大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(行)107号 判決

原告 財団法人朝連学園

被告 文部大臣

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人等は「被告が原告に対して昭和二十四年十一月五日附でなした設立許可の取消はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め請求の原因として、

一、原告は主務官庁たる被告から、昭和二十四年二月二十八日附で民法第三十四条により設立を許可せられた財団法人であつて、朝鮮人に対して義務教育を施すことを目的とし、別紙目録第一表示の諸校を設置経営して来たが、同年十一月五日、被告から右設立の許可を取消された。

二、右取消処分は形式上瑕疵があるから取消さるべきものである。本件処分は「民法第七十一条により財団法人朝連学園の設立許可を取消す。」との書面によつてなされた。然し民法第七十一条はその要件として、(1)法人がその目的以外の事業をなし、(2)又は設立の許可を得たる条件に違反し、(3)その他公益を害すべき行為をなす、との三理由をあげている。本件による取消処分をなす場合には、右のいずれの理由に該当するとして、取消すのかが示されなければならない。単に「民法第七十一条により取消す。」とのみでは「民法により取消す。」「法律により取消す。」というに等しく、かかる恣意的な行政処分は法治国家、殊に現行憲法下において到底容認し難い。すなわち取消該当理由を示さぬ本件処分は形式的要件を欠くものとして無効であり、従つて取消の対象たるべきものである。

三、本件処分は実質上も理由がないものとして取消さるべきである。民法第七十一条による取消処分は前記三事由の中少くともそのいずれか一つに該当する事実の裏付けがなければ適法でないのであるが、原告法人には取消事由に該当する何等の事実も存しない。のみならず、原告は、前記諸校について、監督庁たる大阪府知事から、昭和二十四年十月十九日附で通告があつたのに応じて、(1)学校、学校管理組合、原告法人等学校関係の一切の名称から当時解散した朝鮮人連盟(以下朝運という。)を想起させるような字句を削除せよ、との指示に従い、財団法人朝連学園を財団法人大阪朝鮮学園と改称し、個々の学校、学校管理組合もこれに準じ、(2)原告法人を朝連と無関係な法人に改組せよとの指示に従い、理事の総改選をなし、又学校職員も、指示に従つて、旧朝連構成員が総数の四分の一を超えぬよう措置し、(3)寄附行為も逐一指示に従つて変更作成し、被告宛変更認可申請書を提出した外、通告による指示事項の一切について期限までに完了し、(4)また昭和二十四年十月十九日の口頭による通知に従い、新たに財団法人基本金七十五万円を積立てた。被告はかように指示のすべてを履践して来た原告法人に対して今回の挙に出たのであるから、その処分の不当なるは明らかである。故に本件取消処分は取消さるべきである。

と述べ、「右の積立金七十五万円が昭和二十四年十一月五日に払戻されたことは認めるが、それは当日原告法人設立許可の取消があつたので、解散団体の財産として没収される虞れがあつたためである。」と附陳した。(立証省略)

被告指定代理人等は主文第一項同旨の判決を求め、事実上の答弁として、

一、請求原因第一項は認める。

同第二項中、本件処分が原告主張のような内容の書面によつてなされたことは認める。然し処分の理由を書面上明かにすることは法令上要求せられていないから、民法第七十一条にもとずく取消処分であることを示した以上処分には形式上の瑕疵はない。のみならず、昭和二十四年十一月五日、大阪府総務部長から原告代表者に対して右理由の通告がなされているから、この点からも原告主張はあたつていない。

同第三項中、昭和二十四年十月十九日附で大阪府知事から原告法人に対し、原告主張のような指示を内容とする通告があつたこと、これに応じて原告が(1)(3)(4)等の措置をなしたことは認めるが、(2)の措置をなしたことは否認する。

原告法人には次に述べるように民法第七十一条該当事由が存在したのであるから、原告の主張はあたらない。

二、教育諸法令の違反。

原告法人は教育基本法、学校教育法等の教育諸法令に従い義務教育を行う小中学校の設置及び経営を目的とする公益法人としてその設立を許可せられたものである。従つて、これらの学校における教育が右の諸法令を遵守して実施されねばならないのは当然で、設立許可はこれを条件として与えられたものである。また義務教育課程は国民教育の根本であるから、この課程が正しく行われるかどうかは一般に対する影響が大きく公益に関することであるといわねばならぬ。然るに原告法人並びにその設置経営する諸校は以下列挙するように教育諸法令を蹂躙しているので、これは原告法人設立の許可の条件に違反し、又公益を害する行為といわねばならない。

