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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)533号 判決

原告 久保田静江

被告 木下義太郎 外一名

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告等は原告に対し、東京都千代田区神田神保町一丁目五番地の一にある木造トタン葺三階建店舗一棟建坪十三坪外二階十三坪三階十坪四合を明渡し、かつ昭和二十三年一月十五日から昭和二十四年五月三十一日まで一カ月金八十円、同年六月一日から建物明渡ずみにいたるまで一カ月金八百円の割合による金員を支拂うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」という仮執行宣言つき(但し建物明渡の部分について)判決を求め、請求の原因として、又被告等の主張に対して、次のとおり述べた。

前示建物はもと原告の父青木才次郎の所有に属し、原告の実兄(才次郎の子)青木勇は、昭和七年二月一日これを被告木下義太郎に対し、期間を定めず、賃料一カ月百五十円(昭和十年四月一日から金八十円に減額)毎月二十八日限り支拂うという約束で賃貸した。原告は昭和二十年三月十五日才次郎から右建物を買受けて所有権を取得し、右賃貸人の地位を承継し、その後昭和二十二年七月十二日発、同月十四日着の書面で、被告木下に対し、賃貸借の解約を申入れたところ、同被告は昭和二十二年八月七日附の書面で、これに應じられないと回答してきた。そこで原告は昭和二十三年四月二日東京都富士見町簡易裁判所に、本件家屋明渡の調停申立をしたが、結局調停は不調に終つた。

ところで原告の右解約申入については、次のような正当事由がある。すなわち敗戰後の社会的経済的事情の変轉に伴い、前示建物の賃料は原告家族の一日分の生計費を賄うことすらできず、東京都千代田区役所の一吏僚にすぎない原告の夫久保田誠の收入は一家の生活を支えるに足りなかつた。かくて原告は現住する東京都中野区野方町二丁目千四百八十五番地の建物を賣却して生活の資に充てる一方、被告等から本件建物の明渡しを受け、ここに轉居して商業を営むほか、当面の窮状を打開する方策のない状態に置かれるに至つた。そこでまず、戰災によつて住居を失い、東京都内への通勤に難澁している訴外加藤俊次に対し、昭和二十二年七月六日右現住の建物を金十万円で賣渡し、次いでさきに述べたように被告木下に対し賃貸借解約の申入をした次第である。原告は現在右加藤俊次から賣渡建物の明渡を迫られているとともに、原告の夫はその後千代田区役所を辞して経済調査廳に勤務しているものの、現下の統制、査察関係の緩和等の事情によつて上司から退、轉職を勧告されており、原告等は生活不安におののいている。これに引きかえ、被告木下は東京都豊島区千川町二丁目二十五番地に木造瓦葺平家一棟建坪十三坪二合五勺及び木造瓦葺平家一棟建坪十二坪七合五勺の各建物を所有し、そのうえ原告の解約申入後、昭和二十二年十一月七日に、東京都千代田区神田神保町一丁目六十一番地の木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十坪二合六勺附属木造亞鉛葺平家建居宅一棟建坪六坪(店舗としても使用可能である)を買入れている。このように被告は住居に余裕をもつだけでなく、本件建物を賃借して以來経済的に相当の利益をあげている。かように原告の解約申入については正当事由があるのであるから、本件賃貸借契約は昭和二十三年一月十四日限り終了した。

かりに前示解約申入によつては賃貸借契約は終了しないとしても、被告木下は昭和二十三年五月三十一日從來の個人営業を廃止し、その頃被告有限会社文洋堂を設立、原告にことわりなしに、本件建物を轉貸又は賃借権を讓渡し、これを被告会社に使用させているので、原告は昭和二十四年五月十四日午前十時の本件口頭弁論期日に被告木下訴訟代理人に対し、賃貸借契約解除の意思表示をした。從つて少くともこの時には本件賃貸借契約は終了した。

