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東京地方裁判所 昭和23年(ワ)316号 判決

原告 小林英夫 外一名

被告 大宮敏一 外二名

一、主  文

一、原告等が東京都文京区春日町三丁目三番地二宅地百七十坪七合七勺につき賃貸人被告加藤恵一、賃借人原告両名期間昭和二十一年九月十五日より昭和三十一年九月十四日まで賃料一ケ月金八拾五円参拾九銭支払期日毎月二十八日持参払との借地権を有することを確認する。

二、被告大宮敏一は原告等に対し右宅地の内西側の五十七坪を該地上に存する木造トタン葺二階建一棟建坪二十坪五合二階八坪(家屋番号三五六番)と木造瓦葺平家建一棟建坪約十坪を各収去して明渡せ。

三、被告三沢健二は原告等に対し右宅地の内東側百十三坪七合七勺を該地上に存する木造鉄板葺平家建作業場一棟建坪二十一坪六合六勺六才(家屋番号一〇四番)と木造鉄板葺平家建倉庫一棟建坪十五坪(家屋番号一〇五番)を各収去して明渡せ。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は主文掲記の判決と仮執行の宣言を求め、其の請求原因として次の通り述べた。

原告小林美以の母津末は大正十五年十一月十六日被告加藤恵一の父春雄より主文記載の本件宅地上に在つた木造瓦葺二階建三棟(各棟共いずれも建坪三十九坪七合五勺、二階三十三坪)を買受け同時にその敷地である本件宅地をこれら建物所有の目的を以て、期間大正十五年十二月一日より二十ケ年賃料一ケ月金九拾参円九拾弍銭(其の後昭和十年頃に至り金八拾五円参拾九銭となる)支払期日毎月二十八日持参払との約定で所有者加藤春雄より借受け、爾来、該地上に登記済の右家屋三棟を所有し来つた。而して原告小林英夫は昭和三年頃原告小林美以と婚姻して右小林津末の婿養子となつたが津末は昭和九年四月四日死亡したので本件宅地の賃借権と該地上の家屋三棟は共同相続により原告等両名及び訴外川里登久、同小林富久四名が共有するに至つた。そして昭和十三年十月二十二日原告小林美以は右川里登久、小林富久の各共有持分権を同人等より譲受けその頃右家屋についての共有持分権移転登記手続を完了したのであつて従つて昭和十三年十月二十二日以降本件宅地の賃借人は、原告等両名となり且、原告等は該地上に登記済の家屋を所有することとなつた。一方被告加藤恵一の先代春雄は昭和十四年に死亡したので、同被告が相続によつて本件宅地の所有権を取得し賃貸人としての地位を承継したものである。

而して本件宅地上に原告等が所有していた右家屋三棟は昭和二十年四月十三日戦災により焼失したが昭和二十一年九月十五日現在に於て原告等の本件宅地の賃借権はなお存続していたので罹災都市借地借家臨時処理法の施行に伴い同法第十一条により期間は右同日以降十年間に延長されるに至り現に右賃借権は存続中である。ところが被告大宮敏一同三沢健二は本件宅地を被告加藤より借受けたと称して昭和二十二年二、三月頃より右宅地上に家屋の建築を始め、現在被告大宮は西側五十七坪の部分を該地上に主文第二項記載の建物二棟を建築所有して占有し、被告三沢は残余の百十三坪七合七勺の部分を該地上に主文第三項記載の建物二棟を建築所有して占有し夫々原告等の借地権を侵害しているので原告等は被告等三名に対し主文掲記の如き借地権を有することの確認と被告大宮、同三沢に対しては本件宅地の各占有部分につき該地上に存する各家屋を収去して明渡すことを夫々求めるため本訴に及んだのである。なお被告等の抗弁に対し、被告等主張の如き特約のあつた事はいずれも否認する。仮に右特約が認められるとしても、抗弁(一)はその前提となる、(ロ)の特約が借地法第十一条に所謂借地権者に不利なものに該当するから無効である。