(1)  教科用図書使用に関する違反。

学校教育法第二十一条第一項、第四十条、同法施行規則第二十九条、第五十五条の規定によると、小学校及び中学校では、監督庁たる文部大臣の検定若くは認可を経た教科用図書又は文部大臣が著作権を有する教科用図書を使用しなければならない。然るに原告法人の設置経営にかかる三十二校(別紙目録第一、第二)中、正規の教科用図書を全教科目について完全に使用していた学校は一つもない。

(2)  学習指導要領違反。

学校教育法第二十条、第三十八条、同法施行規則第二十四条、第二十五条、第五十四条、第五十五条によると、小学校及び中学校における教科課程、教科内容及びその取扱いについては学習指導要領の基準によらねばならない。然るに前記三十二校中には右基準に従わなかつた例がある。

(イ)  学習指導要領一般篇第三章は教科種目、配当時間数及びその取扱い等についての基準を設けているが、東成小学校他五校においてその違反事実が認められた。

(ロ)  同第一章一、3は学習指導が日本語でなされることを要求しているが、東成小学校他十九校において、朝鮮語による指導が認められた。

(3)  学籍簿備付違反。

学校教育法第三条、同法施行規則第十五条第一項第四号によると、学校は学籍簿を備え付けねばならない。然るに昭和二十四年度において、前記三十二校の中、布施小学校を除いて、他はすべて学籍簿の備付がなかつた。

(4)  無認可学校の設置経営。

学校教育法第四条によると、学校の設置は監督庁の認可を受けなければならない。然るに原告法人は認可を受けることなく、別紙目録第二表示の八校を設置経営していた。

三、反平和主義的非民主主義的団体たること。

原告法人は前記のように、教育活動を目的とする公益法人であるから、教育基本法の前文からも分るとおり、その存立が許されるためには、その実体が平和的且つ民主的団体であることを必要とする故に原告法人に対する設立の許可は、原告法人が組織その他において右の要件を充足することを前提として与えられたものである。然るに原告法人は従来その理事及び監事の全部が団体等規正令第四条によつて解散させられた朝連又は在日本朝鮮民主青年同盟(以下民青という。)の構成員だつたものであり、原告主張の改組後においても、理事十二名中六名、監事三名中一名は朝連構成員だつたものであり、しかも原告法人の寄附行為第十五条によると理事は大阪府知事の認可を受けて就任することになつているが、改組後の理事の就任には府知事の認可はなかつたから、昭和二十四年十一月五日当時においては、依然従来の理事が職務を行つていたのであり、従つて、監事中二名を除く役員全部が朝連構成員だつたこととなる。故に原告法人は反平和主義的非民主主義的団体として、設立許可の条件に違反していたものである。かりに改組後の理事の就任について府知事の認可が与えられていたとしても、役員十五名中七名が朝連構成員だつたものであるから、やはり反平和主義的非民主主義的団体ということができる。

四、基本財産の欠缺。

明治三十二年文部省令第三十九号文部大臣の主管に属する法人の設立及び監督に関する規定第一条、第二条及び第五条によると、学校の設置を許される法人は、設立許可を得た時は遅滞なく、許可申請の際提出した財産目録の財産の移転を受け、移転後一ケ月内にこれを証する書面と共にその旨を文部大臣に報告せねばならず、その財産中特に基本財産については普通財産から区別し、その処分に文部大臣の承認を得ねばならない。学校法人の財産特に基本財産がかように重要視されるのに徴しても、その保持充実は設立許可に当つて当然その条件になつているものといわねばならない。然るに原告法人は設立認可後九ケ月近くなるまで寄附行為中基本財産と定められている金七十五万円を保有するに至らなかつたのであるから、許可の条件に違反したというべきである。後に原告法人は一旦金七十五万円を積立てたが、昭和二十四年十一月五日に払戻してしまつたものである。(立証省略)

三、理  由

一、昭和二十四年二月二十八日被告が原告法人の設立を許可したこと、原告が別紙目録第一表示の諸校を設置経営して来たこと、同年十一月五日被告が右許可を取消したことは当事者間に争いがない。よつて右取消の処分が原告主張のように取消さるべきものであるかどうかを判断する。

