東京地方裁判所 昭和23年(ワ)1407号 判決
原告 清和会
被告 川瀬留吉
一、主 文
原告の請求は之を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告は原告に対し、東京都中央区銀座五丁目二番地四号所在木造トタン葺二階建家屋一棟建坪五十三坪八合五勺、二階五十三坪八合五勺の内一階の別紙図面<省略>(イ)(ロ)(ハ)(ニ)点を結ぶ線内の部分十一坪二合五勺及び二階の内別紙図面(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)点を結ぶ線内の部分四十坪八合五勺を明渡せ、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告は産業文化建設に関する各界識見者を会員とし、日本経済文化の発展に資する諸般の調査研究を為すことを目的とする法人に非ざる社団で代表者の定めあるものである。
被告は訴外伊東治正から賃借していた東京都中央区(当時京橋区)銀座五丁目二番地四号所在木造トタン葺二階建家屋一棟建坪八十八坪九勺、二階九十三坪七合三勺五才、屋階十九坪七合五勺の内、階下東北部の一部十坪(実測間口二間半、奥行四間半十一坪二合五勺)二階全部、東面の一部を除く屋階の全部を賃貸人伊東治正の承諾を得て、昭和十九年四月十四日、一ケ月の賃料八百円で原告に転貸し、原告は之を転借使用していたところ、右家屋は昭和二十年一月二十七日戦災により焼失した。被告はその焼跡に昭和二十年九月頃より家屋の建築準備に着手し、同年十二月二十八日建築許可を受け昭和二十一年十二月四日木造トタン葺二階建家屋一棟建坪五十三坪八合五勺二階五十三坪八合五勺の建築を完成したのであるが、原告は右建築完成前、即ち昭和二十一年九月十六日から同月二十四日迄の間数回にわたり原告の代表者山川昇より被告に対し、罹災都市借地借家臨時処理法第十四条の規定に基き、右家屋の賃借の申出をしたところ、被告は三週間内に拒絶の意思表示をしなかつたから遅くとも同年十月十五日の経過と共に右家屋の従前の賃借部分に該当する部分、即ち一階の内別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)点を結ぶ線内の部分十一坪二合五勺、及び二階全部につき賃借権設定の効果を生じたものであつて、被告は原告の使用收益に供する為右部分を原告に引渡すべき義務あるものである。よつて右一階の十一坪二合五勺、及び二階の内別紙図面(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)点を結ぶ線内の部分四十坪八合五勺の明渡を求める為本訴請求に及んだと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告がその主張の如き法人に非ざる社団であるか否かは知らない。被告が伊東治正から賃借していた原告主張の家屋を原告主張の如く(但し賃料の額は争う)原告に転貸していたところ、右家屋が原告主張の日戦災により焼失したこと、その焼跡に原告主張の如き家屋を被告が建築して完成したこと、被告が原告のいわゆる「賃借の申出に対する拒絶の意思表示」をしなかつたことは之を認める。その余の原告主張事実、特に原告からその主張の頃賃借の申出があつたこと及び建築完成の時期は否認する。本件家屋は昭和二十年八月下旬より建築準備に着手し、同年十一月下旬建築を完成したもので原告主張の頃賃借申出を受けたことはないと述べた。<立証省略>
三、理 由
(一) 原告の当事者能力。
本人訊問に於ける原告代表者山川昇の供述(第一回)と右供述により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、二によれば、原告清和会は原告主張のような代表者の定めある法人に非ざる社団であることが認められるから、原告清和会を当事者とする本件訴訟は適法である。
(二) 本案の請求。
原告がその主張の家屋を(賃料の額については争があるが)被告から転借していたこと(それは原告清和会の会員が総有的に転借権を享有していたものと解すべきものであるが)、及び右家屋が原告主張の日に戦災により
焼失したこと、並に原告がその焼跡に原告主張の如き家屋を建築したことはいづれも当事者間に争がない。
而して証人柳原隼作の証言及び本人訊問に於ける原告代表者山川昇の供述(第一回)によると原告の代表者山川昇は柳原隼作を使者として昭和二十一年九月十六、七日頃、被告に対し、原告清和会の為罹災都市借地借家臨時処理法第十四条による右家屋賃借の申出をしたことを認めることができる。本人訊問に於ける被告の供述(第一回)中右認定に反する部分は措信し難い。
そこで右賃借の申出が右家屋の建築完成前になされたものであるか否かの点を按ずるに、証人滝田喜作及び本人訊問に於ける被告の供述(第一、二回)と検証の結果とを綜合して考えると右家屋の内一階はおそくとも昭和二十一年三月頃迄には物品販売の店舗として使用し得る程に造築せられ、現実被告にて店舗として使用していたこと、又その二階も右賃借申出の当時、電気設備及び店舗用の造作の不備、並に若干修復未完の部分はあつたが、床、天井、壁、柱等の造築を終了していたものであることを認めることができる。証人柳原隼作、本人訊問に於ける原告代表者山川昇の供述中右認定に反する部分は措信し難く、原告の援用する甲第六号証の記載は右認定を妨げるものではない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。
思うに前記法条にいわゆる建築の完成とは、必しも即刻これを使用し得る程に造作その他の造築を完備せることをゆうものではなく、家屋としての主要な構造の造築の完了せるを以て足るものとしなければならない。けだしかかる程度に造築が完了せる以上、これを建築した建物所有者に於て之を使用收益する現実の期待と利益とを有するものとゆうべく、かかる期待と利益を建物の所有者から奪うことは、旧借家人の利益との衡量の上から当を失するものとゆうべきであるからである。右に記述するところによつて考えると、本件家屋は前記賃借申出当時、右法条にいわゆる建築の完成せる家屋と認むべきであるから、原告の賃借の申出は不適法であつてその効力なきものと解するの外はない。
よつて之が有効な申出であることを前提とする原告の本訴請求はその余の事実を判断するまでもなく失当として棄却すべく、民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文の如く判決する。
(裁判官 北村良一)