大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)2018号 判決

原告 海音寺潮五郎こと末富東作

被告 大地書房

一、主  文

被告は、原告に対し金十三万五千円及びこれに対する昭和二十四年五月二十九日以降右完済に至るまで、年五分に相当する金員を支拂うこと。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告が金四万五千円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として、「原告は、昭和二十三年四月下旬娯樂雜誌『朝日』を発行していた被告の注文を受け、同誌に掲載すべき小説『妖姫傳』の原稿百六十枚を作成し、これを同年六月中旬から十月二十七日に至る間五回に分割して送付したところ、被告は、これを同年九月から昭和二十四年五月に至る間五回に分割して右誌上に掲載した。右取引においては原稿料について格別の約定がなかつたから、相当地位にある作家の原稿料は一般の取引價格に從い原稿引渡の時に支拂うとの一般取引慣習に從い、当時の原告の著作品の市場價格である原稿紙一枚につき千円の割合により計算した右作品の原稿料金十六万円のうち既に支拂を受けた二万五千円を控除した残金十三万五千円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和二十四年五月二十九日より右完済に至るまでの民法所定の年五分に相当する遅延損害金の支拂を求めるため、本訴に及んだ次第である。」と述べた。<立証省略>

被告は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として「原告主張の請求原因事実は原稿料の点を除く他の部分はすべて認めるが、原稿料は掲載一回分につき一万五千円の約束であつたから、原告の請求は理由がない。」と述べた。

三、理  由

原告主張の請求原因事実は、原稿料の点を除きその他はすべて当事者間に爭がないから、右原稿料の点について判断する。

証人中沢徑夫の証言によれば、本件契約の締結に際し、原稿の枚数、料金及びその支拂時期につき何等の合意もなかつた事実、歴史ものゝ作家として一流の地位にある原告の作品は、当時原稿紙一枚につき最低千円であつた事実、作家と雜誌編集者との間では、

(一)  原稿料は、おおむね当該作家の地位によつてきまつている一般の取引價格によつて支拂われ、特にこれを変更しようとするときは、その者からその旨の申入をなし、

(二)  その支拂は、作家の地位が高い場合は、原稿と引換になされるが、その地位がこれに及ばないときは、原稿の掲載が決定した時なされる

のがこの種取引の一般慣習である事実並びに原告の作品の原稿料の一般の取引價格が右の通りであつたこと及び右の慣習の存在することは、本件取引当時当事者間によく知られていたところであり、且つ、当事者はこれらに從う意思であつたが、別段の話合もせずに、取引をした事実を認めることができ、他にこれに反する証拠は存在しない。

されば、本件当事者は本件原稿料は原稿紙一枚につき千円の割合とし、原告の作家としての相当高い地位にかんがみ、右慣習に從い原稿の全部が被告によつて受領された時にその支拂をする趣旨であつたと認めるのを相当とする。

しかも、原告が約旨に從い小説『妖姫傳』の原稿百六十枚を原告主張通り被告に送付し、被告がその全部を受領した頃には既にその一部を雜誌『朝日』に掲載し始めていた事実は当事者間に爭がない。

然らば、右原稿料は金十六万円となるところ、既に弁済のあつたことを原告の自陳する二万五千円を控除した残金十三万五千円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明かな昭和二十四年五月二十九日以降完済に至るまでの民法所定の年五分に相当する遅延損害金の支拂を求める原告の請求の理由あること明白であるから、正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を、仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉)

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