東京地方裁判所 昭和24年(行)51号 判決
原告 財団法人度量衡会館
被告 通商産業大臣
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、原告がさきに製作した温度計百個について昭和二十四年五月十三日、当時の商工大臣に対してなした檢定請求につき同大臣が同日当時の商工省中央度量衡檢定所をしてなさしめた同檢定拒絶の処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。
三、事 実
原告は昭和十五年五月二十四日、主務官廳である文部大臣の許可を受けて設立せられた財団法人であつて、度量衡その他計量に関する社会教育を行い、国民生活の合理化を図ることを目的とし、この目的を達するため現在の寄附行爲所定の
(一) 会館を維持経営し本法人の目的を達するに相当なりと認むる講演会、講習会、展覧会その他の集会に供用し又は自らこの種集会を開催すること。
(二) 度量衡及び計量に関する図書参考品等を蒐集し展示閲覧に供すること。
(三) 国民生活の科学化を図るに適切な計量用具の斡旋をなし、又は之が檢査の需めに應ずること。
(四) 計量科学研究所を経営し、適切なる試驗用若は実驗用器具及び機械又は教具その他計量用具類の研究製作及び頒布並びに技術員の指導をなすこと。
等の事業を行つているのであるが、原告は右の(三)及び(四)の事業を行うに当つて、昭和二十四年五月十三日原告が曩に製作した温度計(目盛攝氏度三十五度以上四十二度以下の体温計)百個について当時の檢定機関である商工大臣の檢定を受けるため、度量衡法施行細則所定の檢定請求書に現品を添え中央度量衡檢定所に提出したところ、当時の商工大臣は同檢定所をして同日原告の右檢定請求を拒絶させた。
しかしながら度量衡法第七條には度量衡器を製作輸入移入又は修覆した者はその檢定を受くべき旨規定せられ、この規定は度量衡器がその免許営業者の製作によると否と或は国家又は公共国体のような公法人が、その事業に供するため製作したものと否と將又原告のような公益法人がその目的事業遂行のために製作したると否とを問わず、いやしくもその檢定請求あるときは、つねに必らず檢定をしなければならない趣旨と解すべきである。しかして度量衡法第二十條は、右第七條の規定を勅令を以て定める計量器にこれを準用する旨規定し、同法施行令第一條の四の規定によれば物体の膨脹により温度計は度量衡法第二十條に定める計量器の一種であることが明らかであるから、原告製作の前記温度計には度量衡法第七條の規定の準用があること勿論である。よつて前記のように原告が中央度量衡檢定所に対して差出した前記温度計につき当時の商工大臣はその檢定をなすべきであるにかゝわらず、即時その檢定を拒否したのは度量衡法の解釈を誤つた違法の処分と謂わねばならない。しかして昭和二十四年五月三十一日商工省の廃止と通商産業省の設置に伴い、商工大臣の職務権限は通商産業大臣においてこれを承継するに至つたので、茲に原告は被告に対し本件温度計の檢定請求拒絶の処分の取消を求めるためこの訴提起に及んだ次第であると陳述し、被告の答弁に対し、原告の寄附行爲の目的に定めてある計量用具類とは度量衡法にいわゆる度量衡器及び同法の適用を受けるその他の計量器をも当然包含するものであるから、原告が一般計量用具類を製作及び頒布する業務は原告の寄附行爲の目的の範囲内に属する行爲であつて、正当な業務であるのみならず原告は右のように製作した計量用具類はこれを主として試驗用、家庭用の分野に頒布しており、その價格は工場製作原價に実費を加算した額を以てこれにあてゝいるのであつて、固より営利の目的を以てしているものでないと述べた。(立証省略)
被告指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として原告の主張事実中原告が昭和十五年五月二十四日主務官廳たる文部大臣の許可を受けて設立せられた財団法人であつて、その主張するような目的の下に現在原告の主張するような事業を行つていること、原告が昭和二十四年五月十三日中央度量衡檢定所に対し原告の主張するような温度計百個を差出して当時の檢定機関たる商工大臣に檢定請求をしたところ、同大臣は同日同檢定所をして口頭でその檢定を拒絶させたことはいずれもこれを認める。しかしながら商工大臣のなした右の処分は次の理由により違法でない。
