東京地方裁判所 昭和24年(ワ)475号 判決
原告 合名会社山口金属工業所
被告 志村なつ 外一名
一、主 文
被告志村なつを借主、被告高橋喜一を貸主として昭和二十二年三月二日付でなしたる、債権額金二十五万円、弁済期同年五月三日の金銭消費貸借契約及び右債権担保の為の別紙目録<省略>の表示建物に対する抵当権設定契約は、被告高橋喜一に対する関係で之を取消す。
被告高橋喜一は別紙目録表示の建物につき東京法務局板橋出張所昭和二十二年五月八日受付第四一八一号を以て同被告の為になされた、被告志村なつとの間の同年三月二日債務弁済並に抵当権設定契約による債権額金二十五万円、弁済期同年五月三日の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
原告の被告志村なつに対する請求は之を棄却する。
訴訟費用中原告と被告志村なつとの間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告高橋喜一との間に生じたものは被告高橋喜一の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、(一)被告志村なつを借主、被告高橋喜一を貸主として、昭和二十二年三月二日付でなしたる、債権額金二十五万円、弁済期同年五月三日とする金銭消費貸借契約及び右債権担保の為の別紙目録表示の建物に対する抵当権設定契約は無効であることを確認する。右請求が理由なしとせば、右金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約を被告高橋喜一に対する関係で之を取消す。(二)被告高橋喜一は主文第二項掲記の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。(三)訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、
(一) 原告は昭和二十一年十月二十二日訴外川島得治から電気銅十五噸を代金十五万円で買受ける契約をして右代金十五万円を川島に支払つたところ、川島は電気銅を引渡さないので、昭和二十二年四月二日右売買契約を合意解除して、川島は先に受取つた代金十五万円と損害金四万五千円、合計十九万五千円を同月十日迄に原告に支払うことを約し、同時に被告志村なつは川島の右金員支払債務につき連帶保証をした。しかるに右両名は期日に右債務の履行をしなかつたから原告は右債権の執行保全の為被告志村なつの所有にかかる別紙目録表示の建物に対する仮差押命令を受け同年四月十七日仮差押の登記を受けた(なお原告は同年五月十二日東京地方裁判所に右両名を相手取り右債務の履行を求める訴訟を提起して昭和二十三年五月六日勝訴の判決を受け右判決は昭和二十四年二月二十日確定したのである)。しかるに被告志村なつと高橋喜一は原告の債権の行使を妨害せんが為、右仮差押の後、相通じて、被告志村が借主、被告高橋が貸主となつて、同年三月二日債権額二十五万円、弁済期同年五月三日の金銭消費貸借契約をしたとなし、右債権担保の為と称して被告志村の唯一の資産たる前記建物を抵当物件として抵当権設定契約をなし主文第二項記載の如く同年五月八日之が抵当権設定登記を了したのであるが、被告両名の間にはもとより何等金銭の授受があつたものでなく、右消費貸借契約及び抵当権設定契約はいづれも通謀による虚偽の契約であるから無効である。よつて第一次に、被告両名に対し右各契約の無効なることの確認を求め、且右抵当権設定登記は登記原因なき無効の登記であるから、被告志村に代位し被告高橋に対し右登記の抹消登記手続を求める。
(二) 仮に右契約が仮装行為でなくて第一次の請求が理由なきものとしても、被告両名は共謀の上被告志村の唯一の資産たる前記建物(その価額金二十七万七千五百円を超えない)により優先弁済を受け一般債権者を詐害する目的を以て前記仮差押後右消費貸借及び抵当権設定契約をなしたものであつていわゆる詐害行為にあたるから、第二次に民法第四百二十四条に基き被告高橋に対し、右各契約の取消と、抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。
以上のように述べた。<立証省略>
被告志村なつの訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、原告が第一次に主張する請求原因事実はすべて認めると述べた。<立証省略>
被告高橋喜一の訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告が被告志村なつに対する仮差押命令により、その主張の日に、同被告所有の別紙目録表示の建物に対する仮差押の登記を受けたこと、被告高橋が原告の指摘する金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約に基き原告主張の如く抵当権設定登記を受けたこと及び右建物の価額が原告主張の如くであることは認めるが、その余の原告主張事実は之を争う。被告高橋が被告志村から右抵当権の設定を受けその登記をなすに至つたのは次のような事実によるものである。即ち、被告高橋は日興産業株式会社の社長として電気器具製造販売を営んでいたものであるが、右会社は昭和二十一年十月二十八日川島得治から電気銅十六噸を買受ける契約をしてその代金十六万円を川島に支払い、更に同年十二月二十日川島から電気銅六噸を買受ける契約をして同月二十八日その代金六万円を川島に支払つた。