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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)67号 判決 1998年10月30日

東京都大田区東六郷三丁目一四番三号

原告

加藤亮一

右訴訟代理人弁護士

佐藤圭吾

相田利隆

東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号

被告

蒲田税務署長 長濱敏明

右指定代理人

中垣内健治

井上良太

上出宣雄

峰岡睦久

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、平成三年一一月一二日相続開始に係る相続税に関する原告の平成四年七月二七日付けの更正の請求に対して、平成五年六月二九日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分(ただし、平成八年一二月一二日付け審査裁決によって一部取り消された後のもの。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、平成三年一一月一二日に死亡した加藤敏男(以下「敏男」という。)の共同相続人(五人)の一人である原告が、右相続に係る相続税について、平成四年五月一一日に期限内申告をした後、相続財産に含まれている別紙物件目録(一)記載の各土地(以下「本件各土地」という。)のうち別紙図面1中「C建物の敷地部分」とある部分を除く部分(以下「本件土地部分」という。)は、敏男から株式会社加討本店(以下「加討本店」という。)に対して建物所有の目的で賃貸されたものであって、借地権の負担付きとして評価すべきであったとして、同年七月二七日付けで、被告に対し、更正の請求をしたところ、被告が平成五年六月二九日付けで更正すべき理由がない旨の通知処分(ただし、平成八年一二月一二日付け審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件通知処分」という。)をしたため、原告が、その取消しを求めた事案である。

一  関係法令等の定め

1  相続税法(ただし、平成四年法律第一六号による改正前のもの。以下「法」という。)では、相続により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている(法二二条)。そして、右の評価に関して、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日直資五六、直審(資)一七。ただし、平成三年一二月一八日改正前のもの。以下「評価通達」という。乙第一号証の一。なお、平成三年一二月一八日改正後のものを「改正後評価通達」という。乙第一号証の二)が発出されているが、評価通達においては、相続により取得した土地の価額については、その土地の課税時期における現況によって判定される地目の別に、課税時期における実際の面積によって、評価することとされている(評価通達7、8)。

2  宅地の価額等に係る評価通達の定め

(一) 宅地の価額は、利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価することとされ(評価通達10)、市街地的形態を形成する地域にある宅地の評価については、売買実例価額、精通者意見価格等を基として、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路又は水路をいう。)ごとに設定された路線価を基本とし、具体的状況に応じて、それに、奥行価格逓減(同15)、側方路線影響加算(同16)、二方路線影響加算(同17)、三方又は四方路線影響加算(同18)、不整形地、無道路地、袋地等、がけ地等の評価(同20)などの必要な補正を行って算定する、いわゆる路線価方式によることとされている(同11(1)、13、14)。

(二) 借地権の目的となっている宅地である場合、その借地権の目的となっている宅地について、前記(一)のようにして評価した価額から、右価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合(以下「借地権割合」という。)がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長が定めた割合を乗じて計算した金額によって評価した借地権の価額を控除した金額によって評価することとされている(評価通達25、27)。

3  雑種地の価額等に係る評価通達、改正後評価通達の定め

(一) 雑種地及び雑種地の上に存する権利の価額は、評価通達においては、一筆の雑種地ごとに評価することとされ(評価通達81)、改正後評価通達においては、利用の単位となっている一団の雑種地ごとに評価することとされている(改正後評価通達81)。

(二) 雑種地の価額は、評価通達においては、原則として、その雑種地の固定資産税評価額に、状況の類似する地域ごとに、その地域にある雑種地の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価するものとされ(評価通達82)、改正後評価通達においては、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地について改正後評価通達の定めるところにより評価した一平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価するものとするが、評価通達が定める方式によることもできるとされている(改正後評価通達82)。

(三) そして、評価通達においては、貸し付けられている雑種地の評価について、前記(二)のようにして評価した雑種地の価額から、賃貸借契約の内容、利用の状況等を勘案して評定した価額によって評価される雑種地に係る賃借権の価額を控除した金額によって評価するとされるにとどまっていたが(評価通達86、87)、改正後評価通達においては、雑種地に係る賃借権の価額の評価について、評価通達の定める方式のほか、地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権の価額は、前記(二)のようにして評価した雑種地の価額に、その賃借権の残存期間に応じ、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される法二三条若しくは地価税法二四条に規定する割合又はその賃借権が借地権であるとした場合に適用される借地権割合のいずれか低い割合を乗じて計算した金額によって評価し、それ以外の賃借権の価額については、前記(二)のようにして評価した雑種地の価額に、その賃借権の残存期間に応じ、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される前記割合の二分の一に相当する割合を乗じて計算した金額によって評価することができるとされている(改正後評価通達87)。

二  争いのない事実等

1  相続の開始(甲第一号証、第一六号証、第一八号証、第二三号証、乙第一一、第一二号証、第二三号証)

(一) 平成三年一一月一二日、敏男が死亡し、相続(以下「本件相続」という。)が開始した。敏男の相続人は、長男である原告、次男である加藤圭助(以下「圭助」という。)、三男である加藤知弘、次女である水口叔子及び三女である朝倉政子の五名(以下、右相続人らを「本件相続人ら」という。)である。

