東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)1402号 決定
申請人 原田光雄 外十三名
被申請人 東京都職員労働組合
右代表者 組合長
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人は、申請人等をその組合員として処遇しなければならない。
三、理 由
第一、申立の趣旨
申請人は、
「(A) 昭和二十四年十一月四日被申請人組合の第十四囘中央委員会がなした申請人等の役員被選挙権、選挙権、議決権を停止する旨の決議
(B) 同月十七日、同第十五囘中央委員会の申請人等が組合活動により解雇されたものではないとの中央執行委員会の決定を承認する旨の決議
(c) 同月二十四日申請人組合の臨時大会の前二項の中央委員会の決議を承認する旨の決議は、いずれもその効力を停止する。」
との決定を求め、
被申請人は、「申請人等の本件申請は、これを却下する。」との決定を求めた。
第二、争のない事実
一、被申請人組合は、東京都及び区の職員並に知事の監督を受ける他の官庁職員を以て組織せられた労働組合であつて、申請人平沢は、東京都知事の監督を受ける労働省の職員、その余の申請人は、東京都の職員で、いずれも、被申請人組合員であり、申請人平沢は、その副執行委員長、申請人原田は、中央委員、その余の申請人は、中央執行委員であつたが、申請人平沢は、昭和二十四年七月三十一日、その余の申請人は、同年九月十七日、それぞれその職を免ぜられた。
二、而して、被申請人組合の規約には、
「第三条。この組合は東京都および区の職員ならびに知事の監督を受ける他の官庁職員で組織する。
但し組合活動のため職員の身分を奪われたもの又は中央委員会で承諾を受けたものは組合員とする。」(但し昭和二十四年十一月二十五日に改正されている。)
との規定があり、申請人等は、右免職は、申請人等が組合活動をしたことを理由とするものであるとして、東京都地方労働委員会に対して、救済の申立をなし、又東京地方裁判所に対して、免職取消の行政訴訟を提起している。
三、その後
(A) 昭和二十四年十一月四日被申請人組合の第十四囘中央委員会は、「行政整理により解雇され東京都地方労働委員会に提訴中の組合員の役員被選挙権、選挙権、議決権を停止する。」旨を議決し、
(B) 同月十七日同第十五囘中央委員会は、「右提訴者が組合活動により解雇された者ではないとの中央執行委員会の決定を承認する。」旨を議決したと称し、(申請人等は出席していない。)
(C) 同月二十四日申請人組合の臨時大会は、「前二項の中央委員会の決議を承認する。」旨の議決をなした。
第三、申請人等の主張
一、申請人等は、前記のように、解雇の無効を主張して職員たる地位の保全を求めているものであるから、被申請人組合が、申請人等の意思に反して、その組合員たる地位を失わしめるには、除名の手続((1)所属支部の決定に基き審査委員会の答申を経て中央委員会の決議による。(2)右決議に不服ある場合には組合大会に再審査を請求することができる―組合規約第三十六条)に準ずべきである。しかも、昭和二十四年四月二十七、八日開かれた被申請人組合の昭和二十四年度定期大会において、行政整理反対を同年度の闘争目標の第一に掲げ、組合の全勢力を挙げて、最後まで闘うことを決議している。しかるに、前記(A)の決議は、
(1) 右に述べた手続を経ずになされたものであり又、(2) 右昭和二十四年度定期大会の決議の趣旨に反するものだから無効である。
二、(1) 前記第十五囘中央委員会においては、中央執行委員会の経過報告中、水道支部所属白石中央委員から、同支部所属の申請人原田、同岡田に対する規約第三条但書の適用につき質問したのに対し、原島副委員長から、中央執行委員会としては、否定の結論に達しているので、審議されたき旨答え、これに対し、何等の審議もないまま他の質疑に移つた後、経過報告を承認したのである。従つて、右中央委員会は、経過報告を承認したのみで、規約第三条但書に該当するか否かにつき、何等審議していないのであるから、右第三条但書に該当しないとの(B)の決議は存在しない。
(2) 仮に(B)の決議が存在するとしても、
(1) 中央委員たる申請人等の資格を停止し、これを出席せしめないでなした決議であるから無効である。
(2) (A)の決議が無効であると同様の理由によつても無効である。
三、前記(C)の決議は、
(1) 申請人等の資格を違法に停止し、これに出席せしめないでなされたものであるから無効である。
(2) (A)(B)の決議は無効であるから、これを承認する決議もまた違法である。
四、更に、以上の中央委員会、大会を通じて、解雇が正当である旨の決定をしないのみならず、かえつて、不当であることを再三確認している。それにも拘らず、組合員たる権利を制限停止したのは違法であり、この点からも、右諸決議は違法である。
五、申請人等は、このような違法な決議により組合員としての権利を制限停止せられ、組合員として活動することができず、殊に、不当解雇に対する闘争において、組合員として自己の立場を主張し、十分な組合の保護を受け得ず、又(B)の決議により闘争を困難ならしめられている。従つて、本案判決の確定をまつては囘復すべからざる損害をこうむるから、右決議の効力を停止する旨の仮処分を求める。
第四、被申請人の主張
