東京地方裁判所 昭和24年(ワ)4279号 判決
原告 東京港筏株式会社
被告 同栄信用組合
一、主 文
被告は原告に対して金三十一万七千五百円並びに昭和二十四年十二月十七日から支拂済まで年六分の割合による金員の支拂をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告に於て金十万円の担保を供するときは仮に執行できる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として、被告は訴外三亞商工株式会社社長吉峰正美が原告に宛て昭和二十四年四月二十五日振出した金額三十一万七千五百円満期日同年六月三十日、振出地及び支拂地共に東京都中央区、支拂場所被告組合日本橋支店とする約束手形一通の支拂を保証した。原告は満期日に右手形を支拂場所に呈示して支拂を求めたが拒絶されたから保証人である被告に対して右手形金並びにこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十四年十二月十七日から支拂ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支拂を求めるため本訴に及んだ、と述べ被告の抗弁に対し訴外三亞商工株式会社が登記なく実在しないことは認めると答えた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として、訴外三亞商工株式会社社長吉峰正美が原告主張の如き約束手形一通を振出したこと及び、原告が満期日に同手形を支拂場所に呈示したが支拂を拒絶されたことは認めるが、被告が右手形金債務を保証した事実は否認する。
本件手形につき被告が関與した事情は次の如くである。被告は昭和二十四年二月十日訴外東北木材株式会社に対する金三百五十万円の債権を以て同会社所有の木材千五百三十七本の仮差押手続をした。ところが同木材は所有者たる訴外東北木材株式会社から訴外新光海運株式会社がその海上輸送を請負い同訴外会社から訴外三亞商工株式会社が運搬を引受け、更に原告はその下請けとして現実に右木材を占有し荷受人の訴外汽車製造株式会社へ運搬の途中であつた。そして右被告の仮差押に対して木材の荷受人である訴外汽車製造株式会社から異議の申立があり、その結果被告は右差押を解除して木材はそのまゝ荷受人に引渡すことに示談成立し、被告と訴外東北木材株式会社との間には昭和二十四年四月二十四日裁判上の和解が成立した。処が右示談に基いて木材を荷受人である訴外汽車製造株式会社に運搬引渡しをするに当り当時木材の占有者であつた原告は訴外三亞商工株式会社に対して三十一万七千五百円の債権を有していたので、これが弁済されるまでは木材の運送を中止すると申出たため、訴外三亞商工株式会社はその支拂のために原告に対して同額の本件約束手形を振出すこととして、その保証を被告に依頼した。被告は一旦これを拒絶したが極力援助協力するという旨の念書でもよいということになつて乙第一号証の念書を作成して、交付した。其後原告から右念書の「極力援助協力する」という文句を「保証する」と訂正する様申入れがあつたので、被告は書面の意味に変更なく被告が法律上の責任を負う様な事でなければ多少の字句の訂正は差支のないと考え、その趣旨で甲第二号証の如く「保証する」と訂正したのである。以上の如き経緯であるから、被告は訴外三亞商工株式会社の原告に対する本件手形金債務を保証したものではない。仮りに原告主張の如く被告が本件手形金債務の支拂を保証したものであるとしても、それは訴外三亞商工株式会社のために保証したものであるところ、三亞商工株式会社は登記なく実在しない。從つて主たる債務者が存在しない以上保証債務成立の余地なく被告に於て支拂の責任はない。いずれにしても原告の本訴請求は失当であると陳述した。<立証省略>
三、理 由
訴外吉峰正美が三亞商工株式会社社長として原告主張の如き約束手形一通を振出したこと、並びにその手形を原告が満期日に於て支拂場所に呈示したところ支拂を拒絶されたことは両当事者間に爭がない。
