東京地方裁判所 昭和24年(ワ)4215号・昭25年(ワ)7157号 判決
被告は原告に対し金五十一万千百十円、及びこれに対する昭和二十四年十月八日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
被告の請求を棄却する。
訴訟費用は本訴反訴を通じ全部被告の負担とする。
この判決は原告において金十五万円の担保を供するときは、第一項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は、本訴につき主文第一項同旨の判決及び仮執行の宣言を、反訴につき主文第二項同旨の判決を求め、本訴請求原因及び反訴に対する答弁並びに抗弁として、
「原告は福岡市沖浜町所在の訴外博多臨港倉庫株式会社に委託して保管中の原告所有に係る中古自動車部分品約九千六十箇及び自動車スクラツプ約九十七屯七百五十五瓩を入札の方法により売却するため、昭和二十三年九月二十三日読売新聞に、同月二十五日西日本新聞に各競売公告をしたところ、被告は右入札日たる同年十月十一日入札保証金として金六万円を納入の上入札した。翌十二日開票の結果、被告の入札代金は金百十一万千円で最高価であつたので、同月二十八日原告は被告に対し落札決定の旨を通知したところ、被告は同年十一月九日前記入札代金の内金五十五万千円を持参し、これに前記入札保証金六万円を代金の一部に充当することとして、代金残額金五十万円及び入札条件により落札者より原告に支払う定めになつている取引高税相当額金一万千百十円の支払の猶予方を求めたので、原告はこれを承諾し、右五十五万千円を受領し、右代金残額及び取引高税相当金額の支払を同月二十六日まで猶予することとしその頃前記入札物件の引渡をすませた。
よつて原告は被告に対し、右代金残額及び取引高税相当額の合計金五十一万千百十円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日たる昭和二十四年十月八日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による法定利息の支払を求める。
尚被告の主張事実中、被告が本件入札物件をその保管場所から引取つた日時が被告主張の通りであることは認めるが、本件競売が目的物の数量を指示した売買であるとの点、目的物件の数量が不足していたとの点、右数量不足のため被告が損害をこうむつたとの点及び被告が数量不足発見後一年以内に原告に対し数量不足による損害賠償の請求をしたとの点はいずれもこれを否認する。競売物件は、「置場在姿のまま」という受渡条件で入札に附されたものであるから、被告は受渡完了後これにつき数量不足を以つて売主たる原告の責任を問うことはできない。
以上の諸点がすべて被告の主張する通りであるとしても、被告は原告に対し、本件入札に際し、入札物件の変質、瑕疵、数量の異動等につき一切異議を申立てない旨の特約をしているから、原告は被告の主張するような売買の瑕疵担保責任を負うものではない。
仮に原告に瑕疵担保の責任があるとしても、被告がこうむつたとする損害額はこれを争う。」
と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、本訴につき、「原告の請求を棄却する」旨の判決を、反訴につき、「原告は被告に対し金二百万円を支払え。」との判決及び仮執行の宣言を求め、本訴に対する答弁及び抗弁並びに反訴請求原因として、
「原告が本訴につき請求原因として主張する事実はすべてこれを認める。
然しながら、被告は原告に対し以下述べるように損害賠償請求権を有している。即ち、被告が昭和二十三年十一月十八日本件入札物件の保管場所たる前記博多臨港倉庫株式会社に至り、右物件を引取つたところ、その数量は当初本件競売に際し、原告より指示されたものより著しく不足していることが判明した。即ち自動車部分品は皆無であり、自動車スクラツプも約十一屯百瓩不足している状況であつた。被告は事の意外に驚き、同年十一月末頃から昭和二十四年七月頃までの間屡次に亘つて原告と接衝し、右目的物件の数量不足に因り、被告の蒙つた損害を賠償すべきことを請求したが、原告はこれに応じなかつた。
而して前記物件引取当時における右不足物件の価格は、自動車部分品約九千六十箇で約千六十一万四千三百二十一円、自動車スクラツプ約十一屯百瓩で約四万四千四百円、合計約金千六十五万八千七百二十一円であつたから、被告は右数量不足に因り同額の損害を蒙つたものと言える。
従つて被告は原告に対して右金額の損害賠償請求権を有していた訳であるが、昭和二十六年二月十一日の本件準備手続期日において被告は原告に対し、右損害賠償債権を以て、原告の本件代金債権残額金五十一万千百十円と対等額で相殺する旨の意思表示をしたから既に相殺適状にあつた昭和二十三年十一月二十六日に遡つて原告の右債権は消滅した。
よつて原告の本訴請求は失当である。のみならず、被告は原告に対し右損害賠償債権残額約金千十四万七千六百十一円を尚有している次第であるから、右金額の内金二百万円の支払を求める。
尚原告主張のような瑕疵担保責任を免除する旨の特約があつたことはこれを否認する。
仮にそのような特約が存在したとしても、本件入札物件の数量が不足であつたことは原告がこれを知つていながら被告に告げなかつたものであるから、原告はその責任を免れることはできない。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告が本訴につき陳述する請求原因事実は、すべて被告において認めるところである。
よつて被告の抗弁並びに反訴請求原因につき判断する。