(二) 敏男は、昭和五一年八月六日付けで公正証書遺言(乙第一一号証。以下「昭和五一年遺言」という。)を作成したが、昭和五一年遺言では、本件各土地のうち、別紙物件目録(一)記載一の土地(以下「一〇八番二の土地」という。)を原告が取得し、同目録記載二の土地(以下「一〇八番一六の土地」という。)については圭助が取得することとされ、また、一〇八番一六の土地上に存在した別紙物件目録(二)記載Aの建物(以下「A建物」という。)については圭助が取得することとされていた(なお、A建物の所有権が敏男に帰属していたのか否かという点については争いがある。)。

(三) 敏男死亡後、本件相続人らは、平成四年五月九日付けで遺産分割協議(乙第一二号証)を成立させ、昭和五一年遺言に従って、原告が一〇八番二の土地を取得し、圭助が一〇八番一六の土地を取得することとなった。なお、A建物は、後記のとおり、本件相続開始時までに取り壊され、滅失していた。

2  本件通知処分及び不服申立ての経緯(甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第二三号証、乙第六号証の一、二)

本件通知処分及び原告による不服申立ての経緯は、別表1記載のとおりであり、その詳細は次のとおりである。

(一) 平成四年五月一一日、原告は、被告に対し、本件相続人ら連名の相続税の申告書(甲第一号証、乙第六号証の一、二。以下「本件申告書」という。)を提出し、原告の本件相続に係る相続税の課税価格を四億五七三七万六〇〇〇円、納付すべき相続税額を一億八〇六七万二一〇〇円とする相続税の期限内申告をした。なお、本件申告書の添付資料(乙第六号証の一、二)では、本件各土地は「貸宅地」とされ、その価額算定における「借地権割合」は「法23条5%×1/2」との付記の下に〇・〇二五と記載されていた。

(二) 原告は、被告に対して、平成四年七月二七日付けで、本件土地部分に借地権の負担が付いているとして、本件相続に係る相続税につき、課税価格を二億七二四四万二〇〇〇円、納付すべき相続税額を九一二三万五〇〇〇円とする更正の請求をしたところ、被告は、平成五年六月二九日付けで、原告に対し、更正すべき理由がない旨の通知処分をした。

(三) 原告は、平成五年七月三〇日、前記(二)の更正すべき理由がない旨の通知処分の取消しを求め、被告に対し、異議申立てを行ったが、平成七年五月一六日付けで、原告の異議申立てを棄却する旨の決定がされたため、平成七年六月一三日、国税不服審判所長に対し、審査請求を行ったところ、同所長は、平成八年一二月一二日付けで、右通知処分のうち、課税価格三億一〇二九万三〇〇〇円、納付すべき相続税額一億一四九四万〇四〇〇円を超える部分を取り消す旨の裁決を行った(右審査裁決により一部取り消された後の右通知処分が本件通知処分である。)。

(四) 原告は、平成九年三月一三日、本件訴えを提起した。

3  本件通知処分の根拠

被告が主張する本件相続に係る課税価格及び納付すべき税額の算出根拠は、別表2、3記載のとおりであり、その内訳等は次のとおりである。被告は、本件通知処分に係る納付すべき相続税額は、被告主張に係る納付すべき相続税額の範囲内にあり、適法であると主張している。なお、右課税価格の算出根拠のうち、原告と被告との間で争いがあるのは本件土地部分の評価の点のみであり、それ以外の点については原告と被告との間に争いはない。

(一) 課税価格の合計額

相続により取得した財産の価額及び債務等の金額は別表2の順号<1>ないし<10>のとおりであり、本件相続人らの純資産価額の合計額を九億二〇四六万三九四八円と算出し、その範囲内の金額である九億二〇四六万一〇〇〇円を本件相続人らの課税価格の合計額とした。なお、そのうち、本件各土地の価額の内訳は、別表4記載のとおりである。

(二) 原告の課税価格

原告の課税価格は、別表2の「原告分」欄記載のとおり、本件相続により取得した一〇八番二の土地三億七一九六万三五九六円から債務等の金額を控除し、一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた三億七〇三六万五〇〇〇円である。

(三) 納付すべき相続税額

右課税価格の合計額九億二〇四六万一〇〇〇円から、法一五条に従い、遺産に係る基礎控除額として、四〇〇〇万円と八〇〇万円に敏男に係る法定相続人数である五を乗じて算出した四〇〇〇万円との合計額八〇〇〇万円(別表3順号<2>)を控除して、課税遺産総額八億四〇四六万一〇〇〇円を求め(同<3>)、これに、本件相続人らの各法定相続分(各五分の一)を乗じて、通則法一一八条一項を適用して、法定相続分に応ずる取得金額を算定し(同<5>)、右金額につき、法一六条所定の率を適用してそれぞれ算出した金額を合計して相続税の総額三億四八七五万三〇〇〇円を求め(同<6>)、法一七条に従い、右相続税の総額に原告の課税価格の合計額に占める割合(同<7>)を乗じて(同<8>)、通則法一一九条一項を適用して、原告の納付すべき相続税額を一億四〇三二万七四〇〇円と算出した(同<9>)。

4  本件各土地の利用状況等の推移(甲第四、第五号証、第七号証の一、二、第八号証、第一三号証の一ないし五〇、第一四号証の一ないし七、第一五号証、第一八号証、第二一号証の一、二、第二二号証、第二四号証の一ないし三、第二五ないし第二七号証、第三〇号証の二、第四〇号証の一ないし一八、第四一号証、乙第五号証、第七、第八号証、第一〇号証、第一五ないし第一八号証、第二〇号証、第二二号証、第二四ないし第二六号証、証人加藤康幸)

