産を処分して債権を回収するために行った準備行為であって、結果的に本件不動産の所有権の原告への移転はなかったものであり、また、本件不動産の処分に関して原告が取得した金員は皆無であるから、原告に不動産取得税を負担する経済的余裕と担税力がないことも明白である。本件各処分は、不動産取得税の課税要件に関し事実を誤認してされたものであり、また、法の精神に反するものであって、違法である。

第三 当裁判所の判断

一  本件売渡担保契約の合意解除に伴い本件不動産の所有名義が原告に復帰したことにより原告が法七三条の二第一項に規定する「不動産の取得」をしたといえるか否かについて

1  法七三条の二第一項は、不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課税する旨規定し、法一条二項により、右規定は都に準用するものとされている。なお、法三条の二、東京都都税条例四条の三第一項により、不動産取得税の賦課徴収に関する事項等は、都税事務所長に委任されている。

ところで、不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課されるものであって、不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することにより得られるであろう利益に着目して課されるものでないこと及び法七三条の二第一項の規定の文理に照らせば、右規定にいう「不動産の取得」とは、不動産の取得が法律上いかなる原因に基づくものかどうか、また、その取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かに関係なく、所有権移転形式による不動産の取得のすべての場合を含むものであり、譲渡担保ないし売渡担保としての不動産の取得も、それが所有権移転の形式による以上、担保権者が右不動産の権利を行使するにつき実質的に制約を受けるとしても、それは右の「不動産の取得」に該当するものと解するのが相当である。法七三条の二七の三第一項は、譲渡担保権者が譲渡担保財産の取得をした場合において、当該譲渡担保財産により担保される債権の消滅により当該譲渡担保財産の設定の日から二年以内に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者に当該譲渡担保財産を移転したときは、譲渡担保権者による当該譲渡担保財産の取得に対する不動産所得税の納税義務を免除するものとする旨規定し、また、同条二項は、不動産の取得に対して課する不動産を賦課徴収する場合において、当該不動産の取得者から当該不動産取得税について同条一項の規定の適用があるべき旨の申告があり、当該申告が真実であると認められるときは、当該取得の日から二年以内の期間に限って、当該不動産に係る不動産取得税の徴収を猶予するものとする旨規定しているが、右各規定は、譲渡担保財産の設定による不動産の取得については、これが不動産取得税の課税の対象となる「不動産の取得」に該当することを前提とした上で、譲渡担保財産の設定の日から二年以内に債権の消滅により譲渡担保財産の受戻しがされるという場合に限り、譲渡担保権者の不動産取得税の納税義務を免除し、あるいはその徴収を猶予することとしているものと解される。

また、不動産の所有権の移転を目的とする契約の合意解除は、民法土は遡及的に右契約を無効にする法律効果を有するものであるが、右契約により一旦その所有権が相手方に移転した事実自体は否定することができないのであって、不動産取得税が不動産の移転の事実自体に着目して課税されるものであることに照らせば、右契約の合意解除による元の所有者への当該不動産の所有権の復帰は、右契約にこれを無効とすべき原始的な瑕疵があったなどそもそも当初から不動産の移転があったとは認められないような特別の事情がない限り、課税上は、右契約の相手方から元の所有者へ新たに所有権の移転があったものとしてとらえるべきものであり、右の「不動産の取得」に該当するものと解するのが相当である。

なお、法七三条の七第八号は、譲渡担保財産より担保される債権の消滅により当該譲渡担保財産の設定の日から二年以内に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者に当該譲渡担保財産を移転する場合における不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない旨規定しているところ、右規定は、右のように二年以内という短期間に債務を弁済して譲渡担保財産を受け戻す場合における所有権の移転は、全く形式的なものにすぎないものとみられ、そこには担税力を見出し難いとする趣旨に基づくものであると解される。

2(一)  本件についてみるに、前記第二の一1記載のとおり、原告は、昭和五四年六月一日、取引先である高愛との間で、本件不動産を原告が高愛に対して負担する買掛金債務を担保するため、本件売渡担保契約を締結して本件不動産を高愛に売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由したこと、高愛と伊澤克夫を訴訟当事者とする別件訴訟において、平成七年二月二四日の期日に本件和解が成立し、本件和解において、原告と高愛とは、本件売渡担保契約を同日をもって解除する旨合意したこと、高愛は、平成七年四月七日、右合意に基づき、本件不動産について錯誤を原因として高愛に対する所有権移転登記の抹消登記手続をし、その所有名義は原告に復帰したことが認められる。なお、本件売渡担保契約では、「売渡し」、「買戻す」等の文言が用いられているものの、その内容は、既に原告の高愛に対する買掛金債務が存在し、原告がその債務を担保するため本件不動産の所有権を債権者である高愛に移転するというものであり、代金支払の形式で新たに融資が行われるというものではないから、その実質は、狭義の譲渡担保契約であると解するのが相当である。

右事実によれば、本件売渡担保契約により、本件不動産の所有権は一旦原告から高愛に移転し、その後、本件和解において、右契約が合意解除されたことにより、本件不動産の所有権は高愛から原告に復帰(移転)したものであり、右契約の合意解除に伴う本件不動産の所有権の原告への復帰(移転)は、法七三条の二第一項の規定にいう「不動産の取得」に該当するものというべきである。

なお、本件譲渡担保契約が締結された日から右合意解除がされた日まで一五年以上が経過しており、右合意解除による本件不動産の取得について、法七三条の七第八号の規定の適用がないことは明らかである。

(二)  原告は、本件不動産の所有権の原告への移転はなかったものであり、本件各処分は事実を誤認したものであり違法である旨主張するが、右主張は、法七三条の二第一項に規定する「不動産の取得」の解釈について、前記1に説示したところと異なる見解に立つものであって、採用することができない。

また、原告は、本件不動産の処分に関して原告が取得した金員は皆無であるから、原告に不動産取得税を負担する経済的余裕と担税力がないことは明白であるとし、本件各処分は、法の精神に反するものであって違法である旨主張する。しかしながら、不動産取得税は、経済的取引等により不動産を取得すること自体に担税力を認めて課税されるものであって、不動産の取得により納税者が金銭等の経済的利益を得たかどうか、原告に不動産取得税を負担する経済的余裕があるかどうかをも考慮して課税されるものではないから、原告の右主張は失当である。

二  本件売渡担保契約が合意解除されたことにより、本件不動産の所有権は高愛から原告に復帰したものであり、右契約の合意解除に伴う本件不動産の所有権の原告への復帰は、法七三条の二第一項の規定にいう「不動産の取得」に該当するものというべきことは、前記一2に説示したとおりである。

したがって、原告に対しては、本件不動産を取得したものとして不動産取得税が課税されるべきこととなる。そして、〔証拠略〕によれば、本件不動産の取得に係る不動産取得税の課税標準額、税額は前記第二の一2(一)記載のとおりになるものと認められるから、被告がした本件各処分は適法である。

三  以上の次第で、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担についても行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)

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