東京地方裁判所 昭和25年(タ)132号 判決
原告 芹田鶴子
被告 レイモンド・シイルベスタ・ザゴツズゾン
一、主 文
原告と被告とを離婚する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
原告は昭和二十二年八月二十日、当時アメリカ合衆国陸軍省非軍人雇人であつたアメリカ合衆国人たる被告と米国領事の面前で婚姻し、同領事から婚姻証明書の発給を受けて、同日横浜市中区役所に婚姻届をして、冐頭掲記の被告の最後の住所地で同棲した。ところが被告は昭和二十二年九月二日米国に送還せられ、一時はアメリカ合衆国イリノイス州シカゴ市ウエブスターアベニユー千二百十六番地の住所から原告に対し通信をよせて来たが、昭和二十四年二月以来原告からの度々の手紙に対して何等の返信をよこさなくなつてしまつた。原告は昭和二十四年七月二十日米国領事に依頼して、被告から原告に通信をするようにとの勧告の書面を出して貰つたが、これに対してもついに何等の返信がなかつた。この間被告は原告に対して何等の金銭的援助も与えず、かつ原告を米国に呼びよせようと思えばその手続ができるのにも拘らずその手続もしなかつたものである。被告のこのような行為は被告の属するイリノイス州の改正離婚法第一節における「当事者の一方が他の一方を正当の理由なくして一年間悪意を以つて遺棄し又は他の一方の許より失踪した場合」に該当し、かつ日本民法第七百七十条第一項第二号「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に該当するから被告との離婚を求めると。<立証省略>
被告は公示送達による適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しなかつた。
三、理 由
公文書として真正に成立したと認められる甲第一号証、同第九号証によれば、被告はアメリカ合衆国イリノイス州シカゴ出生の米国市民であつて、かつて米国陸軍省非軍人雇人であつたがその後軍の職務から解雇された者であること、原告と被告とは昭和二十二年八月二十日米国領事の面前で婚姻し、同領事から婚姻証明書の発給を受けて、原告は同日横浜市中区役所に婚姻届をしたことが認められる。従つて当事者間には有効な婚姻関係が存在する事は明かである。
依つて原告主張の離婚原因事実について考える。公文書として真正に成立したと認める甲第三号証、同第十号証の一乃至三証人カール・フリードリツヒ・エルンスト・ヘルムート・ケテル、同エドワード・ピー・マクダモツトの各証言、証人エドワード・ピー・マクダモツトの証言によつて成立の認められる甲第八号証及び原告本人の供述を綜合すれば、被告は原告と婚姻後原告主張の住所で同棲したが、昭和二十二年九月二日米国に強制送還せられ、其の後一時アメリカ合衆国イリノイス州シカゴ市ウエブスターアヴエニユー千二百十六番地の住所より原告に対し通信を為したが昭和二十四年二月以来原告よりの度々の手紙を受取り乍ら返信せず、原告の依頼に基く米国総領事並に原告を代理して為したマクダモツト弁護士の勧告に対しても応答せず、且つ其の間生活費等全く送付せず、然も被告は米国法務総裁の許可を得れば原告を永住の目的を以つて米国に呼び寄せ之と同居し得るに拘らず右手続を為さなかつた事を認める事が出来る。
右被告の行為は原告を悪意を以つて遺棄したものと謂う事が出来る。何故ならば被告は原告と同居し得べき方法を講じ得るに拘らず之を為さずして故意に原告を其の意思に反して二年余の間日本に放置したと解し得るからである。
公文書として真正に成立したと認められる甲第四号証によれば被告の本国法たるイリノイス州の離婚に関する法律は正当の理由のない一年間の悪意の遺棄を以つて離婚原因として居る事が認められる。故に被告の行為は其の本国法に於て離婚原因たるべきものである。右離婚原因は我が民法上に於ても亦離婚原因とせられる。従つて原告の被告に対する本訴請求は理由があるものと云える。
よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 安武東一郎 古山宏 石渡満子)