二、先ず形式上の瑕疵について考察する。本件取消処分にはそれが民法第七十一条所定の理由のいずれに該当するとしてなされたものであるかの説明がなかつたとの原告主張に対し、被告は右理由は昭和二十四年十一月五日大阪府総務部長から原告代表者に対して口頭で通告せられたと争うけれども、これを認めるに足る証拠はない。そして処分のなされた書面の記載が「民法第七十一条により設立の許可を取消す。」とあるのみで、理由を示していなかつたことは当事者間に争いがない。よつて理由を附さなかつたことが本件処分を瑕疵あるものとしたかどうかについて案ずるに、行政処分にあたり理由を附さないことがその処分に瑕疵をあたえる場合の存することは疑いがないが、それらの場合には、その処分の根拠となる法案において、例えば温泉法第四条に見るように理由を附すべきことを明文を以て要求しているのが通例である。ところが民法第七十一条は特にそのことを要求してはいない。故に理由を示さなかつたことを以て直ちに形式上瑕疵ありとし本件処分を無効とする原告の主張は失当である。

三、よつて進んで本件処分が実質上不当であるかどうかについて、被告のあげる各事実を逐次検討する。先ず教育諸法令違反としてあげられる事実中教科用図書使用に関する違反については、上田証人の証言により成立を認める乙第十二号証の一ないし十六並びに弁論の全趣旨から成立を認める同号証の十七によつて、教科書特約供給所からの供給状況を見るに、原告法人経営の諸校の中、福島小学校においては一年ないし四年、鶴橋小学校においては三年及び五年、布施小学校、岸和田小学校、寝屋川小学校、堺小学校並びに大阪朝鮮中学校附属小学校において各一年ないし六年、大阪朝鮮中学校において一年ないし三年、右各学年にはそれぞれ国語教科書が購入せられたこと、大阪朝鮮中学校では他に数学及び科学の教科書を各学年用に購入していること、堺小学校でも他に算数、音楽、社会等の教科書が購入されているが、いずれも各学年につき一冊以上でなく、従つて教師の参考用となつたに過ぎないと考えられること、以上の諸校では右以外の教科書を購入していないこと、田島、北、舎利寺、御幸森、東成学園、城東、港の各校では全然教科書を購入した形跡のないことが、吉見証人、秋山証人の各証言によつて、これら特約供給店から購入する他に正規の教科書の新品を入手するルートはないことが、吉見証人の証言によつて、鶴橋小学校から他校に転入学した児童が教科書を持つていなかつたことが、それぞれ認められ、これら認定事実と弁論の全趣旨によつて成立を認め得る乙第十四号証とを綜合すると、右諸校では、右に列挙した以外には正規の教科書を授業に使用しなかつたのであると認めることができ、更に右乙第十四号証により、右諸校以外の原告法人経営の諸校では全然正規の教科書が使用されなかつたと推認することができる。小学校、中学校においては正規の教科用図書を使用すべきことは学校教育法第二十一条、第四十条、同法施行規則第二十九条、第五十五条に規定するところである。前認定の事実は右法令の違反であるといわねばならない。

四、次に学習指導要領違反については、成立に争いない乙第一号証並びに吉見、秋山、上田各証人の証言を綜合して、指導要領一般篇第三章所定の時間数の遵守状態を見るに、昭和二十四年九月ないし十一月頃において、東成学園校一年B組では一週五時間あるべき国語の時間がなく、社会が三時間不足し、朝鮮語が正課となつている。城東校五年では国語が三時間以上不足し、社会は五時間のところ一時間しかなく、しかも社会に入るべき地理、歴史がそのまま残つており、英語、朝鮮語が正課になつている。布施校六年一組も国語が三時間不足し、地理、歴史があり英語が正課になつている。東淀川校では一年、六年に国語の時間なく、二年ないし五年では三時間宛不足している等の諸事実、又指導要領一般篇第一章一、3に要求される国語能力の獲得への配慮の状態を見るに、舎利寺校では朝鮮語で算数を教えていたのを初め、上記各校の外、港、泉北、寝屋川等の各校において他の科目の授業に朝鮮語が用いられ、岸和田校では時間割迄朝鮮文字で書かれていた事実がそれぞれ認められる。学校教育法第二十条、同法施行規則第二十四条殊に第二十五条により、小学校の教科課程等については学習指導要領の基準に従うべきものであるから、前認定の事実は右法令の違反である。

五、次に三好証人の証言により、原告法人経営の諸校中学籍簿が備え付けられていたのは布施校のみであつたと認めることができる。学校教育法第三条、同法施行規則第十五条により、学籍簿は各学校が備え付けねばならない表簿であるから、右の事実は右法令の違反である。