よつて被告が本件手形につき右手形金債務の保証をしたかどうかについて考えてみると、証人笠原慶太郎、同山崎保一、同小林定藏の各証書並びに同証言によつて眞正に成立したものと認められる乙第一号証、成立に爭のない甲第二号証を綜合して判断すると、本件手形は訴外三亞商工株式会社が原告に対して材木運送賃金三十一万七千五百円の支拂をしないので原告が同訴外会社から運送を請負つていた訴外東北木材株式会社所有の木材千五百三十七本を荷受人である訴外汽車製造株式会社に運送引渡すことを拒み、該木材を留置すると申出たため訴外三亞商工株式会社は右未拂金を手形にて決済するよう原告に依頼したところ被告の保証があればよいという返事であつたので本件手形の保証を被告に依頼した。被告は一度はこれを拒んだけれど、同訴外会社は被告組合の組合員であつて被告組合日本橋支店とは取引もあり、又その代表者訴外吉峰正美は被告組合の常務理事笠原慶太郎とは学生時代の友人でもあり、更に原告の留置する木材千五百三十七本は被告がその所有者である訴外東北木材株式会社に対する金三百五十万円の債権に基いて一度原告の占有中これを仮差押したところ右木材の荷受人である訴外汽車製造株式会社から異議申立があつたので被告は訴外東北木材株式会社と示談の上、木材の仮差押を解いてそのまゝ汽車製造株式会社に引渡すことになつたものであつて、原告が木材を留置してその引渡を拒絶しては被告に於ても甚だ迷惑するところで、從つて木材千五百三十七本の引渡については被告組合も利害関係をもつて居る事情もあり、且つ当時訴外三亞商工株式会社は経営もうまく行つていたので、その依頼に應じて同訴外会社が手形の期日に資金が不足な場合は融資してやつてもよいという趣旨で乙第一号証の念書を作成してこれを原告に交付した。その後原告から甲第二号証の如く文句を訂正して欲しいとの申入があつたので、乙第一号証と同趣旨で原告の希望通りに訂正したものであるという事実がみとめられる。
右の事実からみれば被告の作成した乙第一号証の「念書」は、原告が本件手形の振出について訴外三亞商工株式会社との話し合いに基き材木が荷受人汽車製造株式会社に引渡されないと、被告としても訴外東北木材株式会社との取引関係に影響があるし、又訴外吉峰正美に対して厚い信用があつたので、これを援助して原告を納得させて材木を予定通り運送して貰うために作成したものであつて、若し満期日に手形金の支拂が出來ない時は、被告が融資して問題を解決してもよいという趣旨のものであつて即ち保証に外ならないものと謂わなければならない。從つて其後原告の要求に應じて甲第二号証の如く「保証する」と字句を訂正したという事実は被告主張の如くに念書の趣旨を何等変更するものではないから、被告は当然保証の責任を免れ得ないものである。証人笠原慶太郎、同山崎保一の証言中、右認定に反する部分は措信しない。
次に被告の抗弁について考えてみると、三亞商工株式会社が登記なく実在しない事については両当事者間に爭がなく、証人笠原慶太郎、同山崎保一、同小林定藏の各証言に依れば、被告が本件手形を保証した事情は既に述べた通り、單に訴外三亞商工株式会社のためになしたのみではなく自己の訴外東北木材株式会社との関係から木材が原告に留置されることにより不利益を受ける事情にあつたがためであり、又他方には訴外三亞商工株式会社社長吉峰正美と被告組合の常務理事笠原慶太郎が学校時代の友人でもあり、被告と取引もあつてその個人的信用が厚かつたことによるものであつて、訴外吉峰正美は三亞商工株式会社の他にも二、三の会社を経営していることから考えても、三亞商工株式会社は社長の吉峰正美の信用で経営している会社であつて、被告が本件手形を保証したのも三亞商工株式会社のためと言うよりむしろ社長吉峰正美のために保証したものと認められ、会社と社長の両名を全く別個のものとして考えて会社のためにのみ保証したという事実は認められない。右の事実からみれば單に三亞商工株式会社が未登記であつて、公簿上存在しないという一事をもつて直に主たる債務者が存在しないとする事は甚だしく事実に適しない皮相の見解であつて、被告は訴外吉峰正美の個人債務を保証したのと同一責任を負うべきものである。訴外三亞商工株式会社が初めより存在しない以上、本件手形振出行爲は吉峰正美個人の行爲に外ならぬものであり、民法第百十七條の法理からいつても吉峰は個人として本件手形債務を負担するものであることを考え合せなければならない。以上の如くであるから原告の被告に対する手形金三十一万七千五百円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明かな昭和二十四年十二月十七日から支拂ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支拂を求める本訴請求は理由があるから原告の請求を認容し、訴訟費用について民事訴訟法第八十九條、仮執行の宣言について同法第百九十六條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 近藤完爾 大沢達夫 渡辺忠之)