大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)3677号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

原告は昭和二十一年六月二十九日原被告間に成立した本件土地家屋の賃貸借契約の確認を求めた。被告は原告主張の賃貸借契約の成立を認めたが、本訴の抗辯及び反訴の請求原因としてつぎのように述べた。即ち「原告は保險金詐取の目的で、昭和二十四年七月十八日本件建物を燒燬しようとして、隣家山本方の勝手の屋根に放火したが、山本が出火の事實を早期に發見したゝめ大事に至らなかつた。原告の右の如き行爲は、賃借人としての賃借物の保管義務違反であるから、被告は同日限り本件賃借契約を解除した。よつて本件土地家屋の返還を求める」と、原告は右放火の事實を否認した。

(判斷)

裁判所は原告が保險金詐欺の目的で、本件家屋に延燒せしめようと考えて、隣家に放火した事實を證據によつて肯定し、賃借人の義務違反の程度が甚しく、相互の信賴關係を著しく破壞する場合には賃貸人は催告を俟たずに賃貸借契約を解除できると判斷して、原告の本訴請求を棄却し、被告の反訴請求を認容した。判決はつぎのように述べている。

「……を綜合すれば、原告は保險金詐取の目的で昭和二十四年七月十八日本件家屋の隣家である訴外山本方に放火し、よつて本件家屋に延燒させようと考え、山本方勝手屋根に放火したが、同訴外人が早期に發見消火したゝめ消し止められたが、右山本方は本件家屋に密接してをり、當時は風速八米位の強風があつたので、若し右放火が早期に發見されなかつたならば、本件家屋は燒失するに至るところであつたこと、及び、被告は原告に對し昭和二十四年九月二十九日、被告の右放火を理由に賃貸借契約を放火當日限り解除する旨通知し、右通知は昭和二十四年九月三十日被告に到達したことが認められる。而して賃借人は賃貸借終了後賃借物を返還すべき特定物の引渡債務を負擔するから、その返還をなすまで善良なる管理者の注意を以つて目的物を保管すべき義務を負うこと勿論である。そして賃借人がこの義務に違反したときは當該賃貸借契約において、右義務違反の場合に賃貸人が契約の解除權を有する旨の約定なき限り、賃貸人は右債務不履行による損害賠償を求めるは格別、賃借人に對し右義務違反を理由として當然直に解除權を有するものとは云えず賃貸人がこれを理由に賃貸借契約を解除せんとすれば、先ず民法第五百四十一條によつて賃借人に對し相當期間を定めて原状囘復その他保管義務の履行を催告するを要し、賃借人が右期間を徒過して始めて契約を解除し得るに止るのである。然し乍ら、元來賃貸借契約のような繼續的契約は契約當事者たる賃貸人賃借人相互の信賴關係を基礎とし、その基礎の下に存續するものであるから、賃借人の義務違反の程度が甚しく、假に原状囘復をえたとしても、到底將來の信賴關係をつなぎえない程度のもの、即ち、著るしい信賴關係の破壞の場合は賃貸人は前記催告を俟たず直に契約を解除しうるものと解するを相當といわねばならない。そこで本件につき之を見るに、原告はその賃借中の本件家屋を燒失させようとして放火に及んだことは前敍認定の通りであつて、原告は賃借人として賃借物件の保管義務に違反したこと勿論であつて、しかも義務違反の程度が甚しく、假に原状囘復をえたとしても、到底將來の信賴關係をつなぎえない程度のものである場合に該當するものといわねばならない。……後略」

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