東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)3478号 決定
申請人 阿部文雄 外四名
被申請人 世田谷運送株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人が昭和二十四年十一月三十日附をもつて申請人等に対してなした解雇の意思表示は、その効力を停止する。
被申請人は申請人等に対し、別紙賃金表の各人名下の手取賃金額欄に記載した金員を交付せよ。
被申請人等に対し出勤停止その他就業を妨げる行為をしてはならない。
三、理 由
本件仮処分申請を正当と認めた理由の要旨は、次の通りである。
申請人等は被申請人(以下会社という。)の従業員であり、申請人等を含む会社の従業員は東京貨物自動車運送労働組合世田谷支部(以下組合という。)を結成し、会社と組合間には、昭和二十四年二月十八日労働協約が締結せられ、同協約の有効期間は同協約第三十六条の自動更新規定によつて、同年八月十八日から更に向う六カ月間延長せられたものである。そして同協約第六条には「組合員の解雇賞罰に就いては会社組合間で協議して定める。」と規定せられている。
会社は、かねて人員整理による企業合理化を企図していたが、同年十一月十二日人員整理に関する組合との第一回の団体交渉において「企業合理化の必要上会社従業員十名内外を整理すること。企業維持の立場から希望退職を認めないこと」をその方針とする旨正式に発表したので組合は解雇理由解雇条件並びに被解雇者氏名の発表を要求し、組合との協議によらない指名解雇には絶対に反対する旨主張したが、会社はこれに応ぜず、その後同月十七日の団体交渉を経て、同月二十一日に至り九名の整理員数及び解雇条件を翌二十二日被解雇者氏名をそれぞれ組合に対して発表したこれに対して組合は、九名の整理人員の枠はこれを認めるが、その整理方法としては、条件によつては退職を希望するものがあるから希望退職者をつのること、若し整理員数に満たないときは組合として責任をとる旨を言明し更に協議を続行するよう提案したが、会社は既定方針を変更せずその後更に同月二十四日、二十六日、三十日の三回に亘り団体交渉を重ねたが、会社はあくまでも既定方針を固持し組合の申入に対しては一顧も与えず殊に解雇理由については全然これを発表することなくして一方的に団体交渉を打切り遂に同月三十日附をもつて申請人等に対しそれぞれ解雇の意思表示をなしたことを一応認めることができる。
右の如き会社の態度は前記協約第六条にいわゆる協議とは認め難い。なんとなれば協議というも、それは単なる組合への諮問の意味ではなく、会社及び組合の双方が信義則に基いて慎重審議を経ることを要するものと解するのが妥当だからである。
もつとも慎重審議を重ねても遂に妥結に至らず、または協議につき組合側にのみ信義則違反の廉がある場合に会社が一方的に解雇権を発動し得ることは勿論である。かく考えるとき本件解雇は右協約第六条に違反するものと認めざるを得ないから申請人等に対する右解雇の意思表示は無効というべきである。次に会社からの賃金によつて生計を維持している申請人等が、就職困難な現下の社会状勢の下において、解雇が一応無効なるにも拘らず、本案判決確定に至るまで解雇者として取扱われることは、同人等にとつて著しい損害であり、また仮に賃金の支払はこれを受け得たとしても出勤停止その他の処分により就業を禁止せられることは著しく労働意欲を阻害せられ、労働者として堪え難い精神上の苦痛と認められるからかかる損害を避けるため主文掲記のような仮処分をする必要があるといわねばならない。
以上の判断は当事者双方の提出した疎明方法による一応の認定に基くものである。なお本件仮処分の申請においては申請人等は本件解雇が不当労働行為に該当する旨をも併せ主張するが、右解雇が協約違反として無効なること前記認定の通りであるから、進んで不当労働行為の有無についての判断はなさない。よつて主文の通り決定する。
(裁判官 古山宏 中島一郎 緒方節郎)
(別紙賃金表省略)