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東京地方裁判所 昭和23年(ワ)2874号・昭24年(ワ)872号 判決

反訴被告は反訴原告に対し東京都中央区日本橋茅場町一丁目四番地の十二所在宅地四十一坪九合四勺を、該地上に存する木造板葺平家建物置一棟建坪四坪を收去して明渡せ。

訴訟費用は本訴並反訴を通じ全部本訴原告の負担とする。

本判決は反訴原告に於て金一万円の担保を供するときは第二項に限り仮に之を執行することが出來る。

二、事  実

本訴原告(反訴被告以下本訴竝反訴を通じ單に原告と略称する)訴訟代理人は本訴に付「一、原告が被告杉村虎四郎の所有する東京都中央区日本橋茅場町一丁目四番地の十二所在宅地四十一坪九合四勺の土地に付賃料一ケ月金五十八円七十二銭毎月末日拂期間昭和三十年三月九日迄の借地権を有することを確認する。二、被告瀧崎竜太郎(反訴原告以下本訴竝反訴を通じ單に被告瀧崎と略称する。)は原告に対し右土地の占有を妨害してはならない。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め其の請求原因として訴外富保は昭和十四年三月末日被告杉村から其の所有に係る請求の趣旨記載の宅地四十一坪九合四勺を普通建物所有の目的で賃料一ケ月五十八円七十二銭毎月末日拂期間の定なく賃借し右地上に木造トタン葺二階建、建坪三十五坪二階三十五坪の建物を所有していたが原告は同年三月以降富から右建物を賃料一ケ月金百円毎月末日拂の約で期間の定なく賃借していたところ右建物は昭和二十年三月十日戰災で燒失した。而して被告瀧崎は昭和二十一年十一月八日富から右土地の賃借権を代金四万円で讓受け右代金を契約成立の日から五日以内に支拂うこと、被告瀧崎は右地上に建物を新築して其一部を富に賃貸すること等を約し右賃借権の讓渡に付土地所有者被告杉村の承諾を受けた。而して原告は昭和二十三年五月二十八日被告瀧崎に対し書面を以て右借地権讓渡の申出を爲し右意思表示は翌二十九日同人に到達したが同被告に於て其の後三週間内に拒絶の意思表示をしなかつた。仮に同被告が右期間内に拒絶の意思表示をしたとしても拒絶するに付正当の事由の存することは否認する。即同被告は肩書地に営業所を有するのみならず同被告が本件土地の賃借権を讓受けた昭和二十一年十一月八日以降遂に右地上に建物を建築しなかつた事に徴しても建物所有の目的で自ら本件土地を使用する必要のないこと明かである。仮に同被告の主張する様に大平産業株式会社の事務所を建築する爲に本件土地を必要とするとしても第三者に使用せしめる爲に営業所を建築することは到底正当の事由あるものとは謂い得ない。其の余の同被告の抗辯事実は否認する。從つて原告は前記借地権讓渡の申出をした時から三週間を経過した昭和二十三年六月二十日本件土地の借地権を取得したのであつて其後原告は本件地上に木造板葺平家建一棟(物置)建坪四坪を建築所有して本件土地を占有していたが、被告等は原告の借地権を爭い被告瀧崎は右建物の表札を取捨てたりするので原告の占有を妨害する虞がある。因つて本件土地の賃借権が原告に存することの確認を求めると共に被告瀧崎に対し原告の占有を保全する爲本訴に及んだと陳述し被告瀧崎の主張に対し訴外山田義雄が原告会社を代表して同被告に対し借地権讓渡の申出を爲したこと及同訴外人が原告会社を代表する権限の無い取締役であることは認める。然し原告の代表取締役富は昭和二十四年五月十三日の口頭弁論期日に於て山田の行爲を追認する旨の意思表示を爲したから昭和二十三年九月二十九日に遡及して有効となる。同被告其の余の抗弁事実は否認すると述べ、反訴につき反訴原告の請求を棄却する訴訟費用は反訴原告の負担とするとの判決を求め答弁として本件土地が被告杉村の所有であること、富が昭和十四年三月同被告から之を賃借したこと、被告瀧崎が昭和二十一年十一月八日訴外富から前掲宅地の賃借権を地主被告杉村の承諾を得て讓受けた事実及原告が右宅地上に被告瀧崎主張の如き建物を建築所有していることは認める。原告は本訴の請求原因で述べた通り罹災都市借地借家臨時処理法第三條の規定に基き本件土地の借地権を讓受けたのであつて、原告は正当権原に基き本件土地を占有しているのであるから同被告の反訴請求は失当である。と陳述した。<立証省略>

被告瀧崎訴訟代理人は本訴に付主文第一項同旨の判決を求め答弁として本件宅地が被告杉村虎四郎の所有に属し訴外富保が昭和十四年三月末日右土地を同被告から原告主張の約定で賃借していたこと、被告瀧崎が訴外富保から原告主張の日その主張の如き約定で本件借地権を讓受けた事実は認めるが、訴外富が昭和十四年三月末日右借地上に原告主張の如き建物を所有していた事実、原告が富から右建物をその主張の如き約定で賃借していた事実は不知、其余の事実は凡て否認し、抗弁として(一)仮に原告が本件地上の建物を富から賃借していたとしても原告は取締役山田義雄名義を以て昭和二十三年五月二十九日到達の書面で被告瀧崎に対し罹災都市借地借家臨時処理法第三條の規定に基き本件借地権讓渡の申出を爲したが原告の代表取締役は富保で右山田は原告を代表する権限を有しないから右申出は無効である。尤も原告は其の主張の口頭弁論期日に同被告に対し山田の前記無権限の行爲を追認したけれども、山田の借地権讓渡申出は相手方ある單独行爲であるところ、相手方である同被告に於て山田の代表権を爭つている本件に於ては右追認を何等其の効力を生ずるものではない。(二)仮に右抗弁が理由ないとしても被告瀧崎は右申出を受けた直後原告に対し該申出を拒絶したが之は次の如き理由に基くものである。即同被告は昭和二十二年十月三日、実父其の他の親族等と共に繊維製品、日用品等の生産販賣貿易等を目的とする大平産業株式会社を設立し其の事務所として右地上に木造瓦葺二階建家屋一棟延坪数四十二坪を新築する爲昭和二十二年十一月戰災復興院総裁及東京都長官に建築の出願を爲したところ敷地面積との関係上却下されたので更に昭和二十三年四月木造瓦葺平家建坪十三坪六合の住宅兼事務所向建物の建築出願を爲し同月十九日之が認可を得資材の準備を整え正に建築工事に着手せんとしていた所原告に於て不法に本件宅地上に物置一棟を急造して、同被告の建築を妨害している。その上被告瀧崎は、昭和二十一年十一月八日本件借地権を訴外富から讓受ける際、被告瀧崎に於て、右借地上に家屋を新築してその一部を右富に賃貸することを約したが富は原告会社の代表取締役である関係上右約旨に從い、被告瀧崎が家屋を建築しその一部を原告に於て使用すれば原告の営業の爲にする建物所有の目的は達せられるのであるから原告は本件借地権を讓受ける必要はない、叙上の事実は借地権讓渡の申出を拒絶するに付正当の事由ある場合に該当するものであるから本件借地権は依然被告瀧崎に存するのであると陳述し反訴に付主文第二項同旨、反訴の訴訟費用は反訴被告の負担とするとの判決を求め、其請求原因として本件宅地は被告杉村の所有で訴外富は同被告から之を賃借していたところ被告瀧崎は昭和二十一年十一月八日訴外富から本件宅地の賃借権を原告主張の如き約定で讓受け本件土地の所有者である被告杉村から右讓渡の承諾を得た上、昭和二十一年十一月、建物所有の目的の爲期間二十年賃料月金五十八円七十二銭毎月月末拂の約で改めて右杉村から賃借した。

然るに原告は同被告に対抗し得べき何等の正権原なきに拘らず本件地上に主文第二項記載の建物を建築所有し同被告の賃借権に基く本件宅地の使用收益を妨げているから被告瀧崎は右賃借権を保全する爲其の賃貸人であり且つ土地所有者である被告杉村に代位して所有権に基き原告に対し右建物を收去して其の敷地の明渡を求める爲本訴に及んだと陳述した。<立証省略>

被告杉村訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め本件土地が被告杉村の所有に属すること、同被告が原告主張の日時に右土地を訴外富に賃貸した事実及富が原告主張の日時被告瀧崎に賃借権を讓渡し被告杉村が右讓渡を承諾したことは認めるが其余の事実は不知と述べた。<立証省略>

三、理  由

先づ原告の本訴請求に付按ずるに、訴外富が被告杉村から其の所有の東京都中央区日本橋茅場町一丁目四番地の十二所在宅地四十一坪九合四勺を昭和十四年三月頃賃借した事実は当事者間に爭ないところであり原告会社代表者富保の供述によれば訴外富は右地上に木造トタン葺二階建延坪七十坪の建物を所有し原告に於て昭和十四年三月頃富から右建物を原告主張の約定で賃借していた処右建物は昭和二十年三月十日戰災で燒失した事実を認めるに充分である。而して被告瀧崎が昭和二十一年十一月八日富から右土地の賃借権を讓受け土地所有者杉村の承諾を受けた事実は当事者間に爭なく原告が取締役山田義雄名義で被告瀧崎に対し昭和二十三年五月二十九日到達の書面で罹災都市借地借家臨時処理法第三條に基き借地権讓渡の申出を爲したこと、及山田が原告の代表者でなかつたことは被告瀧崎の爭わないところであり被告杉村との関係に於ては原告会社代表者の富保の供述により之を認める。然るに原告が昭和二十四年五月十三日の口頭弁論に於て山田の爲した右借地権讓渡の申出を追認したことは訴訟の経過に徴し明かである。被告瀧崎は罹災都市借地借家臨時処理法第三條に規定する借地権讓渡の申出は相手方ある單独行爲であるから相手方たる被告瀧崎に於て其の代理権を爭う以上、追認の効果は発生しないと主張するので此の点に付按ずるに無権代理人の爲す單独行爲の相手方が代理権を爭う場合には本人の爲す追認は其の効果を発生しないこと民法第百十八條により明かであるけれども、右は相手方が無権代理行爲たる單独行爲受領の後遅滞なく異議を述べ且代理権の証明を要求した場合たることを要するものと解すべきところ、本件に於て同被告は右無権代理行爲後約一年を経過した昭和二十四年五月十三日の口頭弁論期日に於て始めて山田の代理権を爭つたこと訴訟の経過に徴し明瞭であるから、異議により追認の効果を排斥するに由なく無権代理人山田の前記借地権讓渡の申出は原告の追認により行爲の時に遡及して其の効力を生じたものと謂わなければならない。同被告は仮に原告の借地権讓渡の申出が、其の効力ありとしても其の後三週間内に拒絶の意思表示を爲し且拒絶するに付正当の事由があると主張するので此の点を判断する。証人中池仁平、同瀧崎経治の各証言によれば被告瀧崎は原告から借地権讓渡の申出を受けた直後訴外中池仁平を代理人として原告に対しその申出を拒絶したことが認められる。而して成立に爭なき乙第五、六号証、第七号証の一、二、第十号証に証人松本宇八郎、同瀧崎経治の各証言を綜合すれば同被告は昭和二十二年十月三日実父瀧崎経治及知友と共に繊維製品機械器具等の販賣及貿易等を目的とする大平産業株式会社を設立し、同被告は其の監査役、実父経治は其の取締役に就任し右会社事務所に充てる爲原告から借地権讓渡の申出を受くる前たる昭和二十二年十一月本件宅地上に木造瓦葺二階建家屋一棟建坪二十五坪二合七勺、二階二十一坪二合七勺の建築許可申請をしたところ敷地面積に比し建物の坪数が過大であつた爲却下されたので更に昭和二十三年四月木造瓦葺平家建家屋一棟建坪十三坪六合の建築出願を爲し同月十九日右認可を得たこと、同被告は其の頃訴外松本宇八郎に右家屋の建築工事を請負わしめ資材を準備して、工事に着手しようとしたところ原告が右地上にバラツクを建築したので着工を見合さなければならなくなつたことを認めることが出來る。他に右認定を左右するに足る反証は存しない。そして罹災都市借地借家臨時処理法第三條により準用せらるゝ第二條第三項に所謂建物所有の目的で自ら土地を使用する場合とは、旧借地権者が会社を設立し其の事務所として使用させる爲に建物を建築する場合をも含むものと解すべきであるから前認定の事情の下に於ては同被告は原告の借地権讓渡の申出を拒絶するに付正当の事由あるものと謂うべく原告の右申出は其の効力を生ずるに由なく、本件借地権は依然被告瀧崎に属するものと断ぜざるを得ない。然らば原告が本件借地権の讓渡を受けたことを前提とする本訴請求は爾余の判断を爲す迄もなく失当として之を棄却すべきものである。

次に反訴に付按ずると被告杉村が本件宅地の所有者であること、被告杉村が昭和十四年三月本件土地を訴外富保に賃貸し、被告瀧崎が昭和二十一年十一月八日右訴外人から右土地の賃借権を讓受け被告杉村の承諾を得たこと、原告が右地上に被告瀧崎主張の建物一棟を建築所有していることは当事者間に爭いないところである。原告は本訴で主張した通り罹災都市借地借家臨時処理法第三條の規定に基き被告瀧崎に対し本件借地権讓渡の申出をしたが同被告は三週間内に拒絶の意思表示をしなかつたから原告は本件借地権を取得したので原告の本件土地の占有は正当権原に基くものであると主張するが原告が本件宅地上に借地権を有しないことは本訴の理由で述べた通りである。他に原告の本件土地の占有が同被告に対抗し得べき権原に基くことに付主張立証がないから原告の占有は不法のものであり、その爲被告瀧崎の賃借権に基く本件土地の使用收益を妨害しているものと謂わなければならない。然らば被告瀧崎が右借地権を保全する爲、土地所有者被告杉村に代位して原告に対し右地上の木造板葺平家建物置一棟建坪四坪を收去して其の敷地の明渡を求むる同被告の反訴請求は正当として認容すべきものとする。仍て本訴並反訴の訴訟費用負担に付民事訴訟法第八十九條仮執行の宣言に付同法第百九十六條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 岡部行男)

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