東京地方裁判所 昭和23年(行)2号 判決 1948年3月11日
東京都新宿区戸塚一丁目五百八番地
原告
鳥羽兵助
右訴訟代理人弁護士
東京都千代田区丸の内三丁目東京都廳内
被告
東京都農地委員会
右代表者会長
安井誠一郞
右訴訟代理人弁護士
右当事者間の昭和二十三年(行)第二号自作農創設特別措置法に因る買收処分取消請求事件について次の通り判決する。
主文
原告の請求は之を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は本件口頭弁論期日に出頭しないので訴状を陳述したものと看做した。
右訴状によると
「被告は中野区農地委員会が昭和二十二年十一月十五日定めた東京都中野区江古田一丁目八十九番地所在土地四畝十六歩に対する農地買收計画は之を取消すこと。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因は「中野区農地委員会は昭和二十二年十一月十五日原告所有の右土地に対し自作農創設特別措置法第三條第一項に基いて農地買收計画を定めた。然し乍ら、右土地は元來宅地であつて原告は昭和二十一年三月中庭木を植え土台石を設置障壁を建設するなど建築工事に着手したが、資金及び資材に支障があつた爲建築を一時中止している間に建築資材は窃取され何人かが原告に無斷で耕作するに至つた土地に過ぎないのであるから前記條項に基いて買收せらるべき筋合ではない。又本件土地は住宅地域内に存するので当然自作農創設特別措置法第五條第四項所定の地方長官の指定であるべき土地で買收より除外せらるべき土地である。從つて中野区農地委貝会の定めた前記買收計画は違法であるから原告は之に対し異議の申立を爲したが却下せられたので、被告に対し右買收計画の取消を求むる爲本訴訟請求に及んだのである。」と謂うにある。被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、中野区農地委員会が原告主張の買收計画を定めたことは認めるが、その餘の原告主張事実はすべて之を否認する。
被告委員会としては、原告より訴願もなく農地調整法第十五條の十八の場合でもない本件においては中野区農地委員会の定めた買收計画を取消し得る権能を有しないばかりでなく本件土地は不在地主である原告の有する小作地であつて、原告主張の地方長官の指定もない土地であるから、中野区農地委員会の定めた買收計画は適法である。以上何れの点よりするも原告の本訴請求は失当である。」と述べた。
理由
訴外中野区農地委員会が昭和二十二年十一月十五日原告主張の土地に対し農地買收計画を定めたことは当事者間爭ないところである。
原告は本訴において被告東京都農地委員会に対し中野区農地委員会の定めた右買收計画を取消すべきことを請求しているのであるが、本件につき何等の行政処分をも爲しおらざる被告に対し、中野区農地委員会の買收計画の取消を求むるが如き訴は許されざるものと解すべきであるから、原告の本訴請求は、その主張自体理由がないものと謂ふべきであつて、而も、原告が右中野区農地委員会の買收計画の違法なる理由として主張した事実はすべて被告の否認するところであるにもかゝはらず之を認むるに足る証拠がないので、原告の本訴請求は何れの点よりするも理由がないこと明白であるから之を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 裁判官 裁判官)