しかるに被告両名は賃貸借終了後も何等の権原なくして本件建物の占有を続けて、原告の所有権を侵害し、原告に対し相当賃料額の損害を與えている。ところで、その後賃料は昭和二十二年九月一日から昭和二十三年十月十日までは一カ月金二百円、同月十一日から昭和二十四年五月三十一日までは一カ月金五百円、同年六月一日からは一カ月金八百円に増額を許されたから原告の蒙る損害は右の割合によるべきである。

よつて原告は被告等に対し、所有権にもとずいて本件家屋の明渡しを求め、かつ昭和二十三年一月十五日から昭和二十四年五月三十一日まで一カ月八十円、同年六月一日から右明渡ずみに至るまで一カ月八百円の各割合による損害金(昭和二十三年一月十四日賃貸借が終了したという原告の主張が理由ないとすれば、昭和二十三年一月十五日から昭和二十四年五月十四日までの分は賃料として請求する。)の支拂を求める。

原告は千代田区神田神保町二丁目十一番地に木造二階建一棟建坪十五坪を所有しているが、これは原告の從弟青木康雄に賃貸中の殆んど廃屋同様のものであり、家賃としては昭和二十四年一月四日金千円を一回受取つただけで、失業中の同人からそれ以上賃料をもらうことができない実状にある。

解約申入によつて賃貸借が終了した以後は賃料を受取ることができないという意思を、原告が予め明らかにしたこと、被告木下がそのいうとおり賃料の供託をしたことは、これを認める。

かように述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」という判決を求め、次のとおり答弁した。

原告のいう建物がもと青木才次郎の所有に属し、原告のいうように右建物について才次郎の子青木勇(原告の兄)と被告木下との間に賃貸借ができ、原告が賣買によつてその所有権を取得して被告木下に対する賃貸人の地位を承継したことはこれを認める。賃料は現在も一カ月金八十円である。原告から昭和二十二年七月十二日発同年七月十四日着の書面で解約の申入があり、被告木下がこれに対し昭和二十二年八月七日附書面で明渡を拒絶する旨の回答をしたこと、原告のいうように調停の申立があり、不調に終つたことは、これを認める。

原告の主張する正当事由については、原告が現住する建物を加藤俊次に賣渡したこと、加藤における事情、被告木下に対し本件建物の明渡を求めるにいたつた事情として原告がいつていることは知らない。原告の夫は、最近まで千代田区役所係長として月俸一万円余をもらつており、家族は妻外一人の三人にすぎず、そして原告は本件建物以外にも貸家をもつている。原告現住の建物について原告と加藤俊次との間に賣買契約ができたとしても、それは本件建物の明渡を求めるための仮装行爲であり。仮りにそうでないとしても、原告自ら現住する家屋を他人に賣渡して明渡を迫られる原因を作つておきながら、これを理由として被告等に対し本件建物の明渡を求めるのは、民法第一條第二項、第三項に牴触するものである。このことは次にあげる事情によつて一段と明らかである。もともと被告木下は今から十八年前附近一帶の景気が不振の当時、本件家屋を賃借し、家主の要求に從つて疊、建具等の造作代として金一万円を支拂い、その後家屋の修繕を頼んでも一度もきき容れてもらえなかつたので、昭和九年に金二千円(店舗の造作及び便所の移轉費用)同十年に金五百円(水洗便所の改造及び下水設備費用)及び金二千五百円(屋根、柱及び土台の修繕費用)昭和十八年に金二千円(店舗改造費用)同年秋頃金二万円(土台及び柱の修繕費用)合計五万六千五百円の費用を自ら支弁することを余議なくされた。そして昭和二十年中附近一帶が空襲に見舞われるや、被告木下は消防団員とともに身をもつて防衛にあたり、昭和二十年終戰となつてからは、從來のクリーニング業を廃止して文房具販賣業に轉換、漸く今日の盛業を見るにいたつた。被告木下が豊島区千川町二丁目二十五番地に原告のいう二戸の建物を所有していることは事実であるが、これらは訴外国井某、及び岡崎某に賃貸しており、その明渡を求めることは事実上も法律上も不可能である。被告木下が原告のいう神田神保町の建物を買入れたことも事実であるが、文房具を保管する場所がないので倉庫代用として買入れ、その目的に供しているものであつて、所謂有閑家屋ではない。以上のような事情であるから、原告の解約申入は正当事由を欠くものといわねばならぬ。