即ち、度量衡法第七條は度量衡器を製作、輸入、移入又は修覆したる者は原則としてその檢定を受くべき旨規定しているのであつて、この規定によれば一般に度量衡器を製作したものは、その営業にかゝる場合たると又営業による場合であつても、その免許を受けたると否とを問わず廣くその檢定を受けなければならない趣旨と解すべきが如くであるけれども、更に同法第六條によれば度量衡器の製作修覆又は販賣の業を営まんとするものは、行政官廳の免許を受くべきことゝせられているのであるから、同法第七條はこれを同法第六條と関連させて解釈すべきであり、営業として度量衡器又は計量器を製作するものがその檢定を受けようとするときは、予め営業の免許を要するものと解さねばならない。よつて行政官廳の免許を受けることなく、度量衡器の製作修覆販賣を営業とするものはその製作した度量衡についての檢定を受けることが出來ないものと解すべきである。しかして
(一) 原告の代表者理事北條時恒は原告の理事長としてその事業を行うに当り、度量衡法第六條所定の営業の免許を受けることなく、会員組織による頒布の名目の下に実質上皿自動秤体温計等数種の度量衡器及び計量器の製作修覆販賣の業務を営んでいたため、昭和二十一年九月二日当時の商工省工務局長からその行爲について、東京区裁判所上席檢事に対し度量衡法及び價格統制令違反として告発せられたので、同裁判所檢事の起訴するところとなり、結局原告は昭和二十四年四月十六日東京簡易裁判所において度量衡法第六條、第二十條違反として罰金五百円に処せられたことがあり、
(二) 原告は專ら体温計を製作し、これを賣捌くため昭和二十四年初め乙第一号証のような「最高級体温計の特別頒布に就て御協力御願の件」と題するビラを多数の学校諸官廳、団体事業場等に配布してその注文を受け、これを一般檢定済体温計の小賣價格と同様の價格を以て販賣したのであつて、その規模及び利潤においては何等普通販賣と異るところがない。
右のような事実から推せば、原告は度量衡器及び計量器の製作頒布を営業としてゐるものであり、それにもかゝわらず原告はその寄附行爲の目的につき單に公益法人として文部省の認可を得ただけでありその営業免許について度量衡法所定の行政官廳の免許を得ていないのであるから、その製作した度量衡器計量器についてその檢定を受けることが出來ないものと謂わねばならない、よつて原告の本件温度計の檢定請求に対し当時の檢定機関たる商工大臣が中央度量衡檢定所をしてこれを拒絶させた行爲は違法ではないと述べた。(立証省略)
四、理 由
原告が昭和十五年五月二十四日主務官廳である文部大臣の許可を受けて設立された財団法人であつて、原告の主張するような目的をもち、その達成のため原告主張のような事業を行つていること、原告が昭和二十四年五月十三日中央度量衡檢定所に対し本件温度計百個を差出して当時の商工大臣の檢定を求めたところ、同大臣は同日右檢定所をして口頭でその檢定を拒絶させたことはいずれも当時者間に爭がない。
そこで先づ度量衡法は同法第六條に違反する無免許営業者に対しても同法第七條の規定により、度量衡器等の檢定を受くべきものとする趣旨であるか否の点について考えるに、度量衡法第七條には「度量衡器ヲ製作、輸入、移入又ハ修覆シタル者ハ命令ヲ以テ定ムルモノヲ除ク外其ノ檢定ヲ受クベシ」と規定し、同法施行令第九條には「左ノ場合ニ於テハ度量衡器ノ檢定ヲ受クルコトヲ要セズ」とし、その第一号に「度量衡器ノ製作、修覆又ハ販賣ノ業ヲ営ム者、輸出若クハ移出スベキ度量衡器取引若クハ証明以外ノ用ニ供スベキ度量衡器又ハ特ニ商工大臣ノ指定シタル用ニ供スベキ度量衡器ヲ製作、移入、輸入又ハ修覆シタルトキ」とあるによつてみると、度量衡器の製作、修覆又は販賣の業を営む者は右施行令第九條第一号に該当する場合の外は、その営業につき同施行令所定の行政官廳の免許を受けたると否とを問わず、廣く同施行令所定の檢定機関の檢定を受ける義務あること、しかして檢定の目的はこれによつて国家がその器物の適格性を保証しこれを使用することによつて一般に適正な計量が行われることを予定するという公益的見地から檢定機関も檢定の請求を拒絶出來ず、從つて無免許営業者においても檢定を受けなければならないかの如く考えられるのであるが、このように解するときは無免許営業者の檢定請求に対しても檢定を行う結果合格品は無免許営業者の手により廣く市場その他に販賣、頒布せられるおそれが多分にあつて、度量衡法が第六條において度量衡器の製作、修覆又は販賣の業を営まんとする者は行政官廳の免許を受くべき旨規定した営業免許の制度は根本的に無視される結果となる。勿論無免許営業者に対しては罰則の適用による取締の途があるが、なおその他には無免許営業者の製品に対し檢定を拒絶し、度量衡法第八條において檢定証印のない度量衡器は原則としてこれを販賣し又は販賣のためこれを所持することを得ないものと定めたことを相まつて無免許営業者の製作、修覆又は販賣の行爲を未然に防止する手段を構ずることが一層有効適切な取締方法ということができるであろう。これ等の点から考えると無免許営業者は同法第七條の規定によつて、その檢定を受けることが出來ないものと解するのを相当とする。しかして同法第二十條には右第七條の規定は勅令を以て定める計量器にこれを準用する旨規定し、同法施行令第一條の四の規定によれば物体の膨脹による温度計は度量衡法に定める計量器の一種であることは明白であるから、無免許営業者はかゝる計量器についても同法第七條の規定による檢定を受けることが出來ないこと勿論である。
そこで次に原告が度量衡法第六條に該当する営業者であるか否かについて判断を進める。
原告の度量衡器の製作、頒布等が営利行爲であるか否かは原告が公益法人であるか否かの点から決すべきでなく、專ら行爲自体に基いて定めなければならないことは謂うをまたないところであつて、成立に爭のない甲第八第九号証乙第二第九号証の各記載を綜合すると、原告は現在の代表者理事北條時恒が昭和十五年東京府権度課長当時東京府下の度量衡業者と協議の上同業者間の親睦懇親を目的とし当初は業者約百五十名が維持会員となり、その寄附金で設立された財団法人であり、その当初の事業内容も寄附行爲に明記されてあるように講習会、展覧会等の集会に供せられ、又会館も專ら業者の集会等に利用されていたこと、然るに昭和十六年末主務官廳から寄附行爲第四條の目的変更の認可を受け計量科学研究所が設けられて度量衡器、計量器の製作頒布が重要な事業目的の一となり、初めの間は小岩に直営工場を設け木製の家庭秤を製作し、主として町会を通じ家庭に頒布し一部は東横、松坂屋百貨店等にも卸賣していたところ、その頃から、業者間に会館の右のような経営に対して度量衡法違反であるとの声が大きくなり商工省、文部省からも会館に対して抗議があつたこと、その後北條が府の権度課長の職を退いて会館の経営に專念するようになると、その経営も昭和十九年末には以前より、遙かに大規模となり多数の無免許業者を会館の專属としてこれと製品買受の特約をし、これら無免許営業者の工場には計量科学研究所の看板を掲げこれを直営工場と称してはいるが、これはかゝる看板を掲げている丈であつて、会館と工場との間にはその他全然関係なく、このようにして無免許営業者から買取つた製品はこれを山形縣農業会その他全国一般に頒布していたこと、從つて当時会館の運営は設立当初の趣旨とは全く変り免許営業者の親睦機関として発足した会館が、反対に業者から一斉に非難せられ完全に業者との縁も切れ、又維持会員も初めの頃は前記のように純粹に会館の維持を目的とし且つ会館の設立趣旨にも賛同していた免許営業者達によつて占められていたのにかゝわらず、会館の経営が大規模となつた昭和十九年末には維持会員は名のみとなり実際は会員制度を僞裝したに過ぎず又頒布と謂うも普通の販賣と何等の形式は変らず、新聞や掲示等により頒布の廣告をし度量衡器計量器の販賣を頼みにくると入会申込書をとり、維持会員にした上代金として領收した金を会費としておくだけであり会員も幾級かに分れているが四級、五級等の下級会員に至つては特にかゝる形式的のものが多く実質的には全然会館と関係なく、このように会館は無免許のまゝ販賣するという方式をとつていたこと、昭和二十四年二月二十三日附宮崎縣知事から当時の商工省機械局長宛報告によると同縣廳において同年一月下旬調査の結果、同縣都城市上東町六丁目三千四百番地医療器機械商四元次男は東京都駿河台財団法人度量衡会館全九州地区普及委員山内義雄から人用、獸用体温計五百本を仕入れその内証印僞造半数、無檢定半数の事実が判明したので、四元次男について調査したところ、同人は右山田から推薦されて昭和二十三年十一月二十九日度量衡会館から普及委員の辞令を受け、現に昭和二十三年末から公益事業と称して学校、病院、藥店等に多数販賣しており、尚調査すると同会館は日本唯一の自家檢定にて普及のため無免許、無登録店にも販賣出來る如く吹聽して賣込んでおり、四元以外にも普及委員を組織して販賣せしめている疑が濃厚であつたこと、昭和二十一年度における原告の歳入歳出決算書記載の各科目の歳入予算額として基本財産收入五百円、予金利子五千五百円、維持会費三万六千円、教化事業收入一万二千円であるのに計量科学研究所事業收入は八十五万八千円と計上され、又同年度計量科学研究所歳入予算によると、修覆金二千円に比し、頒布金は五百七十一万八千円と計上され、尚昭和二十二年度における原告の歳入予算額として基本財産收入、予金利子、維持会費はいずれも前年度と同様であるが、教育事業收入五万円出版事業收入百万円に比し、頒布收入は、七百十六万円と計上されていたこと、等の各事実が認められるのであつて、このような原告の設立認可当時からその後に亘る経営経過の内情その財政状況地方における頒布状況等を綜合すれば、原告は昭和十六年末主務官廳の認可を受けてその寄附行爲の変更をしてから次第に設立当初の趣旨に反しその経営も営利に重点をおくようになり、昭和二十三年末には專ら営利を目的とし多数の度量衡器、計量用具類を山形縣農業会はじめ全国一円に販賣して度量衡法第六條にいわゆる製作販賣の業を営んでいたものと認めるのが相当である。
尤も原本の存在並びに成立につき爭のない甲第三号証の記載に証人林壽二の証言を綜合すると、原告の監督官廳たる文部省においては、昭和十八年初原告に係官を派遣して原告が昭和十六年十一月頃から昭和十七年十月頃迄の間において、又昭和十七年十一月以降その寄附行爲第四條第三号第四号に定められた目的を逸脱した行爲をしたことがあるか否かの問題について調査させたところ、原告にはその目的範囲を逸脱した行爲はなかつたとの結論に達したことを認めることが出來るけれども、右の各証拠に前記成立に爭のない乙第九号証の記載を綜合すると、右の結論は監督官廳たる文部省の一應の見解にすぎないこと、同報告書は原告の当時の理事長北條時恒、常務理事石田五郎、監事高見沢博三名の提供した資料説明その他を参酌して作成されたものであること、その後右石田五郎は昭和二十二年九月八日東京地方檢察廳大名宏檢事の取調に際しては、前記認定のように原告が設立当初の目的とはことなり廣く度量衡器、計量器を販賣していた経過を陳述していることが認められるから、前記甲第三号証は、原告がその寄附行爲の目的に反して專ら営利の目的をもつて度量衡器、計量器の製作、販賣の業務を営んでいたとの事実認定を覆えすには足らない。その他この認定を左右するに足る証拠はない。
しかして原告が、このような業務を営むにつき度量衡法第六條に必要とする行政官廳の免許を受けたことについてはこれを認めるに足る証拠はなく、却てその免許を受けていないことは原告の主張自体によつて明白であるから、原告は本件温度計百個についてはその檢定を受けることが出來ないものと謂わざるを得ない。よつて原告が昭和二十四年五月十三日本件温度計百個について当時の商工大臣に対してなした檢定請求につき同大臣が同日当時の商工省中央度量衡檢定所をしてなさしめた同檢定拒絶の処分は違法とは謂えない。然らば、その違法なることを理由としてその取消を求める本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものである。
そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 近藤完爾 大沢竜夫 小林哲郎)