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東京地方裁判所 平成11(行ク)33 行政事件裁判例

主 文

一 本件申立てをいずれも却下する。

二 申立費用は申立人の負担とする。

理 由

第一 本件申立ての趣旨及び理由並びに被申立人の反論

一 本件申立ての趣旨

1 主位的申立て

被申立人が受け付けた「建築基準法第一二条第三項に基づく報告書マンション名

ロイヤルステージ北野(木内建設)」と題する書面を目的とする平成一一年四月五

日付公文書公開請求について被申立人が部分公開決定通知番号「11八都建収第6

号」により右書面を部分公開(個人に関する情報であって、特定の個人が識別され

又は識別され得るものを除く部分公開、公開予定日平成一一年四月一六日)する旨

の平成一一年四月八日付情報公開決定の効力を停止する。

2 予備的申立て

被申立人が受け付けた「建築基準法第一二条第三項に基づく報告書マンション名

ロイヤルステージ北野(木内建設)」と題する書面を目的とする平成一一年四月五

日付公文書公開請求について被申立人が部分公開決定通知番号「11八都建収第6

号」により右書面を部分公開(個人に関する情報であって、特定の個人が識別され

又は識別され得るものを除く部分公開、公開予定日平成一一年四月一六日)する旨

の平成一一年四月八日付情報公開決定の効力を文書の写しの交付による公開の限度

で停止する。

二 申立の理由

1 行政処分の存在

(1) 申立人は、平成一一年四月二日、被申立人(都市整備部建築指導課)に対

し、「建築基準法第一二条第三項に基づく報告書マンション名ロイヤルステージ北

野(木内建設)」と題する同日付け書面(以下「本件文書」という。)を提出した

者である。

(2) 申立外日本国民政治連合赤石貞治(以下「本件請求人」という)は、平成

一一年四月五日、被申立人に対し、八王子市情報公開条例(平成五年八王子市条例

第二七号)に基づき、本件文書を目的とする公文書公開請求(以下「本件公開請

求」という)を行った。

(3) これに対し、被申立人は、同月五日、申立人東京支店に対して、本件文書

の公開に関する申立人の意見を照会し、申立人は、同月六日付け書面で、本件文書

において報告の対象となっている建物の工事に関しては申立人と本件請求人との間

で過去に紛争が発生しており未だ解決に至つていないこと等を理由として公開され

ると支障があることを回答した。

(4) しかし、被申立人は、同月八日、部分公開決定通知番号「11八都建収第

6号」により、右文書を部分公開(個人に関する情報であって、特定の個人が識別

され、又は識別され得るものを除く部分公開、公開予定日平成一一年四月一六日)

する旨を決定した(以下、右決定を「本件処分」という。)。

2 本件処分の違法性

(1) 本件処分は、右条例第五条及び第七条ないし第九条に基づきなされたもの

であることは明らかであるが、同第六条第二号によれば、法人に関する情報であっ

て、公開することにより、当該法人に明らかに不利益を与えると認められるものに

ついては、当該文書の公開をしないことができる旨定められている。

(2) 本件文書は、後記の経緯により申立人において作成の上、被申立人に提出

したものであるが、そこに記載されている内容を要約すれば、概ね次の通りであ

る。

① 工事の特定に関する情報として、

イ 建築主である株式会社の商号・所在地・電話番号

ロ 設計者である株式会社の商号・所在地・電話番号

ハ 施行者として申立人の商号・所在地・電話番号

ニ 確認年月日及び番号

ホ 建築場所・延面積・建築面積・階数

(以下、右各記載を「①の記載」という。)

② 報告事項に関する情報として

イ 施行者である申立人及び設計監理者連名による被申立人宛補修工事完了報告書

ロ 建築主・元請建設会社・実際の施工者である申立人及びマンション管理会社の

連名による建築主より工事目的建物の分譲を受けた各区分所有者宛の改修工事承認

のお願い文書(具体的補修計画資料が添付されたもの)

ハ 右各区分所有者からの改修工事確認書面

ニ 前記マンション管理会社から右各区分所有者に対する補修工事進捗状況等に関

する説明会開催通知及び説明会参加者リスト

ホ その他補修改修工事実施状況に関する写真及び関係者の確認書面等

(以下、右各記載を「②の記載」という。)

(3) 被申立人が本件処分において一部非公開とした部分は、「個人に関する情

報であって、特定の個人が識別され又は識別され得るもの」のみであるから、八王

子市情報公開条例第六条がその第一号と第二号とにおいて「個人」と「法人」とを

明瞭に区別している趣旨に鑑みれば、右①及び②の各内容のうち、具体的補修改修

工事の計画内容及び実施状況等については全て公開の対象となることが明らかであ

る。

(4) したがって、本件が八王子市情報公開条例第六条第二号但書に定める非公

開除外事由に該当しないことが明らかであるにもかかわらず、右情報が公開された

場合に申立人を含む工事関係者各人に後記の重大な不利益が発生することが明らか

である状況における本件処分が違法であることは明白である。

3 本件処分に基づく公開がされた場合に工事関係者が被る損害

(1) 本件文書で報告の対象となつている工事建物は、建築主が分譲用に建築し

た総戸数七〇戸の共同住宅(マンション)であるが、平成九年四月に分譲開始後本

日までの間に分譲(販売)が完了したのは分譲対象戸数七〇戸のうち四七戸にとど

まり、残り二三戸については建築主において現在も分譲中である。

(2) 本件請求人は、東京都中央区<以下略>に事務所を置く団体であるが、右

工事建物に関して、工事関係者に対して、次のとおり、街宣活動及びビラまき活動

等を実施したものである。

ア 工事元請会社本社に対する街宣活動

平成一〇年七月三〇日午前八時三〇分から午前九時までの間に二回にわたり右マ

ンションを施工したのが工事下請会社であること及び欠陥だらけのマンションであ

ること等を骨子とする街宣をしたうえ、本件請求人本部長を名乗る「a」と称する

人物において面談した工事元請会社担当者に対して、右マンションの購入者数名よ

り相談があったので行っている旨の説明があった。

これに対し、右担当者において実際に施工した申立人等と打ち合わせのうえ急い

で対応する旨返答したが、その後も同年七月三一日から同年八月七日までの間、再

三にわたり、街宣活動が続けられた。

また、右とは別に、本件請求人は、インターネット上のホームページに右マンシ

ョンが欠陥だらけのものであることを指摘する記事を掲載した。

イ 申立人に対する街宣活動等

平成一〇年八月三一日から同年九月四日までの五日間にわたり申立人の本社建物

前で街宣活動をするとともに、JR静岡駅駅前等においてビラまき活動を行った。

(3) その後、申立人及びその他の工事関係者において本件請求人と多数回に亘

る面談を実施したが、申立人及びその他工事関係者は、一方においては右マンショ

ンの改修工事をマンション購入者の確認を受けながら完了させたが、他方において

は改修工事以外の本件請求人等との金銭和解は拒絶し続けた。

この結果、平成一〇年一〇月末ころを最後に本件請求人との面談は行われなくな

った。

(4) 以上の経緯から明らかなとおり、本件請求人が被申立人に対して本件文書

の公開を求めている動機が、右金銭和解の交渉を復活させる道具として利用するこ

とにあることは明白であり、仮に本件請求人に対して本件文書が開示された場合に

は、その内容をインターネットのホームページに掲載する等の方法で公開されるこ

とは容易に想像されるところであり、その結果として、現在、建築主において継続

中の本件マンションの分譲活動に重大な支障が発生することは明白である。

そして、かかる事態に至った場合には、本件文書を被申立人に提出した申立人

は、建築主より法的及び道義的責任を問われることになる。

4 執行停止の必要性

(1) 本件処分の違法は極めて明白であるといわなければならない。

しかしながら、被申立人の本件処分に基づく本件文書の部分公開予定日は平成

一一年四月一六日であるが、本件請求人に対して本件文書が部分公開されてしまっ

た場合、本件請求人が本件処分に基づいて交付された本件文書の写しを再複写し、

処分により得た情報を不相当な方法で利用する蓋然性が極めて高く、これによっ

て、申立人が回復し難い損害を被ることは明らかである。

したがって、本件処分については、本案事件の判決があるまで、その効力が停止

されるべきである。

(2) 仮に右申立てが認められないとしても、本件請求人の情報を必要とする理

由は、単に「調査のため」というのであるから、右の目的は、本件文書を閲覧させ

る方法による公開で十分達することができるはずである。

他方、本件文書が閲覧のみならず、その写しまで本件請求人に交付されるなら

ば、本件請求人が本件文書の一部分を恣意的にコピーして申立人を不当に誹謗中傷

する内容のビラに悪用したり、インターネットのホームページで公開したりするこ

とにより、本件文書が右不当な金銭要求の手段として悪用されるおそれが非常に高

く、申立人に対する重大な悪影響が生ずることは明らかである。

したがって、本件条例の目的と申立人の利益とを妥当に調整する見地から、少な

くとも、本件本案事件の判決があるまでは、本件処分のうち、本件文書の写しを本

件請求人に交付する部分についての効力は停止されるべきである。

三 被申立人の主張

1 本件条例は、「この条例は、市の保有する情報を公開し、市政に関する情報の

公開を求める権利を保障するとともに、公文書の公開について必要な事項を定める

ことにより、市政に対する理解と信頼を深め、市政への市民参加を促進し、もって

公正で開かれた市政の推進を図ることを目的とする。」(第一条)ものとし、公開

を原則としている

。 そして、限定的に第六条で非公開事由が規定されており、同条第二号では、

「法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)