抗弁(二)は昭和二十年四月分以降の賃料不払の事実は認めるが当然解除との約定は借地法第十一条に違反するから無効であるのみならず、戦災直後の混乱した当時の社会状態においては正常な債務の履行は不可能な事情にあつたから当時における賃料不払を以て賃貸借契約解除の理由とすることは失当である。しかも原告小林英夫は昭和二十一年二月二十八日頃右賃料不払分十四月分(昭和二十年一月より同二十一年二月分まで)を被告加藤宅に持参し現実の提供をなしたところ被告の母真が昭和二十年一、二、三月分を受領しているので賃料不払を理由とする解除権は既に消滅したものである。抗弁(三)の合意解除の事実は否認する。抗弁(四)は原告両名が川里登久、小林富久より共有持分権を譲りうけたとしても賃貸人である被告加藤先代春雄及び同被告に対し賃貸借の基礎を破壊したわけでもなくまた使用収益の許された範囲を逸脱したものでもないからこれを理由に本件賃貸借契約を解除することは信義に反し許されない。しかのみらず春雄及び被告加藤等は右譲受後も原告等より異議なく賃料を受領しこれを承認していたものである。以上の理由により被告等の抗弁はいずれも理由がない。と。<立証省略>

被告等訴訟代理人は原告等の請求を棄却する。との判決を求め、答弁として被告加藤恵一が相続により本件宅地の所有権を取得した事実、右宅地上に戦災前原告等主張の如き家屋のあつた事実右家屋が昭和二十年四月の戦災で焼失した事実並に被告大宮敏一、同三沢健二が現に右宅地上に原告等主張の如き建物を所有して該宅地を占有している事実は認めるが被告加藤恵一が原告等との間の本件宅地の賃貸人としての地位を承継したとの事実は否認する。其の余の原告等の主張事実は不知と述べ、抗弁として仮に原告等と被告加藤との間に原告等主張の如き賃貸借契約関係が存続していたとしても右賃貸借契約中には(イ)賃借人が賃料の支払を一ケ月たりとも怠つた場合には賃貸人に於て何等の催告を要せず当然契約を解除せられ直に土地明渡請求に応ずること、(ロ)天災、火難等により賃借地所在の建物の全部又は一部が滅失したときは……当然右賃貸借契約は解除せられることを賃借人に於て承諾すること、(ハ)賃借人が本件宅地賃借権を賃貸人の承諾を得ないで譲渡した場合は譲受人は契約を当然解除せられたことを承諾すること等の特約が存していたところ、(一)昭和二十年四月十三日原告等が本件宅地上に所有していた家屋がすべて戦災により焼失したことは原告等が自ら認めるところであるから右(ロ)の約定通り本件賃貸借契約は同日限り当然に解除の効果が発生し消滅したものというべきである。(二)原告等は昭和二十年一月以降の賃料を支払わないので右(イ)の約定により当然に本件賃貸借は解除せられたものであり、もし右(イ)の特約が当然に解除となることを定めたものでなく解除権の発生を定めたものにすぎないとすれば被告加藤は右原告等の賃料不払を理由に本訴において(昭和二十六年一月二十七日の口頭弁論期日において)本件賃貸借契約解除の意思表示をするものである。(三)原告等と被告加藤間の本件土地賃貸借契約は昭和二十一年一月原告等と同被告の代理人加藤真の間において合意の上解除せられた。(四)原告等は昭和十三年十月二十二日川里登久、同小林富久より本件借地権の共有持分権を譲り受けたというのであるがこの譲渡については被告加藤の先代春雄の承諾を得ていないから前記(ハ)の約定により本件賃貸借は当然解除せられたものというべく、もし当然解除とならないとすれば被告加藤は右(ハ)の約定により、又民法第六百十二条によつて本訴において(昭和二十六年一月二十七日の口頭弁論期日において)契約解除の意思表示をする。(五)本件土地の前賃借人小林津末の死亡により原告両名及び訴外川里登久、小林富久の四名が共同相続によりその借地権を承継したことは本訴において原告等の主張するところであるが、原告小林英夫は当時自己が単独で承継したと被告加藤の先代春雄及び春雄死亡後は被告加藤の親権者加藤真及び被告加藤等に揚言しその旨春雄、真、被告加藤等を誤信せしめて本件賃貸借契約上の取引をなさしめたものであるから春雄等の賃料受領その他一切の取引行為は要素の錯誤に基いた無効の行為であり、仮にそうでないとしても少くとも原告小林英夫の詐欺による行為であるから被告加藤は本訴において(昭和二十七年五月十四日の口頭弁論期日において)取消の意思表示をする。よつて何れにしても原告等主張の本件借地権は消滅したものであるから原告等の被告等に対する本訴請求は失当である。(六)なお仮に右抗弁がすべて認められず原告等が本件土地の借地権を有するものとしても被告大宮、同三沢は本件宅地を適法に所有者たる被告加藤より借受けているのであつて債権である賃借権に基ずいては第三者である同被告等に対し明渡を求めることはできないものというべくこの点からいつても原告等の本訴請求は理由がないと述べ、原告等の再抗弁事実に対し仮に加藤真が賃料を受領したことがあつたとしても同人はその受領につき被告加藤の代理権を有していなかつたものである。と述べた。<立証省略>