(一) 敏男は、昭和二五年二月九日、それまで個人として営んでいた酒類、薪炭、調味料、空瓶等の販売を主たる業務とする株式会社加藤商店を設立した。同社は、昭和三二年一〇月一五日、株式会社加藤本店と商号変更し、更に、昭和四五年三月一五日には、株式会社加討と商号変更した上、主たる業務を酒類等販売とし、圭助が代表取締役に就任した(以下、同社については、そのときどきの商号に応じて、「加藤商店」又は「加藤本店」という。)。

(二) 一〇八番一六の土地上には、A建物が存在していた(右土地及びA建物のおおよその位置関係は別紙図面1、2記載のとおりである。)。A建物は当初未登記であったが、昭和三三年八月五日付けで、大蔵省が、滞納処分による差押登記をするため、敏男名義で保存登記をし、登記簿上の名義人は敏男とされていた。

なお、加藤本店の昭和四三年二月一日から昭和四四年一月三一日までの事業年度分の法人税の確定申告書(甲第二二号証)には、減価償却資産として、木造トタン葺建物が掲げられ、事務所取得価額(事業の用に供した年月・昭和三七年四月)二二万一二一〇円及び事務所応接間改造費(事業の用に供した年月・昭和四二年一二月)二一万七二五〇円が計上されている。

(三) 原告は、別紙物件目録(二)記載Cの建物(以下「C建物」という。)を自宅として建築し(C建物及びその敷地(以下「C建物敷地」という。)のおおよその位置関係は別紙図面1記載のとおりであり、C建物敷地の面積は二二六・〇〇平方メートルである。)、昭和三三年一〇月二三日、所有権保存登記を経由している。

(四) 昭和四五年三月二七日、それまで加藤本店が営んでいた空瓶販売を引き継ぐものとして、加討本店が設立され、原告が代表取締役に就任した。加討本店は、A建物を事務所等とし、本件各土地のうちA建物の底地部分及びC建物敷地部分を除く部分を空瓶置場として使用していた。なお、加討本店は、昭和五一年六月、A建物に増改築を施し、その費用を減価償却資産として計上した。

(五) 昭和五七年一〇月ころ、本件各土地上に、一〇八番一六の土地と一〇八番二の土地とにまたがって、別紙物件目録(二)記載Bの建物(以下「B建物」という。)が建築され(B建物及びその敷地のおおよその位置関係は別紙図面1、2記載のとおりである。なお、B建物の敷地のうち、一〇八番二の土地上の部分の面積は二一六・〇八平方メートルであり、この部分を、以下「B建物敷地」という。)、加討本店の倉庫として使用された。なお、B建物は、原告の長男である加藤康幸(以下「康幸」という。)の名義で建築確認を得、神宮鉄工所を施工者として建築され、当初未登記であったが、平成三年一一月一二日、康幸名義で所有権保存登記が経由され、本件相続開始後である平成四年七月二四日付けで、真正な登記名義の回復を原因として、加討本店へ所有権移転登記が経由されている。なお、康幸は、平成三年二月二五日、加討本店の代表取締役に就任している。

B建物の建築代金は、見積書では「加藤本店」を名宛人としていたが、神宮鉄工所から康幸宛に請求され、神宮鉄工所の領収書も康幸宛に発行されている。そして、加討本店は、平成四年三月三一日付けで、借方科目を建物、貸方科目を康幸からの借入金とする振替伝票(乙第一八号証)を作成している。

(六) 平成三年七月、加討本店は、A建物を取り壊し、A建物に代わる事務所として、同年一〇月一六日、別紙物件目録(二)記載Dの建物(以下「D建物」という。)を建築し(D建物及びその敷地(以下「D建物敷地」という。)のおおよその位置関係は別紙図面1記載のとおりであり、D建物敷地の面積は一五一・八九平方メートルである。)、同年一〇月二九日、加討本店名義で所有権保存登記を経由した。なお、A建物については、同年一一月五日に、設定されていた抵当権の抹消登記、同月二七日に、滅失登記の各手続が行われた。また、A建物の敷地については、A建物取壊し後、加討本店において舗装を施し、空瓶置場として使用していた。

(七) 本件相続開始時においては、本件各土地上には、一〇八番二の土地と一〇八番一六の土地にまたがって、加討本店が倉庫として使用しているB建物が、一〇八番二の土地上に、原告の自宅であるC建物、加討本店が事務所として使用しているD建物が存在しており、B建物、C建物及びD建物の敷地部分を除く部分については、加討本店において、空瓶置場として使用していた。