六、次に大阪朝鮮高等学校以下別紙目録第二表示の八校が監督庁の認可を受けていないとの被告主張は原告の明らかに争わぬところであるから、これを自白したものとみなす。学校教育法第四条によれば、学校の設置は認可を要するから、右自白事実は右法令の違反である。

七、原告法人が朝鮮人に対して義務教育を与えることを目的とする公益法人として設立を認可せられたのであることは当事者間に争いのないところである。従つて原告法人は教育基本法、学校教育法等を遵守するのが当然であり、設立の許可はもとよりこれを前提として与えられたと解すべきところ、原告法人の設置経営する諸学校の実態は前段まで考察したようであつて、教育諸法令に違反している。このことは原告法人設立許可の条件に違反したものということができる。また義務教育課程の有する公共的意義に注目すれば、自己の経営する小中学校において教科課程のかかる乱脈を許した原告法人の行為は公益に反するところがあるというも必ずしも過言ではない。

八、更に案ずるに、成立に争いない乙第十一号証の二、三並びに秋山証人の証言を綜合すると、原告法人の役員改選は昭和二十四年十月二十二日に行われたが、改選前の役員は朝連、民青の幹部級の人物ばかりであつたこと、改選後も役員十五名中六名は幹部ではないが朝連構成員であつたことを認めることができる。しかも乙第十一号証の二(原告法人寄附行為)の第十五条によると理事は大阪府知事の承諾を受けて後就任することになつているが、公文書としてその真正を推定するに足る乙第十六号証によれば、改選後の新理事についての就任認可申請書は昭和二十四年十一月二日に提出されているが、これに対する府知事の承認は同月五日当時はまだなされていなかつたと認められるから、本件取消処分の当時原告法人の理由は旧理事であつたといわねばならない。朝連、民青はいずれも反平和主義的団体として団体等規正令の適用を受けて解散せしめられたことは公知の事実であるから、かかる団体の幹部だつた者が理事の職にあることは、やがてその団体自体も反平和主義的色彩を有するものと考えられることになり、これは教育を目的とする団体として設立を許可せられた原告法人にとつては、許可の前提条件に違反するものといわなければならない。

九、先に示した教育諸法令違反の事実によるも、この反平和主義団体と目される事実によるも、原告法人が設立の許可を与えられた条件に違反したことは明らかである。故にその他の被告主張にふれるまでもなく、民法第七十一条により設立許可を取消した被告の処分は理由あるものといえる。

一〇、然しながら原告は更に本件処分直前の事情を述べて原告の処分の不当苛酷を難ずるので、これについて考えるに、昭和二十四年十月十九日、原告法人経営の諸校につき大阪府知事から指示があり、原告はこれに応じて学校関係の名称を変更し寄附行為も変更作成し基本金七十五万円を積立てる等指示を履践したことは被告も認めるところである。成立に争いない甲第五号証によれば、右通告による期限は二週間後の十一月二日であるが、秋山証人の証言によれば、一通りの書類がそろつたのは当日午後六時であつたという。原告法人側としてはこの通告を死活問題と観じ拮据経営して漸く間に合せたのであり、それだけに、それから僅か三日後の本件取消処分に対しては、心外な思いであり、憤激も覚えたであろうと想像される。秋山証人の証言によると、同証人は書類を携えて課長と共に二日夜東京に向い、翌三日は文化の日として休日であるのに拘らず文部省において書類を審査し、五日の先日付で本件取消処分の書面を受領し、即夜離京していることが認められ、何等か急迫の事情が存したことを推認するに難からず、何が故に十数日前の通告を発したのかと疑わしめる点もないではない。又新理事の就任につき十一月二日承認申請書が提出されているのに、それから三日しかたたぬ本件処分当時まだ承認がないからといつて旧理事を以て律するというのは原告側の改組への努力を無視することになるといえるかも知れない。然しながら原告が通告による指示を完全に履践していたのであればそういう原告の憤慨も多分に尤もであろうが、監督庁としては恐らく名称、寄附行為よりも遙かに重視していたと考えられる役員の改選において、指示に従い朝連構成員を排除したといいえない結果になつていることは前認定のとおりである。たとえ府知事が新理事就任を承認していたとしても、新理事の下にも本件取消処分はなお正当と認めえたであろう。朝鮮人学校に関する前引用の証言のあるものが十一月下旬における視察によるものであることも考え合せるべきである。これを要するに、通告指示を履践した故に本件処分を不当なりとする原告主張は採用することができない。

一一、以上の判断により本件被告の処分は正当であつて、取消さるべきものではない。よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用は敗訴者である原告の負担として主文の通り判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 倉田卓次)

(目録省略)

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