次に被告有限会社文洋堂のことについては、被告木下がこれを設立し、被告会社が原告のいう頃から本件建物を占有していることは認めるが、被告木下と被告会社との間の無断轉貸借又は無断賃借権讓渡の事実は否認する。被告有限会社を設立したのは、税務署から、個人営業の帳簿は信用し難いからとて、課税の都合上会社組織とすることを勧められたによるものであり、形式をととのえる必要上、被告木下の親戚又は知人である訴外安川、古平、木村、諸岡及び名村の氏名を借りて会社組織とはしたものの、商号は從來被告木下が使用していたものをそのまま用い、右代表者となつた被告木下は依然として事業の全般を掌握しているのであつて、会社の実体は被告木下の個人事業である。從つて被告会社が本件建物を使用していることを理由として賃貸借契約を解除することは許されない。

原告の金員の請求については、原告は解約申入によつて賃貸借が終了した以後は賃料としては受取ることができないという意思を予め明らかにしていたので、被告木下は、昭和二十三年一月八日に昭和二十三年二月末日まで一年分の賃料を月八十円の割合で昭和二十三年六月七日に昭和二十四年二月末日まで一年分の賃料を同じ割合で、昭和二十四年一月二十四日に昭和二十五年二月末日まで一年分の賃料を同じ割合で供託し、右期間の賃料債務は消滅したから、原告の賃料支拂の請求は失当であり、そして賃貸借が存続している以上原告等の損害金の請求も理由がない。

かように述べた。<立証省略>

三、理  由

本件建物がもと青木才次郎の所有に属し、原告のいうように、才次郎の子青木勇(原告の兄)と被告木下との間に右建物の賃貸借契約ができ、その後原告がこれを買受け所有権を取得して、賃貸人の地位を承継したこと、原告が昭和二十二年七月十二日発同月十四日着の書面で被告木下に対し右賃貸借解約の申入をしたこと、被告木下がこれに対し、昭和二十二年八月七日附書面で、明渡を拒むという回答をしたことは、当事者間に爭いがない。

よつて右賃貸借の解約申入について正当事由があるかどうかを判断する。甲第八号証、第十号証、第十四号証乙第三号証(眞正にできたことについて爭いがない。)と証人青木才次郎の証言、原告本人訊問の結果とを合せ考えると、次の事実を認めることができる。原告の父青木才次郎はもと多額納税者であり原告(明治四十四年生)は夫久保田誠(やはり明治四十四年生)に嫁して後も、実家から財政的援助を受けて豊かな生活を営んできたが、敗戰後農地改革によつて才次郎は経済的に没落し、原告はもはや実家からの援助を期待することができなくなつた。原告の夫誠は月收一万余円で勤めていた千代田区役所を最近やめて経済調査廳に轉じたが、妻と養母とを抱えて月收金八千六百円余にすぎず、本件建物の賃貸料は生計の助けとはならなくなつたのに、本件建物に対する昭和二十四年度の家屋税は金五千四百六円に達し、本件家屋は原告にとつてむしろ重荷と化した。原告は神田神保町にほかにも貸家をもつているが、借家人が生活にこまつているために最近は家賃があがらず、これも生活の助けになつていない。ここにおいて、原告は東京都中野区野方町二丁目千四百八十五番地の現住建物を賣却して資金の余裕を得、他方被告木下居住の本件建物の明渡を受け、そこに移り住んで商業を営み生活を建て直そうと方針を立て、その手始めとして、戰災で住居を失つて市川市に間借りしている原告の從弟加藤俊次に前記原告居住の建物を賣渡すにいたつた。そして前記解約申入は以上の計画のもとになされた。かように認めることができ、反対の証拠、原告と加藤間の賣買契約が仮装行爲であることを認めることができる証拠はない。