一、被解雇者を「組合活動のため職員の身分を奪われたもの」と認定するのは、中央委員会の専権に属し、又(A)(B)の決議は、大会の承認((C)の決議)があつたのであるから、仮に(A)(B)の決議に瑕疵があつたとしても、右承認により、その瑕疵が治癒され、右決議通りの効力を発生したことになる。
二、申請人等は、組合員たる権利の制限停止及び組合員たる身分の喪失につき、明示又は黙示の承認をしている。
三、(一) 仮に、申請人等が組合員たる地位を囘復しても、被申請人組合の保護を期待し得ないから仮処分の必要はない。
(二) 申請人等が従前の地位を復活するとすれば、申請人等を欠く中央委員会及び中央執行委員会の決議は遡つて無効となるのであるから前記(A)、(B)、(C)の決議を停止する仮処分は許さるべきではない。
第五、当裁判所の判断
一、一般に「この組合は……の従業員を以て組織する。」との組合規約が存する場合に、解雇せられたものは、その解雇の効力を争わない限り、賃金、退職金等の支払の終了を以て、当然組合員たる地位を失うと解すべきであるが、然らざる場合には、当然には、組合員たる地位を失わないというべきである。けだし、このように解釈しなければ、労働関係の終了という重大な結果を招来する解雇について、組合員として組合の保護を受け得ないこととなり、労働組合の本質に反するからである。加うるに、その解雇が、たとえば、不当労働行為として、無効であるならば、解雇後も引つづき従業員たる地位を保有しているのであるから、組合員たる地位も存続しているわけであり、従つて、解雇の効力が確定するまでは、いわば従来の労働関係の清算をしているということができるのであつて、この意味においては、比喩的ではあるが従業員たる地位の残像が存するともいえるし、又、組合員たる地位は、解雇の効力の確定をまつて終了せしめることが、法律関係を明確ならしめるゆえんであるということができる。被申請人組合の規約第三条もかかる理論のもとに理解せらるべきものである。すなわち、被申請人組合は、解雇の効力を争つている申請人等をその組合員として取扱い、その権利を擁護すべき使命を負つているのであつて、申請人等が組合員としてその保護を受けようとしているにもかかわらず、もし、被申請人組合において解雇を正当と認め、組合員としての保護を拒否しようとするならば、申請人等を除名しなければならないというべきである。すなわち、解雇の効力を争う被解雇者は、特別の行為―たとえば、組合の承認―をまつて組合員となるのではないのであつて、このことは右第三条但書が、「中央委員会の承諾を受けたもの」のほかに、「組合活動のため職員の地位を奪われたもの」を当然組合員としていることに徴して明かである。従つて除名のほかに、申請人等の権利を制限したり停止したりすること、もしくは、(B)のような決議をして申請人等の組合員たる地位を喪失させたりすることはできないというべきである。けだし右規約には、除名以外に組合員の地位や権利を剥奪又は制限する規定は存しないからである。かかる観点からすれば申請人等の組合員たる資格を剥奪する(A)、(B)、(C)の決議は、規約に基かざる決議として無効であるといわなければならない。
二、次に、(A)、(B)、(C)のような決議をすることが許されるとしても、それは、申請人等の意思に反して組合員たる地位を奪い、その権利を停止するのであるから、除名の手続に準ずべきものであるといわなければならない。従つてこの観点からするも、右決議は、手続に違反して無効であるというべきである。もつとも、(A)、(B)、の決議は、組合大会の承認((C)の決議)によつて有効となるということが考えられるが、前記第三十六条の規定するように、組合の下部組織からの発意(支部の決定)に基き、事実調査のための専門的機関(審査委員会)の十分な実質的審査を経て、結論に到達することが重要なのであるから、(たとえば、水道支部は、明かに申請人原田、同岡田を組合員として認めようとしている)たとい、組合大会で(A)(B)の決議を承認したとしても、何等その効力を発生するに由なきものというべきである。なお、「組合活動のため職員の身分を奪われた」か否かの認定は、中央委員会に委ねたようにもうかがえるが、前段に述べたところに徴すれば、組合員としての保護を与うべきか否かを中央委員会の認定に委ねるごときは、違法であるといわなければならない。
しかのみならず、前記(B)の決議がなされた経過は、申請人等主張のとおりであることが認められるから、(B)の決議は不存在であり、従つて、(C)の決議により、これを追認するということもできないと解すべきである。
三、申請人等は、役員たる地位の喪失についてはこれを自認していたということはできるが、組合員たる地位の喪失又は権利の停止を明示又は黙示に承認していたということは認められない。
四、(A)、(B)、(C)の決議が無効であるにもかかわらず、組合員としての活動ができず、又、被申請人組合からの保護を期待し得ないことは、解雇の効力を争つている申請人等のいちじるしい損害であるということができる。
この点に関し、被申請人は申請人等が組合員たる地位を復しても、組合からの保護を期待し得ないと主張するが、組合を背景として解雇の効力を争い得ることは、申請人等の利益とするところであり、又組合は、申請人等を保護すべきものなのであるから、被申請人組合としては、かかる主張をなすべき筋合のものではない。
仍つて、申請人等をして、被申請人組合の組合員たる地位を保有せしめる必要ありと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 高島良一)