三、理  由

第一、主文記載の本件宅地が被告加藤恵一の所有であること、並に該宅地上に元原告等主張の如き原告等所有家屋三棟が存在していた事実、そして右家屋はすべて昭和二十年四月十三日の戦災により焼失した事実及び右宅地上に現在被告大宮、同三沢両名が原告等主張の如き家屋を所有して右宅地を夫々占有している事実はいずれも当事者間に争がない。そしてこの争のない事実と成立に争のない甲第一号証乃至第五号証及び証人加藤真の証言並に原告本人小林英夫の供述第一、二回を綜合すると訴外小林津末と被告加藤の先代春雄との間に原告等主張のような本件宅地についての賃貸借契約が成立したこと、津末の死亡による遺産相続により原告両名と訴外川里登久、小林富久の計四名が共同で右賃貸借の賃借人たる地位を承継し次で原告両名が登久及び富久よりその賃借権の共有持分を譲受け地上家屋の戦災当時は原告両名が右賃貸借の賃借人であつたこと、一方被告加藤は先代春雄の死亡による家督相続により右賃貸人の地位を承継し、戦災当時はその賃貸人であつたことをそれぞれ認めることができ、この認定を左右するに足る証拠は存しない。

第二、よつて、次に被告等の抗弁について順次判断する。

本件賃貸借契約において、被告等の主張する(イ)ないし(ハ)のような特約があつたことは成立に争のない甲第五号証によつてこれを認めることができる。しかし、

(一)  天災、火難等による地上建物の滅失をもつて、その敷地の賃貸借の解除原因とする趣旨の前記(ロ)の特約は、借地法第二条に違反し賃借人に不利な契約条件と認められるから同法第十一条により無効というべく従つてその有効なことを前提とする被告等の抗弁(一)は理由がない。