以上の事実を原告が解約申入の正当事由とすることについては現下の諸事情から考えてさまざまな疑問が起るが、被告側の事情如何によつてやはり正当事由となるであろうから、ここで被告側の事情について考える。

乙第六号証の一、二(被告本人訊問の結果によつて眞正にできたものと認められる。)と証人吉田卯之吉の証言被告本人訊問の結果によると、次の事実を認めることができる。被告木下は前記の日に、もと喫茶店になつていた本件建物を、造作権利金(店舗改造費用)一万円及び敷金十カ月分を青木勇に支拂つて賃借し、その後一、二年して雨漏りがし、家主に修繕を頼んだがきいてもらえなかつたので、自ら二回にわたつて修理をし、それぞれ金五、六百円を支出し、昭和十八年及び昭和二十三年の二回にわたつて、柱の根継ぎをして金二万円を支出し、要するに本件建物の賃借人として本件建物に相当の費用をつぎこんで、営業の確立をはかり、昭和二十年中空襲を受け、本件建物の近くまで燃えてきた際は、消防団員とともに消火に努め、そして終戰後はよぎない事故のため從來営んでいたクリーニング業を廃止して、現在の文房具商に轉換し、漸くにして今日の盛業をかち得るに至つた。被告木下が東京都豊島区千川町二丁目二十五番地にもつている二戸の建物(これをもつていることには爭いがない。)は、国井某及び岡崎某に賃貸していて、被告木下自ら使うことはできない。又本件賃貸借解約申入後被告木下が千代田区神田神保町にある原告のいう建物を買入れたのは(この買入の事実については爭いがない。)被告木下が文房具保管用の倉庫を建設するために借地を物色中、たまたま賣家として右建物があることを知らされたので、倉庫用としてこれを購入したのであつて、右建物は文房具保管場所として必要であるのみならず、奥まつた所であつて商賣には全然向かない。そして被告木下は本件建物のほかには営業できるような所をもつていない。かように認めることができる。

以上認定の事情のもとにおいて、正当事由ありといえるかどうかを考える。他人に貸してある建物が財産としてあまり値打ないものになつていることは、戰争中から戰後にかけての複雑変則な経済事情のもとに国がやむをえない措置としてとつている基本政策にもとずくものであつて、家主に気の毒なことではあるが、経済が復興するまではある程度忍んでもらわなければならないことである。但し家賃が地代や家屋税にも足りなくなるというような結果になることは、許された範囲内で家賃を値上げすることによつて避けることができるであろう。以上のことを原告はまず考えなければならない。原告の夫の月收八千六百余円といえばあまり多いとはいえない。家計の苦労のほどは思いやられる。しかし原告自身も全然仕事をすることができないというわけではないし、それに原告のいわゆる家族(原告の夫が日々その生活に責任をもたねばならぬ親族)は原告と原告の夫の養母だけである。生活難、耐乏は国民全部が負わされているきびしい現実である。親子夫婦相携えて死を急ぐいたましい現象が跡をたたない今日、原告の生活苦はまだ始末がよい方だといえないであろうか。しかし正当事由ありや否は、さきにも述べたとおり被告側の事情にもよることである。ところで被告は多くのぎせいを拂つて本件建物における文房具商の基礎を確立したのであり、本件建物を追立てられたが最後、さし当り営業は根底から破壊されるのである。原告のこまる事情を被告側の右事情と対比して考えると、原告が生活の轉換を考えなければならないとすれば、被告等に本件建物を明けてもらつてそこで商賣をするという方法以外の方法を工夫してもらいたいと訴えざるを得ないのである。原告は加藤から現住建物の明渡を求められて行き場所がないというが、かりにそうであるとしても、原告は住家を賣つたのであるから、賣る際に住居のことは適当に処置しておくべきであつたのであり、これをしないままで賣つて加藤から明渡を求められているとすれば、それは原告が自ら招いた結果であつて、これを明渡の正当事由として取り上げるのは適当でない。又原告は、原告の夫は近く失職するであろうというが、さようなことについてははつきりした証拠がないのみならず、中小企業が相ついで没落して行く今日、国民の多くは失職の危險にさらされながら働いているということができ、万一失職したらまだ若い原告及びその夫は困難な中にも何とか生活の道を見出さなければならないと要求することは、それほど無理なこととは思われないから、將來の失職のおそれを持ち出して正当事由の資料とすることも、あまり妥当でない。原告が相当こまつているに引換え被告は本件建物でかなり盛んに商賣をしており、その点原告に気の毒ではあるが、本件についてはまだ解約申入の正当事由ありとはいえない。

次に被告木下の無断轉貸又は無断賃借権譲渡を理由とする契約解除の点について判断する。

原告が昭和二十三年五月三十一日從來の個人営業を廃止し、その頃有限会社文洋堂を設立したことは、当事者間に爭いがない。ところで乙第七号証の一乃至五(証人古平源次の証言、被告木下本人訊問の結果によつて眞正にできたものと認められる。)甲第十一号証の一、二第十二号証(眞正にできたことについて爭いがない。)と証人古平源次、小林良一の各証言、被告木下本人訊問の結果とを合せ考えると、被告木下は課税の適正な査定を受けるためには、個人営業による帳簿よりは、会社組織によるそれを備えた方がよいと考え、親戚知人と相談し、その氏名を借りて名義上持分権者にすると同時に、白紙委任状をもらつておき、ともかくも形の上で有限会社文洋堂を設立したが会社の商号は、從來の商号「文洋堂」をそのまま用い、社員には一切利益配当及び報酬を考えず、業務全般を自ら掌握しており、会社設立前後を通じて本件建物で働いている者は同じであり、その他本件建物の使用状態は会社成立後も全然変つていない。即ち経営の実体は前後を通じて同一である、ということが認められる。かような場合には、社会の通念は、被告木下個人の営業と被告会社の営業とは、法律上はとにかく、社会経済上は同一であるとみるのであろう。さて民法第六一二條は、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を基礎として設けられた規定である。本件のような場合はこの信頼関係を破るものとは考えられないから、原告の承諾を得なければならない場合には当らず、原告は無断の轉貸又は賃借権讓渡を理由として賃貸借を解除することはできないし、被告会社は本件建物を使用して差支ないとするのが相当である。從つて原告のした本件賃貸借解除の意思表示によつては解除の効果は生ぜず、この点に関する原告の主張も、これを採用することができない。

賃貸借が終了しない以上、原告のいうような損害賠償債権が生ずるはずはないが、賃料の請求は如何というに、解約申入によつて賃貸借が終了した以後は賃料を受取ることができないという意思を、原告が予め明らかにしていたこと、被告木下がそのいうとおり賃料の供託をしたことは、当事者間に爭いがないから、原告が予備的に賃料の支拂を求める昭和二十三年一月十五日から昭和二十四年五月十四日までの期間の賃料債権は、消滅したものといわなければならない。この点について、原告は「本件建物については昭和二十二年九月一日から昭和二十三年十月十日までは一カ月二百円に、同月十一日から昭和二十四年五月三十一日までは一カ月五百円に、同年六月一日からは一カ月八百円に賃料増額を許されたから、本件建物の賃料は右の通り上つた。」というが、法律上増額を許されたからといつて、当然賃料が上るわけのものではないから、原告のいうところは理由がない。原告の賃料の請求は失当である。

原告の請求はすべて失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 新村義廣)

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