に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開すること

により、当該法人等又は当該事業を営む個人に明らかに不利益を与えると認められ

るもの。」と規定している。

右の「明らかに不利益を与えると認められるもの」とは、少なくとも当該情報を

公開することによって、事業を営む者の事業活動が社会通念上不当に侵害され、競

争上の地位その他正当な利益を害する場合でなければならず、また、事業の運営に

支障が生じる可能性があるという漠然としたおそれだけでは「明らかに不利益を与

えると認められるもの」には当たらない。

本件文書については、建築基準法第一二条第三項の規定に基づき、申立人が被申

立人等に提出した「建築基準法第一二条第三項に基づく報告書」であり、建築物の

補修工事を実施した事実の報告書であるので、本件文書を公開することにより、条

例第六条第二号でいう「明らかに不利益を与える」とは認められない。

2 また、本件マンションの分譲活動に重大な支障が発生することは明白であると

の主張は、あくまで可能性にしかすぎない。

さらに、本件公開の対象となる文書は、補修を完了した旨の文書であり、同文書

を公開することによって申立人を含む工事関係者各人に重大な不利益が発生すると

の理由は、本件申立書においては、何ら明白にされていない。

3 以上のとおり、本件文書は、申立人主張の条例第六条第二号の公開しないこと

ができる公文書には該当せず、本件処分は条例に基づいて適法になされたものであ

るし、また、申立人が本件処分の執行によって回復困難な損害を被るとも認められ

ない。

第二 当裁判所の判断

一 本件疎明資料によれば、次の各事実が一応認められる。

1 申立人は、大手総合建設業者が建築主から元請契約した八王子市内のマンショ

ンの新築工事を下請けして施工し、平成一〇年三月に竣工引渡しを完了した。

2 しかし、その後、同年六月ころから、排水の雨水処理に関して補修を必要とす

る箇所が発見されたので、申立人及び元請会社は、その善後策を検討し、マンショ

ン購入者の確認を受けながら、その補修を完了した。

3 本件請求人は、申立人が右善後策を検討中であった同年七月三〇日、二度にわ

たり、本件マンションを施工したのが、下請会社であり、欠陥だらけのマンション

であるなどの趣旨を街宣したほか、その後も同年八月七日までの間に、二〇回を超

える街宣活動を繰り返し、さらに、インターネット上の本件請求人のホームページ

にも本件マンションが欠陥だらけのものであるとの記事を掲載した。

4 さらに、本件請求人は、同月三一日から同年九月四日までの間、申立人本社前

で街宣活動をするとともに、JR静岡駅前等でビラ配付等の活動を行った。

5 その後、申立人は、元請会社及び建築主とともに、本件請求人と面談し、その

際、同人から、申立人及び元請会社において各一億五〇〇〇万円(合計三億円)程

度を解決金として負担することを提案されたが、本件請求人との金銭和解について

は、これを拒否した。

6 その後、本件請求人の活動は沈静化していたが、平成一一年二月八日、被申立

人の担当者から、申立人に対し、本件請求人が被申立人のところへ本件マンション

の件で来庁するので、申立人にも、補修内容について説明して欲しい旨の連絡があ

り、同日及び同月二五日に、申立人の担当者が登庁して補修の方法及び内容等の説

明を口頭で行った。

7 そして、申立人は、同年三月一六日、被申立人の担当者から、右補修内容につ

いて、建築基準法一二条三項の文書として提出して欲しい旨の指示を受けたので、

本件文書を作成し、提出した。

二 申立人は、①本件請求人に対して本件文書が開示された場合には、同人が、街

宣活動、ビラ配付、インターネットのホームページに掲載する等の法的手段によら

ない方法で申立人に対する金銭請求活動を再開することが予想され、②その結果と

して、現在建築主において継続中の本件マンションの分譲活動に重大な支障が発生

し、申立人は、本件文書を被申立人に提出したことにより、建築主から法的及び道

義的責任が追求されることから、本件処分の効力を停止しなければ、申立人には回

復不能な損害が生じると主張し、申立人の社員である加藤博史の陳述書(疎甲七)

によれば、申立人は、右本件文書が本件請求人の手に渡った場合には、揚げ足取り

の材料にされる可能性が極めて大きいことを危惧していることが一応認められる。

しかし、本件文書に記載された内容のうち、①の記載は、建築主である法人の商

号、所在地、電話番号など、いずれも建築基準法八九条等に基づいて既に建築工事

の現場において表示された事項であり、②の記載は、本件マンションの改修工事を

完了した旨の報告書及びその経緯を示すための資料であって、同法一二条三項に基

づいて被申立人に提出されたものである。

このような本件文書の記載内容からすれば、右文書がそのまま一般に公開された

としても、そのことによって、本件マンションの施工業者である申立人に当然に何

らかの回復困難な損害が発生するとは認め難い。この点、前記認定のような経緯を

踏まえて考えれば、本件文書を公開すると、本件請求人が、これを利用して、違法

な街宣活動、ビラ配付などの金銭請求活動を行う可能性は否定できないものの、そ

の具体的態様については予想するに足りる疎明がなく、申立人にいかなる損害が生

じるかについても、不明といわざるを得ない。

また、申立人は、現実に右のような事態が発生すれば、申立人は、本件文書を被

申立人に提出したことについて、建築主から法的責任を問われることになると主張

するが、本件全疎明によっても、建築基準法一二条三項の規定に基づいて提出を求

められた申立人が、これに応じて本件文書を提出したことについて、建築主からど

のような法的責任を追求されるのか、それがどのような理由から回復困難な損害に

当たるのかについていずれもは明らかではない。

そして、以上の理は、本件文書の公開が閲覧の方法にとどまるか、写しの交付ま

でもその内容としているかによって、異なるところはないというべきである。

なお、申立人は、本件処分によって同人以外の工事関係者に生じる損害について

も主張するが、行政事件訴訟法二五条二項所定の「損害」は、申立人自身が被る損

害に限られると解すべきであるから、これらは、本件執行停止の必要性を基礎付け

る事情としては斟酌できない。

したがって、閲覧の方法のみによるか、写しの交付の方法によるかを問わず、本

件文書が公開さることによって申立人に回復の困難な損害が生じるとは認め難い。

三 以上の次第で、本件申立ては、その余の点について判断するまでもなく、理由

がないといわざるを得ない。

よって、主文のとおり決定する。

平成一一年四月一五日

東京地方裁判所 民事第二部

裁判長裁判官 市村陽典

裁判官 阪本勝

裁判官 谷口豊

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