しかるに川島はその間電気銅一噸及び契約外の中古品オイルスイツチ二台(一台千円位のもの)を引渡したのみで約束通り電気銅を引渡さなかつたので、その後再三右代金の返済につき川島及び川島と同棲中の被告志村と交渉した結果、前記被告志村所有家屋より同人等が立退き代金返済に代えて右家屋を同会社に譲渡することとなつたので、同会社は川島の依頼により、昭和二十二年四月十五日、右家屋を担保に川島が訴外岩田誠より借受けていた元金九千円利息一千円合計一万円の金借債務の立替払をなし、更に立退料名義を以て同月十七日金二万五千円を川島に貸渡したのであるが、同日改めて、被告高橋は、右会社の有する債権、即ち返還すべき代金合計二十二万円、立替払金一万円、立退料二万五千円、外に電気銅引取の為再三往復させたトラツク代を損害金として七千円、以上の合計からさきに川島から引渡を受けた電気銅一噸分一万円。オイルスイツチ二台分二千円を差引いた金二十五万円の債権を被告高橋に於て譲受けることとして、川島との間に右二十五万円を元本、その弁済期を同年五月三日、契約の日附は同年三月二日として、準消費貸借契約をなし、被告志村は翌四月十八日右川島の債務に付免責的引受をなした上前記家屋に抵当権を設定し、よつて本件抵当権設定登記を受けるに至つたものである。以上の次第で本件消費貸借契約は何等仮装のものでなく、又被告高橋に於て他の債権者を詐害する事実も知らなかつたものであるから、本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
(一) 第一次の請求について。
原告の主張する金銭消費貸借及び抵当権設定契約が被告両名に於て通謀してなした仮装行為であるか否かにつき、被告志村なつは之を自白しているけれども、本件に於ける如く債権者及び債務者を共同被告としてその間の権利関係の存否につき確認を求める場合にあつては、その判断は両者合一にのみ確定すべきもので必要的共同訴訟に類するものであるから、被告高橋に於てその仮装行為なることを争う以上、被告志村の自白はその効なきものといわねばならない。而して右各契約が仮装行為なることは原告の全立証によるもその心証を得がたいから之が仮装行為で無効なることを理由とする第一次の請求はその余の事実につき判断する迄もなく失当として棄却すべきである。
(二) 被告高橋に対する第二次の請求について。
原告が被告志村なつに対しその主張のような債権を有することは成立に争のない甲第二、第四号証及び当裁判所が真正に成立したものと認める同第一号証により明らかであり、被告志村と被告高橋との間に於て昭和二十二年三月二日附で原告主張のような金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約がなされ、右契約に基き原告主張の如き抵当権設定登記のなされたことは当事者間争のないところであつて、右消費貸借契約及び抵当権設定契約がその実、原告に於て被告志村に対する債権を取得した後である昭和二十二年四月十八日頃になされたものであることは被告高橋の主張自体より推して之を認めるに十分である。而して一般に金銭の消費貸借は債務者に於て現実その債権額に相当する金員を取得する限り差引その資産に増減を来さないわけであるから、その借受金をことさら無用の用途等に徒費せんとするが如き場合でない限り、民法第四百二十四条の詐害行為に当らないものとゆうべきものであるが、証人岩堀義雄及び被告高橋喜一の各供述、右供述により真正に成立したものと認められる丙第五、六号証成立に争のない同第二号証を綜合して考えると、右金銭消費貸借契約なるものは、その実現実に金銭の授受があつたものでなく、訴外川島得治の被告高橋に対する債務を何等の対価なくして被告志村に於て引受けその形式を消費貸借契約としたものであることが認められるのであり、しかも被告志村なつ本人訊問の結果と弁論の全趣旨とによれば被告志村は本件抵当不動産の外格別の資産なく無資力の状態であることを認め得るから、右消費貸借契約は、抵当権設定契約と共に前記法条の詐害行為にあたるものとゆうべきである。而して右認定の被告志村の資産状態に、原告の債権取得、四月十七日仮差押登記のあつた事実(この事実は当事者間争がない)、前記債務引受及び抵当権設定登記等一聯の事実関係並に原告会社代表者松原勝之助の供述を綜合して考えれば、被告志村は一般債権者たる原告を害する事実を知つて前記消費貸借契約(債務引受)及び抵当権設定契約をなしたものと認むべきであつて(右認定に反する証人川島得治、被告志村なつの各供述は措信しない)、被告高橋が右詐害の事実に善意であつたことは同被告の全立証によるも之を認めるに足る心証を得ることができないから、原告は右法条に基き前記消費貸借契約及び抵当権設定契約の取消を求め得るものとゆうべきである。尤もこれより先原告の債権の執行保全の為本件不動産に対し仮差押の登記がなされている以上、被告高橋は抵当権の取得を以て原告に対抗し得ないわけであるから、原告は右抵当権設定契約によつては損害をこうむることがないように見えるけれども、右抵当権の実体上の効力につき将来紛議なきを保し難い以上、なお詐害行為として之が取消を許容すべきものといわなければならない。なお詐害行為の取消の範囲は一般債権者の債権の満足を得る程度を以てその限度とすべきは当然であり、成立に争のない甲第五号証によれば、本件抵当不動産の価額は金二十七万七千五百円を超えないものであることが認められるのであり、原告の債権額を多少超過せるものではあるが、不動産の価額の変動性をも考慮すれば、原告の債権の一般担保保全の為にはこの程度の価額の超過はあつてもなお右抵当権設定契約を全額について取消し、以てその抵当権設定登記の抹消を命ずる必要のあるものと解するのが相当である。
よつて原告の本件取消権の行使は正当であるから、前記金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約は之を取消すべく、被告高橋は右抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべき義務あるものであり、原告の第二次の請求は全部正当として認容すべきものである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決する。
(裁判官 北村良一)