(二)  原告等が昭和二十年四月分以降の賃料を支払つていないことは原告等の認めるところであり、同年一、二、三月分の賃料も翌二十一年二月二十八日頃に至り支払われたことは後記認定の通りであるが、成立に争のない甲第四号証と証人加藤真の証言、原告英夫本人の供述(第一、二回)を綜合すると、原告英夫は昭和二十一年二月二十八日頃被告加藤方を訪れ同被告の母真に対し昭和二十年一月以降の未払賃料を提供し受領を求めると共に本件土地使用の承諾を求めたところ真は同被告を代理して建物罹災迄の同年一、二、三月分の賃料を受領したがその余は近く借地期間が満了するからとてその受領を拒むと共に土地の使用をも拒絶した事実が認められる(被告等は真には賃料受領の代理権はなかつたというが、真は被告加藤の母であり当時同居していたことは証人加藤真の証言で明かであるから、反証ない限り右代理権を有していたものと認む)ので、被告等主張の(イ)の如き特約条項の存在に拘らず被告加藤としては当時昭和二十年一、二、三月分の支払遅滞を理由とする契約解除の主張は抛棄したものと推認できるし、また同年四月分以降の賃料は原告英夫の弁済提供にも拘らず被告加藤の代理人真が受領を拒絶し且土地の使用を承諾しないのであるから爾後の不払については原告等に遅滞の責任ありとはいい得ない。(但し同年七月十二日以降昭和二十一年九月十四日迄の間は戦時罹災土地物件令第三条、同令附則第三項、罹災都市借地借家臨時処理法第二十八条により本件土地の賃料支払義務は発生しないものと認める。)従つて原告等に賃料債務の履行遅滞あることを前提とする抗弁(二)もまた理由がない。

(三)  被告等主張の本件賃貸借の合意解除の事実はこれを認めるに足る証拠がないから抗弁(三)もまた採用の限りでない。

(四)  被告等は原告両名が前認定の如く訴外川里登久、小林富久の両名から本件借地権の共有持分を譲受けたことを以て被告等主張の前記(ハ)の特約に該当する場合であると主張するのであるが、この特約の趣旨は借地権の譲渡により賃借人が交替し最初の賃借人と別個の者が土地の使用をするようになることは相互の信頼干係を破壊し賃貸人に不利益を与えるおそれがあるので賃貸人の承諾なしになされた場合は解除の原因とする趣旨であつて本件におけるように借地権の共有者がその持分を他の共有者に譲渡しその結果当初四名の共同賃借人がその内の二名に減少したに過ぎないような場合はこれを含まない趣旨と解するのが相当であり、民法第六百十二条の法意もまた同様に解すべきであるからこの点に干する抗弁(四)もまた理由がない。

(五)  被告等は、また要素の錯誤とか原告等の詐欺を云々しているけれども、かりに小林津末の死亡により原告両名及び訴外川里登久、小林富久の四名が共同相続により賃借人の地位を承継した事実を被告加藤の先代及び同被告等において知らなかつたとしてもこれを以て民法第九十五条に所云法律行為の要素に錯誤がある場合とはいいえないしまた原告等にこの点に干し被告加藤の先代及び同被告等を欺罔しようという意思があつたことを認めうべき証拠は何もないから、この点に干する抗弁(五)もまた理由がない。

(六)  最後に、被告大宮、同三沢は原告等の本件借地権は仮にあるとしても債権であるから、所有者より適法に賃借権の設定を受け本件宅地を占有している同被告等に対し明渡を求める本訴請求は失当であると抗争し、同被告等が昭和二十一年四月頃被告加藤よりそれぞれ主文第二、三項記載の部分を賃借したことは証人加藤真の証言によつて認められるけれども、原告等の本件借地権はいわゆる戦災地借地権で戦時罹災土地物件令第六条がかかる借地権につき第三者に対抗できる旨を規定した法意は本件の如く罹災後に所有者より同一土地を賃借した第三者に対しても戦災地借地権者は直接に自己の借地権を主張しその妨害を排除することができる旨を認めたものと解されるからこの点に干する抗弁(六)もまた理由がない。

第三、以上の通り被告等の抗弁は凡て理由なく、原告等は罹災当時は勿論その後罹災都市借地借家臨時処理法の施行された昭和二十一年九月十五日当時においても本件土地につき前認定のような約定の借地権を有していたものと認められるから同法第十一条によりその存続期間は同日より十年となつたわけである。

よつて原告等の本訴請求はすべて理由があるから之を認容することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し仮執行の宣言は本件事案の性質上之を附さないのを相当と認め主文の通り判決する。

(裁判官 岸上康夫)

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