先づ本件競売が被告の主張するように、目的物の数量を指示して売買した場合に該当するかどうかについて考えて見るのに、成立に争いのない甲第一、二、六号証に証人岡部経夫の証言(第一回)を綜合すれば、原告は本件競売公告に際し目的物件の品目数量を表示するのに、自動車部品約九千六十箇、自動車スクラツプ約九十七屯七百五十五瓩という風に、数量の上に「約」という字を冠して居り、又入札申入人に交付した入札心得書と題する書面及び入札書中に、いずれも受渡条件として「置場在姿の儘」とする旨の記載があることが認められ、この事実のみから推すと、本件競売においては、目的物の数量は問題としない趣旨のように見られないこともないけれども、成立に争いのない乙第二号証に前記証人岡部経夫、同磯部由造の各証言(いずれも第一、二回共、但し証人岡部経夫の証言中後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、原告が本件競売実施に先立ち、閉鎖機関整理委員会の内部では物件全部を自動車スクラツプと表示して取扱おうという意見も出たようであるが、売得金を多からしめるため、右認定のような公告をすることとし、これに応じて集つた被告を含む競買申入人に対し、目的物件の品目数量の明細を記載した一覧表を交付していること、原告の係員が被告に対し、本件競売物件の品目及び数量は略々右一覧表記載の通りである旨を言明した上、更に丸公部品として市場性あるものの品目数量の説明までしたこと、及び被告は右原告係員の言を信用し、右一覧表記載及び説明による数量を基準とし、自己の下検分をした結果を参酌して、前記入札代金額を決定したこと、がそれぞれ認められる。証人岡部経夫の証言(第二回)中右認定に反する部分は容易に信用し難く、他に右認定の妨げとなるような証拠はない。
かように受渡の条件として置場在姿のままという定めを附した特定物の売買において売主が概略にもせよその数量を表示し、且つその明細を記載した一覧表を買主に交付し目的物件の数量は略々同表記載の通り相違ない旨を明言した上丸公部品として市場性を有する物の品目数量を説明するにあたつては買主がその数量の記載及び説明を過信し、これを基準として代金額を算出決定する等の虞なきを保し難いことであり、又証人岡部経夫(第一回)及び同畑精次の証言によれば、本件競売物件は、原告が戦時中訴外相沢きく(福岡市在住)から買いうけ、同人の倉庫に保管していたのであるが、これを前記博多臨港倉庫株式会社に倉換したものであつて右物件一覧表(乙第二号証)の原本はその際作成され必ずしも正確を期し難いものであつたことが認められるから、売主たる原告としては相手方に違算を生ずることのないよう注意すべきは当然であつたといわなければならない。しかし、そうはいつても、成立に争いのない甲第一、二号証によれば、本件入札条件には、「置場在姿のままにつき変質、瑕疵、数量の異動等につき」原告の代表機関たる閉鎖機関整理委員会に対し「異議を申立てない。」とあり、又、入札公告には、「物件の品目及び数量中古自動車部分品約九千六十個、同スクラツプ約九十七屯七百五十五瓩」とあつて数量を確定せず、且つ物件の下見をゆるしており、前記認定のように被告自身物件の保管場所について下見の機会を自由にもちえた以上、被告は入札価額の決定に際しては、特別の事情のない限り、競売物件の品目及び数量の鑑識の責任が挙げて自己の双肩にかかつていることの認識を持つべきであつたといわなければならない。この意味において、本件競売において、提供した物件の一覧表(乙第二号証)の記載及びこれに対する原告の説明が被告の評価に相当な影響を与えたとしても、それは単なる参考資料たるに止まつたと解すべく、したがつて、本件競売自体は、民法第五百六十五条にいわゆる数量を指示してした売買に該当しないものというべきである。前記証人岡部経夫(第一回)、同磯部由造(第一、二回)の各証言及び証人畑精次、同坂本嘉右衛門の各証言並びに被告会社代表者永野敏本人訊問の結果を綜合考察すれば、被告が原告より本件入札物件の荷渡指図書を受取り昭和二十三年十一月十八日頃物件の保管場所たる前記博多臨港倉庫株式会社に赴き右物件を引取つた際目的物件の数量が著しく不足することを発見したとして、原告営団の博多駐在員に対しその旨を告げ立会を求めたこと、被告が昭和二十三年十一月十八日頃右物件引取後直ちに原告に対しその旨を告げ代金減額等の交渉を開始し、爾後昭和二十四年七月頃までの間熱心にその交渉を継続したこと、及び右交渉経過において原告側係員も或る程度目的物件の数量が予想よりも少かつたことを積極的に争わず、暗にこれを容認するが如き態度を示していたことが窺われるけれども、これは被告側が甚だしい違算をやつたのに対し原告側の右係員が同情した人間的善意にもとずくものと解するのが相当であつて必ずしも法律上有意義に解しなければならない訳のものでもないから、単にこの事実があつたことを以て右認定を左右して被告の主張を認めなければならないというわけはない。
果して然らば本件売買が数量を指示してしたものであることを前提とする被告の主張は、爾余の点につき判断するまでもなくすべて理由がないことに帰着するから、被告の本訴における抗弁及び反訴請求は理由がないこととなる。
よつて被告に対し本件競落代金残額及び取引高税相当額の合計金五十一万千百十円、及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明かな昭和二十四年十月八日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による法定利息の支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、被告の反訴請求を失当として棄却し、訴訟費用は民事訴訟法第八十九条を適用して本訴反訴を通じて全部被告の負担とし、本訴の仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用の上主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉)