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東京地方裁判所 昭和23年(ワ)1085号 判決

原告 株式会社富士銀行

被告 日本再建株式会社 外二名

一、主  文

被告等は原告に対して金十五万円及びこの内金七万円に対する昭和二十二年三月二十一日以降、内金八万円に対する同年三月二十六日以降夫々完済に至る迄年六分の割合による金員を支拂え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

此の判決は原告において被告会社及び被告藤間に対して、夫々金五万円宛の担保を供するとき並に被告吉田に対して無担保で仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求める旨申立て、その請求の原因として、被告会社は原告銀行(元株式会社安田銀行と称したが、昭和二十三年十月一日現在の商号に変更した)と昭和二十二年二月六日極度額金十五万円の手形取引契約を結び、同時に被告藤間及び被告吉田は右手形取引契約に基づく被告会社の債務について保証をした。而して被告会社は前記契約に基いて原告銀行中野支店に宛て、(一)昭和二十二年二月二十二日金額七万円、満期同年三月二十日、支拂地東京都杉並区、振出地同都中野区、(二)同年二月二十八日金額八万円、満期同年三月二十五日、支拂地振出地共に東京都中野区とした約束手形二通を振出し、原告は右手形金に相当する金員の貸付をして、右手形を取得した。よつて原告はその所持人として各満期に夫々呈示して支拂を求めたがいづれも支拂を得なかつたから被告等に対して手形金十五万円及び各手形金に対する満期の翌日以降完済迄年六分の割合による法定利息の支拂を求めるため本訴に及んだと述べ、被告会社並に被告藤間の主張事実を否認し、仮に被告嚴が被告会社の專務取締役でなく、被告会社の專務取締役なる名義を冐用して、右手形を振出したとするも原告は被告等と昭和二十二年二月六日手形取引契約及び保証契約を締結するに際して、原告が振出人名下の捺印を被告会社から予め届出てある印鑑と照会して相違ないものと認めて手形取引をしたときは、印章盗用その他偽造等の如何なる場合でも被告等は手形金支拂の責任を負担する旨を特約したのであるが、原告は本件約束手形の振出人名下の捺印は総べて被告会社の届出印鑑と照合して相違ないものと認めて手形取引をしたのであるから、被告等は該特約に基いて本件手形金等の支拂義務がある。仮に右主張が理由ないとしても、銀行と手形取引契約書を差入れて手形取引をする場合には、本件の如く振出人が代表資格を冐称し、振出人名義の偽造の印顆を擅に使用した場合でもその印影が取引契約書に押捺の印影と類似し本人振出のものと認めて取引をしたことに過失がない場合には代表資格を冐称せられた本人もその手形上の責任を負う旨の商慣習があり、本件契約当事者は、この商慣習に則る意思で契約をしたものであるが、本件手形の振出人名下に押してある印影は專門的な経驗者が特別の技術を用い、これを機械力によつて拡大し科学的方法による調査の結果始めて手形取引契約書に押捺の印影と相違していることが判明したものであつて、肉眼によつては両者の相違を覚知し得ない程度に酷似し、且つ被告会社はこれより前昭和二十一年七月二十五日頃から中野区と同区立仲町国民学校の校舍建築工事施行の請負契約を締結し、該工事施行について昭和二十二年二月初頃以降一切の権限を被告吉田嚴に與えている旨原告に告げたばかりでなく、同被告は本件手形取引契約の保証人であるので、原告は同被告が眞実被告会社の專務取締役で被告会社を代表して本件手形を振出す権限あるものと信じ、その名下の印影が手形取引契約書の被告会社名下の印影と照合して相違ないものと認め、本件手形取引をしたことにつき原告に何等の過失がないから、手形を偽造せられた被告会社はその手形上の責任を負うべきものであり、從つてその余の被告等も被告会社の手形上の債務について保証責任を負うものである。なお仮に被告吉田嚴が被告会社を代表して本件手形を振り出す権限なしとするも右主張の如く被告嚴は仲町国民学校々舍建築工事施行の請負契約について、被告会社を代表する権限を有し、且つ本件手形に押捺の被告会社名及びその肩書住所のゴム印の使用を依頼せられてこれを保管しているものであるから、本件手形を振り出す権限を有するものと信じ且つ信ずるについて正当の理由あるものであるから、以上の仮定的主張を予備的請求原因として主張すると述べた。<立証省略>

被告会社並に被告藤間両名訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実中被告会社が原告とその主張の日時にその主張の如き手形取引契約を結び被告藤間が該契約について保証したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告吉田は被告会社の取締役でなく全く無関係の者である。被告会社は中野区と仲町国民学校の校舍建築の請負契約を締結したことはあるが、被告会社は昭和二十二年二月二十日頃被告吉田嚴及び中野区の関係係員と協議の上、爾後右請負契約上の請負人たる地位を被告嚴と交替することとし、なお被告嚴とも一切の関係を絶つことを約諾したので、右請負契約締結の解約並に中野区と被告嚴との新なる請負契約の書類を作成すべきところ、その手続複雜なため、これを省略して、当初の請負契約書をそのまゝ残し、被告会社において被告嚴に請負契約上の権限一切を委任する旨の書類を中野区に差し入れたに過ぎない。從つて本件手形は被告嚴において何等の権限なく被告会社名義を使用して振り出した偽造のものであつて、被告会社並に被告藤間に何等手形上の責任はないから原告の本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

被告吉田嚴は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、且つ答弁書その他の準備書面をも提出しないので同被告に対する原告主張の請求原因事実は同被告において明かに爭はず自白したものと看做すべきである。

次にその余の被告等に対する原告の請求を按ずるに、被告会社が原告銀行と昭和二十二年二月六日極度額金十五万円の手形取引契約を結び、同時に被告藤間が該契約につき保証をしたことは当事者間に爭がない。