(八) 加討本店は、少なくとも次のとおりの金員を、敏男に対して賃借料として支払ってきた。

期間 月額

昭和四八年三月ないし同年五月 七万円

昭和四八年六月ないし昭和四九年二月 一二万円

昭和五九年一月ないし昭和六〇年五月 一五万円

昭和六〇年六月ないし平成三年八月 二〇万円

平成三年九月ないし本件相続開始日 二五万円

(九) 平成五年、圭助は、加討本店に対し、一〇八番一六の土地上のB建物の収去及び一〇八番一六の土地の明渡しを求める訴え(東京地方裁判所平成五年(ワ)第七四七九号事件)を提起し、加討本店も、圭助に対して、加討本店が一〇八番一六の土地につき建物所有目的の賃借権を有することの確認を求める訴え(反訴)(同平成五年(ワ)第一一三二一号事件。以下、右各訴えに係る訴訟を「別件訴訟」という。)を提起したが、別件訴訟において、一〇八番一六の土地につき、加討本店は、空瓶置場として期限の定めのない賃借権を有するのみであって、建物所有を目的とする賃借権を有するものではなく、右賃借権も平成五年九月八日の満了をもって終了しているとの判断が第一審の東京地方裁判所、控訴審の東京高等裁判所において示され、右判決は最高裁判所が加討本店の上告を棄却したため確定している。

5  本件各土地の評価(乙第二号証の一ないし四、第三ないし第五号証、第六号証の一、二、第九号証の一、二)

(一) 一〇八番一六の土地の価額

一〇八番一六の土地は、一部をB建物の敷地として、その余を加討本店の空瓶置場として利用されているので、評価通達7に従い課税時期の現況によって地目を判断すると雑種地となり(不動産登記事務取扱手続準則(昭和五二年九月三日法務省民三第四四七三号通達)一一七条ナ)、改正後評価通達82により、一〇八番一六の土地と状況が類似する付近の土地について、評価通達の定めるところにより評価した価額を基として一〇八番一六の土地の価額を算出すると、一〇八番一六の土地は、市街地的形態を形成する地域に存し、登記簿上の地目が宅地とされていることに加え、右利用形態からすれば、容易に宅地に転用できることから、路線価方式を採用し、以下のとおり、二億〇九六六万四五〇五円と評価した。

(1) 別表5記載のとおり、路線価五五万円に奥行価格逓減率〇・九八、不整形地補正率〇・九五を乗じて求めた単位価格に、一〇八番一六の土地の地積四一九・九六平方メートルを乗じて、賃借権等が設定されていない場合の価額二億一五〇四万〇五一八円を求める。

(2) 一〇八番一六の土地については、加討本店による賃借権が設定されているが、右賃借権は、本件相続人らが本件申告書添付の宅地及び宅地の上に存する権利の評価明細書(乙第六号証の一)に記載したとおり、残存期間一〇年以下であり、地上権に準ずる権利として評価できないものとして、その減価割合を法二三条に規定する五パーセントの二分の一である二・五パーセントとし、右減価をした後の価額として二億〇九六六万四五〇五円を求めた。

(3) B建物については、これを康幸の所有と認定し、康幸が加討本店の右賃借権を無償で利用していたとみて、一〇八番一六の土地のすべてを前記のような賃借権の目的となっている土地として評価した。

(二) 一〇八番二の土地の価額

一〇八番二の土地上には、本件相続開始時において、B建物、C建物及びD建物が存在していたので、一〇八番二の土地の利用は、それぞれ「B建物敷地」、「C建物敷地」、「D建物敷地」及び「B、C、D建物敷地以外の敷地」からなっており、以下のとおり求められるそれぞれの価額の合計額である三億七一九六万三五九六円と評価した。

(1) C建物敷地の価額

C建物は、昭和三三年一〇月二三日に原告名義で所有権保存登記がなされていることから、C建物敷地は、原告が敏男から無償で借り受け、原告所有のC建物の敷地としたものと認定し、右のような使用貸借に係る土地については、東京国税局の従前の取扱いによれば、当該借受け時点で、借受人に対し、借地権相当額の贈与税を課税するとして取り扱われてきており、原告に対し、右課税が行われていたものと推認されることから、相続税の課税価格の算定においては、C建物敷地は借地権の存する土地として算定することとし、別表6記載のとおり、路線価方式により、路線価五五万円に奥行価格逓減率一・〇〇、不整形地補正率〇・九六を乗じた単位価格にC建物敷地の面積二二六・〇〇平方メートルを乗じた一億一九三二万八〇〇〇円から借地権割合六〇パーセントを減額した四七七三万一二〇〇円と評価した。

(2) D建物敷地の価額

D建物の所有権は加討本店が有しているから、課税実務上の取扱いとして、加討本店が、将来借地権の主張をなさない旨をあらかじめ明らかにし、地主である敏男と連名でD建物敷地の無償返還に関する届出書を被告に提出しているか、あるいは、当該土地の更地価額の年六パーセント程度の相当の地代の支払がなされることによって、地主が十分な地代収受権を有し、その土地(更地)の経済的価値が何ら損なわれることなく維持されていると考えられる場合には、かかる取引は正常な取引とされ、借地権の認定課税が行われないところ、加討本店は、右のいずれにも該当しないため、相続税の課税実務上、加討本店に借地権が帰属したものとして取り扱うこととし、別表7記載のとおり、路線価方式により、路線価五五万円に奥行価格逓減率〇・九八、不整形地補正率〇・七〇を乗じた単位価格にD建物敷地の面積一五一・八九平方メートルを乗じた五七三〇万八〇九七円から借地権割合六〇パーセントを減額した二二九二万三二三八円と評価した。

(3) C、D建物敷地以外の敷地(B建物敷地及びB、C、D建物敷地以外の敷地)の価額

B建物敷地については、前記のように、康幸が加討本店の賃借権を無償で利用していたとみ、B、C、D建物敷地以外の敷地については、B建物敷地と同様、加討本店の賃借権が設定されていたとみて、C、D建物敷地以外の敷地を一の評価単位とし、賃借権の減価率についても、一〇八番一六の土地の場合と同様、本件相続人らが本件申告書添付の宅地及び宅地の上に存する権利の評価明細書(乙第六号証の二)に記載したとおり、残存期間一〇年以下であり、地上権に準ずる権利として評価できないものとして、その減価割合を法二三条に規定する五パーセントの二分の一である二・五パーセントとし、別表8記載のとおり、路線価方式により、路線価五五万円に奥行価格逓減率〇・九〇、不整形地補正率〇・八四を乗じた単位価格にC、D建物敷地以外の敷地の面積七四三・二三平方メートル(一〇八番二の土地の実測面積一一二一・一二平方メートルからC建物敷地の面積二二六・〇〇平方メートル及びD建物敷地の面積一五一・八九平方メートルを控除したもの。)を乗じた三億〇九〇三万五〇三四円から賃借権の減価割合二・五パーセントを減額した三億〇一三〇万九一五八円と評価した。

三  争点

本件における争点は、昭和四五年三月二七日に敏男が加討本店に対して、本件各土地中C建物敷地を除く本件土地部分について建物所有を目的とする借地権を設定したか否かという点にあり、この点についての当事者双方の主張は次のとおりである。

(原告)

次の事実に照らせば、昭和四五年三月二七日、敏男が本件土地部分に加討本店のため、建物所有を目的とする賃借権を設定したことは明らかである。

1 A建物の所有者について

(一) A建物は、昭和二四年から翌二五年ころにかけて敏男が廃材を利用して倉庫として建築したもので、未登記であったが、昭和二五年二月九日に加藤商店が設立された際に、敏男から加藤商店に移譲され、昭和三七年には、当時敏男が代表者であった加藤本店の所有として、同社の帳簿上資産に計上されていた。その後、昭和四五年三月二七日に、それまで加藤本店が営んでいた業務を、敏男の三人の息子がそれぞれ代表者を務める会社に分離するに当たり、加藤本店が本件土地において営んでいた空瓶販売業を引き継ぐために加討本店が設立され、加藤本店が倉庫・事務所として使用していたA建物を引き継ぐこととなり、A建物の所有権は加討本店に移転した。また、加討本店は、昭和五一年六月ころ、A建物の増改築を行い、当該費用を償却資産として計上するとともに、その減価償却費の額を損金に計上している。

(二) 加討本店の設立経過、営業内容から明らかなとおり、加討本店はその設立以来A建物を使用したが、その家賃を敏男に支払ったことはない。

(三) A建物につき敏男名義で所有権保存登記が経由されているが、これは、「加藤敏夫」という敏男とまぎらわしい人物の存在のため、大蔵省が誤認して滞納処分のために所有権保存登記をしたものであり、敏男名義の所有権保存登記は実体を伴うものではない。

敏男が昭和五一年遺言において、A建物を圭助に取得させるとしているのも、A建物の登記名義が形式上敏男名義とされていたからにすぎず、A建物の実質上の所有者が敏男であることを認めたものではない。このことは、昭和五一年遺言以前に作成されていた自筆証書遺言においては、A建物が相続財産として挙げられていないことからも明らかである。

(四) 加討本店としては、A建物を同社の所有財産として認識しており、同社が設立された昭和四五年三月二七日から一〇年が経過しているのであるから、加討本店は、A建物の所有権を時効により取得している。

また、被告は、法人税課税においては、A建物を、加藤本店あるいは加討本店の資産として長期にわたって承認しておきながら、本件相続に係る相続税に関しては、A建物についての加討本店の所有権を否定することは禁反言の精神に反するものである。

2 建物所有目的の賃借権の設定について

(一)A建物の加討本店への所有権移転に際し、敏男と加討本店との間で、本件土地部分につき、建物所有を目的とする期間の定めのない賃借権を設定する旨の口頭ないし黙示の合意が成立した。

右合意が建物所有を目的としたことは、加討本店がA建物を所有していたことから明らかであり、借地権の範囲が本件土地部分全体に及ぶものであることは、右に述べた加討本店設立の経緯及び加討本店が本件土地部分を唯一の営業の本拠として、加藤本店から引き続き、空瓶販売業を営むものであることに照らせば明らかというべきである。

(二) 加討本店は、前記のとおり、敏男に対して、近隣の相場を参考にして本件土地部分の地代を支払ってきており、右地代は相当な地代の額として改定されており、敏男は、所得税の申告において、右加討本店からの収入について、家賃としてではなく、地代として収受している旨を明らかにしている。