原告代理人は、被告会社は請求原因に記載の(一)、(二)の約束手形を振り出したと主張するに対し被告等は右手形は偽造のものであると爭うからこの点を調べてみると成立に爭のない甲第六号証乙第一号証の各記載と被告本人の供述及び鑑定人遠藤恒儀の鑑定の結果を綜合すれば、被告嚴は被告会社の專務取締役でないのに拘らず偽造の被告会社の取締役社長の印を擅に使用して、原告銀行中野支店宛に、自己が被告会社の專務取締役であつて、前記手形取引契約及び昭和二十一年十一月十六日被告会社が原告と開始した当座勘定取引について、被告会社の代表者として追加せられ、爾後被告会社取締役社長藤間哲夫に代り取引をする旨の被告会社名義の代表者追加届(甲第四号証の一、二)並に前記請負契約について被告会社が受け取るべき工事代金の中十五万円については優先的に、その代位受領を原告銀行中野支店に委任する旨の中野区長宛の委任状(甲第五号証)を作成してこれを原告銀行中野支店に差し入れたうえ、原告主張の約束手形二通の振出人欄に自己が被告会社の專務取締役なる旨記載し、その名下に右偽造の被告会社の印を押捺して、右手形二通を偽造し、これを原告銀行中野支店係員に交付したことを推知するに充分である。右認定を覆し、被告嚴が被告会社を代表して、原告主張の約束手形二通を振出す権限を有する旨の原告主張事実を認むべき証拠はない。

よつて商慣習の存在に関する原告の予備的主張を按ずるに、鑑定人前沢慶治の鑑定の結果によれば、一般に手形取引契約書を差入れて銀行と手形取引をする場合には、手形の振出人が擅に他人の振出名義を冐用し、偽造の印を押捺して手形を振り出した場合でも、その印影が手形取引契約書に押捺の印影と類似し肉眼を以て容易にその相違を覚知することができず本人振出のものと認めて取引をしたことについて過失がないときには、銀行において、その取引を有効とすることができる旨の商慣習の存在することを認めることができる。若し然らずとせば、銀行取引の迅速と安全は到底期待することができなくなるからである。(大正一五、五、一二、東京控訴院判決評論一六卷商一八〇頁参照)本件についてこれを見るに、前認定事実と成立に爭のない甲第三号証の記載及び証人林一英、皆川定雄の各証言並に甲第一、二号証の各一、二同第四号証の一、二の存在と鑑定人遠藤恒儀の鑑定の結果を綜合すれば、本件各手形の振出人名下に押してある印影は特別の技術を有する者が機械力によつてこれを拡大し科学的方法による調査の結果、手形取引契約書に押捺の印影と相違していることが漸く判明できるもので、肉眼によつては両者の相違を容易に覚知し得ない程度に酷似し、且つ被告会社はこれより前昭和二十一年七月頃から中野区と同区立仲町国民学校の校舍建築工事施行の請負契約を締結し、該工事施行について昭和二十二年二月初頃一切の権限を被告吉田嚴に與えた旨、原告銀行中野支店係員に紹介したので同係員は被告嚴が被告会社の右工事施行について代表権限あるものと信じ、なお前認定の如く代表者追加届(甲第四号証の一、二)及び委任状(甲第五号証)の差し入れがあつたので、被告嚴が眞実被告会社を代表して本件手形を振出す権限あるものと信じその名下の印影を照合したうえその手形の眞偽に疑を容れず、手形取引契約に基づき、正当に振り出されたものとして、手形金に相当する金員の貸付をして本件手形を取得したこと並に原告が右各手形について満期に呈示をなしたことを認めることができる。この認定に反する被告藤間本人の供述は信用することができない。

然らば原告銀行中野支店係員が本貸手形を被告会社振出の眞正なものと認めて取引したことにつき過失あるものということはできない。もつとも被告嚴が被告会社の專務取締役でないことは被告会社の登記簿謄本(乙第一号証)を一覧するか或は被告会社に紹介すれば容易に了知し得べき事項であるので、この点の注意を怠つたのは過失であると非難できないことはないけれども、前認定事実と証人林一英、被告藤間本人の各供述を綜合すれば、被告会社は前記請負契約を施行するについて、被告嚴の協力を得ていたが、その施行困難となり昭和二十二年二月二十日被告嚴と交替するに至つたが、これより先昭和二十一年十一月頃より原告銀行中野支店と当座勘定取引を開始し、本件手形取引の旬日前原告銀行中野支店係員は被告嚴の申出で被告会社に十万円程融通し被告会社よりその決済を受けていたので、被告会社と被告嚴との関係に何等の疑念を抱かず、且つ昭和二十二年二月初頃被告藤間より被告嚴が被告会社に入つて請負工事を施行する旨紹介せられていた関係があり被告嚴を被告会社の專務取締役で、代表者として追加する旨の昭和二十二年二月二十一日差入の代表者追加届(甲第四号証の一、二)及び委任状(甲第五号証)に押捺してある印が手形取引契約書(甲第三号証)に押捺の被告会社の印と酷似しているので、その眞偽について疑を容れる余地のなかつた事情が認められるから、被告嚴の代表資格について、更に被告会社に紹介してその眞偽を確かめる義務があるというのは原告に酷を強いるものであり、從つてこの点の調査をしなかつたことを取り上げて原告に過失の責ありということはできない。

而して反証のない本件においては手形取引契約者は右商慣習に則る意思あるものと推定すべきであるから、右手形取引は原告と被告会社との間に有効になされたものと認むべきであつて、被告藤間は右手形取引契約の保証人としてその責に任ずべきこと勿論である。

よつて原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條、第九十三條、仮執行の宣言について同法第百九十六條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 西川美数)

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