(三) 加討本店は、本件土地部分の賃借権に基づき、B建物とD建物を本件土地部分上に建築して、所有している。このうち、B建物については、昭和五七年一〇月ころに建築され、建築当初より加討本店が倉庫として使用していたが、当初、加討本店名義で建築の見積りをとったところ、加討本店名義で所有権保存登記をすると決算上赤字となり不都合であるので、個人名義で登記するようにとの関与税理士橋本京一郎からの助言があったため、平成三年一一月一二日付けで、康幸名義で登記したものである。このため、B建物は、加討本店の資産には計上されていなかったが、実際は、建築当初から加討本店の所有する建物であったから、康幸は加討本店から家賃を取ることもしていなかった。しかし、加討本店がD建物を建築するに当たって、本件土地部分上の建物の権利関係を実態に合わせて整理することとし、加討本店の平成四年三月一日から平成五年二月二八日までの事業年度からB建物を資産に計上するとともに、平成四年七月二四日付けで真正な登記名義の回復を原因として、B建物につき加討本店名義で所有権移転登記を経由している。なお、右所有権移転登記については、平成六年八月二九日に大田都税事務所の不動産取得税の調査が行われ、同事務所の係員が関係書類を閲覧した上、承認しているのであるから、同事務所もB建物の所有者が建築当初から加討本店であることを認めているものというべきである。

また、B建物は、一〇八番二の土地と一〇八番一六の土地とにまたがって建築されているが、敏男は、昭和五九年九月一六日に行われたB建物の上棟式に参加しており、B建物建築についてクレームを付けたことはない。

(被告)

1 A建物の所有者について

(一) A建物は、原告も認めるとおり、敏男により建築されたものであり、平成三年に加討本店により取り壊されるまで、敏男名義で登記されており、敏男が三度にわたって作成した遺言書において、A建物を所有しているのが敏男であることを前提として遺言をしていることからも、敏男がA建物を所有していたことは明らかであり、別件訴訟の第一審判決も同様の判断を行っている。

(二) なお、原告は、加藤本店及び加討本店の資産としてA建物が計上されていると主張するが、加藤本店の確定申告書に記載された「建物」がA建物を指すのか否か自体が不明といわざるを得ない上、仮に、右建物がA建物のことであるとしても、それは、A建物について、加藤本店及び加討本店がそれぞれ資産として計上したことがあり、また、それぞれの費用により増改築をし、右増改築に係る部分につき減価償却の対象とする会計処理を行ったというにすぎず、A建物の帰属原因を推認させるものではない。

(三) また、原告は、A建物の時効取得も主張するが、右主張によれば、取得時効完成は昭和五五年三月ということになり、昭和四五年三月二七日の時点において、原告主張土地部分についての賃借権が設定されたとする余地がないことになるのであるから、主張自体失当である。

さらに、被告が法人税の申告において、加藤本店あるいは加討本店の計算を否認していなかったとしても、原告の相続税の申告の段階で、その後に判明した事情をも加味してA建物についての加討本店の所有権を否定することは禁反言の法理に触れるものではない。

2 B建物の所有者について

B建物を建築した神宮鉄工所は、その代金の請求を康幸に対し行い、領収書も康幸に対して発行していること、本件相続開始日である平成三年一一月一二日に康幸名義で所有権保存登記がなされたこと、加討本店が平成四年三月三一日に振替伝票を起こし、B建物を康幸からの借入金四二一万五〇〇〇円により取得した旨の会計処理を行っていることに照らせば、B建物は、康幸によって、加討本店が有する賃借権を利用して建築されたものであり、本件相続開始時点において、康幸が所有していたことは明らかである。

四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  更正の請求は、納税者の提出した納税申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、納税申告に係る税額が過大である場合等に、納税者が納税申告の是正を求める申立てであるが、申告納税方式による国税に係る税額は、その後に更正がされない限り納税者の納税申告のとおり確定するものであること、納税申告の前提となった事実関係及びそれを誤りであるとする事実関係は更正の請求をする納税者が熟知することであることからすれば、更正の請求を理由なしとする通知処分の取消請求訴訟において、更正の請求に係る事実関係は納税者たる原告において主張、立証すべきものと解すべきものである。したがって、本件においては、原告において、本件土地部分につき、建物所有を目的とする賃借権が設定されたことを立証すべきものである。

二  そこで、まず、原告が、加討本店において、その設立の際に、A建物の所有権を取得したことの根拠として指摘する点につき検討する。

1  加藤本店の法人税の確定申告において、減価償却資産として計上されていた「木造トタン葺事務所」がA建物のことを指すとしても、帳簿上、事業の用に供した時期が昭和三七年四月とされており、原告の主張する敏男から加藤商店への所有権移転時期と符号しないし、加藤本店や加討本店が、A建物の増改築を行い、その費用を減価償却資産として計上していたとしても、加藤本店はA建物の底地所有者である敏男が、また、加討本店は敏男の長男である原告が、それぞれ経営していた同族会社であり、種々の利害得失を計算の上、A建物を会計上、右各会社の資産として計上することは容易にできるのであるから、右のような会計処理がなされたからといって、直ちにA建物の所有権が加藤本店及び加討本店に移転したということはできないし、増改築をしたことをもって、A建物の所有権が加討本店に帰属するものでもないのであるから、右の事情から、A建物が右増改築当時において、加藤本店あるいは加討本店の所有に属しているとの結論が導かれるものではない。

2  また、敏男が加藤本店又は加討本店からA建物の使用料又は家賃を収受していなかったとしても、A建物が加討本店に帰属したことを推認するには足りないものというべきである。

すなわち、A建物が昭和二四年から翌二五年にかけて敏男によって廃材を用いて建築されたものであることは前記のとおりであり、また、加藤本店は、敏男が行っていた個人営業を法人化した同族会社であり、加討本店も、加藤本店が営んでいた空瓶販売業を引き継ぐ目的で、敏男の長男である原告を代表者として設立された同族会社であり、敏男の影響下にあったものということができるから、右のように簡易に建築され、老朽化していたA建物を、その増改築の費用を負担している同族会社たる加藤本店あるいは加討本店が使用するにつき、敏男が賃料を受け取らなかったとしても、これを不合理、不自然なこととはいえないから、そのことから直ちに、A建物の所有権が敏男ではなく、加藤本店あるいは加討本店に帰属しているとの結論が導かれるものでもないというべきである。

3  むしろ、前記のとおり、A建物については、昭和三三年八月五日付けで、大蔵省による差押登記のために敏男名義で所有権保存登記がされており、証拠(甲第一八号証)によれば、同年一〇月一三日、右差押登記が解除を原因として抹消され、同月三一日付けで、抵当権者を城南信用金庫、債務者を加藤本店とする抵当権設定登記が経由されていることが認められるが、右事実に照らせば、当時加藤本店の代表者であった敏男は、A建物につき敏男名義で所有権保存登記が経由されていることを知りながら、右抵当権設定登記を経由しているものということができる。また、敏男が昭和五一年遺言において、A建物が相続財産に含まれることを前提として、圭助に相続させるとしていることは前記のとおりであり、証拠(乙第一三、第一四号証)及び弁論の全趣旨によれば、敏男が、いずれも昭和五一年遺言作成前に作成した昭和五一年六月二二日付けの自筆証書遺言(乙第一三号証)及び昭和四八年五月五日付けの自筆証書遺言(乙第一四号証)においても、A建物は相続財産に含まれるものとして記載されていることが認められる。なお、原告は、乙第一四号証の自筆証書遺言には、A建物は表示されていないとするが、証拠(乙第一四号証)によれば、同遺言書において、圭助に相続させるものとして、おおむね一〇八番の一六の土地に対応すると考えられる「東京都大田区東六郷三―十四―三貸地一二四坪(西側面)」を受けて、「右一二四坪内の建物一棟」との表示がなされていることが認められるが、右建物は、A建物を指すものと解するのが相当であるから、右原告の主張は採用しない。

右によれば、敏男は、A建物を自己の所有に属するものと認識していたことが推認されるのであって、加藤本店又は加討本店が敏男の影響下にあったことを考慮すれば、前記1、2記載の会計処理又はA建物の利用関係をもってしても、A建物が加討本店に帰属していたと認めることはできないのである。

4 なお、原告は、加討本店がA建物の所有権を時効取得しているとも主張するが、本件においては、加討本店の設立に当たり、A建物も含め、将来、本件土地部分に建築される建物の所有を目的とした賃借権が設定されたとの原告主張の成否との関係で、A建物の所有権の帰属が問題となっているのであるから、A建物の取得時効に係る原告の主張は失当というべきである。

三  次に、原告が本件土地部分に建物所有を目的とする賃借権が設定されたことの根拠として指摘する点につき、検討する。

1  加討本店が、敏男との間で、本件土地部分につき、少なくとも、加討本店が営んでいる空瓶販売業のための空瓶置場として利用することができる内容の賃貸借契約を締結していることは、本件通知処分に当たり、被告もこれを認めているところである。ところで、加討本店が設立される前、加藤本店が本件土地部分において空瓶販売業を営んでいた当時は、空瓶販売業に用いる建物としては、A建物が存したのみであるとの事実に照らせば、右当時においては、A建物の敷地以外の土地部分については、空瓶を野積みして、空瓶置場として用いていたものと推認することができる。そうすると、加討本店が、それまで加藤本店が本件土地で営んでいた空瓶販売業を引き継ぐ目的で設立されたものであり、本件土地部分を空瓶販売業を営むために使用することが予定されていたということはできる。しかし、当時、A建物の所有権が加討本店に帰属していたと認められないことは既に説示したとおりであり、右にみた本件土地部分の使用形態は建物所有を目的とするものではないから、右事実から、本件土地部分につき、建物所有を目的とした賃借権の設定がされたということが推認できるものではない。

2  加討本店が敏男に対して、毎月賃借料を支払っていたことも、敏男と加討本店との間に土地の賃貸借契約関係が存在していたことを示すものではあっても、右賃借権が、建物所有を目的としていたとの結論を直ちに導くものではないというべきである。この点につき、原告は、加討本店が敏男に支払っていた賃借料は、敏男が六郷神社から借り受けている借地の地代や敏男が第三者に建物所有を目的として貸し付けている土地の地代と比べて、相当な金額であるとするが、前述のとおり、加討本店は、敏男が影響力を有する同族会社であって、加討本店が敏男に対して支払う賃借料は、会社である加討本店の経費とすることにより、同族内に加討本店の利益を留保するという性格を有するという面も否定できないのであるから、そのような加討本店と敏男との間で合意された賃借料の額が、第三者との間の建物所有を目的とする借地契約に基づく地代と比べて相当な額であるということから、直ちに、建物所有を目的とする賃借権が設定されたとの結論を導くことはできないものというべきである。

3  次に、原告は、加討本店がB建物を建築したことを前提に、敏男がそれに異議を唱えていないことを原告主張の借地権が設定されていることの根拠として挙げているが、B建物については、前記のとおり、建築確認、建築施工業者からの代金請求、建築施工業者に対する代金の支払、所有権保存登記がいずれも康幸名義でなされており、特に、所有権保存登記は、昭和五七年一〇月にB建物が完成した後ずっと未登記であったものを、本件相続開始日である平成三年一一月一二日に至って初めて、康幸名義で経由されたものであり、加討本店における建物を借方、康幸からの借入金を貸方とする振替伝票(乙第一八号証)が作成されたのは康幸が加討本店の代表取締役に就任した後の平成四年三月三一日、加討本店が真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記を経由したのは同年七月二四日になってからであることに照らせば、康幸が個人としてB建物を建築したと推認することができ、そもそも、B建物完成当時の所有権が加討本店に帰属していたと認めるには足りないというべきである。また、仮にB建物を建築したのが加討本店であるとしても、B建物が敏男が影響力を有する同族会社である加討本店によって使用されることが予定されていたことに加え、証拠(甲第二七号証、第三六号証の四、乙第七号証、第一六、第一七号証)及び弁論の全趣旨によれば、B建物は、鉄骨の柱にスレートの屋根を葺いたもので、周囲には、隣地との境界部分に目隠しを設置するのみで、壁を特に設けないという簡易な造りであり、建築費総額が四二一万五〇〇〇円であることが認められるのであるから、これらの点に照らせば、本件土地部分に加討本店の建物所有を目的とする賃借権の設定がされていなかったとしても、敏男が異議を唱えなかったことが不自然であるということはできないから、B建物建築に当たり敏男が異議を唱えなかったことをもって、直ちに、原告主張の賃借権が設定されていたとの結論を導くことはできないものというべきである。

4  また、原告は、加討本店がD建物を建築していることをも原告主張の賃借権が設定されていることの根拠として挙げているが、証拠(甲第三九号証の一、二、乙第二四ないし第二六号証、証人康幸)によれば、加討本店は、当初、A建物を取り壊した跡地にD建物を新築する計画を立て、その旨工事業者である株式会社小田部工務店に指示していたところ、同社に対して、当時、癌で入院中の敏男から、A建物の解体及びその跡地への建物新築工事を中止するよう求める電話があったため、加討本店は、D建物敷地の場所にD建物を建築するように計画を変更して、建築に至ったという経緯が存することが認められるのであって、右事実に照らせば、加討本店においてD建物をD建物敷地に建築したことをもって、本件土地部分全体につき、原告主張のような賃借権が設定されていたとの結論を導くことはできないものというべきである。

5 なお、前記のとおり、被告も、D建物敷地については、借地権割合を減価した評価を行っているが、右の評価は、D建物敷地につき、借地権設定の合意が存在していたことを理由とするものではなく、課税実務の取扱い上、加討本店につき、借地権の認定課税が行われるべきであるとされたことの反射的帰結によるものであるから、被告が、D建物敷地につき、借地権割合の減価を行って評価をしていることをもって、本件土地部分に原告主張のような賃借権設定の合意が成立していた根拠とすることはできない。

四  以上によれば、原告が、加討本店と敏男との間に、本件土地部分につき、建物所有を目的とした賃借権設定の合意が成立したとの原告主張の根拠として挙げる事実は、いずれも採用することができず、これらを総合しても、なお、右原告主張を認めるに足りないものというべきであり、また、被告が法人税の申告において、加藤本店あるいは加討本店の計算を否認していなかったとしても、相続税につき、原告の更正の請求を判断する段階で、その後に判明した事情をも加味してA建物についての加討本店の所有権を争うことが禁反言の法理に触れるものではないことは言をまたないところであるから、本件各土地につき、減価割合を二・五パーセントとする旨の本件申告における記載に基づいて、所定の減価を行って算定した価格の範囲内の課税価格を前提としてなされた本件通知処分に違法は存しないものというべきである。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

物件目録(一)

一 東京都大田区東六郷三丁目一〇八番二

宅地 一一一八・八二平方メートル

二 東京都大田区東六郷三丁目一〇八番一六

宅地 四一九・九六平方メートル

以上

物件目録(二)

A 東京都大田区東六郷三丁目一〇八番地所在

家屋番号 八番七

木造瓦葺平家建倉庫

床面積 一〇六・六一平方メートル

B 東京都大田区東六郷三丁目一〇八番地二、同番地一六所在

家屋番号 一〇八番二の二

鉄骨造スレート葺平家建倉庫

床面積 二四三・〇〇平方メートル

C 東京都大田区東六郷三丁目一〇八番地四所在

家屋番号 八番八

木造瓦葺平家建居宅

床面積 五八・六七平方メートル

D 東京都大田区東六郷三丁目一〇八番地二所在

家屋番号 一〇八番二

木造瓦葺二階建事務所・居宅

床面積 一階 八一・八〇平方メートル

二階 八五・九四平方メートル

以上

別表1 本件課税処分等の経緯(加藤亮一)

<省略>

別表2

課税価格等の計算明細表

<省略>

別表3

相続税額の計算明細表

<省略>

別表4

本件土地の明細表

<省略>

別表5 大田区東六郷3-108-16の土地の評価

<省略>

別表6

〔大田区東六郷3-108-2の土地の評価〕

C建物敷地の評価

<省略>

別表7

D建物敷地の評価

<省略>

別表8

B建物敷地及びB、C、D建物以外の敷地の評価

<省略>

別紙図面1

108番2の土地の地形及び蔭地割合概略図

<省略>

別紙図面2

見取図

<省略>

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